説明

遷移金属酸窒化物

【課題】対応する酸化物に比べ良好な容量を持つ電極(アノードまたはカソード)を提供すること。
【解決手段】電極は、導体および電極コーティングを含み、前記電極コーティングは、電子的に活性な材料として、式LixImIInyz(式中、x=0〜3、y+z=2〜4、y>0、z≧0.25、m+n=1、m=0〜1、n=0〜1である)のナノ粒子の形態の遷移金属(T)酸窒化物を含み、TIおよびTIIは、両方とも、IVB、VB、VIBおよびVIIBの族で、3d、4dおよび5dの周期の遷移金属、特に、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、W、Mn、Ni、Co、FeおよびCuから選択される遷移金属である。遷移金属の種類、その酸化状態、およびLi含有率に応じて、このような材料は、それぞれ、アノード材料として、またはカソード材料として用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の中の電極材料としての酸窒化物および窒素ドープ酸化物、特に、高い酸化状態の遷移金属を含む酸窒化物および窒素ドープ酸化物に関する。本発明は、効率の良い電池材料を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、エネルギーの貯蔵体としてLiイオン電池を利用することが、制限を受ける、汚染を生む、CO2を生成する化石燃料の最も良い代替物の1つであることは共通認識になりつつある。Liイオン電池について、20年間、鋭意研究が継続されてきたが、高いエネルギー容量をもつ電極材料の開発は、なお大きな難題のままである。(1-2) 今日、Liイオン電池のための電極として用いられる化合物の1つの大きな群が、遷移金属酸化物および多金属酸化物であることは、広く知られている。これには、LiMO2(M=Mn、CoおよびNi)等のカソード(正極)のための材料だけでなく、中でもFe34、CuO等のアノード(負極)のための材料も含まれ、LiCoO2は274mAh/gの理論的な容量を有する。(3-5) 酸化物の代替物として調査された新しい種類の化合物は、(XO4)y―(X=S、P、Si、As、Mo、W)の形態の大きなポリアニオンを、格子中に導入することにより得られる。(PO4)3―および(SO4)2―のイオンの誘起効果により、酸化物中における酸化還元エネルギーに比べて酸化還元エネルギーが上昇され、構造も安定化される。例えば、LiFePO4は、それが安価で、耐久性が高く、合成し易いので、非常に適切な電極材料になった。それは、高電圧(3.5V)でリチウムを可逆的に挿入することができ、高いエネルギー密度をもつセルを製造するための重要な属性である、良好な重量あたり容量(170mAh/g)を有する。その類似物、例えばLiMnPO4は、電極材料のため(より具体的には、正極材料のため)の良好な候補でもある。同様の組成および結晶構造のケイ酸塩も、正極材料のために考慮されてきた。調査されたケイ酸塩のほとんどは、M2+が遷移金属であるLi2MSiO4の形態である。Li2FeSiO4は、別の有望な電極材料になり得る。しかし、LiFePO4に比べて、それは、より低い電子伝導性、およびより低い電極電位を有する。(2)
【0003】
しかし、酸化物およびリン酸塩は、両方とも、低い電子伝導性およびLiイオン伝導性を有し、これは、充電/放電の速度の他に、このような電池のサイクル運転安定性を抑制することがある。電子伝導性およびLiイオン伝導性の向上は、改善の要点である。電極材料の粒子を、炭素または伝導性ポリマー等の導体でコーティングすることは、特にこのような低い伝導性をもつ化合物の場合において改善につながることがある。PPyコーティングは、LiFePO4の伝導性を改善し、電極の比表面積を増加させ、PPy/PEGコーティングは、より深部のLiFePO4構造へのイオンおよび電子のより容易な接近と、カソードの改善された電気化学的活性および電荷移動反応とを可能にする(39)。電気化学的性能の大幅な向上は、非晶質の炭素コーティングにより調製された材料について達成された。しかし、炭素またはポリマー等の大量の低密度不活性材料を活性材料に添加することは、体積あたりエネルギー密度および比エネルギー密度の両方を低下させるという問題がある。最終的には、様々な追加的なカチオンをドーピングするのが、有効な方法であるとも考えられる。例えば、LiFePO4は、カソード材料を電子およびLiイオンの両方の良好な導体にするためにカチオンドーピングを用いた場合に、有望なカソード材料になる。例えば、NiドープLiFePO4/Cのナノ複合体は、優れた電気化学的性能を示す(40)。可逆容量の改善は、リン酸鉄にMgがドーピングされたときにも達成されている。これは、活性材料粒子内の電子伝導性の改善に起因している(41)。しかし、より一般的な場合において、適切なカチオンの種類と適切な濃度とを決定するためには、多くの系列の最適化実験がなお必要である。
【0004】
そのうえ、別の種類の電極材料、より具体的にはアノードに関するものには、例えばLi3FeN2、Li3-xxN(M=Co、Ni、Cu)、Li7MnN4等のリチウム挿入化合物、と、例えばCoN、Cr1-xFexN等のリチウム不含化合物とが挙げられる遷移金属窒化物が含まれる。(6-12) 通常、窒化物は、遷移金属と窒素との間の共有結合(または金属結合)の特徴のために、低い仕事ポテンシャルを有する。しかし、カーボネート系電解質の電池において、低い仕事ポテンシャル(<1V)をもつアノードは、固体電解質界面(SEI)を破壊することにより、高速充電中の短絡および電解質の発火を引き起こし得ることがあることが最近わかった。これらの望まれない特性は、グラファイト様および窒化物様のアノードを求めて新たなアノード代替物を探索する強い動機をもたらした。(1) 安全で長寿命な電池を開発するために、TiO2およびLi4Ti512がより多くの注目を集め、適用可能なアノードについて鋭意調査がなされた。(13-14) Li4Ti512は、200Ah/kgの高さの実用的な容量と、Ti4+/Ti3+の酸化還元対に起因する、Li+/Li0に対する1.5Vの適切な電位の平坦域とを示した。(3) また、Nb5+/Nb4+の対は、ニオブ酸塩中におけるLi+/Li0に対して約1.5Vの電位を有し、Nb4+/Nb3+の対へのさらなる還元は、化合物のリチオ化の能力をさらに増加させることができる。例えば、Nb25、ならびにAlNbO4、KNb513およびK6Nb10.830等の様々なニオブ酸塩は、Liイオン電池のアノードとして顕著な電気化学的特性を示した。(15-18)
【0005】
最近、イオン伝導性、触媒作用、顔料および熱電気等の様々な用途の中で遷移金属酸窒化物を探査する研究が開始された。(19-21) しかし、Liイオン電池の中の電極として調査されたのは、それらのうち少しだけである。実際に遷移金属酸窒化物がLiイオン電池の中の電極として用いられた最初の事例は、Li7.9MnN3.21.6であり、これは、Li7MnN4と同様の電気化学的挙動を示したが、改善された化学的安定性を示す。(22-23) 原則として、遷移金属酸窒化物は、単位重量あたりのそれらのリチオ化能力がより高いので、対応する酸化物より高い理論的な容量を有するはずであることにちがいない。残念ながら、セラミックス焼結合成法には限界があり、構造中のN/Oの決定が困難であるので、遷移金属酸窒化物の数はかなり限定される。これまでのところ、遷移金属酸窒化物の電気化学的な調査は、IVB、VBおよびVIBの金属にほとんど集中されてきた。(24-25)
【0006】
TaNOは、1966年にBrauerにより初めて文献化され、最近、新たな顔料として研究された。(26) 5+の酸化状態をもつバナジウムの酸窒化物アニオンが、構造中にBaが存在する場合のみの加アンモニア分解により見出された。これとは対照的に、NbNOは、簡単な加アンモニア分解反応によっては得られなかった。1977年に、NbNOの単結晶を、NbOCl3と過剰のNH4Clとを900〜1000℃で反応させることにより成長させ、その結晶構造を同定するために用いられた。(28) また、NbNOの黒色粉末を、ニオブオキシクロリドアミドの分解により得ることができると報告された。NbNOは、TaNOの親近構造であり、両方の化合物は、単斜対称性をもつバデライト(ZrO2)構造を有する(空間群P21/c)。図1に示す通り、Nb原子は、3つの酸素原子と4つの窒素原子とに囲まれて、縁部を占めるN原子と、角部を占めるO原子とにより接続された不規則な八面体[NbO34]を形成する。電子的に、Nb(V)酸窒化物は、ニオブのdバンドが完全に空なので、半導体様の特徴を有する。NbNOは、1.7eVの計算上のバンドギャップを有し、青色を示すはずである。(29)
