説明

遠心分離機

【課題】
省エネルギー性を考慮した冷却装置の自動開始制御を行う遠心分離機を提供する。
【解決手段】
試料を保持するためのロータ4と、回転室3と、回転室3を閉鎖するドア6と、モータ5と、回転室3を冷却する冷却装置9と、冷却装置9を温度制御する制御部7と、制御部7に運転条件を入力する入力部10を有する遠心分離機1において、入力部10から遠心分離機1の所定の制御情報が入力された際に冷却装置9を起動させるオートクールモードを設けた。オートクールモードでは遠心分離運転条件、例えば回転速度、運転時間、冷却温度、前記ロータの種類等が設定されたら冷却装置9を自動で起動させる。起動後の所定時間内にロータ4の回転指示がなされない時は冷却装置9を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却装置を有する遠心分離機に関し、特に遠心分離運転の開始を予測して回転室内をあらかじめ冷却するようにした遠心分離機のプレクール制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。遠心分離機で用いられるロータには様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
ロータが空気中で高速回転すると、空気との摩擦熱(風損)によってロータの温度が上昇する。分離する試料によっては、低温を保たなければならないものもあるため、ロータを運転中に冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機が広く用いられている。この遠心分離機は本体に冷却装置(蒸発機、圧縮機、凝縮機、膨張弁で構成される)を有しており、回転室外壁のボウル外周に巻かれている銅パイプに冷媒を流すことによって回転室を冷却し、この冷却によってロータを冷却する。
【0004】
遠心分離機は通常、本体のメインの電源がONの状態で、ドアが閉まっている状態では、操作パネルから入力された設定温度を元に駆動手段の稼働に関係なく冷却装置が運転していたので、メインの電源をONしてドアを閉めたままの状態で運転開始をするまでの間、冷却装置による電力が消費されていた。
【0005】
この電力消費を解消するために、特許文献1のように回転室内の冷却を事前に開始する、いわゆる“プレクール機能(プレクールモード)”を設けた遠心分離機が知られている。この遠心分離機では、操作パネルからあらかじめ[プレクール]を選択しておくと、遠心分離機の回転室のドアが“閉”となった時に、回転室内を所定の温度(遠心分離時の温度よりも高い所定の温度)に温度制御する。この所定の温度は、例えば15℃である。このモードでは、回転室のドアが“閉”となった時に回転室内にロータが装着されているかを検出し、装着されていることを検出すると、回転室内を操作パネルから設定された設定温度まで冷却する制御を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−104830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術のように、遠心分離機の回転室内を事前に冷却するプレクール機能では、回転室内を事前に冷却するため、ロータの回転開始の時から設定された温度に冷却する時間が短くなるという利点がある。ここで回転室のドアを閉じてから運転開始するまでの期間は、操作パネルから設定された温度に自動的に維持するため大きな電力が必要となるが、仮に、ロータを装着してから遠心分離運転開始までの時間が長い場合は、無駄な電力消費が行われるおそれがある。また、プレクール機能により冷却が開始された後に、操作者が試料のセットされていない空のロータをセットしてドアを閉めたような場合は、操作者が運転開始をする意思がないのに設定温度への冷却が自動的に開始されてしまう恐れがある。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的はロータの運転開始前に回転室を自動で冷却開始する遠心分離機を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、省エネルギー性を考慮した冷却装置の自動開始制御を行う遠心分離機を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、冷却装置の起動させる条件の異なる複数の制御モードを有し、使い勝手を良くした遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、遠心分離する試料を保持するためのロータと、ロータを回転させる回転室を画定するボウルと、回転室を閉鎖するドアと、ロータを回転させるモータと、ボウルを冷却する冷却装置と、冷却装置を温度制御する制御部と、制御部に運転条件を入力する入力部を有する遠心分離機において、入力部から遠心分離機の所定の制御情報が入力された際に冷却装置を起動させるオートクールモードを設けた。