説明

遠心分離機

【課題】
遠心分離中のロータ温度の上昇による試料の損失を防止することができる遠心分離機を提供する。
【解決手段】
ロータと、ロータを収容するロータ室と、ロータを回転させる駆動装置と、ロータを冷却する冷却装置と、これらの制御を行う制御装置と、表示部と操作部を有する遠心分離機において、外気温度を測定する温度測定手段を設け、制御装置は、ロータの情報(種類、設定回転速度)と外気温度を用いて、ロータが冷却可能か否かを判断するようにした。冷却可能でない場合には、表示部にエラー情報(29)が表示される。エラー情報(29)は、例えば、遠心分離機の外気温度の変更指示又は設定回転数の変更指示である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体(ロータ)を高速で回転させる遠心分離機に関し、特に冷却装置を有し、ミス無くロータの冷却温度の制御を行うことができる遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、試料を収容したロータを高速回転させることにより試料の分離を行う。使用するロータの形状によって異なるものの、ロータは、回転速度が高ければ高いほど空気との摩擦によって温度上昇が大きくなる。一方、遠心分離する試料には、温度が上昇し過ぎると活性が損なわれるものがあるため、冷却遠心分離機と呼ばれる遠心分離機では、オペレータ(遠心分離機の操作をする者)が設定した温度にロータの温度を一定に保つために、ロータを冷却するための冷却装置を設けている。
【0003】
冷却遠心分離機に用いられる冷却装置は、製造コストや必要な設置スペースを考慮して最適なサイズの冷却装置が選択される。しかしながら、最適なサイズの冷却装置としても、状況によっては必要な冷却能力が不足してしまう場合がある。必要な冷却能力は電源条件や遠心分離機が設置された部屋の室温等によって大きく変化するため、例えば、電源電圧が低い場合や、室温が高すぎる場合など、オペレータが設定した通りの温度にロータの温度を維持できない場合があり得る。そのため、遠心分離機の製造業者は、温度制御可能な温度条件や遠心分離機の設置条件について取扱説明書等に記載することでオペレータに注意を促している。
【0004】
一方、試料を収容するロータは、取り付け互換性のある複数種の遠心分離機で使用可能である場合が多く、遠心分離機の機種の違いによって冷却能力が異なっていた場合、オペレータの希望する設定温度にロータの温度を制御できる場合とそうでない場合がある。そのため、遠心分離機の製造業者は、使用できる遠心分離機に加えて、使用する遠心分離機と制御可能な温度範囲をロータ毎の取扱説明書に記載し、オペレータに注意を促している。
【0005】
ここで、オペレータは厳密な温度管理が必要な試料を分離する際に、分離前の試料を最適な温度で管理していることは言うまでもなく、遠心分離機にセットする際も試料を収容するロータおよびロータを受容するロータ室を予冷してから遠心分離機の回転速度を増加させる等、多くの作業が必要である。更に、オペレータは運転を開始する前に前記した遠心分離機およびロータの取扱説明書を確認して希望する温度に遠心分離機が制御可能であるか確認する必要がある。
【0006】
上記のような繁雑な作業の一部を自動化し、オペレータの作業を軽減するため、例えば特許文献1に開示されたように、ロータの温度が希望する値となってから自動で回転速度を上げる技術が公開されている。この技術は、ロータ室の温度とオペレータによって設定された設定温度とを比較し、ロータ室の温度が設定温度に到達してから前記モータを加速させるように構成した遠心分離機の予冷運転制御方法に関する。
【0007】
ここで図10を用いて、従来の遠心分離機におけるロータ設定温度の設定のしかたを説明する。図10は従来例の遠心分離機における表示部の表示画面121を示す図である。表示画面121は、複数の表示領域に分類され、上方からタイトル部22、設定および状態表示部23、加減速レート設定部24、メッセージ表示部125、特殊機能表示部26、状態マーク27の表示領域が定義される。設定および状態表示部23は、オペレータによって設定されるデータを現在の状態と共に表示するための領域で、回転速度(SPEED)、運転時間(TIME)、温度(TEMP)の設定値が下段に、現在の状態値が上段に並べて表示される。特殊機能表示部26は、本実施例では同じ分離を再々行う時に便利な運転条件記憶のための「PROGRAM」選択エリア、遠心加速度を表示させるまたは遠心加速度から回転数を逆算させるための「RCF(g)」選択エリア、遠心効果を意味する遠心加速度(×g)と時間(sec)の積であるg・secの表示、およびg・secから回転数もしくは運転時間を逆算させるための「g・sec」選択エリアからなっている。
【0008】