【0007】
電極材料の電気化学的性能は、なお,高エネルギー密度の電池のための重要な制限的要因であり、容量の増大は枢要である。このように、改善された電極材料、ならびにこのような電極材料を含む改善された再充電可能な電池、特に、多くの充放電サイクルにわたる高い安定性、および/または改善された容量をもつ電池に対する要求は大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の一般的な目的は、対応する酸化物に比べてより良好な容量を有する電極、すなわちアノードまたはカソードを提供することである。
【0009】
さらなる目的は、このような電極を含む電池、ならびにこのような材料および電極を製造するための方法である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで、説明が進むにつれてより容易に明らかになる、本発明のこれら、およびなおさらなる目的を実施するために、本発明の電極は、導体および電極コーティングを含むことを特徴とし、前記電極コーティングすなわち電極材料は、電子的に活性な材料として、式LixImIInyz(式中、x=0〜3、y+z=2〜4、y>0、z≧0.25、m+n=1、m=0〜1、n=0〜1である)のナノ粒子の形態の遷移金属(T)酸窒化物を含み、TIおよびTIIは、両方とも、IVB、VB、VIBおよびVIIBの族、または3d、4dおよび5dの周期の遷移金属である。通常、TIは、4dまたは5dの遷移金属、特に、4dの遷移金属であり、TIIは3dの遷移金属である。TIおよびTIIが、これらの最も高い酸化の段階である場合において、xは、好ましくは0である。
【0011】
好ましい遷移金属は、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、W、Mn、Ni、Co、FeおよびCuである。
【0012】
このような材料中において、Liは、Tの代替物として格子空間中に存在し得る、または格子間の部位の中に挿入され得る。
【0013】
遷移金属の種類、その酸化状態、およびLi含有率に応じて、このような材料は、それぞれ、アノード材料として、またはカソード材料として用いられ得る。
【0014】
通常、他の一般的に用いられる電極の酸化物の大部分と比べて、酸窒化物は、窒化物アニオンの分極率がより大きく、バンドギャップがより小さいので、より良好な電子およびイオンの伝導度を有すると想定される。さらに、窒化物アニオンは、同時により低い分子量をもつ酸化物より大きい負電荷を有することにより、重量単位あたりの容量を改善する。
【0015】
窒化物、酸窒化物、および窒素ドープ化合物を得るための一般的な方法は、加アンモニア分解である(27, 35, 42)。一般的な実施によれば、その方法は、出発材料を水平炉の中に入れ、次いでそれを連続的なNH3、またはN2(もしくはAr)混合NH3の気流下で加熱することからなる。数時間後に、窒素を含有した試料を得る。図14は、加アンモニア分解器の概略図である。温度プログラムは、得られる生成物の種類に著しい影響を有する。温度を上げるにつれて、化合物は、酸化物から、窒素ドープ酸化物(おそらく低い原子価の状態の他の酸化物)を経て、次いで酸窒化物、最終的に窒化物に変化する。NH3流の速度は、得られる化合物にも関係する。加アンモニア分解工程を微妙に制御することにより、電極材料中の酸素は、初期の結晶構造を破壊せずに、したがって電子活性化合物に著しい化学量論的な張力を与えずに、窒素により部分的に置き換えられ得る。それ故に、この工程に正しい反応条件を用いることは重要である。
【0016】
好ましい出発電極材料は、MoO3、V25、CrO3、WO3、TiO2、MnO2、NiO2、CoO2およびこれらのリチウム含有酸化物等の遷移金属の酸化物を含有する。出発電極材料の粒子径に必須の限定はない。しかし、粒子径は、好ましくは、少なくとも1つの次元において100nm未満である。さらに、出発電極材料は、必ずしも上述の酸化物のみを含有しなくてもよい。実際に、出発電極材料は、上述の酸化物と混合して、カーボンブラック(グラファイト)、窒化物、炭化物、硫化物および/または伝導性ポリマー等の他の導体を含有する可能性があり得る。
【0017】
出発材料として遷移金属酸化物を用いる代替として、酸窒化物を、まず、別の種類の出発材料の窒化(例えば、加アンモニア分解反応による)の後に、選択的な酸化を行うことによっても得ることができる。酸窒化物を得るこの代替法の第1の例として、ニオブ(Nb)の酸窒化物を、Liイオン電池のための新たなアノードにおける電極材料として得て試験した。第2の例として、TaNOも得て試験した。この酸窒化物は、加アンモニア分解法により得ることが可能な最初の三元化合物であった。
【0018】
このような酸窒化物についての製造方法を改善するために、ニオブオキシクロリドアミドの分解反応を、生成物の反応条件、熱分析、結晶構造および微小な特性決定を含み、詳細に研究した。反応器中の過度な高圧を除くために、新たなLiIに補助された合成を見出した。NbNOに代わって、最終的な生成物は、NbN0.7(1)1.3(1)と決定され、それらのいくつかは、直径約5nmの粒子として特性決定された。さらに、純粋な化合物、および炭素コーティングされた化合物を、Liイオン電池中におけるそれらの電気化学的性能を研究するために調製し、サイクル運転の機構を同様に提案した。
【0019】
行った調査により、窒化が最初に、すなわち、例えば尿素を伴う加アンモニア分解の後に選択的な酸化が行われることが好ましいことがさらに示唆される。
【0020】
このような生成物の重量を改善するために、より重い遷移金属の少なくとも一部を、同様の最大電荷のより軽い遷移金属、すなわち、IVB、VB、VIBおよび/またはVIIBの族の3d周期の遷移金属で置き換えることができ、式中、例えばm=0.5およびn=0.5等の、mもnも0でない化合物となる。
【0021】
ナノ粒子の電気的性能を向上させるために、伝導性コーティング、例えば、炭素および/もしくはグラフェンのコーティング、または例えば糖等の様々な有機前駆体の熱分解により得られたコーティングを、粒子に塗布することができる。このようなコーティングは、最適な特徴を迅速に得て、多くの充電/放電のサイクルにわたりそれらを保持するカソードおよびアノードも製造するために適切であることがわかった。
【0022】
このようなナノ粒子状材料を含む電極は、このようなナノ粒子を、カーボンブラックおよび/もしくはグラファイト等の電子伝導性粒子ならびにバインダーと、または代替の実施形態において、場合によってカーボンブラックおよび/もしくはグラファイト等のさらなる伝導性粒子の存在下で、ナノ粒子状の電子伝導性バインダーと混合することにより、あるいは、ナノ粒子状EAMが伝導性にコーティングされ、同時に結合されるように行われる熱分解反応を適用することにより調製され得る。
【0023】
ある実施形態において、電極は、
− 開口した多孔性の材料であり、
− 導電性である
ナノ複合体から形成される。
【0024】
この実施形態において、本発明のナノ粒子状電極材料を含む電極は、ナノ粒子状の電子的に活性な材料(EAM)、および均一に分布したナノ粒子状導電性バインダー材料(CB)を含む。電子的に活性な材料のナノ粒子の平均粒径、およびナノ粒子状バインダー材料の平均粒径は、
両方とも同様のサイズを有する、および/または
両方とも<500nm(平均粒径)の範囲内、特に5から500nmの範囲内、好ましくは5から400nmの範囲内、より好ましくは20から100nmの範囲内である。
【0025】
電極は、カーボンブラックおよび/もしくはグラファイト等のさらなる伝導性粒子を、場合により好ましくは含むことができる。
【0026】
