説明

遮水型護岸の開口部締切工法

【課題】自然石等を用いた傾斜堤により遮水型護岸の開口部を締め切る際に、施工水域の潮位差に起因する揚圧力の影響を可能な限り排除する。
【解決手段】基礎マウンド26の天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面Wsを確保可能な第1の天端高H1を設定し、第1の天端高H1から堤内底面部に至る第1の遮水構造体24を造成する。通水断面Wsを通じて、堤外と堤内との水交換を可能としつつ、堤外から基礎マウンド26を浸透して第1の遮水構造体24の裏面に作用する揚圧力の影響を、可能な限り小さく抑える。以後の、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高H2から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する工程では、第1の遮水構造体24により、堤外からの揚圧力の影響を排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水型護岸の開口部締切工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水域における管理型廃棄物処分場等の造成には、堤内から堤外への有害物質の漏出を防ぐための高い遮水性が要求されることから、一般に、遮水型護岸が用いられる。その造成手順は、通常、図13に示されるように、枠状の護岸12を、自然石等を用いた傾斜堤、鋼製の矢板(例えば、特許文献1)、ケーソン等のコンクリート製の構造物(例えば、特許文献2)を用い、これらを延長して最終的に残った開口部14を結合して、全体を締め切る工法が採用されている。この、護岸12の開口部14の締め切りにも、図14(a)(b)に示されるように、鋼製の板16や、コンクリート製の構造物18を用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−206220号公報
【特許文献2】特開2003−71401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、護岸12の開口部14の締め切りに、鋼製の矢板16やコンクリート製の構造物18を設置する手法は、それ自体の調達に多くの時間と費用とを要するものである。又、護岸12を自然石等を用いた傾斜堤にて築造する場合には、鋼製の矢板16やコンクリート製の構造物18と、自然石等を用いた傾斜堤として築造された護岸12との接続部分の遮水構造を、別途特殊な工法で施工する必要がある。
そこで、護岸12を自然石等を用いた傾斜堤にて築造する場合には、護岸12の開口部14についても、自然石等を用いた傾斜堤により締め切ることとすれば、堤体の全体にわたる工法の共通化が図られ、種々の利点を有することとなる。一方、鋼製の矢板16やコンクリート製の構造物18を設置する手法に比べ、施工水域での工期が長くなることから、この間の潮位差に起因して、次のような問題が生じることとなる。
【0005】
護岸12の堤外水位は満潮・干潮の間で変動を繰り返すが、施工水域が護岸12の延長に伴い徐々に塞がれることで内面保有水Win(図13)を有し、開口部14が締め切られるまでは、開口部14を通じて堤外と堤内との水交換が生じることとなる。従って、堤外と堤内と水交換量が制限され、図15に示されるように、堤外水位の変動、すなわち、満潮時の水位(以下、「H.W.L.」ともいう。)と干潮時の水位(以下、「L.W.L.」ともいう。)との間で繰り返される水位変動と、堤内水位の変動とに位相差が生じることとなる。そして、堤外水位が堤内水位よりも高い時には、水位差に起因する静水圧が、堤体を構成する自然石の隙間を介して、護岸12内の遮水構造体に作用する。又、堤外の波力も、同様に遮水構造体に作用する。
ここで、護岸12が自然石等を用いた傾斜堤として構築される場合には、図16に示されるように、その内部構造として遮水構造体20が設けられるが、開口部14を塞ぐ護岸12の完成前の、遮水構造体20が堤内側斜面に露出した状態では、裏面に静水圧や波力等の揚圧力Pが作用することで、遮水構造体20が浮き上がり、護岸12の遮水性を損なう恐れがある。
【0006】
対して、堤内水位が堤外水位よりも高い時には、内面保有水Winが遮水構造体20を堤内側傾斜面(法面部)に押し付け、堤外からの揚圧力Pに対抗することから、上記の問題は生じない。又、図16に示されるように、遮水構造体20が砕石22で覆われた後は、砕石22が錘となって、遮水構造体20は安定する。そこで、遮水構造体20の敷設以降、それが砕石22で覆われるまでの間、ポンプ等を用いて人為的に堤内水位を調整することで、遮水構造体20の浮き上がりを防ぐことも可能である。しかしながら、堤内の保有水面積が大きくなると、堤内水位の調整設備もそれに応じて大規模なものが必要となり、遮水型護岸の建設費の増大を招くことにもなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、遮水型護岸の開口部を締め切る際に、施工水域の潮位差に起因する揚圧力の影響を可能な限り排除し、自然石等を用いた傾斜堤により、遮水性の高い遮水型護岸を造成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0009】
(1)遮水型護岸の開口部締切工法であって、
開口部に隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成し、
該基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、
該第1の天端高から堤内底面部に至る遮水層を造成し、
前記遮水層の表面に錘を配置し、
該遮水層の堤内先端部を覆う変形追随性遮水材層を打設し、
前記第1の天端高以深部へと砕石を投入して、
第1の遮水構造体を造成し、
前記第1の遮水構造体の上部に、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する、各工程を含む遮水型護岸の開口部締切工法(請求項1)。
【0010】
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、開口部においても、それと隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成することで、堤体構造の一部共通化を図るものである。ここで、「自然石等」とは、自然石、砕石、コンクリートブロック等の塊片が含まれ、工区に適した大きさのものが用いられる。
