説明

遺伝子導入動物および組換え抗体の製造方法

本発明は、商業的に有用な量のヒト、ヒト化またはキメラ抗体を産生する細胞を得るための手段に関する。本発明によって、培養において使用して抗体を産生するために動物から高抗体産生細胞を選択および単離することが可能になる。また本発明は、ヒト、ヒト化またはキメラ免疫グロブリンの親和性成熟のための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の抗原と反応性であるヒト化、ヒトまたはキメラ免疫グロブリンは、有望な治療薬および/または診断薬である。しかしながら、十分な量のヒト、ヒト化および/またはキメラ抗体の産生は困難であることが証明されている。本出願は、商業的に有用な量のヒト、ヒト化またはキメラ抗体を産生するための手段を提供する。本発明によって、培養において使用して抗体を産生するために、動物から高抗体産生細胞を選択および単離することが可能になる。また本発明は、ヒト、ヒト化またはキメラ免疫グロブリンの親和性成熟のための方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物系の免疫グロブリン(Ig)の基本的な構造単位は、2本の同一の「軽鎖」ポリペプチド鎖(約23kDa)および2本の同一の「重鎖」(約53〜70kDa)で構成される。重鎖および軽鎖はジスルフィド結合によって「Y」配置で連結され、2本の重鎖の「テール」部分も共有ジスルフィド結合で結合される。
【0003】
Ig軽鎖および重鎖はそれぞれ、N末端部の可変領域およびC末端部の定常領域で構成される。軽鎖では、可変領域(「V」と呼ばれる)は、結合(J)領域によって定常領域(C)に結合された可変(V)領域で構成される。重鎖では、可変領域(V)は、多様性(D)領域および結合(J)領域の組み合わせによって定常領域(C)に結合された可変(V)領域で構成される。軽鎖および重鎖のVおよびV領域はそれぞれYの先端部で結合されて、抗体の抗原結合部分を形成し、抗原結合特異性を決定する。
【0004】
(C)領域は、抗体のアイソタイプ、すなわちそのクラスまたはサブクラスを定義する。異なるアイソタイプの抗体は、補体を活性化する能力、様々な種類の細胞型で存在する特異的受容体(例えば、Fc受容体)に結合する能力、粘膜および胎盤障壁を横切る能力、および基本の四鎖IgG分子のポリマーを形成する能力など、そのエフェクター機能が著しく異なる。
【0005】
抗体は、免疫グロブリン分子において用いられるC型に従って「クラス」に分類される(IgM、IgG、IgD、IgE、またはIgA)。少なくとも5つの型のC遺伝子(Cμ、Cγ、Cδ、Cε、およびCα)が存在し、いくつかの種(ヒトを含む)は、多数のCサブタイプ(例えば、ヒトではIgGサブタイプのCγ、Cγ、Cγ、およびCγ)を有する。ヒトのハプロイドゲノムには、全部で9つのC遺伝子が存在し、マウスおよびラットには8つ存在し、その他の多くの種にもいくつか存在するがこれよりも少ない。これに対して、軽鎖の定常領域(C)には通常2つのタイプ、カッパ(κ)およびラムダ(λ)だけが存在し、単一の軽鎖タンパク質中にはこれらの定常領域のうちの1つだけが存在する(すなわち、産生される全てのVに対して、可能性のある軽鎖定常領域は1つだけ存在する)。それぞれの重鎖クラスは、いずれかの軽鎖クラスと関連され得る(例えば、所与の抗体においてCγ領域はカッパまたはラムダ軽鎖のいずれかと関連され得る)。特定のクラスの重鎖および軽鎖の定常領域は抗原結合部位に関与せず、従って抗原特異性に関与しない。
【0006】
重鎖および軽鎖のV、D、J、およびC領域のそれぞれは、別個のゲノム配列または遺伝子セグメントによってコードされる。抗体の多様性は、重鎖の異なるV、D、およびJ遺伝子セグメント、ならびに軽鎖のVおよびJ遺伝子セグメントの間の組換えによって生じる。異なるV、D、J遺伝子の組換えは、B細胞の分化の際にDNA組換えによって達成される。簡単に言うと、重鎖配列は再結合して、まずD複合体を生じ、そして次に、第2の組換え事象によってV複合体が産生される。転写において機能性重鎖が産生されたら、RNA転写物のスプライシングが行われる。機能性重鎖の産生は軽鎖配列の組換えを引き起こして再編成されたV領域を生じ、これは次に機能性V領域、すなわち機能性軽鎖を形成する。組換えに加えて、2つの追加的な現象によって多様性が増大されるが、これは、N多様性(V/D/J接合部におけるヌクレオチドのトリミングおよび追加)および体細胞超変異(成熟B細胞が抗原に遭遇し、その結果として、この抗原に対する変異IgGの親和性が増大されるときの、再編成されたVDJセグメントにおける高度のさらなる変異)として、当該技術分野において知られている。
【0007】
B細胞の分化の過程で、単一のB細胞の子孫は、可変領域によって決定される抗原特異性を変化させることなく、発現した免疫グロブリンのアイソタイプをIgMからIgGまたは他のクラスの免疫グロブリンにスイッチすることができる。免疫グロブリンのクラススイッチとして知られるこの現象は、各C遺伝子(Cγを除く)の5’に位置するスイッチ(S)領域間で起こるDNAの再編成を伴う(非特許文献1および非特許文献2においてレビューされる)。S−S組換えは、Vエクソンを、同じ染色体上にある介在C遺伝子の欠失によって発現すべきC遺伝子の近くにもたらす。クラススイッチのメカニズムはサイトカインによって指示される(非特許文献3)。スイッチ領域は、1kb(Sε)〜10kb(Sγ)の様々なサイズを有し、長さおよび配列の両方が異なるタンデム反復で構成される(非特許文献4)。マウスSμ、Sε、Sγ、Sγ3、Sγ1、Sγ2bおよびSγ2aスイッチ領域、ならびにヒトSμスイッチ領域を含む、いくつかのスイッチ領域が特徴付けされている(非特許文献3、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献4、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15および非特許文献16)。
【0008】
診断薬および治療薬としての抗体の価値および能力は、当該技術分野において長い認識されている。残念なことに、この分野は、所望の特異性を有する大量の抗体を産生するために必要とされるゆっくりとした退屈な工程によって妨害されてきた。古典的な細胞融合技法は、抗体を産生するB細胞を不死化細胞株と融合することによって、モノクローナル抗体の効率的な産生を可能にした。得られた細胞株は、ハイブリドーマ細胞株と呼ばれる。しかしながら、これらのモノクローナル抗体のほとんどはマウス系で産生され、ヒト免疫系によって「外来性」タンパク質と認識される。従って、患者の免疫系は抗体に対する応答を誘発し、その結果、抗体の中和および排除、ならびに/または抗体に対する免疫応答に関連する潜在的に深刻な副作用がもたらされる。
【0009】
この問題への1つの取り組みは、外来性エピトープほど容易に「認識」されないキメラ、ヒトおよび「ヒト化」モノクローナル抗体を開発して、患者の抗体に対する免疫応答を回避することであった。しかしながら、ヒトまたはヒト化抗体の産生のための技法はそれぞれ、特定の制約および不都合に直面する。キメラ、ヒトおよびヒト化抗体は、大量生産において使用可能な条件下で十分な量の抗体を産生することができる細胞株の開発を必要とする組換え産生系(例えば、CHO細胞系)において発現されなければならない。これらの産生系は、規制の目的のために詳細な特徴づけも必要とする。キメラ抗体を産生するために上記のような組換えDNA技法に頼っている技法の例は、特許文献1(ニューバーガー(Neuberger)ら)、ならびに特許文献2(キャビリー(Cabilly)ら)および特許文献3(フェル(Fell)ら)に記載されている。これらの方法では、DNAを1つの細胞からもう1つの細胞へ転移させ、従ってその自然の座位から除去することが必要とされ、そのため最終の抗体コード化構築物が機能性である(例えば、所望の遺伝子産物の転写および翻訳が可能である)ことを保証するためにはDNAの慎重なインビトロ操作が必要とされる。それらのトランスフェクタントにおいて臨床的な実施に適合する抗体の量を産生できなかったことが、抗体に基づく計画の失敗の共通の理由である。比較すると、B細胞ハイブリドーマに基づく産生は十分に特徴付けされており、そして通常は多量のモノクローナル抗体を提供し、従ってより簡単な製造工程を提供し得る。当該分野では、従来のトランスフェクション系よりも効率的な系において多数のクローニングステップを必要とせず、ハイブリドーマ細胞から実行することができる、所望のタンパク質または抗体の製造方法が明らかに必要とされている。
【0010】
もう1つのよく使用される技術は、ヒトIg座位を有する遺伝子導入マウスに基づいている。これらのマウスはヒト抗体産生B細胞を産生し、いくつかの場合には、B細胞は融合してハイブリドーマを生じることができるが、得られるほとんどのB細胞は製造に適さず、上記のような組換え技法を用いなければならない。さらに、遺伝子導入マウス系は標的抗原に対する抗体を得ることができず、リード抗体(例えば、目的とする特性を有する既知のヒト、キメラまたは齧歯類mAb)に基づく開発を可能にしない。例えば、多くのヒト腫瘍抗原はマウスでは免疫原性ではなく、そのため、ヒト抗原に対する抗体を産生するB細胞をこれらの動物から単離するのは困難である。最後に、製造において使用可能なハイブリドーマを産生するために融合可能なB細胞をこのような遺伝子導入動物から得ることが可能な場合でも、B細胞は、通常、低レベルの抗体産生を提供する。
【0011】
さらに、抗体の発現の基本的な問題(例えば、高産生B細胞を得る、または製造においてCHO細胞などの非ハイブリドーマ細胞を使用しなければならない)の範囲を越えて、古典的な免疫化手順を用いて得られる多くの抗体には、治療的な使用を対象とした抗体において所望される親和性または他の特徴が欠けている。例えば、免疫化におけるいくつかの場合には、IgM抗体を産生するがIgG抗体を産生しないB細胞が得られる(IgM抗体は通常低親和性を有する)。他の場合にはIgG産生B細胞が得られるが、抗体には所望の親和性が欠けている。さらに他の場合には、ヒト化またはキメラ化(例えば、CDRグラフティング)方法は、親和性の低下をもたらす。1つの周知の取り組みは、バクテリオファージがその表面に生物学的に機能性のタンパク質分子を発現および表示する能力を利用することによって、抗体断片の大きいライブラリーを作成するために使用されるファージ表示技術である。抗体のコンビナトリアルライブラリーはバクテリオファージラムダ発現系において作成されており、バクテリオファージプラークまたは溶原菌のコロニーとして選別され得る(非特許文献17、非特許文献18)。バクテリオファージ抗体の様々な実施形態がライブラリーを示しており、ラムダファージ発現ライブラリーについて記載されている(非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21)。通常、ファージライブラリーは、ランダムオリゴヌクレオチドのライブラリーまたはVLおよびVHなどの抗体断片をコードするcDNAライブラリーを、M13の遺伝子3またはfdファージに挿入することによって作成される。挿入されたそれぞれの遺伝子は、遺伝子3産物、ファージの微量のコートタンパク質のN−末端で発現される。結果として、多様なペプチドを含有するペプチドライブラリーを構築することができる。次に、ファージライブラリーは、抗原などの固定化された目的とする標的分子に対して親和性が選別され、特異的に結合したファージ粒子が回収されて、大腸菌宿主細胞への感染によって増幅される。一般に、受容体などの目的とする標的分子(例えば、ポリペプチド、炭水化物、糖タンパク質、核酸)は、親和性クロマトグラフィによって反応性のファージ粒子を濃縮するために共有結合によってクロマトグラフィ樹脂へ固定化され、そして/あるいはプラークまたはコロニーリフトを選別するために標識化される。この手順は、バイオパニングと呼ばれている。最後に、高親和性ファージコロニーを増幅して、特異的なペプチド配列を推定するために配列決定することができる。この問題に対処するために多数の「親和性成熟」または他の解決法が開発されてきたが、今まで、全ての方法は退屈で多大な時間を必要とするものである。従って、当該技術分野では、その抗原結合特性を改善するために候補抗体の改変を可能にする方法が必要とされている。
【特許文献1】国際公開第86/01533号パンフレット
【特許文献2】米国特許第4,816,567号明細書
【特許文献3】米国特許第5,202,238号明細書
【非特許文献1】ホンジョウ(Honjo)(1983年)Annu.Rev.Immunol.1:499〜528頁
【非特許文献2】シミズ(Shimizu)およびホンジョウ(Honjo)(1984年)Cell 36:801〜803頁
【非特許文献3】ミルズ(Mills)ら(1995年)J.Immunol.155:3021〜3036頁
【非特許文献4】グリッツメイカー(Gritzmacher)(1989年)Crit.Rev.Immunol.9:173〜200頁
【非特許文献5】ニカイドウ(Nikaido)ら(1981年)Nature 292:845〜8頁
【非特許文献6】マルク(Marcu)ら(1982年)Nature 298:87〜89頁
【非特許文献7】タカハシ(Takahashi)ら(1982年)Cell 29:671〜9頁
【非特許文献8】ミルズ(Mills)ら(1990年)Nucleic Acids Res.18:7305〜16頁
【非特許文献9】ニカイドウ(Nikaido)ら(1982年)J.Biol.Chem.257:7322〜29頁
【非特許文献10】スタントン(Stanton)ら(1982年)Nucleic Acids Res.10:5993〜6006頁
【非特許文献11】デイビス(Davis)ら(1980年)Science 209:1360頁
【非特許文献12】オバタ(Obata)ら(1981年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:2437〜41頁
【非特許文献13】カタオカ(Kataoka)ら(1981年)Cell 23:357頁
【非特許文献14】モワット(Mowatt)ら(1986年)J.Immunol.136:2674〜83頁
【非特許文献15】ツレック(Szurek)ら(1985年)J.Immunol.135:620146頁
【非特許文献16】ウー(Wu)ら(1984年)EMBO J.3:2033〜40頁
【非特許文献17】ヒューズ(Huse)ら(1989年)Science 246:1275頁
【非特許文献18】ケイトン(Caton)およびコプロウスキー(Koprowski)(1990年)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)87:6450頁
【非特許文献19】カン(Kang)ら(1991年)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)88:4363頁
【非特許文献20】クラクソン(Clackson)ら(1991年)Nature 352:624頁
【非特許文献21】マッカファティ(McCafferty)ら(1990年)Nature 348:552頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体の産生に有用な遺伝子導入動物を提供する。本明細書において提供される遺伝子導入動物には、1)「軽(L)鎖のみの動物」と、2)「重(H)鎖のみの動物」と、3)「軽鎖のみの動物」および「重鎖のみの動物」の交配から生じる「子孫動物」とが含まれる。また、前記子孫動物のB細胞、および前記子孫動物からの該抗体を産生する単離B細胞によって産生されるヒト、ヒト化またはキメラ抗体も本発明によって提供される。また本発明は、前記子孫動物のB細胞から調製されるさまざまな特異性を有するヒト、ヒト化またはキメラ抗体を産生する不死化細胞株も提供する。
【0013】
本発明は、その生殖細胞系列DNA内に配置(導入)された選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分を含む軽(L)鎖のみの動物と、その生殖細胞系列DNA内に配置(導入)された選択された免疫グロブリン(すなわち、既知の特異性を有するヒト、キメラ、齧歯類または他の種のmAb)重鎖の再編成されたVDJ部分を含む重鎖(H)のみの動物とを包含する。また、前記軽鎖のみの動物および重鎖のみの動物の交配から生じる子孫動物も包含される。好ましくは、前記子孫動物の生殖細胞系列DNAは、選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分と、選択された免疫グロブリン重鎖の再編成されたVDJ部分とを含み得る。
【0014】
もう1つの実施形態では、本発明は、マウスμ定常領域の上流側に配置(導入)された選択された免疫グロブリン重鎖の再編成されたVDJ部分と、マウス重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する(例えば、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、ならびに/またはε重鎖定常領域を置換する)ヒト重鎖定常領域をコードする配列とを含む重(H)鎖のみの動物、好ましくはマウスまたはラットを提供する。ヒト重鎖定常領域配列は、スイッチ配列に作動可能に連結される。例えば、ヒトεまたはγ重鎖定常領域配列がマウスε重鎖定常領域を置換する場合、以下のような配列を構築することができる。
5’−Sε−ヒトCε−Sα−Cα−3’、または
5’−Sε−ヒトCγ−Sα−Cα−3’
ここで、Cは定常領域を表し、γはヒトγ定常領域のサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはこれらの一部のどれでもよく、Sはスイッチ配列を表し、そしてSε、Sα−Cαはヒト起源でも非ヒト(例えば、マウス)起源でもよい。また本発明は、その生殖細胞系列DNA内に配置(導入)された選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分を含む軽(L)鎖のみの動物、好ましくは、マウスCκまたはCλ配列の上流側の選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分を含む軽(L)鎖のみのマウスも提供し、好ましくは、マウスCκまたはCλ配列は、ヒトCκまたはCλ配列によって置換される。
【0015】
また、前記軽鎖のみの動物および重鎖のみの動物の交配によって生じる子孫動物も包含される。
【0016】
多数の好ましい実施例を想定することができ、本明細書においてさらに説明される。本発明は、以下のことを含むがこれら限定されない多数の利点を提供する。利点の多くは、本発明の遺伝子導入動物の生殖細胞系列DNAにおける改変の結果として、非ヒトB細胞によってその自然のIg重鎖および軽鎖座位から、目的とする抗体(所定の抗体)を発現する可能性から発生する。初めに、1つの配置において、本発明は、目的とする抗体の一種類だけを産生するB細胞のセットを有する子孫動物を得ることができると規定している。これは、数多くのB細胞の中で最も望ましい抗体産生細胞が選択されるのを可能にする。次に、目的とする抗体(例えば、その特異性の配列が既知である抗体)の産生は、通常は不死化の後に、このような高産生細胞株から想定することができる。従って、目的とする抗体は、好ましくは、本発明の動物、ベクターおよび細胞がネイティブの調節制御配列を保持する(例えば、マウス、ラット)場合には、ネイティブ(細胞の起源の種に対して)の制御配列の制御下で発現され得る。しかしながら、ネイティブでない(例えば、ヒト)免疫グロブリン制御配列も同様に使用可能であることは認識されるであろう。B細胞は不死化されると産生によく適するので、このことは、商業的な産生細胞株が得られることを可能にする。現在の方法は、抗体が得られたときに初期免疫化から得られる細胞株からの産生、または抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNAの特定の産生細胞株(例えば、CHO、骨髄腫)へのトランスフェクションのいずれかを必要とする。これらの現在の方法はどれも満足できるものではない。さらに、抗体が改変される際、キメラ、ヒト化およびCDRグラフト化抗体の場合と同様に、構築物は必ず、宿主細胞にトランスフェクトされなければならない。さらに、いくつかの場合には、産生宿主細胞において目的とする抗体が発現される際にグリコシル化変化が生じ得る。例えば、ラットから得られるハイブリドーマは、マウス細胞株(例えば、CHO)によって産生されるものとは異なるグリコシル化を有すると報告されており、いくつかのラット起源の抗体に関して、マウス細胞株は、フコース含量の増大を生じ、これは次に、標的細胞に対するADCC(抗体依存性の細胞の細胞傷害性)活性の減少をもたらすことがわかっている。従って、産生細胞におけるグリコシル化が初期ハイブリドーマにおけるものとは異なるいくつかの抗体に関しては、現在の方法を用いて新しい細胞株を産生することが有利であり、商業的な産生において使用され得る。
【0017】
本発明の方法は、さらに、その内在性の免疫グロブリン遺伝子によって起こり得るように他の抗体を産生しない細胞から所定の抗体を産生する能力を提供する。ヒト化、キメラ、またはリード抗体とは異なる定常領域アイソタイプを有する抗体などの商業的に関心のある多数の抗体タイプのためには、これは一般に今までのところ不可能である。また、他のタンパク質、例えば、蛍光タンパク質へ連結された定常鎖を有する抗体を産生することも有利であり得る。マーカーに対する抗体の正確な比率は診断用途および研究用途において重要である。
【0018】
また本発明は、その他の利点も提供する。例えば、単一の子孫動物は、異なるフォーマットの抗体を産生する異なる細胞を産生することができる。その発現がスイッチ領域の制御下にある、多数の目的とする定常領域に連結された、目的とする抗体の再編成された可変領域を有する動物を作り出すことによって、所望される任意のアイソタイプ、他の種からの定常領域、または検出可能なマーカーに連結された定常領域を有する、目的とする抗体を発現させることが可能である。これは、医薬開発において、例えば、定常領域により仲介させる効果(例えば、抗体が結合される細胞を枯渇させる)を識別するために同じリード抗体の完全抗体および抗体断片の両方を生じさせるのが望ましいことが多い場合に有用である。検出可能なマーカーを用いずに、そしてマーカーに連結したフォーマットにおいて、同じ抗体を産生する細胞を得ることができる診断および研究においても使用を見出すことができる。
【0019】
また更なる利点において、本発明の子孫動物において可変領域の体細胞超変異を誘発する可能性の結果として、本発明は、目的とする抗体の改変および改善も提供する。例えば、その抗原に対して低親和性を有する抗体は、体細胞超変異によって改善することができ、従って親和性成熟が提供される。
