説明

遠赤外線放射体の製造方法

【課題】遠赤外線を放射する微粒子を樹脂基体上に、その遠赤外線放射機能を損なうことなく、かつ、樹脂基表面の、長期にわたって使用しても遠赤外線放射機能が維持できる遠赤外線放射体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】遠赤外線を放射する微粒子が基体の表面上に、シラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる遠赤外線放射体の製造方法であって基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線を放射する微粒子が、基体上に固定されてなる遠赤外線放射体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、或いはこれらの混合体よりなるセラミックスや、チタン酸アルミニウム、コージライト、βスポジューメンなどは、3〜1000μm程度の波長の電磁波である遠赤外線を放射することが広く知られている。遠赤外線は、物質を構成している分子の固有振動とほぼ同程度の範囲の波長であるため、物質に遠赤外線が当たると電気的な共振を起こして、そのエネルギーを無駄なく物質に吸収されることから、効率の良い加熱方式と言える。このことを利用して古くから塗装の乾燥などへ応用がなされている。
【0003】
他方、遠赤外線は人体に対して温熱作用があることが知られており、人体に遠赤外線を照射することにより身体の内部に充血作用が生じ、血行を促進させることによる医療効果や健康増進効果を得ることも知られており、これらの効果を得ることを目的とした遠赤外線照射装置や、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、或いは、これらの混合体よりなるセラミックスなどの遠赤外線を放射する材料の微粒子を充填した繊維を用いた保温効果と血行促進を兼ね備えた下着や靴下、サポーターなど、様々な繊維構造物が提案されている。
【0004】
かかる遠赤外線放射特性を有する繊維としては、遠赤外線を放射するセラミックスの微粒子を合成繊維に含有させる多くの方法が提案されており、例えば、合成繊維に遠赤外線を放射する微粒子を吸着もしくは吸尽させる方法(例えば、特許文献1参照。)、遠赤外線を放射する微粒子を合成繊維の内部に含有せしめる方法(例えば、特許文献2参照。)、繊維を芯・鞘構造となし、芯部に遠赤外線を放射する微粒子含有ポリマーを配置した複合繊維(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−12908号公報
【特許文献2】特開昭63−196710号公報
【特許文献3】特開昭63−92720号公報
【特許文献4】特開平03−51301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記遠赤外線を放射する繊維やそれを用いた繊維構造体では、以下のような様々な問題がある。例えば、特開昭61−12908号公報記載の技術では、遠赤外線を放射する微粒子の吸着、吸尽させる量に限界があり、遠赤外線放射効果が殆ど無いのが実情である。また、特開昭63−196710号公報記載の技術では、充分な遠赤外線放射効率を得るために遠赤外線を放射する微粒子を高濃度で充填する必要があり、紡糸性が著しく悪化する問題がある。さらに、特開昭63−92720号公報や特開平03−51301号公報に記載の技術においては、鞘部において放射された遠赤外線が吸収されてしまい、効果が充分に発揮されない問題もある。さらに、各種のバインダー樹脂に遠赤外線を放射する材料の微粒子を充填し、上記遠赤外線微粒子含有バインダー樹脂を、繊維表面や繊維で構成された構造物表面に塗布する方法も提案されているが、樹脂の材質や遠赤外線を放射する微粒子の充填量によっては、剥離や繊維の風合いが損なわれるなどの多くの課題があった。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題を解決し、繊維やフィルム、布などからなる基材の風合いを損なわずに、充分な遠赤外線効果による保温性に優れた、かつ、簡易で安全に効率よく発生させる遠赤外放射体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シラン化合物の化学結合を用いることにより、遠赤外線を発生する材料の微粒子を、基材の風合いを損ねない程度の量としても遠赤外線放出の効果が充分に得られることを見出し、これにより上述の課題を解決できるとの知見を得るに至り、新規な構成の遠赤外放射体の製造方法を創出した。
【0009】
すなわち、本発明は、遠赤外線を発生する材料の微粒子が基体の表面上に、ラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる遠赤外線放射体の製造方法であって、基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法第1の発明として提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記第1の発明において、前記基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布した後に放射線を照射することを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法第2の発明として提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、上記第1の発明において、前記基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布した後に放射線を照射することを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法第3の発明として提供するものである。