又、基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、該第1の天端高から堤内底面部に至る第1の遮水構造体を先行造成することで、時間が長く必要な底面遮水工施工時に、堤外と堤内との水交換を可能とし、潮位差を小さくしつつ、堤外から基礎マウンドを浸透して遮水層の裏面に作用する揚圧力の影響を、可能な限り小さく抑えるものである。
【0011】
すなわち、第1の天端高を満潮時の水位よりも低い天端高に設定することで、第1の遮水構造体の造成中、開口部に残る通水断面を通じて堤外と堤内との水交換が生じることにより堤内水位を、堤外水位に近づけることが可能となり、潮位差が小さくなる。そして、堤外水位が堤内水位よりも高い時を除き、内面保有水が遮水層を堤内側傾斜面に押し付け、堤外から基礎マウンドを浸透して遮水層の裏面に作用する揚圧力に対抗する。一方、堤外水位が堤内水位よりも高い時には、遮水層の表面に配置する錘により、堤外から基礎マウンドを浸透して遮水層の裏面に作用する揚圧力に対抗するものとなる。
従って、遮水層の堤内先端部を覆う変形追随性遮水材層を打設する際に、遮水層の裏面に作用する揚圧力により、遮水層が破損することを防ぐことができる。以上の点を考慮し、第1の天端高は、施工水域の潮位差を考慮して、堤外水位が堤内水位よりも高い状態、すなわち、遮水層の裏面に揚圧力が作用する時間比率が可能な限り短くなるように、設定されるものである。
【0012】
更に、干潮時の水位を挟んで中間水位(以下、「M.W.L.」ともいう。図15参照。)以下の時間帯では、第1の天端高は気中となり、陸上施工が可能となる。
そして、遮水層の堤内先端部を覆うように、変形追随性遮水材層を打設することにより、第1の天端高から堤内底面部に至る範囲の遮水を完了し、以後の、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する工程では、堤外からの揚圧力の影響を排除するものである。
【0013】
(2)上記(1)項の、前記遮水層を造成する工程において、遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設し、該遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、前記錘を、前記第1の天端高から堤内底面部へと複数配置する遮水型護岸の開口部締切工法(請求項2)。
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設し、該遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、前記錘を、前記第1の天端高から堤内底面部へと複数配置することで、遮水シートの敷設中に、遮水シートを錘によって基礎マウンドの傾斜法面に確実に押え付ける。そして、遮水シートの裏面に揚圧力が作用することがあっても、錘によってそれに対抗し、遮水シートの浮き上がりを防ぐものである。
【0014】
(3)遮水型護岸の開口部締切工法であって、
開口部に隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成し、
該基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、
前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部から所定距離を空けて、前記第1の天端高へ到達する高さを有する第1の法先ブロックを据付け、
前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部と前記第1の法先ブロックとの間に、前記第1の法先ブロックの高さに合わせて裏込石の投入・均しを行い、
該裏込石を合成樹脂製ジオグリッドで押え付けた後、前記第1の天端高から堤内底面部に至る範囲に切込砕石の投入・均しを行い、
該切込砕石の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第2の法先ブロックを据付け、
堤内底面部の、前記第2の法先ブロックから前記切込砕石に至る範囲に、変形追随性遮水材を薄く打設し、
遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設し、該遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、複数の土のうを、前記第1の天端高から堤内底面部へと配置し、
前記第2の法先ブロックから前記遮水シートに至る範囲に、前記打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設し、
前記第1の天端高から前記第2の法先ブロックに至る範囲に、前記第1の天端高まで中間砕石を投入して、前記遮水シートを前記土のうと共に埋設し、
前記第1の天端高から、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高まで、前記遮水シートを接続・延長して、第1の遮水構造体を造成し、
該第1の遮水構造体を覆うようにして、前記第2の天端高から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する、各工程を含む遮水型護岸の開口部締切工法(請求項3)。
【0015】
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、開口部においても、それと隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成することで、堤体構造の一部共通化を図るものである。
又、基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、該第1の天端高から堤内底面部に至るように遮水シートを敷設し、更に、第1の天端高から、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高まで、遮水シートを接続・延長して、第1の遮水構造体を造成することで、堤外と堤内との水交換を可能としつつ、堤外から基礎マウンドを浸透して第1の遮水構造体の裏面に作用する揚圧力の影響を、可能な限り小さく抑えるものである。
【0016】