同様の粒径が重要であることがわかった。本明細書に記載のナノ複合体電極材料中の炭素コーティングされた粒子は、公知の材料より優れた挙動をする。いかなる理論にも結びつけられることを望むものではないが、これは、ナノ粒子が、微細なナノ粒子状導電性バインダー材料、ならびに集電体との電気的な接触、および粒子間における電気的な接触をはるかにより良好にする微細なナノサイズの炭素とにより被覆されているためであり得る。これは、ミクロンサイズのグラファイト薄片等の「大きい」ミクロンサイズの導電性充填材、および/または非伝導性のバインダーマトリックス中におけるより大きい炭素粒子では不可能であり、それにより、容量の保持が悪くなる。
【0027】
同様のサイズは、100%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下の差異を意味する。
【0028】
電極コーティングは、好ましくは、開口した多孔性の材料である。開口した多孔性の材料は、電解質およびLi+の拡散が容易に可能であるように、細孔が大きく相互接続していることを意味する。
【0029】
ナノ複合体電極は、互いに密接に混合され、好ましくは、混合、貯蔵および使用の温度においてバインダーの粘着性が十分であること、または加熱を伴うもしくは伴わない圧力処理のいずれかにより安定化された、EAMおよびCBのナノ粒子を含む。伝導性バインダーのガラス転移点が低い熱可塑性材料は、粒子を結合するためだけでなく、ナノ複合体を導体、通常はアルミニウムの電極/基材に結合するためにも好ましい。
【0030】
導電性ポリマーには、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールおよびポリチオフェンが含まれる。これらのポリマーは、所望の特徴に応じて、置換または非置換であることができる。目下の好ましいバインダーは、以下においてPEDOTと呼ぶポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である。このポリマーは、伝導性であり、適切な粘着性を有し、ナノ粒子の形態で容易に製造され得る。
【0031】
特定の実施形態において、CBナノ粒子は、ナノ複合体の重量に基づいて、4から10%の量で存在する。
【0032】
すでに上述した通りに、EAM粒子が、絶縁材料である、またはそれらの伝導性を改善するためである場合において、ナノ粒子は、伝導性の層で、特に炭素またはグラファイトまたはグラフェンの層でコーティングされる。
【0033】
代替形態の電池において、ナノ粒子状カソード材料および/またはナノ粒子状アノード材料は、伝導性コーティングとして、およびバインダーとして同時に作用する、熱分解された層により結合され得る。このような熱分解は、EAM、糖等の熱分解前駆体、および溶解性のリチウム源を、例えば水および/またはアルコール等の適切な溶媒中に懸濁または溶解して行われ得る。溶媒を、穏和な条件で蒸発させ、次いで、乾燥した生成物を、250から700℃、特に400〜600℃の温度で熱分解する。
【0034】
この方法は、他の方法により結合された、伝導性にコーティングされたナノ粒子状EAMを製造するために同様に適用され得る。
【0035】
このような電極の良好な挙動は、ナノ粒子状EAMが、主に炭素だが酸素、リチウムおよび水素も含むリチウムイオン伝導性コーティングによりコーティングされていることによると想定される。
【0036】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のナノ粒子状導電性ポリマーは、Sunらにより記載の逆相マイクロエマルジョン技術を用いて調製され得る。(38) PEDOTの合成の場合において、重合助剤としてのFeCl3/ビス(2−エチルヘキシル)スルホスクシネート粒子等の粒子/液滴を含む乳化酸化剤を含むマイクロエマルジョンが調製される。
【0037】
ナノ複合体電極を形成するために、ナノ粒子状CBは、好ましくは、アセトニトリル等の適切な溶媒中に懸濁され、次いで、ナノ粒子状の炭素コーティングされたEAMを添加し、この混合物を、ホモジナイズし、乾燥し、加熱を伴いまたは伴わずに場合によって加圧する。必要に応じて、カーボンブラック等の伝導性のナノ粒子状充填材をさらに添加することができる。
【0038】
PEDOTは、ナノ粒子状の伝導性ポリマーバインダーとして魅力ある候補である。その利点は、高い化学的および環境的な安定性と、様々な粒径における合成のし易さと、室温でそれぞれ0.5から2barすなわち5・104から2・105Paの圧力で加圧した際に、良好な粒子間の接着、および十分な基材の接着につながるその粘着性とである。
【0039】
所望の安定性に応じて、小さい粒子はファンデルワールス力により粘着するので、加熱をしなくてもよい。
【0040】
本発明は、以下のその詳細な説明を考慮するとより良く理解され、上記以外の目的が明らかになる。このような説明は、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】NbNOの結晶構造を示す図である。(28)
【図2】NbOCl3(NH3)xのTG、DTGおよびDTAの曲線を示す図である。
【図3】様々な温度でのNbOCl3とNH3との間の反応により得られた生成物のXRDパターンを示す図であり、真っ直ぐな実線および点線は、それぞれ、NbN(PDF #38−1155)およびNbO(PDF #42−1125)のXRDピークの位置を示す。
【図4】様々な試料(表3を参照されたい)のXRDパターンを示す図であり、星は、LiNbO3と一致する不純物のピークを示す。図4aは、角度が15°から70°の範囲の図である。図4bは、角度が24°から37.5°の範囲の図である。
【図5】XRDデータ(図5a)、中性子回折データ(図5b)からの、NbN0.7(1)1.3(1)のリートベルト精密化プロットを示す図である。
【図6】試料No.1のSEM(aおよびb)、TEM(cおよびd)、ならびにED(e)を示す図である。
【図7】試料のSEMを示す図であり、(a)純粋な試料No.3、(b)炭素コーティングされた試料No.3である。
【図8】TEMおよびEDの写真であり、(a)、(b)および(e)は、純粋な試料No.3、(c)、(d)および(f)は、炭素コーティングされた試料No.3である。
【図9】NbN0.7(1)1.3(1)のin situの温度依存性XRDパターンを示す図であり、(a)は、角度が34.6°から36.8°の範囲であり、(b)は、角度が50.2°から53.2°の範囲である。
【図10】NbN0.7(1)1.3(1)のTGおよびDTAを示す図である。
【図11】容量に対する電圧のプロファイルと、様々な電位窓内における純粋なNbN0.7(1)1.3(1)の対応する微分の容量プロットとを示す図である。(a)および(b)は、電圧0.01〜3Vであり、(c)および(d)は、電圧1〜3Vである。すべてのサイクルを、10mA/gの電流密度で行った。
【図12】容量に対する電圧のプロファイルと、様々な電位窓内における、炭素コーティング4.3重量%を含むNbN0.7(1)1.3(1)の対応する微分の容量のプロットとを示す図である。(a)および(b)は、電圧0.01〜3Vであり、(c)および(d)は電圧1〜3Vである。すべてのサイクルを、10mA/gの電流密度で行った。
【図13】様々な場の下で測定した、ナノサイズのNbN0.7(1)1.3(1)の磁化率の温度依存性を示す図である。
【図14】窒素ドープ化合物を製造するための加アンモニア分解器の概略図である。
【図15】MoO3ナノファイバーの粉末XRDパターンを示す図である。
【図16】様々な温度における加アンモニア分解により得られた一連の試料の粉末XRDパターンを示す図である。
【図17a】GITT測定における、1つの単一電流パルスIpの曲線を示す図である。
【図17b】MoO3(上)および窒素ドープMoO3(下)のGITT測定を示す図である。
【図17c】最初の放電中におけるMoO3(四角点)および窒素ドープMoO3(丸点)のDGITTの相対量プロットを示す図である。
【図18a】表1の試料No1、2および3についての最初の10サイクルにおける定電流サイクル運転曲線を示す図である。
【図18b】表1の試料No1、2および3についての最初の10サイクルにおける定電流サイクル運転曲線を示す図である。
【図18c】表1の試料No1、2および3についての最初の10サイクルにおける定電流サイクル運転曲線を示す図である。
