説明

遺伝子導入剤

【課題】遺伝子導入効率の高い遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】芳香族環を核とし、それから伸延したカチオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤において、該分岐鎖に炭酸系イオンが結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。炭酸系イオンとしては、炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤に係り、特に遺伝子導入効率が高い遺伝子導入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。
【0003】
本出願人らは、合成高分子ベクターとしてベンゼンなど芳香族環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体微粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できることを発明した(下記特許文献1,2)。この複合体微粒子が細胞膜を透過するメカニズムとしては、カチオン性ポリマー鎖による陽電荷が細胞膜表面の陰電荷と静電的に結合しエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる作用に大きく依存していると考えられる。
ところで、合成高分子製ベクターの遺伝子導入効率を向上させるためには、DNAとのイオン複合体が細胞内へ取り込まれた後に、いかにエンドソーム内から脱出するかに依存している、と考えられている。エンドソームからイオン複合体が脱出するには、カチオン性高分子のアミンを中和するために大量のプロトンがエンドソーム内へ浸透することで内圧が上がり破裂するためと推測されている(プロトンスポンジ現象)。
【特許文献1】WO2004/092388
【特許文献2】特開2007−70579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、遺伝子導入効率が高い遺伝子導入剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の遺伝子導入剤は、芳香族環を核とし、それから伸延したカチオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤において、該分岐鎖に炭酸系イオンが結合していることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、炭酸系イオンが炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンであることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項1又は2において、前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項3において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項5の遺伝子導入剤は、請求項3又は4において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項6の遺伝子導入剤は、請求項3ないし5のいずれか1項において、該分岐鎖はビニル系モノマーのホモポリマーよりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項3ないし5のいずれか1項において、前記分岐鎖は、前記ビニル系モノマーと、異なるモノマーとのランダム又はブロック共重合体であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項8の遺伝子導入剤は、前記異なるモノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の遺伝子導入剤は、負電荷を有する核酸とイオン複合体を形成し、細胞へ作用させることでエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる。細胞取り込み後は強酸性でかつ37℃付近の生理的温度下にあるエンドソーム中でポリカチオンの側鎖に付加した炭酸塩から炭酸ガスが気体として放出され、容積の膨張によってエンドソームへ穿孔してイオン複合体のエンドソーム脱出を促進する。
【0014】
このように、本発明は浸透したプロトンによるエンドソーム内外の浸透圧差だけでなく、イオン複合体から積極的に炭酸ガスを放出させることで内圧を上げてエンドソーム膜の破壊を助長させるものである。なお、生成した二酸化炭素は生体への影響が少ない。
【0015】
前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい。
【0016】
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。
【0017】
このビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0018】
本発明では、分岐鎖は、ビニル系モノマーのホモポリマーであってもよく、2種以上のモノマーのランダム又はブロック共重合体であってもよい。共重合するモノマーとしては、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤
【0019】
なお、上記のN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のブロックは、温度感応性を有しており、所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性であるため、遺伝子導入剤を水に溶解させて核酸と複合させることができ、この遺伝子導入剤は、所定温度よりも高い温度になると疎水性となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の遺伝子導入剤は、芳香族環から放射状等に伸延した複数のカチオン性分岐鎖を有したスター形分岐型重合体(スター形ポリマー)よりなる。
【0021】
このスター形分岐型重合体としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。
【0022】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0023】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0024】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
【0025】
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CH、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0026】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0027】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。
【0028】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0029】
照射する光の波長は300〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0030】
