説明

還元型無電解銀めっき液及び還元型無電解銀めっき方法

【課題】めっき液中の銀の分解を防止して安定性を維持するとともに、下地金属等が過度に荒らされることを防止して、良好な皮膜特性を有し、外観も良好なめっき皮膜を形成することができる還元型無電解銀めっき液及びこの銀めっき液を用いた還元型無電解銀めっき方法を提供する。
【解決手段】水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型無電解銀めっき液及び還元型無電解銀めっき方法に関し、より詳しくは、液が安定で、下地金属等を過度に荒らすことなく良好なめっき皮膜を形成することが可能な還元型無電解銀めっき液及びその銀めっき液を用いた還元型無電解銀めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀めっきは、古くは装飾用等に用いられており、近年ではその電気特性や高い反射率を活かして、電気工業分野や光学工業分野、その他電磁波シールドや滅菌コート等の分野においても多く用いられている。その中でも、無電解銀めっきは、膜厚のコントロールが可能であり、必要な膜厚のめっき皮膜を容易に形成できるという点において多用されている。
【0003】
無電解銀めっきは、置換型と還元型に大別される。置換型の無電解銀めっきは、めっき液としては比較的安定性に優れており、市場でも多く利用されている(例えば特許文献1及び2参照)。しかしながら、置換型無電解銀めっきは、素地金属との置換反応によって銀めっきを析出させるものであるため、下地素地に制限があるという問題がある。
【0004】
一方で、還元型の無電解銀めっきは、めっき液中に還元剤を含有させ、水溶性銀化合物を金属銀に還元することによって、下地金属上に銀めっきを析出させるものであり、下地素地を荒らすことなく、また下地素地の種類が制限されることなく、良好な銀めっき皮膜を形成することができる。
【0005】
還元型の無電解銀めっき液では、特に液の安定性の観点から、水溶性銀塩としてシアン化銀カリウム等のシアン化銀化合物が含有されている。このシアン化銀化合物を水溶性銀塩として用いた場合、一般的には、銀に対してモル比で2倍以上のシアンがめっき液中に含まれることになる。
【0006】
また、還元型の無電解銀めっき液では、シアン化カリウム等のシアン化合物を添加することによって液の安定性を向上させる方法も提案されており、めっき液中に遊離シアンが多く存在する状態となっている(例えば特許文献3及び非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、これらの従来のめっき液中に存在する過剰なシアンは、上述のようにめっき液中の銀の分解を抑制し安定性を高めることを可能にするものの、例えばニッケルや銅からなる金属等の被めっき物を溶解させてその表面を過度に荒らしてしまい、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成することができなくなる。
【0008】
一方で、近年では、シアンフリーの還元型無電解銀めっき液も提案されている(例えば特許文献4及び5)。しかしながら、このようなシアンフリーの無電解銀めっき液では、シアンがめっき液中に存在しないため下地金属等を溶解させて表面を過度に荒らすことはないものの、シアンを含むめっき液に比べて液安定性が著しく劣る。例えば、特許文献4及び5に記載のように、シアンフリーの銀めっき液において、添加剤を添加することにより安定性を向上させる技術も提案されているが、未だ十分な安定性を有するものではない。さらに、このようなシアンフリーの無電解銀めっきでは、膜厚を厚く付けるにつれて黄色っぽい銀皮膜となり、めっき皮膜の外観の点においても問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−309875号公報
【特許文献2】特開2002−180259号公報
【特許文献3】特開平5−279863号公報
【特許文献4】特許3937373号公報
【特許文献5】特開2003−268558号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「無電解めっき 基礎と応用」電気鍍金研究会編 日刊工業新聞社刊 p176-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上述のような従来の実情に鑑みてなされたものであり、めっき液中の銀の分解を防止して安定性を維持するとともに、めっき下地の金属等が過度に荒らされることを防止して、良好な皮膜特性を有し、外観も良好なめっき皮膜を形成することができる還元型無電解銀めっき液及びこの銀めっき液を用いた還元型無電解銀めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した目的を解決するために鋭意検討を重ねた結果、めっき液中のシアン濃度をコントロールすることで、めっき液の安定性を維持し、下地金属等が過度に荒らされることを防止して、良好な皮膜特性を有し、外観も優れためっき皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明に係る還元型無電解銀めっき液は、水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する。
【0014】
