説明

遺伝子導入剤

【課題】血管内皮細胞への遺伝子導入も可能な遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入された高分子化合物と核酸とのポリプレックスに対し、RGD配列を有するペプチドを吸着又は複合させてなる遺伝子導入剤。前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖であることを特徴とする遺伝子導入剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤に係り、特に、血管内皮細胞への遺伝子導入が可能な遺伝子導入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。
【0003】
従来、細胞へ遺伝子を導入する技術としては次のようなものが知られているが、いずれも以下に述べるような欠点がある。
(1)ウイルスベクター法
(2)エレクトロポーション法、マイクロインジェクション法等
(3)リポフェクチン法、ポリカチオン法等
【0004】
(1)ウイルスベクター法
ウイルス全般については、合成工程が複雑で感染の危険性がある;ウイルス内には挿入できないような大きな核酸が導入できない(例えばアデノウイルスでは、導入サイズは9000b以下である。);といった欠点がある。
【0005】
(2) 細胞膜に一時的に孔を開けるマイクロインジェクション、エレクトロポーション、遺伝子銃、マイクロジェット等による方法は、細胞膜が不可逆的な損傷を受け、溶解してしまうため、生存率も50%以下と低い。神経細胞など増殖性の低い細胞の場合、生存率が低いことは大きな問題となる。即ち、遺伝子を導入できても、細胞が死滅してしまえば遺伝子導入の意味がない。
【0006】
(3) 細胞のエンドサイトーシスを利用するリポフェクチン法、りん酸カルシウム法、Nakedプラスミド法、ポリカチオン法は、一般的に遺伝子導入効率が低い。スター型ポリマーよりなるベクターがWO2004/092388に記載されているが、内皮細胞に効率よく遺伝子導入することについての記載はない。
なお、アルギニン、グリシン、アスパラギン酸配列すなわちRGD配列を有するペプチドを含んだ、骨/歯成長促進のための歯科用製品が特開2006−83176に記載されている。
【特許文献1】WO2004/092388
【特許文献2】特開2006−83176
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、血管内皮細胞への遺伝子導入も可能な遺伝子導入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の遺伝子導入剤は、芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入された高分子化合物と核酸とのポリプレックスよりなり、RGD配列を有するペプチドを吸着又は複合させてなるものである。なお、RGD配列は、アルギニン、グリシン、アスパラギン酸配列である。
【0009】
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項2において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項3において、前記芳香環がベンゼン環であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項4において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して2〜6個導入されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項5において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個又は6個導入されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項6において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個導入されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項9の遺伝子導入剤は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記高分子化合物の分子量が5千〜50万であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10の遺伝子導入剤は、請求項9において、前記高分子化合物の分子量が5千〜10万であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項11の遺伝子導入剤は、請求項1ないし10のいずれか1項において、RGD配列を有するペプチドの分子量が300〜5000であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の遺伝子導入剤で用いられる高分子化合物は、芳香環に複数の高分子鎖を導入してなるスター型分岐ポリマーである。
【0020】
本発明の一態様に係る遺伝子導入剤は、この高分子化合物(スター型分岐ポリマー)と遺伝子を混合してナノ粒子状のポリプレックスを形成させ、次いでポリプレックスナノ粒子の表面にRGD配列を有するペプチドを吸着させて安定化させたものである。
【0021】
本発明の別態様に係る遺伝子導入剤は、この高分子化合物(スター型分岐ポリマー)と、遺伝子と、上記ペプチドとを混合してナノ粒子状のポリプレックスを形成させたものである。
【0022】
核酸は一般に生体内においてあまり安定ではなく、ある種の酵素によって分解される。本発明の遺伝子導入剤を用いた核酸含有複合体では、核酸をスター型分岐ポリマーとの凝集体とし、この凝集体に上記ペプチドを複合させるか又はその周囲にペプチドを吸着固定させて酵素から保護するので、少なくとも凝集体内部の核酸を生体内で正常に機能させることができる。