これにより遠心分離機は、オートクールモードと、ドアが閉鎖された際に冷却装置を起動させるプレクールモードと、遠心分離機本体のメインスイッチがONでドアが閉まっているときに、冷却装置を起動させるノーマルモードの3つのいずれか又はすべてのモードを有するように構成される。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、オートクールモードにおいて制御部は、あらかじめ定められた運転条件の設定操作を検出した時に冷却装置を起動させ、起動後の所定時間内にドアが閉じられない場合には冷却装置の運転を停止させる。また、オートクールモードにおいて制御部は、冷却装置を起動させた後にドアが閉じられてロータの回転開始指示がなされたら、運転条件に従って遠心分離運転を行う。この際に制御部は、制御情報で設定されたロータの冷却温度になるように冷却装置を運転制御する。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部はプレクールモードにおいて、ドアが開放されている際にはロータの冷却温度よりも高い第1の温度に維持されるように冷却装置を制御する。前述した所定の制御情報は、遠心分離運転時のロータの回転速度、前記ロータの運転時間、ロータの冷却温度、又はロータの種類である。尚、冷却装置の起動後にドアが閉じられずに冷却装置の運転を停止させる前には、音による警告、画面表示によるアラーム表示等の警告を発するように構成すると好ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、入力部から遠心分離機の所定の制御情報が入力された際に冷却装置を起動させるオートクールモードを設けたので、遠心分離機の操作者はロータの事前冷却の操作を意識しなくても自動でロータの事前冷却を行うことができ、遠心分離機の設定条件等の通常の入力操作を行うだけで、効率良く冷却装置を起動させることができる。また、オートクールモードではロータの回転開始前に冷却装置を稼働させるようにしたので、ロータ室内を設定温度にまで冷却するのに必要な冷却時間の短縮化を図ることができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、オートクールモードと、プレクールモードと、ノーマルモードの3つのモードを有するように構成したので、操作者の好みに合わせた冷却装置の稼働モードを選択することができ、使い勝手の良い遠心分離機を実現できる。
【0017】
請求項3の発明によれば、回転室内を事前に冷却するために回転室のドアを閉じてから運転開始するまでの期間を所定の温度に温度制御するに維持電力が不必要になり、余分な電力を使う必要がなくなる。また、運転開始準備を予測してから所定の時間内に回転室のドアが閉じられなかった時は温度制御を停止するので、不必要な電力消費を抑制できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、オートクールモードにおいて制御部は、冷却装置を起動させた後にドアが閉じられてロータの回転開始指示がなされたら、運転条件に従って遠心分離運転を行うので余分な電力を使う必要性を大幅に低下させることができる。特に、従来のプレクールモードのように、ロータの装着を検出すると回転室内を操作パネルから設定された温度に温度制御するような維持電力が不必要になる。
【0019】
請求項5の発明によれば、オートクールモードにおいて制御部は、冷却装置を起動させた後に回転室を制御情報で設定された冷却温度になるように冷却装置を制御するので、消費電力を抑えることが可能となる。
【0020】
請求項6の発明によれば、プレクールモードにおいて制御部は、ドアが開放されている際にはロータの設定冷却温度よりも高い第1の温度に維持されるように冷却装置を制御するので、ドア開放による冷気漏れによるエネルギー損失を抑制することができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、所定の制御情報は、ロータの回転速度、冷却温度、又はロータの種類であるので、通常用いられる情報の入力操作によって効率的に冷却装置の稼働を制御することができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、ドアが閉じられないために冷却装置の運転を停止させる前に警告が発せられるので、操作者による操作遅れの注意を促すことができるとともに、無駄なエネルギーの消費を抑えることができる。