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0031】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0032】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0033】
この光照射により、反応液中に分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体としてのカチオン性ホモポリマーを得る。
【0034】
この分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
【0035】
本発明では、この分岐型重合体(スター形ポリマー)は、上記ホモポリマーであってもよく、さらに異なる重合体とのブロック共重合体又はランダム共重合体であってもよい。例えば、上記ホモポリマーに対し、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを導入してもよい。また、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させて温度感応性ポリマーブロックを導入してもよい。なお、先にN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーよりなる分岐鎖を有した分岐型重合体を形成し、その後、各分岐鎖の先端側にカチオン性ポリマーブロックを導入するようにしてもよい。
【0036】
このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有する。なお、これにより遺伝子導入剤が上記温度応答性を具備するようになる。
【0037】
カチオン性ポリマーブロックにN,N−ジメチルアクリルアミドあるいはN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させるには、上記のようにして合成したスター形分岐型重合体を好ましくはアルコール例えばメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体を混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.01〜10重量%程度が好適であり、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.3〜30重量%程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
【0038】
このスター形分岐型重合体の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
【0039】
本発明では、このスター形分岐型重合体の分岐鎖に炭酸系イオンを結合させる。この結合は、分岐鎖の正電荷と炭酸系イオンの負電荷との静電引力によるものと考えられる。
【0040】
炭酸系イオンとしては、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの少なくとも1種が好ましい。炭酸系イオンの結合量としては、分岐鎖の主鎖の炭素原子1000個当たり、炭酸系イオンが10〜500程度結合する程度が好ましい。
【0041】
炭酸系イオンとして炭酸イオンを分岐鎖に結合させるには、この分岐型重合体(スター形ホモポリマー)の架橋を行うには、スター形ホモポリマーの濃度0.1〜20wt%程度の水溶液に炭酸ガスをバブリング(通気)するのが好ましい。炭酸ガスの通気量としては、水溶液1L当り0.1〜5.0L/min程度であればよいが、これに限定されない。通気時間は10〜60min程度が好適である。この通気時の水温は低い方が好ましい。
【0042】
前記した通り、本発明の遺伝子導入剤は、負電荷を有する核酸とイオン複合体を形成し、細胞へ作用させることでエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる。細胞取り込み後は、強酸性でかつ37℃付近の生理的温度下にあるエンドソーム中でポリカチオンの側鎖に付加した炭酸塩から炭酸ガスが気体として放出され、容積の膨張によってエンドソームへ穿孔してイオン複合体のエンドソーム脱出を促進する。
【0043】
上記の通り、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体をブロック共重合させた遺伝子導入剤は、約30℃よりも高い温度で疎水性であり、約30℃よりも低い温度で親水性である。従って、30℃よりも低い温度で核酸と遺伝子導入剤の水溶液とを混合して遺伝子導入剤に核酸を複合させることができる。
【0044】
約30℃よりも高い温度では、核酸を複合した遺伝子導入剤は、温度感応性核酸よりなる疎水性部分を有し、水不溶性となる。
【0045】
このようにして生成した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0046】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、遺伝子導入剤中のカチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0047】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0048】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0049】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0050】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0051】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0052】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0053】
本発明の核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0054】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0055】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0056】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0057】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0058】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
実施例1
1) イニファターの合成
イニファターである1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した(化1)。
【0060】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)1.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム4.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム200mLへ溶解し、150mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0061】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0062】
