遠心機
【課題】 一台の遠心機で各種ロータの操作性を犠牲にすることなく使用できる遠心機を提供する。
【解決手段】 遠心室9内には、弾性回転軸30と、高剛性回転軸34が同軸的に延び、互いにサイズや形状の異なるアングルロータ17とスイングロータ36の中から選択したロータを遠心室9内に装着したとき、自動的に最適の軸に接続される。偏重心傾向の少ないアングルロータ17は、高速回転用の弾性回転軸30に支持されると共に回転される。偏重心傾向の大きいスイングロータ34は、低速回転用の高剛性軸34によりその質量が支持され、弾性回転軸にて回転トルクのみの伝達を受ける。
【解決手段】 遠心室9内には、弾性回転軸30と、高剛性回転軸34が同軸的に延び、互いにサイズや形状の異なるアングルロータ17とスイングロータ36の中から選択したロータを遠心室9内に装着したとき、自動的に最適の軸に接続される。偏重心傾向の少ないアングルロータ17は、高速回転用の弾性回転軸30に支持されると共に回転される。偏重心傾向の大きいスイングロータ34は、低速回転用の高剛性軸34によりその質量が支持され、弾性回転軸にて回転トルクのみの伝達を受ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心機に関し、特に、複数用意されたロータの中から目的にあったロータを選択、交換して、最適な軸にセット可能な遠心機の駆動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遠心機は、電動モータ等の動力発生部で得られる回転トルクを、回転駆動軸を介してロータに伝達し、ロータを回転させる。ロータには試料を封入した試験管が複数本セット可能であり、ロータの回転によって、試験管内の試料の遠心分離が行われる。この種の遠心機に用いられるロータには、アングルロータやスイングロータ等がある。一般的に試験管内の試料の量は採血等の程度により試験管毎に異なっているので、これら互いに質量の異なる試料を封入した複数の試験管がロータにセットされたときには、ロータと試験管との全体の重心は、回転軸心からずれるいわゆる偏重心の傾向があることは否定できない。
【0003】
第10図に示されるように、アングルロータAは、全体として円形をなし、複数個の試験管挿入穴が回転軸心Xに対して所定角度をなして形成されている。アングルロータAは比較的小型であり自重による遠心応力の制約が少ない。また機械加工によって製作されるので高い加工精度が得られ、装着される試験管の本数も少ないので、回転時の偏重心の傾向が少ない。従って多本架冷却遠心機と称される最高回転速度10,000rpm前後の遠心機に使われるアングルロータAは、1度で遠心できる量はそれほど多くないが、高速回転域として例えば6,000rpm〜10,000rpmでの遠心分離に適している。なお高速回転ロータの定義は明確ではないが、高い遠心加速度を必要とする試料の遠心、分離に主に用いられる。
【0004】
一方第11図に示されるように、スイングロータSは、軸心Xから放射状に複数の腕(図示の例では4本)が水平に延び、それぞれの腕の先端が二股状をなして、隣り合う腕の対向する二股部方向にピンが突設されている。そして1対の対向するピンには、有底筒状のバケットが揺動可能に支持される。なお、バケットはピンに対応する係合部が設けられ、係合部はピンに対して離脱可能に設けられる。それぞれのバケット内には複数の試験管穴が形成されたラックが配置され、これら試験管穴に試験管が挿入される。なお遠心分離作業では、全ての腕にバケットが係合されてピンを介して吊り下げられるが、第11図は理解のために2本のバケットは省略している。スイングロータSが遠心機にセットされて所定回転数に達すると、遠心力によりバケットはピンを中心にして水平方向に移動して、試料の成分分離が行われる。
【0005】
スイングロータSはアングルロータAに比べて大型であり、より多い本数の試験管が挿入できる点で有利であるが、挿入本数が多いことは、試験管に充填された試料相互のばらつきの傾向もそれだけ高いことを意味する。またスイングロータは、回転半径が大きく且つ中心部質量が相対的に小さい。更にスイングロータSの腕は複雑な形状をしており、製造コスト低減の目的から鋳造によって製造される場合が多く、この場合寸法精度もアングルロータAに劣る。更にバケットはピンに対し着脱可能であり、バケットの係合部とピンとの間にはガタツキがある。以上のことから、スイングロータSはピンやバケットの係合部に発生する遠心応力が大きくなり、更に質量の割に試料相互のバラツキが大きいことからアングルロータAと比較して偏重心の傾向が著しく高くなり、高速回転には不向きである。そのため多数の試料を対象とする低速回転域、例えば2,000〜5,000rpmでの遠心分離に主に用いられる。
次に遠心機の回転駆動軸について、軸受反力との関係と併せて説明する。低速回転にて大形のロータを使用できるようにする場合には、回転軸の剛性を高めて、曲げの固有振動数を使用域より高速に持たせ、高い剛性による操作性の向上を図っている。具体的に第12図に基づいて説明する。第12図は、ロータR1が高剛性軸S1に同軸的に接続され、高剛性軸S1は、動力発生部たるモータMの出力軸に同軸的に接続されて回転している状態を示す。ここで高剛性軸とは、使用回転数域内において、剛体である軸をいう。このときモータMの出力軸は、軸受Bにて図示せぬモータハウジング等に支持される。ロータR1の質量をm、ロータの不釣合いにより生じる実際の重心位置と幾何中心のずれをε、回転角速度をω、高剛性軸S1の撓みをρ、高剛性軸S1の曲げ剛性をkとすると、「回転体の力学、R.ガッシュ/H.ピュッツナー原著、三輪修三訳、森北出版」から、不釣合いによる遠心力Fsは
Fs=mεω2
で表され、軸受け反力Fuは
Fu×L1=(L1+L2)×Fs から、
Fu={(L1+L2)/L1}×mεω2
となり Fu ∝ω2
の関係となる。
【0006】
一方ロータを高速回転させる場合には、回転駆動軸として弾性軸が用いられる。ここで弾性軸とは、使用回転数域内で曲げなどの弾性変形が生じる軸をいう。弾性軸により回転駆動軸の曲げ剛性を下げ、回転の際に曲げの固有振動数を低速域にあるようにする。即ち、弾性軸は高速側で不釣合いによる反力が小さくなるよう考慮している。具体的に第13図に基づいて説明する。第13図は、ロータR2が弾性軸S2に同軸的に接続され、モータMの出力軸に同軸的に接続されて回転している状態を示す。このときモータMの出力軸は、軸受Bで図示せぬモータハウジング等に支持されている。ロータR2の質量をm、ロータの不釣合いにより生じる実際の重心位置と幾何中心のずれをε、回転角速度をω、弾性軸S2の撓みをρ、弾性軸S2の曲げ剛性をkとすると、不釣合いによる遠心力Fdは
Fd=m(ε+ρ)ω2=ρk
と表され、この式からρは、
ρ=mεω2/(k−mω2)となり、
曲げの固有振動数を√(k/m)=ωnと置くと k=mωn2となるから、
ρ=ε×(ω/ωn)2/{1−(ω/ωn)2}
となる。ここで、ω/ωn=1のとき、すなわち回転速度が軸の曲げの固有振動数と一致した時(共振点)、たわみは無限大となり、固有振動数を通過するとたわみはεに漸近的に近づく。したがって、固有振動数を通過し回転が上昇すると軸受け反力Fu’は
Fu’ ∝εk
の関係となる。
【0007】
以上、高剛性軸と弾性軸の軸受反力の違いを第14図のグラフに示す。このグラフにおいて、縦軸は軸受荷重Fであり、横軸は角速度比である。 高剛性軸は剛性が高い分、扱い勝手が良いが、高速になるにつれて不釣合いによる軸受反力が急増する。一方弾性軸は低速に共振点を有する(1.0の部分)が、共振点を超えれば、高速回転で安定した回転が得られる。なお共振点におけるたわみは外部に減衰機構を設けることにより低く抑えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、高速用ロータと低速大形ロータを一台の遠心機で使用できるようにする場合に、弾性軸を採用すると高速での安定回転は得られるが、軸剛性が低いことから大形ロータを回転軸に装着すると回転軸が大きく撓み易く、場合によっては回転軸を折損してしまう恐れがある。また、容量の大きいロータは上述したように使用者が扱う試料に生じる不釣り合いが大きくなるため、弾性軸で大形のスイングロータを回転させると、回転軸の曲げの一次固有振動数(一次共振点)での振れが大きくなり、回転しているロータが固定部品に接触したり、あるいは回転軸を曲げて折損してしまう恐れがある。以上要約すると、弾性軸を採用すると、高速用アングルロータは使い勝手がよくなるが、低速用スイングロータは扱いが悪いか、搭載不可になる。
【0009】