【0023】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の操作パネル10に表示される画面11の表示例を示す図である。
【図3】図1の画面11における数値入力状態を示す図である。
【図4】図1の制御装置7中の予測手段と温度制御手段の回路構成図である。
【図5】従来の遠心分離機における冷却装置の制御を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の実施例に係る遠心分離機1における冷却装置9の制御を示すタイムチャートである。
【図7】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機におけるオートクールモードの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施例を説明するための各図面において、同一の機能を有する部材または要素については同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0026】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金などで製作される筐体の内部に金属製の薄板で形成されたボウル2が設けられ、ボウル2とドア6によって回転室3が画定される。ドア6は回転室3の開口部を密閉するもので、筐体の一部に設けられる蝶番(図示せず)を中心軸にして上下方向に回動させることができる。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、モータ5の回転軸5aに装着される。
【0027】
ドア6の側方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル10が配置される。操作パネル10は、遠心分離機に必要な制御情報を入力するための入力部となるものである。本実施例では、いわゆるタッチパネル方式の液晶表示器を用いることにより、操作者に対して必要な情報を表示するための表示部としての機能も果たす。尚、操作パネル10はタッチパネル方式の液晶表示器だけでなく、その他の入出力装置で構成しても良いし、公知の表示装置と公知の入力装置の組み合わせで構成しても良い。
【0028】
回転室3は、上側の開口部がドア6によって密閉可能に構成され、ドア6を開けた状態で回転室3の内部に、ロータ4を装着又は取り外しができる。ロータ4は、遠心分離を行う試料やそれを保持するサンプル容器に合わせて適宜選択され、モータ5の回転軸に装着される。制御装置7は遠心分離機1の全体を制御するもので、操作パネル10から入力される遠心分離運転のための各種情報に従って、モータ5の回転制御、冷却装置9の運転制御等を行う。
【0029】
ロータ4の温度は、回転室3に設置される温度センサ8aにより間接的に測定される。温度センサ8aを設ける位置は種々考えられるが、本実施例ではボウル2の底部に設けられる。また、ドア6の内側であってロータ4の上部付近には、ロータ4の蓋とドア6間の距離を測定する検出する超音波センサ8bが設けられる。超音波センサ8bを用いることによって、回転室3内にロータ4がセットされているか否かを検出することができる。温度センサ8aと超音波センサ8bの出力は制御装置7に入力され、遠心分離機1の全体制御に利用させる。
【0030】
ボウル2はステンレス等の金属合金製であり、その外周には銅パイプが螺旋状に巻かれる。銅パイプ9aは冷却装置9の一部を構成するものであって、冷却装置9に含まれる圧縮機、凝縮機(ともに図示せず)を通って送られる冷媒が銅パイプ9aに供給され、ボウル2の外周部においてボウル2の熱を急激に奪うことによって回転室3の内部を冷却する。このように冷却装置9を稼働させることによって回転室3の内部のロータが設定された設定温度になるように、温度センサ8aの出力を用いて制御装置7により監視され、制御装置7は冷却装置9を制御する。
【0031】
