説明

遠心分離機用ローター

【課題】超高速回転に安定的に耐え得る、繊維強化樹脂製の遠心分離機用ローターを、特定のプリプレグの組合せによる一体成形により簡便に提供すること。
【解決手段】遠心分離機用ローターであって、外周側壁部が主として円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、センターボス部の上端部分は短繊維がランダムに配向した繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部から前記センターボス部に連なる内周部と、前記センターボス部の上端部分以外のボス部は、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部とセンターボス部と内周部が互いに一体的に結合成形されている遠心分離機用ローター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形体から作成された遠心分離機用ローターに関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、種々の密度の材料を分離かつ精製するために、工学、医学、生物学等の分野で一般的に使用されている。そして、遠心分離機は、用途に応じて試験管や沈殿管等が取り付けられ、毎分数千〜数万回転し得るロータ−(回転体)を有している。かかる遠心分離機用ローターは、軽量で且つ高い遠心力に耐える必要があるので、一般的にチタンやアルミニウム等の軽量な金属、あるいは繊維強化複合材料から作成される。
【0003】
遠心分離機用複合材料製ローターとしては、典型的には、エポキシ樹脂と繊維強化材とからなる複合材料の複数層から作成される。複合材料製ローターは同等の金属ローターよりも強靭かつ軽量であり、これに加え、複合材料製ロータは同等の金属ロータと比較して遠心駆動ユニットに対する負荷を減少することから、遠心分離機を駆動するモータの寿命が長くなるという利点もある。そして、遠心分離機用ローターを、繊維強化複合材料を用いてレジン・トランスファー成形により作製する方法(例えば、特許文献1)、あるいは、繊維強化樹脂プリプレグを用いてプレス成形する方法(例えば、特許文献2)等が知られている。
【特許文献1】特公表2002−504035号公報
【特許文献2】特開2001−179842号公報
【0004】
遠心分離機のローターは超高速回転に安定的に耐え得るものでなければならないので、各部分でバランスの取れた精密な成形が必要である。しかしながら、繊維強化樹脂プリプレグを用いてプレス成形により遠心分離機のローターを成形する場合には、用いるプリプレグの種類、その組合せ等を色々と工夫しないと、目的とするものが得られないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、超高速回転に安定的に耐え得る、繊維強化樹脂製の遠心分離機用ローターを、特定のプリプレグの組合せによる一体成形により簡便に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載された発明は、遠心分離機用ローターであって、外周側壁部が主として円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、センターボス部の上端部分は短繊維がランダムに配向した繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部から前記センターボス部に連なる内周部と、前記センターボス部の上端部分以外のボス部は、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部とセンターボス部と内周部が互いに一体的に結合成形されていることを特徴とする遠心分離機用ローターである。
【0007】
そして、請求項2に記載された発明は、センターボス部の上端部分を構成する、短繊維をランダムに配向した繊維強化樹脂成形体が、一方向配列繊維強化材のストランドからなるプリプリグを切断して得られる、チョップドストランド・プリプレグを成形したものである請求項1記載の遠心分離機用ローターである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、遠心力の大きい外周側側壁部では、円周方向に強化繊維が配向されており、遠心力が中程度である内周部では、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材が配置され、そして、小さい遠心力しかかからないセンターボス部では、主に成形性を重視して、ボス部の上端部分に短繊維をランダムに配向した成形体から回転体(ローター)が得られる。これらは一体に成形されているため、非常に高い補強効果を強化繊維によってもたらすことができる。このように、本発明によると、超高速回転に安定的に耐え得る、繊維強化樹脂プリプレグ製の遠心分離機用ローターを、一体成形により簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。図1は、本発明の遠心分離機用ローター1の正面斜視説明図である。図2は、本発明の遠心分離機用ローターの断面説明図である。図1及び2において、2は外周側壁部、3はセンターボス部、4は外周側壁部からセンターボス部に連なる内周部、5はセンターボス部の上端部分、6はセンターボス部の上端部分以外のボス部を示している。本発明において内周部というときには、外周側壁部とボス部以外の全ての部分を意味するものである。
【0010】
本発明においては、外周側壁部2が主として、円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成されている。本発明において、一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂とは、繊維束(ストランド)を平行に一方向に引き揃えシート状とし、これに樹脂を含浸させたプリプレグを意味する。例えば、炭素繊維束の場合には1K〜24Kの束が適当である。かかるプリプレグは、一方向配列繊維強化材の繊維軸が、外周側壁部2の円周方向に一致するように配置する必要がある。外周側壁部には大きな遠心力がかかるので、繊維軸を周方向に配置することによって、大きな遠心力に耐えることができる。このように、本発明において、外周側壁部2は主として、即ち、その主要部分は、円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成されている必要があるが、外周側壁部の一部、例えば、外周側壁部のうち内側の部分(バスケットの内表面側)、あるいは、外壁の一部肉厚部分(図3の10参照)は、強化繊維クロスからなるプリプレグを併用しても良い。
【0011】
本発明において、センターボス部の上端部分5は、短繊維がランダムに配向した繊維強化樹脂成形体から構成され、外周側壁部からセンターボス部に連なる内周部4と、前記センターボス部の上端部分5以外のボス部6は、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成されている。
【0012】
センターボス部の上端部分5を構成する、短繊維をランダムに配向した繊維強化樹脂成形体としては、一方向配列繊維強化材のストランドからなるプリプレグを切断した、チョップドストランド・プリプレグを成形したものが好ましい。チョップドストランド・プリプレグとは、樹脂をマトリックスとした一方向配列ストランド(繊維束)を、例えば、25mmから50mm程度の繊維長に切断した小片のプリプレグである。