この遺伝子導入剤は、RGD配列を有するペプチドが固定されていることにより、血管内皮細胞のインテグリンを介して血管内皮細胞内へも容易に侵入し得る。
【0023】
なお、他の公知の合成カチオン性ポリマーと遺伝子のポリプレックスまたはカチオン性脂質と遺伝子のポリプレックスとRGD配列を有するペプチドを混合したものでトランスフェクションを行っても効果は得られない。一般のカチオン性ポリマーベクターと遺伝子のポリプレックスは、ペプチドなどを混合するとポリプレックス同士が凝集して沈殿していまい、遺伝子導入効果が発現されないのが一般的である。
【0024】
本発明で使用したスター型分岐ポリマーは、その独自の分子構造によるイオン強度・電荷密度がポリプレックスの形成に至適と考えられ、水溶液中で安定して分散するポリプレックスが得られる。ポリプレックスへ包埋された遺伝子は、ペプチドはもちろん酵素の作用に対しても安定である。そのため、RGD配列を有するペプチドをポリプレックスへ吸着させてもポリプレックスが安定に分散しているものと考えられる。
【0025】
本発明の遺伝子導入剤に吸着されたペプチドは、RGDアミノ酸配列を有するものである。このRGD配列は、血管内皮細胞のインテグリンに対し指向性を有する。従って、このRGD配列を有するペプチドを固定した本発明の遺伝子導入剤であれば、血管内皮細胞への遺伝子導入が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の遺伝子導入剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
[高分子化合物]
まず、本発明の遺伝子導入剤において用いられる高分子化合物について説明する。
【0028】
この高分子化合物は、芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入された化合物である。
【0029】
ここで、この高分子鎖の核となる芳香環としては、炭素数5〜8の芳香環、特に炭素数6の芳香環(即ちベンゼン環)の、単環又は2〜6個の縮合環、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環、ピレン環が挙げられ、好ましくはベンゼン環である。
【0030】
核となる芳香環に導入される高分子鎖の数は、ベンゼン環であれば2〜6個、ナフタレン環の場合2〜8個、アントラセン環、ピレン環の場合2〜10個であるが、多い程効果的であり、例えばベンゼン環であれば2,3,4又は6個、特に4又は6個、とりわけ6個であることが好ましい。
【0031】
高分子鎖を導入するための原料となる芳香環化合物としては、例えば芳香環がベンゼン環の場合、次のようなベンゼン誘導体が挙げられる。
【0032】
即ち、3分岐鎖用としては、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる2,4,6−トリス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)メシチレンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0033】
芳香環に導入された高分子鎖のうちの少なくとも一つ、好ましくはそのすべてがその先端側に活性高分子ブロック鎖を有するものである。この高分子鎖は、ビニル系単量体の単独又は異なるビニル系単量体の共重合体よりなるビニル系高分子ブロック鎖、特に3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH等の重合体よりなるポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖であることが好ましい。
【0034】
芳香環にこのような高分子鎖を導入してなる高分子化合物、例えば、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体よりなる高分子ブロック鎖を導入した高分子化合物を合成するには、まず、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドと前述の各ベンゼン誘導体とをメタノールなどのアルコール溶液あるいは溶解性を考慮してクロロホルムなどの低極性溶媒の溶液として混合し、光重合反応させることにより、ベンゼン環に対し上記ベンゼン誘導体由来の−CH−等を介して3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの重合体が結合した高分子化合物を製造する。
【0035】
本発明において、芳香環に複数の高分子鎖が導入されてなる高分子化合物の分子量は5千〜50万、特に1万〜20万、とりわけ1万〜10万程度であることが好ましい。この分子量が過度に大きいと、高分子化合物及び核酸で複合体を形成させた際の複合体のサイズが大きくなったり、溶解性が低くなったり、生体内へ使用する場合に、排泄に不利になることが考えられる。逆に過度に小さいと低分子量有機化合物としての性質が強く発生して細胞毒性、高浸透圧、など生物学的な弊害が出てしまう。
【0036】
また、1本の高分子鎖を構成する単量体の数は、その単量体の種類や反応性等によっても異なるが、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖を構成する単量体数は5〜1000程度であることが好ましい。
【0037】
[核酸]
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0038】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0039】
この核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチド特にDNAが好適であるが、リボ核タンパク質であってもよい。
【0040】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0041】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0042】