【0020】
また本発明は、マウスμ定常領域の上流側に配置された選択された免疫グロブリン重鎖の再編成されたVDJ部分の配列、マウス重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する(例えば、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域のセット、および/またはマウスε重鎖定常領域を置換する)ヒト重鎖定常領域をコードする配列、ならびに2本の相同性アームを含む標的構築物も提供する。ヒト重鎖定常領域をコードする前記配列は、好ましくは、スイッチ配列に作動可能に連結される。前記標的構築物は、前記再編成されたVDJ部分およびヒト重鎖定常領域をコードする前記配列が挿入されたマウスIgH座位の少なくとも一部を含む。また本発明は、Cカッパ(CκまたはIgκとも呼ばれる)またはCラムダ(CλまたはIgλとも呼ばれる)軽鎖配列の上流側の選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分、ならびに2本の相同性アームを含む第2の標的構築物も提供し、CκおよびCλ配列は、好ましくは、マウスまたはヒト起源である。特定の実施形態では、前記第2の標的構築物は、ヒトCカッパ(CκまたはIgκとも呼ばれる)またはCラムダ(CλまたはIgλとも呼ばれる)軽鎖配列の上流側の選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分ならびに2本の相同性アームを含む。
【0021】
従って、前記第1および第2の標的構築物を含む標的構築物のセットも提供される。第1および第2の標的構築物は、任意で、選択可能なマーカーをコードする配列と、標的構築物中に含まれるIg遺伝子の発現を駆動することができる免疫グロブリン(Ig)プロモーターとを含み得る。また標的構築物は、既に記載した認識、増幅および/または標的配列を含有することができる。任意で、標的構築物は、2本の相同性アームの外側に負の選択可能なマーカーを含むこともできる。
【0022】
本発明のもう1つの目的は、前記第1または前記第2の標的構築物を有する細胞をトランスフェクトすることによって産生される、安定的にトランスフェクトされた胚性幹(ES)細胞クローンと、前記安定的にトランスフェクトされた胚性幹(ES)細胞クローンを有する遺伝子導入非ヒト哺乳類を作り出す方法とである。後者の方法によると、本発明に従って安定的にトランスフェクトされたES細胞クローンはマウスの胚盤胞に注入され、これらの胚盤胞は代理母に移され、そこから生まれた動物が交配されて、その子孫が変異の存在について選択される。これらの子孫は、その生殖細胞系列DNA内に第1または第2の標的ベクターからの配列を挿入されたかどうかによって、「軽(L)鎖のみの動物」または「重(H)鎖のみの動物」のいずれかであり得る。このようにして得ることができる遺伝子導入非ヒト動物も本発明の目的である。
【0023】
「軽鎖のみの動物」および「重鎖のみの動物」の交配から生じる「子孫動物」は、第1および第2の標的ベクターの両方からの配列の存在について選択される。このようにして得ることができる遺伝子導入非ヒト動物も本発明の目的であり、従って、このような動物は、その生殖細胞系列DNA内に、(a)マウスμ定常領域の上流側に配置された選択された免疫グロブリン重鎖の再編成されたVDJ部分と、(b)好ましくは、スイッチ配列に作用的に連結された1つまたは複数の重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する(例えば、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域のセット、および/またはε重鎖定常領域を置換する)ヒト重鎖定常領域をコードする配列と、(c)マウスCκまたはCλ配列(好ましくは、ヒトCκまたはCλ配列がマウスCκまたはCλ配列を置換する)の上流側の選択された免疫グロブリン軽鎖の再編成されたV−J部分とを含む。本発明のもう1つの目的は、目的とする抗体を産生するB細胞を得るため、またはその標的抗原に対する抗体の結合親和性の最適化のための、このような遺伝子導入非ヒト動物の使用である。
【0024】
抗体の可変領域の結合親和性の最適化方法も提供される。これは、高親和性抗体を産生するために使用することができる。
【0025】
本発明の特定の態様では、本発明の方法および動物は、重鎖および軽鎖可変部が前記再編成されたVDJおよび再編成されたVJセグメントによってそれぞれコードされるリード抗体とは、配列が異なる(重鎖に関して)が機能的には関連している抗体を獲得または設計するために使用される。従って、本発明は、リード抗体の抗原結合領域を改変するため、またはリード抗体に基づいて改変された抗体を調製するための方法も包含する。得られた抗体の配列は、標的抗原に対する改善された親和性を有する抗体を産生するために選択的な方法で、非ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)および/またはヒト化フレームワーク(FR)に多様な配列を含むことができる。
【0026】
本発明は、リード抗体またはリード配列の重鎖可変領域ポリペプチドの1つまたは複数のCDRにおいて少なくとも1つのアミノ酸置換を有する1つまたは複数のCDRを含む、標的抗原またはその機能性断片に対して選択的な結合親和性を表す高親和性抗体を得るための方法を提供し、前記抗体またはその機能性断片は、標的抗原結合活性、標的抗原結合特異性または標的抗原阻害活性を有し、前記高親和性抗体の標的抗原結合親和性は、親のリード抗体またはリード配列を含む抗体に関して親和性がより高い。該方法は、μ定常領域の上流側、好ましくは、Sμスイッチの上流側でその生殖細胞系列DNA内にリード配列またはリード抗体をコードする再編成されたVDJおよび再編成されたVJセグメントを含む「子孫動物」を提供することと、リード配列またはリード抗体のB細胞仲介の親和性成熟(体細胞超変異)を誘発するのに適切な方法で前記動物を標的抗原で免疫化することと、標的抗原結合活性、標的抗原結合特異性または標的抗原阻害活性を有する抗体を産生することができるB細胞を回収することとを含み、前記高親和性抗体の標的抗原結合親和性は、親のリード抗体またはリード配列として使用される前記再編成されたVDJおよび再編成されたVJセグメントを含む抗体に関して親和性がより高い。
【0027】
さらに好ましい実施形態は、以下の通りである。
【0028】
1つの態様では、本発明は、ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の特異的な抗原に結合する、目的とする抗体、またはこのような抗体を産生する細胞を獲得または産生するための方法を提供し、該方法は、
a)生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列を含む第1の非ヒト動物を構築することと、
b)生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列を含む第2の非ヒト動物を構築することと、
c)動物a)およびb)を交配させて子孫動物を得て、前記子孫動物のB細胞が、目的とする抗体を産生できるかどうかを決定することと
を含む。好ましくは、子孫動物が、目的とする抗体を産生できるかどうかを決定する前記ステップは、B細胞によって産生される抗体が、ヒト、非ヒトキメラまたはヒト化リード抗体の特異的な抗原に対して特異的に結合するかどうかを決定することを含む。実施形態のいずれかにおいて、方法は、軽鎖および重鎖の可変領域セグメントの体細胞超変異、従って前記動物からのB細胞によって産生される抗体の親和性成熟を誘発するために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することを含むことができる。上記の実施形態のいずれかにおいて、方法は、ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化抗体を産生するB細胞のクローン増殖を刺激するため、および/またはIgM産生から所望のサブタイプのIgG抗体の産生へのアイソタイプスイッチを引き起こすために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することを含むこともできる。好ましくは、上記の実施形態のいずれかにおいて、方法は、目的とする抗体を産生する前記動物からのB細胞を選択または単離することをさらに含む。好ましくは、方法は、B細胞を選択することが、B細胞によって産生される抗体のレベルを評価することを含むことを含む。好ましくは、任意で、前記B細胞を骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマを産生することによって前記B細胞株を不死化する。
【0029】
もう1つの実施形態では、本発明は、少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列と
がその生殖細胞系列DNA内に配置された非ヒト動物を提供する。
【0030】
もう1つの実施形態では、本発明は、少なくとも、ネイティブのμ定常領域の上流側のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域と、(i)ネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブの生殖細胞系列DNAを置換し、そして(ii)スイッチ配列に作動可能に連結された重鎖定常領域をコードする配列とがその生殖細胞系列DNA内に配置された非ヒト動物を提供する。好ましくは、この動物は、さらに、ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の免疫グロブリン軽鎖の再編成された可変領域をその生殖細胞系列DNA内に含む。
【0031】
もう1つの実施形態では、本発明は、
生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列を含む第1のベクターと、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列を含む第2のベクターと、
を含む、標的構築物として使用するために適切なベクターのセットを提供する。
【0032】
もう1つの実施形態では、本発明は、IgH座位の少なくとも一部を含む標的構築物として使用するために適切なベクターを提供し、前記ベクターまたは構築物は、さらに、
μ定常領域の上流側のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域と、
(i)前記IgH座位のネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブのDNAを置換し、そして(ii)スイッチ配列に作動可能に連結された重鎖定常領域をコードする配列と
を含む。もう1つの実施形態では、本発明は、上記の文で記載した第1のベクターと、生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列を含む第2のベクターとを含む、標的構築物として使用するために適切なベクターのセットを提供する。
【0033】
もう1つの実施形態では、本発明は、少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれたアイソタイプスイッチ細胞を提供し、前記細胞はアイソタイプスイッチングを受けている。
【0034】
もう1つの実施形態では、本発明は、少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれた非ヒトB細胞を提供し、前記細胞は単一の抗体種を発現する。
【0035】
もう1つの実施形態では、本発明は、少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれた非ヒトB細胞を提供し、
前記細胞は、前記再編成された可変領域配列によってコードされるものとはその可変領域配列が異なる抗体を生じさせることができる配列をそのゲノムDNA内に含有しない。
【0036】
多数のさらに好ましい実施形態が本明細書中に記載されており、これらが本明細書に記載される方法、動物、ベクターまたは細胞の実施形態のいずれかに適用され得ることは、当業者により認識されるであろう。本明細書における方法、動物、ベクターまたは細胞の1つの態様では、重鎖の再編成された可変領域および軽鎖の再編成された可変領域をコードする前記配列は細胞によって独立して発現され、そして好ましくは、ネイティブ(細胞起源の種に対して)または任意でネイティブでない(例えば、ヒト)免疫グロブリン制御配列の制御下で発現される。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、ヒトリード抗体に由来する。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、非ヒトリード抗体に由来する。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、マウスリード抗体に由来する。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有するマウスリード抗体に由来する。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、キメラリード抗体に由来する。もう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、CDRグラフト化リード抗体に由来する。さらにもう1つの態様では、重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域は、リードヒト化リード抗体に由来する。好ましくは、重鎖または軽鎖の前記再編成された可変領域は、既知の特異性を有するリード抗体から得られるか、あるいは既知の特異性を有するリード抗体に由来する。
【0037】
本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記重鎖定常領域配列は非ヒト起源でもよい。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記軽鎖定常領域配列は非ヒト起源である。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記重鎖定常領域配列はマウス起源である。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記重鎖定常領域配列はヒト起源である。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記軽鎖定常領域配列はヒト起源である。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記重鎖定常領域配列は、任意で、G1、G2、G3またはG4サブタイプのγアイソタイプを有する。好ましい実施例では、前記重鎖定常領域は、G1サブタイプを有し、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせる配列を表す。本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、定常領域配列はさらに、検出可能なマーカーに組換えで結合される。
【0038】
本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、重鎖の前記再編成された可変領域はネイティブのμ定常領域の上流側に配置されることが可能であり、重鎖定常領域をコードする配列は、(i)ネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブのDNAを置換し、そして(ii)スイッチ配列に作動可能に連結される。
【0039】
本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、前記定常領域配列は、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはε重鎖定常領域を置換する重鎖定常領域を含む。
【0040】
好ましい実施形態では、前記定常領域配列は、マウスε重鎖定常領域を置換するヒトεまたはγ重鎖定常領域配列を含む。
【0041】
もう1つの実施形態では、前記定常領域配列はマウスε重鎖定常領域を置換するヒトεまたはγ重鎖定常領域配列を含み、動物、ベクターまたは細胞が、以下のような配列:
5’−Sε−ヒトCε−Sα−Cα−3’、または
5’−Sε−ヒトCγ−Sα−Cα−3’
(ここで、Cは定常領域を表し、γはヒトγ定常領域のサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部のいずれでもよく、Sはスイッチ配列を表し、そしてSε、SαおよびCαはヒト起源でも非ヒト起源でもよい)をそのDNA内に含む。
【0042】
もう1つの実施形態では、前記定常領域配列はマウスγ重鎖定常領域を置換するヒトγ重鎖定常領域配列を含み、動物、ベクターまたは細胞は、以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、Cγはヒト定常領域γサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部を表し、そしてSγはヒト起源でも非ヒト起源でもよい)をそのDNA内に含む。
【0043】
もう1つの実施形態では、前記定常領域配列は、第1のネイティブの定常領域を置換する第1の重鎖定常領域と、第2のネイティブの重鎖定常領域を置換する第2の重鎖定常領域とを含む。
【0044】
もう1つの実施形態では、前記第1の重鎖定常領域はマウスα領域および/またはマウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セットを置換し、前記第2の重鎖定常領域はマウスε重鎖定常領域を置換する。
【0045】
もう1つの実施形態では、γ重鎖定常領域配列はマウスγ重鎖定常領域を置換し、動物、ベクターまたは細胞は、以下のような配列:
5’−Sγ−置換Cγ−S(εまたはα)−置換Cγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ異なる定常領域γサブタイプを表す)をそのDNA内に含む。
【0046】
もう1つの実施形態では、ヒトγ重鎖定常領域配列はマウスγ重鎖定常領域を置換し、動物、ベクターまたは細胞は、以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−S(εまたはα)−ヒトCγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ、G1、G2、G3またはG4から独立して選択される異なるヒト定常領域γサブタイプを表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれは、ヒト起源でもマウス起源でもよい)をそのDNA内に含む。
【0047】
もう1つの実施形態では、ヒトγ重鎖定常領域配列はマウスγ重鎖定常領域を置換し、動物は以下のような配列:
5’−Sγ3−ヒトCγ−Sε−ヒトCγ−Sα−Cα−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、Cは定常領域を表し、CγおよびCγは、G1、G2、G3またはG4から独立して選択されるヒト定常領域γサブタイプを表し、そしてCα、Sε、SαおよびSγのそれぞれはヒト起源でもマウス起源でもよい)をその生殖細胞系列DNA内に含む。
【0048】
好ましい実施形態では、Sγはマウス起源のSγ3である。
【0049】
本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかにおいて、動物または細胞は、好ましくは、ラットまたはマウスであり、あるいは、細胞はラットまたはマウス細胞である。
【0050】
本明細書中の方法、動物、ベクターまたは細胞のいずれかの好ましい実施形態では、前記動物のB細胞は、リード抗体の特異的な抗原に結合する、目的とする抗体を産生するB細胞から本質的になる。好ましくは、B細胞は、ネイティブ(B細胞の起源の種に対して)の制御配列の制御下で、目的とする抗体を発現する。
【0051】
もう1つの実施形態では、本発明は、目的とする抗体またはそれを産生する細胞を得るための方法を提供し、該方法は、
本明細書に記載される実施形態のいずれかに従う非ヒト動物を提供することと、
DJおよびVセグメントの体細胞超変異を誘発し、それに伴って前記動物からのB細胞によって産生される抗体の親和性成熟を誘発するために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することと
を含む。
【0052】
もう1つの実施形態では、本発明は、目的とする抗体またはそれを産生する細胞を得るための方法を提供し、該方法は、
本明細書に記載される実施形態のいずれかに従う非ヒト動物を提供することと、
抗体を産生するB細胞のクローン増殖を刺激するため、および/またはIgM産生から所望のサブタイプのIgG抗体の産生へのクラススイッチを引き起こすために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することと
を含む。
【0053】
上記の方法の好ましい実施形態では、該方法は、目的とする抗体をコードまたは産生する前記動物からのB細胞を選択することをさらに含み、前記目的とする抗体は、リード抗体配列が由来した抗体と同じ抗原に結合する。方法のいずれかのもう1つの実施形態では、該方法は、B細胞による抗体産生のレベルを評価することをさらに含む。
【0054】
方法のいずれかのもう1つの実施形態では、該方法は、前記B細胞株を不死化することをさらに含み、任意で、前記B細胞を骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマを産生することをさらに含む。
【0055】
もう1つの実施形態では、本発明は、本明細書中の実施形態のいずれかの非ヒト動物から得られる、または本明細書中の方法に従って得られるB細胞を提供する。また、このようにして得られたB細胞を不死化することによって得られる細胞も包含され、前記B細胞を第2の細胞と融合させることによって得られるハイブリドーマが含まれるがこれに限定されない。また、本発明の細胞のいずれかによって産生される抗体も包含され、任意で、前記抗体はFab断片である。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、マウス宿主細胞において発現される同じアミノ酸配列の抗体と識別可能なグリコシル化を有する、本発明の実施形態に従って得られる抗体をさらに含む。前記抗体は、マウス宿主細胞において発現される同じアミノ酸配列の抗体と比較して、N−グリコシドグリコシド結合糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンのフコース含量の低下(または不在)および/または抗体が特異的である抗原を発現する細胞に対するADCC活性を誘発する能力の増大を有し得る。