【0012】
さらにまた、本発明は、上記第1乃至第3のいずれかの発明において、前記基体表面を予め親水化処理を行うことを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法第4の発明として提供するものである。
【0013】
さらにまた、本発明は、上記第4の発明において、前記親水化処理が、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、酸化性酸水溶液による化学的な処理の何れかを含むことを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法第5の発明として提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記第1乃至第5のいずれかの発明において、遠赤外線を放射する微粒子の平均粒子径が0.005μm〜3.0μmであることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法を第6の発明として提供するものである。
【0015】
さらに、本発明は、上記第1乃至第6のいずれかの発明において、基体の少なくとも表面が樹脂であることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法を第7の発明として提供するものである。
【0016】
さらにまた、本発明は、上記第1乃至第7のいずれかの発明において、基体が、樹脂であることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法を第8の発明として提供するものである。
【0017】
さらに、本発明は、上記第1乃至第8のいずれかの発明において、基体が、繊維構造体であることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法を第9の発明として提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、基体の表面に対して、遠赤外線を放射する微粒子が、シラン化合物を介した化学結合によって、強固に結合された状態となっている。このため、基体に対する微粒子は、充分な耐久性を保持している。
【0019】
したがって、本発明の製造方法によれば、遠赤外線を放射する微粒子が各種の基材の表面に強固に結合された耐久性に優れた遠赤外線放射体を提供することが可能となる。また、微粒子が基材の表面に配置され、微量にて効率良く遠赤外線を放射するので、繊維やフィルム、布などからなる基材の風合いを損なわずに、遠赤外線放射体を提供することが可能となる。
【0020】
なお、基体の形態としては、例えば、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることができるので、肌着、インナーウェア、腹巻、サポーター、靴下、手袋、靴等の履物、該履物用の中敷、マット、シーツ、毛布、布団などの寝装材、絨毯、カーテンまたは防虫網などの用途に好適であり、これら各種製品を、保温効果と血行促進を図るものとして提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の遠赤外線放射体の製造方法についてさらに詳述する。
【0022】
本発明で用いられる遠赤外線を放射する微粒子の材料としては、遠赤外線の放射が認められる材料であれば特に限定されない。具体的な材料としては、また、遠赤外線を放射する材料としては、ALO、TiO、ZrO、SiO、FeO、CoO、CuO、MgOなどの金属酸化物やこれらの混合物、例えば、コージライト、βスポジューメン、チタン酸アルミニウムなどのセラミックスや、市販されている遠赤外線セラミックス、例えば、OKトレーディング製セラジット、水澤化学工業株式会社製シルトンFI−85などが挙げられ、これらは単一または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの材料は微粒子として用いられ、それらの平均粒子径は0.005μmから3.0μmの間であれば良い。平均粒子径が3.0μmよりも大きくなると、これらの微粒子の固定能が低下して基材樹脂表面から脱離し易くなると共に、繊維や布の風合いを損なうので好ましくない。一方、粒子径を0.005μmよりも小さくには技術的困難が伴い、また製造コスト上の観点からも好ましくない。
【0023】
また、遠赤外線を放射する微粒子とともに、光触媒機能を有する材料の微粒子や抗菌性を有する材料の微粒子などを混合して用いても良い。
【0024】