一方高剛性軸を採用すると、低速スイングロータの扱いは良くなるが、試料の不釣合いに起因する軸受反力が回転速度の2乗で増えて行くため、低速回転域では問題なくても高速回転域では軸受への負荷が大きくなり軸受の短寿命を引き起こしたり回転音が大きくなるといった問題が生じる。そのため、試料の許容不釣合い量を小さく制限せざるを得ず、使用者に試験管内の試料の含有量を均一に調整させるという手間をかけさせ、使い勝手を悪くする要因になる。以上要約すると、高剛性軸を採用すると低速大形ロータは扱いが良くなるが高速ロータは使い勝手が悪いということになる。
【0010】
そこで本発明は上記した欠点に鑑みてなされたもので、一台の遠心機で各種ロータの操作性を犠牲にすることなく使用できる遠心機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的は、遠心機の駆動部に複数の軸を配置し、使用するロータの形状、質量、タイプ、最高回転速度などに応じて適した軸を選択できるようにすることで達成される。
【0012】
即ち本発明は、互いに種類又はサイズの異なる第1ロータと第2ロータを含む少なくとも2個のロータを選択的に搭載して回転させる遠心機であって、遠心機本体と、該本体に収納され、回転トルクを発生する出力軸を備えた回転動力発生部と、前記第1ロータが選択されたとき、該第1ロータと前記出力軸とを動力的に接続し、前記第1ロータに回転トルクを伝達する回転駆動軸と、前記回転駆動軸と近接して配置され、該回転駆動軸とは異なる曲げ剛性を有すると共に、前記第2ロータが選択されたときは、該第2ロータを支持する支持軸を備えたことを特徴とする遠心機を提供している。
【0013】
一の態様として、前記第2ロータが選択されたとき前記支持軸は、前記第2ロータを介して前記回転駆動軸の回転と共に回転可能であることを特徴とする。
【0014】
別の態様として、前記支持軸は前記回転駆動軸と同軸状に配置され、1個又は複数個の軸受により回転可能に支承されていることを特徴とする。
【0015】
更に別の態様として、前記第2ロータが選択されたとき、該ロータは前記支持軸及び前記回転駆動軸の両方に支持されることを特徴とする。
【0016】
更に別の態様として、前記支持軸は固定されていることを特徴とする。
【0017】
更に別の態様として、前記支持軸は互いに曲げ剛性の異なる第1の支持軸と第2の支持軸よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
ロータの種類に応じて最適な軸にロータが支持された状態でロータは回転駆動されるので、上述した諸問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態による遠心機について第1図、第2図に基づき説明する。遠心機1は、上端が開口する箱型の筐体2に、上仕切板3、下仕切板4が水平に固定され、これら仕切板により、筐体は上室5、中室6、下室7に画成されている。筐体2と仕切板3、4とにより本体が構成される。上室5の上端開口部は、蓋8が開閉可能に設けられる。また上室5内には遠心室9を画成するための有底筒状断熱部材10が配置され、断熱部材10の内周面には、遠心室9内を冷却するための冷媒管11が配設されている。断熱部材10の底部には開口10a(第2図)が形成され、上仕切板3にも同様の開口が形成されて、これら開口内の空間に動力発生部たる誘導モータ12のモータハウジング13が挿通配置される。モータハウジング13は、上仕切板3にゴム製のダンパ14を介して懸下支持され、モータハウジング13の大部分は、中室6内に配置される。下室7内には、冷媒管11内で冷媒を循環させるための図示せぬ冷凍機が配設される。
【0020】
第1図において、誘導モータ12の回転子(出力軸)16には、後述する弾性軸30を介してアングルロータ17が接続支持されている。上仕切板3は中室6内に鉛直方向に延びるリブ15を介して下仕切板4にも支持される。従って、誘導モータ12の回転によるアングルロータ17の偏重心による回転負苛は、ダンパ14で吸収され、またアングルロータ17や誘導モータ12の質量は、仕切板3、4及びリブ15により支持される。なお、遠心機全体を移動可能に設置するために、筐体2の底部にはキャスタ18が設けられている。
【0021】
第2図は、ロータを回転駆動するための駆動部20を示す。駆動部20は、上述した誘導モータ12の他に、誘導モータ12のハウジングを兼ねるエンドブラケット21、回転駆動軸としての弾性軸30、支持軸としての高剛性回転軸34、及びクラウン部31を有する。なお上述したように弾性軸とは使用回転数域内において曲げなどの弾性変形が生じる軸をいい、高剛性軸とは使用回転数域内で剛体である軸をいう。エンドブラケット21は、モータハウジング13の一部をなすフランジ部22と、フランジ部22から突設され出力軸16と同軸の中空の軸受支持部23とを有し、軸受支持部23は、モータ側小径部23aと反モータ側大径部23bを有する。フランジ部22が上述のダンパ14に接続されて上仕切板3に支持される。出力軸16は、軸受支持部23内に配置された軸受24と、モータハウジング13の底部内に配置された軸受25とにより回転可能に支承され、出力軸16のスラスト荷重を受ける構成となっている。断熱部材10の底部開口10aは、軸受支持部23の周囲に位置するカバー26で閉鎖され、カバー26の上面はラバー体27で覆われて、ロータの回転による開口10aから遠心室9内への空気の吸い込みを防止している。
【0022】
出力軸16の上端側には同心に弾性軸30の下端が結合され、弾性軸30は軸受支持部23内の空間を上方に延び、その上端側にクラウン部31が固定されている。弾性軸30は曲げの一次固有振動数が低速域(数十から数百rpm)になるよう設計されている。クラウン部31の上端面には、後述するロータ17、36と係合するための一対のピン32が上方に向かって植設されているとともに、下端部には、テーパ部31Aが形成されている。なお一対のピン32は同一円周上にかつ同一直径上からずれた位置(第9図参照)に配置されている。
【0023】
高剛性軸34は、クラウン部31の直下位置において、エンドブラケット21の軸受支持部23の大径部23b内に配置された軸受(ベアリング)33を介して、軸心を中心に回転可能にかつ弾性軸30やエンドブラケット21と同心に支持される。高剛性軸34は、弾性軸30をルーズに挿通させるために、中心部に中空部が形成されると共に、その上部にはテーパ部34Aが形成され、下部は軸受33に嵌合する縮径部をなす。なおテーパ部34Aは第2クラウン部に相当する。
【0024】
第2図の左半分は、高速用アングルロータ17を装着した状態を示す。高速用アングルロータ17は、第9図に示されるような略円形形状をなすが、本実施の形態においてはその中心部カップリング部として、クラウン部31の上端形状、外周面形状並びにテーパ部31Aの形状に倣った凹部17aが形成されている。従って、アングルロータ17は、クラウン部31にのみ接続され、高剛性軸34とは当接や係合をしない離間した位置関係となる。凹部17a内には、アングルロータ17の装着時に下方に向かい、上述したクラウン部31の1対のピン32と同一円周上に配置され互いに180度の位置関係にある図示せぬ1対のピンが突設される。従って、アングルロータ17をクラウン部31上に位置せしめて、クラウン部31上に置くと、弾性軸30の回転によりクラウン部31のピン32がアングルロータ17のピンと当接し、弾性軸30の回転トルクをアングルロータ17に伝達することができる。このとき、クラウン部31の一対のピン32は、180度間隔となっていないので、クラウン部31のピン32の上端にアングルロータのピンの上端が合致して載り上がることが防止できる。
【0025】
第2図の右半分は、低速用スイングロータ36を装着した状態を示す。低速用スイングロータ36は、第11図に示されるような放射状をなし、バケット38が腕部37に図示せぬピンを介して回動可能に支持され、バケット38内には複数の試験管挿入穴が形成されたラック39が固定され、ラック39内には試料を封入した試験管40が挿入される。なお、第2図の状態は、遠心力によりバケット38が水平方向に揺動して試料の遠心分離を行っている状態を示す。本実施の形態のスイングロータ36の腕部37の基部には、クラウン部31の頂部や外周部やテーパ部31Aとは当接しない第1凹部36aと、高剛性軸34のテーパ部34Aと当接するテーパ部が形成された第2凹部36bとが形成されたカップリング部が設けられる。第1凹部36aの頂部には、クラウン部31のピン32と当接可能で上述した図示せぬアングルロータのピンと同様な1対のピン41が下方に向かって突設している。
【0026】
スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみだけの係合接続関係にあり、スイングロータ36はテーパ部34Aに当接して高剛性軸34に裁置される。従って、スイングロータ36をクラウン部31上に位置せしめて、テーパ部34A上に置くと、弾性軸30の回転によりクラウン部31のピン32がスイングロータ36のピン41と当接し、弾性軸30の回転トルクをスイングロータ36に伝達することができる。また、スイングロータ36の質量は、クラウン部31ではなく、高剛性軸34のテーパ部34Aで受けることができる。
【0027】
以上の構成において、高速回転用アングルロータ17を用いた遠心分離を行う場合には、アングルロータ17をクラウン部31上に裁置させるだけで、アングルロータ17はクラウン部31とのみ接続関係が生じる。よってアングルロータ17のスラスト荷重とラジアル荷重は、クラウン部31のテーパ部31Aで受けられ、アングルロータ17は弾性軸30にて回転駆動される。弾性軸30の曲げの一次固有振動数は低速域に設定されており、加速時、この一次固有振動数を通過する際には振動が大きくなるが、外部減衰作用を持つダンパ14により駆動部20が上仕切板3に支持されていることから、この振動は減衰できる。回転数が曲げの一次固有振動数を過ぎれば、自動調心作用により回転中心がアングルロータ17自身の重心位置に近づき、安定した回転が得られる。弾性軸30による回転駆動であるため、各試験管35内の試料のバラツキにより生じる不釣合い力は高剛性軸のように回転速度の2乗で増すことがない。
【0028】
一方、低速回転用スイングロータ36を用いた遠心分離を行う場合には、スイングロータ36をセットしたとき、スイングロータ36は高剛性軸34にのみその質量が支持され、スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみによる接続となる。よって、スイングロータ36のスラスト加重およびラジアル荷重は、高剛性軸34のテーパ部34Aで受けられ、スイングロータ36は軸受33にて回転支承される。即ち弾性軸30の回転によるスイングロータ36の回転が、テーパ部34Aの摩擦力を介してスイングロータ36の質量を支持する高剛性軸34に伝達され、高剛性軸34がエンドブラケット21に対して軸受33を介して回転する。換言すれば、スイングロータ36を回転させる場合は、弾性軸30は単に回転トルクを伝達するだけとなり、高剛性軸34で、スイングロータ36が支持されて高剛性軸34と共に回転することになる。このとき高剛性軸34は、その曲げの一次固有振動数に一致した回転速度となる危険速度未満で回転させるように弾性軸30の最高回転速度で制御すればよい。
【0029】
以上のように、高速用のアングルロータ17は、そのセット時に自動的に弾性軸30を選択するので、高速での不釣合いによる駆動部への影響(軸受加重)を最小限にでき、不釣合い程度の大きい可能性の高い低速用スイングロータ36は、セット時に自動的に高剛性軸34に支持されるので、試料のばらつき量に多大の注意を払うことなく、低速回転での遠心分離を容易に実行することができる。
【0030】
本発明の第2の実施の形態による遠心機について第3図に基づき説明する。なお以下の説明において先行する実施の形態における遠心機と同一の部材は同一の番号を付し、説明を省略する。第1の実施の形態では、高剛性軸34を1個の軸受33で回転支承しているのに対し、第2の実施の形態では高剛性軸134を2個の軸受(ベアリング)133、133で回転支承している。そのために、高剛性軸134の縮径部の軸方向長さを第1の実施の形態と比較してより長くし、同様に、エンドブラケット121の軸受支持部123の大径部123bの軸方向の長さも第1の実施の形態と比較してより長くして、2個の軸受133を収容可能にしている。
【0031】
係る構成によれば、高剛性軸134の回転軸心の倒れをより有効に防止できると共に、軸受133に作用する反力を分散でき、個々の軸受133や軸受24、25(第2図)に作用する荷重が減少してそれらの寿命を延ばす効果が期待できる。
【0032】
本発明の第3の実施の形態による遠心機について第4図に基づき説明する。第3の実施の形態は、上述したスイングロータ36と、このスイングロータ36よりも大型な第2スイングロータ136とを選択的にセット可能とするためのものである。そのため、第1の実施の形態の高剛性軸34に加えて、第2の高剛性軸234が回転可能にかつ高剛性軸34と同軸的にその半径方向外方に設けられている。エンドブラケット221の軸受支持部223の外周面側には段部223Aが形成され、段部223Aに耐荷重が大きい軸受(ベアリング)233が嵌合され、軸受233を介して第2の高剛性軸234が軸受支持部223に対して回転可能に支承される。高剛性軸234の外周面側には、第2スイングロータ136のテーパ面と当接可能なテーパ部234Aが形成されている。なおテーパ部234Aは第3クラウン部に相当する。
【0033】
第1の実施の形態と同様に、スイングロータ36をセットするときは、スイングロータ36は高剛性軸34とのみ嵌合し、スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみによる接続となる。よって、スイングロータ36のスラスト加重およびラジアル荷重はテーパ部34Aで受けられ、スイングロータ36は高剛性軸34を介して軸受33によりエンドブラケット221に回転支承される。
【0034】
一方大型のスイングロータ136をセットするときは、スイングロータ36と同様に、スイングロータ136とクラウン部31とは、ピン32とスイングロータ136の図示せぬピンとのみによる接続となる。そしてスイングロータ136のスラスト加重およびラジアル荷重はテーパ部234Aで受けられ、スイングロータ136は第2の高剛性軸234を介して軸受233によりエンドブラケット221に回転支承される。即ち弾性軸30の回転によるスイングロータ136の回転が、テーパ部234Aの摩擦力を介してスイングロータ136の質量を支持する第2高剛性軸234に伝達され、高剛性軸234がエンドブラケット221に対して回転する。換言すれば、スイングロータ136を回転させる場合は、弾性軸30は単に回転トルクを伝達するだけとなり、第2高剛性軸234でスイングロータ136が支持されて高剛性軸234と共に回転することになる。大形のスイングロータ136は耐荷重が大きい軸受233で支承されているため、軸受233、33、24、25(第2図)の寿命を延ばすことができ、ひいては製品寿命を延ばすことが可能となる。
【0035】
本発明の第4の実施の形態による遠心機について第5図に基づき説明する。本実施の形態では、モータ12の出力軸116の上方突出長さを大きくして、その先端部に弾性回転軸30が同軸的に結合される。更に、出力軸116の先端部外周面に、中空の高剛性回転軸334が同軸的に結合される。高剛性回転軸334の外周面には、スイングロータ36を受けるためのテーパ面334Aが形成されている。
【0036】
以上の構成において、アングルロータ17のセットについては、第1の実施の形態と同様である。スイングロータ36をセットしたときは、スイングロータ36の凹部のテーパ面が高剛性回転軸334のテーパ面334Aに当接する。誘導モータ12の回転トルクは、高剛性回転軸334に直接伝達されるため、テーパ部334Aの摩擦力でスイングロータ36に回転トルクが伝達できる。よって、上述した実施の形態のように、ピン同士の当接によるトルク伝達が不要となる。かかる構造では、回転トルクが大きく、ピンに作用するモーメントが大きい場合や、弾性回転軸30のねじり応力が無視できない場合などに有利である。
【0037】
第6図は、トルク伝達に関する変形例を示している。上述した実施の形態では、弾性回転軸30の回転トルクをピン32、41同士の当接によって達成しているが、変形例では、ピンに代えてネジ42、43が用いられる。ネジ42はアングルロータ117をクラウン部131に接続するためのものであり、ネジ43は、スイングロータ236をクラウン部131に接続するためのものである。アングルロータ117の貫通穴117aは、ネジ42に螺合しておらず、ネジ42に対して移動可能であり、ネジ42はクラウン部131にのみ螺合する。そしてアングルロータ117の質量は、テーパ部131Aで支持される。同様に、スイングロータ236の貫通穴236aは、ネジ43に螺合しておらず、ネジ43に対して移動可能であり、ネジ43はクラウン部131にのみ螺合する。そして上述した実施の形態と同様に、スイングロータ236の質量は、高剛性軸34のテーパ部34Aで支持される。
【0038】
