説明

遠赤外線放射材料

【課題】、焼成工程が不要であり、製造コストが低廉で、安定供給が可能な遠赤外線放射材料及びその製造方法並びに遠赤外線放射材料固化物を提供することを解決すべき課題としている。
【解決手段】廃鋳物砂を焼成することなく0.15mmφ以上の粒分を篩い分ける。次に、分取された5mm未満の粒子を水洗浄し、湿式磁選機を用いて鉄類を除去する。そして、分級機を用いて0.15mmφ以上の洗砂品と0.15mmφ未満の微粒砂とに分ける。さらに微粒砂を水中で沈殿濃縮し、フィルタープレス装置でろ過して洗土品を得る。こうして得られた洗砂品及び洗土品は高い遠赤外放出率を有する遠赤外線放出材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃鋳物砂を原料とする遠赤外線放射材料に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外線は、赤外線の中でも特に波長の長いものをいい、社団法人遠赤外線協会における定義によれば、波長3μmから1,000μmまでの電磁波とされている。この遠赤外線は、金属以外の多くの物質(例えばプラスチックス、塗料、繊維、木材、ゴム、食物、セラミックス、水等)に、非常によく吸収されて熱エネルギーとなるため、効率よく物質を暖めることができる。このため、遠赤外線ヒータによって人工的に遠赤外線を放出させ、暖房や物の加熱や乾燥等に利用されている。また、食品分野の加熱や乾燥においても、遠赤外線による加熱は熱源と食品とが直接に接触しないため、食品表面の過熱が避けられる。さらには、食品深部の昇温に必要なだけのエネルギーを、比較的短時間のうちに与えることができるため均一加熱性に優れ、食品への投入エネルギーのコントロールが、他の加熱方法より容易となるという利点がある。
【0003】
遠赤外線を得るためには、遠赤外線を放射する材料が必要となる。およそ、全ての物質は、その温度に応じて多かれ少なかれ遠赤外線を放出することができるが、その放出率は物質によって異なっている。また、物質から発生する遠赤外線は、物質の温度を高くするほど放射される遠赤外線のエネルギーも大きくなる。このため、遠赤外線の放射率が高く、耐熱性に優れたセラミックや天然石等が、遠赤外放射材料として用いられている(特許文献1、2)。例えば、遠赤外放射率の高いセラミックとして、Al2O3、SiO2、MgO、ZrO2、3Al2O3・2SiO2(ムライト)、ZrO2・SiO2(ジルコン)、2MgO・2Al2O3・5SiO2(コージェライト)等がある。また、遠赤外放射率の高い天然石として、ブラックシリカ等が挙げられる。
【0004】
一方、鋳物製造工程から生ずる鋳物砂廃棄物は、平成15年には年間130万トンに達し、そのうち70万トンは再生砂に、30万トンはセメント材料に、10万トンは路盤材にそれぞれリサイクルされているが、残りの20万トンは未だ再利用されずに埋め立て処分とされている。しかし、現在設置されている最終処分場の埋め立て可能な残余量は減少しており、新たな最終処分場の建設も困難な状況となっている。このため、廃鋳物砂を資源として有効に利用する技術が求められている。
【0005】
こうした廃鋳物砂を資源として利用する技術としては、従来より、廃鋳物砂を焼成して樹脂成分を除去したり、湿式で不純物を除いたりして、再利用することが行われている(特許文献3〜6)。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−69564号
【特許文献2】特開平6−191932
【特許文献3】特公昭51−3690号公報
【特許文献4】実公昭51−44727号公報
【特許文献5】特公昭58−19379号公報
【特許文献6】特公平1−2462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1や2に記載の遠赤外線放射材料では、製造原料の成分を調整し、製造工程において原料を焼成して反応させなければならず、製造コストの高騰を招いていた。また、ブラックシリカや黒鉛等、遠赤外線の放射率が高い天然石を用いた遠赤外線放射材料では、成分調整や焼成工程は不要であるものの、産地が限られていたり産出量が少なかったりして、高価で安定な供給が困難であるという問題があった。また、鋳物砂のリサイクルにおいても、地球温暖化防止の観点から、焼成工程が無くてC0を発生しない方法が望まれていた。