メッセージ表示部125には、運転するロータの型式名が表示される。また、メッセージ表示部125には、遠心分離機の停止中または運転中を示す運転モードを表示したり、異常が発生した場合のメッセージ表示に使用される。オペレータが遠心分離機を運転する場合、表示画面121を見ながら運転条件を設定するか、もしくは特殊機能表示部26の「PROGRAM」を選択して記憶部にあらかじめ登録された運転条件を呼び出した後、操作部の運転開始キーをONにして運転を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3509310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、従来の遠心分離機では、設定温度範囲が例えば−20℃から40℃を入力して運転することが可能であっても、使用するロータの種類と設定する回転速度によってはロータの温度を設定値通りの温度に制御できない場合がある。しかしながら、温度設定値が制御不可能な値であった場合でもオペレータによる運転開始キーの操作により運転が開始されるため、オペレータがロータを設定値通りの温度に制御できないことを知らずに運転を開始してしまう恐れがあった。このような状態を防ぐために、オペレータは運転開始後しばらく温度表示をモニターしたりしており、使い勝手が悪くなっていた。
【0011】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、遠心分離中のロータ温度の上昇による試料の損失を防止することができる遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、使用するロータの種類と設定温度、運転環境情報を用いて、ロータの温度を設定値通りに制御できない場合には、表示部にエラー情報を表示することができる遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、ロータの温度を設定値通りに制御できない場合には、遠心分離運転の開始を阻止するか、又は、オペレータの再確認後に遠心分離運転を開始するようにした遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、分離する試料を保持するロータと、ロータを収容するロータ室と、ロータを回転させる駆動装置と、ロータを冷却する冷却装置と、駆動装置と冷却装置の制御を行う制御装置と、制御装置に対して情報を入力するための操作部と、を有する遠心分離機であって、外気温度を測定する温度測定手段を設け、制御装置は、ロータの情報と外気温度とロータの回転速度設定値を元に、操作部から入力された設定温度で冷却装置によって、ロータが冷却可能か判断するように構成した。この判断のために、制御装置は、ロータ室の温度と外気温度とロータの設定回転速度を元に、冷却装置によるロータの温度制御可能な範囲を算出する。この冷却可能か否かの判断をするために制御装置が直接演算しても良いし、演算済みの算出結果をメモリに格納しておいてそれを読み出すようにして算出しても良い。遠心分離機には遠心分離運転状況を表示するための表示部が設けられ、ロータが冷却可能で無い場合には表示部にエラー情報を表示する。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、エラー情報は、遠心分離機の外気温度の変更指示であり、エラー情報を表示した際にはロータの回転開始を許可しないように構成した。または、制御装置は、エラー情報を表示した際には、オペレータからの遠心分離運転開始の確認情報を取得した場合に限り、ロータの回転開始を許可するように構成した。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御装置は、設定温度が算出された温度制御可能な範囲よりも低い場合には設定温度で運転可能となる条件を表示部に表示するようにした。運転可能となる条件は外気温度の上限値、又は、ロータの回転数の上限値で表示すると良い。さらに、制御装置は不揮発性メモリを有し、ロータの種類毎の回転速度と外気温度の組合せに対する温度制御可能な範囲の対応表を格納しておくと、制御装置は対応表を用いて算出(読み出し)をすばやく行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、外気温度を測定する温度測定手段を設け、制御装置は、ロータの情報と外気温度とロータの回転速度設定値を元に、操作部から入力された設定温度で冷却装置によって、ロータが冷却可能か判断するので、遠心分離機は冷却装置によるロータの温度制御可能な範囲を外れるか否かを運転開始前に知ることができるので、温度制御不能時に運転を開始してしまうことを未然に防止できる。
【0019】
