説明

遠心機

【課題】本発明の目的は、機器管理に必要なモータの積算運転時間(積算使用時間)を自動的に表示する遠心機を提供することにある。
【解決手段】遠心機100にモータ2の積算動作時間を積算時間記憶部12に記憶しておき、遠心機100の電源スイッチ8をオンした時、所定時間、積算時間記憶部12に記憶したモータ2の積算動作時間を自動的に表示するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離する試料を保持し、モータによって回転駆動されるロータを有する遠心機に関し、特に、遠心機を保守管理するための情報として必要なモータまたはロータの積算動作時間を容易に知るための表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病院の検査室や医薬品製造、食品製造の検査室で使用される遠心機は、一般に、ロータの回転速度が3,000回転から20,000回転のものが多く使用されている。この種の遠心機では、高速回転もしくは超高速回転の高機能遠心機に対して比較的取扱が安易となるように製作され、分離する各種の試料に対応して使用者が回転速度、運転時間(遠心時間)等の遠心分離する運転条件を容易に設定できるように製作されている。このため、例えば1年に1度程度、定期的に遠心機の回転速度や運転時間等の動作が正常であるか否かについて点検を行い、機器管理を実施している。機器管理は、遠心機を一定の使用時間ごとに点検することによって、遠心機が正常な状態であるか否かを確認し、遠心機の保守を行うものである。
【0003】
機器管理のために、従来、遠心機のロータを回転駆動するモータに、遠心機とは別個に製作された通電時間計(hourメータ)を実装して、モータの積算運転時間(遠心機の積算使用時間)を積算し、表示していた。また、高機能遠心機では、下記特許文献1に開示されているように、遠心機の一回の運転毎に運転時間等の運転実績データを個々に記憶部に格納しておき、機器管理に必要な時に、遠心機の通常の運転操作とは異なる予めプログラムされた操作手順を特別に実行することにより積算運転時間を表示していた。
【0004】
【特許文献1】特開2005−152749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機器管理のために、使用者(ユーザ)が遠心機にモータの通電時間計を追加で実装することは特別な補修費用が必要となり、また、実装した通電時間計自体が故障した場合、通電時間を積算することができなくなるという問題がある。一方、上記高機能遠心機のように、遠心機の運転毎に記憶したモータの積算運転時間を、使用者が必要な時に、遠心機の通常の運転手順とは異なる表示手順の操作によって積算運転時間を表示することは、遠心機の取扱説明書等で操作方法を逐次確認しながら、モータの積算運転時間を表示しなければならないという煩雑さがあった。
【0006】
従って、本発明の目的は、簡単な操作でモータまたはロータの積算運転時間(積算使用時間)を表示することが可能な遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次のとおりである。
【0008】
本発明の一つの特徴によれば、遠心分離する試料を保持するためのロータと、ロータを回転駆動するためのモータと、前記モータを駆動するためのモータ駆動手段と、前記ロータまたは前記モータの回転速度および運転時間を設定し表示する入力部および表示部と、前記モータまたは前記ロータの回転を検出する回転検出手段と、記憶部および演算制御部を具備し、前記入力部の設定信号および前記回転検出手段の回転検出信号を受けて、前記モータ駆動手段および前記表示部を制御する制御回路装置と、前記入力部、前記表示部および前記制御回路装置に供給する電源をオンまたはオフするための電源スイッチと、を具備する遠心機において、前記制御回路装置は、前記モータまたは前記ロータが回転している動作時間をカウントするカウント手段と、前記モータまたは前記ロータを動作させる度に前記動作時間を積算し記憶する積算記憶領域とを有し、前記電源スイッチをオンにした時に一定時間、前記積算記憶領域に記憶した前記モータまたは前記ロータの前記積算動作時間を、前記表示部に表示する。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、前記モータまたは前記ロータの前記積算動作時間の表示は、前記表示部の前記モータの回転速度および運転時間を表示する表示部を兼用する。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明に従えば、モータ等の積算使用時間を、安価にかつ簡単に表示することができる遠心機を提供することができる。
