説明

遠心血液ポンプ

【課題】 遠心血液ポンプにおける血液適合性を高めるとともに、血栓形成と溶血反応の発生が少ない遠心血液ポンプを提供すること。
【解決手段】 吸入口13aと、吐出口と、凹形状部の支持部2とを有するハウジング10と、該ハウジング10内に収納されて、ポンプ羽根31と、底面には磁性手段37と前記支持部2に対応する被支持部6を有するとともに、該被支持部6が前記支持部2に支持されて軸線廻りに回転されるインペラ30と、該インペラ30に前記磁性手段37を介して回転力を伝達する駆動手段40とを備えた遠心血液ポンプ1であって、被支持部6が、焼成カーボンからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、補助循環などに用いられる血液を送り出す遠心血液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、開心術体外循環や補助循環などにおける血液循環ポンプには、ハウジングに設けられた吸入口からハウジング内に血液を吸入し、インペラに設けられたポンプ羽根が回転することによって血液に遠心力を付与し吐出口から吐出する遠心型の遠心血液ポンプが広く使用されている。
インペラには磁石等の磁性手段が埋め込まれ、ハウジング外に設けられた駆動手段が磁気回転部を回転させると、磁性手段が磁気回転部の磁力により吸引されてインペラが回転するようになっている。
【0003】
近年、ハウジング内に吸入された血液の流れが滞ることにより発生する血栓形成を抑制するとともに、ボール又は球面の一部で構成されたインペラの回転軸部がハウジング内で軸受と摺動することにより血液損傷が発生し、溶血するのを抑制するために、インペラを一箇所だけで支持するピボット支持方式の遠心血液ポンプが考案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−144070号公報(第3頁−第7頁、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のピボット支持方式の遠心血液ポンプによっても、ハウジング内に吸入された血液の滞りによる血栓形成、及び血液損傷に起因する溶血の防止は完全とはいえず、さらに、これらを低減することが期待されている。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、遠心血液ポンプにおける血液適合性を高めるとともに、血栓形成と溶血が少ない遠心血液ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、請求項1に記載の遠心血液ポンプは、吸入口と、吐出口と、凹形状又は凸形状の支持部とを有するハウジングと、該ハウジング内に収納されて、ポンプ羽根と、底面側には磁性手段と前記支持部の凹形状又は凸形状に対応して凸形状又は凹形状とされた被支持部を有するとともに、該被支持部が前記支持部に支持されて軸線廻りに回転されるインペラと、該インペラに前記磁性手段を介して回転力を伝達する駆動手段とを備えた遠心血液ポンプであって、前記支持部又は前記被支持部のいずれかが、焼成カーボンからなることを特徴とする。
【0007】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、支持部又は被支持部を構成する凸形状部又は凹形状部のいずれかが、焼成カーボンにより構成されているため、高い精度のものを容易に製作することができ、表面を鏡面仕上げしておくことによって、回転に際しての摺動摩擦を小さくすることができ、また、硬度が高いため、取り扱いや遠心血液ポンプ運転時において傷付きや変形が発生し難く、長期間に亘ってスムースな回転を維持することができる。
また、焼成カーボンであるため、血液適合性が高く、熱伝導率が20W/m・K〜70W/m・Kと、従来使用しているセラミックスの10W/m・Kより良好であるため、回転摺動による熱の発生がある遠心血液ポンプにおいて、回転接触部で発生した熱が回転軸から効率的に放熱され、接触部の温度が上昇しないため、血栓形成と溶血が抑制される。
【0008】
請求項2に係る発明は、吸入口と、吐出口と、凹形状又は凸形状の支持部とを有するハウジングと、該ハウジング内に収納されて、ポンプ羽根と、底面側には磁性手段と前記支持部の凹形状又は凸形状に対応して凸形状又は凹形状とされた被支持部を有するとともに、該被支持部が前記支持部に支持されて軸線廻りに回転されるインペラと、該インペラに前記磁性手段を介して回転力を伝達する駆動手段とを備えた遠心血液ポンプであって、前記支持部又は前記被支持部のいずれかが、ポリオレフィン系樹脂等の摩擦が小さい樹脂からなることを特徴とする。