請求項2の発明によれば、制御装置は、ロータ室の温度と外気温度とロータの設定回転速度を元に、冷却装置によるロータの温度制御可能な範囲を算出するので、遠心分離機は冷却装置により制御可能な温度範囲を具体的に知ることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、ロータが冷却可能で無い場合には表示部にエラー情報を表示するので、オペレータは厳密な温度管理が必要な試料を分離する際であっても、温度管理上の警告を明確に知ることができるので、使い勝手が良い。
【0021】
請求項4の発明によれば、エラー情報は、遠心分離機の外気温度の変更指示であるので、オペレータはエラーに対する対応策を明確に得ることができるので、作業効率が向上すると共に使い勝手が向上する。
【0022】
請求項8の発明によれば、回転可能となる条件は外気温度の上限値であるので、オペレータは空調機等の操作により室温をどの程度まで下げればよいかを明確に知ることができる。
【0023】
請求項9の発明によれば、運転可能となる条件はロータの回転数の上限値であるので、オペレータはロータの設定回転数を何回転以下にすればよいかを明確に知ることができ、その回転数での遠心分離運転を実行するか否かを容易に判断することができる。
【0024】
請求項10の発明によれば、不揮発性メモリに、ロータの種類毎の回転速度と外気温度の組合せに対する温度制御可能な範囲の対応表を格納しておき、制御装置は対応表を用いて算出を行うので、対応表から温度制御可能な範囲に関するデータを瞬時に読み出すことにより、瞬時に算出結果を得ることができる。
【0025】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1における制御可能ロータ温度の表示例(その1)を示す図である。
【図2】図1のヘルプ(HELP)キー28を押した際に、画面上にポップアップ表示される内容を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る遠心分離機1における制御可能ロータ温度の表示例(その2)を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成を示す概略図である。
【図5】図4のチャンバ4の形状を示す切断斜視図である。
【図6】図4の操作部30を示す外観図である。
【図7】本発明の実施例に係る遠心分離機1の制御ブロック図である。
【図8】本発明の実施例に係る遠心分離機1の制御手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施例に係るロータ5の温度制御可能な範囲の組み合わせ関係を示すデータテーブルである。
【図10】従来例の遠心分離機における表示部の表示内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。最初に図4及び図5を用いて本実施例に係る遠心分離機1の全体構成を説明する。
【0028】
図4において遠心分離する試料を収容したロータ5は、ロータ室3内でモータ6の回転軸先端部6aにセットされる。また、ロータ室3を冷却するための冷却装置として、冷媒を圧縮するためのコンプレッサ9aと、圧縮されて温度上昇した冷媒を冷却ファン18によって発生する風によって空冷する凝縮機9cと、内部で冷媒を蒸発させてロータ室3を冷却するための冷却パイプ9eと、それぞれを結ぶ配管9b、9d、9fで構成されている。制御装置10は、操作部30から入力された設定回転速度となるように回転速度検出器6cの信号をフィードバックしてモータ6を駆動する。また同様に制御装置10は、操作部30から入力された設定温度となるように、ロータ室3内に設けられた温度センサ7の信号をフィードバックしてコンプレッサ9aを駆動する。遠心分離機1の情報には、オペレータによる遠心分離運転条件や、運転開始及び停止指示等を入力するための操作部30と、運転条件設定値や現在の状態を表示する表示部20が設けられる。表示部20は例えば液晶ディスプレイによって構成される。
【0029】
制御装置10の近傍には、外気を取り込んで制御装置10に含まれる電子素子を冷却するための冷却ファン19が設けられる。冷却ファン19の風下側には温度センサ17が設けられる。この温度センサ17は外気温度を測定するために用いられるので、制御装置10の発熱状態に左右されないように、冷却ファン19の風下側直下に設けると良いが、冷却ファン19の風上側に設けても良い。
【0030】
図5は、チャンバ4の形状を示す切断斜視図であり、断面形状を理解できるように一部を切断した状態で図示している。チャンバ4は、一方(上側)が開放され、他方(底部)が閉鎖された円筒形の容器であり、底部の中央にはモータ6の回転軸先端部6aを貫通させるための貫通穴が形成される。貫通穴と回転軸先端部6aの間には、その隙間を埋めるためのシールラバー4bが取り付けられる。シールラバー4bの一部にはロータIDセンサ8が設けられる。ロータIDセンサ8は、ロータ5に設けられた光学的又は磁気的指示部材の情報を読み取るための公知のセンサである。