また、アンチセンスによるリプレッシングの他に、21〜23塩基の二本鎖RNAを使用したRNA干渉によるmRNA破壊などに利用することも可能である。
【0043】
[ポリプレックスの形成]
高分子化合物(スター型分岐ポリマー)と核酸とを複合させてポリプレックスを形成するには、この高分子化合物の濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して高分子化合物を過剰量添加し、高分子化合物を核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0044】
[ペプチド]
本発明の遺伝子導入剤に吸着されているペプチドについて説明する。
本発明の遺伝子導入剤に吸着されているペプチドは、RGD配列を有する。このRGD配列はインテグリン指向性を有しており、このペプチドはインテグリンを介して細胞に結合する性質がある。このRGD配列を有するペプチドの分子量は300〜5000程度が好ましく、直鎖状でも環状でも構わない。具体的には『Arg−Gly−Asp』、『Arg−Gly−Asp−Ser』、『Arg−Gly−Asp−Ser-Pro-Ala−Ser−Ser−Lys−Pro』、『Gly−Arg−Gly−Asp−Ser』、『Gly−Arg−Gly−Asp−Thr−Pro』などが挙げられる。
【0045】
[ペプチドの吸着又は複合化による遺伝子導入剤の形成]
ペプチドをポリプレックスに吸着させるには、スター型カチオン性ポリマーと核酸とを水溶液中で混合することで形成させたポリプレックスと、RGD配列を有するペプチドの水溶液を混合する。これにより、ポリプレックスへペプチドが疎水結合的に及び又は静電的に吸着する。このペプチドを吸着したポリプレックス微粒子は水溶液中で安定して分散する。
【0046】
ペプチドをポリプレックスに複合させるには、スター型カチオン性ポリマーと、核酸と、RGD配列を有するペプチドとを水溶液中で混合する。これにより、ポリプレックスへペプチドが疎水結合的に複合する。このペプチドを複合したポリプレックス微粒子も水溶液中で安定して分散する。
【0047】
ポリプレックスにペプチドを吸着又は複合させてなる遺伝子導入剤の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、ポリプレックス内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0048】
[生体への投与]
上述のような高分子化合物(スター型分岐ポリマー)と核酸とのポリプレックスに前述の特定のペプチドが固定されてなる本発明の遺伝子導入剤は、生体内へ投与される。
【0049】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」は血管やリンパ管の内皮細胞とくに血管内皮細胞であるが、ES細胞にも適用可能であると推察される。
【0050】
本発明の遺伝子導入剤は任意の方法で生体に投与することができる。
【0051】
体内へ挿入するデバイスとしては、経皮的に患部付近の組織へ刺入するものや、血管カテーテル、ステントグラフトのように血管内へ留置するものなどがあるが、この限りではない。
【0052】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0053】
この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0054】
また、この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0055】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0056】
この核酸含有複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例1,2及び比較例1を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0058】
<ペプチド>
この実施例1,2及び比較例1ではペプチドとして市販の試薬(シグマ社、A8052、Arg−Gly−Asp)を使用した。
【0059】
<遺伝子導入剤>
また、スター型分岐ポリマー(高分子ブロック鎖導入高分子化合物)よりなる遺伝子導入剤としては、次の[1]〜[2]のようにして合成したものを用いた。
【0060】
[1]1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0061】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。
【0062】
【化1】

【0063】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ 1.26−1.31ppm(t, 24H, CHCH),δ 3.69−3.77ppm(q, 8H,N(CHCH),δ 3.99−4.07ppm(q, 8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0064】
[2]4分岐型pDMAPAAmホモポリマーよりなる遺伝子導入剤の合成
【0065】
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0066】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのクロロホルムへ溶解し、減圧蒸留により精製された3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)19.0gを加えて混合し、全量をクロロホルムで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を35分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[N,N−ジエチルジチオカルバミル−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより3700と測定された。
