説明

遺伝子導入動物モデル

【課題】遺伝子導入動物モデルを提供する。
【解決手段】本発明は、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に、導入遺伝子の発現の同時の、組織特異的な、そして時間制御の調節を可能にし、癌、特に肺癌のような特定の疾患の開始及び進行に関予する連続的な段階を研究するためのツールとして使用することができる遺伝子導入マウス・モデルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には、導入遺伝子の発現の同時の、組織特異的な、及び時間制御の調節を可能にする、遺伝子導入げっ歯動物に関する。このようなモデルは、癌、特に肺癌のような特定の疾患の開始及び進行に関与する連続した段階を研究するためのツールとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入マウス・モデルのような遺伝子導入非ヒト動物モデルは、特定のヒト疾患の状態に関与する分子プロセス及び生理的プロセス、特に発癌性に関与するプロセスの研究にはかけがえのないツールである。従来の遺伝子導入マウス・モデルを発生させるのに用いられる遺伝子破壊戦略及び遺伝子置換戦略は、ヌル変異体又は機能獲得変異体を作成するのには適切であるが、いずれも、多遺伝子病因及び環境影響による疾患、例えば「後天性」疾患としての癌のような疾患をモデル化するのには理想的ではない。このような既知の戦略は、生殖細胞変異を引き起こす。その結果、発生の初期段階中に二次反応のカスケードを開始する可能性が大きい。これらの反応は、ストレスを受けない生物体においては表現型的には沈黙である場合でも、成体マウスにおいて付加的な攻撃に対する反応を大きく変える可能性がある。この情報は、それ自体興味深いが、発生中に導入遺伝子を沈黙状態にし、成体においてその発現を引き起こすことは、可能性のある発生摂動によって複雑化されない、可能的により適切な環境をもたらす。さらに、大部分の癌は散発性であり、発癌は、多くの場合、組織又は空間特異的である。従来の遺伝子導入マウスは、完全な動物において構成的導入遺伝子を保有し、これは、細胞間接触又はパラクリン・シグナル伝達によって初期癌細胞を抑制することができる多くの正常な細胞によって幾つかの腫瘍細胞が取り囲まれる散発性癌の開始の際に見られるものとは非常に異なる微環境を生成する。
【0003】
疫学的データは、タバコ煙が肺癌の発生に原因として関係することを明白に示している。過去の分子生物学の研究は、肺癌における複雑な分子変化を明らかにした。肺の恒常性を維持するために種々の細胞プロセスを積極的又は消極的に調節する、統合シグナル伝達ネットワークの完全性の動揺が、肺癌の進行につながることが知られている。全てのタイプの癌と同様に、正常な肺細胞から悪性の肺癌細胞への形質転換は、多くのイベントの組合せの結果である。タバコ煙の発癌は、多段階プロセスであると考えられるが、癌が発生するのにどの段階が本当に必要であるかについては一致した見解は殆どいない。特定の遺伝的又は後成的異常と発癌の間の因果関係は、多くの場合不明である。このことは、タバコ煙により誘発される発癌の初期イベントについては殆ど知られていないという事実によって複雑になる。さらに、肺癌の発端の細胞型、及び、微環境が腫瘍形成能において果たす「逆説的」でもある複雑な役割の両方が不明である。
【0004】
肺癌に関する遺伝子導入マウス・モデルの発生の最近の戦略は、構成モードにおいて導入遺伝子を標的化することから、誘導モードにおいて肺内での遺伝子の発現及び消失を調節することに発展した。このことは、空間特異的及び組織特異的な方法による遺伝子発現の制御を可能にし、これにより腫瘍形成の分子ベースの更なる研究のための優れたプラットフォームを提供する(Kwak他によるレビュー、2004年)。条件付遺伝子導入マウスを作成するのに最も広く使用される系は、P1バクテリオファージのCreリコンビナーゼ及びサッカロミセス・セレビシエ酵母のFlpリコンビナーゼであり、これらは、互いにほぼ同様に機能する。リコンビナーゼ酵素Cre(又はFlp)は、loxP(又はfrt)と呼ばれる34−bpの非対称ポリヌクレオチドの認識を介して組換えを促進する。loxP部位の相対的配向に応じて、Creは、これらの部位間に位置するDNAセグメントの切除(同じ配向)又は挿入(反対の配向)を触媒することができる。誘導的遺伝子の標的化を実現するための既知の手法は、2つのタイプの遺伝子導入マウス系列を含む。第1の遺伝子導入マウス系列は、同じ配向で且つ正常な遺伝子活性を妨げないように配置された2つのloxP部位でフランキング(flanked)された標的遺伝子(又は遺伝子セグメント)をもつ(フロックス化された(floxed)遺伝子)。第2の遺伝子導入マウス系列は、Creリコンビナーゼを発現させる導入遺伝子を含む。これらの2つのマウス系列が交配されると、導入遺伝子内に存在するプロモーター及び調節配列に応じて、フロックス化された(floxed)遺伝子が削除され、突然変異が特定の細胞又は組織内で引き起こされる。Cre/loxP(又はFlp/frt)系による条件付遺伝子の標的化には、2つの要件が満足されなければならないことに留意することが重要である。第1に、フロックス化(floxed)された対立遺伝子を、それがなお機能するように作成する必要があり、第2に、Cre発現の標的化は、厳重に制御する必要がある。フロックス化された(floxed)DNA配列に応じて、Cre/loxP系はまた、挿入を引き起こすために使用することもできる。このために、条件付導入遺伝子は、所与のタイプの細胞内ばかりでなく、発生中の所与の時間においても導入することができる。
【0005】
癌が散発性であり、即ち、後天性疾患であるため、これらの条件付モデルは癌の標的にすることができる。従って、遺伝子変化を、マウス・モデルの発生の任意の段階で導入することができる。しかしながら、癌が多くの場合、後天性疾患であり、微環境の非常に複雑な状況に左右されるという事実に加えて、タバコ煙の発癌は特別な特徴を示す。禁煙後15乃至25年の喫煙者が非喫煙者とほぼ同じ肺癌発生の低リスクを負うことを示す疫学的なデータは、タバコ煙の「可逆性」又は量的効果を強く示唆する。さらに、タバコ煙によって加えられる損傷は、多くの場合、その作用機構に対して断続的である。肺癌に関する幾つかの条件付遺伝子導入マウス・モデルは、アデノ−creウイルス、即ち、組換えアデノウイルス発現Creリコンビナーゼを鼻腔内又は気管内に投与することによって発生させられた(Jackson他、2001年、Meuwissen他、2001年)。しかしながら、この方法による標的遺伝子の抑制又は活性化は不可逆であり、投与後に構成化し、このことは、タバコ煙曝露の断続的な性質、又は禁煙後の喫煙者における肺癌の観察された可逆性を反映するものではない。これらの点は、タバコ煙誘発の肺腫瘍形成に関する適切な疾患モデルとしての既知の従来の条件付遺伝子導入マウスの妥当性について疑問を提起する。換言すれば、現在、タバコ煙誘発の肺癌又は他のタバコ煙誘発の疾患を研究するための適切な遺伝子導入マウス・モデルが存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
要約すれば、タバコ煙誘発の疾患を研究するための理想的又は適切な非ヒト動物モデルは、1)疾患の後天性、2)微環境の複雑さ、3)タバコ煙曝露の断続的な特性、及び4)禁煙後の喫煙者における発癌プロセスの「可逆的」性質、を捉えることができる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ここで、上述の有利な能力を有する非ヒト動物モデルを提供する。具体的には、本発明は、そのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物を提供するものであり、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下でエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含む。前記の(第2の)エフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、この発現産物は、誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化される。
本発明の全ての態様及び実施形態によれば、好ましい遺伝子導入非ヒト動物は、遺伝子導入げっ歯動物である。特に好ましいのは遺伝子導入マウスである。
【0008】
具体的には、本発明は、そのゲノムに安定に組み込まれた第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物を提供し、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化する第2のポリヌクレオチドと、オプションとして、第2のエフェクタ・ポリペプチドをブロックして第2のエフェクタ・ポリヌクレオチドの発現が非誘導状態において組織特異的プロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列とを含み、またここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化する第1のポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導及び第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現により、例えば、第2の発現カセットからブロックを除去することによって、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ベクター構築物の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に、マウスのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入マウスが提供され、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーター、具体的には肺内部での肺組織特異的タンパク質の発現を制御する肺組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は第1の発現カセットの発現産物により活性化され、この発現産物は誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分によって誘導可能なプロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化され、第2の発現カセットはさらに、注目遺伝子(GOI)、例えば腫瘍抑制遺伝子又は本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子を含み、これらは、動物のゲノムに組み込まれ、注目遺伝子の正常な発現に干渉しないリコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いポリヌクレオチドによってフランキングされ(flanked)、その結果、GOIは非誘導状態で動物のゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化される。