【図19】様々な温度プログラムにおけるLi2MoO4の加アンモニア分解により得られた生成物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図20】Li2MoO4のXRDパターン、および480℃においてMH3で10時間処理した試料(試料B)のXRDパターンの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
ここで、本発明を、以下の3つの合成および分析の例によりさらに説明する。
【実施例1】
【0043】
遷移金属酸化物の加アンモニア分解
好ましい出発電極材料は、MoO3、V25、CrO3、WO3、TiO2、MnO2、NiO2、CoO2、より詳細にはMoO3である。背景技術の項で言及された通り、MoO3は、その魅力あるMo6+/Mo4+の酸化還元対により、長年の間、強力な電極材料と考えられてきた。MoO3ナノファイバーで作製された電極の容量は、最初の放電において350mAh/gの高さに達することができ、これは、MoO3の理論的な容量380mAh/kgに近い(Mo1原子あたり2Li+の挿入)。しかし、最初のサイクルの後に、容量が劇的に減少する。本明細書において、窒素ドープMoO3と、電気化学的性能に対するドーピングの影響とがさらに説明される。
【0044】
1.MoO3ナノファイバーの合成
MoO3のナノファイバーの合成は、他に報告されている(43)。一般的な反応は、H22(30%)20ml中にモリブデン粉末2グラムを静かに入れて、水氷浴中において黄色がかったMoO2(OH)(OOH)溶液を得て、この溶液を40mlのTeflon−linerのオートクレーブ中に投入し、150℃において12時間加熱する。明黄色がかった粉末を洗浄し、乾燥し、収集して、窒素ドーピングの実験として用いる。反応全体は、以下の化学式として表される。
Mo+4H22→MoO2(OH)(OOH)+3H2O (1)
MoO2(OH)(OOH)→2MoO3+2H2O+O2 (2)
【0045】
得られた試料の粉末X線回折(PXRD)パターンを、図15に示す。得られた試料のすべてのピークは、斜方晶MoO3と一致する。2次元のナノメータ構造により、ピークがより広くなっていることがわかる。MoO3のサイズは、1つの次元において50〜200ナノメートルであり、厚さは約数ナノメートルであり、長さはマイクロメートルの規模である。
【0046】
2.MoO3の加アンモニア分解
実施例1において得られた出発材料、MoO3ナノファイバーを、図14に示す通りの設備の中に投入し、温度をそれぞれ200℃、300℃および400℃にそれぞれ設定した。5時間後に、生成物の色が、明黄色がかった色から深青色および暗色に変化するのが観察された。試料番号、説明および合成条件を以下に示す(表1)。
【0047】
【表1】

【0048】
粉末XRDパターンを図16に示す。200℃で5時間、NH3で処理した後に、図16において見られたピークは、生成された未知の不純物を示し、主たる相は、出発の斜方晶MoO3の構造をなお維持している。ピークの大きな角度へのわずかな偏移により、MoO3が部分的にMo6+からMo5+に還元されており、酸素の空格子点が格子定数を減少させていることを示唆される。反応は、以下の通りに記載され得る。
MoO3+(2x/3)NH3 → MoO3-x+xH2O+(x/3)N2(x<1) (3)
【0049】
試料No.3の大きな角度へのピーク偏移は、特に結晶面(0k0)(すなわちこの面はb軸に垂直である)について著しいことがわかる。知られているように、斜方晶MoO3は、a軸に沿って重なり合っている2次元のb−c平面による層状構造であり、これは、角部を占めることによるモリブデン−酸素の八面体と接続される(44)。酸素の空格子点の要因の他に、b軸における格子定数の減少は、部分的には、酸素が窒素により置換された場合に、Mo−N結合がMo−O結合より短くなることによることがある。さらに、有機元素分析法を用いることにより、約2%の大量の窒素をこの試料中において検出した。化学式は、以下のように記載される。
MoO3+[(6−2x)/3]NH3
→ MoOxy+(3−x)H2O+(x/3+y/2−1)N2 (4)
【0050】
温度が400℃に達したら、MoO3は、完全に窒化物に変化した。XRDパターンに示す通り、生成物は、主に、少し結晶化したMo2Nであった。この過程は、以下の式により説明され得る。
2MoO3+4NH3 → Mo2N+6H2O+3/2N2 (5)
【0051】
3.電気化学的測定
3.1 電池中の電極材料の組み立て
電気化学的な測定を、参照電極としての金属リチウム(厚さ0.75mmのリボン、Aldrich)と、電解質としてのエチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの1:1(重量/重量)混合物中における1MのLiPF6溶液からなるMerck Selectipur LP30とを用いて行った。電極材料/Super P炭素/PVDF(80:10:10重量%)を磨砕し、次いで、40℃で30分間、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に超音波分散した。得られたスラリーを、スポイトを用いてチタン集電体上に塗布し、次いで、溶媒を、150℃で1時間、120℃で終夜、蒸発させた。このような電極の一般的な重量は、約5mgである。
【0052】
3.2 定電流間欠滴定技術(GITT)
GITTは、Liイオン電池の電極材料中におけるLi+の化学拡散係数DGITTを得るための標準的な方法として用いられてきた。DGITT係数は、下式により、小さい定電流パルスIpに対する電位の応答から得られる。
【0053】
【数1】

【0054】
それぞれ、τは定電流パルス時間を表し、mB、VmおよびMBは、挿入電極材料の質量、モル体積およびモル質量であり、Sは、電極−電解質の界面の面積である。図17aに示す通り、ΔEsは、単一ステップのGITT実験中における定常状態の電圧の変化であり、ΔEtは、IRドロップを無視した、単一ステップのGITT実験の定電流パルスτの間におけるセル電圧の全変化である(45)。GITT法により、電位の関数としてのDGITTの評価が可能になる。
【0055】
試料No.1およびNo.3を用いて、GITT測定を行った。最初の放電中において、電流パルスIpを、5Ah/kgまで300A/kg、すなわちτを1分とし、次いで、電流を停止し、セルを10時間開回路に保持した。図17bは、これらの2つの試料についてのいくつかの期間を表し、上側が試料No.1について、下が試料No.3についてのものである。
【0056】
上記の式によれば、定数の要素4/τπを消すと、mB2(ΔEs/ΔEt2は、リチウムイオン拡散係数DGITTの大きさが示される。図17cに、電位に対する係数mB2(ΔEs/ΔEt2の関数をプロットする。電位が低い場合において、構造中へのリチウムの挿入が多くなると、材料中でのリチウムの拡散が少なくなる。MoO3と窒素ドープMoO3とを比較すると、明らかに後者が、全放電工程中において、より高いリチウム伝導性を有する。
【0057】
3.3 定電流サイクル運転の測定
定電流の放電/充電の曲線を、30A/kgの電流を用いて測定した。図18に、試料No.1、2および3の定電流サイクル運転性能を示す。最初の放電中に、MoO3は、350Ah/kgの高さの容量を有し、次いで劇的に減衰し、10サイクル後には、170Ah/kgの容量だけが可逆的である。図18bにおいて、部分的に還元したMoO3は、より悪いサイクル運転性能を有する。しかし、窒素ドープMoO3(図18c)については、初期の容量がわずかに180Ah/kgであるにもかかわらず、この材料は、はるかにより安定な電気化学的挙動を有する。酸素を窒素とうまく置換することにより、絶縁体−導体の移行と、材料中におけるリチウムの拡散の増大とが引き起こされるので、窒素のドーピングは、電気化学的特性を安定化させる助けをすると考えられる。
【実施例2】
【0058】
リチウム含有遷移金属酸化物の加アンモニア分解
この窒素ドーピング工程を、リチウム含有化合物中でうまく用いることもできる。好ましい出発電極材料は、LixMoOy、Lix2y、LixCrOy、LixWOy、LixTiOy、LixMnOy、LixNiOy、LixCoOy、より詳細にはLi2MoO4である。
【0059】
1.モリブデン酸リチウムの窒素ドーピング