ここで、光触媒機能を発現する微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウムなどの公知の金属化合物半導体が挙げられ、これらの材料を単一または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、抗菌性を有する材料の微粒子としては、例えば、市販されているものとして、(株)サンギ製「アパタイザーA」、大日精化工業(株)製「ダイキラー」、松下電器産業(株)製「アメニトップ」、触媒化成工業(株)製「アトミーボール」、カネボウ化成(株)製「バクテキラー」などが挙げられ、これらは単一または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明では、遠赤外線を発生する微粒子をシラン化合物により、樹脂基体上に化学結合と同時に架橋により固定するものである。具体的なシラン化合物としては、X−Si(OR)3の一般式で示されるシランカップリング剤が挙げられる。なお、Xは有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などであり、Rは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などである。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基などの不飽和結合などを有する官能基は、反応性が高いことが知られている。本発明は、反応性に優れたシランカップリング剤を用いることで、遠赤外線を発生する材料の微粒子を、化学結合およびシラン化合物の架橋により、基体表面に結合せしめたものである。
【0027】
本発明で用いられるシランカップリング剤の一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0028】
これらのシランカップリング剤は一種もしくは二種以上混合して用いられる。その使用形態としては、必要量のシランカップリング剤をメタノールやエタノールなどの溶剤に溶解し、加水分解に必要な水を加えて用いられる。用いられる溶剤としては、エタノール、メタノール、プロパノールやブタノールなどの低級アルコール類、蟻酸やプロピオン酸などの低級アルキルカルボン酸類、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、メチルセルソルブやエチルセルソルブなどのセロソルブ類を単独または複数組み合わせて用いても良い。さらに、シランカップリング剤を水溶液の状態で使用しても良く、水への溶解性が悪い場合では、酢酸を添加してpHを弱酸性に調整してアルコキシシランの加水分解性を促進し、水溶性を上げて用いられる。
【0029】
本発明では、前述したシランカップリング剤の溶液に、必要に応じて、Si(OR
1)(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどや、R2Si(OR3)(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシランなどが、添加されて用いられる。
【0030】
本発明での遠赤外線放射体は、前述したシランカップリング剤の溶液に遠赤外線を放射する微粒子を分散した溶液を用いて製造される。遠赤外線を放射する微粒子の分散は、ホモミキサーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミル、サンドミル、高速回転ミル、ジェットミルなどを用いた分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0031】
本発明の遠赤外線放射体の製造方法に用いられる基体を構成する材料としては、シラン化合物による化学結合が可能なものであれば良く、このような材料としては、例えば、各種樹脂や、合成繊維、天然繊維などが挙げられる。
【0032】
本発明の遠赤外線放射体の製造方法に用いられる基体を樹脂とする場合には、少なくとも基体表面が樹脂からなるものであれば良い。
【0033】
ここで、基体を構成する樹脂としては、合成樹脂や天然樹脂が用いられ、その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、PTFEなどの熱可塑性樹脂や、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマー、漆などの天然樹脂、などが挙げられる。
【0034】
これらの樹脂の形態は、板状、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った形状及びサイズ等であれば良く、本発明では特に問わない。また、アルミニウムやマグネシウム、鉄などの金属材料表面や、ガラス、セラミックスなどの無機材料表面に、フィルム状で積層されたり、吹き付け塗装や浸漬塗装、静電塗装などの塗装法や、スクリーン印刷やオフセット印刷などの印刷法により薄膜として形成されてあっても良い。さらに、これらの樹脂は、顔料や染料などにより着色されてあっても良く、シリカ、アルミナ、珪藻土、マイカなどの無機材料が充填されてあっても良い。
【0035】
一方、基体を構成する合成繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリカーボネイト繊維、フッソ繊維、ポリ尿素繊維、エラストマー繊維、また、これら繊維を構成する材料と前記樹脂材料との複合繊維などを挙げることができ、天然繊維の例としては、綿、麻、絹、などが挙げられる。