【0011】
本発明の一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に、マウスのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入マウスが提供され、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーター、具体的には肺内部で肺組織特異的タンパク質の発現を制御する肺組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列とを含み、またここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分により誘導されるプロモーターの制御下で第1のエッフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは誘導により、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、第2の発現カセットからブロックを除去し、これにより第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化し、第1の発現カセットはさらに、注目遺伝子(GOI)、例えば、腫瘍抑制遺伝子又は本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子を含み、この注目遺伝子は、動物のゲノムに組み込まれ、注目遺伝子の正常な発現に干渉しないリコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いポリヌクレオチドによってフランキングされ(flanked)、その結果、GOIは非誘導状態で動物のゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化される。
【0012】
本発明の特定の実施形態において、第1の発現カセット及び第2の発現カセットが遺伝子導入非ヒト動物の少なくとも1つの体細胞のゲノムに安定に組み込まれた、遺伝子導入非ヒト動物が提供される。
【0013】
本発明の別の特定の実施形態において、第1の発現カセット及び第2の発現カセットが遺伝子導入非ヒト動物の少なくとも1つの生殖系列細胞のゲノムに安定に組み込まれた、遺伝子導入非ヒト動物が提供される。
【0014】
オプションとして、第2の発現カセットは、第2のエフェクタ・ポリヌクレオチドの発現をブロックする更なるヌクレオチド配列を含む。このブロッキング・ヌクレオチド配列は、1つ又はそれ以上の終止コドン、又はポリアデニル化配列、又はリポーター遺伝子、或いは第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックできる任意の他のヌクレオチド配列を含む。このブロッキング・ヌクレオチド配列は、エフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックするように発現カセット内に配置されることが有利である。これは、第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列の上流に配置されることが好ましく、プロモーターとコード化するポリヌクレオチドとの間に配置されることがより好ましい。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、誘導性プロモーターの制御下で第1の発現カセットに含まれる第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化する第1のポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドをコード化するリコンビナーゼであり、ブロッキング配列は、リコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いヌクレオチド配列によりフランキングされる。
【0016】
具体的には、第1のエフェクタ・ポリペプチドはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼであり、ブロッキング・ヌクレオチド配列をフランキングするリコンビナーゼ認識配列、具体的にはポリA配列、又は終止コドン、或いはレポータ遺伝子は、それぞれloxP及びfrt認識配列である。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、第1の発現カセット内の第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する誘導性プロモーターは、オン/オフ型のプロモーターであり、強く誘導され、本質的に背景活動を生じない。具体的には、このプロモーターの誘導は、投与量に依存し、化合物又は組成物に依存し、それ故誘導剤の投与量及び性質を調節することにより遺伝子発現のレベル及び持続時間を微調整することを可能にする。
【0018】
本発明の特定の態様において、例えば、ニコチン、及びベンゾ(a)ピレン(BaP)のような多環式芳香族炭化水素(PAH)、及びテトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)のような塩素化ダイオキシン、及びベータ−ナフトフラボン(BNF)のようなフランなど、これらのうちの幾つかは、タバコ煙等の中に個々に又はその成分の1つ又はそれ以上の異なる組合せで存在するが、これらの環境毒物の存在下で強く誘導される誘導性プロモーターが提供される。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、第1の発現カセット内のエフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する誘導性プロモーターは、シトクロムP450モノオキシゲナーゼの発現、具体的にはcpy1A1遺伝子の発現を制御するプロモーターである。例えば、それらに限定されないが、ストレス応答性遺伝子hsp70.1のプロモーター、メタロチオニン遺伝子のプロモーター、及び他のcyp型のプロモーターのような、第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する他の誘導性プロモーターもまた、本発明の範囲内で使用することができる。
【0020】
本発明の別の態様において、第2の発現カセット内に含まれる第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する組織特異的プロモーターは、組織特異的プロモーター、具体的には肺組織特異的プロモーターであり、肺組織特異的タンパク質の発現を制御するプロモーターであることがより好ましく、最も好ましくは、例えばクララ細胞10タンパク質のような呼吸細気管支及び終末細気管支内の非繊毛細気管支上皮細胞(クララ細胞)内で特異的に発現するタンパク質の発現を制御するプロモーターである。CC10タンパク質プロモーターが特に好ましい。
【0021】
本発明の別の実施形態において、肺組織特異的プロモーターは、肺組織特異的タンパク質、より具体的には、例えばサーファクタント・タンパク質A/Cのような肺胞上皮細胞内で特異的に発現するタンパク質、の発現を制御するプロモーターである。このようなタンパク質は、肺組織特異的タンパク質であり、細胞増殖、サイトカインの産生、細胞表面マーカーの発現、及び酸化活性の生成を含む、多数の免疫細胞機能を調節する。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態において、肺組織特異的プロモーターは、例えば、RAIG1のようなタイプI及びタイプIIの両方の肺上皮細胞内の肺組織特異的タンパク質の発現を制御するプロモーターである。
【0023】
本発明の範囲内で使用することもできる他の肺組織特異的プロモーターには、例えば、甲状腺転写因子−2(TTF−1)から成る群から選択されるプロモーター、アクアポリン5のプロモーター、T1アルファのプロモーター、及びレチノイン酸誘導遺伝子1(RAIG1)のプロモーターが含まれる。甲状腺転写因子−1(TTF−1、Nkx2.1遺伝子の産物)は、肺の分枝形態形成のために必須であり、肺胞タイプII細胞によってサーファクタント・タンパク質の発現を高める。T1アルファは、肺胞上皮タイプI細胞の分化遺伝子である。アクアポリン−5(AQP5)は、肺胞上皮タイプI細胞の先端面上で発現する水チャネル・タンパク質である。RAIG1は、タイプI及びタイプIIの両方の肺上皮細胞内に特異的に発現する遺伝子である。
【0024】
本発明の更なる態様において、本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入非ヒト動物は、そのゲノムに安定に組み込まれた注目遺伝子(GOI)を含み、この発現は第2のエフェクタ・ポリペプチドによって調節される。
【0025】