また、本発明に係る還元型無電解銀めっき液は、上記水溶性銀塩がシアン化合物以外の銀塩であり、上記シアン化物イオンがアルカリ金属シアン化物として含有されることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る還元型無電解銀めっき液は、上記還元剤が、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、酢酸ヒドロキシルアンモニウムから選択される1種以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る還元型無電解銀めっき液は、pHを8〜11とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る還元型無電解銀めっき方法は、水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する還元型無電解銀めっき液を用い、被めっき物に対して無電解銀めっきを施す。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る還元型無電解銀めっき液及び還元型無電解銀めっき方法によれば、めっき液中の銀の分解を防止して液の安定性を良好なものにするとともに、めっきの下地となる金属等の被めっき物が過度に荒らされることを防止して、良好な皮膜特性を有し、外観も優れためっき皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】還元剤を変えたときにおけるめっき時間に対するめっき皮膜の膜厚の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る還元型無電解銀めっき液についての具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、還元剤により水溶性銀塩を金属銀に還元し、下地金属等の被めっき物上に銀めっきを析出させることによって銀めっき皮膜を形成させるものである。
【0022】
そして、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液においては、水溶性銀塩と還元剤とを含有するめっき液中において、所定の濃度範囲に調製したシアン化物イオンを含有することを特徴としている。具体的には、0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する。
【0023】
従来、シアン化銀カリウム等の水溶性銀塩やシアン化カリウム等のシアン化合物を添加剤として添加した還元型無電解銀めっき液では、液の安定性は優れているものの、例えば銅やニッケル等からなるめっき下地の金属等を過剰に溶解して荒らし、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成することができなかった。
【0024】
一方で、その下地金属等に対する過剰な溶解を回避するために、シアンフリーのめっき液も開発されているが、特に液の安定性が低い銀めっき液では、シアンフリーとすることでめっき液中の銀の分解が急速に起こりめっき液の安定性を著しく損なわせていた。また、このようなシアンフリーのめっき液では、黄色味がかっためっき皮膜が形成されるようになり、良好な外観を有するめっき皮膜を形成することができなかった。このような外観不良の銀めっき皮膜では、例えばLEDデバイスに対して用いた場合、反射率の低下を招くことにもなっていた。
【0025】
これに対して、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液では、めっき液中におけるシアン化物イオンを0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lとなるように含有させている。
【0026】
このような還元型無電解銀めっき液によれば、従来のシアン化合物を用いた無電解銀めっき液とシアンフリーの無電解銀めっき液の双方の利点のみが得られ、液の安定性が高く、下地金属等の被めっき物を過度に荒らすことなく、皮膜特性の優れためっき皮膜を形成することができる。また、この還元型無電解銀めっき液によれば、綺麗な白色銀のめっき皮膜が得られ良好な外観を有するものとなり、例えばLEDデバイスに適用した場合には、反射特性を向上させることが可能となる。
【0027】
ここで、シアン化物イオンの含有量が0.006×10−3mol/L未満の場合には、めっき液中の銀が分解してしまい、液の安定性が悪くなる。また、めっき皮膜を厚くするに従って皮膜が黄色っぽくなり、良好な外観を有するめっき皮膜を形成することができない。一方で、含有量が12.5×10−3mol/Lより多い場合には、めっき液中に存在するシアンにより、めっき下地となる金属等からなる被めっき物を溶解して過剰に荒らしてしまい、その被めっき物上にめっき皮膜を形成しても、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜が得られない。
【0028】
シアン化物イオン源としては、特に限定されないが、例えば、シアン化カリウムやシアン化ナトリウム等のアルカリ金属シアン化物を用いることができる。また、シアン化銀カリウム等のシアン化銀化合物を水溶性銀塩として用い、これをシアン化物イオン源の一部又は全部として、上述した含有量となるように含有させてもよい。