本発明の第5の実施の形態による遠心機について第7図乃至第9図に基づき説明する。上述した実施の形態では高剛性軸34、134、234、334はいずれも回転軸であるが、本実施の形態では支持軸としての高剛性軸を回転不能な固定軸434としている。この固定軸434はエンドブラケット421の軸受支持部がそのまま利用される。固定軸434の上端側外周面は縮径部をなし、2個の軸受(ベアリング)333が縮径部に嵌合される。そして、スイングロータ336のカップリング部337の凹部336bの内周面が、軸受333の外周面と嵌合し、スイングロータ336は軸受333を介して軸受支持部(固定軸)434に回転可能に構成される。
【0039】
第1の実施の形態と同様に、高速回転用アングルロータ17をセットしたときは、アングルロータ17をクラウン部231上に裁置させるだけで、アングルロータ17はクラウン部231とのみ嵌合する。このときクラウン部231の1対のピン32が図示せぬアングルロータの1対のピンと当接する。よってアングルロータ17のスラスト荷重とラジアル荷重は、クラウン部231のテーパ部231Aで受けられ、アングルロータ17はピン同士の当接により弾性軸30にて回転駆動される。なおアングルロータ17は、軸受333とは離間しているので、軸受333が回転することはない。
【0040】
一方、低速回転用スイングロータ336をセットしたときは、スイングロータ336は軸受333を介して軸受支持部434に回転支持されるので、スイングロータ336の半径方向の移動が軸受支持部434により規制される。弾性軸30により回転トルクがスイングロータ336伝達されるが、スイングロータ336の半径方向の移動が規制されるので、結果的に弾性軸30の大きな変形も生じず、折損のおそれがない。
【0041】
換言すれば、スイングロータ336のカップリング部337を軸受333に嵌合させることで、弾性軸30には回転動力を伝達する機能と、スイングロータ336のスラスト荷重支持のみを担わせ、弾性軸30の曲げの一次共振回転数での振幅増大を抑制することができる。更に一次共振回転数以上での運転時には、試料の不釣合いにより偏重心点で回転しようとするが、軸受支持部434が剛性固定軸として働くため、弾性軸30には曲げ応力が殆ど発生しない。なお、軸受333は偏重心による荷重の大半を受けなければならないが、低速用で直径が大きく且つ耐荷重の大きい軸受を選定すれば、寿命的問題をクリアすることができる。 このように、本実施の形態においても、偏重心傾向の低いアングルロータについては、弾性軸30のみが関連して高速回転させ、低速で偏重心の大きくなり易いスイングロータ336については、そのカップリング部337のみを軸受333に嵌合させるようにしたので、軸受333並びに軸受支持部434を剛性軸として利用することができ、低速の偏重心の大きくなり易い大容量のスイングロータ336が運転可能な遠心構成とすることができる。
【0042】
本発明による遠心機は上述した実施の形態に限定されず、請求の範囲に記載された範囲で、種々の変更が可能である。例えば、動力発生部であるモータは誘導モータに限らず、回転トルクが得られるものである限り、直流モータ等の電動モータや、エアタービン、オイルタービン等流体作動モータ等、種々適用可能である。
【0043】
また、いずれの実施の形態においても、適用されるロータは図示されるロータに限定されず、クラウン部又はテーパ部に合致する形状である限り、種々のロータが適用可能である。
【0044】
また、弾性回転軸は実施の形態に限定されず、高剛性軸よりも剛性の低い様々な材質による軸が適用可能である。
【0045】
また、第4の実施の形態において、必要に応じて、エンドブラケット321の軸受支持部323内の凹部の内周面と、高剛性回転軸334の外周面との間に軸受を配置してもよい。また、第4の実施の形態において、弾性軸30を高剛性回転軸としてもよい。
【0046】
また、第6図に示される変形例において、アングルロータ117の貫通穴117aは、ネジ42に螺合しておらず、ネジ42に対して移動可能に設けられているが、クラウン部131の上端に弾性軸30と同軸の雄ネジを突出させ、貫通穴117aを通じてナットで螺合してもよい。
【0047】
また、例えば第1の実施の形態において、クラウン部31の一対のピン32を180度間隔とし、またロータ側の1対のピンも180度間隔としても、全てのピンの先端を鋭角的に形成することにより、クラウン部31のピン32の上端にアングルロータのピンの上端が合致して載り上がるのを防止できる。またクラウン部側のピンとロータ側のピンをそれぞれ一対設けたが、少なくとも1本ずつ設ければよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、複数の試験管に封入された複数の試料をロータにセットする際に、試料の量の大きなばらつきを考慮することなく、遠心分離にかけられるので、遠心機の操作に対する使用者の配慮が少なくて済み、産業上の利用価値は高い。本発明による遠心機は、医学、薬学、農学分野等において、様々な試料の分離、分析に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態による遠心機の全体構造を示す一部断面正面図である。
【図2】第1の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図3】本発明の第2の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図4】本発明の第3の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、右半分には低速用のスイングロータ、左半分には極低速用大型のスイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図5】本発明の第4の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速用スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図6】回転軸の回転トルクをロータに伝達させるための構成を示す変形例である。
【図7】本発明の第5の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速用スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図8】第5の実施の形態において、弾性軸とクラウン部と高剛性軸とスイングロータとの位置関係を示す要部断面図である。
【図9】第5の実施の形態において、クラウン部付近の斜視図である。
【図10】アングルロータを示す斜視図である。
【図11】試験管を装着したバケットがスイングロータの腕に取付けられた状態を示す斜視図である。
【図12】高剛性軸での不釣合いによる軸受反力を説明する図である。
【図13】弾性軸での不釣合いによる軸受反力を説明する図である。
【図14】高剛性軸と弾性軸の軸受反力の違いを示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
2 筐体、 3、4 仕切板、 12 誘導モータ、 16、116 回転子(出力軸)、 17 アングルロータ、 20 駆動部、 21、121、221、321、421 エンドブラケット、 23、123、223 軸受支持部、 223A 段部、 24、25 軸受、 30 弾性軸、 31 クラウン部、 34、134、高剛性軸、234 第2の高剛性軸、334 高剛性回転軸、 34A、234A、334A テーパ部(テーパ面)、 36、136、336 スイングロータ、133、233、333 軸受(ベアリング)、434 固定軸
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心機に関し、特に、複数用意されたロータの中から目的にあったロータを選択、交換して、最適な軸にセット可能な遠心機の駆動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遠心機は、電動モータ等の動力発生部で得られる回転トルクを、回転駆動軸を介してロータに伝達し、ロータを回転させる。ロータには試料を封入した試験管が複数本セット可能であり、ロータの回転によって、試験管内の試料の遠心分離が行われる。この種の遠心機に用いられるロータには、アングルロータやスイングロータ等がある。一般的に試験管内の試料の量は採血等の程度により試験管毎に異なっているので、これら互いに質量の異なる試料を封入した複数の試験管がロータにセットされたときには、ロータと試験管との全体の重心は、回転軸心からずれるいわゆる偏重心の傾向があることは否定できない。
【0003】