【0057】
もう1つの実施形態では、本発明は、本明細書中の実施形態のいずれかに従う細胞を提供し、前記細胞は、培養液中に保持されたときに、目的とする前記抗体を細胞外の培地中に分泌する。好ましくは、前記細胞は、目的とする前記抗体のみを分泌する。
【0058】
本明細書中の実施形態のいずれかにおいて、免疫グロブリン重鎖の再編成された可変領域は再編成されたVDJ部分であり、および/または免疫グロブリンの軽鎖の再編成された可変領域は、再編成されたV−J部分である。
【0059】
他の実施形態では、本発明は、重鎖および軽鎖を含む機能性抗体を産生するための方法を提供し、該方法は、細胞が、重鎖の前記再編成された可変領域および軽鎖の前記再編成された可変領域を発現し、そして得られた鎖が細胞内で一緒に構築されて免疫グロブリンを形成し、これが次に、リード抗体の特異的な抗原に特異的に結合することができる形態で分泌されるように、本明細書中の実施形態のいずれかの細胞を栄養培地中に保持するステップを含む。任意で、該方法は、前記抗体を回収することを含む。
【0060】
表の簡単な説明
表1は、本発明における使用に適した典型的なヒト化抗体を提供する。特にそれぞれのヒト、ヒト化またはキメラ抗体について本明細書において開示される核酸およびアミノ酸配列に関して、表中で引用される参考文献は、参照によってその全体が援用される。
【0061】
表2は、ヒト、マウスおよびラットに由来する抗体産生B細胞の不死化に適した種々の典型的な骨髄腫細胞を開示する。これらの骨髄腫細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)、10801ユニバーシティ・ブルバード(University Blvd.)、マナッサス、VA20110から得ることができる。
【0062】
表3は、一般に使用されるリガンド/結合パートナー系である。「結合パートナー」の列に開示されるペプチド/ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、フレームにおいて、動物に挿入するためのDNA構築物の調製において使用される抗体の重鎖および/または軽鎖をコードするポリヌクレオチドの定常領域に結合され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本明細書において使用される場合、「核酸」または「核酸分子」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)などのポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じる断片、ならびに連結、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生じる断片を指す。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド(DNAおよびRNAなど)、または天然に存在するヌクレオチドの類似体(例えば、天然に存在するヌクレオチドのアルファ−エナンチオマー形態)、もしくは両方の組み合わせであるモノマーで構成することができる。改変されたヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジンまたはプリン塩基部分に変化を有することができる。糖の改変には、例えば、ハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基による1つまたは複数のヒドロキシル基の置換が含まれる。あるいは、糖は、エーテルまたはエステルとして官能基化され得る。さらに、糖部分全体は、アザ糖および炭素環式糖類似体などの立体的および電子的に類似の構造で置換することができる。塩基部分の改変の例には、アルキル化プリンおよびピリミジン、アシル化プリンまたはピリミジン、または他のよく知られた複素環式置換が含まれる。核酸モノマーは、リン酸ジエステル結合またはこのような結合の類似体よって連結され得る。リン酸ジエステル結合の類似体としては、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホロセレノアート、ホスホロジセレノアート、ホスホロアニロチオアート(phosphoroanilothioate)、ホスホルアニリダート(phosphoranilidate)、ホスホルアミダートなどがある。核酸は一本鎖または二本鎖のいずれでもよい。
【0064】
「トランスフェクション」という用語は、遺伝子移入によって核酸、例えば標的ベクターをレシピエント細胞内に導入することを指す。
【0065】
「形質転換」は、本明細書において使用される場合、外因的なDNAまたはRNAの細胞取込みの結果として細胞の遺伝子型が変化される方法を指す。
【0066】
本明細書において使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、遺伝子導入動物または導入された細胞に対して部分的または完全に異種、すなわち外来性である配列、あるいは遺伝子導入動物または導入された細胞の内在性遺伝子に対して相同であるが、挿入される細胞ゲノムを変更するように、このような位置で動物のゲノムに挿入されるように設計される、または挿入される核酸配列を指す。導入遺伝子は、1つまたは複数の転写性制御配列、および選択された核酸の最適な発現に必要なイントロンなどの他の核酸に作動可能に連結されることも可能である。
【0067】
「遺伝子導入の」という用語は、本明細書では、例えば動物または構築物の、導入遺伝子を内部に持つという性質を説明するための形容詞として使用される。例えば、本明細書において使用される場合、「遺伝子導入生物体」は、当該技術分野においてよく知られた遺伝子組換え技法(相同組換えによる相同の内在性遺伝子の置換を含むがこれに限定されない)などのヒトの介入によって導入された異種核酸を、動物の細胞の1つまたは複数が含有している任意の動物、好ましくは非ヒト哺乳類である。核酸は、計画的な遺伝子操作(マイクロインジェクションまたは組換えウィルスによる感染など)によって、直接的または細胞の前駆体への導入により間接的に細胞内に導入される。遺伝子操作という用語は古典的な交雑または体外受精を含まないが、組換えDNA分子の導入に関する。この分子は染色体内に組み込まれてもよいし、染色体外複製DNAでもよい。本明細書において記載される典型的な遺伝子導入動物では、導入遺伝子は、細胞に免疫グロブリンを発現させる。「創始系統」および「創始動物」という用語は、導入遺伝子が添加された胚の成熟産物である動物、すなわちDNAが挿入され、1つまたは複数の代理宿主に移植された胚から成長した動物を指す。本発明は、本明細書において記載される導入遺伝子または発現構築物を保有する該動物ならびに末裔または子孫を包含する。
【0068】
本明細書において使用される場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養液」という表現は交換可能に使用され、このような指摘は全て子孫を含む。本発明の目的のために、このような細胞は、遺伝子導入哺乳類に由来するか、または本明細書において記載される標的構築物またはベクターの1つを用いる細胞の形質転換によって直接産生され得る。「形質転換体」および「形質転換細胞」という語は転移の数に関係なく、それが由来する最初の対象細胞および培養液を含む。また、全ての子孫は、計画的なまたは不注意の変異のためにDNA含量が正確に同一でないこともあると理解される。最初に形質転換された細胞または動物において得られると同じ機能または生物活性を有する変異子孫が含まれる。
【0069】
「単離」、「精製」または「生物学的に純粋」という用語は、そのネイティブ状態で見られるように通常は付随されない成分を実質的または本質的に含まない材料を指す。純度および均一性は、通常、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィなどの分析化学技法を用いて決定される。調製物中に存在する優勢な種であるタンパク質は実質的に精製される。
【0070】
「組換えの」という用語は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに関してして使用される場合、異種の核酸またはタンパク質の導入またはネイティブな核酸またはタンパク質の変更によって細胞、核酸、タンパク質またはベクターが改変されていること、あるいは細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換え細胞は、細胞のネイティブ(非組換え)形態では見られない遺伝子、もしくはそうでなければ異常発現される、低発現される、または全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。
【0071】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置されるときに「作動可能に連結される」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼせば、コード配列に作動可能に連結される。スイッチ配列については、作動可能に連結されるとは、配列がスイッチ組換えをもたらすことができることを示す。
【0072】
「再編成された」という用語は、Vセグメントが、それぞれ完全なVHまたはVLドメインを本質的にコードするコンホメーションのD−JまたはJセグメントに直接隣接して配置された重鎖または軽鎖免疫グロブリン座位の配置を指す。再編成された免疫グロブリン遺伝子座位は、生殖細胞系列DNAと比較することによって同定することができる。
【0073】
Vセグメントに関連して、「再編成されていない」または「生殖細胞系列の配置」という用語は、VセグメントがDまたはJセグメントに直接隣接するように組み換えられていない配置を指す。
【0074】
「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によりコードされる抗体クラスを指す。重鎖は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはイプシロン(ε)に分類され、それぞれ、抗体のアイソタイプを、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEと定義する。さらなる構造的変異は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)およびIgA(例えば、IgA1およびIgA2)の別個のサブタイプを特徴付ける。「アイソタイプスイッチ」は、抗体のクラスまたはアイソタイプが1つのIgクラスから他のIgクラスのうちの1つに変化する現象を指す。
【0075】
「スイッチされていないアイソタイプ」は、アイソタイプスイッチが生じていない場合に産生された重鎖のアイソタイプクラスを指し、スイッチされていないアイソタイプをコードするC遺伝子は、通常、機能的に再編成されたVDJ遺伝子(例えば、改変されていない配置のCμ)のすぐ下流側の第1のC遺伝子である。アイソタイプスイッチは、古典的または非古典的なアイソタイプスイッチに分類されている。
【0076】
「スイッチ配列」という用語は、アイソタイプスイッチを仲介するスイッチ組換えの原因であるDNA配列を指す。スイッチ配列、スイッチドナーおよびスイッチアクセプタは、本明細書においてさらに記載される。
【0077】
抗体の「高親和性」という用語は、少なくとも約10−1、少なくとも約10−1、少なくとも約10−1、少なくとも約1010−1、少なくとも約1011−1、または少なくとも約1012−1またはそれより大きい平衡結合定数(Ka)、例えば、1013−1または1014−1まで、もしくはそれより大きい平衡結合定数(Ka)を指す。しかしながら、「高親和性」結合は他の抗体アイソタイプに対して変化し得る。
【0078】
リード配列
当該技術分野において既知のモノクローナル抗体、または抗体を産生する細胞は、本発明に従う遺伝子導入動物の構成に必要な核酸または核酸情報を産生するための基礎としての機能を果たすことができる。このような抗体または核酸配列は、「リード抗体」または「リード配列」と称することもできる。「リード抗体」または「リード配列」は、通常、抗体への抗原結合能力を与える部分をコードする抗体または配列の一部を含むであろう。
【0079】
例えば、文献で報告されているヒト化抗体の種々の非限定的な例は、表1において提供される(特に本明細書において開示されるヒト化抗体をコードする核酸およびアミノ酸配列に関して、これらの参考文献はそれぞれ参照によってその全体が本明細書に援用される)。これらの参考文献で開示される核酸は、以下に開示される「軽鎖のみ」または「重鎖のみ」の動物の構築において用いることができる。一般に、リード抗体は、ヒト抗体(例えば、ヒトIg座位を保有するマウスの免疫化によって得られるような)、キメラ抗体、非ヒト抗体(例えば、マウス)、またはヒト化抗体である。しかしながら、いくつかの場合(例えば、標的抗原に対する親和性の増大が追及される場合)には、リード抗体は、コンビナトリアル(例えばファージディスプレイ)技法によって得られるポリペプチドでもよい。
【0080】
「免疫グロブリン」および「抗体」という用語は、交換可能に使用することができる。
【0081】
「キメラ抗体」は、ヒト部分および非ヒト部分を含む免疫グロブリン分子である。キメラ抗体は、非ヒト抗体分子の抗原結合特異性およびヒト抗体分子により付与されるエフェクター機能を有することができる。従って、「キメラ抗体」という用語は、抗体分子の可変領域の全てまたは一部が1つの動物種に由来し、抗体分子の定常領域が第2の動物に由来する抗体を包含する。本発明の特定の実施形態では、抗体の定常領域はヒトに由来し、そしてキメラ抗体の可変領域はマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ニワトリ、ウマ、雌ウシ、またはヒツジに由来することができる。キメラ抗体の製造方法も当該技術分野においてよく知られている(例えば、参照によってその全体が本明細書に援用される米国特許第4,816,567号明細書を参照)。「キメラ抗体」という用語は、ヒト化およびCDRグラフト化抗体を包含する。CDRグラフト化が、ドナー抗体のCDRの全てから、または一部(すなわち、少なくとも1つ)だけからの配列を保持することを含み得ることは認識されるであろう。また、CDRグラフト化は、全体のCDR配列を保持するか、あるいは特異性決定残基(SDR)、Abおよびそのリガンドの表面相補性に必須の残基のみを保持することを含み得ることも認識されるであろう。さらに、残基は、同様の特性を有する残基に交換され得る。フレームワーク、SDR以外のCDR配列は単一のドナーから生じてもよいし、あるいは多数のドナー配列から構築されてもよい。
【0082】
「ヒト化抗体」という用語は、当該技術分野において既知の方法に従ってヒト化されている抗体を包含する(例えば、米国特許第5,585,089号明細書、米国特許第5,530,101号明細書、米国特許第5,693,762号明細書、米国特許第5,693,761号明細書、および米国特許第5,714,350号明細書が参照され、それぞれ、参照によってその全体が本明細書に援用される)。
【0083】
本発明のさらに他の実施形態では、遺伝子導入動物は、ヒトモノクローナル抗体をコードする核酸を用いて構築することができる(すなわち、可変および定常遺伝子セグメントの両方がヒト起源であるが、別の種において組み換えられ得る)。このような実施形態では、本明細書で説明されるような遺伝子導入動物の構築において、ヒトモノクローナル抗体配列をコードする核酸が用いられる。
【0084】
リード抗体としての使用に適したヒト化抗体を得るための方法は、当該技術分野において知られている(例えば、米国特許第5,585,089号明細書、米国特許第5,530,101号明細書、米国特許第5,693,762号明細書、米国特許第5,693,761号明細書、および米国特許第5,714,350号明細書が参照され、特に、本明細書において開示されるヒト化抗体の製造方法に関して、それぞれ参照によってその全体が本明細書に援用される)。非ヒトドナー抗体(例えば、マウスモノクローナル抗体)の構造はコンピュータモデリングに基づいて予測され、そしてフレームワーク中の主要なアミノ酸は、CDRの形状、従って結合特異性を保持するために必要であることが予測される。これらの少ししかない主要なマウスドナーアミノ酸は、少数の定義されたカテゴリー内のその位置および特徴に基づいて選択され、ドナーCDRと共にヒトアクセプタ抗体フレームワーク内に置換される。例えば、カテゴリー1:アミノ酸位置は、カバット(Kabat)らにより定義されるようにCDR内にある。カバット(Kabat)およびウー(Wu)(1972年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:960頁。カテゴリー2:ヒトアクセプタ免疫グロブリンのフレームワーク内のアミノ酸が異常であれば、そしてその位置のドナーアミノ酸がヒト配列にとって一般的であれば、アクセプタでなくドナーアミノ酸が選択され得る。カテゴリー3:ヒト化免疫グロブリン鎖の一次配列の3つのCDRのうちの1つまたは複数に直接隣接する位置において、アクセプタアミノ酸ではなくドナーアミノ酸が選択され得る。これらの基準に基づいて、ドナー抗体からの個々のアミノ酸の一連の選択が行われる。得られるヒト化抗体は、通常、約90%のヒト配列を含む。コンピュータモデリングによって設計されるヒト化抗体は、抗原結合について試験される。あるいは、所望の特異性を有するヒト化抗体の製造は、アイレス・バイオメディカル社(Aeres Biomedical,Ltd)(英国ロンドン)などの種々の商業的な供給元によって実施され得る。
【0085】
ヒト抗体を得るための方法も当該技術分野においてよく知られている。例えば、ヒト抗体は、ヒトIg座位を保有するマウスを目的とする抗原で免疫化することによって得ることができる。ヒト抗体を産生するための方法および遺伝子導入マウスは、米国特許第6,713,610号明細書、米国特許第6,673,986号明細書、米国特許第6,657,103号明細書、米国特許第6,162,963号明細書、米国特許第5,939,598号明細書、米国特許第5,770,429号明細書、米国特許第6,255,458号明細書、米国特許第5,877,397号明細書、米国特許第5,874,299号明細書、ならびに国際公開第99/45962号パンフレット、国際公開第98/24884号パンフレット、国際公開第97/13852号パンフレット、国際公開第94/25585号パンフレット、国際公開第93/12227号パンフレット、国際公開第92/03918号パンフレットに記載されており、これら全ての開示は参照によって本明細書に援用される。
【0086】
本発明に従う遺伝子導入動物の構築に必要な核酸または核酸情報は、任意の適切な方法で本発明に従って使用することができる。
【0087】
本発明の目的のために、「動物」という用語は、モノクローナル抗体を作ることができる非ヒト動物を含む。特に、非ヒト動物は、実験動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ニワトリ、ウマ、雌ウシ、またはヒツジである。好ましい実施形態では、非ヒト動物は、実験用齧歯類、例えば、マウス、ラット、ハムスターなどである。明細書内ではマウスについて言及されることが多いが、その他の適切な動物も同じようにして使用され得ることは認識されるであろう。遺伝子導入動物の構築に適した動物の非限定的な例は、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスターなど)、ウサギ、ニワトリ、ウマ、雌ウシ、またはヒツジである。
【0088】
遺伝子導入動物の構築
本発明の1つの態様では、「軽(L)鎖のみの動物」が提供される。このような動物は、少なくともリード抗体の再編成された軽鎖をコードする配列を含む。リード抗体は、好ましくは、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体、もしくはこれらの一部である。本発明の目的のために、Cκ配列が参照されることが多いが、Cλ配列も同じようにして使用され得ることは認識されるであろう。
【0089】
「軽(L)鎖のみの動物」のために、リード抗体軽鎖(またはその一部。例えば、選択されたヒト、ヒト化またはキメラ抗体分子の可変領域、または選択された抗体の再編成されたV−Jセグメントをコードする核酸)をコードする配列は、相同組換えによって、正常または改変マウスCκまたはCλ配列内に、そして好ましくはその上流側に挿入される。マウスCκまたはCλ配列は、例えば、ヒトCκまたはCλ配列をコードするように改変されていてもよく、ヒトまたはマウス起源からの調節要素(少なくとも、エンハンサー配列)を含み得る。所望される場合には、CκまたはCλ座位の残存するJKセグメントは、二次的なV−J再編成の可能性および動物を適切なバックグラウンド(例えば、Rag欠損バックグラウンド)に戻し交配するために可能な必要性を回避するために除去することができる。このような改変CκまたはCλ配列は、例えば相同組換えによって、大腸菌において操作することができる。本発明の好ましい方法には、再編成された可変領域を含有する改変マウスCκまたはCλ座位および改変(好ましくは、ヒト配列を含有するため)CκまたはCλ配列の相同組換えによるES細胞への転移が含まれる。ES細胞が記載されるように操作されて選択されたら、ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に注入される。次に、胚はメスの動物に転移され、成熟させられる。あるいは改変された座位は、遺伝子組換えによってマウスに転移させることができる。さらなる詳細は本明細書中で提供される。
【0090】
ヒト、ヒト化またはキメラ抗体分子の軽鎖(またはその一部)をコードする配列は、さらに、以下に説明されるような追加の要素を含むことができる。
【0091】
重(H)鎖のみの動物