【0029】
これらのシアン化物イオン源の中でも、特に、アルカリ金属シアン化物を用いることがより好ましい。アルカリ金属シアン化物を用いることにより、シアン化物イオン濃度を上述した濃度範囲に適切に且つ簡便に調製することができ、より効率的に且つ効果的に、液の安定性を維持して皮膜特性の良好なめっき皮膜を形成することができる。また、連続使用する上でも随時添加する必要がなく、またシアン化銀化合物として添加する場合のようにめっき液中の銀量が増加して安定性を損なわせることもない。
【0030】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液において、水溶性銀塩としては、めっき液に可溶なものであれば特に限定されないが、例えば硝酸銀、酸化銀、硫酸銀、塩化銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、スルホン酸銀、スルファミン酸銀、シュウ酸銀等を用いることができる。また、水溶性銀塩として、上述したように、シアン化銀カリウム等のシアン化銀化合物を用いてもよい。これら水溶性銀塩は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0031】
水溶性銀塩の含有量としては、銀濃度として0.1g/L〜10g/L(0.9×10−3mol/L〜90×10−3mol/L)とすることが好ましく、0.1g/L〜3.0g/L(0.9×10−3mol/L〜30×10−3mol/L)とすることがより好ましい。水溶性銀塩の含有量を、銀濃度として0.1g/L〜10g/Lの範囲とすることにより、銀めっきの析出速度を良好にし、またより安定性の高いめっき液とすることができる。
【0032】
また、水溶性銀塩としてシアン化銀化合物を用いる場合には、添加するシアン化銀化合物、又はそのシアン化銀化合物と添加剤として含有するシアン化合物の含有量が、上述したシアン化物イオン濃度の範囲、すなわち0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lとなるように含有させる。
【0033】
還元剤としては、めっき液中の水溶性銀塩を金属銀に還元する能力を有するものであって水溶性の化合物であれば特に限定されないが、例えばヒドラジン及びその誘導体、ホルムアルデヒド化合物、ヒドロキシルアンモニウム塩、糖類、ロッセル塩、水素化ホウ素化合物、次亜リン酸塩、DMAB(ジメチルアミンボラン)、アスコルビン酸等を用いることができる。これら還元剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0034】
これらの還元剤の中でも、特に、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、酢酸ヒドロキシルアンモニウム等のヒドロキシルアンモニウム塩を用いることが好ましい。その理由として、これらの還元剤によれば、めっき時間を制御することにより容易にめっき膜厚を変えることができ、厚付け処理する等して、所望とするめっき膜厚からなり、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を容易に形成することができるためである。
【0035】
より具体的に説明すると、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液では、上述のように、下地金属等を過剰に溶解させないこと等を目的としてシアン化物イオンを所定の濃度範囲にコントロールしている。そのため、還元力のより強いDMAB等の還元剤を用いた場合には、めっき液中における銀の分解が生じる可能性がある。その点、硫酸ヒドロキシルアンモニウムや酢酸ヒドロキシルアンモニウム等のヒドロキシルアンモニウム塩を用いることにより、めっき液中における銀の分解を防止して、安定的に還元反応を生じさせることができる。
【0036】
また、ヒドラジンやホルムアルデヒド等の還元力のより弱い還元剤を用いた場合では、銀の析出速度が遅くなるため、下地金属等の表面のうち銀が析出していない部分が長時間にわたって存在するようになり、この部分にめっき液中のシアンが作用して過度に溶解してしまう可能性がある。この点においても、硫酸ヒドロキシルアンモニウムや酢酸ヒドロキシルアンモニウム等のヒドロキシルアミン類を用いることにより、下地金属等を溶解させることなく、確実に還元反応により銀めっきを析出させることができるため、めっき時間の制御により所望とする膜厚とする銀めっきを下地金属等に被覆させることができ、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成できる。
【0037】
このように、硫酸ヒドロキシルアンモニウムや酢酸ヒドロキシルアンモニウムによれば、所望とする膜厚のめっき皮膜を容易に形成できるとともに、液の安定性をより優れたものにし、シアンによって下地金属等が過剰に溶解されることを防止して、より効果的に皮膜特性が良好なめっき皮膜を形成できる。
【0038】
還元剤の含有量としては、例えば0.006mol/L〜0.12mol/Lとすることが好ましく、0.006mol/L〜0.03mol/Lとすることがより好ましい。還元剤の含有量が0.006mol/Lより少ない場合には、めっき液中の水溶性銀塩を金属銀に還元することができず十分な銀めっきを析出させることができない可能性がある。一方で、0.12mol/Lよりも多すぎると、めっき液の安定性に悪影響を及ぼす可能性があるとともに経済的にも好ましくない。