本明細書において、Li2MoO4の加アンモニア分解を例として取り上げる。出発材料は、Alfa Aesarからの市販の化学物質Li2MoO4(99+%の純度)である。表2に、様々な温度プログラムの下でLi2MoO4の加アンモニア分解から得られた生成物を示す。
【0060】
【表2】

【0061】
Li2MoO4は、水溶性、白色で、絶縁体化合物である。NH3で処理した後に、それは、暗色に変化し、半導体になる(物理的特性測定系において測定)。図19に、市販のLi2MoO4、および試料A〜Fの粉末XRDパターンの変化を示す。温度が上昇するにつれて、試料Bのパターンにおいて参照される通り、まず、生成物の格子定数が拡大し始め、パターンの相対強度が変化し、いくつかのさらなるピークも現れる。これらの特徴により、窒素がLi2MoO4にうまくドーピングされたことを説明することができた。しかし、さらなる加熱により、Li2MoO4の元々の構造が破壊されることがあり、γ−Mo2Nが現れ始める。窒素ドーピング相を明瞭に図示するために、図20により、市販の化学物質Li2MoO4のパターンと、試料Bのパターンとを比較することが可能になる。
【0062】
実施例1および2は、その検討および説明によれば、モリブデン酸塩に窒素ドーピングし、再充電可能なliイオン電池についてそれらを使用した場合に注目しているが、電極材料は、モリブデン酸塩のみに限定されるものではなく、候補は、電池中の電極材料として機能する任意の遷移金属化合物であることができる。合成工程を穏和に制御することにより、NH3を窒素源として用いた場合に、初期の結晶構造を破壊しないが、電極材料中の酸素は、部分的に窒素により置き換えられる。
【実施例3】
【0063】
窒化後の選択的酸化
3.1 材料および方法
3.1.1 化学物質および合成法
NbOCl3を、ガス輸送反応によって調製した。Nb25(>99%、JMC)およびNbCl5(99.8%、Acros)を、モル比1:3で混合し、パイレックス(登録商標)管の中に封入し、400℃に4時間加熱し、40時間のこの温度で保持した。NbOCl3の深緑色の針状結晶が生成した。次いで、これらを微細な白色粉末に磨砕し、色が鮮やかな黄色がかったニオブオキシクロリドアミドNbOCl3(NH3xに変化するまで、室温でアンモニアと反応させた。反応が完全に実行されたことを確認するために、2回目の磨砕が必要であった。NbCl5およびNbOCl3が、両方とも感水性であることを考慮し、実験を、保護的なAr雰囲気下のグローブボックス中で行った。
【0064】
NbNOを、ニオブオキシクロリドアミドの分解により合成した。一般的な反応において、NbOCl3(NH3x0.8gを、管の約20cmが炉の外側になるように垂直管炉の中に置かれたパイレックス管(内径8mmおよび長さ1m)の中に封入した。温度を、10〜30時間、500℃に設定した。黒色のNbNO粉末が下部において得られ、別に、白色のNH4Clがパイレックス管の上部において沈殿した。融剤塩を用いる場合には、一般に、NbOCl3(NH3x0.8g、およびLiI1.7g超乾燥、99%、Alfa Aesar)を、長いパイレックス管(内径8mmおよび長さ12cm)の中に封入し、500℃に加熱し(加熱速度100℃/時間)、マッフル炉の中で5〜40時間、この温度で保持した。次いで、得られた黒色の塊を、脱イオン水で2〜3回洗浄し、遠心分離し、100℃で2〜3時間乾燥した。最終的な黒色粉末生成物のNbNOを得た。
【0065】
炭素コーティングした試料を、純粋なNbNOと少量の水中の15重量%ラクトースとを混合することにより調製し、次に100℃で乾燥した。次いで、残留物を、N2流の炉の中に置いた。温度を非常にゆっくりと(10℃/時間)300℃に上昇させて、1時間で500℃にし、500℃で5時間保持し、炉のスイッチを切り冷却させた。炭素含有率4.6重量%を、最終的な試料中において検出した。
【0066】
3.1.2 熱分析
熱重量分析(TG)および示差熱分析(DTA)を、Netzsch STA 409 C/CD型の機器を用いて行った。NbOCl3(NH3x48.1mgを、アルミナるつぼ中に投入し、測定を、アルゴン雰囲気中で行った。温度を、10K/分で20℃から1400℃に上昇および下降させた。NbNO試料を合成するために、試料54.6mgを開口したアルミナるつぼに投入し、Arを導入した。10K/分の速度で20℃から1450℃に加熱した。
【0067】
3.1.3 回折の特性決定
粉末X線回折(XRD)データを、ブラッグブレンターノの配置、λCuKα1=1.54056Å、放射(40mA、40kV)およびゲルマニウムモノクロメータをもつBruker回折計(AXS mod. D8Advance)により収集した。構造の精密化のためのデータを、15から120度の範囲の2シータにわたり0.015°のステップでそれぞれ10秒で収集した。温度依存性XRDを、5から90度の範囲の2シータにわたり0.015°のステップでそれぞれ0.2秒で行った。0.5℃/秒の速度で加熱した。
【0068】
中性子粉末回折(NPD)データを、ノルウェー、KjellerのJEEP−II reactorのPUS二軸回折計により収集した。1.5561Aの中性子波長を用いた。ステップのサイズは、10から135度の範囲(2シータ)にわたり0.05であった。試料を、バナジウム缶の中に含有させた。XRDおよびNPDについての両方のリートベルト精密化を、GSASのソフトウエアにより行った。(30)
【0069】
3.1.4 元素分析
ラクトース処理した試料中の炭素含有率を、「Laboratorium fuer Organische Chemie」(チューリッヒ、ETH)において分析した。試料のO/N含有率を、EMPA(スイス、デューベンドルフ)のLECO TC500分析計を用いた熱風抽出法により測定した。
【0070】
3.1.5 顕微鏡分析
走査電子顕微鏡(SEM)分析を、1kVで稼働したZeiss Gemini 1530を用いて行った。透過電子顕微鏡(TEM)の測定のために、材料を、銅グリッド上に支持された、穴の開いた炭素箔上に置いた。TEMの調査を、CM30ST顕微鏡(FEI、LaB6カソード)またはTecnai F30顕微鏡(両方とも300kVで稼働、点分解能約2Å)を用いて行った。
【0071】
3.1.6 電気化学的測定
電気化学的な測定を、参照電極としての金属リチウム(厚さ0.75mmのリボン、Aldrich)と、電解質としてのエチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの1:1(重量/重量)混合物中における1MのLiPF6溶液からなるMerck Selectipur LP30とを用いて行った。NbNO/Super P炭素/PVDF(80:10:10重量%)の電極を磨砕し、次いで、40℃で30分間、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に超音波分散した。得られたスラリーを、スポイトを用いてチタン集電体上に塗布し、次いで、溶媒を、150℃で1時間、100℃で終夜、蒸発させた。このような電極の一般的な重量は、約5mgである。定電流の放電/充電の曲線を、10Ah/kgの電流を用いて測定した。
【0072】
3.1.7 磁性測定
磁性の測定を、Quantum Design SQUID(超伝導量子干渉デバイス)の磁力計MPMS 5Sを用いて行った。適用可能な場は、+−5Tおよび温度1.7〜400Kの範囲内である。試料No.3(表3を参照されたい)を、50、1000および5000Oeの一定した外部場において2K〜300K〜2Kで温度が変化するTループ中で測定した。まず、試料をゼロ場(ZFC)において2Kに冷却し、次いで、加温中に場を設定し測定した。次いで、温度を2Kに低下させ、場を同じ水準(FC)に保持した。
【0073】
3.2 結果および検討
3.2.1 NbOCl3とNH3との間の反応
ニオブオキシクロライトアミドNbOCl3(NH3xを、室温におけるNbOCl3の加アンモニア分解により調製した。この化合物の熱分析曲線(図2)は、NbOCl3(NH3xの分解が200℃で開始し、温度が400℃に達したときに激しく進行することを示している。一方で、かなり大量の熱が、この反応中に放出される。NH4Clを、200℃で得られた分解生成物中にXRDにより検出した。分解中の重量減少によれば、黄色のニオブオキシクロライトアミンの分子式を、NbOCl3(NH34として算出することができる。化合物の重量は、この反応の後に500℃超で一定値に達する。この反応の一部の間において、図2のDTA曲線に示す通り、ニオブ酸窒化物の熱的特性に起因し得る、少しの放熱ピークが現れる。この検討の詳細を、NbNOの熱的安定性についての以下の段落において示す。