次に図2を用いて操作パネル10に表示される画面11の表示例を説明する。操作パネル10は表示部と入力部が一体となったタッチパネル方式の液晶表示装置であり、画面上の表示エリアを指でタッチ(又は押下)することにより所定の情報を入力することが可能である。操作パネル10の画面11内には、複数の表示領域(12〜15)が設定される。回転速度表示部12はロータの回転速度を表示する領域であり、中央の大きな数字が現在の回転速度を示し、その下の小さな数字で「SET:」以下に表示される数字が、操作者によって設定された設定回転速度を示す。回転速度の単位はrpm又はmin−1である。運転時間表示部13は、遠心分離運転を行う時間を表示する領域であり、中央の大きい文字は現在の運転時間を示し、その下の小さな数字で「SET:」以下に表示される数字が、操作者によって設定された設定回転速度を示す。時間の単位は、min:secである。
【0032】
設定温度表示部14は、ロータ4の設定温度を表示する領域であり、中央の大きい数字は現在の温度センサ8aによる温度測定値を示し、その下の小さな数字で「SET:」以下に表示される数字が、操作者によって設定された設定温度を示す。温度の表示単位は℃であり、図示の状態では回転室3内の温度が13℃であって、設定温度が4℃であることを示す。画面11の下側約半分には各種情報表示領域15が設けられる。各種情報表示領域15には、例えばロータ選択キー16、スタートキー17、ストップキー18が表示される。これらのキー16〜18はアイコン形式で表示され、これらを指でタッチ又は押下することにより所定の動作を開始させることができる。
【0033】
ロータ選択キー16は回転室3内にセットされたロータ4の種類を設定するためのアイコンで、ロータ選択キー16を選択するとロータ選択画面が開き、あらかじめ制御装置7内の記憶手段(図示せず)に格納されているロータに関する情報データベースから、ロータのリストが表示される。操作者はリストの中から装着されたロータ4を選んでエンターキー(図示せず)を押すと装着されたロータ4が制御装置7によって認識される。図2では図示していないが、ロータ4が選択されると各種情報表示領域15にはロータ4の型式が表示される。
【0034】
スタートキー17は遠心分離運転を開始させるためのアイコンであり、スタートキー17がタッチされることによりロータ4が回転を始める。ストップキー18は、ロータの回転を停止させるためのアイコンであり、ストップキー18のタッチでモータ5の回転が停止する。
【0035】
図3は数値入力画面の一例を示す図である。例えば図2の表示状態で、操作者が回転速度表示部12の領域内を指でタッチすることによって選択すると、図3に示すように画面11の下側約半分の部分に数値入力画面19が開く。数値入力画面19は選択された部分の数値を入力するための入力部であり、0〜9の数字を含むテンキー19a、入力途中の数値を削除するためのクリアーキー19b、遠心分離機を連続運転させるためのホールドキー19d、数値入力画面19を閉じるためのクローズキー19cが表示される。また、数値入力画面19の右下には、入力された数値を確定するためのエンターキー20が表示される。例えば操作者が回転速度表示部12の領域内を押すと数値入力画面19が開く。図3の状態では、表示部(12〜15)のいずれかが選択されているかがわからないが、例えば回転速度表示部12が選択されて数値入力画面19が表示されたら、選択されている表示部の部分を白抜きにしたり、色を変えたり、何らかの表示形態を変えるようにして現在どの表示部(12〜15)が入力されているか、一目瞭然になるように構成すると良い。
【0036】
数値入力画面19で、設定回転速度を例えば20000(rpm)と入力する時は、テンキー19aにて、“2”、“0”、“0”、“0”、“0”を順に入力した後にエンターキー20をタッチすることで設定回転速度 “20000”が確定され、数値入力画面19が自動的に閉じられ図2の状態に戻る。本実施例においては、この入力時のエンターキー20をタッチする(選択する)操作で、操作者が遠心分離機1をこれから運転する意思があると予測し、冷却装置9の起動を行う。
【0037】
同様に、運転時間表示部13と設定温度表示部14をタッチして、数値入力画面19のテンキー19aで数値を入力した後にエンターキー20をタッチする操作で、操作者が遠心分離機1をこれから運転する意思があると予測判断することができる。また、また、ロータ選択キー16をタッチして使用するロータを選択後にエンターキー20をタッチする操作で、操作者が遠心分離機1を運転する意思があると予測判断することができる。尚、回転速度表示部12、運転時間表示部13、設定温度表示部14に数値を入力する順番、ロータ選択キー16を選択する順番は任意であり、操作者はどの項目から入力をしても良い。本実施例ではこれらのいずれか最初に選択され、エンターキー20がタッチされたら、操作者が遠心分離機1をこれから運転する意思があると判断して、冷却装置9の起動を行う。
