説明

遠心分離機

【課題】回転室の排気用の真空ポンプを有する遠心分離機50において、油拡散ポンプ5および補助ポンプ4による排気動作の特性を判別することによって、油拡散ポンプ5の動作を正常に制御することにある。
【解決手段】
制御装置9は、回転室3aの真空度Pを一定時間ΔT毎に検出する真空度検出手段8を有し、真空度検出手段8の一定時間ΔT毎の検出結果に基づいて、回転室3a内の真空度Pが第1の真空度範囲(Pa−Pr)内から前記第2の真空度範囲(Pr−Pd)内に移行したことを判別し、かつ回転室3a内の真空度Pが前記第2の真空度範囲(Pr−Pd)内に移行した場合、一定時間ΔT毎の真空度の変化率ΔP4を検出し、該変化率ΔP4を判別値ΔPdと比較し、比較結果に基づいて油拡散ポンプ5が安定動作状態であることを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータを高速回転させて試料を遠心分離するための遠心分離機に関し、特に、回転室を高真空に減圧させるための油拡散ポンプを具備する遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、チューブなどに収容された試料をロータに保持し、該ロータの風損による温度上昇を防止するために大気から密閉した回転室(ロータ室)に設置し、電動モータ等を含む駆動装置で高速回転させることによって、ロータに保持した上記試料を遠心分離するものである。
【0003】
ロータの回転速度(回転数)が毎分40,000回転(40,000rpm)を越える超遠心分離機は、下記特許文献1に開示されているように、ロータの回転による回転室内の空気とロータの摩擦熱に基づくロータおよび試料の温度上昇を抑制するために、回転室内を高真空まで減圧する真空ポンプ装置、ならびに回転室内の真空度を検出するセンサおよびセンサ検出回路を具備する真空度検出手段とを備えている。
【0004】
通常、この真空ポンプ装置は、油拡散ポンプ(DPポンプ)および該油拡散ポンプの補助ポンプとして動作する油回転ポンプ(ロータリーポンプ)によって構成し、遠心分離機本体の回転室に油拡散ポンプの吸入口を接続し、また、油拡散ポンプの排気口に油回転ポンプの吸入口を接続することにより、回転室から大気中に通じる減圧用排気路を形成する。
【0005】
この場合、油拡散ポンプの減圧動作は約20パスカル(Pa)程度から開始するので、補助ポンプは、回転室を大気圧から油拡散ポンプの排気動作が可能となる臨界背圧以下(約20パスカル以下)の中真空まで減圧させる働きをする。油拡散ポンプは、拡散油を貯留するボイラと、ボイラを加熱するヒータと、ボイラの拡散油の沸騰で気化した拡散油分子を一方向に噴射するジェットと、気化した拡散油分子を冷やして液化する冷却部とによって構成され、回転室内が上記臨界背圧以下の条件下でボイラの拡散油の気化による排気動作により、回転室内を高真空まで減圧させる働きをする。
【0006】
このような、補助ポンプおよび油拡散ポンプから構成された真空ポンプ装置を備える遠心分離機では、下記特許文献1に開示されるように、温度センサにより油拡散ポンプのボイラの拡散油を沸騰させるヒータ温度を調整して油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。また、下記特許文献2に開示されるように、回転室の真空度を真空センサで検出することにより油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−104826号公報
【特許文献2】特開2008−23477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記油拡散ポンプにおいて、ボイラを加熱するヒータの熱量が多すぎる場合、ヒータ加熱により蒸発し気化した拡散油分子の噴流が乱れて冷却部で液化しきれず、また、その拡散油分子の噴流が周囲の気体分子(空気分子)を排気口から排気できないという現象を生ずる。この結果、余分な拡散油分子等が遠心分離機本体の回転室内に逆流し、回転室内の真空度を悪化したり、拡散油の消耗を加速させたりする。