第10図に示されるように、アングルロータAは、全体として円形をなし、複数個の試験管挿入穴が回転軸心Xに対して所定角度をなして形成されている。アングルロータAは比較的小型であり自重による遠心応力の制約が少ない。また機械加工によって製作されるので高い加工精度が得られ、装着される試験管の本数も少ないので、回転時の偏重心の傾向が少ない。従って多本架冷却遠心機と称される最高回転速度10,000rpm前後の遠心機に使われるアングルロータAは、1度で遠心できる量はそれほど多くないが、高速回転域として例えば6,000rpm〜10,000rpmでの遠心分離に適している。なお高速回転ロータの定義は明確ではないが、高い遠心加速度を必要とする試料の遠心、分離に主に用いられる。
【0004】
一方第11図に示されるように、スイングロータSは、軸心Xから放射状に複数の腕(図示の例では4本)が水平に延び、それぞれの腕の先端が二股状をなして、隣り合う腕の対向する二股部方向にピンが突設されている。そして1対の対向するピンには、有底筒状のバケットが揺動可能に支持される。なお、バケットはピンに対応する係合部が設けられ、係合部はピンに対して離脱可能に設けられる。それぞれのバケット内には複数の試験管穴が形成されたラックが配置され、これら試験管穴に試験管が挿入される。なお遠心分離作業では、全ての腕にバケットが係合されてピンを介して吊り下げられるが、第11図は理解のために2本のバケットは省略している。スイングロータSが遠心機にセットされて所定回転数に達すると、遠心力によりバケットはピンを中心にして水平方向に移動して、試料の成分分離が行われる。
【0005】
スイングロータSはアングルロータAに比べて大型であり、より多い本数の試験管が挿入できる点で有利であるが、挿入本数が多いことは、試験管に充填された試料相互のばらつきの傾向もそれだけ高いことを意味する。またスイングロータは、回転半径が大きく且つ中心部質量が相対的に小さい。更にスイングロータSの腕は複雑な形状をしており、製造コスト低減の目的から鋳造によって製造される場合が多く、この場合寸法精度もアングルロータAに劣る。更にバケットはピンに対し着脱可能であり、バケットの係合部とピンとの間にはガタツキがある。以上のことから、スイングロータSはピンやバケットの係合部に発生する遠心応力が大きくなり、更に質量の割に試料相互のバラツキが大きいことからアングルロータAと比較して偏重心の傾向が著しく高くなり、高速回転には不向きである。そのため多数の試料を対象とする低速回転域、例えば2,000〜5,000rpmでの遠心分離に主に用いられる。
次に遠心機の回転駆動軸について、軸受反力との関係と併せて説明する。低速回転にて大形のロータを使用できるようにする場合には、回転軸の剛性を高めて、曲げの固有振動数を使用域より高速に持たせ、高い剛性による操作性の向上を図っている。具体的に第12図に基づいて説明する。第12図は、ロータR1が高剛性軸S1に同軸的に接続され、高剛性軸S1は、動力発生部たるモータMの出力軸に同軸的に接続されて回転している状態を示す。ここで高剛性軸とは、使用回転数域内において、剛体である軸をいう。このときモータMの出力軸は、軸受Bにて図示せぬモータハウジング等に支持される。ロータR1の質量をm、ロータの不釣合いにより生じる実際の重心位置と幾何中心のずれをε、回転角速度をω、高剛性軸S1の撓みをρ、高剛性軸S1の曲げ剛性をkとすると、「回転体の力学、R.ガッシュ/H.ピュッツナー原著、三輪修三訳、森北出版」から、不釣合いによる遠心力Fsは
Fs=mεω2
で表され、軸受け反力Fuは
Fu×L1=(L1+L2)×Fs から、
Fu={(L1+L2)/L1}×mεω2
となり Fu ∝ω2
の関係となる。
【0006】
一方ロータを高速回転させる場合には、回転駆動軸として弾性軸が用いられる。ここで弾性軸とは、使用回転数域内で曲げなどの弾性変形が生じる軸をいう。弾性軸により回転駆動軸の曲げ剛性を下げ、回転の際に曲げの固有振動数を低速域にあるようにする。即ち、弾性軸は高速側で不釣合いによる反力が小さくなるよう考慮している。具体的に第13図に基づいて説明する。第13図は、ロータR2が弾性軸S2に同軸的に接続され、モータMの出力軸に同軸的に接続されて回転している状態を示す。このときモータMの出力軸は、軸受Bで図示せぬモータハウジング等に支持されている。ロータR2の質量をm、ロータの不釣合いにより生じる実際の重心位置と幾何中心のずれをε、回転角速度をω、弾性軸S2の撓みをρ、弾性軸S2の曲げ剛性をkとすると、不釣合いによる遠心力Fdは
Fd=m(ε+ρ)ω2=ρk
と表され、この式からρは、
ρ=mεω2/(k−mω2)となり、
曲げの固有振動数を√(k/m)=ωnと置くと k=mωn2となるから、
ρ=ε×(ω/ωn)2/{1−(ω/ωn)2}
となる。ここで、ω/ωn=1のとき、すなわち回転速度が軸の曲げの固有振動数と一致した時(共振点)、たわみは無限大となり、固有振動数を通過するとたわみはεに漸近的に近づく。したがって、固有振動数を通過し回転が上昇すると軸受け反力Fu’は
Fu’ ∝εk
の関係となる。
【0007】
以上、高剛性軸と弾性軸の軸受反力の違いを第14図のグラフに示す。このグラフにおいて、縦軸は軸受荷重Fであり、横軸は角速度比である。 高剛性軸は剛性が高い分、扱い勝手が良いが、高速になるにつれて不釣合いによる軸受反力が急増する。一方弾性軸は低速に共振点を有する(1.0の部分)が、共振点を超えれば、高速回転で安定した回転が得られる。なお共振点におけるたわみは外部に減衰機構を設けることにより低く抑えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、高速用ロータと低速大形ロータを一台の遠心機で使用できるようにする場合に、弾性軸を採用すると高速での安定回転は得られるが、軸剛性が低いことから大形ロータを回転軸に装着すると回転軸が大きく撓み易く、場合によっては回転軸を折損してしまう恐れがある。また、容量の大きいロータは上述したように使用者が扱う試料に生じる不釣り合いが大きくなるため、弾性軸で大形のスイングロータを回転させると、回転軸の曲げの一次固有振動数(一次共振点)での振れが大きくなり、回転しているロータが固定部品に接触したり、あるいは回転軸を曲げて折損してしまう恐れがある。以上要約すると、弾性軸を採用すると、高速用アングルロータは使い勝手がよくなるが、低速用スイングロータは扱いが悪いか、搭載不可になる。
【0009】
一方高剛性軸を採用すると、低速スイングロータの扱いは良くなるが、試料の不釣合いに起因する軸受反力が回転速度の2乗で増えて行くため、低速回転域では問題なくても高速回転域では軸受への負荷が大きくなり軸受の短寿命を引き起こしたり回転音が大きくなるといった問題が生じる。そのため、試料の許容不釣合い量を小さく制限せざるを得ず、使用者に試験管内の試料の含有量を均一に調整させるという手間をかけさせ、使い勝手を悪くする要因になる。以上要約すると、高剛性軸を採用すると低速大形ロータは扱いが良くなるが高速ロータは使い勝手が悪いということになる。
【0010】
そこで本発明は上記した欠点に鑑みてなされたもので、一台の遠心機で各種ロータの操作性を犠牲にすることなく使用できる遠心機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的は、遠心機の駆動部に複数の軸を配置し、使用するロータの形状、質量、タイプ、最高回転速度などに応じて適した軸を選択できるようにすることで達成される。
【0012】
即ち本発明は、互いに種類又はサイズの異なる第1ロータと第2ロータを含む少なくとも2個のロータを選択的に搭載して回転させる遠心機であって、遠心機本体と、該本体に収納され、回転トルクを発生する出力軸を備えた回転動力発生部と、前記第1ロータが選択されたとき、該第1ロータと前記出力軸とを動力的に接続し、前記第1ロータに回転トルクを伝達する回転駆動軸と、前記回転駆動軸と近接して配置され、該回転駆動軸とは異なる曲げ剛性を有すると共に、前記第2ロータが選択されたときは、該第2ロータを支持する支持軸を備えたことを特徴とする遠心機を提供している。
【0013】
一の態様として、前記第2ロータが選択されたとき前記支持軸は、前記第2ロータを介して前記回転駆動軸の回転と共に回転可能であることを特徴とする。
【0014】
別の態様として、前記支持軸は前記回転駆動軸と同軸状に配置され、1個又は複数個の軸受により回転可能に支承されていることを特徴とする。
【0015】
更に別の態様として、前記第2ロータが選択されたとき、該ロータは前記支持軸及び前記回転駆動軸の両方に支持されることを特徴とする。
【0016】
更に別の態様として、前記支持軸は固定されていることを特徴とする。
【0017】
更に別の態様として、前記支持軸は互いに曲げ剛性の異なる第1の支持軸と第2の支持軸よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