【0011】
本発明の上記および他の目的、ならびに上記および他の特徴は、以下の本明細書の記述および添付図面よりさらに明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る遠心機の機能ブロック図、図2は図1に示す遠心機の表示部の構成図と積算運転時間の表示例、図3は図1に示す遠心機において表示部の表示制御を行うためのフローチャート、図4は図1に示す遠心機において積算運転時間の記憶制御を行うためのフローチャートをそれぞれ示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の遠心機100は、金属材料のボウル等を含む隔壁部材10aおよびドア9によって区画されたロータ室10の中にモータ2の回転出力軸2aを有し、遠心分離する試料を保持するロータ1がモータ回転出力軸2aに着脱自在に装着され、ロータ1はモータ2によって回転駆動される。
【0015】
モータ2は、例えば、3相ブラシレス直流モータから成る。ブラシレス直流モータ2は、インナーロータ型で、図示されていないが、マグネットロータと、マグネットロータの回転位置を検出するための回転位置検出素子(ホール素子)と、スター結線されたステータコイル(界磁コイル)とを含んでいる。ロータ1またはモータ2の回転数は、ホール素子等から成る磁気センサを有する回転検出器3によって回転数信号として検出される。
【0016】
ロータ1は、例えばアングルロータから成る。このロータ1としては、分離する試料に応じてスイングロータを使用することもできる。
【0017】
制御回路装置4は、CPUから成る演算制御部5と、制御プログラムおよびデータを記憶するためのROM、RAM等を含む記憶部6と、後述するタイマー1乃至タイマー3(図示なし)を含むタイマー部13と、モータ駆動部11とを回路機能として含み、さらに、記憶部6のバッテリバックアップのためのバッテリ(直流電源)7を設け、遠心機100の全体の電源をオフした際に記憶部のデータを保持させる。本発明に従う積算運転時間は、後述するように、記憶部6の積算時間記憶部12へバッテリ7によるバッテリバックアップにより記憶保持される。
【0018】
操作パネル部20は制御回路装置4に結合される。操作パネル部20は、表示部20aと、入力部(操作スイッチ部)20bとから構成される。
【0019】
表示部20aは、ロータ1またはモータ2の回転速度を表示するための回転速度表示部(例えば、7セグメントLED表示パネル)21と、ロータ1またはモータ2の運転時間を表示するための運転時間表示部(例えば、7セグメントLED表示パネル)22とを有する。
【0020】
操作スイッチ部20bは、ロータ1またはモータ2の回転速度の入力を指示するための回転速度入力スイッチ23と、ロータ1またはモータ2の運転時間の入力を指示するための運転時間入力スイッチ24と、それらの回転速度または運転時間の所望入力データ(数値)を指示するためのテンキー25とを有する。ロータ1またはモータ2の回転速度を入力する場合、最初に回転速度入力スイッチ23を押し、次にテンキー25で所望する回転速度を入力し設定する。設定した回転速度は、図2の(b)に示すように、表示部20aの回転速度表示部21に表示される。同様に、ロータ1またはモータ2の運転時間(実施例の場合、定速度回転させたい時間)を入力する場合、運転時間入力スイッチ24を押し、次にテンキー25で所望する運転時間を入力し設定すれば、設定した運転時間は、図2の(b)に示すように、表示部20aの運転時間表示部22に表示される。
【0021】
さらに、操作スイッチ部20bには、モータ2(またはロータ1)を設定した回転速度および設定時間に従って回転を開始するように制御回路装置4に指示するためのスタートスイッチ26が設けられている。逆に、モータ2の回転の停止を指示するためにストップスイッチ27が設けられている。このストップスイッチ27は、運転時間の上記設定時間範囲内の任意の時にモータ2の回転を停止させたい場合、または運転時間(運転停止時間)を手動で管理したい場合に使用される。
【0022】
電源スイッチ8は、モータ駆動回路11の直流電源に必要な電力や制御回路装置4および操作パネル部20の直流電源に必要な電力等、遠心機全体に必要な電力を供給するための商用電源をオンまたはオフするためのスイッチで、電源スイッチ8を介して、図示されていない商用電源(例えば、100V、50Hz)に電気的接続される。
【0023】