【0009】
このような現象の発生を防止するために、特許文献1に開示されているように、油拡散ポンプにおけるボイラの拡散油の温度を監視するための温度センサと温度検出手段を付加し、拡散油の加熱温度を制御する技術が知られている。しかし、拡散油の沸点は250℃前後と測定温度が高くなるので、温度センサの製造が難しく、製造原価が高くなるという問題がある。他方、ボイラの拡散油の温度を簡易的な温度センサにより検出する方法として、ボイラの外装面に安価なサーミスタ等の温度センサを装着してボイラの外装面温度を間接的に検出することによって拡散油の温度を推定する方法が周知である。しかし、拡散油の温度とボイラの外装面の温度には温度差があり、かつ熱抵抗があるので、加熱温度の検出時間に遅れが生じ、拡散油の温度を正確に推定することが困難であるという問題がある。また、温度センサを使用する場合、拡散油の沸騰温度が製造メーカによって異なり、製品のばらつきによって、例えば約150℃〜約200℃のように、沸騰温度がばらつくために、一定の温度センサによって沸騰温度を一義的に定めることが不可能となり、沸騰温度による制御が困難となる。
【0010】
また、上記特許文献2に開示されたような回転室内に真空度センサを設置した制御において、油拡散ポンプおよび補助ポンプから成る真空ポンプの運転開始によって回転室内が減圧できないという不具合が発生した場合、故障要因としては、回転室と油拡散ポンプ間を接続する真空ホースの気密性の故障、油拡散ポンプ自体の故障、補助ポンプ自体の故障等いくつかの要因が考えられるので、油拡散ポンプまたは補助ポンプ自体による故障要因を適格に判別するために時間を費やしていた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、上記したような従来技術の問題点をなくし、油拡散ポンプの動作が異常動作しないように制御した遠心分離機を提供することにある。
本発明の他の目的は、油拡散ポンプおよび補助ポンプによる排気動作の特性を判別することによって、油拡散ポンプの動作を正常に制御した遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明の一つの特徴によれば、回転室と、該回転室内に設置され、試料を保持して遠心分離するロータと、該ロータを回転させるモータと、前記ロータが回転する前記回転室内を真空にするために前記回転室内の気体を回転室外に排気する真空ポンプ装置と、前記回転室の真空度に基づいて前記真空ポンプ装置の動作を制御するための制御装置と、を具備する遠心分離機において、前記真空ポンプ装置は、前記回転室内の真空度を第1の真空度範囲内に排気する補助ポンプと、前記回転室内と前記補助ポンプ間に直列接続され、前記回転室の真空度を前記第1の真空度範囲より高真空の第2の真空度範囲に排気する油拡散ポンプと、を具備し、前記制御装置は、前記回転室内の真空度を所定時間毎に検出する真空度検出手段を有し、前記真空度検出手段の前記所定時間毎の検出結果に基づいて、前記回転室内の真空度が前記第1の真空度範囲内から前記第2の真空度範囲内に移行したことを判別し、かつ前記回転室内の真空度が前記第2の真空度範囲内に移行した場合、前記所定時間毎の真空度の変化率を検出し、該変化率に基づいて前記真空ポンプ装置が動作状態であることを判別するように構成する。
【0014】
本発明の他の特徴によれば、前記制御装置は、前記真空度検出手段の前記所定時間毎の検出結果に基づいて、前記補助ポンプの排気動作開始と、前記油拡散ポンプの排気動作開始と、前記油拡散ポンプの安定動作と、を順次検出することにより、前記油拡散ポンプが安定動作状態であることを判別する。
【0015】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記油拡散ポンプの排気動作開始を判別して、前記油拡散ポンプの運転制御を開始する。