【0038】
このように、表示部(12〜14)とロータ選択キー16の何れかの運転条件の設定操作がされた後に、エンターキー20を選択する操作を検出することで、操作者が遠心分離運転する意思があると予測判断し、オートクールモードにおける冷却装置9に運転開始のトリガとするようにした。
【0039】
次に図4を用いて、本実施例における運転開始を予測する回路について説明する。図4はハードウェアロジックを用いて運転開始を予測する手段を構成したものである。運転開始を予測する手段30は、運転開始準備を予測する手段31と回転室ドア開閉検出手段36とANDゲート38によって構成される。運転開始準備を予測する手段31は、操作パネル10を介して行われる4つの操作を検出する手段、即ち、回転速度設定操作検出手段32、時間設定操作検出手段33、温度設定操作検出手段34、ロータ設定操作検出手段35を有する。
【0040】
回転速度設定に関しては、例えば設定回転速度を20,000(rpm)と入力する時は、テンキー19a(図3参照)にて“2”、“0”、“0”、“0”、“0”と入力後に“エンターキー20を押すことで設定回転速度“20000”が確定する。そのため、回転速度設定操作検出手段32は、設定回転速度の数値入力後のエンターキー20をタッチする操作を検出して、ORゲート37に論理信号“1”を出力する。同様にして、時間設定操作検出手段33、温度設定操作検出手段34においても、テンキー19a(図3参照)で数値を入力し、その後にエンターキー20押す操作を検出することによって、ORゲート37に論理信号“1”を出力する。
【0041】
ロータ設定操作検出手段35の場合は、図2のロータ選択キー16がタッチされた後にリスト表示される複数のロータの中から、操作者が装着された(又は装着される)ロータ4を選択して、確定ボタン(図示せず)をタッチすることにより、ロータ設定操作検出手段35がORゲート37に論理信号“1”を出力する。以上の構成から、回転速度設定操作検出手段32、時間設定操作検出手段33、温度設定操作検出手段34、又は、ロータ設定操作検出手段35の設定操作のいずれかを検出した時に、運転開始準備を予測する手段31の出力41(即ち、ORゲート37の出力)は、論理信号“1”を出力するのでORゲート37の出力が“1”になる。すると、運転開始準備の温度制御手段42が冷却装置9の運転の準備を行う。運転開始準備の温度制御手段42は、運転開始準備の予測信号たる出力41を受けて冷却装置9を稼働させて回転室3内の温度を所定の温度の例えば15℃に制御する運転開始準備の温度制御手段である。
【0042】
一方、運転開始を予測する手段30には、回転室3のドア6の開閉状態を検出する回転室ドア開閉検出手段36が設けられる。回転室ドア開閉検出手段36には、図示しないドア6の開閉状態を検出するセンサの出力が入力され、ドア6が“開”の状態では論理信号“0”を出力し、ドア6が“閉”の状態では論理信号“1”を出力する。
【0043】
運転開始準備の温度制御手段42を開始してから、所定の時間43以内、例えば5分以内、に回転室ドア開閉検出手段36で回転室ドア“閉”を検出しないときは、運転開始準備の温度制御手段42を停止して、不要な消費電力を無くすことができる。このように、運転条件設定操作のいずれかを検出してこれから運転する意思があると予測判断することができるので、遠心分離機の操作者はロータの事前冷却の操作を意識しなくても自動でロータの事前冷却を行うことができる。運転開始の温度制御手段45は、運転開始準備を予測する手段31と回転室ドア開閉検出手段36で回転室ドア“閉”を検出した時、ANDゲート38の出力44が論理信号“1”になるため、これを運転開始の予測信号とすることができる。
【0044】
運転開始の温度制御手段45は、出力44が“1”になったことを受けて、回転室3内にセットされているロータ4の温度を、操作パネル10の表示部の数値入力画面19から入力された設定温度、例えば4℃に維持する制御を開始する。この温度制御を開始してから、所定の時間46、例えば5分以内にスタート信号40からの出力を検出できないときは、運転開始の温度制御手段45を停止させる。このように、オートクールモードにおいては、回転速度設定操作、時間設定操作、温度設定操作、ロータ設定操作の4つの操作のいずれかがなされたかを検出し、これらの操作が検出されたらすぐに冷却装置9の稼働を開始するので、効率よく迅速に回転室3を冷却することができる。また、所定時間が経過しても回転室3のドア6が閉じられないときには、冷却装置9の稼働を停止させるので、不要な消費電力を無くすことができる。