具体的には、そのゲノムに安定に組み込まれた第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物が提供され、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、この発現産物は誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化され、またここで、遺伝子導入非ヒト動物は、そのゲノム内に注目遺伝子(GOI)を含み、これは、活性状態で動物のゲノムに組み込まれるか又はゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化される。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には、そのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入げっ歯動物を提供し、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、及び、オプションとして、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから起こらないようにする更なるヌクレオチド配列を含み、またここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導、及び第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現により、例えば、第2の発現カセットからブロックを除去することによって、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化し、またここで、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入マウスは、そのゲノム内に注目遺伝子(GOI)を含み、これは、非誘導状態においてゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化されるように動物のゲノムに組み込まれる。
【0027】
注目遺伝子は、遺伝子導入非ヒト動物のゲノムに存在する本来の遺伝子か、又は代替として、組換えDNA技術によって人工的に動物のゲノムに導入された導入遺伝子とすることができる。注目遺伝子は、例えば、腫瘍抑制遺伝子k−Ras12(Jackson他、2001年)、Rb1又はTrp53(Meuwissen他、2001年)のような腫瘍抑制遺伝子、或いは本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子とすることができ、この遺伝子は、遺伝子導入非ヒト動物のゲノムに動作可能に組み込まれ、非誘導状態でゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現によりブロック又は不活化される。本発明の特定の実施形態において、第2のエフェクタ・ポリペプチドはリコンビナーゼであり、遺伝子導入非ヒト動物のゲノム内の注目遺伝子は、注目遺伝子の正常な発現に干渉しないリコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いヌクレオチド配列によりフランキングされる(flanked)。
【0028】
具体的には、エフェクタ・ポリペプチドはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼであり、注目遺伝子(GOI)をフランキングする(flanking)リコンビナーゼ認識配列は、それぞれloxP及びfrt認識配列である。
【0029】
本発明の別の態様において、注目遺伝子(GOI)は、不活性状態で遺伝子導入非ヒト動物のゲノムに組み込まれるか、又はゲノムから活発には発現しない。
【0030】
具体的には、そのゲノムに安定に組み込まれた第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物が提供され、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、この発現産物は誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化され、またここで、遺伝子導入非ヒト動物は、そのゲノム内に注目遺伝子(GOI)を含み、この注目遺伝子は、不活性状態で動物のゲノムに組み込まれるか、又はゲノムから活発には発現しないが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により活性化される。
【0031】
別の実施形態において、本発明は、そのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物を提供し、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、及びオプションとして、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列を含み、またここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化スルポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物の誘導及び第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現によって誘導され、例えば、第2の発現カセットからブロックを除去することによって、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化し、またここで、遺伝子導入非ヒト動物は、そのゲノムに安定に組み込まれた注目遺伝子(GOI)を含み、これは、非誘導状態ではゲノムから活発に発現しないが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により活性化されるように動物のゲノムに組み込まれる。
【0032】
ブロッキング・ポリヌクレオチドは、終止コドン、又はポリアデニル化配列、又はレポーター遺伝子を含むことができ、具体的にはエフェクタ・ポリペプチドの発現がブロックされるように発現カセット内に配置され、特にプロモーターとコード化するポリヌクレオチドとの間に配置される。
【0033】
注目遺伝子は、非ヒト動物のゲノムに存在する本来の遺伝子か、又は代替として、組換えDNA技術によって人工的にゲノムに導入される導入遺伝子とすることができる。不活性状態の注目遺伝子(GOI)は第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現によりブロック解除又は活性化され、その結果注目遺伝子の発現が引き起こされる。
【0034】
注目遺伝子は、例えば、肺線腫感受性遺伝子1(Las−1)及びキルスティン・ラット肉腫腫瘍遺伝子2(Kras2)から成る群から選択された腫瘍感受性遺伝子のような腫瘍感受性遺伝子、又は本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子とすることができる。
【0035】
本発明は、同じベクター分子の部分として第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含むベクター分子をさらに含み、ここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導により、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、また、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は第1の発現カセットの発現産物によって活性化される。
【0036】
特に、本発明は、第2の発現カセットが第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックする更なるポリヌクレオチドを含む、ベクター分子に関連する。
【0037】
一実施形態において、本発明は、同じベクター分子の部分として第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含むベクター分子を提供し、ここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導により、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、またここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、及びオプションとして、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列を含む。第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化される。
【0038】
オプションの更なるヌクレオチド配列は、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックして、エフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態における組織特異的プロモーターから生じないようにするもので、1つ又はそれ以上の終止コドン、ポリアデニル化(ポリA)配列、レポーター遺伝子、又は第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックすることができる任意の他の配列を含むヌクレオチド配列とすることができ、具体的には第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現がブロックされるように発現カセット内に配置される。ヌクレオチド配列は、第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドの上流に配置されることが好ましく、プロモーターとコード化するヌクレオチド配列との間に配置されることがより好ましい。
【0039】
またベクター分子も含まれ、ここで、第1の発現カセット内のエフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する誘導性プロモーターは、強く誘導され、かつ本質的に背景活動を生じないオン/オフ型プロモーターであり、誘導化合物又は組成物の投与量及び性質に依存し、具体的にはタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分に依存し、具体的にはシトクロムP450モノオキシゲナーゼの発現を制御するプロモーター、特にcyp1A1遺伝子の発現を制御するプロモーターである。