【0031】
図4において、オペレータは先ずドア16を開き、遠心分離する試料を収容したロータ5をロータ室3のモータ6の回転軸先端部6aに装着する。次に、図4の表示部20を確認しながら操作部30より遠心分離の運転条件を入力する。通常、入力する運転条件には遠心分離効果を決めるためのロータの回転速度、ロータの運転時間(回転時間)、および試料(サンプル)を最適な温度状態に維持するための設定温度の他に、加減速時の勾配の設定等がある。これらの運転条件を入力時の表示部20の表示内容を示すのが図1である。
【0032】
図1は本実施例に係る遠心分離機1の表示画面21を示す図であり、オペレータが一連の運転条件を入力した後、運転開始スイッチをONする前の表示内容を示している。本実施例では、オペレータが、ロータの設定回転数23aを17000rpm、運転時間23bが1時間、設定温度23cが4.0℃を入力した場合を示している。ここで、設定回転数23a、運転時間23b、設定温度23cの表示欄のうち上側が現在の状況を示し、下側が設定値を示している。このように設定および状態表示部23に必要な情報が表示された後に、本実施例では、制御装置10は、この条件下で遠心分離運転が可能であるか否かを判定する。そして、可能でない場合にはメッセージ表示部25にエラー表示を行う。メッセージ表示部25の右端に表示されるロータを示すイラストと停止という文字を含む状態マーク27は、ロータ5の回転が停止していることを示している。また、メッセージ表示部25のエラー表示内容に隣接して、エラーに対してどう対処すれば良いかの追加情報を表示するためのヘルプキー28が表示される。
【0033】
メッセージ表示部25には、ロータの型式名“ROTOR1”の他に、現在の遠心分離機の外気温度を示す“室温”の情報(図の例では38℃)と、“制御可能ロータ温度”(図の例では、“>13℃”)が表示される。これは、オペレータが入力した運転条件の回転速度(17000rpm)に対して、制御可能な温度(ロータ5の温度範囲)が13℃以上であることを示している。また、“*室温を下げてください”との警告のためのメッセージ29が表示されており、これは、設定温度(4.0℃)に制御するためには室温(遠心分離機の外気温度)を現在の温度よりも下げる必要があることを示している。よってオペレータは運転を開始する前に貴重なサンプルの損失を防止するための情報を、取扱説明書等を確認することなく簡単に得ることができ、空調設備を稼働させて外気温度を下げるまたは回転速度を下げる等の対策ができる。このため、遠心分離機の使い勝手が大幅に向上する。
【0034】
図2は、図1のヘルプキー28を押した際に、表示画面21上にポップアップ表示(或いは、表示画面21から切り替えて表示)される内容を示す図である。ダイアログ表示28aでは、オペレータによって設定された遠心分離条件のエラー状態を解消するための2つの解決条件を表示している。一つは「設定温度4℃に制御可能な設定回転速度」であり、図示の例では17000rpmと設定した回転速度を、13000rpm以下で再設定すれば遠心分離運転が可能であることを示している。もう一つの情報は、「設定温度4℃に制御可能な室温(外気温)」であり、図示の例では現在38℃ある室温を29℃まで下げれば遠心分離運転が可能であることを示している。このように、本実施例においては、設定された遠心分離条件で運転できない旨のエラー表示だけでなく、ヘルプキー28を押すことによって、そのエラー状態を解消するのにどうしたら良いかの情報も合わせて表示することができる。このように遠心分離運転を開始できるための条件をオペレータに表示することができるので、オペレータはこの条件を判断することによって、適切な対応策を考えることができる。
【0035】
図3は、オペレータが空調設備の稼働により室温を下げて、制御可能ロータ温度が変化した状態の表示部20の表示例である。図3の状態では、室温が25℃にまで下げられているので、「*室温を下げてください」のメッセージが表示されなくなり、いわゆる正常時の表示画面21となっている。図3の状態においては、メッセージ表示部25に、ロータの型式名(“ROTOR1”)の他に、現在の遠心分離機の外気温度を示す室温(“25℃”)および制御可能温度(“>0℃”)が表示される。図3の例では、オペレータによって入力された遠心分離運転時の設定温度が4℃であり、これは制御可能温度範囲内にあるので、図3の状態時には何ら警告的なメッセージは表示されない。オペレータはこの状態で後述するSTARTキー33を押すことにより遠心分離運転を開始させることができる。
【0036】
