還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法
【課題】製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有のダスト、スラリー等の副生成物を還元する還元炉において発生した二次ダストから亜鉛を回収するに当たって、亜鉛濃縮率とともに亜鉛回収率を上げることができる実用的な亜鉛回収方法を提供する。
【解決手段】還元炉で発生した二次ダストをpHが8〜10のスラリー化した上で、鉄含有量の多い大きな粒子に付着した亜鉛含有量の多い微粒子をミクロ状態で超音波洗浄のような処理法で剥離する第一の工程と、その第一の工程で生じた亜鉛含有量の多い微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分を湿式磁選のような手段で分離する第二の工程により、亜鉛微粒子を多く含む亜鉛原料に用いる部分と鉄粒子を多く含む製鉄原料に用いる部分に分離する。
【解決手段】還元炉で発生した二次ダストをpHが8〜10のスラリー化した上で、鉄含有量の多い大きな粒子に付着した亜鉛含有量の多い微粒子をミクロ状態で超音波洗浄のような処理法で剥離する第一の工程と、その第一の工程で生じた亜鉛含有量の多い微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分を湿式磁選のような手段で分離する第二の工程により、亜鉛微粒子を多く含む亜鉛原料に用いる部分と鉄粒子を多く含む製鉄原料に用いる部分に分離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工程で発生する亜鉛含有のダストおよびスラリー中の鉄分の有効利用方法、とくに、亜鉛含有のダストおよびスラリーを脱亜鉛する還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄工程で発生する亜鉛含有のダストやスラリー中の鉄分を有効に回収するための還元処理には、回転炉床式還元炉やロータリーキルンなどの還元炉が用いられている。
【0003】
これらの還元炉で、転炉ダストのような酸化亜鉛を含む原料を還元する場合は、排ガス中から亜鉛を多く含むダストが回収される。例えば、ロータリーキルン式の還元炉からは、亜鉛を20〜50質量%、トータル鉄を10〜25質量%含むダストが回収される。また、回転炉床式還元炉では鉄含有物の飛散が少ないため、この還元炉からのダストは亜鉛比率が高く、亜鉛を30〜60質量%、トータル鉄を2〜15質量%含むダストが回収される。
【0004】
この亜鉛含有二次ダストからは、金属亜鉛や炭酸亜鉛が製造される。しかし、この亜鉛含有二次ダストは、亜鉛以外の不純物を多く含み、亜鉛濃度が低いことから、亜鉛製品原料や金属亜鉛原料を製造するためのコストが多く掛かるという問題がある。
【0005】
この問題解決のために、不純物を除去して亜鉛の純度を高める濃縮方法が特許文献1に開示されている。これは、亜鉛を含む還元性金属酸化物を還元処理する回転炉床式還元炉やロータリーキルンなどの還元炉から発生する亜鉛含有ダストと水とを混合してスラリーとし、次いで、このスラリー中の粉体の粒子径や比重の違いを利用して、ハイドロサイクロンのような湿式分離装置によって亜鉛濃縮粉体のスラリーと亜鉛の少ない粉体のスラリーとに分離する方法である。
【0006】
また、特許文献2には、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストの他の不純物除去、亜鉛濃縮方法の例として、製鉄ダストを還元焼成する際に発生する含亜鉛製鉄二次ダストを水でリパルプして可溶性塩類を溶出せしめた後、湿式磁選を行って磁着物を分離し、次いで該パルプを固液分離して亜鉛を含む非磁性物とハロゲン化合物をそれぞれ回収分離するものである。
【0007】
また、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストでなく、高炉から発生するダストの亜鉛濃縮あるいは亜鉛除去の方法も多々提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、スラリー状の高炉ガス灰に分散剤を投入し次いで超音波を照射することにより含亜鉛量の高いスラリーと含亜鉛量の低いスラリーに分離せしめる高炉ガス灰の処理方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、スラリー状の高炉ダストに分散剤を加え、次いで超音波を照射して該スラリーに含まれるダスト粒子を分散させたまま負圧利用の湿式サイクロンに導いて亜鉛含有量の高いスラリーと低いスラリーに分離する高炉ダストの処理方法が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献5には、ノズルを介して高圧水を容器内へ噴射するとともに、そのノズルからの高圧水に吸引させた空気を噴射水に取り込んで、容器内に水と空気の二流体噴射流を発生させる工程と、容器内のこの二流体噴射流に、スラリー状の高炉ダストを添加して、二流体噴射流の有する攪拌力により、高炉ダストの粒子に付着している亜鉛含有量の高い部分を粒子から剥離させる工程を有する高炉ダストの脱亜鉛方法が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献6には、ダストを発生する炉の形式を特定せず、亜鉛の回収率を向上させる方法として、例えば、中心軸を横に向け、その中心軸の回りに回転運動すると共に、中心軸に直交する2方向に往復運動する回転ドラム内に、Znが付着したダストを連続的に投入して回転ドラムの中心軸方向に送り、回転ドラムから連続的に排出されるダストを湿式サイクロンにより連続分級処理するダスト処理方法が示されている。
【0012】
また、特許文献7には、本発明が適用できる炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造プロセスが開示されている。
【0013】
先述の特許文献2には、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストの可溶性塩類を溶出せしめるために水でリパルプすることが示されているが、このようなリパルプの際に亜鉛の溶出ロスを抑えるためpHを調整することが行われる。これは非特許文献1に示されるように、亜鉛が両性金属ゆえpHが9〜10程度で水溶液への溶出量が最低となるという化学の一般的知見に基づくものである。
【0014】
さらに、非特許文献2には、特許文献1などで使用されるハイドロサイクロンの設計50%分級粒径d50* [単位マイクロメーター]を計算する方法が示されている。
【特許文献1】特開2005−21841
【特許文献2】特開昭55−104434
【特許文献3】特開昭52−002807
【特許文献4】特開昭53−081479
【特許文献5】特開平10−317018
【特許文献6】特開平5−132724
【特許文献7】特許第737379号
【非特許文献1】公害防止技術と法規編集委員会編集、「新公害防止の技術と法規[水質編]2006」、(社)日本産業環境管理協会発行
