説明

避雷装置

【解決手段】雷等から建造物等や設備機器等の被保護体を保護する避雷装置において、突針1aを有する避雷突針部材1と電極体2aを有する避雷極部材2とから構成されているとともに、避雷極部材2を、避雷突針部材1より、高い位置に設置したものである。
【効果】突針を有する避雷突針部材と電極体を有する避雷極部材とから構成されているとともに、避雷極部材を、避雷突針部材より、高い位置に設置したので、落雷を伴うような大電流の帰還電流が流れにくくなり、落雷に伴う大地の電位上昇を抑制することができ、落雷による被保護体の損傷を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雷害から建造物や設備機器等の被保護体を保護するための避雷装置に関するものであり、特に、被保護体等周辺の落雷を避けるための避雷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中に発生した雷雲は発達すると、雷雲の雲低から先行放電が大地に向かって発生する。この先行放電が進展すると、大地表面側から、先行放電の電荷と反対の電荷を有するストリーマーが上昇する。そして、先行放電とストリーマーが結合すると、大地と雷雲との間に放電路が形成され、この放電路を介して、雷雲と大地の間に大電流が流れ、落雷が発生することになる。
【0003】
従来の避雷装置は、建造物を含む設備機器等の被保護体より高所位置に配置された先端が尖った突針で落雷を受けて、大電流を、大地に吸収するようにして、被保護体に落雷が生じないように構成されている。
【0004】
落雷を、被保護体より高所位置に配置した突針で受け、被保護体を保護するようにした避雷装置が、一例として、特許文献1に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−261495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
落雷を、被保護体より高所位置に配置した突針で受けて、雷雲と大地の間の放電破壊による落雷を吸収する従来の避雷装置は、被保護体への直撃雷を回避することはできても、落雷自体を無くすことは極めて困難である。
【0007】
ところで、日本工業規格(JIS規格)に、避雷突針の設置における設計手法として、保護角法と近年新たに規格化された回転球体法とが挙げられている。
【0008】
しかしながら、保護角法の設計手法で設計した突針を有する避雷突針部材であっても、必ずしも、被保護体の保護が充分ではないという問題があった。そのため、回転球体法が新規に取り入れられたが、この新たな設計手法である回転球体法で再計算すると、保護角法で計算した場合に比較して、更に、避雷突針部材を、高所位置に設置することが必要となり、従って、避雷装置の設置費用がかさみ、避雷装置の建設コストが高くなるという問題があった。
【0009】
更に、避雷突針部材が落雷を受けて、電流を大地に吸収させる際に、大地電位上昇が高電位となり、この大地の高電位は、被保護体に悪影響を及ぼす可能性を有していた。そのため、大地の接地抵抗を、低抵抗値とする必要があり、従って、避雷装置の建設コストが、更に高くなるという問題があった。
【0010】
更にまた、被保護体としての建造物の側壁と屋根(屋上)等により形成される角部分や建造物に形成されている鋭角部分に、落雷が発生するという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、発達した雷雲が、被保護体に近づいた際に、落雷の発生を抑制し、大地電位上昇、即ち、大地の高電圧の発生を抑制して、落雷による被保護体への影響を最小限にするとともに、被保護体としての建造物の角部分や鋭角部分への落雷を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した目的を達成するために、第1には、雷等から建造物等や設備機器等の被保護体を保護する避雷装置が、突針を有する避雷突針部材と電極体を有する避雷極部材とから構成されているとともに、避雷極部材を、避雷突針部材より、高い位置に設置したものであり、第2には、突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とを、同一電位に接地したものであり、第3には、突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とを、共有接地したものであり、第4には、建造物等の被保護体の角部分の近傍に、電極体を有する避雷極部材を設置したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述した構成を有しているので、以下に記載する効果を奏することができる。