【化1】

【0063】
2) カチオン性ホモポリマーの合成(化2)
上記のようにして合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、減圧蒸留により精製してある3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド3.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm−400nmの混合紫外線を20分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.500mW/cmで調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で3回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼンよりなるカチオン性ポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより40,000(Mw/Mn=1.3)と測定された。
【0064】
H NMR(in DO)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−),δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH),δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N),δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH),δ7.4−7.8ppm(br,1H,−NH−)となった。
【0065】
【化2】

【0066】
3) 炭酸ガスの担持
2)で合成した4分岐型スター型カチオン性ホモポリマー(pDMAPAAm)0.4グラムを40mLの水へ溶解し、氷冷した。緩やかに攪拌しながら高純度炭酸ガスをパスツールピペットからバブリングした。30分後、溶液は粘性を増し、若干の白濁を確認した。水溶性に寄与しているジメチルアミノ基の運動が制限された結果と推測される。溶液を2−プロパノールへ滴下すると結晶性の沈殿を生じ、アルコールへの溶解性が落ちていることが分かった。
ガラス板上でキャストフィルムを作成し赤外吸収を確認するとC=Oストレッチの吸収が上がり、ポリマーフィルム中にCOが担持されていることが確認された。さらに1N塩酸をフィルムへ滴下するとフィルムが溶解するのと同時に発泡が観察され、酸性雰囲気下で炭酸ガスを放出することが確認された。
【0067】
4) 遺伝子導入活性の評価
細胞にはアフリカミドリサル腎細胞の由来のCOS-1を使用し、DNAにはpGL3コントロールベクターを使用した。COS-1細胞は細胞数を4万個/mLへ調整して24Well培養皿へ播種し、培養24時間後に遺伝子導入を行った。添加量は、1mL容の溶液を滴下することで0.5μgのDNAが各Wellへ投与されるように溶液濃度を調整して培養細胞へ加えた。遺伝子導入剤とDNAの混合比はCO担持前の4分岐型pDMAPAAMホモポリマーとDNAの電荷数の関係で、陽電荷数が陰電荷数の5倍となるように調整した。4分岐型pDMAPAAMホモポリマーの単位重量あたりの陽電荷数は中和滴定により求めた。DNA中の単位重量あたりの陰電荷数は配列マップによる塩基対数と核酸塩基の平均的分子量660とから計算した。
CO担持させた4分岐型pDMAPAAMホモポリマーの溶液(1.0mg/mL)を0分〜30分間窒素ガスでバブリングして実施例の遺伝子導入剤溶液とした。
この遺伝子導入剤溶液とDNA溶液を室温下で温和に混合しOPTI−MEMで希釈し、培養細胞へ加えた。3時間後にOPTI−MEMを除去し、PBSで洗浄したあとに完全培地を加え、48時間培養を行った。トランスフェクションの48時間後にルシフェラーゼアッセにより遺伝子導入活性の評価を行った(プロメガ社、アッセイキット試薬)。補正はタンパク濃度で行い、タンパク定量はBioRad社のBradford試薬で行った。結果を図1に示す。
【0068】
比較例1
比較例の遺伝子導入剤溶液は、COガスを担持していない2)で合成した4分岐型pDMAPAAMホモポリマーの溶液(1.0mg/mL)を30分間窒素ガスでバブリングして使用した。
この比較例1の遺伝子導入剤溶液についても、実施例1と同様にして遺伝子導入活性を評価した。結果を図1に示す。
【0069】
図1より、実施例の4分岐型pDMAPAAMポリマーのCO担持体は比較例よりも高い遺伝子導入活性を持っていた。この理由としてはDNAと形成させたポリプレックスが細胞内へエンドサイトーシスによって取り込まれた後に酸性環境下のエンドソーム内でポリマー側鎖に担持されたCOが気化して体積が増えることでエンドソームを膨張させ、ポリプレックスのエンドソームからの脱出を助長していることが推定される。
【0070】
図1の通り、実施例の4分岐型pDMAPAAMポリマーのCO担持体は溶液調製後に窒素ガスをバブリングすることで時間依存性に遺伝子導入活性が減少し、10分後には比較例と同等まで減少した。これは、4分岐型pDMAPAAMポリマーの側鎖のジメチルアミノ基に担持させたCOが窒素ガスのバブリングによって除去された結果と考えられる。
【0071】
4分岐型pDMAPAAMポリマーへのCOガスの担持量の定量化(制御方法)、最適化、保存時の経時変化(自然に脱気される分)など今後の課題は多いが、4分岐型pDMAPAAMポリマーのCOガス担持体を遺伝子導入剤として使用することにより、効率の良い遺伝子導入が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環を核とし、それから伸延したカチオン性の複数の分岐鎖を有する分岐型重合体を有する遺伝子導入剤において、該分岐鎖に炭酸系イオンが結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、炭酸系イオンが炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記分岐型重合体は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項3において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項3又は4において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか1項において、該分岐鎖はビニル系モノマーのホモポリマーよりなることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項7】
請求項3ないし5のいずれか1項において、前記分岐鎖は、前記ビニル系モノマーと、異なるモノマーとのランダム又はブロック共重合体であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項7において、前記異なるモノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−82083(P2009−82083A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257626(P2007−257626)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】