【非特許文献2】化学工学協会;化学工学便覧第4版、昭和39年、丸善
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、前記特許文献1に記載の還元炉から発生する二次ダストから亜鉛を回収する方法は、(ドライ状態での亜鉛回収スラリー中のZn質量%/ドライ状態での処理前スラリーのZn質量%)によって示される亜鉛濃縮率は1.3〜1.9倍とされている。しかしながら、二次ダスト中に含有される亜鉛総量中どれだけの亜鉛を分離回収できたを示す亜鉛回収率は示されていない。出願人は、この特許文献1と同様の方法で追試を行ったところ、亜鉛回収率は60%前後であった。この亜鉛回収率は、特許文献3,特許文献4,特許文献5に記載の高炉ダストからの亜鉛回収方法による亜鉛回収率の実績値70〜90%に比して低い。
【0016】
このように、亜鉛回収率が低いと、鉄分の多い残留物を再度還元炉に利用した場合に装入亜鉛総量が増え、その結果、還元炉の主製品である還元鉄の亜鉛含有値が高くなって高炉での使用の際、持ち込まれる亜鉛総量が増加することになる。その結果、還元鉄の亜鉛値レベルを抑えるためには、残留物全量を還元炉へ使用できず鉄源が有効利用できず、また、得られた還元鉄を高炉で使用する際、その使用量に制限を受けることになる。
【0017】
また、特許文献2においても、その実施例の記載によると亜鉛回収率は63%と、通常の高炉ダストの亜鉛回収方法であるZn回収率70〜90%に比べると低い。
【0018】
さらに、特許文献6の場合のように、高炉ダストに限定されないZn付着ダスト全般に関して亜鉛と鉄との分離技術も幾つか提案されているが、20〜60%のような高Zn含有値で、かつ塩類成分が10〜20%も付着した還元炉ダストの脱亜鉛に実質的に適用されるような技術は知られていない。
【0019】
本願発明の課題は、製鉄工程で発生する鉄および亜鉛含有のダスト、スラジ等の副生成物を還元する還元炉において発生した亜鉛含有量および塩類含有量が高い二次ダストから亜鉛を回収するに当たって、亜鉛濃縮率とともに亜鉛回収率を上げることができる実用的な亜鉛回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、製鉄工程で発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉において発生する亜鉛含有二次ダストの亜鉛回収率の向上をダストのミクロな構造解析に基づいて完成したものである。
【0021】
図1は、還元炉において発生するいわゆる還元炉二次ダストのSEM写真である。
【0022】
図2は、SEM写真、定量分析結果等から、模式的に示す還元炉二次ダストのミクロ構造を示す。同図に示すように、還元炉二次ダストのミクロ構造は、金属元素としてFe分を主体とする数μないし数十μの大きさを持つベース粒子の上に、1μ以下の非常に微細なZn分を主体とする非溶解の粒子が付着しており、さらに、表面にはカリウム、カルシウム、ナトリウム、塩素などの塩類が付着している構造である。
【0023】
表1は、この様な還元炉二次ダストのミクロ構造と、高炉ダストのミクロ構造との比較を示す。同表に示すように高炉ダストと還元炉ダストの組成、大きさなどが大幅に異なる。すなわち、還元炉の二次ダストは高炉ダストに比して、亜鉛微粒子の付着量がはるかに多く、その付着粒子の大きさも、1μ以下と非常に微細である。
【0024】
また、表2は、還元炉の二次ダストの分析例を示す。同表に示すように、亜鉛微粒子と共にカリウム、カルシウム、ナトリウム、塩素などの塩類成分が合計10〜20%程度も含有されているが、それらの大半は、図2の模式図に示すように、亜鉛微粒子とともに表面に付着しており、ベース粒子からの微細なZn分を主体とする粒子を剥離することが高炉ダストに比べてより難しい。
【0025】
また、その後のFeを主体とする粒子を集めた部分とZnを主体とする粒子を集めた部分をマクロに分離することも、Znを主体とする粒子が非常に微細であるだけより難しいという問題がある。
【0026】
本発明に係る還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法に係る基本的な方法は、製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉で発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で、亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状で剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状で分離する第二の工程と、分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用し、または、分離された鉄粒子を多く含む部分を製鉄原料として利用する第三の工程の三工程を順次行うことである。
【0027】
本発明において、「ミクロ状で剥離する」および「マクロ状で分離する」とは、それぞれ以下の事項を意味する。
【0028】
すなわち、「ミクロ状で剥離する」とは、還元炉で発生した二次ダストは、前述のとおりの図2に示すミクロ構造を有しており、このミクロ構造において、金属元素としてFe分を主体とするベース粒子から、非常に微細なZn分を主体とする粒子を、かかるミクロ状態の構造で物理的に剥離することである。この亜鉛微粒子の鉄粒子集合体からのミクロ状態の剥離は、ミクロ状態での剥離が実質的に行えればどんな方法でも良いが、撹拌翼などを用いた機械的な強撹拌、分散剤を併用しての撹拌洗浄、超音波洗浄などによって行う。
【0029】
また、「マクロ状で分離する」とは、「ミクロ状で剥離」されたZn分を主体とする粒子の集合体とFe分を主体とするベース粒子の集合体をマクロ状態で物理的に分離することである。本発明において、このマクロ状に分離する手段としては、湿式磁選法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱、その他の分離法が適用できる。
【0030】
実質的なミクロ状の剥離状況、すなわち、亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からのミクロ状の剥離の結果の確認とその評価は、前述のSEM等による直接観察のみならず、粒度分布調査による評価や、第二工程のマクロ状の分離結果からの逆評価でも可能である。実質的に評価できる方法なら何でも良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって以下の効果を奏する。
【0032】
還元炉二次ダストからの亜鉛回収総量が増加することにより、亜鉛の有効活用量が増え、資源の有効活用とコスト削減に寄与する。
【0033】