【0014】
避雷装置を、突針を有する避雷突針部材と電極体を有する避雷極部材とから構成するとともに、避雷極部材を、避雷突針部材より、高い位置に設置したので、雷雲が被保護体に近づくと、雷雲から、避雷突針部材に向けて先行放電が発生し、また、避雷突針部材から、雷雲に向かってストリーマーが発生しようとするが、避雷極部材の電極体が、ストリーマーの発生を抑制させるため、雷雲からの先行放電と避雷突針部材の電荷とが結合し難く、結果として、落雷を伴うような大電流の帰還電流が流れにくくなり、落雷に伴う大地の電位上昇を抑制することができ、落雷による被保護体の損傷を最小限に抑えることができる。
【0015】
上述したように、帰還電流の発生に極めて至り難いのであるが、万が一、帰還電流の発生に至った場合について説明する。帰還電流の発生に至った場合、帰還電流は、突針を有する避雷突針部材を介して、大地に設置された接地極に吸収されるが、この時点では、避雷極部材の電極体の作用により、雷雲のエネルギーが減少しているため、落雷の帰還電流が小さくなり、従って、大地の電位上昇を抑制することができ、被保護体の損傷を最小限に抑えることができる。
【0016】
突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とを、同一電位に接地したので、避雷突針部材と避雷極部材との間に、差電圧がなく、避雷突針部材と避雷極部材とが、一体的に雷雲に作用し、従って、落雷を効果的に回避することができ、落雷に伴う両接地極間の差電圧の発生を防止することができる。
【0017】
突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とを、共有接地したので、例えば、既設の突針を有する避雷突針部材の接地極を活用すれば、電極体を有する避雷極部材の接地極を、新たに設置することを省略することができ、従って、接地極の設置コストを低く抑えることができるとともに、避雷突針部材と避雷極部材とを、同一電位に接地したので、両接地極間の差電圧が抑制され、避雷突針部材と避雷極部材とが、一体的に雷雲に作用し、従って、落雷を効果的に回避することができ、落雷に伴う両接地極間の差電圧の発生を防止することができる。
【0018】
建造物等の被保護体の角部分の近傍に、避雷広面部を有する避雷極部材を設置したので、被保護体の角部分への落雷を回避することができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明の趣旨を越えない限り、何ら、実施例に限定されるものではない。
【0020】
先ず最初に、図1及び図2を用いて、本発明の避雷装置について説明する。
【0021】
1は、突針1aを有する避雷突針部材であり、避雷突針部材1は、適当な導電材料からなる支持部1bの先端部に取り付けられている。避雷突針部材1は、高層建造物等の落雷から保護する必要がある被保護体Aの高い位置に取り付けられており、避雷突針部材1により、落雷を受けるように構成されている。
【0022】
E1は、大地Lに設置された接地極であり、ケーブル等の導電体W1の一端を、避雷突針部材1に接続するとともに、導電体W1の他端を、大地Lに設置された接地極E1に接続することにより、避雷突針部材1が、大地Lに接続されている。
【0023】
2は、避雷突針部材1より高い位置に設置された避雷極部材であり、避雷極部材2は、金属製の電極体2aと導電材料からなる支持部2bとを有しており、電極体2aは、内部が空洞の略半球体状に形成されている。支持部2bは、電極体2aの内面中央部に垂設されており、避雷極部材2も、避雷突針部材1と同様に、高層建造物等の被保護体Aの高い位置に取り付けられる。
【0024】
E2は、大地Lに設置された接地極であり、ケーブル等の導電体W2の一端を、避雷極部材2に接続するとともに、導電体W2の他端を、大地Lに設置された接地極E2に接続することにより、避雷極部材2が、大地Lに接続されている。
【0025】
次に、避雷突針部材1より高い位置に設置された避雷極部材2の動作について説明する。
【0026】