【0045】
次に、本実施例における内容説明について従来技術の回転室3内の事前冷却と予測手段による冷却を、図5および図6のタイムチャートを用いて説明する。図5は従来技術のプレクールモードにて回転室3内の事前冷却状態を示すタイムチャートである。図5において、状態線51に示すように時間T1で回転室3のドア6が“閉”になると、状態線57に示すように冷却装置9の運転が開始されて回転室3を所定の温度、例えば15℃に温度制御を行われる。この15℃での温度制御は、ロータ4を装着するまで継続される。
【0046】
時間T2でロータ4が回転室3に装着されたことが検出されドア6の“閉”を検出すると、制御装置7は回転室3を操作パネル10の設定温度表示部14(図2参照)で設定された温度に温度制御する。従来例におけるノーマルモード(遠心分離機本体のメインスイッチがONでドアが閉まっている場合は、すでに入力設定されている設定温度まで、冷却装置の運転を制御する)では、時間T1でドア6が“閉”になってから操作パネル10のスタートキー17がタッチされ、ロータの回転が開始するまでの時間Taまで、設定温度表示部14で設定された温度に温度制御を継続するので、操作パネル10から設定された温度に制御する維持電力が必要であった。状態線59は、従来技術における事前冷却の回転室3内の表面温度変化を示す。
【0047】
図6は、本実施例におけるオートクールモードにおける回転室3内の事前冷却状態を示すタイムチャートである。本実施例のオートクールモードでは、状態線51で示すように時間T1でドア6が“閉”になっても、状態線57aで示すように冷却装置9は停止したままである。さらに、時間T2で状態線52に示すようにロータ4の装着を検出しても、冷却装置9は状態線57aの通り停止した状態ある。時間T3において、運転開始準備を予測する手段31で操作パネル10の回転速度表示部12の数値キー入力後にエンターキー20を押す操作を検出した時に初めて状態線57aに示すように運転開始の予測信号たる出力44が現れ、運転開始の温度制御手段45によって冷却装置9の運転が開始される。この際の設定温度は、表面温度59aに示すように冷却装置9の回転速度を上げて回転室3を急速冷却して、設定温度表示部14で設定された温度になるようにロータ4の温度制御をする。
【0048】
ここで、冷却装置9の運転を開始してからスタートキー17をタッチして“ON”するまでの時間はTbとなる。従来技術の回転室内の事前冷却における時間Taより短くなり、プレクールの消費電力を小さくすることができる。表面温度59aは、予測手段による冷却した時の回転室3内の表面温度変化を示す。スタートキー17をタッチすると、モータ5を駆動してロータ4を回転駆動する。操作パネル10の表示部の数値入力画面19から入力された所定の回転速度の例えば20,000rpmに制御する。
【0049】
尚、本実施例では運転開始を予測する操作の前に、ドア6が閉じられているため、時間T3にて冷却装置9を設定温度にまで冷却するように操作された。しかしながら、運転開始を予測する操作の時にドアが開かれており、その後にドアを止めてからスタートキー17が押されるという操作手順もある。この場合は、運転開始を予測する操作があった時に図4の運転開始準備の温度制御手段42によって冷却装置9が稼働され、回転室内が15℃くらいの温度に制御される。その後、ドア6が閉じられると図4に示すANDゲート38の信号が“1”になるので、回転室3を設定温度にまで冷却するように冷却装置9が制御される。
【0050】
以上説明したように本実施例によれば、ロータの温度を検出する温度センサと、冷却装置を温度制御する手段を有する遠心分離機において、オートクールモードでは運転条件設定操作のいずれかを検出したとき、且つ、ドア“閉”を検出したときに運転開始を予測して回転室内の冷却を開始するので、遠心分離機の操作者はロータの事前冷却の操作を意識しなくても自動でロータの事前冷却を行うことができる。また、運転開始を予測してから所定の時間内にスタートキーを押下されない時は,温度制御を停止するので不必要な電力消費を抑制できる。
【実施例2】
【0051】