すなわち、第1の天端高を満潮時の水位低い天端高に設定することで、第1の遮水構造体の造成中、開口部に残る通水断面を通じて堤外と堤内との水交換が生じ、堤外水位が堤内水位よりも高い時を除き、内面保有水が遮水シートを堤内側傾斜面に押し付け、堤外から基礎マウンドを浸透して遮水シートの裏面に作用する揚圧力に対抗する。一方、堤外水位が堤内水位よりも高い時には、遮水シートの表面に配置する土のうにより、堤外から基礎マウンドを浸透して遮水シートの裏面に作用する揚圧力に対抗するものである。しかも、遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、複数の土のうを、第1の天端高から堤内底面部へと配置することで、遮水シートの敷設中に、敷設が完了した範囲の遮水シートを土のうによって基礎マウンドの傾斜法面に確実に押え付ける。
そして、第2の法先ブロックから遮水シートに至る範囲に、打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設する間に、遮水シートの裏面に揚圧力が作用することがあっても、土のうにより遮水シートの表面を押え付け、遮水シートの裏面に作用する揚圧力により、遮水シートが破損することを防ぐことができる。
【0017】
更に、干潮時の水位を挟んで中間水位以下となる時間帯では、第1の天端高は気中となり、陸上施工が可能となる。
そして、第2の法先ブロックから遮水シートに至る範囲に、打設した変形追随性遮水材を覆うようにして、変形追随性遮水材層を追打設することにより、第1の天端高から堤内底面部に至る範囲の遮水を完了し、以後の、第1の天端高から、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高までの遮水層の接続・延長、及び、第1の遮水構造体を覆い堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する工程では、堤外からの揚圧力の影響を排除するものである。
【0018】
(4)上記(3)項の、前記遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設する工程において、前記遮水シートの前記第1の天端高側端部に所定幅の予備部を設け、
前記遮水シートを前記土のうと共に埋設する工程において、前記遮水シートの予備部を除く、前記第1の天端高から前記第2の法先ブロックに至る範囲に中間砕石を投入した後、該中間砕石の上面に前記遮水シートの予備部を折り返し、
前記基礎マウンドの天端面の、前記第1の法先ブロックが据え付けられた場所よりも堤外側の位置に、前記第2の天端高へ到達する高さを有する方塊ブロックを据付け、
該方塊ブロック、前記第1の法先ブロック、及び、前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部と前記第1の法先ブロックとの間に投入された裏込石とを覆うようにして、前記方塊ブロックの高さに合わせて裏込石の再投入・均しを行い、
該再投入された裏込石を合成樹脂製ジオグリッドで押え付け、これらの上面を、前記中間砕石の上面に折り返した前記遮水シートの予備部で覆い、
前記中間砕石の上面に、前記第2の天端高に至るまで中間砕石を追加投入し、前記遮水シートの予備部の、再投入された裏込石及び前記合成樹脂製ジオグリッドの上面を覆う部分を、前記追加投入した中間砕石により埋設する遮水型護岸の開口部締切工法(請求項4)。
【0019】
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、遮水シートを前記土のうと共に埋設する工程において、遮水シートの予備部を除く、前記第1の天端高から前記第2の法先ブロックに至る範囲に中間砕石を投入した後、該中間砕石の上面に前記遮水シートの予備部を折り返し、再投入された裏込石及び合成樹脂製ジオグリッドの上面を、中間砕石の上面に折り返した遮水シートの予備部で覆うことで、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高から堤内底面部に至る範囲を、第1の遮水構造体に係る遮水シートで覆い、遮水性を確保するものである。
又、遮水シートの予備部のうち、再投入された裏込石及び合成樹脂製ジオグリッドの上面を覆う部分を除く部分を、前記追加投入した中間砕石により埋設することで、遮水シートの予備部の裏面に作用する揚圧力により、遮水シートの予備部が破損することを防ぐことができる。
【0020】
(5)上記(3)、(4)項の、前記第2の遮水構造体を造成する工程において、
前記方塊ブロックの上面に上部コンクリートを打設し、
前記中間砕石の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第3の法先ブロックを据付け、
堤内底面部の、前記第3の法先ブロックから前記中間砕石に至る範囲に、変形追随性遮水材を打設し、
前記中間砕石を覆うようにして、前記方塊ブロックの上面から前記第3の法先ブロックに至るまで第2の遮水シートを敷設し、
前記第3の法先ブロックから前記第2の遮水シートに至る範囲に、前記打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設し、
前記上部コンクリートから前記第3の法先ブロックに至る範囲を、砕石で被覆する遮水型護岸の開口部締切工法(請求項5)。
【0021】
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、堤内底面部の、第3の法先ブロックから中間砕石に至る範囲に、変形追随性遮水材を打設し、中間砕石を覆うようにして、方塊ブロックの上面から前記第3の法先ブロックに至るまで第2の遮水シートを敷設することで、二重の遮水シートにより確実に遮水性を有するものとなる。
又、第3の法先ブロックから第2の遮水シートに至る範囲に、打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設し、第2の天端高から堤内底面部に至る範囲の遮水を完了するものである。その後、上部コンクリートから前記第3の法先ブロックに至る範囲を、砕石で被覆することで、第2の遮水シートを安定保持するものである。
【0022】
(6)上記(5)項において、第2の遮水シートを敷設する工程において、前記遮水シートの予備部のうち、前記追加投入した中間砕石により埋設されていない部分に、第2の遮水シートの天端側端部を重ねる遮水型護岸の開口部締切工法。
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、前記遮水シートの予備部のうち、前記追加投入した中間砕石により埋設されていない部分に、第2の遮水シートの天端側端部を重ねるようにして敷設することで、第2の天端高において、二重の遮水シートが、堤体上方から二重の遮水シートの間への、堤内の保有水又は堤外の水の浸水を防ぐものである。
