説明

還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェイトの安定化方法

本発明の目的は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェイト(以下、NAD(P)Hと略す)の安定化方法、および該方法により安定化されたNAD(P)Hを含有する製剤を提供することにある。NAD(P)Hを安定化する方法として、アスタキサンチンをNAD(P)Hに添加する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと略す)または還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェイト(以下、NADPHと略す)の安定化方法、およびNADHまたはNADPH〔以下、NDA(P)Hと略す〕を含有する製剤に関する。
【背景技術】
NADHは、高血圧(US5668114)、パーキンソン氏病(US5019561)、アルツハイマー病(US5444053)に有効であることが知られている。また、NADPHは、高血圧(US5668114)、パーキンソン氏病(US5019561)に有効であることが知られている。
NAD(P)Hはこれら成人病の予防用サプリメント(補助栄養剤)に広く用いられている。
しかし、NAD(P)Hは常温で不安定であるため、製剤化するためには何らかの工夫が行われることが多い。
NAD(P)Hを含有する製剤においてNAD(P)Hの安定性を向上させるためにポリビニルピロリドン、炭酸水素ナトリウム、トコフェロール、アスコルビン酸等の安定化剤を配合することが知られている(US5332727)。
しかし、ポリビニルピロリドンは経口で成人、1日当たり120mgまでしか用いることができず、安全域が狭いという問題がある。炭酸水素ナトリウムは製剤のpHに影響を与えるおそれがある。トコフェロールは油なので製剤化しにくい。また、アスコルビン酸は錠剤に味を与えるという問題がある。
したがって、製剤に影響を与えず、少量でNAD(P)Hを安定化させることができる方法の開発が望まれている。
アスタキサンチンは強いフリーラジカルによる生体膜障害の防止作用(Cyto−protect.Biochem.、1989年、第7巻、p.383−391)や免疫調整作用(Nutr.Cancer、1994年、第21巻、p.47−58)を持つため、サプリメントに広く用いられているが、NAD(P)Hの安定化作用は知られていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、NAD(P)Hの安定化方法および安定化されたNAD(P)Hを含有する製剤を提供することにある。
本発明は下記(1)〜(8)に関する。
(1) NAD(P)Hにアスタキサンチンを添加することを特徴とする、NAD(P)Hの安定化方法。
(2) NAD(P)Hを含有する製剤中にアスタキサンチンを配合することを特徴とするNAD(P)Hを含有する製剤中のNAD(P)Hの安定化方法。
(3) アスタキサンチンの量が、100重量部のNAD(P)Hに対して、0.01〜150重量部である、上記(1)または(2)のNAD(P)Hの安定化方法。
(4) アスタキサンチンの量が、100重量部のNAD(P)Hに対して、1〜20重量部である、上記(1)または(2)のNAD(P)Hの安定化方法。
(5) アスタキサンチンおよびNAD(P)Hを含有することを特徴とする製剤。
(6) 100重量部のNAD(P)Hに対して、0.01〜150重量部のアスタキサンチンを含有する、上記(5)の製剤。
(7) 100重量部のNAD(P)Hに対して、1〜20重量部のアスタキサンチンを含有する、上記(5)の製剤。
(8) 製剤が、舌下錠、腸溶錠または腸溶性カプセルである、上記(5)〜(7)いずれか1つの製剤。
本発明に用いられるNAD(P)Hはフリー体でも薬理学的に許容される塩でもよい。
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩があげられる。
本発明に用いられるアスタキサンチンは、自然界から得られるもの、化学合成法により得られるもののいずれでもよく、また精製品でも粗精製品でもよい。市販のものを用いることもできる。
たとえば、藍藻または福寿草由来のアスタキサンチンのエステル体、酵母の培養または化学合成法により得られるアスタキサンチンのフリー体等があげられる。
アスタキサンチンをNAD(P)Hに添加することでNAD(P)Hを安定化することができる。NAD(P)Hはそのままであってもよいし、製剤に含有された状態であってもよい。
添加するアスタキサンチンの量は特に規定されるものではないが、100重量部のNAD(P)Hに対して0.01重量部以上であることが好ましく、0.01重量部〜150重量部であることがさらに好ましく、1〜20重量部であることが特に好ましい。
本発明の製剤は、NAD(P)Hおよびアスタキサンチンを含有する製剤であり、NAD(P)Hおよびアスタキサンチンのほかに、必要に応じて通常医薬または食品分野で使用できる製剤用基剤と混合し、製剤学の技術分野において知られている任意の方法により製造される。