【0008】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであって、焼成工程が不要であり、製造コストが低廉で、安定供給が可能な遠赤外線放射材料及びその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、遠赤外線の放射率が高い天然石としてよく知られているブラックシリカや黒鉛が、廃鋳物砂の化学成分と共通していることに注目し、廃鋳物砂が遠赤外線放射材料になり得るのではないかと考えた。すなわち、鋳物砂はケイ砂を原料としており、さらにはケイ砂を所望の型に成形するための固化剤としてフェノール樹脂やフラン樹脂が含まれている。そして、この樹脂成分は、加熱されて炭化する。このため、廃鋳物砂には、炭素成分が含まれている。これに対して、ブラックシリカもチャート(珪藻類を起源とし、その主成分はシリカである)に黒鉛が含まれたものであり、廃鋳物砂の成分と良く似ている。また、遠赤外線放射率の高い黒鉛はカーボンからなり、廃鋳物砂の成分と共通する。このため、従来、廃鋳物砂中の不要な部分として焼成処理して取り除かれていた炭素成分を積極的に利用すべく、廃鋳物砂を焼成することなく遠赤外線放射材料として利用できるのではないかと考え、さらに鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の遠赤外線放射材料は、焼成していない廃鋳物砂である無焼成廃鋳物砂からなることを特徴とする。
【0011】
本発明者らの試験結果によれば、焼成していない廃鋳物砂の遠赤外線放射率は、従来から遠赤外線放射材料として用いられているSiCよりも優れており、コージェライトと比べてもそれほど遜色は無く、耐熱性にも優れ、遠赤外線放射材料として充分利用することができる。また、原料となる廃鋳物砂は、供給量が豊富である。さらには、焼成していない廃鋳物砂である無焼成廃鋳物砂を用いるため、製造に要するエネルギーが少なくてすみ、製造コストが極めて低廉であって、COの削減にもつながる。
【0012】
廃鋳物砂は、焼成していない無焼成廃鋳物砂であればそのまま用いることもできるが、篩い分けして粒子径が0.15mm以上のものを分別し、これを用いることが好ましい。発明者らの試験結果によれば、こうであれば、90%以上という優れた遠赤外線放射率を示す材料となる。
【0013】
このため、本発明の遠赤外線放射材料の製造方法では、廃鋳物砂を焼成することなく所定の粒子径以下の部分を分取する分取工程を備えることとした。
【0014】
さらに、本発明の遠赤外線放射材料の製造方法では、廃鋳物砂を水洗する洗浄工程と、廃鋳物砂に含まれる鉄類を除去する鉄除去工程とを備えることも好ましい。洗浄工程では廃鋳物砂が水洗されるため、廃鋳物砂に含まれている水溶性の有害物が除去される。このため、有害物の溶出のおそれが少ない遠赤外線放射材料となる。また、鉄除去工程では鉄類が除去されるため、遠赤外線放射材料中に鉄類がほとんど含まれず、鉄さびによって固化したり、赤く変色したりするのを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の遠赤外線放射材料をセメント等の固化材で固めておいてもよい。こうであれば、遠赤外線放射材料のハンドリングも容易となる。ここで、固化材としては、アルギン酸ソーダ、アクリル系の高吸水性樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等の有機ポリマー化合物や、酸化マグネシウム等の無機粉末等が挙げられる。
【0016】
本発明の遠赤外線放射材料は、産業界のさまざまな分野において、利用することが出来る。
