説明

遠近両用表示装置および遠近両用表示方法

【課題】不特定多数の観察者までの距離に対応して異なる情報を同時に表示できるようにする。
【解決手段】遠近両用表示装置は少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとして管理するデータベース20と、このデータベース20から遠隔視点画像および近接視点画像を取得し、遠隔視点画像の輪郭をぼかし、近接視点画像の輪郭を強調し、これら遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる画像処理を行う画像処理回路21−24と、この画像処理の結果を表示するディスプレイ14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠くの観察者および近くの観察者に対して様々な情報を表示する遠近両用表示装置および遠近両用表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、平面ディスプレイの大型化が進み、このディスプレイが不特定多数の観察者に様々な情報を提供する掲示板や看板として利用されている。従来、近くの観察者用の表示領域および遠くの観察者用の表示領域を設け、遠くの観察者用の表示領域を近くの観察者用の表示領域よりも大きく設定する表示装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。この表示装置では、上述の表示領域がディスプレイに対する観察者の相対的な位置および距離の検出結果に従って切り換えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−145540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の表示装置では、観察者数が多くなると、表示装置の切り換えを適切に行うことが困難となる。また、この表示装置は不特定多数の観察者に対して異なる情報を同時に表示することを意図していない。
【0005】
本発明の目的は、不特定多数の観察者までの距離に対応して異なる情報を同時に表示できる遠近両用表示装置および遠近両用表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点によれば、少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとして管理するデータベースと、このデータベースから遠隔視点画像および近接視点画像を取得し、遠隔視点画像の輪郭をぼかし、近接視点画像の輪郭を強調し、これら遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる画像処理を行う画像処理回路と、この画像処理の結果を表示するディスプレイとを備える表示装置が提供される。
【0007】
本発明の第2観点によれば、少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとしてデータベースで管理し、このデータベースから遠隔視点画像および近接視点画像を取得し、遠隔視点画像の輪郭をぼかし、近接視点画像の輪郭を強調し、これら遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる画像処理を行い、この画像処理の結果を表示する遠近両用表示方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これら遠近両用表示装置および遠近両用表示方法では、遠隔視点画像および近接視点画像が取得されると、遠隔視点画像の輪郭がぼかされ、近接視点画像の輪郭が強調され、さらにこれら遠隔視点画像および近接視点画像が重ね合わされる。
【0009】
近接視点画像は近くの観察者に多くの情報を提供できるような小さいサイズの文字や図形でよく、遠隔視点画像は遠くの観察者に少ない情報を確実に提供できるような大きいサイズの文字や図形でよい。人間の視覚は、遠くに見える画像の細部を明確に識別できないが、近くに見える画像の細部を明確に識別する。この原理を利用し、遠隔視点画像、すなわち大きいサイズの文字や図形の輪郭をぼかして近くの観察者に対する視覚強度を減少させ、近接視点画像、すなわち小さいサイズの文字や図形の輪郭を強調して近くの観察者に対する視覚強度を増大させている。従って、遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせたとしても、近接視点画像の影響を排除して遠隔視点画像の情報を遠くの観察者に提供し、遠隔視点画像の影響を排除して近接視点画像の情報を近くの観察者に提供することができる。この結果、画像の切り換えを必要とせずに、不特定多数の観察者までの距離に対応して異なる情報を同時に表示できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠近両用表示装置の構成例を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示す遠近両用表示装置で行われる画像処理を示すフローチャートである。
【図3】図2に示す画像処理の結果として表示される画像から遠くの観察者および近くの観察者にそれぞれ提供されるメッセージを示す図である。
【図4】図2に示す画像処理の結果として実際に表示される画像の一例を計算機上でシミュレートして部分的に示す図である。
【図5】図1に示す遠近両用表示装置の第1応用例を示す図である。