次に図7のフローチャートを用いて、オートクールモード、プレクールモード、ノーマルモードの3つを有する遠心分離機1の制御手順について説明する。このフローチャートは、制御装置7に含まれる図示しないマイクロコンピュータが、コンピュータプログラムを実行することによってソフトウェア制御により実現するものである。
【0052】
遠心分離機1の電源スイッチ(図示せず)がオンになると、制御装置7は第1の実施例で説明した“オートクールモード”がオンになっている(選択されている)かを判定する(ステップ101)。冷却装置9の動作制御モードには、本実施例による“オートクールモード”と、従来の装置で用いられていた“プレクールモード”と、これらのいずれにも該当しない“ノーマルモード”があるが、ステップ101で、“プレクールモード”又は“ノーマルモード”の場合は、従来例による冷却装置9の制御を用いた遠心分離運転を行う(ステップ130)。本実施例とステップ130の制御内容は、直接関係しないのでここでの詳細説明は省略する。
【0053】
ステップ101でオートクールモードと判定された場合は、制御装置7は、操作者が操作パネル10から遠心分離を行う際のロータ4の回転速度を設定(入力)したかを判定し、入力されていたらステップ106に進む(ステップ102)。次に、ステップ102で入力されていない場合は、制御装置7は、操作者が操作パネル10から遠心分離を行う際のロータ4の運転時間を設定(入力)したかを判定し、入力されていたらステップ106に進む(ステップ103)。次に、ステップ103で入力されていない場合は、制御装置7は、操作者が操作パネル10から遠心分離を行う際のロータ4の温度を設定(入力)したかを判定し、入力されていたらステップ106に進む(ステップ104)。次に、ステップ104で入力されていない場合は、制御装置7は、操作者が操作パネル10から遠心分離を行う際のロータ4が設定(選択)されたかを判定し、設定されたらステップ106に進む(ステップ105)。
【0054】
以上のように、ステップ102〜105においては、遠心分離運転時のロータ4の回転速度、運転時間、冷却温度、及び、ロータの種類の情報が操作者によって入力されたか否かを検出している。尚、第2の実施例では運転開始準備の予測を、これらロータ4の回転速度、運転時間、冷却温度、及び、ロータ種類の入力有無によって判定したが、予測に用いるデータ入力や操作はこれだけに限られずに、遠心分離機1の運転前に入力されるその他の情報や、運転前に操作される動作を基準として予測するように構成しても良い。
【0055】
ステップ106では、冷却装置9をオンにして冷却を開始する。この冷却の温度は設定された温度設定値を目標にして制御する。このように、いきなり目標温度にまで冷却装置9の温度制御をするのは、操作者による特定情報の入力により、遠心分離機1を稼働させる蓋然性が非常に高いためである。尚、本フローチャートで、ステップ102、103から分岐してステップ106に移行した場合は、操作者による温度設定が完了していない可能性がある。その場合は、前回の遠心分離運転時の設定温度を用いるか、多く使われる設定温度(例えば4℃)を用いて冷却装置9を運転させるように構成すればよい。
【0056】
次に、制御装置7は冷却装置が稼働してから所定時間内にドア6が閉じられたかを判定する(ステップ107)。所定時間内に閉じられなかった場合は、冷却装置をOFFすることにより回転室3内の温度制御を停止して処理を終了する(ステップ110)。ステップ107でドアが閉じられた場合又はすでに閉じられている場合はステップ108に進み、制御装置7はスタートキー17(図2参照)がタッチされたか否かを判定する(ステップ108)。図7のフローチャートは、遠心分離機の各種条件を取得する制御フローと並列して実行されるため、ステップ106でスタートキーが押されるときには、ロータ4の回転速度、運転時間、冷却温度、及び、ロータ種類の入力有無のすべてが設定されているものである。
【0057】
スタートキー17がタッチされたら、ステップ120に進み設定された遠心分離条件の下で遠心分離運転を行う。ステップ120における遠心分離機1の制御は、従来から用いられる公知の制御と同じであるのでここでの説明は省略する。
【0058】