例えば、本発明の遠赤外線放射材料を道路に散布して、融雪剤として用いたり、農地に散布して土壌の保温に用いたりすることができる。また、セメント等で固化した板材を床暖房や岩盤浴の素材として用いることができる。また、家屋や工場や畜舎等の床材や壁材に混在させ、暖房効率を向上させることにより、エネルギー消費量を削減し、CO削減に貢献することもできる。さらには、遠赤外線ヒータの素材として用い、これを金属製品や樹脂製品や家具木工品等の塗装乾燥・焼き付けに用いたり、金属製品、合板、木製品、紙、布、電気・電子機器部品等の印刷の乾燥に用いたり、木材、繊維・織物、紙・パルプ、化学品・薬品等の水分乾燥に用いたり、金属製品の洗浄後の乾燥に用いたり、樹脂やゴムや皮革の原料乾燥や硬化や加硫に用いたり、ガラスや建材や陶磁器の原料・生地の乾燥、予熱、印刷乾燥、釉薬予熱、接着等に用いたり、電気・電子部品の洗浄後乾燥、塗膜焼付に用いたり、印刷回路乾燥、外装印刷・塗装の乾燥、パッケージ素子の封止、焼成、半田リフロー等に用いたり、暖房や乾式サウナや温熱治療やヘアードライヤーに用いたりすることが挙げられる。また、食品産業分野としては、海苔や穀類や茶や野菜や果物や加工食品の乾燥に用いたり、魚介類の乾物・干物製造用として用いたり、麺類や練り物の硬化・変成、豆類・穀類粉末の変成(熱処理)に用いたり、パン焼きや米菓の焼成や焼き芋や焼き栗の製造に用いたり、ちくわや蒲鉾や食肉や魚介類等の焼上げに用いたり、茶の焙煎や火入れ、コーヒー豆、ナッツ、胡麻等の焙煎・焙焼に用いたり、調理食品の保温、冷凍食品等の解凍に用いたり、液状食材・飲料の乾燥・濃縮・熟成等に用いたりすることが挙げられる。また、グリルやオーブントースタや炊飯器等の加熱部分に設置して遠赤外線による加熱を行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態)
本発明の遠赤外線放射材料の原料となる廃鋳物砂については、鉄鋳物、アルミ鋳物、銅合金鋳物等に用いられた廃鋳物砂を用いることができる。この中でも鉄鋳物が特に好ましい。アルミ鋳物や銅合金鋳物では、アルミや銅合金が吸着材に混入するおそれがある。また、銅合金には鉛等の有害な重金属を含むこともあるからである。
【0018】
また、鋳物砂型には、ケイ砂、粘土、デンプン、植物性油、炭素等を含む生砂型や、ケイ砂、フェノール樹脂やフラン樹脂等の有機バインダー樹脂を含む有機砂型があるが、それらの何れも原料として用いることができる。
【0019】
鋳物工場から回収された上記の廃鋳物砂は、まず大きな固形物をスクリーン等により除去される。除去された固形物はロッドミル等で粉砕し、再度スクリーンで分級してもよい。こうして大きな固形物を除去された廃鋳物砂は、スパイラル洗浄機等で水洗され、磁選機によって鉄類が除去される。さらに分級機によって篩い分けされ、粒子径が0.15〜5mmの洗砂と、粒子径が0.15mm未満の微粒砂とに分級される。洗砂はストックヤードにて水切りして保管される。こうして洗砂を得ることができる。また、微粒砂はシックナーで撹拌濃縮された後、フィルタープレス等の脱水機によって脱水され30〜50質量%程度の含水率のケーキ状の洗土品が得られる。
こうして得られた洗砂品が粒子径0.15〜5mmの赤外線放射材料である。
また、こうして得られた洗土品が粒子径0.15mm未満の赤外線放射材料である。
【0020】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について説明する。
【0021】
(実施例1)
<固形物除去工程S1>
図1に示すように、まず固形物除去工程S1として、鉄鋳物工場から廃棄された廃鋳物砂を収集し、50mm及び5mmの2段階のスクリーンに通してガラス、金属、レンガ等の夾雑物を除去し、5mm未満の粒子径の部分を分取する。5〜50mmの分級部分については、ロッドミルで5mm未満の粒子径に破砕して5mm未満の粒子径とする。
【0022】
<洗浄工程S2>
次に洗浄工程S2として、固形物除去工程S1で分取された5mm未満の粒子をスパイラル洗浄機に送り、水洗浄を行う。
【0023】
<鉄除去工程S3>
さらに、洗浄工程S2によって洗浄された5mm未満の粒子中の鉄類を湿式磁選機を用いて除去する。
【0024】
<篩工程S4>
そして、バイブル分級機を用いて0.15mmφ以上の洗砂品と0.15mmφ未満の微粒砂とに分ける。
【0025】
<フィルタープレス工程S5>
さらに、篩工程S4によって得られた微粒砂をシックナーに送り、水中でゆっくり撹拌しながら沈殿濃縮し、得られた微粒砂の濃縮スラリーをフィルタープレス装置でろ過し、精製された洗土品を得た。
【0026】
こうして得られた洗土品が粒子径0.15mm未満の赤外線放射材料である。
また、上記篩工程S4で得られた洗砂品が粒子径0.15〜5mmの赤外線放射材料である。