【0009】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、支持部又は被支持部を構成する凸形状部又は凹形状部のいずれかが、ポリオレフィン系樹脂等の摩擦が小さい樹脂により構成されているため高い精度のものを容易に製作することができ、回転に際しての摺動摩擦を小さくして、長期間に亘ってスムースな回転を維持することができる。また、柔軟性があるため、血栓形成と溶血が抑制される。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の遠心血液ポンプであって、請求項1又は請求項2に記載の遠心血液ポンプであって、前記支持部又は前記被支持部のうち、前記焼成カーボン又は前記ポリオレフィン系樹脂により形成されたものと対応する前記支持部又は前記被支持部が、ポリエチレンで形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、請求項1又は請求項2にて焼成カーボン又はポリオレフィン系樹脂により形成された支持部又は被支持部に対応する側の被支持部又は支持部が、ポリエチレンにより形成されているので、高い精度のものを容易に製作することができ、また、ポリエチレンは摺動摩擦が小さいため、長期間に亘ってスムースな回転を維持することができる。
また、柔軟性があるため、回転摺動時の血液に対して大きな圧力がかかるのが抑制され、その結果、血栓形成と溶血が抑制される。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の遠心血液ポンプであって、前記支持部又は被支持部の一方に形成された凸形状部は、前記支持部と前記被支持部とのいずれかが当接する接触部の径方向外方の面が基端側に後退し、前記支持部又は被支持部の他方に形成された凹形状部は、前記接触部の径方向外方の面が接触部よりも前記凸形状部側に形成され、前記支持部と前記被支持部の接触面積は1×10−4mm2以上1.0mm2以下と充分小さくされ、またその間には、接触部の周囲にわずかな間隙が形成されることを特徴とする。
【0013】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、インペラの被支持部とハウジングに設けられた支持部のいずれか一方を構成する凸形状部は、接触部の径方向外方に位置する周囲の面が基端側に後退して形成され、他方に構成された凹形状部は、接触部の径方向外方の面が接触部よりも凸形状部側に形成され、支持部と被支持部の接触面積は1×10−4mm2以上1.0mm2以下と充分小さくされるので、点接触に近く摺動摩擦が非常に小さいのに加え、且つ支持部又は被支持部のポリオレフィン系樹脂との間には、接触部の周囲にわずかな間隙が形成されるので、インペラが低回転で不安定な首振り状態から安定した高回転時まで常に接触部の面積が充分少なく、その周囲にわずかな間隔が形成されるので、温度上昇が少なく血栓形成と溶血が抑制される。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の遠心血液ポンプであって、前記凸形状部と、前記凹形状部とは、ともに球面の一部から構成されており、
かつ前記凹形状部を構成する球面は、前記凸形状部を構成する球面より、曲率半径が1%以上10%以下の範囲で大きいことを特徴とする。
【0015】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、支持部及び被支持部を構成する凸形状部と、凹形状部とがともに球面の一部から構成されているため、インペラの回転方向及び軸線の傾斜に関して安定した回転が得られる。また、球面の一部であるため、寸法が明確に定義でき、製作及び設計においてコントロールしやすい。
【0016】
この発明に係る遠心血液ポンプによれば、凹形状部を構成する球面は、凸形状部を構成する球面より、曲率半径が1%以上大きいので、支持部と被支持部が当接する際の接触面積が小さく、被支持部の回転摺動による血栓形成と溶血が抑制される。
また、凹形状部を構成する球面の曲率半径が、凸形状部の曲率半径より10%以下の範囲で大きいので、被支持部が支持部に対して安定して保持されるので、インペラの回転が損なわれることなく安定した回転が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る遠心血液ポンプによれば、吸入された血液がインペラの周囲において滞りなく流れ、インペラの回転軸部における血液の血栓形成と溶血が極力抑えられるとともに、構成部品の血液適合性を向上させたため、血栓形成と溶血が少なく、容易かつ低コストの遠心血液ポンプが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1、図2に示すのは、本発明に係る遠心血液ポンプを示す図であって、符号1は遠心血液ポンプを、符号30はインペラを、符号10はハウジングを、符号40は駆動手段を、示している。