【0040】
更なる実施形態において、本発明によるベクター分子が提供され、ここで、組織特異的プロモーターは、肺組織特異的プロモーター、具体的には肺組織特異的タンパク質、特に例えばクララ細胞10タンパク質のような呼吸細気管支及び終末細気管支内の非繊毛細気管支上皮細胞(クララ細胞)内で特異的に発現するタンパク質の発現を制御するプロモーター、具体的にはCC10タンパク質プロモーターである。代替的に、本発明によるベクター分子は、例えば、サーファクタント・タンパク質A/Cのような肺胞上皮細胞内で特異的に発現する肺組織特異的タンパク質の発現を制御する肺組織特異的プロモーターを含むことができる。
【0041】
本発明の更なる態様において、本発明によるベクター分子は、リコンビナーゼ、具体的にはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼである第1のエフェクタ・ポリペプチド、及び/又は、リコンビナーゼ、具体的にはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼである第2のエフェクタ・ポリペプチドを含む。
【0042】
本発明により、リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、特にフロックス化された(floxed)標的の注目導入遺伝子を含む発現カセットを含むベクター分子がさらに提供される。
【0043】
本発明の一実施形態において、注目遺伝子が、p53、Arf、Dmp1及びRbのような腫瘍抑制遺伝子、又はk−Ras12、WT1、TSG101等のような腫瘍感受性遺伝子であり、Cre認識配列によってフランキングされる、ベクター分子が提供される。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態において、同じベクター分子の部分として第1の発現カセット、第2の発現カセット及び第3の発現カセットを含むベクター分子が提供され、ここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導により、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、また第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、及びオプションとして、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列を含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、そして、第3の発現カセットは、リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、具体的にはフロックス化された標的の注目導入遺伝子、具体的にはp53、Arf、Dmp1及びRbのような腫瘍抑制遺伝子、又はk−Ras12、WT1、TSG101等のような腫瘍感受性遺伝子、特にCre認識配列によってフランキングされた遺伝子を含む。
【0045】
本発明の一実施形態において、本発明による第1の発現カセット及び第2の発現カセットを含む組成物が提供されるが、これは、ベクター分子の各々が単一の発現カセットのみを含むような別個のベクター分子に関して本明細書で前述したものである。
【0046】
本発明の一実施形態において、本発明による第1の発現カセット、第2の発現カセット及び第3の発現カセットを含む組成物が提供されるが、これは、少なくとも1つのベクター分子が単一の発現カセットのみを含むような、少なくとも2つの別個のベクター分子に関し、具体的には3つの別個のベクター分子に関して本明細書で前述したものである。次にこのベクター分子は、同時に又は連続的に非ヒト動物に移入することができる。
【0047】
さらに別の実施形態において、本発明は、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に本発明による遺伝子導入マウスを作成する方法を提供するが、この方法は、本発明による、本明細書で前述したベクター分子を標的動物に移入するステップを含む。
【0048】
本発明のさらに別の実施形態において、動物の特定組織における薬剤又は組成物の、断続的に適用される場合の発癌可能性を評価する方法が提供され、この方法は(i)本明細書で前述した本発明による遺伝子導入非ヒト動物を、評価する薬剤又は組成物に接触させるステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特定組織の細胞内に遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)処置された動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と、未処置の遺伝子導入動物又は対照薬剤で処置された遺伝子導入動物からの試料における遺伝子改変細胞の数とを比較するステップを含み、ここで、未処値の又は対照薬剤で処置された形質転換細胞の数に対する、処置された動物内の形質転換細胞の数の差が、試験化合物の発癌可能性を示す。
【0049】
本発明は、薬剤又は組成物によって誘導される発癌プロセスの可逆性を評価する方法をさらに含み、この方法は(i)本明細書で前述した、本発明による遺伝子導入非ヒト動物を、所定のタイム・スケジュールに従って断続的に、評価する薬剤又は組成物と接触させるステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特定組織の細胞内に遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)遺伝子導入動物を評価する薬剤又は組成物に接触させるステップを停止し、断続的に処置された動物からの試料内の遺伝子改変細胞の数を、処置が停止された後の所与の時間における動物からの試料内の遺伝子改変細胞の数と比較するステップと、(v)発癌プロセスの可逆性を決定するステップと、を含む。
【0050】
生物体の特定の組織又は細胞に対する何らかのタイプの損傷から生じる多くの疾患、例えば、タバコ煙により誘発される疾患、具体的にはタバコ煙により誘発される癌は、「後天性」の性質を有する。このタイプの疾患は、家族性疾患に対して、散発性疾患と呼ばれる。従って、これらの疾患の発生は微環境の複雑な状況による影響を受け、この影響が疾患を停止させ、減速させ、又は加速する可能性がある。さらに、特定のタバコ煙関連の疾患の場合、疫学的証拠は、これらの疾患が「可逆的」であると考えることができることを明瞭に示している。
【0051】
従って、本発明は、送達される投与量と断続的な曝露モードの両方を反映する動物モデルを提供する。特に、本発明による遺伝子導入非ヒト動物は、疾患誘発化合物又は組成物に対するモデル動物の断続的な曝露、具体的にはタバコ煙に対する曝露に続く導入遺伝子の活性化又は注目遺伝子の不活化によって生じる注目遺伝子の組織特異的、具体的には肺組織特異的にかつ時間的に制御される発現を可能にする。
【0052】
本発明の特定の実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物が提供され、ここで、組織特異的プロモーター、具体的には、例えばSP−A/C又はCC10プロモーターのような肺組織特異的プロモーターを含む発現カセットは、誘導性プロモーター、具体的には例えばタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分のような環境毒物によって誘導されるプロモーター、具体的にはcyp1A1プロモーターを含む別の発現カセットと組み合わされ、ここで両方のプロモーターは、エフェクタ遺伝子、具体的には例えばcre又はflpリコンビナーゼ遺伝子のようなリコンビナーゼ遺伝子の発現を駆動し、これが、癌、特に肺癌のような特定疾患の開始及び進行に関与する連続した段階を研究するための実現可能で強力なツールをもたらす。
【0053】
本発明による非ヒト動物モデル系内で適切に使用することができる肺組織特異的プロモーターは、それぞれSP−A/Cプロモーター又はCC10プロモーターである。サーファクタント・タンパク質A/Cは、肺組織特異的タンパク質であり、これは、細胞増殖、サイトカインの産生、細胞表面マーカーの発現、及び酸化活性の生成を含む、多数の免疫細胞機能を調節する。これはまた、適応的免疫反応に関与することができる。その肺組織特異性によって、サーファクタント・タンパク質A/Cプロモーターは、肺細胞内に遺伝子変化を導入するために幾つかの研究で使用されてきた(Harrod他、1998年、Wilmott他、1998年)。クララ細胞10タンパク質は、肺の呼吸細気管支及び終末細気管支内の非繊毛細気管支上皮細胞(クララ細胞)からの主産物である。マウスの気管、気管支及び細気管支(肺の誘導気道)の上皮細胞のおよそ50−70%がクララ細胞であるため、クララ細胞CC10タンパク質プロモーターは、幾つかの研究において肺組織特異的な方法で導入遺伝子を発現させるのに用いられている(Temann他、1998年、Fisher他、2001年)。
【0054】
本発明によるモデル系内で適切に使用することができる誘導性プロモーターは、cyp1A1プロモーターである。cyp1A1遺伝子は、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ系からの遺伝子である。シトクロムP450モノオキシゲナーゼ系は、環境からの化学的攻撃に対する主要な防衛を表し、タバコ煙のような、有害な薬剤への曝露に続いて生物体よって展開される適応反応の一部分を構成する。それらはまた、ステロイド・ホルモンの生合成及び脂肪酸の酸化のような、種々の本質的な「ハウスキーピング」機能にも関与する。しかしながら、シトクロムP450はまた、特定の化合物の有毒産物への活性化を触媒する可能性がある。これらの酵素は、化学的誘導剤によって高度に調節される。この点で特に興味深いのは、シトクロムP450 cyp1A1遺伝子である。この遺伝子は、構成的に発現しないが、タバコ煙及び/又はその成分、及び、ニコチン、多環式芳香族炭化水素(PAH)、テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)及びベータ−ナフトフラボン(BNF)等のような環境毒物に対する曝露により高度に誘導可能である。cyp1A1系の重要な利点は、本質的に肺内部に背景活動がないことであり、このことが、誘導剤の投与量及び性質を調節することによって遺伝子の発現レベル及び持続時間を微調整する機能をもたらす。実際に、幾つかの研究により、遺伝子導入マウスにおけるcyp1A1プロモーターが細胞特異的遺伝子調節のための極めて敏感なオン・オフ系であることが示された(Campbell他、1996年、Smith他、1995年、Ryding他、2001年)。cyp1A1の発現は、タバコ煙に対する曝露によって誘導されるばかりでなく、種々の環境毒物によっても誘導される。このことは、このタイプの条件付遺伝子導入マウスを、さらに毒性試験及び環境モニタリングのために発生させる可能性を開く。