【0039】
本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、液温として、0〜80℃の範囲で用いることができ、特に30〜60℃程度で用いることにより、めっき液の安定性をより一層に良好にすることができる。めっき液の温度が低すぎると、銀の析出速度が遅く所定の銀析出量を得るために長時間が必要となる。一方で、めっき液の温度が高すぎると、自己分解反応による還元剤の損失や、めっき液安定性の低下を引き起こし易くなる。
【0040】
また、還元型無電解銀めっき液のpHは、2〜14の範囲で使用することができるが、上述のように所定濃度のシアン化物イオンが含有されていることから、特にpHを8〜11の範囲とすることが好ましい。めっき液のpHを8以上とすることにより、シアンガスの発生を効果的に抑制し、環境に悪影響を及ぼすことなく安全に使用することができる。また、めっき液の安定性をより一層に良好にすることができる。また、pHを11以下とすることにより、めっき液の安定性及びめっき皮膜の皮膜特性をより一層に良好なものにすることができる。
【0041】
めっき液のpH調整は、通常、pHを下げる場合には、水溶性銀塩のアニオン部分と同種のアニオン部分を有する酸、例えば水溶性銀塩として硫酸銀を用いる場合には硫酸、水溶性銀塩として硝酸銀を用いる場合には硝酸を用いて行う。一方で、pHを上げる場合には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア等を用いて行う。
【0042】
また、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液においては、必要に応じて錯化剤を添加することができる。錯化剤としては、特に限定されないが、亜硫酸塩、コハク酸イミド、ヒダントイン誘導体、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を用いることができる。これら錯化剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0043】
錯化剤の添加量としては、その種類によっても異なり、特に限定的ではないが、1g/L〜100g/L程度とすることが好ましい。錯化剤の濃度をこのような範囲とすることで、銀めっきの析出速度を良好にし、またより一層に安定性に優れためっき液とすることができる。
【0044】
またその他、必要に応じて公知の界面活性剤、pH調整剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤等の添加剤を混合するようにしてもよい。
【0045】
上述した特徴を有する還元型無電解銀めっき液を用いためっき方法としては、例えば、上述した液温、及びpH値に調節した還元型無電解銀めっき液中に、被めっき物を浸漬することによって銀めっきを施す。また、被めっき物に対して、還元型無電解銀めっき液を噴霧、塗布等することによってめっき液を被めっき物に接触させてめっき処理するようにしてもよい。
【0046】
この無電解銀めっき方法は、上述のように、主として、めっき液中に含有される還元剤により水溶性銀塩を金属銀に還元し、めっき下地となる金属等の被めっき物上に銀めっきを析出させることによってめっき皮膜を形成する。
【0047】
無電解銀めっき皮膜を形成させる被めっき物としては、特に限定されるものではなく、銅やニッケル等の金属材料や、その他の各種の導電性材料、非導電性材料等に対して適用することができる。金属材料を被めっき物とする場合には、常法に従って脱脂処理等の前処理を行った後、被めっき物を直接めっき液中に浸漬する。
【0048】
また、セラミックス、プラスチックス等の非金属材料にめっき処理を行うには、脱脂処理等の前処理を行った後、被めっき物を活性化処理し、その後めっき液に浸漬する。活性化処理は、常法に従えばよく、例えばパラジウム触媒(キャタリスト−アクセラレーター法、センシタイズ−アクチベーター法等)、銀触媒、銅触媒等を用いて、公知の条件に従って、活性化処理を行う。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係る還元型無電解銀めっき液は、水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する。このような還元型無電解銀めっき液によれば、銀めっき液中の銀の分解を効果的に防止して液の安定性を良好なものにすることができるとともに、下地金属等の被めっき物が過度に荒らされることを防止して、良好な皮膜特性を有し、外観も優れためっき皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明が限定されるものではない。
【0051】
<めっき液安定性及びめっき皮膜評価>
下記に示す、それぞれの還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0052】
(実施例1)