次にステップ109において、制御装置7はスタートキー17が押されないままに所定時間が経過したかを検出する。ここで、所定時間が経過したということは、遠心分離運転が開始されていないことであるので、冷却装置9の運転を停止して(ステップ110)、図7の制御フローを終了する。以上説明したように、コンピュータプログラムを実行することによってソフトウェア制御により本発明の制御を実現し、第1の実施例と全く同じ効果を奏することができる。この実現に当たっては、新たにコンピュータプログラムを準備する必要があるが、コンピュータプログラムを格納するための記憶容量の増大を除き、新たなハードウェア機器の追加や従来の遠心分離機の改造は不要である。
【0059】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 遠心分離機 2 ボウル 3 回転室
4 ロータ 5 モータ 5a (モータの)回転軸
6 ドア 7 制御装置 8a 温度センサ
8b 超音波センサ 9 冷却装置 9a 銅パイプ
10 操作パネル 11 画面 12 回転速度表示部
13 運転時間表示部 14 設定温度表示部
15 各種情報表示領域 16 ロータ選択キー
17 スタートキー 18 ストップキー 19 数値入力画面
19a テンキー 19b クリアーキー
19c クローズキー 19d ホールドキー 20 エンターキー
30 運転開始を予測する手段 31 運転開始準備を予測する手段
32 回転速度設定操作検出手段 33 時間設定操作検出手段
34 温度設定操作検出手段 35 ロータ設定操作検出手段
36 回転室ドア開閉検出手段 37 ORゲート
38 ANDゲート 40 スタート信号 41 出力
42 運転開始準備の温度制御手段 43 所定の時間
44 出力 45 運転開始の温度制御手段
46 所定の時間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離する試料を保持するためのロータと、
前記ロータを回転させる回転室を画定するボウルと、
前記回転室を閉鎖するドアと、
前記ロータを回転させるモータと、
前記ボウルを冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を温度制御する制御部と、
前記制御部に運転条件を入力する入力部を有する遠心分離機において、
前記入力部から前記遠心分離機の所定の制御情報が入力された際に前記冷却装置を起動させるオートクールモードを設けたことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記遠心分離機は、前記オートクールモードと、前記ドアが閉鎖された際に前記冷却装置で所定の温度に冷却するプレクールモードと、前記ドアが閉鎖されると設定温度まで冷却するノーマルモードの3つのモードを有することを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記オートクールモードにおいて前記制御部は、あらかじめ定められた前記運転条件の設定操作を検出した時に前記冷却装置を起動させ、前記冷却装置の起動後の所定時間内に前記ドアが閉じられない場合には前記冷却装置の運転を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記オートクールモードにおいて前記制御部は、前記冷却装置を起動させた後に前記ドアが閉じられて前記ロータの回転開始指示がなされたら、前記運転条件に従って遠心分離運転を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記オートクールモードにおいて前記制御部は、前記冷却装置を起動させた後に前記回転室を前記制御情報で設定されたロータの冷却温度になるように前記冷却装置を制御することを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記制御部は前記プレクールモードにおいて、前記ドアが開放されている際には前記ロータの冷却温度よりも高い第1の温度に維持されるように前記冷却装置を制御することを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記所定の制御情報は、遠心分離運転時の前記ロータの回転速度、前記ロータの運転時間、前記ロータの冷却温度、又は前記ロータの種類であることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記冷却装置の起動後に前記ドアが閉じられずに前記冷却装置の運転を停止させる前に、警告を発することを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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