【0016】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記油拡散ポンプの安定動作を判別して、前記油拡散ポンプの運転制御をする。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記油拡散ポンプの安定動作を判別して、前記補助ポンプおよび前記油拡散ポンプの運転制御をする。
【0018】
本発明のさらに他の特徴によれば、前記制御装置は、前記真空度検出手段による前記回転室内の真空度の検出が前記第1の真空度範囲内または前記第2の真空度範囲内に移行できないことを判別した場合、前記補助ポンプまたは前記油拡散ポンプの動作に異常があるものと判別する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記特徴によれば、油拡散ポンプの排気動作開始を判別して油拡散ポンプの運転制御を開始するので、油拡散ポンプのボイラの加熱を最適に制御することが可能となり、気化した拡散油分子の回転室への逆流を防止し、かつ回転室内の真空度の悪化を防止することが可能となる。また、余分な拡散油の蒸発を防止できるので、拡散油の消耗量を減少することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明の上記特徴によれば、ボイラの拡散油の温度を検出するための高価な温度センサおよび温度センサ検出手段を追加することなく、油拡散ポンプを制御することが可能になるので、安価な油拡散ポンプを装着する遠心分離機を提供できる。
【0021】
本発明の上記および他の目的、ならびに上記および他の特徴は、以下の本明細書の記述および添付図面からさらに明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための各図面において、同一の機能を有する部材または要素については同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
[遠心分離機の全体構成について]
図1は、本発明の実施形態に係る遠心分離機50の構成図を示す。特に、ロータの回転数を40,000rpm以上の回転数に制御できる超遠心分離機に向けられている。
遠心分離機50は、ロータ1を密閉する回転室3aを形成する仕切り部材3と、回転室3aに設置され、試料を保持して遠心分離するためのロータ1と、ロータ1を高速に回転駆動する電動モータ2と、油拡散ポンプ(DPポンプ)5および補助ポンプ4から構成された真空ポンプと、制御装置9と、高真空度まで減圧される回転室3の真空度を検出することが可能な真空度センサ8とを具備する。
【0023】
電動モータ2は、例えば3相ブラシレスモータから成り、図示されないスター結線された固定子界磁巻線(U、VおよびW巻線)を含んでいる。ロータ1は、ブラシレスモータ2の回転軸に着脱自在に接続されて回転力が与えられる。電動モータ2の固定子界磁巻線(図示なし)は、後述する制御装置9に形成されたインバータ回路(図示なし)等により回転数が制御される。
【0024】
油拡散ポンプ5は、オイル(拡散油)5bを貯留するためのボイラ5aと、ボイラ5aを加熱するヒータ5cと、ボイラ5aで気化した拡散油分子を下方向にジェット気流として噴射させるためのジェット部(図示なし)を内部に備えた円筒部5dと、気化した拡散油分子を冷やして液化するための放熱フィン(または冷却パイプ)5eとから構成されている。油拡散ポンプ5の吸気口5fは、真空ホース7を介して回転室3aに接続され、吸気口5fから吸入された、ジェット部の周囲(円筒部5dの内周部)にある気体分子(空気)は、油分子に飛ばされて下の方に圧縮され、排気口5gから排気される。
【0025】
補助ポンプ4は、真空ホース6を介して上記油拡散ポンプ5の排気口5gに接続された吸入口4aと、大気中に排気するための排気口4bとを有する。この補助ポンプ4の本体は、図示されていないが、周知の油回転ポンプ(ロータリーポンプ)によって構成され、油を貯留する油容器の中で偏心した回転軸を有するロータを回転させ、上下動(往復動)する固定翼と協働して吸入口4a側の空気を排気口4bより排気する。補助ポンプ(油回転ポンプ)4は0.1パスカル程度の中真空領域の減圧能力限界を持つのに対して、油拡散ポンプ5は0.1〜0.000001パスカルの高真空領域の到達排気能力を持つので、補助ポンプ4は、油拡散ポンプ5の排気動作が可能となる臨界背圧以下(約13〜20パスカル以下)に回転室3aを低真空に減圧させる目的で付加される。