【0074】
図3にプロットする通り、岩塩相の形成は、温度が500℃に上昇したときに開始した。親近構造の化合物NbNおよびNbOのXRDパターンと比べて、最終生成物を、ニオブ酸窒化物NbOxy(0<x、y<1)と同定し、このことを以前の著述で報告した。(31) 明らかに、温度を上昇させることにより、より良好な結晶化、およびより高い窒素濃度をもつ生成物が得られる。全反応過程を、以下の化学式により説明することができる。
NbOCl3 + 4NH3 = NbOCl3(NH34 (1)
NbOCl3 +(5−2x)/3 NH3
= NbOx1-x +(1−x)H2O +(2+x)/6 N2 + 3HCl (2)
【0075】
式1は、室温で機能する。温度が500℃に上昇したときに、反応2が生じる。
【0076】
3.2.2 結晶学的特性決定
(a)回折パターン
上記に検討したTGおよびDTAの結果に基づいて、化合物NbOCl3(NH34の分解過程を、以下の通り、簡単に記載することができる。
NbOCl3(NH34 = NbNO + 3NH4Cl (3)
【0077】
生成物NH4Clは、380℃超においてNH3およびHClにさらに分解することを指摘しなければならない。
【0078】
この合成のための最初の試みとして、動的真空および不活性ガスの保護的な環境を用いて、NH3およびHClを除去した。驚くべきことに、酸素欠損を示す背景色をもつNb25相を、NbNOの代わりに得た。次の試みにおいて、閉鎖されたパイレックス管の中で出発化学物質を加熱することにより、NbNO相がうまく生成され得ることを見出した。しかし、この反応中において、NH3およびHClの形成に起因する高圧が閉鎖管の中で生じる。これらの厄介な妨害ガスを除去するために、2つの方法を試みた。第1の方法は、高くなる内圧が比較的低いままであるのに十分に大きい反応器を選択することであった。実際に、垂直管炉の中で長いパイレックス管を用いた。NH4Clは、炉内の管の熱い下部において、NH3およびHClに分解し、次いで、ガスは合わさってNH4Clになり、加熱領域外に位置する管の冷えた上部において凝結した。様々な反応条件で調製した5つの試料を調査した(表3を参照されたい)。別の方策は、NH4Clが分解し始める前に、NH4Clを「吸収」することであった。熱力学的に、これらの混合ハロゲン化物は共晶塩に変化し、NH4Clの分解を抑制した。初めに、NbOCl3(NH34の直接分解のための反応温度を最適化した。最適温度は約500℃であることがわかった。二元のハロゲン化物の状態図を注意深く検討した後に、LiIを融剤の候補として選択した。Liイオンは、好ましくは、I-でなくCl-と合わさり、生成物のNH4IおよびLiClは500℃未満で共晶になり得る。このような共晶組成物により、均一で穏和な反応環境がもたらされた。この過程を、以下の化学式として表すことができる。
NbOCl3(NH3)4 + 3LiI = NbNO + 3NH4I + 3LiCl (4)
【0079】
【表3】

【0080】
図4に、5つの異なる試料のXRDパターンを示す。過剰のLiIによりLiNbO3不純物の除去が促進されることを明瞭に参照することができる。これを、以下のように説明することができた。すなわち、過剰のLiIは、LiCl/NH4Iとの共晶混合物を形成することができ、反応のための均一な雰囲気をもたらす適切な融剤として機能する。この場合において、NbOCl3(NH3)4の直接分解反応と異なり、少しのガスしか放出せず、反応器中の過度な高圧を避けることができる。
【0081】
図4bに、これらのXRDパターンの特定の回折角の範囲を拡大する。参照できる通り、ここで得られた試料のパターンは、1977年に収集されたデータと一致しない。(28) 両方の試料は、明らかに同じ単斜晶構造を有するが、様々な相が形成されている。ニオブの様々な可能な酸化状態を考慮すると、ここで得られたNbNO相の中における酸素および窒素の比は1:1より大きく、Nbの原子価は+4と+5との間であると思われる。得られたニオブ酸窒化物の組成および結晶構造を確認するために、元素分析と結晶構造の精密化とを行った。
【0082】
最終生成物の組成を、元素分析を用いてNbN0.7(1)1.3(1)と決定した。この結果は、NPDのデータに基づくFullprofにより算出された精密化値の比O/N=0.575によく一致する。これには、混合原子価Nb4.7+をもつニオブを要する。以下のリートベルト精密化を、1.3/0.7の固定したO/N比で行った。この値は、1.3のうち1のO原子が、参照文献(28)からのNbNOの構造モデルの中の酸素の位置を占めるが、窒素の位置を、0.3のOと0.7のNとが占めるように検証された。参照文献(28)と本発明者らの精密化との間の結晶構造情報の比較結果を、表4に要約する。
【0083】
【表4】

【0084】
(b)電子顕微鏡観察および磁気的挙動
微細な粉末が、化合物の分解反応により容易に得られることは周知である。しかし同時に、高温により、逆に、これらの粒子が一緒に固着および融合されるので、単結晶の成長には有利である。
【0085】
図6〜8に、純粋なNbN0.7(1)1.3(1)、およびラクトース処理した試料のSEM、TEMおよびEDの写真を示す。SEM画像(図6a〜b)により、微細な粉末の中に埋め込まれたマイクロメートルの単結晶が示されており、それらの粒径は、TEM画像(図6c〜d、8a〜b)により5〜10nmと決定される。図7に示す通り、液状の溶融塩の存在により、LiIを補助の融剤として用いた場合に、単結晶がより大きく成長することが明瞭に見える。そのうえ、NbN0.71.3をラクトースで処理した場合において、試料は炭素により完全に被覆されるのが明らかである。さらに、TEMの図8aおよびcに、無被覆の試料と、4.6重量%の炭素コーティングされた試料との間のこの違いを示す。しかし、これらのTEM写真を評価することにより、炭素が、元々のNbNO粒子を真にコーティングしているか、それらの間に位置するだけかを識別するのは困難である。この炭素添加により、実際に、電気化学的特性、すなわち容量とサイクル運転の安定性とが、有効に改善されていることは注目すべきである(以下のサイクル運転曲線についての検討を参照されたい)。そのうえ、得られた結果は、ナノ粒子と大きな単結晶との両方が、単斜晶NbNO相に属することを示している。まず、ナノ結晶(図7b)の中における原子層の間の観測可能な距離1.8Åは、NbNOにおける結晶面(022)に相当する。さらに、電子線回折パターンにおける回折環により、ナノメートルサイズの粒子からなる選択領域の多結晶性が示される。TEM測定において検出された大きな単結晶のEDパターンにおける回折点に指標を付けることにより、この相が単斜晶NbNOと同定される(図8dおよびf)。
【0086】
NbN0.71.3の中のニオブの酸化の原子価が+4.7であることにより、図13に示す通り、この化合物は超常磁性を示すことを強調しなければならない。実際に、粒子間の磁気的な相互作用がナノ粒子の集合体の中で十分に弱い場合に、通常、この現象が起こる。(32) この証拠により、ナノメートルサイズの粒子の特徴と、これらの化合物中におけるニオブの不飽和の酸化状態とが強く支持される。
【0087】
3.2.3 熱的挙動