【図6】図1に示す遠近両用表示装置の第2応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る遠近両用表示装置について添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1はこの遠近両用表示装置の構成例を概略的に示す。遠近両用表示装置は装置全体の動作を制御するCPU10、CPU10の制御プログラム、設定データ、および入出力データを保持するメモリ11、CPU10に対するコマンドやデータを入力する入力操作部12、画像の表示動作を制御する表示制御部13、表示制御部13の制御により画像を表示するディスプレイ14、ディスプレイ14に表示される画像に対応する音声の出力動作を制御する音声制御部15、音声制御部15の制御により音声を出力するスピーカ16、外部デバイスを接続するための整合をとる外部インターフェース17、外部デバイスとして外部インターフェース17に接続される人感センサ18を備える。CPU10はメモリ11に直接接続され、さらに内部バス19を介してメモリ11、入力操作部12、表示制御部13、および音声制御部15に接続される。
【0013】
さらに遠近両用表示装置は、少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとして管理するデータベース20、データベース20の遠隔視点画像および近接視点画像を独立したバスを介してアクセスするデータ制御部21、データベース20から取得される近接視点画像の輪郭を強調する近接視点画像用ハイパスフィルタ処理部22、データベース20から取得される遠隔視点画像の輪郭をぼかす遠隔視点画像用ローパスフィルタ処理部23、処理部22および23の処理結果として得られる遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる重ね合わせ演算処理部24を遠近両用の画像処理回路として備える。CPU10はさらに内部バス19を介してデータ制御部21、ハイパスフィルタ処理部22、ローパスフィルタ処理部23、および重ね合わせ演算処理部24にも接続される。データ制御部21はデータベース20に加えて外部インターフェース17にも接続される。近接視点画像用ハイパスフィルタ処理部22および重ね合わせ演算処理部24には、画像処理結果の画素階調値に適用される0以下の階調クリップ回路および256以上の階調クリップ回路が設けられている。また、遠隔視点画像用ローパスフィルタ処理部23は画像処理結果の画素階調値に適用される総係数除算機能を有する。
データベース20には、遠隔視点画像のストレージ20Aおよび近接視点画像のストレージ20Bが設けられる。例えばストレージ20Bでは、近接視点画像がこの画像に関連付けられた音声と一緒にデータファイルとして保持される。近接視点画像は近くの観察者に多くの情報を提供するサイズの文字や図形であって、遠隔視点画像は遠くの観察者に少ない情報を確実に提供する近接視点画像の文字や図形よりも大きいサイズの文字や図形である。
【0014】
図2は図1に示す遠近両用表示装置で行われる画像処理を示す。この画像処理では、データ制御部21がブロックB1,B2で並列的に遠隔視点画像および近接視点画像をデータベース20から読み出す。ローパスフィルタ処理部23はブロックB3で輪郭をぼかすように画像を平滑化するm×m(例えば3×3)のパラメータ行列を用いた畳み込み演算を遠隔視点画像に対するローパスフィルタ処理として行う。ここで、処理結果の階調値の範囲は総係数除算により適正化される。ハイパスフィルタ処理部22はブロックB4で輪郭を強調するように画像のエッジ成分を抽出するn×n(例えば3×3)のパラメータ行列を用いた畳み込み演算を近接視点画像に対するハイフィルタ処理として行う。ここで、輪郭強調のため、行列係数の和が「0」になるようにする。このため、処理結果の画素階調値は例えば8ビットの範囲に収めるために0以下および256以上の値に対してクリップされる。重ね合わせ演算処理部24はブロックB5,B6でローパスフィルタ処理部23から得られた遠隔視点画像およびハイパスフィルタ処理部22から得られた近接視点画像をそれぞれ特定の画像サイズに変換する。続いて、重ね合わせ演算処理部24はブロックB7で遠隔視点画像Lおよび近接視点画像Hの重ね合わせ処理をパラメータαに対して((1−α)L+αH)/αの関係で行い、ブロックB8で処理結果の画像をディスプレイ14へ出力する。ちなみに、重ね合わせ演算処理部24の画像処理結果は、CPU10の制御によって外部インターフェース17からさらに他の表示デバイスに出力されてもよい。尚、ハイパスフィルタ処理部22およびローパスフィルタ処理部23では、近接視点画像または遠隔視点画像を構成する各画素の輝度成分の階調のみについて処理され、色成分についてはそのまま維持する。
【0015】
また、CPU10は人感センサ18がディスプレイ14の近傍に近づいた近接視点画像の表示対象となる観察者を検出した場合に、データベース20を利用して近接視点画像(文字や図形)の表示位置や表示内容を変更したりする。また、近接視点画像の表示内容を変更に伴って表示内容を説明する音声メッセージを出力したり、表示内容が変更されたことを示す特定音を出力したりする。
【0016】
図3は、図2に示す画像処理の結果として表示される画像から遠くの観察者および近くの観察者にそれぞれ提供されるメッセージを示す。遠くの観察者はディスプレイ14に表示された画像から「TOSHIBA」というメッセージを認識する。他方、近くの観察者は「デジタルメディアネットワーク社 セミコンダクター社 …」というメッセージを認識する。このとき、遠くの観察者および近くの観察者は互いに他方の観察者によって認識されるメッセージを実質的に認識しない。
【0017】
ちなみに、図4が図2に示す画像処理の結果として実際に表示される画像の一例を計算機上でシミュレートして部分的に示す。図4から明らかなように、大きい文字の輪郭はぼかされ、小さい文字の輪郭は強調されている。
【0018】