【0026】
制御装置9は、ロータ1(電動モータ2)の回転駆動制御と、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5の駆動と、真空度センサ8の検出等を制御する。この制御装置9は、演算、制御プログラムを実行する中央処理装置CPU(9a)、CPU(9a)の制御プログラム等を格納するリードオンリメモリROM(9b)、CPU(9a)の作業領域やデータの一時記憶領域等として利用されるランダムアクセスメモリRAM(9c)等を含むマイクロコンピュータにより構成される。
[遠心分離機の真空ポンプの制御方式について]
本発明に係る遠心分離機50では、特に、真空ポンプを構成する油拡散ポンプ5および補助ポンプ4の動作範囲(減圧範囲)が真空度センサ8によって検出できる回転室3aの真空度特性(減圧特性図)によって区分できるという原理に着眼し、真空ポンプの制御方式が構成されている。以下に、真空ポンプの真空度特性について実験検討した結果を、図2の特性図を参照して説明する。
【0027】
図2は、回転室内の真空度を測定した特性図であり、補助ポンプ4と油拡散ポンプ5を同時に駆動した時の回転室内の真空度変化を示したものである。直列に接続された補助ポンプ4と油拡散ポンプ5を同時に駆動すると、時間tの経過と共に回転室3の真空度Pの変化率が変化するので、一定時間ΔTにおける真空度Pの変化率(ΔP)の違いから区別すると、時間Ta、時間Tb、時間Tc、および時間Tdに分けることが可能である。
時間Taおよび時間Tbは、補助ポンプ4が排気動作を開始してから安定動作に移行するまでの時間として区別することができる。すなわち、時間Taは補助ポンプ4の排気動作の開始時点aから補助ポンプ4の安定排気動作に移行する時点bまでの「排気動作開始」の時間を示し、また、時間Tbは、時点bから時点cまでの排気動作が安定動作に移行する「安定動作」の時間を示す。これらの補助ポンプ4の動作時間(Ta+Tb)は、所謂、補助ホンプ4の減圧動作時間を示し、その減圧範囲(第1の真空度範囲)(Pa−Pr)は、例えば、大気圧〜20パスカルの範囲となる。この減圧範囲(Pa−Pr)は、補助ポンプ4の排気能力として実験的に把握することができる。また、時間Taにおける一定時間(ΔT)毎の真空度の変化率(ΔP1)と、時間Tbにおける一定時間(ΔT)毎の真空度の変化率(ΔP2)とを比較することによって判別することもできる。すなわち、この安定動作時間Tbにおける真空度変化率(ΔP2)は、排気動作開始時間Taにおける真空度変化率(ΔP1)に比べて極端に小さくなる。
【0028】
補助ポンプ4の動作時間(Ta+Tb)の経過後に、補助ポンプ4が回転室3a内を大気圧から中真空領域の真空度Prまで減圧し、これにより、油拡散ポンプ5の吸気口5fにおける真空度Pを、油拡散ポンプ5の排気動作が可能となる臨界背圧以下とすることが可能となる。
【0029】
時間Tbに連続する時間Tcは、油拡散ポンプ5の排気動作が可能となる領域である。この領域は、回転室3a内が臨界背圧以下(約20パスカル以下)であり、かつ油拡散ポンプ5のボイラ5aの拡散油5bが沸騰により気化して排気動作が始まり、回転室3a内を高真空度Pdまで減圧する領域である。すなわち、時間Tcは、油拡散ポンプ5の排気動作の開始時点cから油拡散ポンプ5の安定排気動作に移行する時点dまでの「排気動作開始」の時間となる。この時間Tcにおける一定時間ΔTにおける真空度変化率(ΔP3)は、上記真空度変化率(ΔP2)より大きな値となる。
【0030】
時間Tdは、時刻dから時刻eまでの排気動作が安定動作に移行する「安定動作」の時間を示す。すなわち、油拡散ポンプ5の排気動作がさらに進行して油拡散ポンプ5の排気動作が安定した減圧範囲(第2の真空度範囲)(Pr−Pd)の高真空限度Pdとなり、真空度変化率(ΔP4)は極端に小さくなり、真空動作が安定領域となる。