【0055】
具体的には、本発明は、マウスのゲノム内に安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入非ヒト動物を提供し、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーター、具体的には例えばクララ細胞CC10タンパク質プロモーター、又はサーファクタント・タンパク質A/Cプロモーター、又は例えばRAIG1のようなタイプI及びタイプIIの両方の肺上皮細胞内の肺組織特異的タンパク質の発現を制御するプロモーターのような肺組織特異的プロモーターの制御下でエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、このエフェクタ・ポリペプチドの発現は第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、この発現産物は誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分によって誘導される、例えばcyp1A1プロモーター、のような誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化される。
別の実施形態において、本発明は、遺伝子導入非ヒト動物、具体的にはマウスのゲノム内に安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含むマウスを提供し、ここで、第2の発現カセットは、組織特異的プロモーター、具体的には例えばクララ細胞CC10タンパク質プロモーター又はサーファクタント・タンパク質A/Cプロモーターのような肺組織特異的プロモーターの制御下で、エフェクタ・ポリペプチド、具体的には例えばCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼのようなリコンビナーゼをコード化するポリヌクレオチドを含み、このエフェクタ・ポリペプチドの発現は第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、この発現産物は、誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分によって誘導される、例えばCyp1A1プロモーターのような誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化されるエフェクタ・ポリペプチド、具体的には、例えばCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼのようなリコンビナーゼであり、第2の発現カセットはさらに、さらなるポリヌクレオチドを含み、これは、非誘導状態において第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックするもので、具体的には終止コドン、又はポリアデニル化配列、又はレポーター遺伝子を含むポリヌクレオチドであり、これはエフェクタ・ポリペプチドの発現がブロックされるように発現カセット内に配置され、特にプロモーターとコード化するポリヌクレオチドとの間に配置され、そして、例えばloxP及びfrt認識配列のようなリコンビナーゼ認識配列によってフランキングされる(flanked)。
【0056】
更なる実施形態において、本明細書で前述した、本発明による遺伝子導入非ヒト動物は、そのゲノム内に注目遺伝子(GOI)、例えば腫瘍抑制遺伝子k−Ras12、Rb1、Trp53、WT1又はTSLC1のような腫瘍抑制遺伝子、或いは、例えばRASSFIA及びRASSFICを含むRas関連ドメイン・ファミリ1(RASSFI)のような3p21.3で示される領域内の染色体3の短腕に位置する腫瘍抑制遺伝子、或いは、本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子のような、注目遺伝子を含み、これは、非誘導状態で動物のゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化されるように動物のゲノムに組み込まれる。
【0057】
本発明の特定の実施形態において、第2のエフェクタ・ポリペプチドは、リコンビナーゼ、具体的にはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼであり、特にFLPリコンビナーゼであり、そして動物のゲノム内の注目遺伝子は、注目遺伝子の正常な発現に干渉しないリコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いポリヌクレオチド、具体的にはloxP又はfrt認識配列、特にfrt認識配列によってフランキングされる。
【0058】
誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分によって誘導されるプロモーター、及び組織特異的プロモーター、具体的には肺組織特異的プロモーターを含む本発明による二重プロモーター系は、組織特異的かつ制御された方法で、具体的には肺組織特異的かつタバコ煙が制御される方法で発癌の開始の制御を可能にする。
【0059】
一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物モデル、特にマウス・モデルを作成する方法が提供され、この方法は、
(a)第1の発現カセット及び第2の発現カセットを準備するステップを含み、ここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導により、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、そして第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、
この方法はさらに、
(b)第1及び第2の発現カセットを動物、具体的にはマウスのゲノムに導入するステップを含み、この導入するステップは
(i)第1及び第2の発現カセットをマウスの受精卵又は胚盤胞内に導入し、
発現カセットを含む受精卵を、偽妊娠のメスのマウスの卵管に移してこのマウスが妊娠するようにし、或いは代替的に、
発現カセットを含む胚を偽妊娠マウス内に移植して胚盤胞が出産予定日まで発育することを可能にする、ことにより実施され、
この方法はさらに、
(c)妊娠したメスのマウスが後代マウスを出産することを可能にし、
(d)ゲノム内に第1及び第2の発現カセットを安定に組み込んだ後代マウスを選択する、
ステップを含む。
【0060】
一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物モデル、具体的にはマウス・モデルを作成する方法が提供され、この方法は
(a)第1の発現カセット及び第2の発現カセットを準備するステップを含み、ここで、第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導によって、第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、そして第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、この第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、
この方法はさらに、
(b)第1の発現カセット及び第2の発現カセットをマウスの胚幹細胞の集団に移入し、
(c)相同組換えによってそのゲノムに組み込まれた第1及び第2の発現カセットを有するマウスの胚幹細胞を特定し、
(d)細胞をマウスの胚に挿入し、
(e)結果として得られた胚が成長することを可能にし、これにより本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入マウスを作成する、
ステップを含む。
【0061】
一実施形態において、本発明による、本明細書で前述した第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、両方が単一のベクター分子内に含まれる。
【0062】
本発明の別の実施形態において、本発明による、本明細書で前述した第1の発現カセット及び第2の発現カセットは、各々が別々のベクター分子上に存在し、移入される動物に一緒に又は逐次的に移すことができる。
【0063】
一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物モデル、特にマウス・モデルを作成する方法が提供され、この方法は
(a)リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、特にフロックス化(floxed)されたk−Ras12又はフロックス化されたp53及びRbのようなフロックス化された標的の注目導入遺伝子を含む発現カセットを準備するステップを含み、ここで、遺伝子は、Cre認識配列によってフランキングされ、
この方法はさらに、
(b)発現カセットを動物、具体的にはマウスのゲノムに導入するステップを含み、この導入するステップは
(i)第1及び第2の発現カセットをマウスの受精卵又は胚盤胞に導入し、
発現カセットを含む受精卵を、偽妊娠のメスのマウスの卵管に移してマウスが妊娠するようにし、或いは代替的に、
発現カセットを含む胚を偽妊娠マウス内に移植して胚盤胞が出産予定日まで発育することを可能にする、ことにより実施され、