従来の方法よりZn回収率が向上することにより亜鉛回収後の残留鉄分側の亜鉛含有量が減少する結果、高炉への持込亜鉛総量の制約のある下でも残留鉄分の再利用が容易になり、同様に、資源の有効活用とコスト削減が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に基づいて、還元炉からの二次ダストの最初の処理は、還元炉から発生する二次ダストを淡水またはpH調整水に懸濁してpHを8以上10以下に調整しスラリーとした上で、第一の工程と第二の工程の処理を行う。その際に前記pHを維持するために必要であれば、ソーダ灰や水酸化ナトリウムなどのアルカリ性薬剤の添加も行う。スラリー化の際の配合割合は、液重量100に対してダスト重量3〜35程度であり、好ましくは、液重量100に対してダスト重量が5〜15の範囲である。これらの配合比を外れても処理できない訳ではないが、ダスト重量が少ない側、すなわち、希釈側は、装置が大きくなり設備費が高くなる。ダスト重量が多い側、すなわち、濃厚側は塩類の洗浄効率や超音波照射効率が低下し、スラリーの均一化や移送などのハンドリングが難しくなる。また磁選の際にマクロな分離の効率が低下する。
【0035】
本発明の第1の工程である図2に示す鉄粒子集合体からのミクロ状態の亜鉛微粒子の剥離において、機械的な強撹拌手段として、撹拌エネルギー密度12w/m3で撹拌しながら2時間洗浄した場合の、多数のベース粒子についてのSEMの観察結果を表3に示す。この表3から、単なるスラリー化のみの場合に較べて、強撹拌の場合の微粒子の剥離が進んでいることがわかる。
【0036】
また、同じく鉄粒子集合体からのミクロ状態の亜鉛微粒子の剥離にスラリーに超音波を照射する手段は、効率および効果、しいては処理コストの面から最も好適である。具体的にはダストを液に投入してスラリー化して、さらに十分に撹拌して懸濁させた状態で、超音波を照射する。
【0037】
とくに、超音波の周波数は160KHz以下が好適である。下限側は特に規定しないが、通常市販されている超音波発信機や発信子の下限側が20ないし25KHz程度であるから、実質的にはこれ以上となる。160KHzまでは大きな差異がない。ただし、750KHzでは効果が著しく低下する。したがって、160KHzまでなら好適な結果が得られる範囲といえる。
【0038】
超音波洗浄の処理時間は0.5分から10分程度が好適であり、1.6分から10分程度がより好適な範囲である。短すぎると剥離が不十分であり、特に0.5分より短くすると急激に効果が減少する。10分程度までは効果が向上するが、10分を越えて長い処理をしても効果が殆ど向上せず、工業的な価値がない。
【0039】
この超音波洗浄の際にヘキサメタリン酸ナトリウムなどの分散剤を併用することは、使用しない場合との有意差が認められず、コストを掛けて使用する必要はない。逆に有機系の分散剤は、亜鉛微粒子を多く含む部分を塩基性炭酸亜鉛の原料とする場合には、その塩基性炭酸亜鉛の用途によっては僅かに残留した有機物成分が問題となる場合もあるので、使用しないことが好ましい。
【0040】
このように、本発明に係る還元炉の二次ダストの亜鉛剥離に関しては、高炉ダストの処理に好適と言われる超音波処理条件とは異なる条件となる。これは表1に示すように対象となるダスト成分、性状が異なるためである。
【0041】
第一の剥離工程の超音波処理およびその後のマクロ状の分離濃縮を行う第二の工程でのスラリーのpHを8から10の範囲にすることが、超音波による亜鉛微粒子の剥離あるいは剥離後のマクロ状の亜鉛濃縮に悪影響することがなく、Zn回収率の向上に寄与する。
【0042】
図3は、各種金属のpHとの関連での水溶液への溶出量を示す。亜鉛は両性金属であるために、pHが9〜10程度で水溶液への溶出量が最低となる。この溶出量が最低となるpH域において、NaやKやClなどの成分を多く含む還元炉ダストに対して、pH調整を、代表的なアルカリであるソーダ灰、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどで行うと、液中のNaイオンやKイオンが増加し、これによりNaやKの溶解速度は遅くなることが考えられ、それらと共に大きなFe粒子の周りに付着しているZn微粒子を超音波洗浄で剥離する場合には不利な方向となる。
【0043】
これらの懸念に対し、本願発明者は、後述の実施例のように実際に処理を行った結果、以下のようにミクロ状の剥離およびマクロ状の分離挙動に影響を受けずに溶解ロスを抑えて亜鉛回収率が向上することを発見した。すなわち、pHを9〜10程度の領域に調整したスラリーでも、pH調整を行わないスラリーと比較して、超音波洗浄などによるミクロ状の剥離効果、その結果としての湿式磁選などによるマクロ状の亜鉛分離の効果が影響を受けないことを発見した。
【0044】
図4は、還元炉二次ダストのスラリーのpH値と液中のZn濃度の関係を示す。同図に示すように、pH調整範囲の下限側は、pHが8以上あればZnの溶解濃度は充分である。還元炉発生二次ダストのスラリーの場合、理論値からは多少値の偏倚はあるがpHが8以上となればスラリー溶液中へのZnの溶解量が10ppmを切り、pH調整をしない場合のpHが7前後でのZn溶解量の100〜1000ppm以上と比較すると溶解ロス量は1/100のオーダーとなる。pHが高い側の10を上回る範囲もなお溶解量が少なくロス防止の観点からは良好ではあるが、pH調整用アルカリ薬剤の使用量が対数的に増加し、経済的に好ましくない。このため、実施上は、pHは10が上限となる。また、経済的な観点からはpH9以下とすることが好ましいが、不純物成分を多量に含む還元炉二次ダストはpH変動が予期しがたく、アルカリ性薬剤によるpH制御が難しいので、pH範囲としては、下限の8から2.0幅程度が最低必要である。
【0045】
本発明において、第二の工程である亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する手段としての湿式の磁力選別の適用は、簡易で確実な分離効果、すなわち、亜鉛濃縮効果が得られることから、最も、好適な方法の一つである。また、スラリーを充分に撹拌して懸濁した状態での磁力選別の適用は、使用する磁選機械の形式や種類による磁着部の面積に応じた磁選時間の確保を前提とする限り、湿式磁力選別条件や磁力選別機の型式には特に制約がない。その実施に際しては、強磁場である必要でなく、0.1〜0.2テスラ程度あれば十分である。
【0046】
ハイドロサイクロンも、また同様に第二の工程として好適なマクロ状の分離方法である。ハイドロサイクロンによる亜鉛と鉄の分離は、超音波処理などのミクロ状の剥離処理を行った後に行うと、前述のスラリーのミクロ状の剥離なしでハイドロサイクロン分離に供するに比較して良好な分離結果が得られる。使用するハイドロサイクロンとしては、とくに負圧利用のハイドロサイクロンや、磁場を有するハイドロサイクロンを使用する必要はなく、上下の排出側が大気開放されている通常のハイドロサイクロンで十分である。
【0047】
しかしながら、還元炉二次ダストから剥離された亜鉛粒子の粒度を考慮すると、下記の1式で算出された50%分級粒径d50* [マイクロメーター]を10マイクロ以下に設計したハイドロサイクロンを使用することがより好ましい。
【0048】
【数1】
【0049】