[真空ポンプの動作状態判別フローチャートの一例について]
本発明は、図2に示したような真空度特性図に基づいて遠心分離機を構成したもので、上記制御装置9のROM(9b)に格納された、補助ポンプおよび油拡散ポンプの動作状態判別プログラムの一例に従った動作状態判別フローチャートについて、図3を参照して説明する。
【0031】
補助ポンプ4と油拡散ポンプ5を同時にスイッチON(図示なし)して両者を駆動開始する。真空度センサ8と制御装置9で検出した真空度Pに基づいて、回転室3aの真空度変化率(ΔP/ΔT)の変化から各ポンプの動作状態を判別する。
【0032】
ステップS1において、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5を同時に駆動させる。ステップS2において、真空度センサ8を介して一定時間(ΔT)毎に回転室3aの真空度を検出して、真空度の変化率(ΔP/ΔT)(以下、真空度の変化ΔPによって「真空度の変化率」とする)を算出する。以下、真空度の変化率を検出するステップを、便宜上、Aステップと称する。
【0033】
ステップS3において、期間Taにおける真空度の変化率ΔP1(図2参照)が予め決められている判定値ΔPaと比較してΔP1≧ΔPaとなる場合(YESの場合)、ステップS4に進み補助ポンプ4の排気動作が開始されたものと判別する。
【0034】
もし、ステップS3において変化率ΔP1がΔP1<ΔPaならば(NOの場合)、ステップS3aへ進み、補助ポンプ4の排気動作の開始に異常が発生したものと判別して、ステップS14の故障検出処理に進み、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5の動作を停止し、かつロータ1の回転を停止する。
【0035】
ステップS5で、上記ステップS2の処理と同様に、真空度センサ8を介して、期間Tbにおける一定時間ΔT毎に回転室3aの真空度の変化率ΔP2(図2参照)を検出する。ただし、ここで検出された真空度の変化率ΔP2は、期間Tbにおける真空度なので、上記ΔP1と区別される。
【0036】
ステップS6において、真空度の変化率ΔP2と予め設定されている判定値ΔPbとを比較して、ΔP2≦ΔPbであるか否かを判別する。もし、ΔP2≦ΔPbならば(YESの場合)、ステップS7へ進み、補助ポンプ4は安定動作状態にあると判別する。
ステップS6においてΔP2>ΔPbならば(NOの場合)、ステップS6aへ進み、補助ポンプ4は安定動作が異常であると判別し、ステップS14で故障検出処理をする。
【0037】
ステップS8は、上記ステップS2と同様な処理であり、一定時間ごとに回転室3の真空度を検出して、期間Tcにおける真空度の変化率ΔP3(図2参照)を算出する処理である。
【0038】
ステップS9は、ステップS9で算出した真空度の変化率ΔP3と予め設定されている判定値ΔPcを比較してΔP3≧ΔPcであるか否かを判別する。もしΔP3≧ΔPcならば(YESの場合)、ステップS10へ進み、油拡散ポンプ5は排気動作を開始したものと判別する。
【0039】
ステップS9でΔP3<ΔPcならば(NOの場合)、ステップS9aへ進み、油拡散ポンプ5の排気動作の開始に異常があるものと判別して、ステップS14へ進み、故障検出処理をする。
【0040】
ステップS11は、上記ステップS2と同様な処理であり、一定時間ごとに回転室3の真空度を検出して、期間Tdにおける真空度の変化率ΔP4(図2参照)を算出する処理である。
【0041】
ステップS12は、ステップS11で算出した真空度の変化率ΔP4を予め設定されている判定値ΔPdと比較して、ΔP4≦ΔPdであるか否かを判別する。もし、ΔP4≦ΔPdならば(YESの場合)、ステップS13へ進み、油拡散ポンプ5は安定動作にあると判別する。もし、ΔP>ΔPdならば(NOの場合)、ステップS12aへ進み、油拡散ポンプ5の安定動作の異常を判別し、ステップS14へ進み、故障検出処理をする。