ロータの種類に応じて最適な軸にロータが支持された状態でロータは回転駆動されるので、上述した諸問題を解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態による遠心機について第1図、第2図に基づき説明する。遠心機1は、上端が開口する箱型の筐体2に、上仕切板3、下仕切板4が水平に固定され、これら仕切板により、筐体は上室5、中室6、下室7に画成されている。筐体2と仕切板3、4とにより本体が構成される。上室5の上端開口部は、蓋8が開閉可能に設けられる。また上室5内には遠心室9を画成するための有底筒状断熱部材10が配置され、断熱部材10の内周面には、遠心室9内を冷却するための冷媒管11が配設されている。断熱部材10の底部には開口10a(第2図)が形成され、上仕切板3にも同様の開口が形成されて、これら開口内の空間に動力発生部たる誘導モータ12のモータハウジング13が挿通配置される。モータハウジング13は、上仕切板3にゴム製のダンパ14を介して懸下支持され、モータハウジング13の大部分は、中室6内に配置される。下室7内には、冷媒管11内で冷媒を循環させるための図示せぬ冷凍機が配設される。
【0020】
第1図において、誘導モータ12の回転子(出力軸)16には、後述する弾性軸30を介してアングルロータ17が接続支持されている。上仕切板3は中室6内に鉛直方向に延びるリブ15を介して下仕切板4にも支持される。従って、誘導モータ12の回転によるアングルロータ17の偏重心による回転負苛は、ダンパ14で吸収され、またアングルロータ17や誘導モータ12の質量は、仕切板3、4及びリブ15により支持される。なお、遠心機全体を移動可能に設置するために、筐体2の底部にはキャスタ18が設けられている。
【0021】
第2図は、ロータを回転駆動するための駆動部20を示す。駆動部20は、上述した誘導モータ12の他に、誘導モータ12のハウジングを兼ねるエンドブラケット21、回転駆動軸としての弾性軸30、支持軸としての高剛性回転軸34、及びクラウン部31を有する。なお上述したように弾性軸とは使用回転数域内において曲げなどの弾性変形が生じる軸をいい、高剛性軸とは使用回転数域内で剛体である軸をいう。エンドブラケット21は、モータハウジング13の一部をなすフランジ部22と、フランジ部22から突設され出力軸16と同軸の中空の軸受支持部23とを有し、軸受支持部23は、モータ側小径部23aと反モータ側大径部23bを有する。フランジ部22が上述のダンパ14に接続されて上仕切板3に支持される。出力軸16は、軸受支持部23内に配置された軸受24と、モータハウジング13の底部内に配置された軸受25とにより回転可能に支承され、出力軸16のスラスト荷重を受ける構成となっている。断熱部材10の底部開口10aは、軸受支持部23の周囲に位置するカバー26で閉鎖され、カバー26の上面はラバー体27で覆われて、ロータの回転による開口10aから遠心室9内への空気の吸い込みを防止している。
【0022】
出力軸16の上端側には同心に弾性軸30の下端が結合され、弾性軸30は軸受支持部23内の空間を上方に延び、その上端側にクラウン部31が固定されている。弾性軸30は曲げの一次固有振動数が低速域(数十から数百rpm)になるよう設計されている。クラウン部31の上端面には、後述するロータ17、36と係合するための一対のピン32が上方に向かって植設されているとともに、下端部には、テーパ部31Aが形成されている。なお一対のピン32は同一円周上にかつ同一直径上からずれた位置(第9図参照)に配置されている。
【0023】
高剛性軸34は、クラウン部31の直下位置において、エンドブラケット21の軸受支持部23の大径部23b内に配置された軸受(ベアリング)33を介して、軸心を中心に回転可能にかつ弾性軸30やエンドブラケット21と同心に支持される。高剛性軸34は、弾性軸30をルーズに挿通させるために、中心部に中空部が形成されると共に、その上部にはテーパ部34Aが形成され、下部は軸受33に嵌合する縮径部をなす。なおテーパ部34Aは第2クラウン部に相当する。
【0024】
第2図の左半分は、高速用アングルロータ17を装着した状態を示す。高速用アングルロータ17は、第9図に示されるような略円形形状をなすが、本実施の形態においてはその中心部カップリング部として、クラウン部31の上端形状、外周面形状並びにテーパ部31Aの形状に倣った凹部17aが形成されている。従って、アングルロータ17は、クラウン部31にのみ接続され、高剛性軸34とは当接や係合をしない離間した位置関係となる。凹部17a内には、アングルロータ17の装着時に下方に向かい、上述したクラウン部31の1対のピン32と同一円周上に配置され互いに180度の位置関係にある図示せぬ1対のピンが突設される。従って、アングルロータ17をクラウン部31上に位置せしめて、クラウン部31上に置くと、弾性軸30の回転によりクラウン部31のピン32がアングルロータ17のピンと当接し、弾性軸30の回転トルクをアングルロータ17に伝達することができる。このとき、クラウン部31の一対のピン32は、180度間隔となっていないので、クラウン部31のピン32の上端にアングルロータのピンの上端が合致して載り上がることが防止できる。
【0025】
第2図の右半分は、低速用スイングロータ36を装着した状態を示す。低速用スイングロータ36は、第11図に示されるような放射状をなし、バケット38が腕部37に図示せぬピンを介して回動可能に支持され、バケット38内には複数の試験管挿入穴が形成されたラック39が固定され、ラック39内には試料を封入した試験管40が挿入される。なお、第2図の状態は、遠心力によりバケット38が水平方向に揺動して試料の遠心分離を行っている状態を示す。本実施の形態のスイングロータ36の腕部37の基部には、クラウン部31の頂部や外周部やテーパ部31Aとは当接しない第1凹部36aと、高剛性軸34のテーパ部34Aと当接するテーパ部が形成された第2凹部36bとが形成されたカップリング部が設けられる。第1凹部36aの頂部には、クラウン部31のピン32と当接可能で上述した図示せぬアングルロータのピンと同様な1対のピン41が下方に向かって突設している。
【0026】
スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみだけの係合接続関係にあり、スイングロータ36はテーパ部34Aに当接して高剛性軸34に裁置される。従って、スイングロータ36をクラウン部31上に位置せしめて、テーパ部34A上に置くと、弾性軸30の回転によりクラウン部31のピン32がスイングロータ36のピン41と当接し、弾性軸30の回転トルクをスイングロータ36に伝達することができる。また、スイングロータ36の質量は、クラウン部31ではなく、高剛性軸34のテーパ部34Aで受けることができる。
【0027】
以上の構成において、高速回転用アングルロータ17を用いた遠心分離を行う場合には、アングルロータ17をクラウン部31上に裁置させるだけで、アングルロータ17はクラウン部31とのみ接続関係が生じる。よってアングルロータ17のスラスト荷重とラジアル荷重は、クラウン部31のテーパ部31Aで受けられ、アングルロータ17は弾性軸30にて回転駆動される。弾性軸30の曲げの一次固有振動数は低速域に設定されており、加速時、この一次固有振動数を通過する際には振動が大きくなるが、外部減衰作用を持つダンパ14により駆動部20が上仕切板3に支持されていることから、この振動は減衰できる。回転数が曲げの一次固有振動数を過ぎれば、自動調心作用により回転中心がアングルロータ17自身の重心位置に近づき、安定した回転が得られる。弾性軸30による回転駆動であるため、各試験管35内の試料のバラツキにより生じる不釣合い力は高剛性軸のように回転速度の2乗で増すことがない。
【0028】
一方、低速回転用スイングロータ36を用いた遠心分離を行う場合には、スイングロータ36をセットしたとき、スイングロータ36は高剛性軸34にのみその質量が支持され、スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみによる接続となる。よって、スイングロータ36のスラスト加重およびラジアル荷重は、高剛性軸34のテーパ部34Aで受けられ、スイングロータ36は軸受33にて回転支承される。即ち弾性軸30の回転によるスイングロータ36の回転が、テーパ部34Aの摩擦力を介してスイングロータ36の質量を支持する高剛性軸34に伝達され、高剛性軸34がエンドブラケット21に対して軸受33を介して回転する。換言すれば、スイングロータ36を回転させる場合は、弾性軸30は単に回転トルクを伝達するだけとなり、高剛性軸34で、スイングロータ36が支持されて高剛性軸34と共に回転することになる。このとき高剛性軸34は、その曲げの一次固有振動数に一致した回転速度となる危険速度未満で回転させるように弾性軸30の最高回転速度で制御すればよい。