【0023】
(7)上記(1)から(6)項において、施工水域の潮位変動に起因する、堤外水位の変動と、堤内水位の変動とが最小となるように、開口部幅を設定する遮水型護岸の開口部締切工法。
本項に記載の遮水型護岸の開口部締切工法は、予め、施工水域の潮位変動に起因する、堤外水位の変動と、堤内水位の変動とが最小となるように、開口部幅を設定することで、堤外と堤内との水交換を可能としつつ、堤外から基礎マウンドを浸透して第1の遮水構造体の裏面に作用する揚圧力を、可能な限り小さく抑えるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明はこのように構成したので、遮水型護岸の開口部を締め切る際に、施工水域の潮位差に起因する揚圧力の影響を可能な限り排除し、自然石等を用いた傾斜堤により、遮水性の高い遮水型護岸を造成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る遮水型護岸の開口部締切工法において、その中間段階で開口部に造成される、第1の天端高から堤内底面部に至る第1の遮水構造体を示す模式図である。
【図2】図1に示される開口部に造成された第1の遮水構造体の断面図を、施工水域の潮位の変化と共に示した説明図であり、(a)は満潮時、(b)は最大下げ潮時又は最大上げ潮時、(c)は干潮時を示すものである。
【図3】本発明の実施の形態に係る、遮水型護岸の開口部締切工法を示すフローチャートである。
【図4】(a)〜(f)は、図3のS10〜S60に係る施工断面図である。
【図5】(a)〜(f)は、図3のS70〜S100に係る施工断面図である。
【図6】(a)〜(f)は、図3のS110〜S180に係る施工断面図である。
【図7】(a)は図3のS10に係る作業工程を、(b)、(c)は同S20に係る作業工程を示す説明図である。
【図8】(a)、(b)は図3のS30に係る作業工程を、(c)は同S40に係る作業工程を、(d)は同S50に係る作業工程を示す説明図である。
【図9】(a)は図3のS60に係る作業工程を、(b)は(a)のA部拡大図である。
【図10】(a)は図9に係る作業工程を示すフローチャート、(b)は(a)に対応する作業工程図である。
【図11】(a)は図3のS70に係る作業工程を、(b)、(c)は同S80に係る作業工程を示す説明図である。
【図12】(a)は図3のS90に係る作業工程を、(b)は同S100に係る作業工程を、(c)、(d)は同S110に係る作業工程を示す説明図である。
【図13】開口部を残した遮水型護岸の模式図である。
【図14】(a)は、護岸の開口部の締め切りに鋼製の板を用いる場合を、(b)は同コンクリート製の構造物を用いる場合を示す説明図である。
【図15】図13に示される、開口部を残した遮水型護岸の堤外水位の変動、堤内水位の変動を示すグラフである。
【図16】遮水型護岸の開口部を、自然石等を用いた傾斜堤とした場合の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1、図2には、本発明の実施の形態に係る遮水型護岸の開口部締切工法の中間段階で、開口部に先行造成される、第1の遮水構造体24が模式的に示されている。第1の遮水構造体24は、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面Wsを確保可能な天端高(第1の天端高)H1となるように、形成される。
【0027】
より具体的には、第1の遮水構造体24の、第1の天端高H1は、図2(a)に示されるように、満潮時の水位(H.W.L.)では、通水断面Wsを通じて、堤外から堤内に水が流入して、堤内水位も満潮時の水位(H.W.L.)となり、図2(b)に示されるように、堤外が中間水位(M.W.L.)に低下すると、通水断面Wsを通じて、堤内から堤外に水が流出して、堤内水位も中間水位となり、以後、図2(c)に示される干潮時の水位(L.W.L.)に至る間は、第1の遮水構造体24の天端面は気中に露出し、堤内は中間水位(M.W.L.)が維持されるように、設定されるものである。
なお、第1の遮水構造体24が造成される開口部14の開口幅Lは、施工水域の潮位変動に起因する、堤外水位の変動と、堤内水位の変動との差が最小となるように設定されている。
【0028】
ここで、本発明の実施の形態に係る、中間段階で第1の遮水構造体24が造成される工程を含む、遮水型護岸の開口部締め切り手順を説明する。なお、以下の説明では、図3のフローチャートを主に参照し、工程の進行に伴い、図1、図2、図4〜図12を適宜参照するものとする。
S0(図4(a)参照):基礎捨石(30〜100kg/個)の投入・均しを行い、開口部14に隣接する、自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンド26を造成する。
S10(図4(b)参照):基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面Ws(図2(a)参照)を確保可能な第1の天端高H1を設定する。そして、基礎マウンド26の天端面の堤内側端部から所定距離を空けて、第1の天端高H1へ到達する高さを有する第1の法先ブロック28を据え付ける。第1の法先ブロック28は、1.3(m)×1.3(m)×2.0(m)の直方体であり、その据え付け作業には、図7(a)に示されるように、堤内に配置した起重機船30が用いられる。
法先ブロック28は、後工程(S20)にて施工する裏込石の捨石本均し面への飛散・こぼれ防止と、合成樹脂製ジオグリッド施工時(S30)の天端ロープ固定用に、複数設置されるものである。又、第1の法先ブロック28は、後工程(S90)において、基礎マウンド26の天端面に据え付けられる方塊ブロック70の設置位置を考慮して、それよりも基礎マウンド26の天端面の堤内側端部寄りに設置される。
【0029】
S20(図4(c)参照):第1の法先ブロック28の据付完了後、基礎マウンド26の天端面の堤内側端部と第1の法先ブロック28との間に、第1の法先ブロック28の高さに合わせて裏込石34(1〜70kg/個)の投入・均しを行う。裏込石34の投入作業には、図7(b)に示されるように、堤外に配置されたガット船36が用いられる。又、裏込石34の均しは、図7(c)に示されるようにバックホウ38が用いられ、必要に応じ潜水士による作業も行われる。
【0030】