【0027】
<評 価>
上記のようにして得られた洗土品及び洗砂品について、赤外線放射材料としての評価をするため、少量のセメントで固化し、その赤外線放射率を測定した。以下にその詳細を示す。
【0028】
(遠赤外線放射測定用試料の製造)
上記洗砂品90重量部と普通ポルトランドセメント10重量部と水35重量部とを混合し、50×50×5mmの板状に成形した。そして、2週間は密封養生し、その後1週間の水中養生を行い、最後に気中養生を1週間行った試料1を遠赤外線放射測定に用いた。
【0029】
また、上記洗土品85重量部と普通ポルトランドセメント15重量部と水50重量部とを混合し、50×50×5mmの板状に成形し、上記試料1の製造と同様の養生を行った試料2を遠赤外線放射測定に用いた。
【0030】
遠赤外線放射率の測定は、JIS R 1801により行った。測定装置の基本構成は,赤外放射スペクトルを測定するFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)、試料を裏面から加熱して試料表面温度を制御する試料加熱装置、及び分光放射率を算出する際に参照スペクトルとして用いる黒体放射を放射する黒体炉からなる。表面温度が100℃以上300℃未満となるように試料裏面から加熱し、波長4〜20μmの範囲で測定した。
【0031】
(測定結果)
洗砂品から製造した試料1についての測定結果を図2に示す。また、洗土品から製造した試料2についての測定結果を図3に示す。図3から、洗砂品から製造した試料1は平均で90.6%の高い遠赤外線の放射率を示すことが分かった。また、洗土品から製造した試料2についても平均で86.51%の高い遠赤外線の放射率を示すことが分かった。なお、どちらの試料も4μmから6μmにかけて放射率が低下しているが、これは廃鋳物砂に含まれていたシリカ分による影響と考えられる。
【0032】
試料1及び試料2の遠赤外線放射率を、他の遠赤外線放射材料の測定値(出典:遠赤外線セラミックスのすべて:オプトロニクス社、1989.2)と比較したものを表1に示す。この表から、試料1及び試料2は、コージェライトには及ばないものの、遠赤外線放射材料として従来より用いられているSiC(0.844)より大きな値となっており、高い遠赤外線放射率を有することが分かる。
【0033】
【表1】

【0034】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】試料1及び試料2の遠赤外線放射材料の製造工程図である。
【図2】試料1の遠赤外線放射率の測定結果を示すグラフである。
【図3】試料2の遠赤外線放射率の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
S1…固形物除去工程
S2…洗浄工程
S3…鉄除去工程
S4…分取工程
S5…フィルタープレス工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成していない廃鋳物砂である無焼成廃鋳物砂からなることを特徴とする遠赤外線放射材料。
【請求項2】
粒子径は0.15mm以上とされていることを特徴とする請求項1記載の遠赤外線放射材料。
【請求項3】
廃鋳物砂を焼成することなく所定の粒子径の部分を分取する分取工程を備えることを特徴とする遠赤外線放射材料の製造方法。
【請求項4】
さらに廃鋳物砂を水洗する洗浄工程と、
廃鋳物砂に含まれる鉄類を除去する鉄除去工程と、
を備えることを特徴とする請求項3記載の遠赤外線放射材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射材料を固化材で固めたことを特徴とする遠赤外線放射材料固化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−88125(P2011−88125A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245844(P2009−245844)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(505329118)有限会社ACRECO (6)
【Fターム(参考)】