次に、遠心機100の動作について説明する。遠心分離する試料を保持するロータ1をモータ2に取り付けて、操作スイッチ部20bにより、ロータ1の遠心分離の条件である、回転速度および運転時間分離条件をそれぞれ入力する。
【0024】
ロータ1の回転速度の入力は、上述したように、回転速度入力スイッチ23を押し、テンキー25で所望の回転速度を入力し設定する。ロータ1の運転時間も同様に、運転時間入力スイッチ24を押し、所望の運転時間を入力し設定する。
【0025】
次に、スタートスイッチ26を押すと、制御回路装置4は、モータ2の回転を開始させて上述したように予め設定した運転条件(回転速度と運転時間)に従って、モータ2の回転を制御し、ロータ1に保持された試料の遠心分離を行うことができる。
【0026】
この場合、モータ2の回転速度は、回転数検出器3で検出され、演算制御部5を介して回転数表示器21に表示される。制御回路装置4の制御に従って、モータ2の回転が開始されると、タイマー部13のタイマー1(図示なし)が積算運転時間のカウントを開始する。モータ2の回転速度が、加速期間を経過して所定の回転速度(設定回転速度)に到達すると、タイマー部13のタイマー2(図示なし)が設定した運転時間のカウントを開始し、運転時間表示器22に表示する。回転速度と運転時間の表示例は、図2の(b)に示したとおりである。設定した運転時間が終了すれば上記タイマー2がカウントを終了し、次いで、モータ2の回転動作を停止すれば、タイマー1がカウント(積算運転時間)を終了する。
【0027】
本発明に従って、演算制御部5は、タイマー部13の上記タイマー1によってカウントしたモータ2の積算動作時間(積算使用時間)を積算時間記憶部12に記憶(保存)する。図4は、積算動作時間を記憶するための制御手順に係るフローチャートである。
【0028】
図4に示すように、ステップ110で操作スイッチ部20bのスタートスイッチ26が押されると、モータ2の回転動作が開始されるので、ステップ111に進み、上記設定運転時間(定速度時間)のカウンタ(タイマー2によるカウンタ)とは別に、上記タイマー1によってモータ2の運転時間のカウントを開始する。
【0029】
次に、ステップ112において、モータ2の加速時間、上記設定時間(モータ2の定速度時間)、およびモータ2の減速時間が経過してモータ2の回転が停止したか否かを判断する。
【0030】
ステップ112でモータ2が停止したら、ステップ113で、タイマー1によるモータ2の運転時間のカウントを終了する。この運転時間は、運転時間入力スイッチ24による設定時間(定速度時間)を経過して停止するまでの運転時間であり、もしストップスイッチ27が押された場合は、ストップスイッチ27の投入によってモータ2の回転が停止するまでの時間である。
【0031】
さらにステップ114の処理に進み、今回カウントしたモータ2の積算動作時間(積算使用時間)を、記憶部6の積算時間記憶部12に前回までに記憶されていたモータ2の積算動作時間に加算し、更新したモータ2の積算動作時間を再度記憶部6の積算時間記憶部12に保存して終了する。
【0032】
さらに次の試料の遠心分離を行うために、再び遠心機100を運転したときは、同様に、図4に示すフローチャートに従ってモータ2の回転開始から回転停止までの動作時間を上記タイマー1によってカウントし、記憶部6の積算時間記憶部12に保存してある値にさらに加算(積算)して保存する。これによりモータ2の積算動作時間を記憶部6の積算時間記憶部12に常に更新して保存することができる。遠心機100の使用時間は、モータ2の回転開始から回転停止までの動作時間であり、上記モータ2の積算動作時間は遠心機100の積算使用時間として表すこともできる。
【0033】
なお、使用者が遠心機100の使用を終了して電源スイッチ8をオフしても、記憶部6の積算時間記憶部12にはバッテリ7が電気的接続されているので、記憶部6の積算時間記憶部12にはモータ2の積算動作時間(数値データ)を保持できる。また、積算時間記憶部12には、EEPROMのような不揮発性メモリを使用することもできる。不揮発性メモリを使用する場合は、バッテリ7の給電を不要にすることができる。
【0034】
本発明に従えば、積算時間記憶部12に保存されたモータ2の積算運転時間は、遠心機100の電源スイッチ8の投入と同時に自動的に表示させる。これによって、機器管理のために必要なモータ2の積算運転時間の表示および確認を容易にできる。次に、モータ2の積算運転時間の表示制御について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0035】