S30(図4(d)参照):続いて、基礎マウンド26の天端面の堤内側端部と第1の法先ブロック28との間に、投入され均された裏込石34の上に、図8(a)に示されるように、堤内に配置した起重機船30を用いて、合成樹脂製ジオグリッド40を設置する。合成樹脂製ジオグリッド40は、筒状に形成された合成樹脂製の網の内部に、切込砕石42を充填したものであり、潮位変動による潮流や波浪の影響により、切込砕石42が洗掘、流出することを防ぐため、第1の天端高H1から所定深さに至るように、複数並列に設置される。そして、合成樹脂製ジオグリッド40により、裏込石34を押え付けた後、合成樹脂製ジオグリッド40の下方から、堤内底面部に至る範囲に切込砕石42(20〜60mm)の投入・均しを行う。合成樹脂製ジオグリッド40の間に隙間がある場合には、これらの隙間を埋めるように、第1の天端高H1から堤内底面部に至る範囲に、切込砕石42の投入・均しを行う。
切込砕石42の投入・均し作業は、図8(b)に示されるように、堤外側に配置した起重機船30にガット船36を接舷し、切込砕石42をガット船36から起重機船30に積み込み、更に堤内側に配置したバックホウ台船44へと切込砕石42を積み替えて行う。更に、必要に応じ、潜水士により均し作業を行う。
【0031】
S40(図4(e)参照):切込砕石42の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第2の法先ブロック46を据え付ける。第2の法先ブロック46は、第1の法先ブロック28よりも小さな0.7(m)×0.7(m)×2.0(m)の直方体であり、図8(c)に示されるように、堤内側の起重機船30にて、潜水士48の指示のもとで作業を行う。第2の法先ブロック46の据え付け後、必要に応じ、後述の変形追随性遮水材(アスファルトマスチック)打設時のブロック目地間からの漏洩対策として、漏洩防止マットが敷設される。
【0032】
S50(図4(e)参照):堤内底面部の、第2の法先ブロック46から切込砕石42に至る範囲に、変形追随性遮水材50を薄く打設する。図示の例では、変形追随性遮水材50の打設の厚みは、t=0.15mである。変形追随性遮水材50の打設作業は、図8(d)に示されるように、所定の温度に加熱した変形追随性遮水材50を打設バケット52に移し、堤外側の起重機船30にて打設バケット52を堤内側の台船54へと積み込む。そして、堤内側の起重機船30にて打設バケット52を吊り、潜水士48の指示により行うものである。
【0033】
S60(図4(f)参照):第1の天端高H1から堤内底面部に向けて遮水シート56(遮水層)を敷設し、第1の天端高H1から堤内底面部に至る第1の遮水構造体24(図1、図2参照)を造成する。
この際、潮位が第1の天端高H1付近に近づくにつれ、遮水シート56の挙動は、以下のようになる。まず、下げ潮時は、潮流は堤内から堤外へ向けて発生し、遮水シート56は、傾斜堤の内側斜面に張り付くか、若しくはしわになる。一方、上げ潮時には、潮流は堤外から堤内へ向けて発生し、遮水シート56に揚圧力P(図16参照)が作用する。従って、敷設作業終了毎に、下げ潮時及び上げ潮時の潮流が遮水シート56に及ぼす影響を見極め、次の敷設作業開始までの間に遮水シート56が破損しないよう、仮養生を完了する必要がある。又、遮水シート56の敷設時以降は、遮水シート56の裏面に揚圧力Pが作用することから、これを押え付けるために、大型土のう58(有効水中重量400kg/m)を一定ピッチ(2m間隔)で、遮水シート56の敷設を完了した範囲に配置する。以上の、遮水シート56の敷設作業は、具体的には図10に示されるサブルーチンとなる。
【0034】
S601:工場において、三層構造の遮水シート56を製作する。そして、遮水シート56の原反ロールを現場に搬入し、幅広加工を行う。この幅広加工は、現場に隣接する陸上ヤード若しくは海上の作業台船上にて、原反ロール(幅2m)を複数本(例えば15本)広げ並べて配置し、遮水シート56の長手方向の端部同士を熱溶着にて接続し(原反ロール15本の場合、幅30mとなる。)、幅広加工した遮水シート56上にブイを取り付け、浮力を確保した状態で海面上に引き出し、遮水シート56の敷設箇所に海上運搬する。
S602:幅広加工に続いて海上溶着を行う。この海上溶着は、遮水シート56の敷設箇所に海上運搬された、幅広加工した遮水シート56同士を接続するために、小型の作業台船を幅広加工した遮水シート56の間に差し込み、幅広加工した遮水シート56の端部を小型の作業台船上に人力等により引き上げ、水分を除去した後に、上記幅広加工と同様に、互いに熱溶着して接続するものである。
【0035】
S603:海上溶着完了後、一体化した遮水シート56を海面に浮遊させた状態で、その天端側端部を第1の天端高H1(一例として、施工水域のM.W.L+1.3m、L.W.L±0.0m)に引き上げて、天端固定を行っていく。この際、遮水シート56の天端側端部を確実に位置決めするために、図9(a)(b)に示されるように、基礎マウンド26の天端面上に、山留材60を設置し、遮水シート56の天端部を、ロープ62で山留材60に固定する。更に、揚圧力Pに対抗するために、遮水シート56の天端部近傍を、敷鉄板64及びコンクリートブロック66によって、基礎マウンド26の天端面上に押え付ける。その後、大型土のう58を設置して、遮水シート56の天端部の養生を行う。
【0036】
S604〜S608:遮水シート56の天端部に続き、傾斜堤の法面部について、上方から下方に向けて、遮水シート56の敷設作業を進行させる。又、遮水シート56の進行に合わせて、複数の土のう58を、第1の天端高H1から堤内底面部へと配置していく。
S609:傾斜堤の法尻及び堤内底面部まで遮水シート56を敷設する。又、後工程の変形追随性遮水材50の追打設時(S70)に、遮水シート56が浮き上がる事を防ぐために、大型土のう58を法尻部に密に(堤体の延長方向に隙間なく)設置する。
以上により、遮水シート56の敷設作業が完了する。
【0037】
S70(図5(a)参照):遮水シート56の敷設完了の後、第2の法先ブロック46から遮水シート56の法尻部に至る範囲に、打設した変形追随性遮水材50を覆うようにして、更に、変形追随性遮水材50を追打設する。図示の例では、変形追随性遮水材50の追打設の厚みは、t=0.5mである。本工程においても、変形追随性遮水材50の打設作業は、図11(a)に示されるように、所定の温度に加熱した変形追随性遮水材50を打設バケット52に移し、堤外側の起重機船30にて打設バケット52を堤内側の台船54へと積み込む。そして、堤内側の起重機船30にて打設バケット52を吊り、潜水士48の指示により行うものである。
【0038】