この方法はさらに、
(c)妊娠したメスのマウスが後代マウスを出産することを可能にし、
(d)リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子をゲノムに安定に組み込んだ後代マウスを選択する、
ステップを含む。
【0064】
一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物モデル、特にマウス・モデルを作成する方法が提供され、この方法は
(a)リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、具体的にはフロックス化されたk−Ras12又はフロックス化されたp53及びRbのようなフロックス化された標的の注目導入遺伝子を含む発現カセットを準備するステップを含み、ここで、遺伝子は、Cre認識配列によってフランキングされ、
この方法はさらに、
(b)発現カセットをマウスの胚幹細胞の集団を移入し、
(c)相同組換えによってそのゲノムに組み込まれた発現カセットを有するマウスの胚幹細胞を特定し、
(d)細胞をマウスの胚に挿入し、
(e)結果として得られた胚が成長することを可能にして、本発明による、本明細書で前述したリコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子をゲノムに安定に組み込んだ遺伝子導入マウスを作成する、
ステップを含む。
【0065】
本発明の特定の実施形態において、第1のマウスA、即ち、リコンビナーゼ、具体的にはリコンビナーゼCreの散発的な発現が肺組織特異的であり、タバコ煙誘導性プロモーター、具体的にはcyp1A1プロモーターによって調節される、トランス活性化因子マウスが提供される。次いで、このマウスAは、ゲノム内にリコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、具体的にはフロックス化されたk−Ras12(Jackson他、2001年)又はフロックス化されたp53及びRb(Meuwissen他、2001年)のようなフロックス化された標的の導入遺伝子を含む第2のマウスBと交配され、ここで、遺伝子は、Cre認識配列によってフランキングされる。
【0066】
この交配に使用されるマウスA及びBを作成する方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Nagy他による「Manipulating the mouse embryos」、A laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、第3版(2002年)に記載されている。
【0067】
本発明の一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物モデル、具体的にはマウス・モデルを作成する方法が、本明細書で前述したように単一のベクター分子上に又はベクター組成物の一部分として含まれる本発明による3つの発現カセットの全てが、非ヒト動物に同時に又は連続的に移入されるという変更を伴って、本明細書で前述したように提供される。
【0068】
本発明の一実施形態において、遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特にマウスのゲノムに安定に組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入マウスが提供され、ここで、第2の発現カセットは、例えばクララ細胞CC10タンパク質プロモーター又はサーファクタント・タンパク質A/Cプロモーターのような組織特異的プロモーター、或いは例えばRAIG1のようなタイプI及びタイプIIの両方の肺上皮細胞内で肺組織特異的タンパク質の発現を制御するプロモーター、の制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックしてエフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列とを含み、またここで、第1の発現カセットは、誘導により第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、第2の発現カセットからブロックを除去して第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化する誘導性プロモーター、具体的にはタバコ煙又は1つ若しくはそれ以上のタバコ煙成分によって誘導されるプロモーター、例えば、cyp1A1プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、注目遺伝子(GOI)、例えば、腫瘍抑制遺伝子k−Ras12、Rb1、Trp53、WT1若しくはTSLC1のような腫瘍抑制遺伝子、或いは、RASSFIA及びRASSFICを含むRas関連ドメイン・ファミリ1(RASSFI)のような3p21.3で示される領域内の染色体3の短腕上に位置する腫瘍抑制遺伝子、或いは本発明の範囲内で適切に使用することができる任意の他の遺伝子のような注目遺伝子、とを含み、この注目遺伝子は、動物のゲノムに組み込まれ、注目遺伝子の正常な発現に干渉しないリコンビナーゼ・タンパク質の認識部位を含む短いポリヌクレオチド、具体的にはloxP又はfrt認識配列、特にfrt認識配列によってフランキングされ、その結果、GOIは、非誘導状態で動物のゲノムから活発に発現するが、第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化される。
【0069】
二重プロモーター系及びフロックス化された標的遺伝子を保有する交配の子を用いて、タバコ煙により誘発される疾患の分子機構を研究することができる。これらのマウスにおける発癌の開始は、タバコ煙曝露の時間に対して制御することができる。リコンビナーゼFlp(従って、同様にCre)はタバコ煙によって散発的又は時間的に誘導されるだけとなるので、遺伝子の突然変異又は異常は、曝露の時間毎に幾つかの近位細胞においてのみ生じ、曝露の停止後に遺伝子発現が回復する可能性があり、このことは、喫煙者におけるタバコ煙の断続的な曝露を反映する。サーファクタント・タンパク質A/C又はクララ細胞10タンパク質は肺組織内でのみ発現するので、リコンビナーゼCreの発現、それ故に遺伝子異常は、肺組織内で組織特異的に制御される。トランス活性化因子マウスを用いて、遺伝子発現が時間的に及び肺組織特異性によってノックダウン又はダウン調節される遺伝子導入マウスを作成することもできる。従って、本発明の一実施形態において、薬剤又は組成物に対する断続的な曝露による特定の組織内での薬剤又は組成物の発癌の可能性を評価する方法が提供され、この方法は(i)遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入マウスを、評価される薬剤又は組成物に断続的に曝露して組織特異的な方法でエフェクタ・ポリペプチドを散発的又は時間的に誘導するステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特定の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)処置された動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、未処置の遺伝子導入動物又は対照薬剤で処置された遺伝子導入動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較するステップとを含み、ここで、処置された動物における形質転換細胞の数の、未処置の又は対照薬剤で処置された動物における形質転換細胞の数に対する差が、試験化合物の発癌可能性を示す。
【0070】
本発明の特定の態様において、タバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分に対する断続的な曝露による、肺組織内でのタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分の発癌可能性を評価する方法が提供され、この方法は(i)遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入マウスを、評価されるタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分に断続的に曝露して肺組織特異的な方法でエフェクタ・ポリペプチドを散発的又は時間的に誘導するステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特定の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)処置された動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、未処置の遺伝子導入動物又は対照薬剤で処置された遺伝子導入動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較するステップとを含み、ここで、処置された動物の形質転換細胞の数の、未処置の又は対照薬剤で処置された動物の形質転換細胞の数に対する差が、タバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分の発癌可能性を示す。
【0071】
本発明の別の態様において、薬剤又は組成物によって誘導される発癌プロセスの可逆性を評価する方法が提供され、この方法は(i)所定のタイム・スケジュールに従って遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入マウスを、評価される薬剤又は組成物に断続的に曝露するステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特定の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)評価される薬剤又は組成物に対する遺伝子導入動物の曝露を停止するステップと、(v)断続的に処置された試験動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、処置が停止された後の所与の時間における動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較するステップと、(vi)発癌プロセスの可逆性を決定するステップとを含む。