【0013】
強化繊維クロスからなる繊維強化樹脂成形体は、強化繊維クロスのプリプレグを用いて成形されたものであり、強化繊維クロスとしては、例えば、平織、綾織、朱子織等の経糸と緯糸から構成されるものの他、繊維束を一方向に引き揃えシート状とし、これを直角方向にステッチ糸で縫合した一軸織物、一方向に引き揃えたシート状物を角度を変えて複数積層し、これを直角方向にステッチ糸で縫合した多軸織物等が挙げられる。
【0014】
本発明においては、前記のごとく外周側壁部2には主として、円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなるプリプレグを配置し、センターボス部の上端部分5には、短繊維がランダムに配向したチョップドストランド・プリプレグを配置し、それ以外のセンターボス部と内周部には、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材からなプリプレグを配置して、その後、これらが互いに一体的に結合成形される。成形方法としては、通常の、オートクレーブ成形、ホットプレス成形等を採用できる。
【0015】
そして、一体成形に際しては、センターボス部の上端部分5に配置された、短繊維がランダムに配向したチョップドストランド・プリプレグが、流動性があるためにいわゆる押し代の役目を果たし、精密な成形加工が可能となるのである。
【0016】
本発明における繊維強化材としては、特に制限はなく、一般に繊維強化樹脂複合材料における強化繊維として使用されるものであってよい。具体的には、無機繊維、有機繊維、金属繊維、金属被覆繊維またはそれらの混合から成り、無機繊維としては炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイト繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が用いられてよい。有機繊維の場合にはアラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維が挙げられる。本発明においては、比強度および比弾性率が高い炭素繊維あるいは黒鉛繊維が好ましい。
【0017】
本発明において、強化繊維を一方向に引揃えた繊維シートあるいは強化繊維クロスに含浸されるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂がある。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂から選ばれる樹脂がある。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドがある。これらの樹脂は、2種以上併用しても良い。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を詳述する。図2に示すような遠心分離機用ローターを、図3の金型を用いて作成した例を示す。なお、図3では、図2のローターが逆さまの状態で成形される様子を示している。
【0019】
ローターの外周側壁部を形成する図3に示す下型8の9の部分には、一方向配列繊維強化材からなるプリプレグとして、一方向配列炭素繊維束(12Kのストランド)とエポキシ樹脂からなるプリプレグを、10枚積層して配置した。そして、肉厚の部分10では、前記10枚の積層体に、更に同じプリプレグを10枚プラスして配置した。なお、プラスして配置するものは、強化繊維クロスからなるプリプレグであっても良い。配置に際しては、一方向配列繊維強化材の繊維軸が、外周側壁部の円周方向に一致するように配置した。そして、バスケットの上部内表面に相当する部分にのみ、下記と同じ強化繊維クロスからなるプリプレグを、1枚積層した。
【0020】
図3において、ローターのボス部の上端部分を形成する下型8の溝11には、一方向配列繊維強化材のストランドを切断したチョップドストランド・プリプレグを投入・充填した。チョップドストランド・プリプレグとしては、以下のものを用いた。即ち、炭素繊維HTA−12K(800tex、12,000本のストランド、東邦テナックス社製)を使用し、この長繊維を一方向に配向しエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維ストランド・プリプレグ(樹脂含有率:40%、目付40g/m2 )を、ギロチン方式の裁断機を用いて長さ25mmに裁断したものを用いた。
【0021】
次いで、外周側壁部からセンターボス部に連なる内周部を形成する下型の13の部分(図2ではローターの底部)と、センターボス部の上端部分以外のボス部を形成する12の部分には、強化繊維クロスからなるプリプレグを配置した。強化繊維クロスからなるプリプレグとしては、炭素繊維HTA3K(東邦テナックス社製、汎用グレードの炭素繊維、3000フィラメント)を経糸緯糸とした平織物(東邦テナックス社製、W−3101/Q−195)に、エポキシ樹脂を含浸させたものを用いた(樹脂含有率:40%)。このプリプレグを5枚、積層パターンが(0/90)、(±45)、(30/120)、(±45)、(0/90)となる様に積層して配置した。
【0022】
その後、上型7をかぶせ、ホットプレスにて圧力80〜100kgf/cm2、温度130℃で2時間加熱硬化せしめ、その後冷却、脱形して断面が図2に示した形状を有する遠心分離機用ローターが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の遠心分離機用ローターの、正面斜視説明図である。
【図2】本発明の遠心分離機用ローターの、断面説明図である。
【図3】本発明の遠心分離機用ローターを、上下分割型の金型を用いて成形する際の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 遠心分離機用ローター
2 外周側壁部
3 センターボス部
4 外周側壁部からセンターボス部に連なる内周部
5 センターボス部の上端部分
6 センターボス部の上端部分以外のボス部
7 上型
8 下型
9 外周側壁部を形成する下型の対応部分
10 外周側壁部の肉厚部に対応する下型の部分
11 ボス部の上端部分を形成する下型の溝
12 ボス部の上端部分以外のボス部を形成する下型の部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離機用ローターであって、外周側壁部が主として円周方向に強化繊維が配向した一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、センターボス部の上端部分は短繊維がランダムに配向した繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部から前記センターボス部に連なる内周部と、前記センターボス部の上端部分以外のボス部は、強化繊維クロス及び/又は一方向配列繊維強化材からなる繊維強化樹脂成形体から構成され、前記外周側壁部とセンターボス部と内周部が互いに一体的に結合成形されていることを特徴とする遠心分離機用ローター。
【請求項2】
センターボス部の上端部分を構成する、短繊維をランダムに配向した繊維強化樹脂成形体が、一方向配列繊維強化材のストランドからなるプリプリグを切断して得られる、チョップドストランド・プリプレグを成形したものである請求項1記載の遠心分離機用ローター。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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