S80(図5(b)参照):変形追随性遮水材50の追打設の完了の後、第1の天端高H1から第2の法先ブロック46に至る範囲に、第1の天端高H1まで中間砕石68(10〜60mm)を投入して、遮水シート56を含む第1の遮水構造体24(図1、図2参照)を、傾斜堤法面の大型土のう58と共に埋設する。中間砕石68の投入・均し作業は、図11(b)に示されるように、堤外側に配置した起重機船30にガット船36を接舷し、中間砕石68をガット船36から起重機船30に積み込み、更に堤内側に配置したバックホウ台船44へと中間砕石68を積み替えて行う。更に、必要に応じ、潜水士により均し作業を行う。
【0039】
なお、第1の遮水構造体24を大型土のう58と共に埋設する工程においては、第1の天端高H1から第2の法先ブロック46に至る範囲に中間砕石68を投入する。このため、山留材60、敷鉄板64、コンクリートブロック66及び大型土のう58により基礎マウンド26の天端面上に押え付けられた、遮水シート56の天端側端部の一定幅は、基礎マウンド26の天端面に露出した状態で残されるが、この一定幅の部分が、後述する遮水シート56の予備部56aとなる。
そして、基礎マウンド26の天端面上に押え付けられた山留材60、敷鉄板64、コンクリートブロック66及び大型土のう58を、中間砕石68の投入完了後に撤去し(図5(c)参照)、中間砕石68の上面に、遮水シート56の予備部56aを折り返す。そして、折り返された予備部56aの上に、図11(c)に示されるように、堤内に配置した起重機船30を用いて、大型土のう58を設置する。そして、遮水シート56の予備部56aを中間砕石68の上面に押し付けることにより、潮流による予備部56aの破損を防止する。
【0040】
S90(図5(d)参照):基礎マウンド26の天端面の、第1の法先ブロック28が据え付けられた場所よりも堤外側の位置に、第2の天端高H2へ到達する高さを有する、第1の法先ブロック28よりも大型の方塊ブロック70を据え付ける。方塊ブロック70は、2.0(m)×2.9(m)×3.0(m)の直方体であり、その据付作業は、図12(a)に示されるように、堤外側に配置した起重機船30により行われる。
S100(図5(e)参照):方塊ブロック70、第1の法先ブロック28、及び、基礎マウンド26の天端面の堤内側端部と第1の法先ブロック28との間に投入された裏込石34を覆うようにして、方塊ブロック70の高さに合わせて、裏込石34の再投入・均しを行う。なお、裏込石34の再投入・均し作業手順は、図7(b)に示される裏込石34の投入作業と同様である。
更に、再投入された裏込石34を合成樹脂製ジオグリッド40で押え付ける(図5(f)参照)。合成樹脂製ジオグリッド40の設置作業は、図12(b)に示されるように、堤内に配置した起重機船30を用いて行われる。
【0041】
S110(図6(a)参照):中間砕石68の上面に遮水シート56の予備部56aを押し付けるための大型土のう58を、図12(c)に示されるように、堤内に配置した起重機船30を用いて撤去する。そして、再投入された裏込石34及び合成樹脂製ジオグリッド40の上面を、遮水シート56の予備部56aで覆う。
そして中間砕石68の上面に、第2の天端高H2(図2(a)参照)に至るまで中間砕石68を追加投入し、遮水シート56の予備部56aを埋設する(図6(b)参照)。中間砕石68の再投入作業は、図12(d)に示されるように、堤外側に配置した起重機船30にガット船36を接舷し、中間砕石68をガット船36から起重機船30に積み込み、更に堤内側に配置したバックホウ台船44へと中間砕石68を積み替えて行う。
【0042】
以上のS10〜S110の各工程は、第1の天端高H1から堤内底面部に至る第1の遮水構造体24の造成に直接的に関連するものである。この第1の遮水構造体24は、施工水域の満潮時の水位(H.W.L.)よりも高位置(一例として、K.P.+3.0mm)の第2の天端高H2(図2(a)参照)まで、接続・延長できるものである。以後は、第2の遮水構造体を造成する工程となる。第2の遮水構造体は、第1の遮水構造体24を覆うようにして、第2の天端高H2から、堤内底面部に至るものである。
【0043】
S120(図6(c)参照):方塊ブロック70の上面に、上部コンクリート72を打設する。
S130(図6(c)参照):中間砕石68の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第3の法先ブロック74を据付ける。第3の法先ブロック74は、第1の法先ブロック28と同じく、1.3(m)×1.3(m)×2.0(m)の直方体である。その据え付け作業は、図8(c)と同様に、堤内側の起重機船30にて、潜水士の指示のもとで作業を行う。
【0044】
S140(図6(c)参照):堤内底面部の、第3の法先ブロック74から中間砕石68に至る範囲に、変形追随性遮水材50を打設する。図示の例では、変形追随性遮水材50の打設の厚みは、t=0.15mである。変形追随性遮水材50の打設作業は、図8(d)に示されるのと同様に、所定の温度に加熱した変形追随性遮水材50を打設バケット52に移し、堤外側の起重機船30にて打設バケット52を堤内側の台船54へと積み込む。そして、堤内側の起重機船30にて打設バケット52を吊り、潜水士48の指示により行うものである。
【0045】
S150(図6(d)参照):中間砕石68を覆うようにして、方塊ブロック70の上面から第3の法先ブロック74に至るまで、遮水シート56(第2の遮水シート)を敷設する。この、第2の遮水シート56は、第1の遮水構造体24に係る遮水シート56と同じものである。又、第2の遮水シート56の敷設の際、第1の遮水構造体24に係る遮水シート56の予備部56a(図9(b)参照)のうち、追加投入した中間砕石68により埋設されていない部分に、第2の遮水シート56の天端側端部を重ね合わせるようにして、敷設する。
なお、この時点では、第1の遮水構造体24が完成していることから堤内に揚圧力P(図16)が第2の遮水シート56に及ぶことはない。(図6(d)参照)。
【0046】
S160(図6(e)参照):第2の遮水シート56の敷設完了の後、第3の法先ブロック74から第2の遮水シート56の法尻部に至る範囲に、打設した変形追随性遮水材50を覆うようにして、更に、変形追随性遮水材50を追打設する。図示の例では、変形追随性遮水材50の追打設の厚みは、t=0.5mである。本工程においても、変形追随性遮水材50の打設作業は、図11(a)に示されるのと同様に、所定の温度に加熱した変形追随性遮水材50を打設バケット52に移し、堤外側の起重機船30にて打設バケット52を堤内側の台船54へと積み込む。そして、堤内側の起重機船30にて打設バケット52を吊り、潜水士48の指示により行うものである。