【0029】
以上のように、高速用のアングルロータ17は、そのセット時に自動的に弾性軸30を選択するので、高速での不釣合いによる駆動部への影響(軸受加重)を最小限にでき、不釣合い程度の大きい可能性の高い低速用スイングロータ36は、セット時に自動的に高剛性軸34に支持されるので、試料のばらつき量に多大の注意を払うことなく、低速回転での遠心分離を容易に実行することができる。
【0030】
本発明の第2の実施の形態による遠心機について第3図に基づき説明する。なお以下の説明において先行する実施の形態における遠心機と同一の部材は同一の番号を付し、説明を省略する。第1の実施の形態では、高剛性軸34を1個の軸受33で回転支承しているのに対し、第2の実施の形態では高剛性軸134を2個の軸受(ベアリング)133、133で回転支承している。そのために、高剛性軸134の縮径部の軸方向長さを第1の実施の形態と比較してより長くし、同様に、エンドブラケット121の軸受支持部123の大径部123bの軸方向の長さも第1の実施の形態と比較してより長くして、2個の軸受133を収容可能にしている。
【0031】
係る構成によれば、高剛性軸134の回転軸心の倒れをより有効に防止できると共に、軸受133に作用する反力を分散でき、個々の軸受133や軸受24、25(第2図)に作用する荷重が減少してそれらの寿命を延ばす効果が期待できる。
【0032】
本発明の第3の実施の形態による遠心機について第4図に基づき説明する。第3の実施の形態は、上述したスイングロータ36と、このスイングロータ36よりも大型な第2スイングロータ136とを選択的にセット可能とするためのものである。そのため、第1の実施の形態の高剛性軸34に加えて、第2の高剛性軸234が回転可能にかつ高剛性軸34と同軸的にその半径方向外方に設けられている。エンドブラケット221の軸受支持部223の外周面側には段部223Aが形成され、段部223Aに耐荷重が大きい軸受(ベアリング)233が嵌合され、軸受233を介して第2の高剛性軸234が軸受支持部223に対して回転可能に支承される。高剛性軸234の外周面側には、第2スイングロータ136のテーパ面と当接可能なテーパ部234Aが形成されている。なおテーパ部234Aは第3クラウン部に相当する。
【0033】
第1の実施の形態と同様に、スイングロータ36をセットするときは、スイングロータ36は高剛性軸34とのみ嵌合し、スイングロータ36とクラウン部31とは、ピン32とピン41とのみによる接続となる。よって、スイングロータ36のスラスト加重およびラジアル荷重はテーパ部34Aで受けられ、スイングロータ36は高剛性軸34を介して軸受33によりエンドブラケット221に回転支承される。
【0034】
一方大型のスイングロータ136をセットするときは、スイングロータ36と同様に、スイングロータ136とクラウン部31とは、ピン32とスイングロータ136の図示せぬピンとのみによる接続となる。そしてスイングロータ136のスラスト加重およびラジアル荷重はテーパ部234Aで受けられ、スイングロータ136は第2の高剛性軸234を介して軸受233によりエンドブラケット221に回転支承される。即ち弾性軸30の回転によるスイングロータ136の回転が、テーパ部234Aの摩擦力を介してスイングロータ136の質量を支持する第2高剛性軸234に伝達され、高剛性軸234がエンドブラケット221に対して回転する。換言すれば、スイングロータ136を回転させる場合は、弾性軸30は単に回転トルクを伝達するだけとなり、第2高剛性軸234でスイングロータ136が支持されて高剛性軸234と共に回転することになる。大形のスイングロータ136は耐荷重が大きい軸受233で支承されているため、軸受233、33、24、25(第2図)の寿命を延ばすことができ、ひいては製品寿命を延ばすことが可能となる。
【0035】
本発明の第4の実施の形態による遠心機について第5図に基づき説明する。本実施の形態では、モータ12の出力軸116の上方突出長さを大きくして、その先端部に弾性回転軸30が同軸的に結合される。更に、出力軸116の先端部外周面に、中空の高剛性回転軸334が同軸的に結合される。高剛性回転軸334の外周面には、スイングロータ36を受けるためのテーパ面334Aが形成されている。
【0036】
以上の構成において、アングルロータ17のセットについては、第1の実施の形態と同様である。スイングロータ36をセットしたときは、スイングロータ36の凹部のテーパ面が高剛性回転軸334のテーパ面334Aに当接する。誘導モータ12の回転トルクは、高剛性回転軸334に直接伝達されるため、テーパ部334Aの摩擦力でスイングロータ36に回転トルクが伝達できる。よって、上述した実施の形態のように、ピン同士の当接によるトルク伝達が不要となる。かかる構造では、回転トルクが大きく、ピンに作用するモーメントが大きい場合や、弾性回転軸30のねじり応力が無視できない場合などに有利である。
【0037】
第6図は、トルク伝達に関する変形例を示している。上述した実施の形態では、弾性回転軸30の回転トルクをピン32、41同士の当接によって達成しているが、変形例では、ピンに代えてネジ42、43が用いられる。ネジ42はアングルロータ117をクラウン部131に接続するためのものであり、ネジ43は、スイングロータ236をクラウン部131に接続するためのものである。アングルロータ117の貫通穴117aは、ネジ42に螺合しておらず、ネジ42に対して移動可能であり、ネジ42はクラウン部131にのみ螺合する。そしてアングルロータ117の質量は、テーパ部131Aで支持される。同様に、スイングロータ236の貫通穴236aは、ネジ43に螺合しておらず、ネジ43に対して移動可能であり、ネジ43はクラウン部131にのみ螺合する。そして上述した実施の形態と同様に、スイングロータ236の質量は、高剛性軸34のテーパ部34Aで支持される。
【0038】
本発明の第5の実施の形態による遠心機について第7図乃至第9図に基づき説明する。上述した実施の形態では高剛性軸34、134、234、334はいずれも回転軸であるが、本実施の形態では支持軸としての高剛性軸を回転不能な固定軸434としている。この固定軸434はエンドブラケット421の軸受支持部がそのまま利用される。固定軸434の上端側外周面は縮径部をなし、2個の軸受(ベアリング)333が縮径部に嵌合される。そして、スイングロータ336のカップリング部337の凹部336bの内周面が、軸受333の外周面と嵌合し、スイングロータ336は軸受333を介して軸受支持部(固定軸)434に回転可能に構成される。
【0039】
第1の実施の形態と同様に、高速回転用アングルロータ17をセットしたときは、アングルロータ17をクラウン部231上に裁置させるだけで、アングルロータ17はクラウン部231とのみ嵌合する。このときクラウン部231の1対のピン32が図示せぬアングルロータの1対のピンと当接する。よってアングルロータ17のスラスト荷重とラジアル荷重は、クラウン部231のテーパ部231Aで受けられ、アングルロータ17はピン同士の当接により弾性軸30にて回転駆動される。なおアングルロータ17は、軸受333とは離間しているので、軸受333が回転することはない。
【0040】
一方、低速回転用スイングロータ336をセットしたときは、スイングロータ336は軸受333を介して軸受支持部434に回転支持されるので、スイングロータ336の半径方向の移動が軸受支持部434により規制される。弾性軸30により回転トルクがスイングロータ336伝達されるが、スイングロータ336の半径方向の移動が規制されるので、結果的に弾性軸30の大きな変形も生じず、折損のおそれがない。
【0041】
換言すれば、スイングロータ336のカップリング部337を軸受333に嵌合させることで、弾性軸30には回転動力を伝達する機能と、スイングロータ336のスラスト荷重支持のみを担わせ、弾性軸30の曲げの一次共振回転数での振幅増大を抑制することができる。更に一次共振回転数以上での運転時には、試料の不釣合いにより偏重心点で回転しようとするが、軸受支持部434が剛性固定軸として働くため、弾性軸30には曲げ応力が殆ど発生しない。なお、軸受333は偏重心による荷重の大半を受けなければならないが、低速用で直径が大きく且つ耐荷重の大きい軸受を選定すれば、寿命的問題をクリアすることができる。 このように、本実施の形態においても、偏重心傾向の低いアングルロータについては、弾性軸30のみが関連して高速回転させ、低速で偏重心の大きくなり易いスイングロータ336については、そのカップリング部337のみを軸受333に嵌合させるようにしたので、軸受333並びに軸受支持部434を剛性軸として利用することができ、低速の偏重心の大きくなり易い大容量のスイングロータ336が運転可能な遠心構成とすることができる。