また、本発明は、「重(H)鎖のみの動物」も提供する。このような動物は、少なくとも、リード抗体、好ましくはヒト、ヒト化またはキメラ抗体の再編成された重鎖またはその一部(例えば、重鎖の可変領域)をコードする配列を含む。配列は、相同組換えによって、正常または改変された非ヒト動物(例えば、マウス)C座位に挿入される。マウスC座位は、任意で、ヒトC配列をコードするように改変されていてもよいが、少なくとも、リード抗体の再編成された重鎖が作動可能に連結されるヒトまたはマウス起源の調節要素(少なくとも、エンハンサー配列)を含む。このような改変重鎖座位は、相同組換えによって、例えば大腸菌において操作することができる。定常領域は、改変された(リード抗体に関して)定常領域遺伝子でもよく、定常領域は、リード抗体のヒト定常領域とは、配列、起源の種および/またはサブタイプが異なる。例えば、選択されたヒト、ヒト化またはキメラ抗体の重鎖遺伝子の再編成されたVDJ部分は、相同組換えによってマウスES細胞の生殖細胞系列座位内に配置される。本発明の好ましい方法は、既知のリード抗体の再編成された可変鎖およびヒト定常領域遺伝子を含有する改変C座位を相同組換えによって胚性幹(ES)細胞の重鎖座位に挿入することを含む。このような挿入を実施するための方法は、当該技術分野においてよく知られている(例えば、ロペス−マシア(Lopez−Macia)ら、J.Exp.Med.1999年、189:1791〜1798頁およびカスカルホ(Cascalho)ら、Science 1996年、272:1649〜1652頁を参照。特に遺伝子導入マウスの製造に関して、それぞれは参照によってその全体が本明細書に援用される)。ES細胞が記載されたように操作されて選択されたら、ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に注入される。次に、胚はメスの動物に転移され、成熟させられる。あるいは改変された座位は、遺伝子組換えによって非ヒト動物(例えば、マウス)に転移させることができる。さらなる詳細は本明細書中で提供される。
【0092】
ヒト、ヒト化またはキメラリード抗体のヒト化鎖(またはその一部)をコードする配列は、さらに、以下に説明されるような追加の要素を含むことができる。
【0093】
HCOA2動物
もう1つの実施形態では、動物(例えば、マウス)の生殖細胞系列座位に、マウスμ定常領域の上流側に配置された選択された重鎖の再編成されたVDJ部分を含有する「重鎖のみの動物」が提供される。ヒト重鎖定常領域(例えば、GまたはG1サブタイプの定常領域)をコードする第2の配列も、動物の生殖細胞系列座位に組み込まれる。配列は、好ましくは、相同組換えによってマウスES細胞の生殖細胞系列座位に配置され、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはマウスε重鎖定常領域を置換する。本発明のこの実施形態で製造される「重鎖のみの動物」は、HCOA2動物と称することができる。
【0094】
もう1つの実施形態では、ヒト定常領域、例えばG1およびG4サブタイプのヒト定常領域をコードする2つの配列は、相同組換えによってマウス座位に組み込まれる。これらのうちの一方は、α領域またはマウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セットのいずれかをコードするマウス生殖細胞系列配列を置換するために使用され、他方は、マウスε重鎖定常領域を置換するために使用され、これらの動物は、本明細書では「HCOA3動物」と称される。さらにもう1つの実施形態では、ヒト配列の1つは、改変された(好ましくは、ヒト)定常領域遺伝子をコードし、ここで定常領域は、リード抗体とは配列、起源の種および/またはサブタイプが異なる。
【0095】
ヒト重鎖定常領域が、多数の適切な方法および配置のいずれかでES細胞の生殖細胞系列座位内に配列され得ることは認識されるであろう。1つの実施例では、ヒト重鎖定常領域配列は、HCOA2動物が、単一のmRNA分子(例えばVDJ)として転写される、再編成されたVDJによってコードされる可変領域および所望のアイソタイプのヒト定常領域を有する重鎖を発現するように、再編成されたVDJ部分配列と隣接される。このような動物からのB細胞は正常発生を起こさず、重鎖コード配列は、重鎖コードまたはアミノ酸配列を改変し得る体細胞超変異を受けることができないであろう。もう1つの実施例では、ヒトCμおよび/またはCδ重鎖定常領域は、CμおよびCδ定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する。もう1つの実施例では、マウスCμおよびCδ遺伝子は、HCOA2、HCOA3および本発明の他の動物において機能性のままである。好ましくは、本発明の動物は、ヒト重鎖コード配列の体細胞超変異を受けることができる。好ましい実施例では、ヒト重鎖定常領域は、α領域、Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはε重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換するために使用される。
【0096】
好ましくは、ヒト重鎖定常領域は、欠失された置換領域の上流側のマウススイッチ配列が機能性のままであるように、マウスα領域、Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはε重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する。従って、ヒト重鎖定常領域は、スイッチ配列、例えばSγ3配列の下流側に配置される、あるいは作動可能に連結される。これらの動物は、再編成されたVDJによりコードされる可変領域を有する重鎖を発現し、刺激されると、所望のアイソタイプのヒト定常領域へのクラススイッチを誘発し得る(例えば、Sγ3配列を持つ動物に対してはLPSによる)。従って、本発明は、遺伝子導入動物において産生される異種の免疫グロブリンおよび前記動物のB細胞に由来するモノクローナル抗体クローンが、所望のアイソタイプ、より特別には所望のヒト定常領域サブタイプを有するように、遺伝子導入動物のゲノム内に挿入されるべき遺伝子セグメントに、アイソタイプスイッチを生じさせる配列を含有させる方法を提供する。さらにより好ましくは、本明細書においてさらに記載されるように、導入遺伝子は、遺伝子導入動物が、依然として、再編成されたVDJ部分の体細胞超変異をもたらすことができるようにも構成される。
【0097】
ヒトまたは非ヒト(例えば、マウス)起源のスイッチ配列は種々の定常領域遺伝子からグラフトされて、重鎖のみの動物を発生させるために使用される本発明の構築物中の他の定常領域(C)遺伝子に連結されてもよい。このようなグラフト化スイッチ配列は、通常、関連されるC遺伝子とは独立して機能するので、構築物におけるスイッチは、通常、関連されるスイッチ領域の起源の機能である。スイッチ配列および定常領域領域についてのさらなる参照および配置は本明細書中で提供される。
【0098】
スイッチ配列およびヒト重鎖定常領域は、通常、任意の適切な配置で配列され得る。マウス定常領域アイソタイプ遺伝子の少なくとも1つは、ヒト定常領域遺伝子、例えばCμ、Cδ、Cγ、CαまたはCεで機能的に置換され得る。マウスCγ領域が置換される場合には、好ましくは、Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット全体が置換される。重鎖はγ、μ、α、δまたはεに分類され、それぞれ、抗体のアイソタイプをIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEと定義する。追加の構造的変異は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)およびIgA(例えば、IgA1およびIgA2)の別個のサブタイプを特徴付ける。遺伝子導入ヒト遺伝子は、例えばCγ1→Cγ1を置換するネイティブ(例えばマウス)遺伝子の対応物でもよいし、異なるアイソタイプを有してもよい。好ましくは、置換された宿主領域は、Cμ以外および/またはCδ以外であり得る。特に目的とするのは、例えばCγ1→Cα、Cγ2→Cα、Cγ3→Cα、Cγ4→Cα、Cα→Cγ1など、Cγ1→Cεなど、Cα→Cεなど、交換され得るαおよびγ定常領域である。説明されるように、好ましい実施形態では、本発明の遺伝子導入動物はネイティブ(例えば、マウス)のCμおよびCδ要素を有し、再編成された抗体遺伝子のインビボ親和性成熟、およびクラススイッチをもたらすことができ、どちらにしても、遺伝子導入ヒトC領域、例えばCγ、Cα、CδまたはCεが非ヒト動物中に挿入されている。
【0099】
更なる実施例では、少なくとも第1および第2のヒト重鎖定常領域は、α領域、Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはε重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する。これは、クラススイッチを誘発するために使用される方法に依存して、動物からの細胞によって2つ以上の抗体フォーマットが産生されるのを可能にするであろう。例えば、エフェクター機能の比較のために同じリード配列可変領域に基づいて異なるサブタイプ(例えば、IgG1およびIgG3、IgG1およびIgG4、またはIgG2およびIgG4)の抗体を調製すること、あるいは所与のサブタイプの抗体およびそのFab断片を調製して、得られた抗体の薬力学的特性を比較することは有用であり得る。これらの重鎖定常領域は、任意のアイソタイプまたはその誘導体または変異体、その一部をコードする配列(例えば、ヒンジ領域のジスルフィド結合の下にあり得る重鎖定常領域の部分が欠けているFab断片)、または改変された(増大または減少された)エフェクター機能を有するように改変された定常領域(図4を参照)であり得る。後者の1つの例は、Fcγ受容体結合を増大または減少させる1つまたは複数のアミノ酸改変を含む定常領域である(以下を参照)。好ましくは、これらのヒト重鎖定常領域のそれぞれは、発現が制御されるように別個のスイッチに作動可能に連結され、それによって、本発明に従う遺伝子導入子孫動物は所与の瞬間に単一の特定のヒト重鎖定常領域を産生するB細胞を有する。
【0100】
本発明の標的構築物で使用されるスイッチは、遺伝子導入された動物の種に対してネイティブでもよいし、異なる起源であってもよい。遺伝子導入マウスの構築において使用するためのスイッチは、例えば、ヒトまたはマウス起源でよい。しかしながら、好ましくは、スイッチは、マウスにおいて最適な機能性を提供するようにマウス起源であり得る。
【0101】
典型的な重鎖のみの動物の標的構築物
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換する重鎖のみの動物の1つの実施例では、以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−3’
をその生殖細胞系列DNA内に含む動物を構築することができ、ここで、Sはスイッチ配列を表し、Cγはヒト定常領域γサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部を表し、同じでも異なっていてもよく、そしてSγはヒト起源でも非ヒト(例えば、マウス)起源でもよい。最も好ましくは、SγはSγ3である。
【0102】
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換する重鎖のみの動物のもう1つの実施例では、以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−S(εまたはα)−ヒトCγ−3’
をその生殖細胞系列DNA内に含む動物を構築することができ、ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ、異なるヒト定常領域γサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部を表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれは、ヒト起源でも非ヒト(例えば、マウス)起源でもよい。最も好ましくは、SγはSγ3である。
【0103】
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換する重鎖のみの動物の特に好ましい実施例では、以下のような配列:
5’−Sγ3−ヒトCγ−Sε−ヒトCγ−3’
をその生殖細胞系列DNA内に含む動物を構築することができ、ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはヒト定常領域γサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部を表し、異なっていても同じでもよく、そしてSεおよびSγのそれぞれは、ヒト起源でも非ヒト(例えば、マウス)起源でもよい。最も好ましくは、SγはSγ3である。配列は、好ましくは、Cγの3’に方向付けられた要素(−Sα−Cα−)をさらに含み、ここで、SαおよびCαは非ヒト起源である、または非ヒト動物にネイティブである。
【0104】
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換する重鎖のみの動物のもう1つの実施例では、以下のような配列:
5’−Sμ−Cμ−Cδ−Sγ3−ヒトCγ−Sε−ヒトCγ−3’
をその生殖細胞系列DNA内に含む動物を構築することができ、ここで、Cは定常領域をあらわし、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ、G1、G2、G3またはG4またはその一部からなる群から選択されるヒト定常領域γサブタイプを表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれは、ヒト起源でも非ヒト(例えば、マウス)起源でもよい。最も好ましくは、SγはSγ3である。配列は、好ましくは、Cγの3’に方向付けられた要素(−Sα−Cα−)をさらに含み、ここでSαおよびCαは非ヒト起源である、または非ヒト動物にネイティブである。このような重鎖のみのマウスの作製において使用するための標的ベクターは、マウス生殖細胞系列IgH座位を適切なベクター内に配置することによって構築することができる。リード抗体からの選択された重鎖の再編成されたVDJ部分は、次に、Jクラスター内で、IgH座位のマウスμ定常領域の上流側に配置される。G4サブタイプの第1のヒト重鎖定常領域は、Cγ抗体重鎖定常領域(Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a)の全てをコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換して、ヒトIgG4領域がマウスSγ3スイッチ配列に作動可能に連結されるように、Sγ3スイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAの直ぐ下流側に、そしてSεスイッチ配列の上流側に挿入される(図2を参照)。G1サブタイプであるが、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせ、従って次にF(ab’)2抗体も産生する配列を表す第2のヒト重鎖γ定常領域は、Cε抗体重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換して、ヒトFabコード化重鎖定常領域がマウスSεスイッチ配列に作動可能に連結されるようにSεスイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAの直ぐ下流側に、そしてマウスSαスイッチ配列の上流側に挿入される。次に、標的構築物は、重鎖のみの動物を得るために相同組換えによってマウスES細胞の生殖細胞系列座位内に配置される。軽鎖のみの動物およびこの重鎖のみの動物から得られる子孫動物は、リード抗体からの選択された重鎖の再編成されたVDJ部分、および(a)LPSで攻撃されたときのヒトIgG4定常領域、または(b)欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるようにLATY136F変異マウスに由来するT細胞が子孫動物に養子転移されるときにFab断片をもたらす切断されたIgG定常領域を有する抗体を産生するB細胞を有し得る。
【0105】
スイッチ
Bリンパ球の発生において、細胞は、増殖性に再編成されたVおよびV領域によって決定される結合特異性を有するIgMを初めに産生する。続いて、各B細胞およびその子孫細胞は、同じL鎖およびH鎖V領域を有する抗体を合成するが、これらは、H鎖のアイソタイプをスイッチし得る。μまたはδ定常領域の使用は、大部分は選択的スプライシングによって決定され、IgMおよびIgDが単一の細胞内で同時発現されるのを可能にする。その他の重鎖アイソタイプ(γ、α、およびε)は、遺伝子再編成事象がCμおよびCδエクソンを欠失させた後、自然に発現されるだけである。この遺伝子再編成過程、アイソタイプスイッチは、通常、各重鎖遺伝子(δを除く)の直ぐ上流側に位置するいわゆるスイッチセグメント間の組換えによって起こる。
【0106】
個々のスイッチセグメントは、1kbと10kbの間の長さであり、非テンプレートストランドにおける高反復性の短くてGが豊富な配列から主になる。反復の長さは、20〜80ntと異なる。上流側またはドナースイッチ領域はSμである。下流側またはアクセプタスイッチ領域は、染色体に沿った物理的な順序で、マウスのSγ3、γ1、γ2b、γ2a、εまたはα、およびヒトSγ3、γ1、α1、γ2、γ4、εまたはα2のいずれでもよい。組換えの正確なポイントは個々のクラススイッチで異なり、組換えのクロスオーバーポイントはスイッチ配列内のどこでもよく、特にSμの場合は、スイッチ配列の上流側または下流側である。ダンニック(Dunnick)ら(1993年)Nucleic Acid Res.、21、365〜372頁。溶液ハイブリダイゼーション動力学またはcDNA由来のCプローブによるサザンブロッティングを用いた研究によって、スイッチは、細胞からのC配列の損失に関連し得ることが確認された。Sα領域は配列決定されており、80−bpのタンデム反復相同性単位からなることが分かっているが、Sγ2a、Sγ2b、およびSγ3は全て、互いに非常によく類似している49bpの反復相同性単位を含有する(P.スズレック(Szurek)ら、J.Immunol 135:620〜626頁(1985年)およびT.ニカイドウ(Nikaido)ら、J.Biol.Chem.257:7322〜7329頁(1982年)を参照、参照によって本明細書中に援用される)。配列決定されたS領域は全て、Sμ遺伝子の基本の反復要素である五量体GAGCTおよびGGGGTの多数の出現を含み(T.ニカイドウら、J.Biol.Chem.257:7322〜7329頁(1982年)、参照によって本明細書に援用される)、その他のS領域では、これらの五量体はSμの場合のように正確にタンデム反復されるのではなく、より大きい反復単位に組み込まれる。Sγ1領域はさらなる高次構造を有し、2つの直接反復配列は、49bpのタンデム反復の2つのクラスターのそれぞれに隣接する(M.R.モワット(Mowatt)ら、J.Immunol.136:2674〜2683頁(1986年)を参照、参照によって本明細書に援用される)。ヒトH鎖遺伝子のスイッチ領域は、そのマウス相同体と非常に類似していることが分かっている。スイッチ配列、特に組換えに対するスイッチ長さの影響は、ザリン(Zarrin)ら、(2005年)PNAS 102:2466〜2470頁(その開示は参照によって援用される)においてレビューされる。ザリンらにおいて記載されるスイッチ配列、ならびに配列長さおよびセグメントに関する教示は、本発明との関連において有利に用いることができる。
【0107】
本発明に従う標的ベクター、従って遺伝子導入動物は、好ましくは、Cμコード化エクソンの上流側にSμスイッチを含み、最も好ましくは、マウスSμスイッチは、マウスCμコード化エクソンの上流側にその自然の配置で提供される。μ遺伝子のスイッチ(S)領域Sμは、コード配列の約1〜2kb5’に位置し、(GAGCT)(GGGGT)の形態の配列の多数のタンデム反復で構成され、ここでnは通常2〜5であるが、17まで及ぶこともある(T.ニカイドウら、Nature 292:845〜848頁(1981年)を参照)。
【0108】
μとα遺伝子の間のスイッチ組換えは、複合Sμ−Sα配列を産生する。通常、Sμまたは他の任意のS領域のいずれにおいても、組換えが常に生じる特異的な部位は存在しない。一般に、V−J組換えの酵素機構とは違って、スイッチ機構は、生殖細胞系列S前駆体の反復相同領域の異なるアライメントを受け入れて、次にアライメント内の異なる位置の配列と結合することができるようである(T.H.ラビッツ(Rabbits)ら、Nucleic Acids Res.9:4509〜4524頁(1981年)およびJ.ラベッチ(Ravetch)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA77:6734〜6738頁(1980年)を参照、参照によって本明細書に援用される)。
【0109】
特定のアイソタイプへのスイッチの選択的な活性化のメカニズムの詳細は未知のままである。リンホカインおよびサイトカインなどの外因的な影響はアイソタイプ特異的リコンビナーゼを上方制御し得るが、同じ酵素機構が全てのアイソタイプへのスイッチを触媒すること、そしてこの機構を特異的なスイッチ領域へ向けることにおいて特異性が存在することも可能である。
【0110】
T細胞由来のリンホカインIL−4およびIFNγは、特定のアイソタイプの発現を特異的に促進することが示されている。IL−4は、IgM、IgG2a、IgG2b、およびIgG3の発現を低下させ、IgEおよびIgG1の発現を増大させるが、IFNγは、IgG2aの発現を選択的に刺激し、IL−4に誘発されるIgEおよびIgG1の発現の増大と拮抗する(コフマン(Coffman)ら、J.Immunol.136:949〜954頁(1986年)およびスナッパー(Snapper)ら、Science 236:944〜947頁(1987年)、参照によって本明細書に援用される)。IL−4およびIL−5の組み合わせは、IgAの発現を促進する(コフマンら、J.Immunol.139:3685〜3690頁(1987年)、参照によって本明細書に援用される)。
【0111】