また、本発明を適用する還元炉の型式は、炉内で脱亜鉛現象が発生する還元炉であれば、回転炉床式還元炉、ロータリーキルン式還元炉、その他の形式の炉でも構わない。しかし、回転炉床式還元炉では炉内での鉄からの脱亜鉛率が80〜97%と高く、その結果その二次ダスト中の亜鉛含有量も高いので、資源有効活用の観点から効果を奏する。つまりは、本発明を適用する還元炉の形式としては回転炉床式還元炉が好適である。
【0050】
本発明において、第一と第二の工程を経て、亜鉛微粒子を多く含む部分を、例えば、特許第737379号に記載されているような炭酸亜鉛製造プロセスの原料として用いると、同一の製品生産能力でもその製造設備の規模が小さくなる。これは原料Zn濃度が大幅に高くなることで洗浄、溶解、精製などに用いる反応装置の大きさを小さくできることによる。また精製により除去されたFe分など残渣量が減ることにより、その製造コストが低減する。言い換えれば、亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する方法として、炭酸アンモニウム溶解法によってZn含有原料から高純度の炭酸亜鉛を晶出する高純度炭酸亜鉛を製造する方法を用いることが本願発明の効果をより活用する方法である。
【0051】
ただし、本発明の第二の工程後の亜鉛微粒子を多く含む部分の亜鉛源としての有効利用は、必ずしも炭酸亜鉛製造プロセスに制限されることなく、非鉄製錬メーカーに於ける再生亜鉛地金製造の原料などいかなる方法でも構わない。
【0052】
また、本発明の前記第二の工程後、得られる鉄粒子を多く含む部分の有効利用法としては、製鉄プロセスの何れかの工程、例えば乾燥後に高炉や転炉に直接戻すことでも構わないが、まだ、亜鉛が多少とも残留していることから、脱亜鉛機能の大きな還元炉にリサイクルして使用することが製鉄プロセス全体から見て好適である。
【0053】
以下、実施例に基づいて本願発明のより具体的な態様を説明する。
【実施例1】
【0054】
図5は、実施例1に係る処理フローを示す。同図において、本発明に基づく処理のためのダストはこの二次ダストをスラリー化し、亜鉛微粒子を鉄粒子集合体からミクロ状に剥離する第一の工程を超音波洗浄処理で行った後、得られたミクロ状に剥離の進んだスラリーを、亜鉛粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分を分離するためのマクロ状の分離を行うため湿式磁選を行った。
【0055】
表4には実施例1および比較例に用いたダストの組成および実施条件を示す。ダストは表4に記した鉄、亜鉛の組成の4種類のダストを使用した。何れも、製鉄プロセスから発生するダスト・スラッジを還元鉄とし製鉄プロセスに戻すために回転炉床式還元炉で処理する際に乾式集塵機で捕捉された二次ダストである。
【0056】
これらのダストをpH調整水でスラリー化した後、何れのダストも第一の工程として超音波処理を行う水準と、比較のため超音波処理を行わない水準の両方を行った。超音波洗浄を行った水準は、処理時間は全て10分間の条件とし、周波数は表4に示すよう28KHzから750KHzの5水準とした。
【0057】
第二の工程は、全て湿式磁力選別は電磁石を用いたフィルタータイプの湿式磁選装置を用いて行った。表4に示すように、0.3テスラ程度の強磁力と0.1テスラ程度の弱磁力の、磁力は2水準を設けた。
【0058】
磁選後の磁着側および非磁着側(残留側)をそれぞれ脱水、乾燥を行い、その後に分析を行った。
【0059】
図6と図7は、超音波洗浄の有無の両方のケースでの湿式磁選後のZnとFeのそれぞれの濃縮率を示す。図6は非磁着側のZn濃縮率(亜鉛回収側スラリーのZn質量%(ドライ)/処理前スラリーのZn質量%(ドライ))を、また、図7は磁着側のFe濃縮率(鉄回収側スラリーのFe質量%(ドライ)/処理前スラリーのFe質量%(ドライ))を示す。
【0060】
さらに、図8は、非磁着側のZn回収率(亜鉛回収側スラリー含有のZn質量(ドライ)/処理前スラリー含有のZn質量(ドライ))を示す。非磁着側のZn濃縮率は、超音波洗浄の有無によってあまり変化しなかったが、非磁着側のZn回収率は超音波洗浄を行うことにより大幅に改善され、ダスト組成によっては80〜90%以上の量比率で亜鉛回収ができた。また超音波洗浄により鉄分の含有量の少ないダストでは磁着側の鉄分の濃縮率が大きく改善された。すなわち、鉄源として再度還元炉に使用するために好ましい結果が得られたことが分かる。
【0061】
図6〜図8に示すように、超音波洗浄処理条件において、周波数750KHzの水準のみが超音波洗浄の効果が認められなかったのに対し、160KHz以下の周波数で洗浄したものは何れも効果が認められた。
【0062】
また超音波照射を行えば、磁力の強弱に係わらず、ともに良好な亜鉛〜鉄分離成績が得られた。即ち第一工程のミクロ状の剥離が良好に行われていれば、第二工程の湿式磁選は0.1テスラ程度の磁力で十分と判断される。
【実施例2】
【0063】
処理フローは実施例1の場合と同じある。pH調整実施のケースでは、ダストを懸濁する際にpHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液添加を行うことによりpH8〜10に調整を行った。
【0064】
pH調整有無双方とも、表5に記載の周波数で超音波処理を行い、その後に湿式磁選を行った。磁選の方式および磁力の強度は実施例1と同様である。
【0065】
図9および図10は、表5に示す超音波処理・湿式磁選後の非磁着側回収物のZnとFe含有量、および磁着側の回収物のZnとFe含有量を、pH調整有無の比較でそれぞれ示している。また、図11は、非磁着側の亜鉛回収率のpH調整有無の比較を示す図である。
【0066】
図9および図10から、磁選後の非磁着側および磁着側のZnあるいはFeの成分値(ドライ状態の質量%)は、それぞれのダストでpH調整有無による実験・分析誤差以上の有意な差異はないと判断された。カリウム、カルシウム、ナトリウムや塩素などの溶解挙動が淡水とpH8〜10のアルカリ水とで異なり、その結果、超音波洗浄による亜鉛微粒子のミクロ剥離挙動が異なるという懸念された現象はなかった。また、図11に示すように、磁選の非磁着側への亜鉛回収率は2〜5%向上して、pH調整を行うほうが好ましい効果が得られた。また実施例1の結果と同様に、磁選の磁力の強弱による差はないと判断された。
【実施例3】
【0067】
図12に示すように、超音波洗浄によるミクロな剥離後のマクロな亜鉛分離濃縮方法としてハイドロサイクロンを用いた例を示す。
【0068】
15%Zn−30%Fe組成の還元炉二次ダストを、44KHzの超音波を照射した場合と、照射しない場合の両方でハイドロサイクロンでの分離を行った。用いたハイドロサイクロンは、特許文献1と同様に負圧を利用しない通常タイプのサイクロンである。ハイドロサイクロンでは、上排出側に亜鉛を多く含む小粒度の部分が排出され、鉄分を多く含む比較的粒径の大きな部分が下側に排出された。図13に上排出側亜鉛濃縮率を、また、図14に上排出側の亜鉛回収率を示す。同図に示すように、何れも超音波照射実施のほうが好ましい値が得られた。これによって、超音波照射によるミクロな亜鉛微粒子剥離の場合は、第二工程のマクロ状の亜鉛濃縮法がハイドロサイクロンによる場合でも効果あることが判明した。