製剤用基剤としては、以下の賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等があげられる。
賦形剤としては、乳糖、マルトース、トレハロース、マンニトール、還元麦芽糖水飴、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、デンブングリコール酸ナトリウム、デンプン等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
結合剤としては、ポリビニルピロリドン、プルラン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、寒天等があげられ、これらを単独または組合せて用いることができる。
滑沢剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム等があげられる。
上記製剤用基剤の他に、必要に応じて、デキストリン等の炭水化物、シクロデキストリン等の苦味矯正剤、ベータカロチン等の食用色素、ナイアシン、ビタミンE、アスコルビン酸、ビタミンB類、ビタミンA、ビタミンD等のビタミン類、ナトリウム等のミネラル類、アスパルテーム、グルコース、フルクトース、スクラロース、ステビア、サッカロース等の甘味料、微粒二酸化ケイ素等の乾燥剤、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、タルク等の固化防止剤等を添加してもよい。
本発明の製剤中のNAD(P)Hの含有量は、製剤100重量部に対して、0.01重量部〜90重量部であることが好ましく、0.1重量部〜50重量部がさらに好ましく、1重量部〜30重量部が特に好ましい。NAD(P)Hは液状、粉状、粒状、粉粒状などいずれでもよい。
本発明の製剤中のアスタキサンチンの量は特に規定されるものではないが、製剤中のNAD(P)H100重量部に対して0.01重量部以上であることが好ましく、0.01〜150重量部であることがさらに好ましく、1〜20重量部であることが特に好ましい。アスタキサンチンは液状、粉状、粒状、粉粒状などいずれでもよい。
本発明の製剤は、NAD(P)Hが胃内で分解されることを防ぐため、座剤、舌下錠、腸溶錠または腸溶性カプセルの剤型とするのが好ましいが、舌下錠、腸溶錠または腸溶性カプセルが好ましく、服用し易い腸溶錠または腸溶性カプセルが特に好ましい。
本発明の製剤は、NAD(P)Hの補給を目的とするものであり、ヒトまたは非ヒト用の医薬品または健康食品として用いられる。
本発明の製剤を腸溶性カプセルとして製造する場合、ソフトカプセルまたはハードカプセルとして常法により製造することができる。
例として、腸溶性ハードカプセルを製造する場合の製造例を示す。
NAD(P)Hに対して2〜40倍量(重量比)の賦形剤を加え、これに100重量部のNAD(P)Hに対して0.01重量部以上のアスタキサンチンを添加し、混合攪拌して本発明の製剤用の粉末を得る。必要により、該粉末100重量部に対して2重量部以下の微粒二酸化ケイ素等の乾燥剤を加えてもよい。得られた本発明の製剤用の粉末をカプセル充填機にかけ、ハードカプセルに充填する。本発明の製剤用の粉末を充填したハードカプセルは、必要に応じて常法によりシールして密封する。さらに、該粉末を充填したハードカプセルの表面を、常法によりシェラック溶液、ツェイン溶液、セルロースアセテート等の、腸溶剤製造時にコーティングに通常用いられる基剤でコーティングすることにより腸溶カプセルを製造することができる。
本発明の製剤を舌下錠または腸溶錠として製造する場合、これらの錠剤は、NAD(P)Hおよびアスタキサンチンを含有する粉粒体を錠剤にするなど、常法により製造することができる。
NAD(P)Hおよびアスタキサンチンを含有する粉粒体は、NAD(P)Hおよびアスタキサンチン以外に、前記賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤またはその他の添加成分を含んでいてもよい。
錠剤の製造方法としては、NAD(P)Hおよびアスタキサンチンを含有する粉粒体を打錠法を用いて圧縮成形する方法や、該粉粒体の全量もしくは一部について湿式造粒もしくは乾式造粒して圧縮成形する方法があげられる。
打錠法としては、例えば、粉粒体を必要に応じて添加混合した後に圧縮成形する通常の方法や、あらかじめ滑沢剤を杵表面、臼壁に塗布してから該粉粒体を圧縮成形する方法等が用いられる。
乾式造粒に用いる装置としては、例えば、解砕造粒機等があげられる。
湿式造粒に用いる装置としては、例えば、攪拌造粒機、流動層造粒機、押出造粒機、転動流動層造粒機等があげられる。
舌下錠は、例えば、通常の錠剤を製造する方法において、通常の錠剤よりも低圧で打錠すること等により製造することができる。
腸溶錠は、圧縮成形して得られた錠剤の表面をコーティングパン等を用いて、常法によりシェラック溶液、ツェイン溶液、セルロースアセテート等の腸溶コーティングに通常用いられる基剤でコーティングして製造することができる。
本発明の製剤の製造方法は、上記方法に限定されるものではなく、製剤可能な方法であればいずれの方法も用いることができる。