図6は、図4の操作部30を示す外観図である。操作部30には、画面上でポインティングデバイス又は指示領域を移動させるためのカーソルキー31、数値データを入力するためのテンキー32、メニュー画面に戻るためのMENUキー36、取り消しキーの役割を果たすESCキー37、ロータ5の種類を設定するためのROTORキー35、遠心分離運転の開始を指示するSTARTキー33、遠心分離運転の中止を指示するSTOPキー34が設けられる。尚、本実施例では、表示部20と操作部30が別々に設けられているが、タッチパネルのような、表示部と操作部が一体になっているものでもよい。
【0037】
次に、図7を用いて本実施例の遠心分離機1の制御手順を説明する。図7は本実施例に係る遠心分離機1の制御ブロック図である。制御装置10は内部にマイクロコンピュータ10aと、遠心分離機を動作させるためのプログラムや制御情報データを記憶しておくための不揮発性メモリ11と、演算や一時的なデータを保持するためにバッテリ15により電源が切られても記憶したデータを保持できるSRAM(Static Random Access Memory)12と、モータ6を駆動するためのインバータで構成されたモータ駆動回路13、コンプレッサ9aを駆動するためのコンプレッサ駆動回路14と、外気温度を測定する温度センサ17と、制御装置10内部を冷却する冷却ファン19を有する。ここで、冷却ファン19は、吸気側の空気温度が外気温度と同じとなる箇所に設置することが望ましく、本実施例では、温度センサ17は冷却ファン19の吹き出し口付近に設置する。
【0038】
コンプレッサ9aのコンプレッサ駆動回路14には、図示していないが、コンプレッサ9aの電源電圧測定手段および電源周波数測定手段が含まれる。これらは既知の技術で実現可能であり、例えばステップダウントランス等により電源電圧を降圧後、ダイオードブリッジ等の全波整流回路および平滑コンデンサにて直流電圧に変換し、これを適宜増幅した後A/D変換器を通してデジタル値に変換することで測定可能である。本実施例では、コンプレッサ駆動回路14内にて直流電圧に変換した後、マイクロコンピュータ10aのA/D変換機能(図示せず)を利用してデジタル値に変換する。また、電源周波数については、交流電圧がゼロボルトと交差する点でパルス信号を発生させるゼロクロス信号発生器の周期パルスをマイクロコンピュータ10aのカウンタ等(図示せず)を用いて演算・計測することによって、電源周波数を測定できる。
【0039】
コンプレッサ9aの駆動によって生じる吸熱量は、電源周波数によって回転速度が定まるコンプレッサである場合は、電源周波数別(例えば50Hz/60Hz)で運転する場合のそれぞれの定格吸熱容量から求めた吸熱量Qを不揮発性メモリ11に予めデータテーブル11aとして記憶させておく。さらに、制御装置10はロータの種類毎に回転速度に対応する発熱量Rの関係をデータテーブル11bとして記憶させておく。また、制御装置10は、基準外気温度(例えば25℃)における冷却装置の吸熱量Qとロータの発熱量Rの差分Sに対する制御可能最低温度Tを予め実験によって求め、不揮発性メモリ11にデータテーブル11cとして記憶させておく。
【0040】
次に、図8のフローチャートを用いて遠心分離機1の制御手順を説明する。図8に示す制御手順はマイクロコンピュータ10aでプログラムを実行することによりソフトウェアで実現する。遠心分離運転を開始するにあたり、オペレータは試料の入ったロータ5をセットした後に、操作部30を用いて遠心分離運転条件を入力する(ステップ80)。入力される遠心分離運転条件には、ロータ5の設定回転数、運転時間、設定温度を含む。
【0041】
次にマイクロコンピュータ10aは、装着されたロータ5を識別する(ステップ81)。ロータ5の種類は操作部30からROTORキー35(図6参照)を押下することによってオペレータによって入力される場合と、ロータIDセンサ8を用いて自動で検出する場合がある。また、ロータIDセンサ8を用いる場合は、必要に応じてロータ5を数回転程度回転させても良い。次に、マイクロコンピュータ10aは、温度センサ7を用いてロータ室3の温度を測定し、温度センサ17を用いて外気温度を測定する(ステップ82)。
【0042】
次にマイクロコンピュータ10aは、装着されたロータ5に応じたロータ5の種類および、設定回転速度を引数として、データテーブル11bから該当する発熱量Rを得る。同時に、マイクロコンピュータ10aは、電源電圧および周波数の測定値から、データテーブル11aを検索し、該当する冷却装置の吸熱量Qを導出する(ステップ83)。次に、マイクロコンピュータ10aは、ステップ83によって導出した冷却装置の吸熱量Qとロータの発熱量Rを用いてこれらの差分(Q−R)を算出し、Sとする(ステップ84)。
【0043】
次にマイクロコンピュータ10aは、算出したSを引数としてデータテーブル11cの該当する制御可能最低温度Tを読み出す。尚、制御可能最低温度Tは基準外気温度t(例えば25℃)での値であるため、実際の外気温度tで補正し、最終的な制御可能最低温度Tを求める(ステップ85)。Tは概ね次の式で近似できる。