【0047】
S170(図6(f)参照):上部コンクリート72から第3の法先ブロック74に至る範囲を、砕石76で被覆する。これにより、第2の遮水構造体78の造成が完了する。
なお、砕石76は、中間砕石68と同じ物を用いることが出来る。又、その投入作業は、図12(d)に示されるのと同様に、外側に配置した起重機船30にガット船36を接舷し、砕石76ををガット船36から起重機船30に積み込み、更に堤内側に配置したバックホウ台船44へと砕石76を積み替えて行う。
S180:必要に応じ、第2の遮水構造体78の天端面に舗装を施し、遮水型護岸の開口部14の締切工が完了する。
【0048】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。
本発明の実施の形態に係る、遮水型護岸の開口部締切工法は、開口部14においても、それと隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンド26を造成することで、堤体構造の一部共通化を図ることができる。
又、基礎マウンド26の天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位(H.W.L.)よりも低く堤外側と堤内側との通水断面Ws(図2(a)参照)を確保可能な第1の天端高H1を設定し、第1の天端高H1から堤内底面部に至る第1の遮水構造体24を造成することで、この通水断面Wsを通じて、堤外と堤内との水交換を可能としつつ、堤外から基礎マウンド26を浸透して第1の遮水構造体24の裏面に作用する揚圧力Pの影響を、可能な限り小さく抑えることができる。また、通水断面Wsを通じて、堤内作業に供する工事用船舶の出入りも、一部可能となる。
【0049】
すなわち、図2に示されるように、第1の天端高H1を満潮時の水位(H.W.L.)よりも低い天端高に設定することで、第1の遮水構造体24の造成中、開口部14に残る通水断面Wsを通じて堤外と堤内との水交換が生じ、堤外水位が堤内水位よりも高い時を除き、内面保有水Winが、第1の遮水構造体24を堤内側傾斜面に押し付け、堤外から基礎マウンド26を浸透して第1の遮水構造体24の裏面に作用する揚圧力Pに対抗することができる。一方、堤外水位が堤内水位よりも高い時には、第1の遮水構造体24の表面に配置する錘(大型土のう58)により、堤外から基礎マウンドを浸透して第1の遮水構造体24の裏面に作用する揚圧力Pに対抗することができる(図9、図10参照)。
従って、第1の遮水構造体24の堤内先端部を覆う変形追随性遮水材層50を打設する際に、第1の遮水構造体24の裏面に作用する揚圧力Pにより、第1の遮水構造体24が破損することを防ぐことができる。以上の点を考慮し、第1の天端高H1は、施工水域の潮位差を考慮して、堤外水位が堤内水位よりも高い状態、すなわち、第1の遮水構造体24の裏面に揚圧力Pが作用する時間比率が可能な限り短くなるように、設定されることが望ましい。
【0050】
更に、堤外水位が、干潮時の水位(L.W.L.)を挟んで中間水位(M.W.L.)以下の水位となる時間帯では、第1の天端高H1は気中となり(図2参照)、陸上施工が可能となる。
そして、変形追随性遮水材層50の打設により(S70:図5(a)参照)、第1の天端高H1から堤内底面部に至る範囲の遮水を完了し、以後の、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高H2から堤内底面部に至る第2の遮水構造体78(図6(f)参照)を造成する工程では、堤外からの揚圧力Pの影響を排除することができる。
【0051】
又、遮水シート56を第1の天端高H1から堤内底面部に向けて敷設し(S60:図4(f)参照)、遮水シート56の敷設作業の進行に合わせて、錘(大型土のう58)を、第1の天端高H1から堤内底面部へと複数配置することで(図9、図10参照)、遮水シート56の敷設中に、敷設が完了した範囲の遮水シート56を錘によって基礎マウンド26の傾斜法面に確実に押え付けることができる。そして、遮水シート56の敷設中に、遮水シート56の裏面に揚圧力Pが作用することがあっても、錘によってそれに対抗し、遮水シート56の浮き上がりを防ぐことができる。
【0052】
又、本発明の実施の形態に係る、遮水型護岸の開口部締切工法は、遮水シート56の第1の天端高側端部に設けた所定幅の予備部56a(図5(c)、図6(a)、図9(b)参照)を、第1の遮水構造体24を大型土のう58と共に埋設する工程(S80:図5(b)参照)において、遮水シートの予備部56aを除く、第1の天端高H1から第2の法先ブロック46に至る範囲に中間砕石68を投入した後(図5(b)参照)、中間砕石68の上面に遮水シートの予備部56aを折り返し、再投入された裏込石34及び合成樹脂製ジオグリッド40の上面を、中間砕石の上面に折り返した遮水シートの予備部で覆うことで(図6(a)参照)、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高H2から堤内底面部に至る範囲を、第1の遮水構造体24に係る遮水シート56で覆い、遮水性を確保することができる。又、遮水シートの予備部56aのうち、再投入された裏込石34及び合成樹脂製ジオグリッド40の上面を覆う部分を、追加投入した中間砕石68により埋設することで(図6(b)参照)、遮水シートの予備部56aの裏面に作用する揚圧力Pにより、遮水シートの予備部56aが破損することを防ぐことができる。
【0053】
又、堤内底面部の、第3の法先ブロック74から中間砕石68に至る範囲に、変形追随性遮水材を打設し(S140:図6(c)参照)、中間砕石を68覆うようにして、方塊ブロック70の上面から第3の法先ブロック74に至るまで第2の遮水シート56を敷設することで(S150:図6(d)参照)、二重の遮水シート56により、確実に遮水性を有するものとなる。
【0054】
又、第3の法先ブロック74から第2の遮水シート56に至る範囲に、打設した変形追随性遮水材50を覆うようにして変形追随性遮水材50を追打設し(S160:図6(e)参照)、第2の天端高H2から堤内底面部に至る範囲の遮水を完了するものである。その後、上部コンクリート72から前記第3の法先ブロックに至る範囲を、砕石で被覆することで(S170:図6(f)参照)、第2の遮水シート56を安定保持することができる。
【0055】