【0036】
本発明に係るグラフト重合において用いられる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのには、γ線、電子線、紫外線が適している。
【0037】
本発明でのグラフト重合を用いた遠赤外線放射体は、前述した遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を、結合しようとする基体表面に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去した後、γ線、電子線、紫外線などの放射線を、遠赤外線を放射する微粒子とシランカップリング剤の混合物が塗布された基体表面に照射することで、シランカップリング剤を基体表面にグラフト重合させる同時に遠赤外線を放射する微粒子を結合させることで行われる所謂同時照射グラフト重合と、予め遠赤外線を放射する微粒子を結合しようとする基体表面にγ線、電子線、紫外線などの放射線を照射した後、遠赤外線を放射する微粒子が分散したシランカップリング剤溶液を塗布してシランカップリング剤と基体とを反応させると同時に遠赤外線を放射する微粒子を固定させる所謂前照射グラフト重合の二法より製造される。
【0038】
また、シランカップリング剤のグラフト重合を効率良く、かつ、均一に行わせるためには、予め、樹脂基体表面がコロナ放電処理やプラズマ放電処理、火炎処理、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液による化学的な処理などにより親水化処理されてあれば特に好ましい。
【0039】
本発明では、前述したように、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることができるので、肌着、インナーウェア、腹巻、サポーター、靴下、手袋、靴、サンダル、スリッパ等の各種履物、これら履物用の中敷、マット、シーツ、毛布、布団などの寝装材、絨毯、カーテンまたは防虫網などの用途に好適であり、これら各種製品を、保温効果と血行促進を図るものとして提供することができる。
【0040】
また、本発明では、遠赤外線を放射する微粒子の化学結合による固着については、紡糸後に製品形状とした後で、または、製品化の過程で行うことが可能であり、このため、遠赤外線を放射する微粒子の存在が紡糸性に影響しない、というメリットがある。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明の遠赤外線放射体の製造方法をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
<遠赤外線放射体の作製>
本発明での遠赤外線放射体の作製は、電子線照射装置として岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型、CB250/15/180L、を用いて実施した。
実施例1:
30gのビニルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−1003)をメタノール950gに溶解した後、10gの水(シラン化合物に対して3モル等量以上の水)を加えてシランカップリング剤の一部を加水分解した。このシランカップリング剤溶液に遠赤外線を放射する微粒子として、組成が1.9〜2.1SiO・AL・0.2〜0.5NaO・nHOからなる微粒子(水澤化学工業株式会社製シルトンFI−85)を80g加えた後、循環型湿式粉砕機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ダイノーミル)を用いて遠赤外線を放射する微粒子を粉砕・分散すると共に、粉砕した微粒子の表面にシランカップリング剤を吸着させた。
【0043】
また、ポリエステル不織布(旭化成株式会社製、エルタスE01040)の表面を大気中でコロナ放電処理した後、前記遠赤外線を放射する材料の微粒子が分散したシランカップリング剤溶液をスプレーにて塗布し、110℃、3分間乾燥した。次に、シランカップリング剤溶液を塗布したポリエステル不織布に電子線を200kVの加速電圧で10Mrad照射することで、遠赤外線を放射する微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる遠赤外線放射体を得た。
【0044】
実施例2:
実施例1で基体に用いたポリエステル不織布の代わりに、125μmのポリエステルフィルム(パナック株式会社製、ルミラー)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で遠赤外線放射体を得た。
【0045】
実施例3:
実施例1で基体に用いたポリエステルフィルムの代わりに、55μmのポリエステルフィラメントで作製した200メッシュのメッシュクロスを用いた以外は、実施例1と同様の条件で遠赤外線放射体を得た。
【0046】
実施例4:
実施例1で基体に用いたポリエステルフィルムの代わりに、綿で織られた布を用いた以外は、実施例1と同様の条件で遠赤外線放射体を得た。
【0047】
実施例5:
実施例1で用いた遠赤外線を放射する微粒子に代わりに、チタン酸アルミニウムに代えた以外は、実施例1と同様の条件で遠赤外線放射体を得た。