【実施例4】
【0069】
表6は、従来法、比較法および本発明法のそれぞれで5日間分操業した還元炉製品として、還元ペレットのZn値の比較を示す。還元炉は回転炉床式の還元炉である。
【0070】
原料および還元ペレットのサンプリングおよび分析は一日3回のシフト毎に1回実施した。
【0071】
従来法とは、図15に示す処理フローによるものであって、還元炉二次ダストの鉄分を有効利用せず、二次ダストを外部に委託処理するものである。当然ながら、二次ダストを全くリサイクルしていないので、還元炉製品のZn値は低い結果が得られた。Zn値の管理上限0.15%は1シフトも超えることはできなかった。
【0072】
比較法とは、特許文献1に記載の方法で亜鉛分離を行ったもので、下側排出物を還元炉にリサイクルする方法であり、図16にその処理フローを示す。前述のようにハイドロサイクロンだけの処理では亜鉛回収率が低いため、還元炉にリサイクルされる鉄分と共に亜鉛も多く再装入された結果、還元ペレットのZn値が高くなり、5日間の15シフト中の7シフトで管理上限0.15%を超えた。その結果各シフトの還元ペレットは高炉での使用時に配合制限を行わざるを得なかった。
【0073】
本発明の実施例は、図17に示す処理フローに基づくものである。二次ダストをスラリー化後、超音波洗浄を行い湿式磁選機で分離した磁着物質を還元炉に再装入を行った。スラリー濃度は12%で、周波数28KHzの超音波で洗浄を行い、ドラム式の湿式磁選機でマクロな分離を行った。
【0074】
従来法よりは、還元ペレットの亜鉛値は高くなったが、1シフトも管理上限0.15%を超えることはなかった。
【0075】
比較例の上排出側物質または本発明による非磁着側物質は、前記特許文献7に開示された炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造プロセスの原料とした。 何れも二次ダストを無処理で直接原料として使用するのに比べて、炭酸亜鉛製造時の精製残渣の発生量が少ない結果が得られた。その中でも本発明法の方が、より残渣発生原単位が少なかった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】還元炉二次ダストのSEM(Scanning Electron Microscope)観察結果を示す写真である。
【図2】SEM観察結果による還元炉ダストの構造を示す模式図である。
【図3】金属イオンの溶解度とpHの関係を示すグラフの一例である。
【図4】還元炉二次ダストのスラリーのpH値と液中Zn濃度の実績値を示すグラフである。
【図5】実施例1および実施例2の処理フローを示す図である。
【図6】実施例1の非磁着側のZn濃縮率を示すグラフである。
【図7】実施例1の磁着側のFe濃縮率を示すグラフである。
【図8】実施例1の非磁着側のZn回収率を示すグラフである。
【図9】実施例2の超音波処理・磁選後の非磁着側成分のpH調整有無による比較を示すグラフである。
【図10】実施例2の超音波処理・磁選後の磁着側成分のpH調整有無による比較を示すグラフである。
【図11】実施例2の超音波処理・磁選後の非磁着側Zn回収率のpH調整有無による結果比較を示すグラフである。
【図12】実施例3の処理フローを示す図である。
【図13】実施例3のサイクロン上排出側のZn濃縮率を示すグラフである。
【図14】実施例3のサイクロン上排出側のZn回収率を示すグラフである。
【図15】実施例4に対する従来法の処理フローを示す図である。
【図16】実施例4の比較法の処理フローを示す図である。
【図17】実施例4の本発明法の処理フローを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工程で発生する亜鉛含有のダストおよびスラリー中の鉄分の有効利用方法、とくに、亜鉛含有のダストおよびスラリーを脱亜鉛する還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄工程で発生する亜鉛含有のダストやスラリー中の鉄分を有効に回収するための還元処理には、回転炉床式還元炉やロータリーキルンなどの還元炉が用いられている。
【0003】
これらの還元炉で、転炉ダストのような酸化亜鉛を含む原料を還元する場合は、排ガス中から亜鉛を多く含むダストが回収される。例えば、ロータリーキルン式の還元炉からは、亜鉛を20〜50質量%、トータル鉄を10〜25質量%含むダストが回収される。また、回転炉床式還元炉では鉄含有物の飛散が少ないため、この還元炉からのダストは亜鉛比率が高く、亜鉛を30〜60質量%、トータル鉄を2〜15質量%含むダストが回収される。
【0004】
この亜鉛含有二次ダストからは、金属亜鉛や炭酸亜鉛が製造される。しかし、この亜鉛含有二次ダストは、亜鉛以外の不純物を多く含み、亜鉛濃度が低いことから、亜鉛製品原料や金属亜鉛原料を製造するためのコストが多く掛かるという問題がある。
【0005】
この問題解決のために、不純物を除去して亜鉛の純度を高める濃縮方法が特許文献1に開示されている。これは、亜鉛を含む還元性金属酸化物を還元処理する回転炉床式還元炉やロータリーキルンなどの還元炉から発生する亜鉛含有ダストと水とを混合してスラリーとし、次いで、このスラリー中の粉体の粒子径や比重の違いを利用して、ハイドロサイクロンのような湿式分離装置によって亜鉛濃縮粉体のスラリーと亜鉛の少ない粉体のスラリーとに分離する方法である。
【0006】
また、特許文献2には、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストの他の不純物除去、亜鉛濃縮方法の例として、製鉄ダストを還元焼成する際に発生する含亜鉛製鉄二次ダストを水でリパルプして可溶性塩類を溶出せしめた後、湿式磁選を行って磁着物を分離し、次いで該パルプを固液分離して亜鉛を含む非磁性物とハロゲン化合物をそれぞれ回収分離するものである。
【0007】
また、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストでなく、高炉から発生するダストの亜鉛濃縮あるいは亜鉛除去の方法も多々提案されている。
【0008】
例えば、特許文献3には、スラリー状の高炉ガス灰に分散剤を投入し次いで超音波を照射することにより含亜鉛量の高いスラリーと含亜鉛量の低いスラリーに分離せしめる高炉ガス灰の処理方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、スラリー状の高炉ダストに分散剤を加え、次いで超音波を照射して該スラリーに含まれるダスト粒子を分散させたまま負圧利用の湿式サイクロンに導いて亜鉛含有量の高いスラリーと低いスラリーに分離する高炉ダストの処理方法が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献5には、ノズルを介して高圧水を容器内へ噴射するとともに、そのノズルからの高圧水に吸引させた空気を噴射水に取り込んで、容器内に水と空気の二流体噴射流を発生させる工程と、容器内のこの二流体噴射流に、スラリー状の高炉ダストを添加して、二流体噴射流の有する攪拌力により、高炉ダストの粒子に付着している亜鉛含有量の高い部分を粒子から剥離させる工程を有する高炉ダストの脱亜鉛方法が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献6には、ダストを発生する炉の形式を特定せず、亜鉛の回収率を向上させる方法として、例えば、中心軸を横に向け、その中心軸の回りに回転運動すると共に、中心軸に直交する2方向に往復運動する回転ドラム内に、Znが付着したダストを連続的に投入して回転ドラムの中心軸方向に送り、回転ドラムから連続的に排出されるダストを湿式サイクロンにより連続分級処理するダスト処理方法が示されている。