本発明の製剤においては、配合されたアスタキサンチンにより製剤に含有されるNAD(P)Hが安定に保持されるので、体内で補助栄養剤として有効に作用することができる。
本発明の製剤の投与量は、投与するヒトまたは非ヒト動物の投与形態、年齢、体重、症状等により異なるが、例えば、ヒトの高血圧、パーキンソン病、アルツハイマー病等の成人病等の予防用サプリメントとして用いる場合は、成人一人あたり、NAD(P)Hとして5mg〜1500mg、好ましくは20mg〜30mgを含む製剤を1日1〜3回経口投与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
NADH(協和発酵工業社製)50g、アスタキサンチン(藍藻類由来のエステル体を1重量%含有する、富士化学社製)500gおよびマンニトール(日研化成社製)450gを混合攪拌し、カプセル充填機に投入し、ゼラチン製2号ハードカプセル5000錠に充填した。得られたハードカプセルをツェイン溶液を用いてコーティングし、NADH10mg、アスタキサンチン1mgを含む腸溶カプセル(カプセル1)を製造した。
【実施例2】
NADH(協和発酵工業社製)200g、アスタキサンチン(藍藻類由来のエステル体を1重量%含有する、富士化学社製)200g、マンニトール(日研化成社製)3560gおよび二酸化ケイ素40gを混合攪拌し、カプセル充填機に投入し、ゼラチン製2号ハードカプセル20000錠に充填した。
得られたハードカプセルをツェイン溶液を用いてコーティングし、NADH10mg、アスタキサンチン0.1mgを含む腸溶カプセルを製造した。
比較例1
NADH(協和発酵工業社製)50g、ポリビニルピロリドンK25(五協産業社製)50gおよびマンニトール(日研化成社製)900gを混合攪拌し、カプセル充填機に投入し、ゼラチン製2号ハードカプセル5000錠に充填した。
得られたハードカプセルをツェイン溶液を用いてコーティングし、NADH10mg、ポリビニルピロリドンK25 10mgを含む腸溶カプセル(カプセルa)を製造した。
【実施例3】
実施例1で調製したカプセル1および比較例1で調製したカプセルaをガラス瓶に入れ、密閉、遮光後、60℃で33時間保存した。保存開始時、保存14時間目、保存33時間目に保存したカプセルを開封し、試料を10mmol/l NaCO緩衝液(pH10)に溶解した。
該溶液をメンブランフィルター(0.45μm)でろ過後、U−3210形自記分光光度計(日立製作所製)を用いて340nmでの吸光度を測定した。保存開始時の吸光度を100%として、14時間目および33時間目の吸光度の比率を求め、この値を、NADHの残存率とした。
結果を第1表に示す。

第1表によれば、アスタキサンチンを1mg含有するカプセル1においては、33時間苛酷な条件で保存してもNADHの残存率は約80%であったのに対して、カプセルaでは、安定化剤ポリビニルピロリドンK25を10mg添加しているにもかかわらずNADHの残存率は保存14時間目で約50%、33時間目では約13%であり、NADHは明らかに分解されていた。
以上のとおり、アスタキサンチンを添加したカプセルでは、ポリビニルピロリドンK25を添加したカプセルに比べて明らかにNADHの残存率が高かった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、NAD(P)Hの安定化方法および安定化されたNAD(P)Hを含有する製剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェイト〔以下、NAD(P)Hと略す〕にアスタキサンチンを添加することを特徴とする、NAD(P)Hの安定化方法。
【請求項2】
NAD(P)Hを含有する製剤中にアスタキサンチンを配合することを特徴とするNAD(P)Hを含有する製剤中のNAD(P)Hの安定化方法。
【請求項3】
アスタキサンチンの量が、100重量部のNAD(P)Hに対して、0.01〜150重量部である、請求の範囲第1または2項記載のNAD(P)Hの安定化方法。
【請求項4】
アスタキサンチンの量が、100重量部のNAD(P)Hに対して、1〜20重量部である、請求の範囲第1または2項記載のNAD(P)Hの安定化方法。
【請求項5】
アスタキサンチンおよびNAD(P)Hを含有することを特徴とする製剤。
【請求項6】
100重量部のNAD(P)Hに対して、0.01〜150重量部のアスタキサンチンを含有する、請求の範囲第5項記載の製剤。
【請求項7】
100重量部のNAD(P)Hに対して、1〜20重量部のアスタキサンチンを含有する、請求の範囲第5項記載の製剤。
【請求項8】
製剤が、舌下錠、腸溶錠または腸溶性カプセルである請求の範囲第5〜7項いずれか1項に記載の製剤。

【国際公開番号】WO2004/050099
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556900(P2004−556900)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015482
【国際出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】