マリッセン(Malissen)、アグアド(Aguado)およびマリッセンによって2002年3月11日に出願された欧州特許出願第02 290610.1号明細書(その開示は、参照によって本明細書に援用される)は、妨害されたT細胞の発生、ならびに大量のIL−4、IL−5、IL−10およびIL−13を慢性的に産生するポリクローナルT2細胞の早期および自発性の蓄積をもたらすマウスLAT(T細胞の活性化のためのリンカー)遺伝子の変異について記載しており、これは次に、アイソタイプIgEおよびIgG1の発現を促進する。本発明の1つの好ましい実施形態では、ヒト重鎖定常領域をコードする配列は、遺伝子導入動物において、マウス生殖細胞系列DNA内のマウスCεを置換し、前記動物は、さらにLAT遺伝子の欠損を含む。例えば、動物は、LATY136F変異を含み得る。ヒト重鎖定常領域配列は、LATY136F動物において、動物が前記ヒト定常領域を優先的に産生するように、マウスεスイッチに作動可能に連結され得る。あるいは、本明細書においてさらに記載されるように、欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるマウスから得られるCD4+T細胞は、マウスイプシロン鎖を置換するヒト定常領域へのクラススイッチを誘発するために本発明に従う遺伝子導入マウスへの養子転移によって提供することができる。あるいは、前記CD4+T細胞は、簡単に、クラススイッチを誘発するために培養液中で本発明の動物から得られる細胞(例えば、ハイブリドーマ)を用いて誘発することができる。
【0112】
クラススイッチの誘発は、スイッチセグメントの上流側で開始する不稔転写物と関連すると思われる(ルツカー(Lutzker)ら、Mol.Cell.Biol.8:1849頁(1988年)、スタヴネザー(Stavnezer)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7704頁(1988年)、エッサー(Esser)およびラートブルフ(Radbruch)、EMBO J.8:483頁(1989年)、バートン(Berton)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2829頁(1989年)、ロスマン(Rothman)ら、Int.Immunol.2:621頁(1990年)、これらはそれぞれ参照によって援用される)。例えば、IL−4によるγ1不稔転写物の観察される誘発およびにIFN−γよる阻害は相互に関係があり、IL−4は培養液中のB細胞においてγ1へのクラススイッチを促進し、IFN−γはγ1の発現を阻害することが観察される。従って、不稔転写物の転写に影響を与える制御配列を含むと、アイソタイプスイッチの速度にも影響が与えられ得る。例えば、特定の不稔転写物の転写の増大は、通常、隣接するスイッチ配列を含むアイソタイプスイッチ組換えの頻度を高めることが期待され得る。
【0113】
これらの理由で、構築物は、アイソタイプスイッチのために用いられる各スイッチ領域の上流側の約1〜2kb以内に転写性制御配列を組み込むことが好ましい。これらの転写性制御配列は、好ましくは、プロモーターおよびエンハンサー要素を含み、より好ましくは、スイッチ領域と自然に関連される(すなわち、生殖細胞系列の配置において生じる)5’隣接(すなわち、上流)領域を含む。この5’隣接領域は、通常、少なくとも約50ヌクレオチドの長さであり、好ましくは少なくとも約200ヌクレオチドの長さであり、より好ましくは少なくとも500〜1000ヌクレオチドである。
【0114】
1つのスイッチ領域からの5’隣接配列は、構築物を調製するための異なるスイッチ領域に作動可能に連結され得る(例えば、ヒトSγ1スイッチからの5’隣接配列は、Sα1スイッチのすぐ上流側にグラフトされ得る)が、いくつかの実施形態では、構築物に組み込まれた各スイッチ領域は、天然に存在する生殖細胞系列の配置においてすぐ上流側で生じる5’隣接領域を有することが好ましい。
【0115】
定常領域、改変された定常領域
上述の定常領域ならびにその断片および誘導体に加えて、改変されたヒト重鎖定常領域をコードする遺伝子を含む遺伝子導入動物を構築することも可能であろう。いくつかの場合には、ヒトFc受容体、特にFcガンマR3a(CD16)に対して増大した結合を有するように改変された(例えば、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入または欠失を含む)ヒト重鎖定常領域をコードする配列を用いることが好ましいであろう。改変は、最も好ましくは、G1またはG3ヒト重鎖定常領域に基づくであろう。
【0116】
もう1つの実施例では、遺伝子導入動物の生殖細胞系列DNAは、ヒトFc受容体に対して低親和性を有するヒト重鎖定常領域を含む。例えば、ヒト重鎖定常サブタイプG4またはG2は、Fc受容体への結合を最小限にするまたは除去するようFc部分が改変された定常領域の基礎として使用することができる。(例えば、国際公開第03/101485号パンフレットを参照、その開示は参照によって本明細書中に援用される)。Fc受容体結合を評価するためのアッセイ、例えば細胞に基づくアッセイは、当該技術分野においてよく知られている。1つの実施形態では、Fc受容体への結合を低減するように改変されたG1またはG3サブタイプのヒト重鎖定常領域は、動物の生殖細胞系列DNAに挿入される。もう1つの実施形態では、G4またはG2サブタイプのヒト重鎖定常領域は、Fc受容体への結合をさらに最小限にする、または完全に破壊するように改変される(例えば、アンガル(Angal)ら(1993年)Molecular Immunology 30:105〜108頁を参照、その開示の全体は参照によって本明細書に援用される)。IgG4アイソタイプはFc受容体に弱く結合し、Fc結合活性を完全には欠いてないこと(ニューマン(Newman)ら(2001年)Clin.Immunol.(98(2):164〜174頁)、そして改変されていないIgG4MAbはインビボで細胞不足を起こし得ること(アイザクス(Isaacs)ら、(1996年)Clin.Exp.Immunol.106、427頁)が示されている。Fc受容体への結合に対して主に責任があると報告されている配列は、LLGGPSと定義されている(バートンら、(1992年)Adv.Immunol.51:1頁)。重鎖CH2領域のN末端部(EUナンバリング234−239)に配置されるこの配列は、ヒトIgG1、IgG3、およびマウスIgG2aアイソタイプにおいて保存され、これらは全てFc受容体に強く結合する。IgG4アイソタイプの野生型配列は、位置234にフェニルアラニンを含有し、モチーフFLGGPSを与える。同様にFc受容体の弱い結合剤であるマウスIgG2bアイソタイプは、配列LEGGPSを含有する。ニューマンら(2001年)は、マウスIgG2bに関連されるグルタミン酸残基をヒト野生型IgG4CH2ドメインに組み込んで、CDCおよびADCC活性を低下し、インビトロのFcRIおよびFcRIIへの結合を事実上除去する配列FEGGPSを与えた。グルタミン酸の導入に加えて、プロリンによるセリン228の置換は、野生型IgG4よりも安定である分子をもたらした。IgG4分子は、ヒンジ領域の鎖間ジスルフィド結合の非効率的な形成を示す傾向がある。プロリンの導入はヒンジに対する剛性を提供し、より効率的な鎖間結合を促進すると言われており、位置228におけるセリンの存在は、システイン分子を隣接させることによる鎖間ジスルフィド結合というよりも、鎖間の優先的な結合を促進し得る。米国特許第6,403,312号明細書(この開示は参照によって本明細書中に援用される)に記載されるようなコンピューティングに基づく方法を含む、定常領域を作成するためのその他の方法が知られている。このような改変などは、本発明において使用されるヒト重鎖定常領域に対して容易に行うことができる。
【0117】
追加の要素
リード抗体の重鎖をコードする配列は、上記で説明されるような追加の要素を含むことができる。
【0118】
本発明の遺伝子導入動物を構築するために使用される抗体の重鎖または軽鎖をコードする構築物は、追加の要素を含むことができる。例えば、細胞傷害性ポリペプチドは、免疫治療薬を提供するために抗体分子の軽鎖または重鎖定常領域に組換えで結合され、重鎖または軽鎖座位に含まれることが可能である。
【0119】
検出可能なマーカーを軽鎖または重鎖定常領域に組換えで結合することは特に有利であり得る。次にこれを用いて、検出可能なタンパク質に連結された抗体を産生することができる。マーカーの抗体へのカップリングは、抗体(通常、Fab)と蛍光種との間の非常に正確なカップリング比が必要とされる定量的な細胞蛍光測定法およびバイオホトニクスの分野において価値がある。また、所与の抗体の2つ以上の形態を発現することも特に有利であり得る。例えば、Fab形態で検出可能なマーカーに連結された抗体を発現し、アイソタイプスイッチが誘発されると、Fab形態で検出可能なマーカーに連結されていない同じ抗体を発現することが望ましいこともある。もう1つの実施形態では、第1のマーカーに連結されており、アイソタイプスイッチが誘発されると第2のマーカーに連結される所与の抗体またはFab断片を発現することが望ましいであろう。これは、マーカーポリペプチドに連結され、スイッチ配列に作動可能に連結された定常領域を挿入することによって達成され得る。これらの実施形態では、抗体は診断または研究試薬において使用される可能性があるので、構築物において使用される定常領域は、非ヒト起源(例えばマウス)であることが多いであろう。
【0120】
検出可能なマーカーの例はよく知られている。好ましい例は、DsRedから二量体へ、そして次に、タンパク質の2つのコピーの遺伝子融合、すなわちタンデム二量体か、またはmRFP1と指定された真のモノマー(単量体の赤色蛍光タンパク質)のいずれかへの、段階的な進化から得られるタンパク質のタンデム・レッド(tandem Red)である(キャンベル(Campbell)ら、Proc Natl Acad Sci USA、(2002年)99(12):7877〜82頁、ならびにツィエン(Tsien)らの米国特許第http://patft1.uspto.gov/netacgi/nph-Parser?Sect1=PTO1&Sect2=HITOFF&d=PALL&p=1&u=%2Fnetahtml%2FPTO%2Fsrchnum.htm&r=1&f=G&l=50&s1=7005511.PN.&OS=PN/7005511&RS=PN/7005511 - h0#h0http://patft1.uspto.gov/netacgi/nph-Parser?Sect1=PTO1&Sect2=HITOFF&d=PALL&p=1&u=%2Fnetahtml%2FPTO%2Fsrchnum.htm&r=1&f=G&l=50&s1=7005511.PN.&OS=PN/7005511&RS=PN/7005511 - h2#h27,005,511号明細書および米国特許出願公開第2006/0003420号明細書)。その他の例には、増強緑色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、近赤外蛍光タンパク質、単量体赤色蛍光タンパク質またはレニラ(Renilla)ルシフェラーゼ、ディスクコーラル(Discosoma)赤色蛍光タンパク質(DsRed)(グロス(Gross)ら、Proc Natl Acad Sci USA.97:11990〜5頁(2000年)、ベビス(Bevis)およびグリック(Glick).Nat Biotechnol.20:83〜7頁(2002年))、HcRed(グルスカヤ(Gurskaya)ら.FEBS Lett.507:16〜20頁(2001年))が含まれる。
【0121】
あるいは、軟骨オリゴマー基質タンパク質、ロイシンジッパーのような要素、例えばパックら(J.Mol.Biol.(1995年)246:28〜34頁)において教示されるscZIPまたはscTETRAZIP構築物など、またはベロ毒素サブユニットB(国際公開第03/046560号パンフレットを参照、参照によってその全体が本明細書に援用される)は、抗体分子の重鎖または軽鎖定常領域に組換えで結合して、単一特異性抗体多量体または異種特異性の抗体(例えば、二重特異性抗体)の形成を可能にすることができる。抗体多量体を調製するためのもう1つの方法は、カルボキシ末端で抗体分子の重鎖定常領域に対してロイシンジッパーまたはイソロイシンジッパーポリペプチド配列をコードする核酸配列を結合することを含む。本発明の可溶性の多量体タンパク質を産生するのに適したロイシンジッパードメインの例は、国際公開第94/10308号パンフレット(参照によって本明細書に援用される)に記載されるものである。もう1つの例は、ホッペ(Hoppe)ら、(1994年)、FEBS Letters.344:191頁および米国特許第5,716,805号明細書(それぞれ、参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されるように、肺サーファクタントタンパク質D(SPD)に由来するロイシンジッパーである。
【0122】
「タグ」のような他の要素は、抗体分子の重鎖定常領域に組換えで結合され得る。このようなタグの非限定的な例は、当該技術分野において知られており(例えば、米国特許第6,342,362号明細書(参照によってその全体が本明細書に援用される)、アルテンドルフ(Altendorf)ら[1999−WWW、2000]「大腸菌からのATPシンターゼのF複合体の構造および機能」、J.of Experimental Biology 203:19〜28頁、バイオロジスツ社(Co.of Biologists,Ltd.)、G.B.バニックス(Baneyx)[1999]「大腸菌における組換えタンパク質の発現」Biotechnology 10:411〜21頁、エルゼビア・サイエンス社(Elsevier Science Ltd.)、エイハウアー(Eihauer)ら[2001]「FLAGTMペプチド、組換えタンパク質の精製のための多目的融合タグ」J.Biochem Biophys Methods 49:455〜65頁、ジョーンズ(Jones)ら[1995]J.Chromatography 707:3〜22頁、ジョーンズ(Jones)ら[1995]「分子認識およびバイオセパレーションにおける現在の傾向」J.of Chromatography A.707:3〜22頁、エルゼビア・サイエンス、B.V.マーゴリン(Margolin)[2000]「細菌細胞における巨大分子局在化のためのレポーターとしての緑色蛍光タンパク質」Methods 20:62〜72頁、アカデミック・プレス(Academic Press)、ピュイグ(Puig)ら[2001]「タンデム親和性精製(TAP)法:タンパク質複合体精製の一般的な手順」Methods 24:218〜29頁、アカデミック・プレス、サッセンフィールド(Sassenfeld)[1990]「精製のためのタンパク質のエンジニアリング」TibTech 8:88〜93頁、シェイバニ(Sheibani)[1999]「原核生物遺伝子の融合発現系およびタンパク質の構造的および機能的研究におけるその使用」Prep.Biochem.&Biotechnol.29(1):77〜90頁、マーセル・デッカー社(Marcel Dekker,Inc.)、スケラ(Skerra)ら[1999]「ストレプトアビジンのためのペプチドリガンドの応用:Strep−tag」、Biomolecular Engineering 16:79〜86頁、エルゼビア・サイエンス、B.V.スミス(Smith)[1998]「真核生物タンパク質発現のためのクックブック:酵母、昆虫、および植物の発現系」The Scientist 12(22):20、スミス(Smyth)ら[2000]「Strep II Tagを有する組換え細胞外基質タンパク質の真核生物発現および精製」、Methods in Molecular Biology、139:49〜57頁、アンガー(Unger)[1997]「Show Me the Money:原核生物の発現ベクターおよび精製システム」The Scientist 11(17):20(これらはそれぞれ、参照によってその全体が本明細書に援用される)を参照)、あるいはアマシャム・バイオサイエンシーズ社(Amersham Biosciences Corp.)(ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway,NJ))、ストラタジーン(STRATAGENE)(カリフォルニア州ラ・ホーヤ(La Jolla,CA))、ノバジェン(NOVAGEN)(ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))、キアゲン社(QIAGEN,Inc.)(カリフォルニア州バレンシア(Valencia))、またはインビトロジェン(InVitrogen)(カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego))などの売主からの市販のタグである。抗体分子の重鎖定常領域への結合のために適切なその他の「タグ」またはハンドルは表3において提供される。
【0123】
特定の実施形態では、タグは、(His)(ここで、nは、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20またはそれ以上の整数である、あるいはnは少なくとも3の整数である)からなる群から選択されるポリヒスチジンタグでよい。いくつかの実施形態では、nは5または6である。使用することができるもう1つのポリヒスチジンタグは[His−(Xaa)]であり、ここで、nは3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20またはそれ以上(あるいは、nは少なくとも3の整数である)の整数であり、Xaaは任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、nは5または6である。さらにもう1つのポリヒスチジンタグは、[(Xaa)−His]−Xaa−His−Xaa−His−(Xaa)]であり、ここでXaaは任意のアミノ酸でよい。1つの典型的な[His−(Xaa)]親和性タグは、His−Asn−His−Asn−His−Asn−His−Asn−His−Asn−His−Asnでよい。典型的な[(Xaa)−His]−Xaa−His−Xaa−His−(Xaa)]親和性タグは、Lys−Asp−His−Leu−Ile−His−Asn−Val−His−Lys−Glu−His−Ala−His−Asn−Lysでよい。
【0124】
1つの実施形態では、タグは、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)であり得る。GSTを含有する融合タンパク質の発現のためのプラスミドは、アマシャム・バイオサイエンシーズ社(ニュージャージー州ピスカタウェイ)から市販されている。このようなプラスミドの非限定的な例は、アマシャムにより販売されるpGEXベクターのファミリーである。あるいは、GSTをコードする核酸は、本発明の構築物に挿入することができる。
【0125】
本発明において使用するのに適したもう1つのタグは、c−mycタグである。c−mycエピトープタグは配列AEEQKLISEEDLLを有する。この配列を本発明の組換え抗体に挿入すると、既知の親和性クロマトグラフィ技法およびc−mycエピトープタグに特異的な抗体を用いるこれらの精製が可能になる。このような精製を容易にするキットは、上記で示したように、多数の商業的な売主から入手可能である。
【0126】
検出可能な抗体の発現のための典型的な重鎖のみの動物の標的構築物
マウスγ重鎖定常領域がリンカーに組換えで結合され、蛍光タンパク質(この例では、EGFP)配列がマウスγ重鎖定常領域を置換する重鎖のみの動物の1つの実施例では、以下の配列:
5’−Sμ−Cμ−Cδ−Sγ3−マウスCγ−Sε−マウスCγ−リンカー−EGFP−3’
をその生殖細胞系列DNA内に含む動物を構築することができ、ここでCは定常領域を表し、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ、G1、G2、G3またはG4またはその一部からなる群から選択されるマウス定常領域γサブタイプを表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれは、好ましくはマウス起源である。最も好ましくは、SγはSγ3である。配列は、好ましくは、Cγの3’に方向付けられた要素(−Sα−Cα−)をさらに含み、ここで、SαおよびCαは非ヒト起源である、または非ヒト動物にネイティブである。このような重鎖のみのマウスの作製において使用するための標的ベクターは、マウス生殖細胞系列IgH座位を適切なベクター内に配置することによって構築することができる。リード抗体(例えば、KT3mAb、TCR複合体のマウスCD3イプシロンサブユニットに特異的なラット抗体)からの選択された重鎖の再編成されたVDJ部分は、次に、IgH座位において、JHクラスター内およびマウスμ定常領域の上流側に配置される。G1サブタイプであり、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせ、従って次にF(ab’)2抗体も産生する配列を表す第1のマウス重鎖定常領域は、Cγ抗体重鎖定常領域(Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a)の全てをコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換し、ヒトIgG1領域がマウスSγ3スイッチ配列に作動可能に連結されるように、Sγ3スイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAのすぐ下流側に、そしてSεスイッチ配列の上流側に挿入される。G1サブタイプであり、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせ、従って次にF(ab’)2抗体も産生する配列を表し、そしてリンカーおよびEGFPに組換えにより結合された第2のマウス重鎖γ定常領域は、Cε抗体重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換し、ヒトFabコード化重鎖定常領域がマウスSεスイッチ配列に作動可能に連結されるように、Sεスイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAのすぐ下流側に、そしてマウスSαスイッチ配列の上流側に挿入される。次に、標的構築物は、相同組換えによりマウスES細胞の生殖細胞系列座位内に配置され、重鎖のみの動物が得られる。軽鎖のみの動物およびこの重鎖のみの動物から得られる子孫動物は、KT3抗体からの重鎖の再編成されたVDJ部分、および(a)LPSで攻撃されたときに、Fab断片をもたらす切断されたIgG定常領域、または(b)欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるようにLATY136F変異マウスに由来するT細胞が子孫動物に養子転移されるとき、または子孫動物に由来する細胞と一緒にウェル内でインキュベートされるときに、Fab断片をもたらし、そしてEGFPタンパク質に連結される切断されたIgG定常領域を有する抗体を産生するB細胞を有し得る。
【0127】