【0012】
また、特許文献7には、本発明が適用できる炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造プロセスが開示されている。
【0013】
先述の特許文献2には、還元炉から発生する亜鉛含有二次ダストの可溶性塩類を溶出せしめるために水でリパルプすることが示されているが、このようなリパルプの際に亜鉛の溶出ロスを抑えるためpHを調整することが行われる。これは非特許文献1に示されるように、亜鉛が両性金属ゆえpHが9〜10程度で水溶液への溶出量が最低となるという化学の一般的知見に基づくものである。
【0014】
さらに、非特許文献2には、特許文献1などで使用されるハイドロサイクロンの設計50%分級粒径d50* [単位マイクロメーター]を計算する方法が示されている。
【特許文献1】特開2005−21841
【特許文献2】特開昭55−104434
【特許文献3】特開昭52−002807
【特許文献4】特開昭53−081479
【特許文献5】特開平10−317018
【特許文献6】特開平5−132724
【特許文献7】特許第737379号
【非特許文献1】公害防止技術と法規編集委員会編集、「新公害防止の技術と法規[水質編]2006」、(社)日本産業環境管理協会発行
【非特許文献2】化学工学協会;化学工学便覧第4版、昭和39年、丸善
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、前記特許文献1に記載の還元炉から発生する二次ダストから亜鉛を回収する方法は、(ドライ状態での亜鉛回収スラリー中のZn質量%/ドライ状態での処理前スラリーのZn質量%)によって示される亜鉛濃縮率は1.3〜1.9倍とされている。しかしながら、二次ダスト中に含有される亜鉛総量中どれだけの亜鉛を分離回収できたを示す亜鉛回収率は示されていない。出願人は、この特許文献1と同様の方法で追試を行ったところ、亜鉛回収率は60%前後であった。この亜鉛回収率は、特許文献3,特許文献4,特許文献5に記載の高炉ダストからの亜鉛回収方法による亜鉛回収率の実績値70〜90%に比して低い。
【0016】
このように、亜鉛回収率が低いと、鉄分の多い残留物を再度還元炉に利用した場合に装入亜鉛総量が増え、その結果、還元炉の主製品である還元鉄の亜鉛含有値が高くなって高炉での使用の際、持ち込まれる亜鉛総量が増加することになる。その結果、還元鉄の亜鉛値レベルを抑えるためには、残留物全量を還元炉へ使用できず鉄源が有効利用できず、また、得られた還元鉄を高炉で使用する際、その使用量に制限を受けることになる。
【0017】
また、特許文献2においても、その実施例の記載によると亜鉛回収率は63%と、通常の高炉ダストの亜鉛回収方法であるZn回収率70〜90%に比べると低い。
【0018】
さらに、特許文献6の場合のように、高炉ダストに限定されないZn付着ダスト全般に関して亜鉛と鉄との分離技術も幾つか提案されているが、20〜60%のような高Zn含有値で、かつ塩類成分が10〜20%も付着した還元炉ダストの脱亜鉛に実質的に適用されるような技術は知られていない。
【0019】
本願発明の課題は、製鉄工程で発生する鉄および亜鉛含有のダスト、スラジ等の副生成物を還元する還元炉において発生した亜鉛含有量および塩類含有量が高い二次ダストから亜鉛を回収するに当たって、亜鉛濃縮率とともに亜鉛回収率を上げることができる実用的な亜鉛回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、製鉄工程で発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉において発生する亜鉛含有二次ダストの亜鉛回収率の向上をダストのミクロな構造解析に基づいて完成したものである。
【0021】
図1は、還元炉において発生するいわゆる還元炉二次ダストのSEM写真である。
【0022】
図2は、SEM写真、定量分析結果等から、模式的に示す還元炉二次ダストのミクロ構造を示す。同図に示すように、還元炉二次ダストのミクロ構造は、金属元素としてFe分を主体とする数μないし数十μの大きさを持つベース粒子の上に、1μ以下の非常に微細なZn分を主体とする非溶解の粒子が付着しており、さらに、表面にはカリウム、カルシウム、ナトリウム、塩素などの塩類が付着している構造である。
【0023】
表1は、この様な還元炉二次ダストのミクロ構造と、高炉ダストのミクロ構造との比較を示す。同表に示すように高炉ダストと還元炉ダストの組成、大きさなどが大幅に異なる。すなわち、還元炉の二次ダストは高炉ダストに比して、亜鉛微粒子の付着量がはるかに多く、その付着粒子の大きさも、1μ以下と非常に微細である。
【0024】
また、表2は、還元炉の二次ダストの分析例を示す。同表に示すように、亜鉛微粒子と共にカリウム、カルシウム、ナトリウム、塩素などの塩類成分が合計10〜20%程度も含有されているが、それらの大半は、図2の模式図に示すように、亜鉛微粒子とともに表面に付着しており、ベース粒子からの微細なZn分を主体とする粒子を剥離することが高炉ダストに比べてより難しい。
【0025】
また、その後のFeを主体とする粒子を集めた部分とZnを主体とする粒子を集めた部分をマクロに分離することも、Znを主体とする粒子が非常に微細であるだけより難しいという問題がある。
【0026】
本発明に係る還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法に係る基本的な方法は、製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉で発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で、亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状で剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状で分離する第二の工程と、分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用し、または、分離された鉄粒子を多く含む部分を製鉄原料として利用する第三の工程の三工程を順次行うことである。
【0027】