【0067】
【化2】

【0068】
H−NMR (in DO)の測定結果は,δ1.5−1.8ppm(br, 2H, −CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br, 6H, N−CH), δ2.2−2.4ppm(br, 2H, CH−N), δ3.0−3.4ppm(br, 2H, NH−CH), δ7.4−7.8ppm(br, 1H, −NH−)となった。
【0069】
<遺伝子導入実験に用いた細胞及びDNA>
細胞にはマウス血管内皮細胞を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。
【0070】
<実施例1>
遺伝子導入剤の溶液を以下のようにして調製した。RGDペプチド凍結乾燥品を、1単位を10mgとして4〜16単位/100μLのダルベッコPBS溶液を調製した。これら各単位濃度のRGDペプチド溶液10μLと1.0μg/μL濃度の4分岐型pDMAPAAmホモポリマー生理食塩水溶液90μLをタッピングして混合して10分間放置した。ここに濃度0.033μg/μLのDNAのTEバッファー溶液60μLを混合し、150μLのOPTI−MEMを混合して30分間インキュベートし、遺伝子導入剤溶液とした。
24穴培養プレートへマウス血管内皮細胞を6×10個播種し、培養24時間後にトランスフェクションを行った。
トランスフェクションは培養細胞から培地を除去し、PBSで2回洗浄後に遺伝子導入剤溶液を200μLずつ加えて3時間インキュベートし、PBSで洗浄後に完全培地を加えて48時間培養して行った。
トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。
【0071】
<実施例2>
DNA、RGDペプチド、4分岐型pDMAPAAMホモポリマーの3成分を同時に混合した以外は実施例1と同様の手順でトランスフェクションを行った。
【0072】
その結果、第1図及び第2図の通り、実施例1及び2のいずれにおいても血管内皮細胞へ効率の良い遺伝子導入が可能であることが確認された。
【0073】
<比較例1>
トランスフェクション前の培養細胞にRGDペプチドを混合した培地を加え、1時間の培養後にPBSで洗浄した。pDMAPAAMホモポリマーとDNAのOPTI−MEM溶液を30分間インキュベートし、PBSで洗浄したEC細胞へ加えた。
ホタルルシフェラーゼ活性の定量は実施例と同様に行ったが、培養細胞へ直接RGDペプチドを作用させた後にポリプレックスを添加しても、第3図の通り、RGD未添加の系と差は認められなかった。
以上より、pDMAPAAMホモポリマーとDNAとのイオン複合体の粒子へRGDペプチドを吸着又は複合体として粒子に取り込ませたものを遺伝子導入剤として使用することにより、血管内皮細胞への効率の良い遺伝子導入が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例2におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【図3】比較例1におけるルシフェラーゼ活性の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環に複数の高分子鎖が置換基として導入された高分子化合物と核酸とのポリプレックスよりなり、RGD配列を有するペプチドを吸着又は複合させてなる遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記芳香環が炭素数5〜8の芳香環の、単環又は縮合環よりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項2において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項3において、前記芳香環がベンゼン環であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項4において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して2〜6個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項5において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個又は6個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項6において、前記高分子鎖はベンゼン環に対して4個導入されていることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記高分子鎖は、ポリアクリルアミド系高分子ブロック鎖又はポリアクリレート系高分子ブロック鎖であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記高分子化合物の分子量が5千〜50万であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項10】
請求項9において、前記高分子化合物の分子量が5千〜10万であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、RGD配列を有するペプチドの分子量が300〜5000であることを特徴とする遺伝子導入剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−195682(P2008−195682A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34890(P2007−34890)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】