【0042】
本発明による遠心機は上述した実施の形態に限定されず、請求の範囲に記載された範囲で、種々の変更が可能である。例えば、動力発生部であるモータは誘導モータに限らず、回転トルクが得られるものである限り、直流モータ等の電動モータや、エアタービン、オイルタービン等流体作動モータ等、種々適用可能である。
【0043】
また、いずれの実施の形態においても、適用されるロータは図示されるロータに限定されず、クラウン部又はテーパ部に合致する形状である限り、種々のロータが適用可能である。
【0044】
また、弾性回転軸は実施の形態に限定されず、高剛性軸よりも剛性の低い様々な材質による軸が適用可能である。
【0045】
また、第4の実施の形態において、必要に応じて、エンドブラケット321の軸受支持部323内の凹部の内周面と、高剛性回転軸334の外周面との間に軸受を配置してもよい。また、第4の実施の形態において、弾性軸30を高剛性回転軸としてもよい。
【0046】
また、第6図に示される変形例において、アングルロータ117の貫通穴117aは、ネジ42に螺合しておらず、ネジ42に対して移動可能に設けられているが、クラウン部131の上端に弾性軸30と同軸の雄ネジを突出させ、貫通穴117aを通じてナットで螺合してもよい。
【0047】
また、例えば第1の実施の形態において、クラウン部31の一対のピン32を180度間隔とし、またロータ側の1対のピンも180度間隔としても、全てのピンの先端を鋭角的に形成することにより、クラウン部31のピン32の上端にアングルロータのピンの上端が合致して載り上がるのを防止できる。またクラウン部側のピンとロータ側のピンをそれぞれ一対設けたが、少なくとも1本ずつ設ければよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、複数の試験管に封入された複数の試料をロータにセットする際に、試料の量の大きなばらつきを考慮することなく、遠心分離にかけられるので、遠心機の操作に対する使用者の配慮が少なくて済み、産業上の利用価値は高い。本発明による遠心機は、医学、薬学、農学分野等において、様々な試料の分離、分析に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態による遠心機の全体構造を示す一部断面正面図である。
【図2】第1の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図3】本発明の第2の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図4】本発明の第3の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、右半分には低速用のスイングロータ、左半分には極低速用大型のスイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図5】本発明の第4の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速用スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図6】回転軸の回転トルクをロータに伝達させるための構成を示す変形例である。
【図7】本発明の第5の実施の形態による遠心機の要部を示す断面図であり、左半分には高速用アングルロータ、右半分には低速用スイングロータがそれぞれ装着され回転駆動されている状態を示す。
【図8】第5の実施の形態において、弾性軸とクラウン部と高剛性軸とスイングロータとの位置関係を示す要部断面図である。
【図9】第5の実施の形態において、クラウン部付近の斜視図である。
【図10】アングルロータを示す斜視図である。
【図11】試験管を装着したバケットがスイングロータの腕に取付けられた状態を示す斜視図である。
【図12】高剛性軸での不釣合いによる軸受反力を説明する図である。
【図13】弾性軸での不釣合いによる軸受反力を説明する図である。
【図14】高剛性軸と弾性軸の軸受反力の違いを示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
2 筐体、 3、4 仕切板、 12 誘導モータ、 16、116 回転子(出力軸)、 17 アングルロータ、 20 駆動部、 21、121、221、321、421 エンドブラケット、 23、123、223 軸受支持部、 223A 段部、 24、25 軸受、 30 弾性軸、 31 クラウン部、 34、134、高剛性軸、234 第2の高剛性軸、334 高剛性回転軸、 34A、234A、334A テーパ部(テーパ面)、 36、136、336 スイングロータ、133、233、333 軸受(ベアリング)、434 固定軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに種類又はサイズの異なる第1ロータと第2ロータを含む少なくとも2個のロータを選択的に搭載して回転させる遠心機であって、
遠心機本体と、
該本体に収納され、回転トルクを発生する出力軸を備えた回転動力発生部と、
前記第1ロータが選択されたとき、該第1ロータと前記出力軸とを動力的に接続し、前記第1ロータに回転トルクを伝達する回転駆動軸と、
前記回転駆動軸と近接して配置され、該回転駆動軸とは異なる曲げ剛性を有すると共に、前記第2ロータが選択されたときは、該第2ロータを支持する支持軸を備えたことを特徴とする遠心機。
【請求項2】
請求項1において、前記第2ロータが選択されたとき前記支持軸は、前記第2ロータを介して前記回転駆動軸の回転と共に回転可能であることを特徴とする遠心機。
【請求項3】
請求項1において、前記支持軸は前記回転駆動軸と同軸状に配置され、1個又は複数個の軸受により回転可能に支承されていることを特徴とする遠心機。
【請求項4】
請求項1において、前記第2ロータが選択されたとき、該ロータは前記支持軸及び前記回転駆動軸の両方に支持されることを特徴とする遠心機。
【請求項5】
請求項1において、前記支持軸は固定されていることを特徴とする遠心機。
【請求項6】
請求項1において、前記支持軸は互いに曲げ剛性の異なる第1の支持軸と第2の支持軸よりなることを特徴とする遠心機。
【請求項1】
互いに種類又はサイズの異なる第1ロータと第2ロータを含む少なくとも2個のロータを選択的に搭載して回転させる遠心機であって、
遠心機本体と、
該本体に収納され、回転トルクを発生する出力軸を備えた回転動力発生部と、
前記第1ロータが選択されたとき、該第1ロータと前記出力軸とを動力的に接続し、前記第1ロータに回転トルクを伝達する回転駆動軸と、
前記回転駆動軸と近接して配置され、該回転駆動軸とは異なる曲げ剛性を有すると共に、前記第2ロータが選択されたときは、該第2ロータを支持する支持軸を備えたことを特徴とする遠心機。
【請求項2】
請求項1において、前記第2ロータが選択されたとき前記支持軸は、前記第2ロータを介して前記回転駆動軸の回転と共に回転可能であることを特徴とする遠心機。
【請求項3】
請求項1において、前記支持軸は前記回転駆動軸と同軸状に配置され、1個又は複数個の軸受により回転可能に支承されていることを特徴とする遠心機。
【請求項4】
請求項1において、前記第2ロータが選択されたとき、該ロータは前記支持軸及び前記回転駆動軸の両方に支持されることを特徴とする遠心機。
【請求項5】
請求項1において、前記支持軸は固定されていることを特徴とする遠心機。
【請求項6】
請求項1において、前記支持軸は互いに曲げ剛性の異なる第1の支持軸と第2の支持軸よりなることを特徴とする遠心機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−229716(P2007−229716A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145290(P2007−145290)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【分割の表示】特願2002−583095(P2002−583095)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【分割の表示】特願2002−583095(P2002−583095)の分割
【原出願日】平成14年4月19日(2002.4.19)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】
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