本発明において、「ミクロ状で剥離する」および「マクロ状で分離する」とは、それぞれ以下の事項を意味する。
【0028】
すなわち、「ミクロ状で剥離する」とは、還元炉で発生した二次ダストは、前述のとおりの図2に示すミクロ構造を有しており、このミクロ構造において、金属元素としてFe分を主体とするベース粒子から、非常に微細なZn分を主体とする粒子を、かかるミクロ状態の構造で物理的に剥離することである。この亜鉛微粒子の鉄粒子集合体からのミクロ状態の剥離は、ミクロ状態での剥離が実質的に行えればどんな方法でも良いが、撹拌翼などを用いた機械的な強撹拌、分散剤を併用しての撹拌洗浄、超音波洗浄などによって行う。
【0029】
また、「マクロ状で分離する」とは、「ミクロ状で剥離」されたZn分を主体とする粒子の集合体とFe分を主体とするベース粒子の集合体をマクロ状態で物理的に分離することである。本発明において、このマクロ状に分離する手段としては、湿式磁選法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱、その他の分離法が適用できる。
【0030】
実質的なミクロ状の剥離状況、すなわち、亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からのミクロ状の剥離の結果の確認とその評価は、前述のSEM等による直接観察のみならず、粒度分布調査による評価や、第二工程のマクロ状の分離結果からの逆評価でも可能である。実質的に評価できる方法なら何でも良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって以下の効果を奏する。
【0032】
還元炉二次ダストからの亜鉛回収総量が増加することにより、亜鉛の有効活用量が増え、資源の有効活用とコスト削減に寄与する。
【0033】
従来の方法よりZn回収率が向上することにより亜鉛回収後の残留鉄分側の亜鉛含有量が減少する結果、高炉への持込亜鉛総量の制約のある下でも残留鉄分の再利用が容易になり、同様に、資源の有効活用とコスト削減が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に基づいて、還元炉からの二次ダストの最初の処理は、還元炉から発生する二次ダストを淡水またはpH調整水に懸濁してpHを8以上10以下に調整しスラリーとした上で、第一の工程と第二の工程の処理を行う。その際に前記pHを維持するために必要であれば、ソーダ灰や水酸化ナトリウムなどのアルカリ性薬剤の添加も行う。スラリー化の際の配合割合は、液重量100に対してダスト重量3〜35程度であり、好ましくは、液重量100に対してダスト重量が5〜15の範囲である。これらの配合比を外れても処理できない訳ではないが、ダスト重量が少ない側、すなわち、希釈側は、装置が大きくなり設備費が高くなる。ダスト重量が多い側、すなわち、濃厚側は塩類の洗浄効率や超音波照射効率が低下し、スラリーの均一化や移送などのハンドリングが難しくなる。また磁選の際にマクロな分離の効率が低下する。
【0035】
本発明の第1の工程である図2に示す鉄粒子集合体からのミクロ状態の亜鉛微粒子の剥離において、機械的な強撹拌手段として、撹拌エネルギー密度12w/m3で撹拌しながら2時間洗浄した場合の、多数のベース粒子についてのSEMの観察結果を表3に示す。この表3から、単なるスラリー化のみの場合に較べて、強撹拌の場合の微粒子の剥離が進んでいることがわかる。
【0036】
また、同じく鉄粒子集合体からのミクロ状態の亜鉛微粒子の剥離にスラリーに超音波を照射する手段は、効率および効果、しいては処理コストの面から最も好適である。具体的にはダストを液に投入してスラリー化して、さらに十分に撹拌して懸濁させた状態で、超音波を照射する。
【0037】
とくに、超音波の周波数は160KHz以下が好適である。下限側は特に規定しないが、通常市販されている超音波発信機や発信子の下限側が20ないし25KHz程度であるから、実質的にはこれ以上となる。160KHzまでは大きな差異がない。ただし、750KHzでは効果が著しく低下する。したがって、160KHzまでなら好適な結果が得られる範囲といえる。
【0038】
超音波洗浄の処理時間は0.5分から10分程度が好適であり、1.6分から10分程度がより好適な範囲である。短すぎると剥離が不十分であり、特に0.5分より短くすると急激に効果が減少する。10分程度までは効果が向上するが、10分を越えて長い処理をしても効果が殆ど向上せず、工業的な価値がない。
【0039】
この超音波洗浄の際にヘキサメタリン酸ナトリウムなどの分散剤を併用することは、使用しない場合との有意差が認められず、コストを掛けて使用する必要はない。逆に有機系の分散剤は、亜鉛微粒子を多く含む部分を塩基性炭酸亜鉛の原料とする場合には、その塩基性炭酸亜鉛の用途によっては僅かに残留した有機物成分が問題となる場合もあるので、使用しないことが好ましい。
【0040】
このように、本発明に係る還元炉の二次ダストの亜鉛剥離に関しては、高炉ダストの処理に好適と言われる超音波処理条件とは異なる条件となる。これは表1に示すように対象となるダスト成分、性状が異なるためである。
【0041】
第一の剥離工程の超音波処理およびその後のマクロ状の分離濃縮を行う第二の工程でのスラリーのpHを8から10の範囲にすることが、超音波による亜鉛微粒子の剥離あるいは剥離後のマクロ状の亜鉛濃縮に悪影響することがなく、Zn回収率の向上に寄与する。
【0042】
図3は、各種金属のpHとの関連での水溶液への溶出量を示す。亜鉛は両性金属であるために、pHが9〜10程度で水溶液への溶出量が最低となる。この溶出量が最低となるpH域において、NaやKやClなどの成分を多く含む還元炉ダストに対して、pH調整を、代表的なアルカリであるソーダ灰、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどで行うと、液中のNaイオンやKイオンが増加し、これによりNaやKの溶解速度は遅くなることが考えられ、それらと共に大きなFe粒子の周りに付着しているZn微粒子を超音波洗浄で剥離する場合には不利な方向となる。
【0043】
これらの懸念に対し、本願発明者は、後述の実施例のように実際に処理を行った結果、以下のようにミクロ状の剥離およびマクロ状の分離挙動に影響を受けずに溶解ロスを抑えて亜鉛回収率が向上することを発見した。すなわち、pHを9〜10程度の領域に調整したスラリーでも、pH調整を行わないスラリーと比較して、超音波洗浄などによるミクロ状の剥離効果、その結果としての湿式磁選などによるマクロ状の亜鉛分離の効果が影響を受けないことを発見した。
【0044】
図4は、還元炉二次ダストのスラリーのpH値と液中のZn濃度の関係を示す。同図に示すように、pH調整範囲の下限側は、pHが8以上あればZnの溶解濃度は充分である。還元炉発生二次ダストのスラリーの場合、理論値からは多少値の偏倚はあるがpHが8以上となればスラリー溶液中へのZnの溶解量が10ppmを切り、pH調整をしない場合のpHが7前後でのZn溶解量の100〜1000ppm以上と比較すると溶解ロス量は1/100のオーダーとなる。pHが高い側の10を上回る範囲もなお溶解量が少なくロス防止の観点からは良好ではあるが、pH調整用アルカリ薬剤の使用量が対数的に増加し、経済的に好ましくない。このため、実施上は、pHは10が上限となる。また、経済的な観点からはpH9以下とすることが好ましいが、不純物成分を多量に含む還元炉二次ダストはpH変動が予期しがたく、アルカリ性薬剤によるpH制御が難しいので、pH範囲としては、下限の8から2.0幅程度が最低必要である。