【0019】
ハウジング10は、ハウジング本体12と、吸入管13と、吸入口13aと、吐出管14と、吐出口14aと、ハウジング本体12の内周面とインペラ30が回転したときにできる回転体の外周面との間に略円環状に形成される流路16とを備えている。
吸入管13は、ハウジング10内部の空間に連通しハウジング10の一方の端面中央から端面に直角に設けられ、その先端には吸入口13aが開口し、吐出管14は、流路16の接線方向に延在して設けられ、先端に吐出口14aが開口している。
【0020】
ハウジング本体12は、吸気口側の第1の部材12aと駆動手段40側の第2の部材12bとから構成され、第1の部材12aと、第2の部材12bとは液密に接合されている。また、第2の部材12bは、駆動手段40側に第1の大径凹部18が形成され、第1の大径凹部18には、磁性手段37を介してインペラ30を回転させる磁気回転部48が配置されている。
【0021】
第2の部材12bは、インペラ30に面する内側面中央に軸受(支持部)2を備えており、軸受2は、図3に示すようなインペラ30側の面が凹形状とされた凹形状部3を備えている。
軸受2は、回転摺動に対する摩擦を小さくし、耐磨耗性、血液適合性の観点からポリエチレンにより製作され、表面は滑らかに形成されていることが好ましい。また、凹形状部3は、回転軸と接触する接触部の周辺の面が、接触部8よりもインペラ30側に位置するように形成されており、好適には軸線から径方向外方に向かうにしたがい緩やかに浅くなる凹形状であることが好ましく、さらには、凹形状部3は、所定の半径R(1.5mmから5.0mm)を有する球面の一部から構成されていることが好ましい。
また、ハウジング10は、気泡除去完了を目視により確認でき内壁に血液の溜まりを生じさせないために、透明で表面が滑らかな部材を用いることが望ましい。
【0022】
インペラ30は、ハウジング10の内部に収納され、血液に遠心力を付与する複数のポンプ羽根31と、羽根基台32とを備えており、ポンプ羽根31は羽根基台32の吸入口13a側の面に配置されるとともに、羽根基台32の底面側には回転軸(被支持部)6が設けられている。また、ポンプ羽根31は、略放射状の中心を若干ずらした状態で配置されている。
【0023】
羽根基台32は、外周部に内部に円環部34を備えており、円環部34は、蓋35によって液密に密閉され内部に周方向に適宜間隔をおいて複数の磁性手段37(例えば、磁石6個と磁性体リングの組合せ)を備えるとともに、円環部34の径方向内方には駆動手段40側に開口した第2の大径凹部33が形成されている。磁性手段37は、後述する磁気回転部48によって吸引可能な材質からなり、永久磁石が用いられている。
回転軸6の周囲には、ウォッシュアウトホール38が設けられ、回転軸部6近傍の血液の滞留を防止し、血栓形成と溶血を極力抑えるようになっている。
【0024】
また、回転軸6は、図1、図3に示すように、半径Rが1.485mmから4.5mmの焼成カーボンで構成されたボール9が、インペラの底面に設けられた凹部に圧入され、先端側が凸形状とされた凸形状部7を構成している。凸形状部7は、ボール9によって形成された球面の一部(略半分)であるため、凸形状部7は接触部8の周辺に、径方向外方に向かうにしたがい接触部8よりも基端側に位置するように形成されている。
【0025】
また、凹形状部3の曲率半径Rと、凸形状部7の曲率半径Rは、
凹形状部3の曲率半径R> 凸形状部7の曲率半径R の関係があることが好ましく、凹形状部3の曲率半径Rが、凸形状部7の曲率半径Rより、1%以上10%以下の範囲で大きいことが、より好適である。
また、接触面積は1×10−4mm2以上1.0mm2以下と充分小さくなるように設定されている。
【0026】
駆動手段40は、筐体42と、モータ44と、モータ44の駆動軸45の軸線廻りに回転する円形の基盤46とを備えており、モータ44は筐体42の内部に設けられるとともに、モータ44の駆動軸45には基盤46が取り付けられ、筐体42の筐体凸部43内部に収納されている。
駆動手段40は、ハウジング10の第2の部材12aの内側面に設けられた凹部18に、筐体42の筐体凸部43を挿入して、インペラ30の回転軸6と基盤46の回転の軸線が同心になるように積層されている。
【0027】
基盤46は、モータ44の駆動軸45に固定され、中央にインペラ30側に突出する基盤凸部47が形成され、基盤凸部47のインペラ30側の面に磁気回転部48が周方向に適宜間隔をおいて複数固定されている。磁気回転部48が固定された基盤凸部47が、筐体42を介してハウジング底部12bの第1の大径凹部18内に配置されている。また、基盤46の外周部近傍のインペラ30側の面には、磁性手段37が周方向に適宜間隔をおいて複数固定されている。