=T+(t−t
ここで、tは温度センサ17の測定値(℃)、tは基準外気温度(℃)。
【0044】
次にマイクロコンピュータ10aは、上記の手段によって求めた制御可能温度Tを表示部20のメッセージ表示部25に表示する(ステップ86)。次に、マイクロコンピュータ10aは、オペレータによって設定された設定温度が、設定可能な温度(制御可能最低温度T)よりも低いか否かを判定する(ステップ87)。設定温度が、設定可能な温度よりも高い場合は、遠心分離運転が可能であるので、オペレータによってSTARTキー(図6参照)が押下されることにより、設定された条件下で遠心分離運転が行われて処理が終了する(ステップ87、92、93)。
【0045】
設定温度が、設定可能な温度よりも低い場合は、表示部20のメッセージ表示部25に、“* 室温を下げて下さい”とのエラー表示を行う(ステップ88)。この際、オペレータによりHELPキーが押されたかを判定し(ステップ89)、押された場合は、図2に示したように設定可能条件を表示部20に表示する(ステップ90)。HELPキーが押されなかった場合は、ステップ91に進む(ステップ89)。
【0046】
次に、設定画面に“戻る”旨のESCキー37が押下されたかを検出し、押下された場合はステップ80に戻り、押下されていない場合はステップ89に戻る(ステップ91)。
【0047】
以上、本実施例によれば、外気温度と冷却装置の定格吸熱容量から吸熱量を導出する手段と、運転条件設定値におけるロータが高速回転することで空気との摩擦によって生じる発熱量を導出する手段を備え、発熱量と吸熱量の関係から、ロータの制御可能温度を導出し、表示部に表示するので、オペレータは厳密な温度管理が必要な試料を分離する際であっても、温度管理上の警告を明確に知ることができるので、使い勝手が良い。
【0048】
本実施例においては、設定された条件下で遠心分離運転ができない場合(ステップ87でYesの場合)は、STARTキー33が押下できない、或いは、押下しても反応しないように構成されるが、この場合であっても作業者に再確認、例えば“設定された条件下で遠心分離運転ができません。ロータ温度が13度までしか低下しません”との再確認メッセージを出して、それでも遠心分離運転を開始するか否かをオペレータに指示させるように構成しても良い。このように構成すれば、制御装置(マイクロコンピュータ10a)はエラー情報を表示した際には、オペレータからの遠心分離運転開始の確認情報を取得した場合に限り、ロータの回転開始を許可するので、オペレータは厳密な温度管理が不要な試料の場合はエラー表示があっても遠心分離運転を継続することができ、作業性を損なうことが無い。
【実施例2】
【0049】
次に、図9を用いて本発明の第2の実施例を説明する。前述した第1の実施例では、使用するロータの種類、運転条件(設定回転速度)、遠心分離機の設置条件(遠心分離機の外気温度)のデータから、温度制御可能な範囲をマイクロコンピュータ10aで算出し、遠心分離機の表示部に表示するように構成したが、温度制御可能な範囲の算出を別の装置で予め演算しておき、その演算結果をデータテーブル95として格納しておいても良い。
【0050】
図9は、“ROTOR1”の回転速度と外気温度の組合せに対する温度制御可能な範囲の対応表である。データテーブル95は、制御装置の不揮発性メモリ11に予め記録されるもので、用いられるロータの種類毎にデータテーブル95が準備される。データテーブルに95を用いると、例えば現在の外気温度が38℃の時に回転速度17000rpmで回転させようとすると、列97と行99の交差する欄から、設定可能温度が13℃と即座に算出できる。このようにデータテーブル95のように予め演算結果を算出しておくことで、図8で説明したフローチャートのステップ83から85を一つのステップ、即ち、「データテーブル95から設定可能温度を読み出す」で置き換えることが可能となる。
【0051】
さらに、データテーブルに95を用いることによって、図2で示す遠心分離運転が可能な条件をすぐに求めることができる。例えば、室温(38℃)がそのままの場合は、列97の中で設定温度4度を可能とするロータの回転速度が13,000rpm(列97と行98の交差点)と算出でき、回転速度(17,000rpm)がそのままの場合は、行99の中で設定温度4度を可能とする室温を29度(列96と行99の交差点)と算出できる。
【0052】