NbN0.7(1)1.3(1)の熱的安定性を、TG、DTAおよび温度依存性XRDにより調査した。図9におけるXRDパターンによれば、この化合物の格子パラメータは、驚くべきことにあまり変化せず、調査した温度範囲にわたり連続的に縮小さえしている。格子パラメータの変化は、精密化の結果において考慮されない。通常、加熱により単位セルの体積は膨張するので、この稀な熱的現象は本発明者らの注意を惹きつけた。例えば、酸窒化物のペロブスカイトAMO2N(A=Ba、Sr、Ca、M=Ta、Nb)は、対応する親近構造の酸化物より高い熱膨張係数さえ示す。(33) ペロブスカイトの中の八面体の傾きの変化は、格子の体積膨張より熱膨張係数に大きく寄与することがわかっていた。(34) しかし、ここで調査した単斜晶化合物NbN0.71.3の中で、ニオブは、7個のO/Nイオンと接続して、不規則な八面体を形成する。ペロブスカイトの中における対称性の規則的な八面体と比較することにより、[NbO34]の多面体の傾きは、化合物の熱膨張にほとんど影響を及ぼさないが、加熱によるNb−O(N)結合の伸長が、明白により重要な役割を果たしていることが明らかになる。H.Shillingらが報告した通り、バデライトおよび蛍石の型の酸窒化物は、親近構造の酸化物より低い体積熱膨張係数を常に有する。(35) それ故に、単斜晶NbN0.7(1)1.3(1)は、著しく小さいが正の熱膨張係数を示すことが期待される。しかし、図10におけるTG曲線により、室温から500℃への温度上昇中に生じた4%の重量減少に対応する信号が示される。これは、TaNOにおいては検出されていなかったN2の放出によるものであった。(35) 明らかに、ニオブ(V)酸窒化物相は、TaNOより低い熱安定性を有する。結論として、加熱によりNb−O/N結合が伸長されつつ、N2の放出によりセル体積が収縮されるので、NbN0.7(1)1.3(1)は、ほぼゼロの熱膨張係数を示す。
【0088】
逆に、プロットされたTG曲線(図10)から明らかなように、連続的な温度上昇により、500から1000℃の温度範囲内において化合物の重量が4%上昇する。この重量増加は、構造中へのO2の吸収によるものであり得る。TG測定後に得られた黄色がかった白色の試料を、XRDによりNb25相と同定した。NbN0.7(1)1.3(1)の全熱処理過程から、このニオブ酸窒化物の中の窒素は、加熱中に酸素と競合することがわかる。残念ながら、その電気陰性度がより低いので、窒素は、弱い側に常に位置する。このことにより、上記に検討した合成工程の間、閉鎖系を用いると、酸窒化物、例えばNbN0.7(1)1.3(1)を生成するのに好適な条件が得られる一方で、開放系を用いると試料の酸素の攻撃に有利になる理由も説明される。
【0089】
3.2.4 定電流サイクル運転
Liに対する、純粋な、およびラクトース処理したNbN0.7(1)1.3(1)の電気化学的性能を、定電流サイクル運転の条件下で試験および比較をした。様々な範囲の電位を印加したときの、リチオ化の機構がおそらく異なることを考慮し、2つの測定を、それぞれ2つの電位のカットオフ、0.05および1Vで行った。最初の放電を、開回路電圧(OCV)から最終的な電位まで測定し、次の充電を3Vまでサイクル運転した。
【0090】
電位が0.05Vに達したときに(図11aおよび12a)、NbN0.7(1)1.3(1)の最初の放電は、500〜700Ah/kgの高さの並外れた容量を示し、次いで、次のサイクル中において200〜300Ah/kgに急速に降下する。明らかに、炭素コーティングされた試料は、コーティングされていない試料より良好なサイクル運転性能を示す。すなわち、最初の放電の後は、約250Ah/kgのかなり安定した容量でサイクル運転される。純粋なNbN0.7(1)1.3(1)の最初の電圧プロファイルは、0.9Vにおいて、および0.5V未満において、傾斜した平坦域を示している。対照的に、炭素コーティングされた試料について、さらなる1.5Vの平坦域が観測されている。これらの電位のピークを詳細に調査するために、それらの微分の容量曲線を、それぞれ、図11bおよび12bにプロットした。第1に、0.9Vにおける鋭いピークは、最初の放電時に示され、次いで、次のサイクルにおいて消失する。この平坦域は、いくつかのモリブデン酸塩、例えばMnMoO4およびCaMoO4の電気化学的性能において一般に観測される。約0.9Vの観測された平坦域は、炭素により触媒的に促進された、金属酸化物の骨格の破損によるものである。(36-37) 第2に、リチウムイオンが格子中に挿入され、結晶構造を破壊するので、容量に対する最も大きな寄与は、0.5〜0.05Vにおいて生じる。続く充電および放電のサイクル中において、過程のこの部分は、ある程度において可逆的である。
【0091】
リチウムイオンを、NbN0.7(1)1.3(1)の構造の空隙中に挿入することができるかをさらに調査した。この問いに対して答えるために、約1.5Vにおける反応を調査した。図11bおよび12bにおける挿入図に示す通りに、約1.7Vにおける可逆的な酸化および還元のピークが、充電および放電の過程中に観測され、これは、リチウムに対するNb5+/Nb4+の酸化還元電位と一致する。この挙動は、Nb25、 AlNbO4およびKNb513等の他のニオブ酸塩の挙動と類似している。(15-18) これらの化合物中において、Nb4+/Nb3+のさらなる還元は、1.2Vにおける別の電位の平坦域において機能する。しかし、NbN0.7(1)1.3(1)は、最初のサイクル運転においてNb4+/Nb3+の酸化還元対を有するだけで、それは、次いで徐々に消失する。電位のカットオフを1.0Vに設定し、図11cおよび12cに示す通り、(脱)リチオ化の性能は、電位範囲3〜0.05Vよりはるかに安定で可逆的である。電子伝導性が改善されたため、炭素コーティングされた試料は、より良好な電気化学的挙動を期待通りに有し、安定な運転において70〜80Ah/kgの容量をなお保持した。
【0092】
酸化のピークが、充電を継続するにつれて、より低い電位に偏移することを見出した。同時に、Nb4+/Nb3+の還元に対応するピークが消失し始めた。これを、結晶構造の様々な環境中におけるリチウムの挿入反応により説明することができた。まず、リチウムは、放電中にN/Oアニオンにより形成された様々な空隙の中に挿入され、次いで、これらの特定の位置に留まるリチウムが多くなるほど、充電中に残りのリチウムイオンを引き出すのに異なる電位が必要とされる。
【0093】
このように、他の同様のニオブ酸塩およびモリブデン酸塩について行った上記の検討と以前の研究とに基づいて、NbN0.7(1)1.3(1)の充電−放電の反応機構を、ここで提案する。基本的にこの過程を、図12aに記す通りに、2つの電位の部分、0〜1Vおよび1〜3Vにおいて別々に検討することができた。最初の放電、0Vから1Vについて、リチウムがLi+として、NbN0.71.3の結晶構造中へ挿入されることが想定される。110Ah/kgの高さの容量は、約0.5のLiがホストになることを意味し、これは、以下の式により説明される。
Nb4.7+0.71.3+0.5Li++0.5e-=Li0.5Nb4.2+0.71.3 (5)
【0094】
また、充電が1〜3Vの範囲の電位において行われるときに、この反応は可逆的である。NbN0.7(1)1.3(1)のおよびNb25は、同様の酸化−還元のピークを有するが、リチウムの挿入能力に関して大きな隔たりがある。Nb25がどの構造を有しようと、1.6〜1.8molの多さのLi+を、Nb251モル中に挿入することができ、これは、縁部および角部を占める[NbO6]の八面体の間を、容易に通過することが可能ないくつかのトンネルの存在によるものであり得る。しかし、結晶構造を調べると、非対称な[NbO34]の間に形成された空間は不規則で小さく、リチウムイオンにほとんど適合しない。
【0095】
第2の電圧範囲、1〜0.05Vの中において、電位の低下により、より多くのリチウムイオンが化合物中に移動され、ホストの構造が破損される。1.0ボルト未満のこのような変換は、酸化物および窒化物のアノードにおいて非常に一般的に生じる。(4-5, 12)。 これらの単純な酸化物または窒化物について、リチウムが酸素または窒素と合わさり、それぞれ、Li2OおよびLi3Nを生成することは容易に理解される。ここで研究した酸窒化物の中において、リチウムは、酸素と合わさってLi2Oを生成する方を好み、同時に、ニオブ酸窒化物は、別の熱的に安定な相NbN0.30.7に還元されると想定される。室温の格子中における限られたイオン輸送能力を考慮すると、得られた化合物のそれぞれの原子は、それらの以前の位置の近くに留まることを好み、結果として、通常、非晶質の化合物が形成される。これは、変換反応後の生成物の結晶学的な変化を、粉末XRDにより証明できない理由である。さらに、変換後において、リチウムイオンを、NbN0.70.3の中に挿入することができた。1V未満における最初の放電全体を、以下の通りに示すことができる。
Li0.5Nb4.2+0.71.3 + 1.3Li+ + 1.3e-
= Li2O + Nb2.7+0.70.3 (6)
Nb2.7+0.70.3 + 0.5Li+ + 0.5e-
= Li0.5Nb2.2+0.70.3 (7)
【0096】