標的ベクター
本発明の標的ベクターは、非ヒト動物の生殖細胞系列DNAに挿入すべき配列を含有するプラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウィルスなどを含むがこれらに限定されない組換えDNAベクターを含む。
【0128】
本発明の「軽鎖のみの動物」および「重鎖のみの動物」を構築するために任意の適切な方法を使用することができるが、簡単で便利な方法は、効率的なベクターの構築、ならびに相同組換えに基づいて非ヒト動物細胞の生殖細胞系列DNA内への標的挿入を可能にする標的ベクターを使用することにある。「軽鎖のみの動物」および「重鎖のみの動物」は、IgH座位(ヒト起源または非ヒト起源)の全てまたは一部を含み(出発点として)、本明細書に記載される要素を用いて改変される標的ベクターを用いて、便利に構築することができる。
【0129】
本発明に従う細胞および遺伝子導入動物を作製するための最も便利な手段は、相同組換えにより組み込まれるように設計された標的ベクターを用いることである。培養哺乳類細胞は、プラスミド配列に相同の配列を含有する染色体位置で、外因的プラスミドDNAを染色体DNA内に組み込むことができる(フォルジャー(Folger)ら、1982年、Mol.Cell.Biol.2、1372〜1387頁、フォルジャーら、1984年、Symp.Quant.Biol.49、123〜138頁、クチャラパティ(Kucherlapati)ら、1984年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81、3153〜3157頁、リン(Lin)ら、1985年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、1391〜1395頁、ロバート・ド・サン・ビンセント(Robert de Saint Vincent)ら、1983年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80、2002〜2006頁、ショール(Shaul)ら、1985年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、3781〜3784頁)。また、哺乳類細胞は、ランダムな染色体部位でプラスミドDNAを組み込むための、非相同組換えと呼ばれる酵素機構を含有する。相同組換えの頻度は、組換え事象の1/100〜1/1000の高さであると報告されているが、組換えの大多数は非相同の相互作用をから起こる(トーマス(Thomas)ら、1986年、Cell 44:419〜428頁、スミシーズ(Smithies)ら、1985、Nature 317:230〜234頁、ショールら、1985年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、3781〜3784頁、スミスら、1984年、Symp.Quant.Biol.49、171〜181頁、サブラマニ(Subramani)ら、1983年、Mol.Cell.Biol.3、1040〜1052頁)。相同組換えのための細胞機構の存在は、内在性遺伝子をその場で改変することを可能にする。いくつかの場合には、標的座位に相同のDNAのセグメントおよび所望の改変を有する新しい配列のセグメントを含有するプラスミドDNAを細胞内に導入することによって染色体配列を改変することができる条件が見出されている(トーマスら、1986年、Cell 44:419〜428頁、スミシーズら、1985年、Nature 317:230〜234頁、スミスら、1984年、Symp.Quant.Biol.49、171〜181頁)。哺乳類細胞の染色体DNAと外因的プラスミドDNAの間の相同組換えは、プラスミドの組込みまたは相同プラスミド配列による染色体配列のいくつかの置換をもたらすことができる。相同DNA配列を置換する方法は、遺伝子変換と呼ばれている。組込みおよび変換事象は両方とも、内在の標的座位における所望の新しい配列の位置決めをもたらすことができる。
【0130】
通常、宿主ゲノムに挿入すべき全ての要素を含有する単一の標的ベクターが使用される。ベクターは通常、再編成されたVDJまたはVJ遺伝子および/または少なくとも1つのヒト定常領域遺伝子、ならびに宿主標的に対して相同性の領域、すなわちヒト配列で置換され得る染色体の領域を含み得る。相同領域は、通常は少なくとも約20、30、50または100bp、いくつかの場合には少なくとも約1kbであるが、通常は約10kb以下の長さである。非哺乳類リコンビナーゼ、例えばCre、Flipなどが使用される場合には、相同領域は置換すべき領域全体を含有し、選択可能なマーカーおよび相同領域に隣接するリコンビナーゼ認識部位、例えばloxP、frtを有する。任意で、本明細書においてさらに記載されるように、ベクターは、スイッチ配列、および宿主種からまたはヒトからの1つまたは複数の定常領域遺伝子(例えば、ヒトまたはマウスμおよびδ定常領域)を含む追加の要素を含有する。
【0131】
宿主DNAに挿入すべき標的配列(宿主との相同組換えのため)および構築物は、標的ベクターによる適切な細胞株(例えば、およびES細胞)のトランスフェクションが、置換遺伝子の宿主生殖細胞系列DNAへの標的相同組換えおよび部位特異的挿入をもたらすように、標的ベクター内に配置される。本発明の標的ベクターは、薬物耐性を付与してトランスフェクタントのスクリーニングおよび選択を補助する酵素を含むがこれらに限定されない選択可能なマーカーをコードする追加の遺伝子を含有し得る。あるいは、本発明のベクターは、このようなマーカーと共にコトランスフェクトされてもよい。組換え事象の発生を高めることができるその他の配列も同様に含まれ得る。このような遺伝子は、REC A、トポイソメラーゼ、REC1またはCHIなどの組換えを高める他のDNA配列などの真核または原核組換え酵素のいずれかを含むことができるが、これらに限定されない。さらに、本発明のベクターには、相同組換えにより産生されるキメラ遺伝子の転写を高める配列も含まれ得る。このような配列は、メタロチオニンプロモーターなどの誘発性要素を含むが、これらに限定されない。上述の遺伝子によりコードされるような種々のタンパク質は、組換え頻度を増大するためにトランスフェクトされ得る。
【0132】
大腸菌における効率的な標的ベクターの構築のためのシステム
本発明の方法において有用ないくつかのシステムは、標的ベクターの高速で効率的な構築を可能にし、これは、その後、ゲノム内への挿入に使用することができる。1つの例は、Red/ET組換えシステムである(チャン(Zhang)、Y.、ブッフホルツ(Buchholz)、F.、マイレース(Muyrers)、J.P.P.およびスチュアート(Stewart)〜A.F.(1998年)、Nature Genetics、20、123−128頁、およびマイレース(Muyrers)、J.P.P.、チャン、Y.およびスチュアート、A.F.(2001年)、Trends in Biochemical Sciences、26、325〜31頁)。ラムダ媒介の組換えとも呼ばれるRed/ET組換えでは、標的DNA分子は、ファージに誘発されるタンパク質対、RacプロファージからのRecE/RecT、またはラムダファージからのReda/Redbのいずれかを発現する大腸菌株において相同組換えによって正確に変更される。タンパク質対は、機能的および作用的に等価物である。RecEおよびRedaはエキソヌクレアーゼであり、RecTおよびRedbはDNAアニーリングタンパク質である。
【0133】
もう1つの例は、「リコンビニアリング」システム(メリーランド州フレデリックのNCI フレデリック(NCI Frederick)から入手可能)、λファージから提供される組換えタンパク質を用いる大腸菌における相同組換えに基づく方法である。標的ベクターは、細菌ゲノムに挿入された欠損λプロファージを含有する細菌株において構築される。目的とするファージ遺伝子、exo、bet、およびgamは、λPLプロモーターから転写される。このプロモーターは温度感受性リプレッサーcI857によって32℃で抑制され、42℃で抑制解除される(リプレッサーは不活性である)。42℃で15分の熱ショックの後、十分な量の組換えタンパ質が産生される。exoは、導入された直鎖DNAに一本鎖のオーバーハングを形成する5’−3’エキソヌクレアーゼである。betは、これらのオーバーハングを保護し、次の組換えプロセスを補助する。gamは、大腸菌のRecBCDタンパク質を阻害することによって、直鎖DNAの分解を防止する。細菌(プラスミド、BAC、または細菌ゲノム自体)中に既に存在する標的DNA分子に対して5’および3’端部において十分な相同性を有する直鎖DNA(PCR産物、oligoなど)は、電気穿孔を用いて熱ショックおよびエレクトロコンピテント細菌内に導入することができる。導入されたDNAは今では、exoおよびbetにより改変され、標的分子による相同組換えを受けることができる。http://recombineering.ncifcrf.govにおいてプロトコルが提供される。
【0134】
種々のマーカーが選択のために使用され得る。これらのマーカーは、HPRTミニ遺伝子(レイド(Reid)ら、(1990年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:4299〜4303頁)、G418への耐性のためのneo遺伝子、ガンシクロビルに対する感受性のためのHSVチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などを含む。組換え媒介物は、ウィルス認識配列(例えば、SV40など)、遺伝子発現などを増幅するための追加配列を含むこともできる。
【0135】
調製されたら、構築物は、宿主細胞を標的ベクターで形質転換することによって、宿主細胞の生殖細胞系列DNAに挿入される。好ましくは、宿主細胞は胚性幹(ES)細胞である。トランスフェクションの後、選択可能なマーカー遺伝子を発現する細胞を選択する条件下で、胚性幹細胞は培養液中で成長される。次に、これらの細胞はスクリーニングされ、相同染色体領域において組換え事象が生じたかどうかを決定する。このようなスクリーニングは、特異な大きさの断片を検出するためのサザンブロッティング、PCR増幅、ハイブリダイゼーションなどを含む任意の便利な方法によって実施され得る。
【0136】
所望の組換えを有する細胞は、宿主哺乳類の胚盤胞に注入される。胚盤胞は、排卵の3〜5日後に子宮を洗い流すことによってメスから得ることができる。少なくとも1つ、そして30までの改変された胚性幹細胞を胚盤胞の胞胚腔内に注入することができる。注入後、少なくとも1つ、そして約15以下の胚盤胞は、偽妊娠メスのそれぞれの子宮角に戻される。次にメスは出産させられ、得られた同腹仔は、構築物を有する変異細胞についてスクリーニングされる。このようにして、軽鎖のみの動物および重鎖のみの動物が得られる。
【0137】
次の繁殖は、変更された座位の生殖細胞系列伝達を可能にする。ヘテロ接合の子孫を繁殖させ、そしてヘテロ接合の親からホモ接合の子孫を選択する(すなわち、両方の染色体に存在するヒト遺伝子セグメントを有するもの)ことを選ぶことができる。あるいは、胚性幹細胞は、さらなる相同組換えのために使用されてもよい。
【0138】
子孫動物およびその使用
本発明はさらに、「軽鎖のみ」および「重鎖のみ」(またはHCOA2またはHCOA3)の動物の交配から生じる「子孫動物」を提供し、交配プロセスで使用される動物は、同じヒト、ヒト化またはキメラ抗体分子に由来する抗体重鎖および軽鎖を含有することが好ましい。
【0139】
交配ステップから生じた子孫動物は、次に、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体に特異的な抗原で免疫化され、B細胞のクローン増殖を誘発することができる。
【0140】
DJセグメントの超変異を受ける能力を保有する動物では、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体に特異的な抗原による免疫化は、VDJセグメントの体細胞超変異を誘発するためにも有用であり得る。
【0141】
軽鎖のみおよび重鎖のみの動物、好ましくはHCOA2またはHCOA3動物の交配が行われた場合には、子孫動物は、B細胞により産生される抗体の所望のアイソタイプへのクラススイッチを誘発するように処置することができる。これは、任意の適切な方法を用いて実行することができ、1つの実施例では、サイトカインが子孫動物に投与される。もう1つの実施例では、LPSが子孫動物に投与されて、B細胞により産生される抗体の、IgMからIgGへのクラススイッチ(特異的抗原による免疫化に加えて、例えば図3を参照)を刺激する。もう1つの実施例では、欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるような変異マウスから得られる細胞は、子孫動物に養子転移される。もう1つの実施形態では、所望のアイソタイプへのスイッチを誘発するために子孫動物の特定の処置は必要とされない。例えば、動物が、欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるようなLATY136F変異を内部に持つ場合、動物は、抗体をIgEおよびIgG1サブタイプ(またはマウス対応物を置換するヒト重鎖定常領域サブタイプ)から優先的に産生し得る。
【0142】
図2の実施例では、ヒト重鎖定常領域G1、G2、G3またはG4は、Sαスイッチ配列の上流側、そしてSγ3スイッチ配列の下流側に組み込まれ、γおよびε重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する。そして、G1サブタイプであるが、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断されたヒト重鎖γ定常領域は、Cε抗体重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換し、Sεスイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAのすぐ下流側、そしてマウスSαスイッチ配列の上流側に挿入される。この動物からのB細胞は、(a)(i)子孫動物がLATY136F変異を内部に持つ場合にデフォルトにより、または(ii)LATY136F変異を内部に持つ動物からのT細胞の養子転移の場合には、抗体Fab断片と、(b)LPSの投与(administeration)の場合には完全抗体(例えば、G1またはG4サブタイプを有する)とを産生し得る。体細胞超変異が抗原により誘発される場合は、誘発は、好ましくは、抗原による免疫化の後に実行される。
【0143】
記載したように、任意の適切なクラススイッチステップを用いることができる。典型的なHCOA3動物では、クラススイッチはLPSによって誘発され、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セットまたはα重鎖定常領域を置換するヒト重鎖の発現を誘発することができる。欧州特許出願第02 290610.1号明細書に記載されるマウスに由来するCD4T細胞による本発明の子孫動物の処置によって、クラススイッチを誘発させて、マウスε鎖を置換するヒト重鎖の発現を誘発することができる。
【0144】
従って、本発明の方法は、通常、1)生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成されたV領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列を含む第1の非ヒト動物と、2)生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列を含む第2の非ヒト動物との構築を含む。次に、これらの動物は交配され、子/子孫は、ヒト、キメラまたはヒト化抗体の特異的である抗原に特異的に結合することができる抗体の産生について試験される。所望される場合には、所望の表現型を有する(例えば、所望の結合特異性を有する抗体を産生する)子孫は、特異的抗原および/またはLPSまたは他の処置により攻撃され、ヒト、キメラまたはヒト化抗体を産生するB細胞のクローン増殖を刺激し、および/またはVDJおよびVLJLセグメントの体細胞超変異と、従って既知のモノクローナルの親和性成熟とを誘発し、および/またはIgM産生から、所望のサブタイプのIgG抗体の産生へのクラススイッチを引き起こす。本発明の特に有利な態様は、動物(好ましくは、マウス)が、目的とするmAbを産生するB細胞の実質的にモノクローナル集団を産生し得ることである。融合は、同じまたは非常に類似したmAbを示す多数のクローンをもたらすべきであり、対応するハイブリドーマは、既知の方法で評価される場合に最良の産生細胞だけを保持するように選択され得る。それにより、本発明は、目的とする抗体の増大したレベルの産生が可能である細胞、好ましくはB細胞およびハイブリドーマを獲得、同定、または産生するための方法を提供する。
【0145】
従って、本発明は、インビボでリード抗体に由来する配列またはリード配列の体細胞超変異を誘発することを含む、その特異的抗原に対する抗体の親和性を増大するための方法を提供する。本発明のこの態様では、動物は特異的抗原で免疫化され(例えば、繰り返し、例えば、少なくとも5〜20回、免疫化される)、動物のB細胞クローンは抗原に応答して繰り返し増殖および選択される。従って、本発明の動物は、親和性成熟抗体の調製を可能にする。「親和性成熟」抗体は、その1つまたは複数のCDRにおいて、変更されていない親の抗体と比較して抗原に対する抗体の親和性における改善をもたらす1つまたは複数の変更を有するものである。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル、またはさらにピコモルの親和性を有し得る。好ましくは、該方法は、標的抗原に対する抗体による親和性を、少なくとも20%、30%、50%、75%、90%、100%、200%または1000%、あるいは、リード抗体に対して少なくとも1、2、3または4ログ(log)だけ改善することを含む。
【0146】
好ましい実施形態では、本発明は、目的とするヒトキメラまたはヒト化抗体を産生する子孫動物からのB細胞を選択または単離するステップを含む。議論されるように、本発明は、目的とするヒト、キメラまたはヒト化抗体を産生するハイブリドーマを調製する方法、ヒト、キメラまたはヒト化抗体の改善された産生を有するB細胞およびその誘導体または子孫(例えば、ハイブリドーマなどの融合細胞)を得る方法、および改善された抗体(例えば、親和性成熟抗体)を得る方法を提供する。従って、B細胞は、単に抗体産生の陽性、または抗体産生特性(例えば、レベルまたは量または他の任意の基準)、産生される抗体の性質(親和性、サブタイプ、特異性など)などの適切な特性に基づいて選択することができる。1つの実施形態では、本発明は、ヒト、キメラまたはヒト化抗体を発現する単離されたハイブリドーマを包含する。また本発明は、本発明の子孫動物、B細胞またはハイブリドーマを用いて、目的とするヒト、キメラまたはヒト化抗体を産生するための方法にも関する。
【0147】
好ましくは、動物から得られるB細胞は、骨髄腫細胞に融合されて、ハイブリドーマを産生する(不死化細胞株)。有利に、ハイブリドーマは、ヒト、キメラまたはヒト化抗体の高レベル(量)の産生のためのその能力について選択される。特定の哺乳類に由来するB細胞を用いたモノクローナル抗体の産生において使用するのに適した典型的な骨髄腫細胞は表2に示される。
【0148】
所望の特異性を有する抗体が子孫動物において同定されたら、任意で骨髄腫細胞との融合により不死化される。これらの細胞を使用して、所望の量の抗体を産生することができ、このような細胞により産生される抗体は単離されて、所望の用途、例えば、治療、診断、研究の用途に使用することができる。
【0149】
また、本発明は、本発明のモノクローナル抗体を分泌する候補ハイブリドーマを同定する方法も提供する。本発明のこの態様では、個々のまたはプールされたハイブリドーマクローンの上澄みは、所定の抗原結合特異性を有する抗体を選択する結合条件下で、所定の抗原、通常は固体基質(例えば、マイクロタイターウェル)への吸着によって固定化された抗原と接触されてインキュベートされる。またヒト定常領域に特異的に結合する抗体も、抗体が少なくとも1つのヒト定常領域エピトープに選択的に結合するが、マウス定常領域エピトープには実質的に結合しないような結合条件下で、ハイブリドーマ上澄みおよび所定の抗原と接触されてインキュベートされる、従って、所定の抗原と、ヒト定常領域に特異的に結合する抗体とに結合された(そして、検出可能な標識またはレポーターで標識化され得る)ハイブリドーマ上澄み(遺伝子導入モノクローナル抗体)から本質的になる複合体が形成される。このような複合体の形成の検出は、ヒト免疫グロブリン鎖を発現するハイブリドーマクローンまたはプールを示す。
【0150】
1つの実施形態では、候補ハイブリドーマは、まず、特異的な抗原に結合する抗体を産生する能力についてスクリーニングされる。従って、本発明によると、本発明の遺伝子導入動物は、所定の抗原で免疫化されて、免疫応答を誘発する。B細胞は動物から採取され、適切な骨髄腫細胞にに融合されて、ハイブリドーマを産生する。次に、ハイブリドーマは、抗原への特異的結合について、そして次に抗体のアイソタイプについてスクリーニングされる。スクリーニングは、例えば、ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane)、Antibodies:A Laboratory Manual、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,N.Y.)(1988年)に記載されるように、標準技法を用いて実行することができる。
【0151】
抗体の更なる改変