[真空ポンプの動作制御フローチャートについて]
補助ポンプ4と油拡散ポンプ5の制御フローチャートについて図4を参照して説明する。
制御装置9は、上述したような油拡散ポンプ5の動作状態を判別して補助ポンプ4と油拡散ポンプ5の動作を制御する。
【0042】
ステップS20において、図3のフローチャートにおけるステップS9およびステップS10によって油拡散ポンプ5の排気動作を開始したか否かを判別する。ステップS20で油拡散ポンプ5の排気動作が開始されたものと判別すると(YESの場合)、ステップS21へ進み、油拡散ポンプ5の運転制御を開始する。つまり、図3に示す真空度の変化率ΔP3と判定値ΔPcを比較してΔP3≧ΔPcならば、油拡散ポンプ5の排気動作開始と判別する。そして、後述する図5における時刻cより始まる時間Tcにおいて、油拡散ポンプ5のヒータ(DPヒータ)5cに印加する電力を、連続電力から不連続電力(パルス状電力)に切換えてDPヒータ5cの制御を開始し、ステップS22においてパルス状電力を印加して拡散油5bに過度な蒸発が生じないように所定の電力に低下させる。
【0043】
次に、ステップS23において、油拡散ポンプ5が安定動作状態になったか否かを判別する。ステップS23で油拡散ポンプ5の安定運転を判別すると(YESの場合)、ステップS24へ進み、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5の安定運転を制御する。すなわち、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5の運転制御を、図5に示す期間Tdのように、ON・OFF制御する。補助ポンプ4および油拡散ポンプ5をON・OFF制御することにより、過度な拡散油分子の発生を防止し、拡散油分子の回転室への逆流を防止することができる。
【0044】
もしステップS23において、油拡散ポンプ5が安定運転状態でないと判別すると(NOの場合)、ステップS22へ戻り、油拡散ポンプ5が安定運転になるまで油拡散ポンプ5の運転制御を続ける。
[遠心分離機の動作例について]
次に上記真空ポンプの動作状態判別フローチャートおよび制御フローチャートに従った遠心分離機の動作例について図5を参照して説明する。図5は、補助ポンプ4と油拡散ポンプ5を同時に駆動開始して回転室3における真空度の変化率が変化する状態から真空ポンプの動作状態を判別して、真空ポンプの各ポンプを制御したときの真空度の変化を示す特性図である。
【0045】
時間Ta(時刻a〜時刻b)は、補助ポンプ4の排気動作が始まり、大気圧Paより低真空Prまで減圧する領域であり、油拡散ポンプ5の排気動作が可能となる臨界背圧(約20パスカル)以下となる。
【0046】
時間Tb(時刻b〜時刻c)は、補助ポンプ4の排気動作がさらに進行して補助ポンプ4の排気動作の限度領域となり、真空度は安定領域となる。
【0047】
時間Tc(時刻c〜時刻d)は、油拡散ポンプ5の排気動作が開始する領域である。この領域は、回転室内が臨界背圧(約20パスカル)以下であり、かつ油拡散ポンプ5のボイラの拡散油が気化により排気動作が始まり、回転室内を高真空度Pdまで減圧する領域である。この期間は、図2に示す通り一定時間ΔT毎の真空度変化率ΔP3は大きい。上述したように真空度変化率ΔP3(図2参照)から油拡散ポンプ5の排気動作の開始を判別して、拡散ポンプ5のヒータ加熱を連続電力印加からパルス状電力(例えば、電力印加と電力停止の周期が7:3の電力)に低下させて、DPヒータ5c(図1参照)の発生熱量を抑えることが可能になる。
【0048】