合計で、最初の放電中において、2.3molのLi+が化合物1molの中に入り、Nbはその原子価を4.7+から2.2+に変化させる。反応機構は、単に、本発明の範囲を限定しない提案に過ぎないことを理解しなければならない。
【0097】
3.3 結論
4.7+の酸化の原子価をもつニオブの酸窒化物を、ニオブクロリドアミドの分解により合成した。2つの方法、すなわち、NbOCl3(NH34の直接分解と、LiIに補助された方法とを調査した。両方の方法において、純粋な化合物が得られ、それらの結晶構造、形態、およびリチウムに対する電気化学的性能を特性決定するために用いた。元素分析および中性子回折を用いることにより、生成された化合物は、NbNOでなく、NbN0.7(1)1.3(1)であると決定された。形態学的に、試料は、3〜5nmのナノサイズの粒子としての特徴を示し、その中において、いくつかのマイクロメートルの単結晶を同様に見出した。NbN0.7(1)1.3(1)は稀な熱的特性を有し、N2が格子から離脱しているので、温度が上昇しても格子パラメータはほぼ一定のままであった。得られた試料NbN0.7(1)1.3(1)を、リチウム不含遷移金属酸窒化物の第1の例として、Liイオン電池におけるその電気化学的性能に関して調査した。実験により、炭素(例えば、炭素4.6重量%)でコーティングされたNbN0.7(1)1.3(1)は、純粋でコーティングされていない試料より、はるかに安定で可逆的なサイクル運転性能を有していたことが支持される。カットオフの電位を0.05Vおよび1Vに設定した場合に、測定された容量は、最初の放電中においてそれぞれ500Ah/kgおよび100Ah/kgに達し、次いで、次のサイクル運転中においてそれぞれ250Ah/kgおよび80Ah/kgで安定した。対応する妥当な機構を、この酸窒化物の放電−充電の過程について提案した。容量を改善する必要があったが、このかなり最密なZrO2型構造の中においてリチウムの挿入能力が制限されるので、それらのサイクル運転性能は、リチウム電池の電極として用いられる遷移金属酸窒化物の電位と、安定で可逆的なサイクル運転と、例えば酸化物と同様の電位とを示した。酸窒化物を酸化物の代わりに電極の候補として選択したときに、このような電位により、より多くの機会がもたらされる。Mg−Ta−O−Nの系における相転移の例のように(35)ドーピングにより、すなわち、遷移金属カチオンの一部を置き換え、酸素および窒素の含有率を調整することにより、リチウムの挿入がより効率的になることが期待され、このような材料の容量が改善される。
【実施例4】
【0098】
逆相エマルジョン指向の合成による、ナノ粒子状の伝導性バインダー、すなわちPEDOTナノスタブの調製
Sunらの系列における逆相マイクロエマルジョンの技術(38)を、PEDOTナノ粒子の合成のために用いた。初めに、ナトリウムビス(2−エチルヘキシル)スルホスクシネート(AOT)8.5g(19.12mmol)を、100%出力(410W)の超音波浴中で、n−ヘキサン70ml中に溶解した。次いで、蒸留水1ml中において無水FeCl31.6g(10.00mmol)の混合物を、パスツール・ピペットで滴下した。すべての酸化剤を添加したら、生成した溶液を、超音波浴の外に取り出し、黄乳白色の沈殿物が現れるまで手で穏やかに振盪した。次いで、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)0.38mlを、そのエマルジョンに一度に添加した。次いで、得られた混合物を、ロータバップ中で1時間、10℃に保持した。水浴の温度が約20℃に達したときに重合が開始した。その後、水浴の温度を30℃で3時間維持した。一方で、この反応混合物は、緑色の次に黒色に変化した。次いで、生成物を吸引濾過し、エタノールおよびアセトンで洗浄した。100℃で終夜乾燥することにより、PEDOTの青色/黒色のナノ粉末を得た。
【0099】
本発明の現在好ましい実施形態を、ここに示し説明したものの、本発明はそれらに限定されず、別に以下の特許請求の範囲内で様々に具体化および実施され得ることを、はっきりと理解すべきである。
【0100】
参照文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体および電極コーティングを含む電極であって、
前記電極コーティングには、電子的に活性な材料として、
式:LixImIInyz (式中、x=0〜3、y+z=2〜4、y>0、z≧0.25、m+n=1、m=0〜1、n=0〜1であり、TIおよびTIIは、双方とも、IVB、VB、VIBおよびVIIBの族、または3d、4dおよび5dの周期の遷移金属である)
のナノ粒子の形態の遷移金属(T)酸窒化物が含まれている、電極。
【請求項2】
y+z=2〜3、z=0.25〜2であり、TIおよびTIIが、両方とも、IVB、VB、VIBおよびVIIBの族で、3d、4dおよび5dの周期の遷移金属である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
Iが、4dまたは5dの遷移金属、特に4dの遷移金属であり、TIIが、3dの遷移金属である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
IおよびTIIが、Zr、Nb、Mo、Ti、V、Cr、Mn、FeおよびCuから選択される、請求項1、2または3に記載の電極。
【請求項5】
IおよびTIIが、これらの最も高い酸化の段階であり、xが0である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
mが0.5から1であり、nが0.5から0である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
m=1およびn=0である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
ナノ粒子状の電子的に活性な材料が、伝導性に、特に熱分解により得ることが可能な炭素質の生成物によりコーティングされている、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
ナノ粒子状の電子的に活性な材料が、熱分解により得ることが可能な炭素質の生成物により結合された、請求項1から8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
ナノ粒子状の電子的に活性な材料が、ナノ粒子状の伝導性バインダーにより結合されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
Iが、Mo、Ti、V、Cr、Mn、W、NiおよびCoから選択され、y<1/10(y+z)である、請求項1に記載の電極。
【請求項12】
電極材料が、ナノ粒子状の伝導性充填材を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の少なくとも1つの電極を含むリチウムイオン電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17a】
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【図17b】
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【図17c】
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【図18a】
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【図18b】
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【図18c】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222521(P2011−222521A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−88038(P2011−88038)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(510010894)ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー (18)
【Fターム(参考)】