被保護体Aに設置された避雷極部材2に、大気中の成熟した雷雲が近づくと、雷雲の電荷に誘因されて、雷雲と反対の電荷を有する大地Lの地表面の電荷が、導電体W2を介して、避雷極部材2の広い放電面を有する電極体2aに分布することになる。そして、避雷極部材2の電荷が、一定のレベルにある場合には、放電は起きないが、所定のレベルに達すると、雷雲から避雷極部材2の電極体2aに向かって先行放電が発生し、それに伴い、避雷極部材2の電極体2aから雷雲に向かってストリーマーが発生することになるが、導電体W2が持つインピーダンスによって、大地Lの地表面から導電体W2を介して上昇する電荷量が制限されるとともに、避雷極部材2の電極体2aの雷雲と対向する面が、広い面積を有する放電面部として形成されているので、多くの放電点から、一度に多量の電荷が、弱い勢いで放電することになる。従って、避雷極部材2の電極体2aから雷雲に向かう先行放電の延伸距離が短く、雷雲に届き難い。よって、先行放電が、雷雲の電荷と結合するようなことがなく、落雷現象の発生を抑制することができる。
【0027】
図3には、図1に示されている実施例とは別の実施例が示されており、この実施例においては、上述した接地極E1と接地極E2とを、接地導電体W3により接続し、避雷突針部材1の接地極E1と避雷極部材2の接地極E2とを同電位とするようにした構成が示されている。
【0028】
図4には、図1に示されている実施例とは更に別の実施例が示されている。この実施例においては、一端が、避雷突針部材1に接続され、他端が、ビルディング等の建造物(被保護体A)に接続された導電体W4及び一端が、被保護体Aに接続され、他端が、大地Lに設置された構造体接地極E3に接続されている導電体W5が配設されており、また、一端が、避雷極部材2に接続され、他端が、ビルディング等の建造物(被保護体A)に接続された導電体W6及び一端が、被保護体Aに接続され、他端が、大地Lに設置された構造体接地極E3に接続されている導電体W7が配設されている。
【0029】
本発明においては、避雷極部材2は、避雷極部材2の電極体2aが、避雷突針部材1の突針1aの位置よりも高くなるように設置されている。また、図5に示されているように、避雷突針部材1の突針1aは、避雷極部材2を構成する電極体2aの上面に接する所定の接線T1と避雷極部材2の支持部2bの中心垂直線C1とのなす角度が、略60度(60°)の範囲内に入るように設置されている。更に、避雷極部材2の支持部2bの中心垂直線C1と避雷突針部1の支持部1bの中心垂直線C2との距離D1が、略10mの範囲内に、避雷極部材2を設置することが好ましい。
【0030】
また、避雷極部材2の内部が空洞の略半球体状に形成されている電極体2aの半径は、略50mm以上とすることが好ましい。避雷極部材2の電極体2aの半径が、大きいほど、雷雲に対して、多くの放電路が形成されることとなるが、避雷極部材2の電極体2aの半径が、略50mm以下であると、避雷極部材2の電荷が、雷雲に作用し難いく、また、避雷極部材2の電極体2aの半径が、略50mm以上になると、避雷極部材2の製造コストや設置コストが上昇することになる。
【0031】
避雷極部材2は、図6に示されているように、建造物Aの側壁a1と屋根(屋上)a2との角部分A1の近傍に設置することが好ましい。避雷極部材2を、建造物Aの角部分A1から離れた位置に設置すると、建造物Aの角部分A1に、電界が集中し、落雷が発生しやすくなるので、避雷極部材2を、建造物Aの角部分A1の近傍に設置することにより、建造物Aの角部分A1への落雷を回避することができる。なお、避雷突針部材1の個数と建造物Aの角部分A1の近傍に設置する避雷極部材2の個数とは、1対1の関係でなく、適宜、設定することができる。
【0032】
更に、図1に示されている実施例には、1個の避雷突針部材1に対して、1個の避雷極部材2が設置されている例が示されているが、1個の避雷突針部材1に対して、複数個の避雷極部材2を設置することができる。
【0033】
図7において、W8は、避雷突針部材1と避雷極部材2とを、これらの近傍で接続する避雷部導電体であり、避雷部導電体W8により、避雷突針部材1と避雷極部材2とを接続することで、上述したように、大地Lに設置した避雷突針部材1の接地極E1と避雷極部材2の接地極E2とを、大地L内で接続する必要がなく、従って、避雷装置の施工コストを低減することができる。また、既設の避雷突針部材1の導電体W9を介して接続された既設の接地極E4を活用することにより、接地極を新たに施工することなく、従って、避雷装置の施工コストを、更に低減することができる。
【0034】
図8には、支持部材Sを、垂直部s1と、垂直部s1から分岐した分岐部s2とにより構成し、垂直部s1に、避雷極部材2を取り付け、また、分岐部s2に、避雷突針部材1を取り付けるようにした例が示されている。この場合にも、上述したと同様に、避雷突針部材1を、避雷極部材2より、低い位置に取り付けることになる。このように、垂直部s1と分岐部s2とを有する支持部材Sを設置するだけで、避雷突針部材1と避雷極部材2とを、等電位に接続することができるとともに、避雷装置の施工を簡素化することができ、施工作業の更なる省力化とコストの低減化を実現することができる。