磁気回転部48は、インペラ30内に設けられている磁性手段37を磁気的に吸引する部材であり、永久磁石が用いられている。
【0028】
回転軸6は、軸受2に対して回転自在に配置されている。回転軸6の高さレベルは、先端が磁性手段37と同じ、或いは磁性手段37よりも上方であればよい。
また、羽根基台32及びポンプ羽根31は、血栓形成と溶血を考慮して、角部がない表面が滑らかな形状が望ましく、材質は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリアセタール等の合成樹脂を用いることが好適である。また、インペラ30の回転中心軸に沿って延長する中央軸孔39が設けられ、吸入管13からポンプ羽根31の回転軸線頂部に形成された中央軸孔39を介して連通され、ポンプ羽根31と羽根基台32の間を介して流動路16に連通されている。
【0029】
次に、この遠心血液ポンプ1で使用する焼成カーボン製ボール9の製造方法について、その一例を説明する。
原料の炭素を粉砕、配合、混練、造粒工程を経た後に、カーボン製ボールに成形し、その後、約900℃〜1000℃にて1次焼成して炭素化する。
次いで、約1000℃〜3000℃にて2次焼成し、黒鉛化を行なう。
その後、真球に近くなるように加工を施すとともに、必要に応じて含浸が行なわれることによって、焼成カーボン製ボール9が製作される。
【0030】
次いで、この遠心血液ポンプ1の作用について説明する。
まず、図示しない電源装置によりモータ44に電力を供給し、モータ44の駆動軸45を回転させる。駆動軸45の回転によりインペラ30の基盤46が駆動軸45の軸線廻りに回転する。基盤46の回転により、基盤46上に取り付けられた磁気回転部48は、基盤46の中心を軸に回転する。磁気回転部48は磁力によって磁性手段37を吸引するため、磁気回転部48が回転運動すると、回転軸6を軸として、磁性手段37を内蔵したインペラ30は磁気回転部48の回転に対応して回転する。
【0031】
次に、吸入口13aから吸入管13を介してハウジング10内の空間に血液が吸入される。吸入された血液は、ポンプ羽根31の回転軸線頂部に形成された中央軸孔39からインペラのポンプ羽根31(この図では、4枚)の間に形成された流路(この図では、4個)を流れる。このとき、インペラ30は回転しているため、ポンプ羽根31によって付与される遠心力によって血液を流動路16に送出する。流動路16に送出された血液は、流動路16の中を流れて吐出管14に至り、吐出口14aから吐出される。
【0032】
インペラ30は、一点支持とされているが、外周側から磁気回転部48によって支えられるため回転軸6を支点に安定した状態で回転する。
また、モータ44の回転数を上げて血液の流量が増加すると、吸入口13a、吸入管13、中央軸孔39の圧力が低下してより陰圧となり、インペラ30は吸入口13a側への力を受けるが、磁気回転部48は磁性手段37を吸引する力も有するので、浮上しようとする力に対抗するため、インペラ30は浮上することなく回転軸6によって支持された状態で回転する。
【0033】
インペラ30は、回転軸6によって一点支持により回転自在に配置されているため、インペラ30とハウジング2の接点は球面により小さな接触部8で一点支持されているので、血液の血栓形成と溶血は微少なものになる。
さらに、ハウジング2内の部材は極力滑らかな表面で角部の少ない部材を用いているため、血液の血液損傷は軽減される。
【0034】
軸受2は、ポリエチレンにより構成されているので、高い精度のものを容易に製作することができ、また、摺動摩擦が小さいため、長期間に亘ってスムースな回転を維持されるとともに、適度な柔軟性があるため、血栓形成と溶血の発生が抑制される。
【0035】
ボール9は、焼成されたカーボンにより構成されているので、熱伝導率が20W/m・K〜70W/m・Kと良好であるため、回転接触部で発生した熱が回転軸から効率的に血液の流れに放熱され、接触部の温度が上昇しないため、血栓形成と溶血が抑制される。
また、高い精度のものを容易に製作することができ、回転に際しての摺動摩擦が小さく、また、硬度が高いため、取り扱いや遠心血液ポンプ運転時において、傷付きや変形が発生し難く、長期間に亘ってスムースな回転を維持することができる。
上記実施の形態では、インペラ30に対して、別途に成形されたボール9を圧入して、回転軸6を形成しているので、焼成カーボンのボール9を単体で加工して高精度に仕上げすることができ、高精度なインペラ30を容易に製作することができる。