時間Td(時刻e以降)は、油拡散ポンプ5の排気動作がさらに進行して油拡散ポンプ5の排気動作の限度領域(真空度Pd)となり、真空度Pは安定領域となる。この期間Tdは、図2に示すように、一定時間ΔTごとの真空度変化率ΔP4は極端に小さくなる。したがって、上記図3に示したフローチャートに基づいて真空度変化率ΔP4を基準値ΔPdと比較して油拡散ポンプ5の排気動作が安定領域にあることを判別し、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5をON・OFF制御する。このON・OFF制御は、回転室3の真空度Pを検出して補助ポンプ4および油拡散ポンプ5を電力の供給を停止させる。電力の停止により回転室3の真空度PがPoffへ若干、上昇(低下)し、真空度センサ8が真空度Poffを検出すると、再び、補助ポンプ4および油拡散ポンプ5のDPヒータに所定電力を印加する。これによって、回転室3の真空度をPdからPoffの範囲内において高真空に制御することができる。
【0049】
以上の実施形態から明らかなように、真空ポンプを構成する補助ポンプ4の減圧範囲(第1の真空度範囲)(Pa−Pr)と、油拡散ポンプ5の減圧範囲(第2の真空度範囲)(Pr−Pd)とを記憶しておき、補助ポンプ4の排気動作開始領域(期間Ta)における真空度変化率ΔP1と、油拡散ポンプ5の排気動作開始領域(期間Tc)における真空度変化率ΔP3と、排気動作開始領域(期間Td)における真空度変化率ΔP4と、を検出することにより、油拡散ポンプ5の排気動作状態を判別することができる。これにより、高価な温度センサおよび温度センサ検出回路を追加することなく、油拡散ポンプの排気動作状態を判別して油拡散ポンプの制御を適切に行うことができる。
[真空ポンプの動作状態判別フローチャートの変形例について]
また、遠心分離機の回転室における真空度特性について実験検討した結果、図6の真空度特性図に示すように、上記図2に示したような補助ポンプ4の安全動作領域(時間Tb)の真空度変化率ΔP2が明確に観測できない場合がある。
【0050】
この原因は、時間Taから時間Tbに移行して補助ポンプ4の排気動作が安定状態となった時、同時に油拡散ポンプ5の排気動作が連続的に開始されるために、補助ポンプ4の安全動作領域(時間Tb)において真空度ΔP2(図2参照)の段差特性が表れないものと考えられる。このような真空度の段差特性が表れない理由は、油拡散ポンプ5の拡散油5bの温度が時間Tbにおいて既に上昇していて、油拡散ポンプ5の排気動作開始が早い場合であると判断される。この特性は、特に、遠心分離機を連続して運転する場合で、初回の運転により油拡散ポンプ5のボイラ5aの温度が高くなっている場合に生じ易い。
【0051】
したがって、図6に示された真空度特性図では、時間(Ta+Tb)から時間Tcに移行する場合、油拡散ポンプ5の排気動作によって真空度Pが連続して減圧される特性となり、段差特性が表れない。しかし、時間Tdに移行して油拡散ポンプ5の排気動作が減圧範囲(Pr−Pd)の排気能力限界Pdに達すると、段差特性が表れる。
【0052】
図6に示した真空度特性に基づいて真空ポンプの排気動作状態を判別する場合は、図7に示した動作判別フローチャートとなる。
【0053】
図7に示した動作判別フローチャートにおいて、上記図3に示した処理および判断ステップと同一のステップについては、同一符号を付して説明を省略する。図7のフローチャートが図3に示したものと異なる点は、図3に示したステップS5〜ステップS7の補助ポンプの安全動作領域の判別ステップが省略されたことにある。
【0054】
結果的に、図6の特性図に基づく動作判別も、補助ポンプ4の減圧範囲(Pa−Pr)における真空度の変化率ΔP1と、油拡散ポンプ5の減圧範囲(Pr−Pd)の時間Tcにおける真空度の変化率ΔP3と、油拡散ポンプ5の減圧範囲(Pr−Pd)の時間Tdにおける真空度の変化率ΔP4とを検出して、それらの変化率を予め設定されている判定値ΔPa、ΔPc、ΔPdとそれぞれ比較することにより排気動作状態を判別することができる。
【0055】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心分離機の構成図。
【図2】図1に示した遠心分離機の回転室の真空度を測定した真空度特性図の一例。
【図3】図1に示した遠心分離機の真空ポンプの動作状態判別フローチャートの一例。
【図4】図1に示した遠心分離機の真空ポンプの動作制御フローチャート。