【0035】
以下に、高圧放電試験(フランスのNFC17−102に準拠した平行平板による高圧放電試験)を行った結果について述べる。
【0036】
第1に、突針1aを有する避雷突針部材1のみを、平行平板間に設置し、平行平板間に、最大700KVの電圧印加を繰り返したところ、当然のことながら、ほぼ100%の確率で、避雷突針部材1の突針1aへの放電が確認された。
【0037】
第2に、電極体2aを有する避雷極部材2のみを、平行平板間に設置し、平行平板間に、最大700KVの電圧印加を繰り返したところ、95%以上の確率で、電極体2aへ放電しないことが確認された。
【0038】
第3に、突針1aを有する避雷突針部材1と電極体2aを有する避雷極部材2とを、0.5m程度の間隔を開け、且つ、双方の高さを同じくして、突針1aを有する避雷突針部材1と電極体2aを有する避雷極部材2とを、平行平板間に設置し、平行平板間に、最大700KVの電圧印加を繰り返したところ、避雷突針部材1の突針1aへの放電は確認されたが、避雷極部材2の電極体2aへの放電は確認されなかった。
【0039】
第4に、突針1aを有する避雷突針部材1と電極体2aを有する避雷極部材2とを、0.5m程度の間隔を開け、且つ、避雷突針部材1の突針1aの高さを、避雷極部材2の電極体2aの高さより、所定の分だけ低くするとともに、避雷極部材2の電極体2aの保護角60度の範囲に、避雷突針部材1の突針1aが入るようにして、突針1aを有する避雷突針部材1と電極体2aを有する避雷極部材2とを、平行平板間に設置し、平行平板間に、最大700KVの電圧印加を繰り返したところ、避雷極部材2の電極体2aへの放電は確認されず、また、避雷突針部材1の突針1aへの放電も確認されなかった。
【0040】
このことは、電極体2aを有する避雷極部材2が雷雲に作用して、避雷突針部材1の突針1aへの落雷を回避できることが実証されたものであり、従って、落雷を大幅に低減できるとともに、大地電位上昇を大幅に回避することができ、従って、被保護体Aの損傷を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の避雷装置の正面図である。
【図2】図2は、本発明の避雷装置を構成する避雷極部材の拡大正面図である。
【図3】図3は、本発明の別の実施例の避雷装置の正面図である。
【図4】図4は、本発明の更に別の実施例の避雷装置の正面図である。
【図5】図5は、本発明の避雷装置を構成する避雷突針部材と避雷極部材との配置関係を示す正面図である。
【図6】図6は、本発明の更にまた別の実施例の避雷装置の概略斜視図である。
【図7】図7は、本発明のなお更に別の実施例の避雷装置の正面図である。
【図8】図8は、本発明の避雷装置を構成する避雷突針部材と避雷極部材とを被保護体に取り付けるための支持部材の拡大正面図である。
【符号の説明】
【0042】
A・・・・・・・・・・・被保護体
E1〜E4・・・・・・・接地極
L・・・・・・・・・・・大地
W1〜W9・・・・・・・導電体
1・・・・・・・・・・・避雷突針部材
1a・・・・・・・・・・突針
2・・・・・・・・・・・避雷極部材
2a・・・・・・・・・・電極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突針を有する避雷突針部材と電極体を有する避雷極部材とから構成されているとともに、避雷極部材が、避雷突針部材より、高い位置に設置されていることを特徴とする避雷装置。
【請求項2】
突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とが、同一電位に接地されていることを特徴とする請求項1に記載の避雷装置。
【請求項3】
突針を有する避雷突針部材の接地極と電極体を有する避雷極部材の接地極とを、共有接地としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の避雷装置。
【請求項4】
建造物等の被保護体の角部分の近傍に、電極体を有する避雷極部材が設置されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の避雷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−93936(P2009−93936A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264080(P2007−264080)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000130835)株式会社サンコーシヤ (64)
【Fターム(参考)】