ボール9を圧入して回転軸6を構成することに関しては、他の材質のボールに対しても適用可能である。
【0036】
図4は、この発明の第2の実施形態を示す図であり、第1の実施形態と異なるのは、軸受2及び凸形状部7をなす回転軸6が、放物線を回転させた放物面から構成されていて、回転軸6の面が接触部8から径方向外方にゆくにつれて基端側に後退するとともに、被支持部の他方に形成された凹形状部3から構成された軸受2の面は、接触部8の径方向外方にゆくにつれて凸形状部側に形成され、支持部と被支持部の間には、接触部8の周囲にわずかな間隙が形成されている。その他は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
なお、軸受2の開口部近傍において、回転軸6の円柱6aと放物面6bの接続部6cにて円柱6aの外形が放物面6bの外形より大きくされ、段差が形成されていてもよい。
【0037】
第2の実施形態では、回転軸6が放物面から構成されているため、頂部を先鋭とすることにより、球面よりも小さな接触面8にて接触させるとともに、軸受に実質的に保持されて倒れ防止機能を発揮する軸長を長く確保することができる。したがって、血液損傷を抑制しつつ、安定した回転を得ることができる。
【0038】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施の形態では、回転軸6がインペラ30に対して、焼成カーボンのボール9を圧入、固定して凸形状部7を形成する場合について説明したが、円柱の先端に球面の一部が形成されたものや、図4に示すような放物線体を回転軸6として使用してもよい。即ち、回転軸6の凸形状部7、及び軸受2の凹形状部3が球面の一部に形成されている場合について説明したが、これら凸形状部7、及び凹形状部3は、接触させたときに回転軸6と軸受2の接触部8の周囲に隙間ができるものであればよく、球面の一部のほか、円錐、放物面、又はこれらに平面等を組合せて定義される幾何学面でもよい。
【0039】
また、この実施の形態においては、摩擦が小さい樹脂として、ポリオレフィン系樹脂のポリエチレンを使用した場合について説明したが、ポリエチレン以外のポリオレフィン樹脂を使用することも可能である。
また、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂であっても、例えば、ポリアセタール樹脂などの摩擦が小さい樹脂を使用することができる。
また、凸形状部3は、接触部8から径方向外方に向かうにつれて対向面から基端部側に緩やかに後退するとともに凹形状部7との間の隙間が緩やかに増加してゆくことが好適であるが、必ずしも緩やかであることは必要でなく、また、軸受2と回転軸6が異なる種類の面から構成されていてもよい。
【0040】
また、焼成カーボン製のボール9に代えて、ポリアセタール樹脂やポリオレフィン系樹脂製ボールを使用してもよい。また、凹形状部3に、焼成カーボンを用いてもよい。
ハウジング10の底面に軸受2(支持部)が凹形状部3で、回転軸6(被支持部)が凸形状部7の場合について説明したが、インペラ30の側に被支持部として凹形状部3を設けるとともに、第2の部材12bのインペラ30に面する内側面に凸形状部7を設けてもよい。
【0041】
上記実施の形態では、インペラ30を磁性手段37を介して回転させる磁気回転部48がインペラ30の内側方に配置されている場合について説明したが、磁気回転部48をインペラ30の外方側に配置してもよい。
【0042】
上記、第1の実施の形態に係る遠心血液ポンプと、従来型の遠心血液ポンプによって、血液を流して溶血指数(NIH)を、算出することによって、効果を比較した。
本発明に係る遠心血液ポンプは、曲率半径R=3.1mmの球面の一部からなる凹部を有するポリエチレン製軸受がハウジングに設けられ、この凹部に対して、インペラ側に焼成カーボン製の曲率半径R=3.0mmの球面の一部からなる凸部を有する回転軸が設けられている。従来型の遠心血液ポンプが本発明と異なるのは、ポリエチレン製軸受の曲率半径がR=3.0mmとされ、インペラ側に設けられる回転軸がセラミック製である点である。
<実験結果>
本発明に係る 従来型の
遠心血液ポンプ 遠心血液ポンプ
循環血液量 0.5L 0.5L
Ht 30% 30%
流量 5L/min 5L/min
試験時間 240分 240分
ΔHb 0.0434g/L 0.1130g/L
ここで、Htは、ヘマトクリットを、ΔHbは、血しょう遊離ヘモグロビン増加量を表している。
この結果を、NIH=ΔHb×V×(1−Ht/100)×100/流量×試験時間
に代入して、NIH(g/100L)を算出すると、従来型の遠心血液ポンプにおいては、
NIH=0.0033であったのに対して、第1の実施の形態に係る遠心血液ポンプでは、