【0048】
実施例6:
N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチルー3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩の40重量%メタノール溶液(信越化学工業株式会社製、KBM−575)100gにメタノール800gと6gの水を加えてシランカップリング剤の一部を加水分解した。このシランカップリング剤溶液に遠赤外線を放射する微粒子としてコージライトの微粒子(丸ス釉薬合資会社製)を80.0g加えた後、循環型湿式粉砕機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ダイノーミル)を用いて遠赤外線を放射する微粒子を粉砕・分散すると共に、シランカップリング剤を粉砕した微粒子の表面に吸着させた。
【0049】
また、厚さ100μmのポリエチレンフィルム(リンテック株式会社製)の表面を大気中でコロナ放電処理した後、前記コージライト微粒子が分散したシランカップリング剤溶液をスプレーにて塗布し、100℃、5分間乾燥した。次に、シランカップリング剤溶液を塗布したポリエチレンフィルムに電子線を200kVの加速電圧で20Mrad照射することで、遠赤外線を放射する微粒子がシランカップリング剤でポリエチレンフィルム上に結合されてなる遠赤外線放射体を得た。
【0050】
実施例7:
γ−アクリロシキプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−5103)100gをメタノール900gに溶解した後、23gの水(シラン化合物に対して3モル等量以上の水)を加えてシランカップリング剤の一部を加水分解した。このシランカップリング剤溶液に遠赤外線を放射する微粒子として珪酸ジルコニウム(和光純薬工業株式会社製)を80g加えた後、循環型湿式粉砕機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ダイノーミル)を用いて遠赤外線を放射する微粒子を粉砕・分散すると共に、シランカップリング剤を粉砕した微粒子の表面に吸着させた。
【0051】
また、ポリエステル不織布(旭化成株式会社製、エルタスE01040)の表面を大気中でコロナ放電処理した後、前記珪酸ジルコニウムが分散したシランカップリング剤溶液をスプレーにて塗布し、110℃、3分間乾燥した。次に、シランカップリング剤溶液を塗布したポリエステル不織布に電子線を200kVの加速電圧で10Mrad照射することで、遠赤外線を放射する微粒子がシランカップリング剤でポリエステル不織布上に結合されてなる遠赤外線放射体を得た。
【0052】
実施例8:
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−9007)50gをイソプロピルアルコール850gに溶解し、11gの水(シラン化合物に対して3モル等量以上の水)を加えてシランカップリング剤の一部を加水分解した。このシランカップリング剤溶液に実施例1で用いた遠赤外線を放射する微粒子(水澤化学工業株式会社製シルトンFI−85)を100g加えた後、循環型湿式粉砕機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、ダイノーミル)を用いて遠赤外線を放射する微粒子を粉砕・分散すると共に、シランカップリング剤を粉砕した微粒子の表面に吸着させた。
【0053】
また、厚さ1.0mmのアルミニウム板を公知の方法で脱脂し、15重量%硫酸水溶液中に浸漬し、1.5A/dmの電流密度で30分間、陽極酸化することによりアルミニウム板表面に15μmの酸化皮膜を形成した。さらに、このアルミニウム板を水洗して乾燥後、熱硬化型アクリル系塗料(関西ペイント株式会社製、MG1000)をスプレーにて塗布した後180℃、30分間乾燥することで、厚さ15μmの厚さの塗膜が形成された塗膜被覆アルミニウム板を得た。次に、前記遠赤外線を放射する微粒子が分散したシランカップリング剤溶液をスプレーにて塗布し、130℃、3分間乾燥した後、シランカップリング剤溶液を塗布した塗膜被覆アルミニウム板に、電子線を240kVの加速電圧で20Mrad照射することで、遠赤外線を放射する微粒子がシランカップリング剤で塗膜被覆アルミニウム板上に結合されてなる遠赤外線放射体を得た。
【0054】
比較例1:
ポリエステル樹脂(日本ユニペット株式会社製)に、実施例1で用いた遠赤外線を放射する微粒子を5.0重量%、2軸混練機により充填してペレットを作製した。次に、得られたペレットを用いて溶融紡糸装置によりポリエステルフィラメントを紡糸し、さらに延伸加工することで、径が80μmのポリエステルフィラメントを得た。得られたポリエステルフィラメントを用い、200メッシュの遠赤外線を放射する微粒子が充填されたメッシュクロスからなる遠赤外線放射体を得た。
【0055】
比較例2:
比較例1で作製した遠赤外線を放射する微粒子を10.0重量%に代えた以外は比較例1と同様の条件で、径が80μmの遠赤外線を放射する微粒子が充填されたポリエステルフィラメントを得た。次に、得られたポリエステルフィラメントを用い、200メッシュの遠赤外線を放射する微粒子が充填されたメッシュクロスからなる遠赤外線放射体を得た。
【0056】
比較例3:
ポリエステル樹脂(日本ユニペット株式会社製)に、実施例2で用いた遠赤外線を放射する微粒子が10.0重量%充填されたペレットを用い、延伸フィルム成形装置により、遠赤外線を放射する微粒子が充填された100μmの厚さのフィルムからなる遠赤外線放射体を得た。
【0057】
<遠赤外線放射体の評価>
得られた遠赤外線放射体の特性としては、遠赤外線分光放射率をFT−IR法で、積分測定波長域が4〜20μm、測定温度が40℃の条件で測定した。評価は、遠赤外線を放射する微粒子が固定された物と固定されてない物の遠赤外線分光放射率の差で行った。結果を表1に示した。
【0058】
表1の結果が示すように、本発明の放射線グラフト重合で得られた遠赤外線放射体からは、未処理物と処理物の遠赤外線放射率から得られた全放射率が5.0%以上であり、効率良く遠赤外線を放射することが確認された。これらの結果に対し、比較例で得られた遠赤外線放射体は、遠赤外線の放射は認められるものの、全放射率は実施例と比較して低い値であった。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明の製造方法を適用した、シラン化合物のグラフト重合により遠赤外線を放射する微粒子を樹脂基体表面へ結合させた遠赤外線放射体は、シラン化合物のアルコキシ基の加水分解により生成したシラノール基が、遠赤外線を放射する微粒子の表面に脱水縮合反応で強固に化学的に結合し、さらに、シラン化合物のビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基などが、放射線の照射により生成したラジカルによるグラフト重合で樹脂基体表面に化学的に結合することによってなされている。よって、遠赤外線を放射する微粒子は樹脂基体表面にシラン化合物により化学的な結合で強固に結合されていることから、本発明の製造方法による遠赤外線放射体は様々な環境で使用しても遠赤外線を放射する材料の微粒子の脱離などが起こり難い耐久性に優れたものである。また、遠赤外線を放射する微粒子は繊維や樹脂フィルム表面にシラン化合物によって固定されていることから、線赤外線を効率よく放射することができ、さらに、遠赤外線を放射する微粒子が薄膜で形成されていることから、繊維やそれらからなる構造体の風合いを損なうことがないなど、様々な分野に応用できる実用性に優れた極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線を放射する微粒子が基体の表面上に、シラン化合物の基体表面への化学結合より結合されてなる遠赤外線放射体の製造方法であって、
基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布する工程と、
微粒子を分散したシランカップリング剤溶液が塗布された基体表面に放射線を照射する工程とを含み、
シラン化合物の基体表面への化学結合が放射線グラフト重合であることを特徴とする遠赤外線放射体の製造方法
【請求項2】
前記基体表面に遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布した後に放射線を照射することを特徴とする請求項1記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項3】
前記基体表面に放射線を照射した後に、遠赤外線を放射する微粒子を分散したシランカップリング剤溶液を塗布することを特徴とする請求項1記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項4】
前記基体表面を予め親水化処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項5】
前記親水化処理が、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、酸化性酸水溶液による化学的な処理の何れかを含むことを特徴とする請求項4記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項6】
前記遠赤外線を放射する微粒子の平均粒子径が0.005μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項7】
前記基体の少なくとも表面が樹脂であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項8】
前記基体が、樹脂であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の遠赤外線放射体の製造方法
【請求項9】
前記基体が、繊維構造体であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の遠赤外線放射体の製造方法

【公開番号】特開2010−13793(P2010−13793A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244102(P2009−244102)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2003−282291(P2003−282291)の分割
【原出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】