硝酸銀を銀濃度として9.0×10−3mol/L(1.0g/L)、還元剤としてヒドロキシルアンモニウム塩(硫酸ヒドロキシルアンモニウム)1.24×10−3mol/L、錯化剤としてEDTA0.15mol/L(50g/L)を含有し、さらにシアン化カリウム1mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を0.006×10−3mol/Lとした水溶液を、苛性ソーダを用いてpH9.0として還元型無電解銀めっき液とした。
【0053】
(実施例2)
シアン化カリウム300mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を1.8×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0054】
(実施例3)
シアン化カリウム500mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を3.0×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0055】
(実施例4)
シアン化カリウム1000mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を6.5×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0056】
(実施例5)
シアン化カリウム2000mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を12.5×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0057】
(比較例1)
硝酸銀に代えてシアン化銀カリウムを銀濃度として9.0×10−3mol/L(1.0g/L)添加し、さらにシアン化カリウム300mg/Lを添加して、めっき液中の合計シアン化物イオン濃度を19.8×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0058】
(比較例2)
硝酸銀に代えてシアン化銀カリウムを銀濃度として9.0×10−3mol/L(1.0g/L)添加し、シアン化カリウムを添加せず、めっき液中のシアン化物イオン濃度を18.0×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0059】
(比較例3)
シアン化カリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。すなわち、シアンフリーの還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0060】
(比較例4)
シアン化カリウムを2100mg/Lを添加してめっき液中のシアン化物イオン濃度を13.0×10−3mol/Lとしたこと以外は、実施例1と同様にして還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0061】
次に、以上のようにして調製した還元型無電解銀めっき液を用いて、BGA基板(上村工業株式会社製)を被めっき物として還元型無電解銀めっきを施した。
【0062】
なお、還元型無電解銀めっき処理に先立ち、前処理として下記表1に示す各工程を順に行った。すなわち、被めっき物であるBGA基板に対して、ACL−738(上村工業株式会社製)によるクリーナー処理(脱脂)後、100g/Lの過硫酸ナトリウム溶液(SPS)にてソフトエッチング処理を行った。続いて、10%硫酸(HSO)溶液でエッチング残渣を除去し(酸洗)、3%硫酸溶液でプリディップ処理後、MNK−4(上村工業株式会社製)でPd触媒を付与(キャタリスト)した。そして、その後、無電解ニッケル液NPR−4(上村工業株式会社製)、並びに無電解パラジウム液TPD−30(上村工業株式会社製)を用いて、下地となる金属皮膜を形成させた。
【0063】
【表1】

【0064】
無電解銀めっき処理は、被めっき物を上述の還元型無電解銀めっき液に、60℃で20分間浸漬させることによって行った。そして、めっき処理を行った後、60℃で100時間昇温放置し、めっき液の自己分解の有無でめっき液の安定性、並びに、めっき皮膜の半田接合強度及び外観を評価した。下記の表2に、その評価結果を示す。
【0065】
なお、めっき皮膜の半田接合強度は、240℃−1回リフローの処理で評価し、半田破断モードが20個中16個以上である場合を接合強度良好(○)とし、16個未満である場合を接合強度不良(×)として評価した。また、めっき皮膜の外観は、銀めっき皮膜の膜厚0.5μmのときの外観を目視で確認した。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示されるように、めっき液中のシアン化物イオン濃度を0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lの範囲にコントロールした実施例1〜5における還元型無電解銀めっき液では、めっき液中の銀が分解することなく良好な液安定性を示した。また、これら実施例1〜5では、半田接合強度が強く、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成することができた。さらに、その形成されためっき皮膜も白色銀であり綺麗な外観を有していた。
【0068】