NIH=0.0013であり、NIHが、0.4倍、即ち60%低減されることがわかった。
以上のことから、本発明の遠心血液ポンプが、血液損傷に極めて大きな効果を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の遠心血液ポンプの縦断面図であり、図2におけるA−Aにおいて遠心血液ポンプを切断した場合の図である。
【図2】本発明に係る第1の実施形態の遠心血液ポンプの横断面図であり、図1におけるB−Bにおいて遠心血液ポンプを切断した場合の図である。
【図3】本発明に係る軸受と回転軸の第1の実施形態を示す図である。
【図4】本発明に係る軸受と回転軸の第2の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 遠心血液ポンプ
2 軸受(支持部)
3 凹形状部
6 回転軸(被支持部)
7 凸形状部
8 接触部
9 ボール
10 ハウジング
13 吸入管
13a 吸入口
14 吐出管
14a 吐出口
16 流動路
18 第1の大径凹部
30 インペラ
31 ポンプ羽根
32 羽根基台
33 大径凹部
34 円環部
35 蓋
37 磁性手段
38 ウォッシュアウトホール
39 中央軸孔
40 駆動手段
42 筐体
43 筐体凸部
44 モータ
45 駆動軸
46 基盤
47 基盤凸部
48 磁気回転部
49 浮上り防止磁気手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口と、吐出口と、凹形状又は凸形状の支持部とを有するハウジングと、
該ハウジング内に収納されて、ポンプ羽根と、底面側には磁性手段と前記支持部の凹形状又は凸形状に対応して凸形状又は凹形状とされた被支持部を有するとともに、該被支持部が前記支持部に支持されて軸線廻りに回転されるインペラと、
該インペラに前記磁性手段を介して回転力を伝達する駆動手段とを備えた遠心血液ポンプであって、
前記支持部又は前記被支持部のいずれかが、焼成カーボンからなることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項2】
吸入口と、吐出口と、凹形状又は凸形状の支持部とを有するハウジングと、
該ハウジング内に収納されて、ポンプ羽根と、底面側には磁性手段と前記支持部の凹形状又は凸形状に対応して凸形状又は凹形状とされた被支持部を有するとともに、該被支持部が前記支持部に支持されて軸線廻りに回転されるインペラと、
該インペラに前記磁性手段を介して回転力を伝達する駆動手段とを備えた遠心血液ポンプであって、
前記支持部又は前記被支持部のいずれかが、ポリオレフィン系樹脂等の摩擦が小さい樹脂からなることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の遠心血液ポンプであって、
前記支持部又は前記被支持部のうち、前記焼成カーボン又は前記ポリオレフィン系樹脂により形成されたものと対応する前記支持部又は前記被支持部が、ポリエチレンで形成されていることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の遠心血液ポンプであって、
前記支持部又は被支持部の一方に形成された凸形状部は、前記支持部と前記被支持部とのいずれかが当接する接触部の径方向外方の面が基端側に後退し、
前記支持部又は被支持部の他方に形成された凹形状部は、前記接触部の径方向外方の面が接触部よりも前記凸形状部側に形成され、
前記支持部と前記被支持部の接触面積は1×10−4mm2以上1.0mm2以下と充分小さくされ、またその間には、接触部の周囲にわずかな間隙が形成されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の遠心血液ポンプであって、
前記凸形状部と、前記凹形状部とは、ともに球面の一部から構成されており、
かつ前記凹形状部を構成する球面は、前記凸形状部を構成する球面より、曲率半径が1%以上10%以下の範囲で大きいことを特徴とする遠心血液ポンプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−325984(P2006−325984A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154532(P2005−154532)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度経済産業省地域中小企業支援型研究開発「心疾患治療用補助循環ポンプの開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】