所望される場合には、B細胞によって産生される抗体は、適切な方法で改変することができる。例えば、抗体の結合親和性は、当該技術分野において既知の種々の方法によって増大させることができる。例えば、結合特性は、直接的な変異、親和性成熟方法、ファージディスプレイ方法、または抗体分子をコードする核酸内の鎖シャッフリング方法によって改善することができる。例えば、個々の残基または残基の組み合わせは、そうでなければ同一である抗原結合部位の集団において、20種の全てのアミノ酸が特定の位置に見出されるようにランダム化することができる。結合特性は、親和性成熟方法によっても改善することができる(例えば、ヤン(Yang)ら(1995年)J.Mol.Bio.254、392〜403頁、ホーキンス(Hawkins)ら(1992年)J.Mol.Bio.226、889〜896頁、またはロー(Low)ら(1996年)J.Mol.Bio.250、359〜368頁(これらはそれぞれ、特に抗体の結合親和性を増大させる方法に関して、参照によってその全体が本明細書に援用される)を参照)。当該技術分野において既知の方法には、例えば、マークス(Marks)ら、Bio/Technology、10:779〜783頁(1992年)に記載されるVHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟と、バルバス(Barbas)ら、Proc Nat.Acad.Sci、USA 91:3809〜3813頁(1994年)、シーア(Schier)ら、Gene、169:147〜155頁(1995年)、イェルトン(Yelton)ら、J.Immunol.、155:1994〜2004頁(1995年)、ジャクソン(Jackson)ら、J.Immunol.154(7):3310〜9頁(1995年)、およびホーキンス(Hawkins)ら、J.Mol.Biol.226:889〜896頁(1992年)によって記載されるCDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発とが含まれる。
【0152】
抗体の最適化のための戦略は、ランダム変異誘発を用いて実行されることもある。これらの場合、位置がランダムに選択される、あるいは単純化した規則を用いてアミノ酸変化が成される。例えば、全ての残基はアラニンに変異されてもよく、アラニンスキャニングと呼ばれる。国際公開第9523813号パンフレット(参照によってその全体が本明細書に援用される)は、アラニンスキャニング変異誘発(Alanine scanning mutagenesis)を用いて抗体親和性を増大させるインビトロの方法を教示する。アラニンスキャニング変異誘発は、例えば、抗体の抗原結合残基を位置づけるために使用することもできる(ケリー(Kelley)ら、1993年、Biochemistry 32:6828〜6835頁、ヴァイドス(Vajdos)ら、2002年、J.Mol.Biol.320:415〜428頁)。配列に基づく親和性成熟方法(米国特許出願公開第2003/022240号明細書および米国特許出願公開第2002/177170号明細書を参照、いずれも参照によってその全体が本明細書に援用される)を用いて抗体の結合親和性を増大させてもよい。
【0153】
本発明のさらなる態様および利点は、以下の実験セクションにおいて開示され、実例としてみなされるべきであって、本出願の範囲を限定するとみなされてはならない。
【実施例】
【0154】
実施例1
マウスIgH座位のエンジニアリング
マウスIgH座位に対応してRP23−351J19およびRP23−109B20で示される2つのマウスBACを、BACライブラリーから選択した(オソエガワ(Osoegawa)Kら(2000年)Genome Res.10:116〜128、その開示は参照によってその全体が本明細書に援用される)。これらは76kbの重複を示し、それぞれ、多様性(D)、および接合部(J)遺伝子セグメント、および定常(C、IgG3〜IgA)遺伝子を含有する領域の一部を包含する(図5A)。パルスフィールドゲル電気泳動を用いて2つのBACにより含有される配列の完全性を決定した。
【0155】
BAC RP23−351J19とBACRP23−109B20の融合
第1のステップでは、2つのBACを融合して、DおよびJ遺伝子セグメントならびにC遺伝子を含有する組換えBACを生じさせる。2つの戦略が実行される。
【0156】
戦略1
まず、ピューロマイシン耐性カセット(ド・ラ・ルナ(de la Luna)Sら、(1992年)Methods Enzymol.216:376〜85頁、この開示は参照によって本明細書に援用される)(「Puro」)をBAC RP23−109B20に導入する。このカセットは、(1)IgHクラスターの3’末端に位置する配列と、T7配列に近接するBAC RP23−109B20の末端に位置する配列とに対応するオリゴヌクレオチドプライマーを用いて合成される。図5Bに示されるように、オリゴヌクレオチドプライマーの1つは、I−SceI制限部位を含有する(最終の組換え基質の直線化を容易にするため、以下を参照)。合成したピューロマイシンカセットのBAC RP23−109B20への標的化は、全D遺伝子セグメントクラスターを包含する63kbの配列の欠失(「切除(shaving)」)をもたらす。RP23−10920puroと呼ばれるこの中間産物は成長され、SnaBIで消化される。SnaBIによるRP23−109B20puroの消化は、BACライブラリーを構築するために使用されるベクターを無効にする。この株の細菌には、プラスミドpSC101−BAD−gbaA(ETリコンビナーゼをコードする、スチュアート、A.F.、チャン、Y.、およびブッフホルツ、F.1997年、Novel DNA cloning method、欧州特許出願第98 963541.2号明細書(またはPCT/EP98/07945))もトランスフェクトされる。従って、クロラムフェニコールおよびピューロマイシンの両方の存在下で成長する細菌は、図5Dに示される構造を示す組換えBAC(RP23−351J19puroで示される)を含有する。予期される構造は、フィールドパルスゲル電気泳動および部分配列決定によって検証される。
【0157】
戦略2
バックアップ戦略2は、上記の戦略1の代替として使用することができる。IgA C遺伝子の3’端部に隣接する相同配列を用いて、ブラストサイジン(「Blast」)耐性カセット(イタヤ(Itaya)Mら、J Biochem(1990年)107:799〜801頁)をBAC RP23−351J19に導入する。(図5C)。得られたBACはRP23−351J19blastで示される。マイクログラム量のBAC RP23−351J19blastおよびBAC RP23−109B20puro(1.1.1を参照)が調製される。BAC RP23−351J19blastはMluIおよびBsiWIで消化されるが、BAC RP23−109B20puroはMluIおよびBsiWIによって制限される。IgG3C、IgDCおよびIgMC遺伝子ならびにJH遺伝子クラスターを包含するMluI−BsiWI断片は、MluI−BsiWI制限されたBAC RP23−351J19blastにクローニングされて、BAC RP23−351J19puro/blastを生じさせる(図5D)。
【0158】
ヒトIgG1C遺伝子をコードする配列による、マウスIgG2b、IgG1、IgG3cおよびIgG2aC遺伝子をコードする配列の置換
ステップ1
この置換は、BAC RP23−351J19puroまたはBAC RP23−351J19puro−blastのいずれかを用いて、組換えエンジニアリングによって実行される。IgCHクラスターの3’端部に位置するIgAおよびIgEC遺伝子はまず、IgEC遺伝子の5’端部に位置する配列、およびIgHCクラスターの3’最端部に位置する配列に対応する相同アームに隣接されるアンピシリンベースのカセットを用いて、相同組換えによって欠失される。BACRP23−351J19puro−blastが使用される場合には、このステップは、ブラストサイジンカセットを除去するためにも使用される。このアプローチは、5’相同アームの範囲を指定することが注目される。
【0159】
ステップ2. ヒトIgG1−Lox511−Hygro−lox511カセットの構築および挿入
ヒトIgG1C遺伝子のエクソンCH1、H、CH2およびCH3にまたがる3.2kb断片は、テンプレートとしてのBAC RP11−417P24(オソエガワKら、(2001年)Genome Res.11:483〜96頁)、およびヒトIgG1 CH1エクソンの開始に相補的な配列を有する5’端部プライマー(プライマーa)、およびヒトIgG1CH3エクソンの3’端部に相補的な3’端部プライマー(プライマーb)を用いて、PCRによって合成される。マウスIgG3C遺伝子のCH1エクソンの5’端部に位置するスプライシング部位に相補的な配列は、プライマーaの5’端部に接する。マウスIgG2aC遺伝子のCH3エクソンの3’端部に隣接するイントロンに相補的な配列はプライマーbの3’端部に接する。
【0160】
対応するPCR産物は、配列決定およびクローン化される。lox511−隣接ハイグロマイシン耐性カセット(ジオルダノ(Giordano)Tら、(1990年)Gene 88:285〜288頁、その開示は参照によって本明細書に援用される)は、IgG2bc遺伝子のCH3エクソンの3’端部で挿入される(図5D)。得られるヒトIgG1−lox511−Hygro−lox511カセットは、リコンビニアリングによって、BAC RP23−351J19puroまたはBACRP23−351J19puro/blastに挿入される。
【0161】
VHDHJH16D10loxP−Tace Neo−loxPカセットの構築および挿入
ハイブリドーマ「IPH1」により使用されるVH遺伝子を同定し、VHDHJHIPH1で示した。このハイブリドーマは、カッパ軽鎖を備えたIgMを分泌する。VHDHJHIPH1遺伝子のプロモーターを包含し、そしてVHDHJHIPH1遺伝子により使用されるのJH遺伝子セグメント3’端部で終わるゲノム断片は、IPH1ハイブリドーマから抽出されたDNAからPCRによって合成される。VHDHJHプロモーターの5’端部に位置するプライマーは、JH遺伝子クラスターの5’端部に隣接する配列に相同の配列を組み込む。loxP−隣接Cre−neoオートデリーター(auto−deleter)カセット(Tace−Neoカセット、ブンティング(Bunting)Mら(1999年)Genes Dev.13:1524〜8頁、その開示は参照によって本明細書に援用される)は、図5Dに示されるようにVHDHJHIPH1断片の3’端部に挿入される。VHDHJHIPH1loxP−Tace Neo−LoxPカセットは、図5Dに示されるように、組換えエンジニアリングによって、BAC RP23−351J19puroまたはBAC RP23−351J19puro blastに挿入される。5’および3’の単一コピーのプローブおよび適切な制限部位は、意図された挿入の各端部において、相同組換えがES細胞中で生じたことを保証するように定義される。
【0162】
組換えESクローンの単離
BAC DNAは、5リットルの培養液を用いて調製され、塩化セシウムグラジエントで精製される。I−SceIによる消化の後、標的構築物はフェノール−クロロホルムで抽出され、エタノールで沈殿させられ、PBS中に再懸濁される。
【0163】
Bruce4 ES細胞は、I−SceI直線化BAC VHDHJHIPH1−mCM−mCD−hCG1で電気穿孔される。電気穿孔の24時間後、以下の濃度:G418:200μg/mlおよびハイグロマイシン(160mg/ml)で薬物の選択が開始される。G418およびハイグロマイシン中での選択、コロニーはサザンブロット分析によって相同組換えについてスクリーニングされる。
【0164】
変異マウスの産生
変異体ESは、Balb/c胚盤胞に注入される。ハイグロマイシンおよびネオマイシンカセットは、オスの生殖細胞系列の伝達の間に自己切除される。ノックインアプローチの結果は、その独自のプロモーターにより駆動されるVHDHJHIPH1遺伝子、loxP部位、マウスCMおよびCD遺伝子、ヒトCG1およびLox511部位を含有する「再編成された」マウスIgH座位である。
【0165】
マウスIgCカッパ座位のエンジニアリング
マウスIgCカッパ座位は、マウスIH座位と比較した場合にかなり簡単な組織化を示す。この性質のために、図5Eおよび5Fに概説されるように、適切な組換え基質を得るために3つのリコンビニアリングステップが必要とされるだけである。
【0166】
JK遺伝子クラスターおよびCK遺伝子のサブクローニング
JK遺伝子クラスターおよびCK遺伝子は、出発テンプレートとしてBAC RP23−435I4を用いて、リコンビニアリングによりpUCにサブクローニングされる(オソエガワKら、(2000年)Genome Res 10:116〜128頁)。得られたサブクローンは、「JKクラスター−CK遺伝子」で示される。
【0167】
図5Fに示されるように、VKJKIPH1遺伝子のプロモーターおよびVKJKIPH1遺伝子自体に対応するゲノム断片は、ハイブリドーマIPH1から単離される。loxP−隣接自己欠失(self−deleting)neo耐性カセットは、VKJKIPH1遺伝子の3’端部において挿入され、JKクラスターの5’端部に隣接する配列に相同の領域は、VKJKIPH1プロモーターの5’端部に接する。この断片は、図5Fに示されるように、リコンビニアリングによって「JKクラスター−CK遺伝子」サブクローンに導入される。
【0168】
次に、マウスCK遺伝子は、RP11−601N4を用いるヒトIgG1C遺伝子のマウスIgH座位への導入について記載したものと同一の戦略を用いて、ヒトCK遺伝子によって置換される(上記のステップ「VHDHJHIPH1loxP−Tace Neo−loxPカセットの構築および挿入」および図5Fを参照、オソエガワKら、(2001年)Genome Res.11:483〜96頁)。
【0169】
組換えESクローンの単離、ならびにヒト化CK座位および「再編成された」VKJKIPH1遺伝子を有する変異マウスの産生は、IgH座位について記載したように実行される。
【0170】
実施例2
マーカーに連結された抗体を発現する遺伝子導入動物のエンジニアリング
IgH座位の1つのC遺伝子(アイソタイプスイッチによりLatY136FインデューサーT細胞を用いてその発現を制御する可能性の利益を得るために、優先的に、CドメインのEまたはG1アイソタイプ)は、リンカー−EGFPをコードするcDNAまたはリンカー−タンデムRed配列で構成される配列によって置換される場合に、遺伝子導入マウスが発生される。
【0171】
アプローチの実現可能性を証明するために、第1のステップで構築物が作成されて、単一のオープンリーディングフレームとして発現される抗体、KT3mAb(TCR複合体のマウスCD3イプシロンサブユニットに特異的なラット抗体)のFab−リンカー−EGFPバージョンの発現を試験する。
【0172】
従って、X63−AgX653において、単一のオープンリーディングフレームとして、
a.KT3VH遺伝子のリーダー、
b.KT3VH遺伝子、
c.KT3CH1(IgG2a)配列、
d.《D2AK2》リンカー、
e.EGFPの単量体の形態、フューリン/24切断部位、
f.完全なKT3カッパ軽鎖、および
g.ad hoc発現ベクターにおける発現を容易にするためのスプライス部位
に対応する配列を含有するカセットを発現させた。
【0173】
構築の概略図は図6に示される。
【0174】
構築物の試験に続いて、本発明の方法に従って抗体を発現する遺伝子導入動物が発生され得る。簡単に言うと、動物は、実施例1と同様にして発生される。
【0175】
検出可能なタンパク質に連結された抗体、および検出可能なマーカーを持たない同じ抗体を発現する子孫動物を発生させるために、マウスγ重鎖定常領域配列は第1のマウスγ重鎖定常領域を置換し、リンカーおよび蛍光タンパク質(この実施例ではEGFP)配列に組換えにより結合されたマウスγ重鎖定常領域は、第2のマウスγ重鎖定常領域を置換する。動物は、以下のような配列:
5’−Sμ−Cμ−Cδ−Sγ3−マウスCγ−Sε−(マウスCγ−リンカー−EGFP)−3’
をその生殖細胞系列DNA内に有する。ここで、Cは定常領域を表し、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれマウス定常領域G1サブタイプを表し、またヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせる配列を表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれはマウス起源である。配列はさらに、Cγの3’に方向付けられた要素(−Sα−Cα−)を含み、ここで、SαおよびCαはマウス起源である。このような重鎖のみのマウスの作製において使用するための標的ベクターは、実施例1で記載したようにマウス生殖細胞系列IgH座位を適切なベクター内に配置することによって構築することができる。KT3mAbの再編成されたVDJ部分は、図5Dに示されるようにJDVセグメントの代わりに、JHクラスター内でIgH座位のマウスμ定常領域の上流側に配置される。G1サブタイプであるが、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせ、従って次にF(ab’)2抗体も産生する配列を表す第1のマウス重鎖定常領域は、抗体重鎖定常領域(図5Dに示されるIgG3、IgG1およびIgG2b)をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換し、ヒトIgG1領域がマウスSγ3スイッチ配列に作動可能に連結されるように、Sγ3スイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAのすぐ下流側に、そしてSεスイッチ配列の上流側に挿入される。G1サブタイプであり、そしてまたヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせ、、従って次にF(ab’)2抗体も産生する配列を表し、そしてリンカーおよびEGFPに組換えにより結合された第2のマウス重鎖γ定常領域は、Cε抗体重鎖定常領域をコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換し、ヒトFabコード化重鎖定常領域がマウスSεスイッチ配列に作動可能に連結されるように、Sεスイッチ配列を表すマウス生殖細胞系列DNAのすぐ下流側に、そしてマウスSαスイッチ配列の上流側に挿入される。次に、標的構築物は、相同組換えによりマウスES細胞の生殖細胞系列座位内に配置され、実施例1のように、重鎖のみの動物が得られる。軽鎖動物は実施例1のように、KT3抗体に対して同様にして発生される。軽鎖のみの動物およびこの重鎖のみの動物から得られる子孫動物は、KT3抗体の重鎖の再編成されたVDJ部分、および(a)LPSで攻撃されたときに、Fab断片をもたらす切断されたIgG定常領域、または(b)Fab断片をもたらし、そしてEGFPタンパク質に連結された切断されたIgG定常領域を有する抗体を産生するB細胞を有し得る。ノックインマウスが作製されたら、これらは所与の抗原で免疫化され得る。特異的ハイブリドーマを誘導する方法において、十分に成長している細胞の半分を誘発して、「リンカー−EGFP」にスイッチさせて、所与のmAbの緑色誘導体を一度に得ることができる。
【0176】
本明細書において引用される全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願のそれぞれが参照によって援用されると明確にそして個別に示されているかのように、参照によってその全体が本明細書中に援用される。
【0177】
上記の本発明は、理解を明確にするための説明および例としていくらか詳細に記載されたが、本発明の教示を鑑みて、特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなくそこに特定の変形および変更が成され得ることは、当業者には容易には分かるであろう。
【0178】
【表1】

【0179】
【表2】

【0180】
【表3】

【0181】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】図1および2は、「軽鎖のみ」および「重鎖のみ」のマウスの構築のための概略図である。図1には、「軽鎖のみの動物」の構築物、出発点としてJ領域から定常領域遺伝子CKまでのマウスCK座位の一部を含む標的ベクターが示されている。この出発物は、相同組換えによりマウスCKエクソンをヒトCKエクソンで置換し、相同組換えによりヒト軽鎖V−J配列を定常領域CKエクソンの上流側に挿入することによって、記載されるような要素を用いて改変された構築物である。マウス制御配列は保持される。標的ベクターは、マウスES細胞の生殖細胞系列座位における標的相同組換えを可能にし得る、上記の要素に隣接する配列を含む。
【図2】J領域から定常領域遺伝子(例えばCε)までのマウスIgH座位の一部を含む標的ベクターを使用して構築され、記載されるような要素を用いて改変された「重鎖のみの動物」が示される。標的構築物は、マウスμ定常領域の上流側に配置された選択される免疫グロブリン重鎖遺伝子(例えば、ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体から)の再編成されたVDJ部分を含む。ヒト重鎖定常領域G4をコードする第2の配列は、Sαスイッチ(S)配列の上流側およびSγ3スイッチ配列の下流側に組み込まれて、Cγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a重鎖定常領域セットをコードするマウス生殖細胞系列DNAを置換する。標的ベクターは、マウスES細胞の生殖細胞系列座位における標的相同組換えを可能にし得る、上記の要素に隣接する(例えば再編成されたVDJ部分およびヒト重鎖定常領域G4に隣接する)配列を含む。
【図3】重鎖のみのマウスおよび軽鎖のみのマウスの交配の結果生じ、目的とするヒト、ヒト化またはキメラ抗体を発現する子孫マウスの発生のための概略図である。また、抗体の「クラススイッチ」およびヒト、キメラまたはヒト化抗体のインビボの親和性成熟を誘発するための方法も示される。
【図4】そのB細胞において、ヒト重鎖ε定常領域を有するIgEアイソタイプ抗体を発現することができる重鎖のみのマウスの構築のための図である。マウスCεCHエクソンは、所望のアイソタイプのヒトCHエクソンによって置換される。この方法で構築された子孫動物からのB細胞は、LatY136F変異マウスからのCD4T細胞と接触させることができ(好ましくは、子孫動物へのCD4T細胞の養子転移、または子孫動物からのB細胞とのCD4T細胞のインキュベーションによる)、これによりIgEアイソタイプの抗体の発現が誘発される。
【図5A】マウスIg重鎖座位を設計するために使用される重複BACを示し、このBACは、次に、DおよびJ遺伝子セグメントならびにC遺伝子を含有する融合組換えBACを産生するために使用される。
【図5B】DおよびJ遺伝子セグメントならびにC遺伝子を含有する組換えBACを調製するための第1の戦略を示し、ここで、D遺伝子セグメントクラスターは欠失されて、選択可能なマーカーで置換され、重複BACは、相同組換え技法により融合される。
【図5C】DおよびJ遺伝子セグメントならびにC遺伝子を含有する組換えBACを調製するための第2の戦略を示し、ここで、D遺伝子セグメントクラスターは欠失されて、第1のBACの選択可能なマーカーで置換され、選択可能なマーカーは第2のBACに導入され、重複BACが連結される。