以上、第2の実施例によれば、揮発性メモリに、ロータの種類毎の回転速度と外気温度の組合せに対する温度制御可能な範囲の対応表を格納しておき、制御装置は対応表を用いて算出を行うので、対応表から温度制御可能な範囲に関するデータを読み出すことにより、瞬時に温度制御可能な範囲の算出結果を得ることができる。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では室温が高い場合の例を用いて説明したが、室温が低すぎる場合にも同様に温度制御可能な範囲を算出するようにしても良い。また、運転可能となる条件として上述のパラメータ以外を用いても良く、例えば、電源電圧、電源周波数、湿度、気圧等のパラメータを用いて算出するようにしても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 遠心分離機 3 ロータ室 4 チャンバ 4b シールラバー
5 ロータ 6 モータ 6a 回転軸先端部 6c 回転速度検出器
7 温度センサ 8 センサ 9a コンプレッサ 9b 配管
9c 凝縮機 9d 配管 9e 冷却パイプ 9f 配管
10 制御装置 10a マイクロコンピュータ 11 不揮発性メモリ
11a〜11c データテーブル 13 モータ駆動回路
14 コンプレッサ駆動回路 15 バッテリ 16 ドア
17 温度センサ 18、19 冷却ファン 20 表示部
21 画面 21 表示画面 22 タイトル部
23 状態表示部 23a 設定回転数 23b 運転時間
23c 設定温度 24 加減速レート設定部
25 メッセージ表示部 26 特殊機能表示部 27 状態マーク
28 ヘルプキー 28a ダイアログ表示 29 メッセージ
30 操作部 31 カーソルキー 32 テンキー
33 STARTキー 34 STOPキー 35 ROTORキー
36 MENUキー 37 ESCキー 95 データテーブル
96、97 列 98、99 行 121 表示画面
125 メッセージ表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離する試料を保持するロータと、該ロータを収容するロータ室と、前記ロータを回転させる駆動装置と、前記ロータを冷却する冷却装置と、前記駆動装置と前記冷却装置の制御を行う制御装置と、前記制御装置に対して情報を入力するための操作部と、を有する遠心分離機であって、
外気温度を測定する温度測定手段を設け、
前記制御装置は、前記ロータの情報と前記外気温度と前記ロータの回転速度設定値を元に、前記操作部から入力された設定温度で前記冷却装置によって、前記ロータが冷却可能か判断することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ロータ室の温度と前記外気温度と前記ロータの設定回転速度を元に、前記冷却装置による前記ロータの温度制御可能な範囲を算出することを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記遠心分離機は遠心分離運転状況を表示するための表示部を有し、前記ロータが冷却可能で無い場合には前記表示部にエラー情報を表示することを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記エラー情報は、前記遠心分離機の外気温度の変更指示であることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記エラー情報を表示した際には、前記ロータの回転開始を許可しないことを特徴とする請求項3又は4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記制御装置は、前記エラー情報を表示した際には、オペレータからの遠心分離運転開始の確認情報を取得した場合に限り、前記ロータの回転開始を許可することを特徴とする請求項4又は5に記載に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記制御装置は、前記設定温度が算出された温度制御可能な範囲よりも低い場合には、前記設定温度で運転可能となる条件を前記表示部に表示することを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記運転可能となる条件は、外気温度の上限値であることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記運転可能となる条件は、前記ロータの回転数の上限値であることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項10】
前記制御装置は不揮発性メモリを有し、
前記不揮発性メモリに、前記ロータの種類毎の回転速度と外気温度の組合せに対する温度制御可能な範囲の対応表を格納しておき、
前記制御装置は、前記対応表を用いて前記算出を行うことを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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