【0072】
さらに別の実施形態において、本発明は、肺組織内でタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分によって誘導される発癌プロセスの可逆性を評価する方法に関し、この方法は(i)所定のタイム・スケジュールに従って遺伝子導入非ヒト動物、具体的には遺伝子導入げっ歯動物、特に本発明による、本明細書で前述した遺伝子導入マウスを、評価されるタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分に断続的に曝露するステップと、(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して動物の特的の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こすステップと、(iii)遺伝子異常を特定して決定するステップと、(iv)評価されるタバコ煙又は少なくとも1つのタバコ煙成分に対する遺伝子導入動物の曝露を停止するステップと、(v)断続的に処置された試験動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、処置が停止された後の所与の時間における動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較するステップと、(vi)発癌プロセスの可逆性を決定するステップとを含む。
【0073】
従って、本発明による遺伝子導入非ヒト動物モデルは、空間特異的及び時間特異的な方法で、タバコ煙により誘発される発癌又は他の疾患における特定の遺伝的又は後成的な異常の重要性を研究するのに使用することができる。
【実施例1】
【0074】
Flpの誘導性発現のための発現カセット1の構築
Flpの誘導性発現のために、ベクターがCampbell他(1996年)又はRyding他(2001年)に記載されているような標準的なrDNA技術を用いて構築される。flp導入遺伝子は、Flpリコンビナーゼのコード配列が誘導性プロモーターの制御下で発現するように、誘導性cyp1A1プロモーター及びメタロチオニン(MT−1)ポリアデニル化配列と動作可能に連結される。
【0075】
Flp cDNAは、プラスミド706−FLP(Gene Bridges)からのPCRによって増幅され、Creリコンビナーゼ配列を置き換えるpBS185(Invitrogen)にクローン化されて、pBS185−FLPを生ずる。CMVプロモーター、FLPコード配列及びマウスMT−1ポリアデニル化部位を保有するpBS185−FLPは、Spel及びXholによってさらに消化されて、CMVプロモーター配列を排出する。エクソン1の領域とエクソン2の部分とを含むラットCyp1A1プロモーターの11.5−kbのフラグメントが、pAHIr1−LacZから分離され、pBS185−FLPにクローン化される。14.4−kbのCyp1A1−Flp導入遺伝子フラグメントが、pBS185−Cyp1A1−FlpベクターのHincll及びKpnl消化によって生成される。遺伝子導入Cyp1A1−Flp動物が、Cyp1A1−Flp導入遺伝子を有する受精した卵母細胞(C57BL6 F1動物)の前核マイクロ・インジェクションによって生成される。結果として得られた子は、尾の生検から作成されたゲノムDNA上のPCRによって遺伝子型が決定される。
ベクター構築物の概略図が、図1に与えられる。
【実施例2】
【0076】
Creの条件付発現のための発現カセット2の構築
肺組織内でのCreの条件付発現のために、肺組織特異的プロモーターSP−Cが、例えばHarrod他(1998年)又はWilmott他(1998年)又はBertin他(2005年)により記載されたような標準的なrDNA技術を用いてFlp標的配列frtにより次にCreリコンビナーゼのコード配列によってフランキングされる3つのMT−1ポリアデニル化配列に融合される。
【0077】
pBS185は、Spel及びXholによって消化されて、CMVプロモーター配列を排出する。3.7kbのヒトSP−Cプロモーターが増幅され、pBS185にクローン化されて、SP−C−Creベクターを生成する。3つの終止コドン配列(小文字)を包囲する同じ配向の2つのfrt部位(大文字)を含有する106bpのオリゴヌクレオチド(5’−GAAGTTCCTATTCCGAAGTTCCTATTCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTCtgatagtaaGAAGTTCCTATTCCGAAGTTCCTATTCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC−3’)(SEQ ID NO:1)及び相補的なオリゴ配列が合成され、アニールされ、平滑末端クローン化されてSP−C−Creベクターになる。SPC−frt−STOP−frt−Creベクターが、Hincll及びKpnl消化によって直線化され、SPCプロモーター、frtによりフランキングされた終止コドン配列、Creリコンビナーゼのコード配列、及びマウスMT−1ポリアデニル化部位を含む7.6−kbのフラグメントが単離され、精製されて、受精した卵母細胞に注入される(C57BL6 F1動物)。子は、尾の生検から作成されたゲノムDNA上のPCRによって遺伝子型が特定される。
【0078】
ベクター構築物の概略図が図1に与えられる。
図1BのpSP−Cプロモーターは、SP−Aのプロモーター、クララ細胞10タンパク質のプロモーター、甲状腺転写因子1(TTF−1)のプロモーター、T1アルファのプロモーター、アクアポリン5のプロモーター、又はRAIG−1遺伝子のプロモーターとすることができる。
【実施例3】
【0079】
遺伝子導入マウスAの作成
発現カセット1及び2が、同時に又は連続的に、標準的な移入技術を用いて第1のマウスA、即ちトランス活性化因子マウスに移入される。マウスAは、リコンビナーゼ、具体的にはリコンビナーゼCreの散発的な発現を、肺組織特異的な方法で、そしてタバコ煙誘導性プロモーター、具体的にはcyp1A1プロモーターによって調節されるようにもたらす。
この配置において、Flp発現は、タバコ煙によって誘導することができ、3つのMT−1ポリアデニル化配列の欠失、及びそれ故に肺組織内でのCreの発現をもたらす。
【0080】
遺伝子導入マウスAは、Cp1A1−FlpマウスとSP−C−frt−STOP−frt−Creマウスの交配から得られる。この配置において、Flp発現は、タバコ煙によって誘導することができ、終止カセット配列の欠失、及びそれ故に肺組織内でのCreの発現をもたらす。
【実施例4】
【0081】
注目遺伝子(GOI)を含むベクターのマウスBへの移入
k−Ras12(Jackson他、2001年)又はp53及びRb(Meuwissen他、2001年)のような注目遺伝子を含むベクターが、例えば、Kwak他(2004年)により記載されたように構築され、標準的な移入技術を用いて第2のマウスBに移入されて、リコンビナーゼ認識配列による標的の注目遺伝子、具体的にはフロックス化されたk−Ras12又はフロックス化されたp53及びRbのようなフロックス化された標的の導入遺伝子をそのゲノム内に含むマウスを作成し、ここで、遺伝子は、Cre認識配列によってフランキングされる。
【実施例5】
【0082】
マウスAとマウスBの交配
マウスAとマウスBを交配して、子を作成する。交配の子は、二重プロモーター系及びフロックス化された標的の注目遺伝子を保有し、これを用いて、タバコ煙により誘発される疾患の分子機構を研究することができる。これらのマウスにおける発癌の開始は、タバコ煙に対する曝露の時間に対して制御することができる。リコンビナーゼFlp(それ故、同様にCre)はタバコ煙によって散発的又は時間的にのみ誘導されるので、遺伝子突然変異又は異常は、曝露の時間毎に幾つかの近位細胞においてのみ生じ、曝露の停止後に遺伝子発現が回復する可能性があり、このことは、喫煙者におけるタバコ煙の断続的な曝露を反映する。サーファクタント・タンパク質A/C又はクララ細胞10タンパク質は肺組織内でだけ発現するので、リコンビナーゼCreの発現、及びそれ故に遺伝子異常は、肺組織内で組織特異的に制御される。
【0083】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定に動物のゲノムに組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含む遺伝子導入動物であって、
前記第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、前記第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、その発現産物は誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化されることを特徴とする、
遺伝子導入動物。
【請求項2】
安定に動物のゲノムに組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含み、
前記第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、オプションとして、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックして前記エフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列と、を含み
前記第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、前記誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導、及び前記第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現により、前記第2の発現カセットからブロックを除去して前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化する、
ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子導入動物。
【請求項3】
安定に動物のゲノムに組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含み、
前記第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下でエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、前記エフェクタ・ポリペプチドの発現は、前記第1の発現カセットの発現産物によって活性化され、その発現産物は誘導性プロモーターの制御下でポリヌクレオチドによってコード化され、
前記遺伝子導入動物は、そのゲノム内に、注目遺伝子(GOI)を含み、この遺伝子は、活性状態で動物のゲノムに組み込まれ、及び/又は前記ゲノムから活発に発現するが、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化される、
ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子導入動物。
【請求項4】
安定に動物のゲノムに組み込まれた第1及び第2の発現カセットを含み、
前記第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、オプションとして、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックして前記エフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列と、を含み
前記第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、前記誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導、及び前記第1のエフェクタ・ポリペプチドの発現により、前記第2の発現カセットからブロックを除去して前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現を活性化し、
前記遺伝子導入動物は、そのゲノム内に注目遺伝子(GOI)を含み、この遺伝子は、非誘導状態で動物のゲノムから活発に発現するが、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現により不活化されるように動物のゲノムに組み込まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の遺伝子導入動物。
【請求項5】
前記第1の発現カセット内の前記エフェクタ・ポリペプチドの発現を制御する前記誘導性プロモーターは、強く誘導され且つ本質的に背景活動を生じないオン/オフ型プロモーター、具体的にはシトクロムP450モノオキシゲナーゼの発現を制御するプロモーター又はcyp1A1遺伝子の発現を制御するプロモーターであり、前記誘導性プロモーターは、誘導化合物又は組成物、具体的にはタバコ煙、又は少なくとも1つのタバコ煙成分、例えば、ニコチン、ベンゾ(a)ピレン(BaP)のような多環式芳香族炭化水素(PAH)、並びにテトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)及びベータ−ナフトフラボン(BNF)のような塩素化ダイオキシン及びフラン等の群から、個々に又は前記成分の1つ又はそれ以上の異なる組み合わせで選択される組成物、の投与量及び性質に依存することを特徴とする、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の遺伝子導入動物。
【請求項6】
前記組織特異的プロモーターは、肺組織特異的プロモーター、具体的には肺組織特異的タンパク質、特に
a)例えばクララ細胞10タンパク質、具体的にはCC10タンパク質プロモーターのような呼吸細気管支及び終末細気管支内の非繊毛細気管支上皮細胞(クララ細胞)内で、
b)例えばサーファクタント・タンパク質A/Cのような肺胞上皮細胞内で、
c)例えばRAIG1のようなタイプIとタイプIIの両方の肺上皮細胞内で、
特異的に発現するタンパク質の発現を制御するプロモーターである、
ことを特徴とする前記請求項の何れか1項に記載の遺伝子導入動物。
【請求項7】
前記第1及び第2のエフェクタ・ポリペプチドは、リコンビナーゼ、具体的にはCreリコンビナーゼ又はFlpリコンビナーゼであることを特徴とする、前記請求項の何れか1項に記載の遺伝子導入動物。
【請求項8】
同じベクター分子の部分として第1及び第2の発現カセットを含むベクター分子であって、
前記第1の発現カセットは、誘導性プロモーターの制御下で第1のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを含み、前記誘導性プロモーターは、誘導剤又は組成物による誘導により、前記第1のエフェクタ・ポリペプチドを発現させ、
前記第2の発現カセットは、組織特異的プロモーターの制御下で第2のエフェクタ・ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドと、オプションとして、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現をブロックして前記エフェクタ・ヌクレオチドの発現が非誘導状態におけるこのプロモーターから生じないようにする更なるヌクレオチド配列と、を含み、前記第2のエフェクタ・ポリペプチドの発現は、前記第1の発現カセットの発現産物によって活性化される、
ことを特徴とするベクター分子。
【請求項9】
a)前記第1の発現カセット内の前記エフェクタ・ポリペプチドの前記発現を制御する前記誘導性プロモーターは、強く誘導され且つ本質的に背景活動を生じないオン/オフ型のプロモーター、具体的にはシトクロムP450モノオキシゲナーゼの発現を制御するプロモーター又はcyp1A1遺伝子の発現を制御するプロモーターであり、前記誘導性プロモーターは、誘導化合物又は組成物、具体的にはタバコ煙、又は少なくとも1つのタバコ煙成分、例えば、ニコチン、ベンゾ(a)ピレン(BaP)のような多環式芳香族炭化水素(PAH)、並びにテトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)及びベータ−ナフトフラボン(BNF)のような塩素化ダイオキシン及びフラン等の群から、個々に又は前記成分の1つ又はそれ以上の異なる組み合わせで選択される組成物、の投与量及び性質に依存し、
b)前記組織特異的プロモーターは、肺組織特異的プロモーター、具体的的には肺組織特異的タンパク質、特に
i)例えばクララ細胞10タンパク質、具体的にはCC10タンパク質プロモーターのような呼吸細気管支及び終末細気管支内の非繊毛細気管支上皮細胞(クララ細胞)内で、
ii)例えばサーファクタント・タンパク質A/Cのような肺胞上皮細胞内で、
iii)例えばRAIG1のようなタイプIとタイプIIの両方の肺上皮細胞内で、
特異的に発現するタンパク質の発現を制御するプロモーターである、
ことを特徴とする請求項8に記載のベクター分子。
【請求項10】
(i)標的動物に請求項8及び請求項9に記載のベクター分子を移入するステップを含むことを特徴とする、前記請求項の何れか1項に記載の遺伝子導入動物を作成する方法。
【請求項11】
動物の特定の組織における薬剤又は組成物の発癌可能性を、それらが断続的に適用される場合に評価する方法であって、
(i)請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の前記遺伝子導入動物を、評価される前記薬剤又は組成物に接触させ、
(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して前記動物の特定の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こし、
(iii)前記遺伝子異常を特定して決定し、
(iv)前記処置された動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、未処置の遺伝子導入動物又は対照薬剤で処置された遺伝子導入動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較する、
ステップを含み、
前記処置された動物における形質転換細胞の数の、前記未処置の又は対照薬剤で処置された動物における形質転換細胞の数に対する差が、試験化合物の発癌可能性を示す、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
薬剤又は組成物によって誘導される発癌プロセスの可逆性を評価する方法であって、
(i)請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の前記遺伝子導入動物を、所定のタイム・スケジュールに従って断続的に、評価される前記薬剤又は組成物に接触させ、
(ii)注目遺伝子の発現をブロック又は不活化して前記動物の特定の組織の細胞内で遺伝子異常を引き起こし、
(iii)前記遺伝子異常を特定して決定し、
(iv)前記遺伝子導入動物を、評価される前記薬剤又は組成物に接触させるステップを停止し、前記断続的に処置された動物からの試料における遺伝子改変細胞の数を、処置が停止された後の所与の時間における動物からの試料における遺伝子改変細胞の数と比較し、
(v)前記発癌プロセスの可逆性を決定する、
ステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−512772(P2010−512772A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542096(P2009−542096)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064433
【国際公開番号】WO2008/074880
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(596060424)フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム (222)
【Fターム(参考)】