制御回路装置4は、遠心機100の電源スイッチ8をオンすると、ステップ101においてタイマー部13のタイマー3(5秒タイマー)を所定の時間(例えば、5秒)にセットする。このタイマー3の所定時間(5秒)は、積算運転時間の表示時間となる。
【0036】
同時に、ステップ102およびステップ103において、積算時間記憶部12に保存したモータ2の積算動作時間を表示部20aに表示する。この表示形式は、特に限定されないが、表示例として、図2の(a)に示すように、表示部20aの回転速度表示部21および運転時間表示部22の表示パネルを使用する。すなわち、図2の(a)に示すように、ステップ102では回転速度表示部21にモータ2の積算動作時間の数値を表示し、ステップ103では運転時間表示部22には積算動作時間の単位「hr」を表示する。
【0037】
回転速度表示部21に積算動作時間を表示し、かつ運転時間表示部22に単位「hr」を表示した後、次のステップ104において、5秒タイマーが5秒経過したか否かを判断する。5秒を経過している場合(YESの場合)、ステップ105へ進み、回転速度表示部21には遠心分離に必要なモータ2の回転速度を表示し、かつ、ステップ106へ進み、運転時間表示部22に遠心分離に必要なモータ2の運転時間を表示する。これによって、図2の(b)に示すように、表示部20aの表示を通常の遠心機100の表示に自動的に切り換える。
【0038】
以上の表示切り換え制御により、モータ2の積算動作時間(または遠心機100の積算使用時間)を、必ず電源スイッチ8を投入した時でかつ遠心機100を使用する前に、表示させることができる。従って、機器管理のためのデータを、煩雑な操作手順を実行することなく、簡単に表示することができ、保守点検のためのデータを容易に得ることができる。また、比較的簡単な制御手順によって表示できるので、安価な遠心機を提供できる。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心機の機能ブロック図。
【図2】図1に示す遠心機の表示部の構成図。
【図3】図1に示す遠心機において表示部の表示制御に係るフローチャート。
【図4】図1に示す遠心機において積算運転時間の記憶制御に係るフローチャート。
【符号の説明】
【0041】
1:ロータ 2:モータ 2a:モータの回転出力軸 3:回転検出器
4:制御回路装置 5:演算制御部 6:記憶部 7:バッテリ
8:電源スイッチ 9:ドア 10:ロータ室 10a:仕切り部材
11:モータ駆動回路 12:積算時間記憶部 13:タイマー部
20:操作パネル部 20a:表示部 20b:入力部(操作スイッチ部)
21:回転速度表示部 22:運転時間表示部 23:回転速度入力スイッチ
24:運転時間入力スイッチ 25:テンキー 26:スタートスイッチ
27:ストップスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離する試料を保持するためのロータと、ロータを回転駆動するためのモータと、前記モータを駆動するためのモータ駆動手段と、前記ロータまたは前記モータの回転速度および運転時間を設定し表示する入力部および表示部と、前記モータまたは前記ロータの回転を検出する回転検出手段と、記憶部および演算制御部を具備し、前記入力部の設定信号および前記回転検出手段の回転検出信号を受けて、前記モータ駆動手段および前記表示部を制御する制御回路装置と、前記入力部、前記表示部および前記制御回路装置に供給する電源をオンまたはオフするための電源スイッチと、を具備する遠心機において、
前記制御回路装置は、前記モータまたは前記ロータが回転している動作時間をカウントするカウント手段と、前記モータまたは前記ロータを動作させる度に前記動作時間を積算し記憶する積算記憶領域とを有し、
前記電源スイッチをオンにした時に一定時間、前記積算記憶領域に記憶した前記モータまたは前記ロータの前記積算動作時間を、前記表示部に表示することを特徴とする遠心機。
【請求項2】
前記モータまたは前記ロータの前記積算動作時間の表示は、前記表示部の前記モータの回転速度および運転時間を表示する表示部を兼用することを特徴とする請求項1に記載された遠心機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−161794(P2008−161794A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353552(P2006−353552)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】