図5は遠近両用表示装置の第1応用例を示す。ここでは、遠近両用表示装置が図5において右側の建物に隣接して設けられたディスプレイに応用されている。このディスプレイ上の画像は遠くの観察者に会社の看板やランドマーク(ここでは、「TOSHIBA」)の情報を提供し、近くの観察者に館内案内のような情報を提供する。また、遠近両用表示装置は図5において左側の飲食店の窓ガラスに組み込まれたディスプレイにも応用されている。このディスプレイ上の画像は遠くの観察者に飲食店のトレードマーク(ここでは、「WW」)の情報を提供し、近くの観察者に特売品や、新作メニューの情報を提供する。従来は、このような2種類の異なる情報は、異なる表示領域に表示するか、重複する表示領域において画像を切り替える必要があった。しかし、この応用例では遠くの観察者および近くの観察者へのメッセージを同時に発信できる。
【0019】
図6は遠近両用表示装置の第2応用例を示す。近年では、オフィースのオープンスペースで行われる会議も増えている。ここでは、遠近両用表示装置がこの会議で使用されるプロジェクタやTVに応用されている。この場合、遠くの観察者は、例えば何の会議で何時に終わるのかの情報を得ることができる(割り込んでよいのかの判断ができる)。第1応用例と同様に遠くの観察者および近くの観察者へのメッセージを同時に発信できる。従って、お互いの業務を邪魔しない配慮ができるようになった。
【0020】
これら本実施形態では、遠隔視点画像および近接視点画像がデータベース20から取得されると、遠近両用の画像処理として、遠隔視点画像の輪郭がローパスフィルタ処理部23でぼかされ、近接視点画像の輪郭がハイパスフィルタ処理部22で強調され、さらにこれら遠隔視点画像および近接視点画像が重ね合わせ演算処理部24で重ね合わされる。この画像処理は、近接視点画像の影響を排除して遠隔視点画像の情報を遠くの観察者に提供し、遠隔視点画像の影響を排除して近接視点画像の情報を近くの観察者に提供することになる。従って、画像の切り換えを必要とせずに、不特定多数の観察者までの距離に対応して異なる情報を同時に表示できるようになる。
【0021】
尚、本発明は上述の実施形態に限定されず、発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変形可能である。
【0022】
上述の実施形態では、遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせて表示する画像処理について説明したが、データベース20が遠隔視点画像および近接視点画像に加えて例えば中距離視点画像をデータファイルとして管理し、画像処理回路が中距離視点画像に対しても画像処理を行ってディスプレイ14からの距離によって見え方の変わる画像をさらに重ねて表示させることにより遠くの観察者、中距離の観察者、および近くの観察者が他の観察者と異なる情報を認識できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0023】
10…CPU、14…ディスプレイ、20…データベース、21…データ制御部、22…近接視点画像用ハイパスフィルタ処理部、23…遠隔視点画像用ローパスフィルタ処理部、24…重ね合わせ演算処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとして管理するデータベースと、
このデータベースから遠隔視点画像および近接視点画像を取得し、遠隔視点画像の輪郭をぼかし、近接視点画像の輪郭を強調し、これら遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる画像処理を行う画像処理回路と、
この画像処理の結果を表示するディスプレイとを備えることを特徴とする遠近両用表示装置。
【請求項2】
前記ディスプレイの近傍に近づいた観察者を検出する人感センサと、
前記人感センサにより観察者を検出した場合に前記近接視点画像の表示内容を変更するコントローラをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の遠近両用表示装置。
【請求項3】
前記コントローラは前記近接視点画像の表示内容を変更に伴って音声を出力することを特徴とする請求項2に記載の遠近両用表示装置。
【請求項4】
前記近接視点画像は近くの観察者に多くの情報を提供するサイズの文字や図形であって、前記遠隔視点画像は遠くの観察者に少ない情報を確実に提供する近接視点画像の文字や図形よりも大きいサイズの文字や図形であることを特徴とする請求項1に記載の遠近両用表示装置。
【請求項5】
前記画像処理回路は前記ディスプレイからの距離によって見え方の変わる画像をさらに表示画像に重ねることを特徴とする請求項1に記載の遠近両用表示装置。
【請求項6】
少なくとも遠隔視点画像および近接視点画像をデータファイルとしてデータベースで管理し、
このデータベースから遠隔視点画像および近接視点画像を取得し、
遠隔視点画像の輪郭をぼかし、近接視点画像の輪郭を強調し、これら遠隔視点画像および近接視点画像を重ね合わせる画像処理を行い、
この画像処理の結果を表示することを特徴とする遠近両用表示方法。
【請求項7】
前記近接視点画像の表示対象となる観察者を人感センサにより検出して前記近接視点画像の表示内容を変更することを特徴とする請求項6に記載の遠近両用表示方法。
【請求項8】
前記近接視点画像の表示内容を変更に伴って音声を出力することを特徴とする請求項7に記載の遠近両用表示方法。
【請求項9】
前記近接視点画像は近くの観察者に多くの情報を提供するサイズの文字や図形であって、前記遠隔視点画像は遠くの観察者に少ない情報を確実に提供する近接視点画像の文字や図形よりも大きいサイズの文字や図形であることを特徴とする請求項6に記載の遠近両用表示方法。
【請求項10】
画像表示位置からの距離によって見え方の変わる画像をさらに表示画像に重ねることを特徴とする請求項6に記載の遠近両用表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13385(P2011−13385A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156274(P2009−156274)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】