【図5D】図5Bおよび5Cのステップからそれぞれ得られるBAC RP23−351J19puroおよびRP23−351J19puro/blastと、ヒトIgG1C遺伝子をコードする配列によって、マウスIgG2b、IgG1、IgG3c、IgG2a遺伝子をコードする配列を置換するために使用される戦略とを示しており、ここで、(i)ヒトIgG1定常(C)遺伝子カセットが構築され、相同組換え技法によりBACに挿入される、そして(ii)重鎖可変領域遺伝子(VHDHJHIPH1)を含有するカセットが構築され、相同組換え技法によりBACに挿入される。
【図5E】マウスIgCカッパ座位の設計のための3つのステップの最初を示しており、これによりマウスIgカッパ遺伝子を含有するBACの部分がベクターにサブクローニングされる。
【図5F】マウスIgCカッパ座位の設計のための3つのステップの第2および第3番目を示しており、これにより、図5Eのベクターは、(i)VKJKIPH1遺伝子のプロモーターと、ハイブリドーマIPH1から単離済みのVKJKIPH1遺伝子自体とに対応するゲノム断片、および(b)マウスCK遺伝子を置換するヒトCK遺伝子を受け取る。両方の要素とも、相同組換え技法によって導入される。
【図6】KT3mAbのFab−リンカーEGFPバージョンの構築の原理を試験するために使用されるベクターの配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の特異的な抗原に結合する、目的とする抗体を獲得または産生するための方法、あるいはこのような抗体を産生する細胞を獲得するための方法であって、
a)生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列を含む第1の非ヒト動物を構築することと、
b)生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列を含む第2の非ヒト動物を構築することと、
c)前記動物a)およびb)を交配させて子孫動物を獲得し、前記子孫動物のB細胞が目的とする抗体を産生できるかどうかを決定することと、
を含む方法。
【請求項2】
子孫動物が目的とする抗体を産生することができるかどうかを決定する前記ステップが、B細胞によって産生される抗体がヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の特異的な抗原に特異的に結合するかどうかを決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
軽鎖および重鎖の可変領域セグメントの体細胞超変異を誘発し、それに伴って前記動物からのB細胞により産生される抗体の親和性成熟を誘発するために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化抗体を産生するB細胞のクローン増殖を刺激するため、および/またはIgMの産生から所望のサブタイプのIgG抗体の産生へのアイソタイプスイッチを引き起こすために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することをさらに含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
目的とする抗体を産生する前記動物からのB細胞を選択または単離することをさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
B細胞を選択することが、B細胞によって産生される抗体のレベルを評価することを含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記B細胞株を不死化することをさらに含む請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
前記B細胞を骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマを産生することをさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列と
がその生殖細胞系列DNA内に配置された非ヒト動物。
【請求項10】
少なくとも、ネイティブのμ定常領域の上流側のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域と、(i)ネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブの生殖細胞系列DNAを置換し、そして(ii)スイッチ配列に作動可能に連結された重鎖定常領域をコードする配列とがその生殖細胞系列DNA内に配置された非ヒト動物。
【請求項11】
ヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の免疫グロブリン軽鎖の再編成された可変領域をその生殖細胞系列DNA内にさらに含む請求項10に記載の動物。
【請求項12】
生殖細胞系列に作動可能に連結されたヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された重鎖定常領域配列を含む第1のベクターと、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された軽鎖定常領域配列を含む第2のベクターと
を含む、標的構築物として使用するために適切なベクターのセット。
【請求項13】
IgH座位の少なくとも一部を含む標的構築物として使用するために適切なベクターであって、前記ベクターまたは構築物が、
μ定常領域の上流側のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域と、
(i)前記IgH座位のネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブのDNAを置換し、(ii)スイッチ配列に作動可能に連結された重鎖定常領域をコードする配列と
をさらに含むベクター。
【請求項14】
請求項14に記載の第1のベクターと、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定のヒト、非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列を含む第2のベクターと
を含む、標的構築物として使用するために適切なベクターのセット。
【請求項15】
少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれており、アイソタイプスイッチングを受けているアイソタイプスイッチ細胞。
【請求項16】
少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれており、単一の抗体種を発現する非ヒトB細胞。
【請求項17】
少なくとも、
生殖細胞系列に作動可能に連結された非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の重鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と、
生殖細胞系列に作動可能に連結された特定の非ヒト、キメラまたはヒト化リード抗体の軽鎖の再編成された可変領域を少なくともコードする配列、または改変された定常領域配列と
がそのDNA内に組み込まれた非ヒトB細胞であって、
前記再編成された可変領域配列によってコードされるものとはその可変領域配列が異なる抗体を生じさせることができる配列をそのゲノムDNA内に含有しない細胞。
【請求項18】
重鎖の再編成された可変領域および軽鎖の再編成された可変領域をコードする前記配列が、前記細胞によって独立して発現される請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項19】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、ヒトリード抗体に由来する請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項20】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、非ヒトリード抗体に由来する請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項21】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、マウスリード抗体に由来する請求項20に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項22】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、1つまたは複数のアミノ酸置換を有するマウスリード抗体に由来する請求項21に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項23】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、キメラリード抗体に由来する請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項24】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、CDRグラフト化リード抗体に由来する請求項23に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項25】
重鎖および/または軽鎖の前記再編成された可変領域が、リードヒト化リード抗体に由来する請求項23に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項26】
重鎖または軽鎖の前記再編成された可変領域が、既知の特異性を有するリード抗体から得られるか、あるいは既知の特異性を有するリード抗体に由来する請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項27】
前記重鎖定常領域配列が非ヒト起源である請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項28】
前記軽鎖定常領域配列が非ヒト起源である請求項1〜9および11〜27のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項29】
前記重鎖定常領域配列がマウス起源である請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項30】
前記重鎖定常領域配列がヒト起源である請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項31】
前記軽鎖定常領域配列がヒト起源である請求項1〜9および11〜27および29〜30のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項32】
前記重鎖定常領域配列がγサブタイプを有する請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項33】
前記重鎖定常領域配列がG1サブタイプを有する請求項32に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項34】
前記重鎖定常領域がG1サブタイプであり、ヒンジ領域に存在して鎖間ジスルフィド架橋に関与するシステインをコードするコドンの5’近位で切断され、Fab部分を生じさせる配列を表す請求項32に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項35】
定常領域配列が検出可能なマーカーに組換えにより結合された請求項1〜34のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項36】
前記重鎖の再編成された可変領域がネイティブのμ定常領域の上流側に配置され、重鎖定常領域をコードする配列が、(i)ネイティブの重鎖定常領域の1つまたは複数をコードするネイティブのDNAを置換し、そして(ii)スイッチ配列に作動可能に連結される請求項1〜9および12〜35のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項37】
前記定常領域配列が、マウスα領域、マウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セット、および/またはε重鎖定常領域を置換する重鎖定常領域を含む請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項38】
前記定常領域配列が、マウスε重鎖定常領域を置換するヒトεまたはγ重鎖定常領域配列を含む請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項39】
前記定常領域配列が、マウスε重鎖定常領域を置換するヒトεまたはγ重鎖定常領域配列を含み、前記動物、ベクターまたは細胞が、以下のような配列:
5’−Sε−ヒトCε−Sα−Cα−3’、または
5’−Sε−ヒトCγ−Sα−Cα−3’
(ここで、Cは定常領域を表し、γはヒトγ定常領域のサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部のいずれでもよく、Sはスイッチ配列を表し、そしてSε、SαおよびCαはヒト起源でも非ヒト起源でもよい)をそのDNA内に含む請求項38に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項40】
前記定常領域配列が、マウスγ重鎖定常領域を置換するヒトγ重鎖定常領域配列を含み、前記動物、ベクターまたは細胞が、以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、Cγはヒト定常領域γサブタイプG1、G2、G3またはG4もしくはその一部を表し、そしてSγはヒト起源でも非ヒト起源でもよい)をそのDNA内に含む請求項37に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項41】
前記定常領域配列が、第1のネイティブの定常領域を置換する第1の重鎖定常領域と、第2のネイティブの重鎖定常領域を置換する第2の重鎖定常領域と含む請求項1〜40のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項42】
前記第1の重鎖定常領域が、マウスα領域および/またはマウスCγ3、Cγ1、Cγ2bおよびCγ2a領域セットを置換し、前記第2の重鎖定常領域が、マウスε重鎖定常領域を置換する請求項41に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項43】
γ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換し、前記動物、ベクターまたは細胞が、以下のような配列:
5’−Sγ−置換Cγ−S(εまたはα)−置換Cγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ異なる定常領域γサブタイプを表す)をそのDNA内に含む請求項41に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項44】
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換し、前記動物、ベクターまたは細胞が以下のような配列:
5’−Sγ−ヒトCγ−S(εまたはα)−ヒトCγ−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、CγおよびCγはそれぞれ、G1、G2、G3またはG4から独立して選択される異なるヒト定常領域γサブタイプを表し、そしてSε、SαおよびSγのそれぞれは、ヒト起源でもマウス起源でもよい)をそのDNA内に含む請求項41に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項45】
ヒトγ重鎖定常領域配列がマウスγ重鎖定常領域を置換し、前記動物が以下のような配列:
5’−Sγ3−ヒトCγ−Sε−ヒトCγ−Sα−Cα−3’
(ここで、Sはスイッチ配列を表し、Cは定常領域を表し、CγおよびCγは、G1、G2、G3またはG4から独立して選択されるヒト定常領域γサブタイプを表し、そしてCα、Sε、SαおよびSγのそれぞれはヒト起源でもマウス起源でもよい)をその生殖細胞系列DNA内に含む請求項41に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項46】
Sγが、マウス起源のSγ3である請求項40または43〜45のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項47】
前記動物または細胞が、ラット動物または細胞である請求項1〜46のいずれか一項に記載の方法、動物または細胞。
【請求項48】
前記動物または細胞が、マウス動物または細胞である請求項1〜46のいずれか一項に記載の方法、動物または細胞。
【請求項49】
前記動物のB細胞が、リード抗体の特異的な抗原に結合する、目的とする抗体を産生するB細胞から本質的になる請求項1〜11または15〜48のいずれか一項に記載の方法、動物または細胞。
【請求項50】
請求項9〜11または15〜49のいずれか一項に記載の非ヒト動物を提供することと、
DJおよびVセグメントの体細胞超変異を誘発し、それに伴って前記動物からのB細胞によって産生される抗体の親和性成熟を誘発するために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することと
を含む、目的とする抗体またはそれを産生する細胞を獲得するための方法。
【請求項51】
請求項9〜11または15〜50のいずれか一項に記載の非ヒト動物を提供することと、
抗体を産生するB細胞のクローン増殖を刺激するため、および/またはIgMの産生から所望のサブタイプIgG抗体の産生へのクラススイッチを引き起こすために、所望の表現型を有する子孫動物を処置することと
を含む、目的とする抗体またはそれを産生する細胞を獲得するための方法。
【請求項52】
目的とする抗体をコードまたは産生する前記動物からのB細胞を選択することをさらに含み、前記目的とする抗体が、リード抗体配列が由来した抗体と同じ抗原に結合する請求項50〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
B細胞による抗体産生のレベルを評価することをさらに含む請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記B細胞株を不死化することをさらに含む請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記B細胞を骨髄腫細胞に融合させてハイブリドーマを産生することをさらに含む請求項52に記載の方法。
【請求項56】
請求項9〜11および15〜53のいずれか一項に記載の非ヒト動物から得られるか、あるいは請求項1〜8および15〜53に記載の方法に従って得られるB細胞。
【請求項57】
請求項56に記載のB細胞を不死化することによって得られる細胞。
【請求項58】
請求項56に記載のB細胞を第2の細胞と融合させることによって得られるハイブリドーマ。
【請求項59】
請求項56〜58のいずれか一項に記載の細胞によって産生される抗体。
【請求項60】
前記抗体がFab断片である請求項59に記載の抗体。
【請求項61】
前記抗体が、マウス宿主細胞において発現される同じアミノ酸配列の抗体と識別可能なグリコシル化を有する請求項59に記載の抗体。
【請求項62】
前記抗体が、マウス宿主細胞において発現される同じアミノ酸配列の抗体と比較して、N−グリコシドグリコシド結合糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンのフコース含量の低下、および/または抗体が特異的である抗原を発現する細胞に対するADCC活性を誘発する能力の増大を有する請求項59に記載の抗体。
【請求項63】
前記細胞が、培養液中に保持されたときに、目的とする前記抗体を細胞外の培地中に分泌する請求項56〜58のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項64】
前記細胞が、目的とする前記抗体のみを分泌する請求項63に記載の細胞。
【請求項65】
免疫グロブリン重鎖の再編成された可変領域が、再編成されたVDJ部分である請求項1〜64のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項66】
免疫グロブリン軽鎖の再編成された可変領域が、再編成されたV−J部分である請求項1〜65のいずれか一項に記載の方法、動物、ベクターまたは細胞。
【請求項67】
重鎖の前記再編成された可変領域および軽鎖の前記再編成された可変領域が、細胞または動物の起源の種に対してネイティブである免疫グロブリン制御配列の制御下で発現される請求項1〜66のいずれか一項に記載の方法、動物、または細胞。
【請求項68】
細胞が、重鎖の前記再編成された可変領域および軽鎖の前記再編成された可変領域を発現し、そして得られた鎖が細胞内で一緒に構築されて免疫グロブリンを形成し、これが次に、リード抗体の特異的な抗原に特異的に結合することができる形態で分泌されるように、請求項56〜58のいずれか一項に記載の細胞を栄養培地中に保持するステップを含む、重鎖および軽鎖を含む機能性免疫グロブリンを産生するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【公表番号】特表2008−538912(P2008−538912A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508349(P2008−508349)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001912
【国際公開番号】WO2006/117699
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(506000184)イナート・ファルマ (15)
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA
【出願人】(592236234)アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム) (12)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
【Fターム(参考)】