又、遮水シート56の予備部56aのうち、追加投入した中間砕石68により埋設されていない部分に(図6(b)参照)、第2の遮水シート56の天端側端部を重ねるようにして敷設することで(図6(d)参照)、第2の天端高において、二重の遮水シート56、56が密着し、堤体上方から二重の遮水シート56、56の間への、堤内の保有水又は堤外の水の浸水を防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
12:護岸、14:開口部、 16:鋼製の板、 18:コンクリート製の構造物、22:砕石、24:第1の遮水構造体、26:基礎マウンド、28:第1の法先ブロック、34:裏込石、40:合成樹脂製ジオグリッド、42:切込砕石、46:第2の法先ブロック、50:変形追随性遮水材、56:遮水シート、56a:予備部、58:大型土のう、66:コンクリートブロック、68:中間砕石、70:方塊ブロック、72:上部コンクリート、74:第3の法先ブロック、76:砕石、78:第2の遮水構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮水型護岸の開口部締切工法であって、
開口部に隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成し、
該基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、
該第1の天端高から堤内底面部に至る遮水層を造成し、
前記遮水層の表面に錘を配置し、
該遮水層の堤内先端部を覆う変形追随性遮水材層を打設し、
前記第1の天端高以深部へと砕石を投入して、
第1の遮水構造体を造成し、
前記第1の遮水構造体の上部に、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する、各工程を含むことを特徴とする遮水型護岸の開口部締切工法。
【請求項2】
前記遮水層を造成する工程において、遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設し、該遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、前記錘を、前記第1の天端高から堤内底面部へと複数配置することを特徴とする請求項1記載の遮水型護岸の開口部締切工法。
【請求項3】
遮水型護岸の開口部締切工法であって、
開口部に隣接する自然石等を用いた傾斜堤の基礎マウンドと、共通の断面を有する基礎マウンドを造成し、
該基礎マウンドの天端面上に、施工水域の潮位差を考慮して、満潮時の水位よりも低く堤外側と堤内側との通水断面を確保可能な第1の天端高を設定し、
前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部から所定距離を空けて、前記第1の天端高へ到達する高さを有する第1の法先ブロックを据付け、
前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部と前記第1の法先ブロックとの間に、前記第1の法先ブロックの高さに合わせて裏込石の投入・均しを行い、
該裏込石を合成樹脂製ジオグリッドで押え付けた後、前記第1の天端高から堤内底面部に至る範囲に切込砕石の投入・均しを行い、
該切込砕石の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第2の法先ブロックを据付け、
堤内底面部の、前記第2の法先ブロックから前記切込砕石に至る範囲に、変形追随性遮水材を薄く打設し、
遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設し、該遮水シートの敷設作業の進行に合わせて、複数の土のうを、前記第1の天端高から堤内底面部へと配置し、
前記第2の法先ブロックから前記遮水シートに至る範囲に、前記打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設し、
前記第1の天端高から前記第2の法先ブロックに至る範囲に、前記第1の天端高まで中間砕石を投入して、前記遮水シートを前記土のうと共に埋設し、
前記第1の天端高から、施工水域の満潮時の水位よりも高位置の第2の天端高まで、前記遮水シートを接続・延長して、第1の遮水構造体を造成し、
該第1の遮水構造体を覆うようにして、前記第2の天端高から堤内底面部に至る第2の遮水構造体を造成する、各工程を含むことを特徴とする遮水型護岸の開口部締切工法。
【請求項4】
前記遮水シートを前記第1の天端高から堤内底面部に向けて敷設する工程において、前記遮水シートの前記第1の天端高側端部に所定幅の予備部を設け、
前記遮水シートを前記土のうと共に埋設する工程において、前記遮水シートの予備部を除く、前記第1の天端高から前記第2の法先ブロックに至る範囲に中間砕石を投入した後、該中間砕石の上面に前記遮水シートの予備部を折り返し、
前記基礎マウンドの天端面の、前記第1の法先ブロックが据え付けられた場所よりも堤外側の位置に、前記第2の天端高へ到達する高さを有する方塊ブロックを据付け、
該方塊ブロック、前記第1の法先ブロック、及び、前記基礎マウンドの天端面の堤内側端部と前記第1の法先ブロックとの間に投入された裏込石とを覆うようにして、前記方塊ブロックの高さに合わせて裏込石の再投入・均しを行い、
該再投入された裏込石を合成樹脂製ジオグリッドで押え付け、これらの上面を、前記中間砕石の上面に折り返した前記遮水シートの予備部で覆い、
前記中間砕石の上面に、前記第2の天端高に至るまで中間砕石を追加投入し、前記遮水シートの予備部の、再投入された裏込石及び前記合成樹脂製ジオグリッドの上面を覆う部分を、前記追加投入した中間砕石により埋設することを特徴とする請求項3記載の遮水型護岸の開口部締切工法。
【請求項5】
前記第2の遮水構造体を造成する工程において、
前記方塊ブロックの上面に上部コンクリートを打設し、
前記中間砕石の投入範囲の堤内先端部から堤内側に所定距離を空けて、第3の法先ブロックを据付け、
堤内底面部の、前記第3の法先ブロックから前記中間砕石に至る範囲に、変形追随性遮水材を打設し、
前記中間砕石を覆うようにして、前記方塊ブロックの上面から前記第3の法先ブロックに至るまで第2の遮水シートを敷設し、
前記第3の法先ブロックから前記第2の遮水シートに至る範囲に、前記打設した変形追随性遮水材を覆うようにして変形追随性遮水材を追打設し、
前記上部コンクリートから前記第3の法先ブロックに至る範囲を、砕石で被覆することを特徴とする請求項3又は4記載の遮水型護岸の開口部締切工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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