一方で、めっき液中のシアン化物イオン濃度が、それぞれ、19.8×10−3mol/L、18.0×10−3mol/L、13.0×10−3mol/Lである比較例1、2、4における還元型無電解銀めっき液では、めっき液中の過剰な遊離シアンにより銀の分解は防げたものの、半田接合強度が弱く、皮膜特性の悪いめっき皮膜が形成された。これは、めっき液中に存在する過剰な遊離シアンにより、下地金属が過剰に溶解され荒らされてしまったためであると考えられる。
【0069】
また、めっき液中にシアンを含有させずシアンフリーとした比較例3における還元型無電解銀めっき液では、半田接合強度が強く、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜が形成されたものの、シアンを含有していないことによりめっき液中の銀が分解し、液の安定性を確保することができなかった。さらに、この比較例3の還元型無電解銀めっき液を用いた場合では、黄色味がかった黄色銀のめっき皮膜が形成され、極めて不良な外観となってしまった。
【0070】
以上の結果から、めっき液中のシアン化物イオン濃度を0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lの範囲とすることにより、銀の分解を抑制して液の安定性を維持するとともに、白色銀の綺麗な銀を析出形成させ外観の優れた皮膜を形成できることが分かった。さらに、シアン化物イオンを上記濃度範囲とすることにより、めっき下地となる金属材料等を過剰に荒らしてしまうことを防止して、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成できることが分かった。
【0071】
<還元剤について>
次に、上記実施例1〜5のように、シアン化物イオン濃度を0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lの範囲にコントロールした還元型無電解銀めっき液において、好ましい還元剤について検討した。なお、実験は、上記実施例2の組成を基本組成として行った。
【0072】
(実施例6)
還元剤としてヒドラジン(硫酸ヒドラジン)1.24×10−3mol/Lを添加したこと以外は、実施例2と同様にしてシアン化物イオン濃度が0.006×10−3mol/Lである還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0073】
(実施例7)
還元剤としてホルムアルデヒド1.24×10−3mol/Lを添加したこと以外は、実施例2と同様にしてシアン化物イオン濃度が0.006×10−3mol/Lである還元型無電解銀めっき液を調製した。
【0074】
上記実施例2、並びに、実施例6及び7において調製した還元型無電解銀めっき液を用いて、めっき時間に対する銀めっき皮膜の膜厚の関係を調べた。図1に、還元剤を変えたときのめっき時間に対する膜厚の測定結果についてのグラフを示す。
【0075】
図1に示されるように、還元剤としてヒドロキシルアンモニウム塩を用いた実施例2における無電解銀めっき液では、めっき時間を延ばすことによって得られる銀めっき皮膜の膜厚も略直線的に厚くなっていくことが分かり、還元反応により銀が析出して皮膜形成されていることが分かる。一方で、ヒドラジンやホルムアルデヒドを還元剤として用いた実施例6及び7では、所定の時間が経過するとそれ以降は膜厚はあまり厚くなっていないことが分かる。このことは、ヒドラジンやホルムアルデヒドでは、還元反応により銀を析出させている一方で、置換反応による因子も大きく働いているため、下地金属が僅かに溶解したことによると考えられる。
【0076】
このことから、シアン化物イオン濃度を0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lの範囲にコントロールした還元型無電解銀めっき液において、還元剤として硫酸ヒドロキシルアンモニウムや酢酸ヒドロキシルアンモニウム等のヒドロキシルアンモニウム塩を用いることにより、還元反応をより効果的に進行させることができ、置換反応による下地金属の溶解を生じさせることなく、良好な皮膜特性を有するめっき皮膜を形成できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性銀塩と、還元剤とを含有する還元型無電解銀めっき液であって、
0.006×10−3mol/L〜12.5×10−3mol/Lのシアン化物イオンを含有する還元型無電解銀めっき液。
【請求項2】
上記水溶性銀塩はシアン化合物以外の銀塩であり、上記シアン化物イオンはアルカリ金属シアン化物として含有される請求項1記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項3】
上記還元剤は、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、酢酸ヒドロキシルアンモニウムから選択される1種以上である請求項1又は2記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項4】
pHが8〜11である請求項1乃至3の何れか1項記載の還元型無電解銀めっき液。
【請求項5】
上記請求項1乃至4の何れか1項記載の還元型無電解銀めっき液を用い、被めっき物に対して無電解銀めっきを施す還元型無電解銀めっき方法。

【図1】
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