【図5】図1に示した遠心分離機の真空ポンプの動作例を示した特性図。
【図6】図1に示した遠心分離機の回転室の真空度を測定した真空度特性図の他の例。
【図7】図1に示した遠心分離機の真空ポンプの動作状態判別フローチャートの変形例。
【符号の説明】
【0057】
1:ロータ 2:電動モータ 3:回転室仕切り部材 3a:回転室
4:補助ポンプ(油回転ポンプ) 4a:吸入口 4b:排気口
5:油拡散ポンプ 5a:ボイラ 5b:拡散油 5c:DPヒータ
5d:ジェット部を内包する円筒部 5e:放熱フィン 5f:吸気口
5g:排気口 6:真空ホース 7:真空ホース 8:真空度センサ
9:制御装置 9a:CPU 9b:ROM 9c:RAM
50:遠心分離機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転室と、該回転室内に設置され、試料を保持して遠心分離するロータと、該ロータを回転させるモータと、前記ロータが回転する前記回転室内を真空にするために前記回転室内の気体を回転室外に排気する真空ポンプ装置と、前記回転室の真空度に基づいて前記真空ポンプ装置の動作を制御するための制御装置と、を具備する遠心分離機において、
前記真空ポンプ装置は、前記回転室内の真空度を第1の真空度範囲内に排気する補助ポンプと、前記回転室内と前記補助ポンプ間に直列接続され、前記回転室の真空度を前記第1の真空度範囲より高真空の第2の真空度範囲に排気する油拡散ポンプと、を具備し、
前記制御装置は、前記回転室内の真空度を所定時間毎に検出する真空度検出手段を有し、前記真空度検出手段の前記所定時間毎の検出結果に基づいて、前記回転室内の真空度が前記第1の真空度範囲内から前記第2の真空度範囲内に移行したことを判別し、かつ
前記回転室内の真空度が前記第2の真空度範囲内に移行した場合、前記所定時間毎の真空度の変化率を検出し、該変化率に基づいて前記真空ポンプ装置が動作状態であることを判別することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記真空度検出手段の前記所定時間毎の検出結果に基づいて、前記補助ポンプの排気動作開始と、前記油拡散ポンプの排気動作開始と、前記油拡散ポンプの安定動作と、を順次検出することにより、前記油拡散ポンプが安定動作状態であることを判別することを特徴とする請求項1に記載された遠心分離機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記油拡散ポンプの排気動作開始を判別して、前記油拡散ポンプの運転制御を開始することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された遠心分離機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記油拡散ポンプの安定動作を判別して、前記油拡散ポンプの運転制御をすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載された遠心分離機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記油拡散ポンプの安定動作を判別して、前記補助ポンプおよび前記油拡散ポンプの運転制御をすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載された遠心分離機。
【請求項6】
前記制御装置は、前記真空度検出手段による前記回転室内の真空度の検出が前記第1の真空度範囲内または前記第2の真空度範囲内に移行できないことを判別した場合、前記補助ポンプまたは前記油拡散ポンプの動作に異常があると判別することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載された遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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