【0045】
本発明において、第二の工程である亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する手段としての湿式の磁力選別の適用は、簡易で確実な分離効果、すなわち、亜鉛濃縮効果が得られることから、最も、好適な方法の一つである。また、スラリーを充分に撹拌して懸濁した状態での磁力選別の適用は、使用する磁選機械の形式や種類による磁着部の面積に応じた磁選時間の確保を前提とする限り、湿式磁力選別条件や磁力選別機の型式には特に制約がない。その実施に際しては、強磁場である必要でなく、0.1〜0.2テスラ程度あれば十分である。
【0046】
ハイドロサイクロンも、また同様に第二の工程として好適なマクロ状の分離方法である。ハイドロサイクロンによる亜鉛と鉄の分離は、超音波処理などのミクロ状の剥離処理を行った後に行うと、前述のスラリーのミクロ状の剥離なしでハイドロサイクロン分離に供するに比較して良好な分離結果が得られる。使用するハイドロサイクロンとしては、とくに負圧利用のハイドロサイクロンや、磁場を有するハイドロサイクロンを使用する必要はなく、上下の排出側が大気開放されている通常のハイドロサイクロンで十分である。
【0047】
しかしながら、還元炉二次ダストから剥離された亜鉛粒子の粒度を考慮すると、下記の1式で算出された50%分級粒径d50* [マイクロメーター]を10マイクロ以下に設計したハイドロサイクロンを使用することがより好ましい。
【0048】
【数1】
【0049】
また、本発明を適用する還元炉の型式は、炉内で脱亜鉛現象が発生する還元炉であれば、回転炉床式還元炉、ロータリーキルン式還元炉、その他の形式の炉でも構わない。しかし、回転炉床式還元炉では炉内での鉄からの脱亜鉛率が80〜97%と高く、その結果その二次ダスト中の亜鉛含有量も高いので、資源有効活用の観点から効果を奏する。つまりは、本発明を適用する還元炉の形式としては回転炉床式還元炉が好適である。
【0050】
本発明において、第一と第二の工程を経て、亜鉛微粒子を多く含む部分を、例えば、特許第737379号に記載されているような炭酸亜鉛製造プロセスの原料として用いると、同一の製品生産能力でもその製造設備の規模が小さくなる。これは原料Zn濃度が大幅に高くなることで洗浄、溶解、精製などに用いる反応装置の大きさを小さくできることによる。また精製により除去されたFe分など残渣量が減ることにより、その製造コストが低減する。言い換えれば、亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する方法として、炭酸アンモニウム溶解法によってZn含有原料から高純度の炭酸亜鉛を晶出する高純度炭酸亜鉛を製造する方法を用いることが本願発明の効果をより活用する方法である。
【0051】
ただし、本発明の第二の工程後の亜鉛微粒子を多く含む部分の亜鉛源としての有効利用は、必ずしも炭酸亜鉛製造プロセスに制限されることなく、非鉄製錬メーカーに於ける再生亜鉛地金製造の原料などいかなる方法でも構わない。
【0052】
また、本発明の前記第二の工程後、得られる鉄粒子を多く含む部分の有効利用法としては、製鉄プロセスの何れかの工程、例えば乾燥後に高炉や転炉に直接戻すことでも構わないが、まだ、亜鉛が多少とも残留していることから、脱亜鉛機能の大きな還元炉にリサイクルして使用することが製鉄プロセス全体から見て好適である。
【0053】
以下、実施例に基づいて本願発明のより具体的な態様を説明する。
【実施例1】
【0054】
図5は、実施例1に係る処理フローを示す。同図において、本発明に基づく処理のためのダストはこの二次ダストをスラリー化し、亜鉛微粒子を鉄粒子集合体からミクロ状に剥離する第一の工程を超音波洗浄処理で行った後、得られたミクロ状に剥離の進んだスラリーを、亜鉛粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分を分離するためのマクロ状の分離を行うため湿式磁選を行った。
【0055】
表4には実施例1および比較例に用いたダストの組成および実施条件を示す。ダストは表4に記した鉄、亜鉛の組成の4種類のダストを使用した。何れも、製鉄プロセスから発生するダスト・スラッジを還元鉄とし製鉄プロセスに戻すために回転炉床式還元炉で処理する際に乾式集塵機で捕捉された二次ダストである。
【0056】
これらのダストをpH調整水でスラリー化した後、何れのダストも第一の工程として超音波処理を行う水準と、比較のため超音波処理を行わない水準の両方を行った。超音波洗浄を行った水準は、処理時間は全て10分間の条件とし、周波数は表4に示すよう28KHzから750KHzの5水準とした。
【0057】
第二の工程は、全て湿式磁力選別は電磁石を用いたフィルタータイプの湿式磁選装置を用いて行った。表4に示すように、0.3テスラ程度の強磁力と0.1テスラ程度の弱磁力の、磁力は2水準を設けた。
【0058】
磁選後の磁着側および非磁着側(残留側)をそれぞれ脱水、乾燥を行い、その後に分析を行った。
【0059】
図6と図7は、超音波洗浄の有無の両方のケースでの湿式磁選後のZnとFeのそれぞれの濃縮率を示す。図6は非磁着側のZn濃縮率(亜鉛回収側スラリーのZn質量%(ドライ)/処理前スラリーのZn質量%(ドライ))を、また、図7は磁着側のFe濃縮率(鉄回収側スラリーのFe質量%(ドライ)/処理前スラリーのFe質量%(ドライ))を示す。
【0060】
さらに、図8は、非磁着側のZn回収率(亜鉛回収側スラリー含有のZn質量(ドライ)/処理前スラリー含有のZn質量(ドライ))を示す。非磁着側のZn濃縮率は、超音波洗浄の有無によってあまり変化しなかったが、非磁着側のZn回収率は超音波洗浄を行うことにより大幅に改善され、ダスト組成によっては80〜90%以上の量比率で亜鉛回収ができた。また超音波洗浄により鉄分の含有量の少ないダストでは磁着側の鉄分の濃縮率が大きく改善された。すなわち、鉄源として再度還元炉に使用するために好ましい結果が得られたことが分かる。
【0061】
図6〜図8に示すように、超音波洗浄処理条件において、周波数750KHzの水準のみが超音波洗浄の効果が認められなかったのに対し、160KHz以下の周波数で洗浄したものは何れも効果が認められた。
【0062】
また超音波照射を行えば、磁力の強弱に係わらず、ともに良好な亜鉛〜鉄分離成績が得られた。即ち第一工程のミクロ状の剥離が良好に行われていれば、第二工程の湿式磁選は0.1テスラ程度の磁力で十分と判断される。
【実施例2】
【0063】
処理フローは実施例1の場合と同じある。pH調整実施のケースでは、ダストを懸濁する際にpHを測定しながら水酸化ナトリウム水溶液添加を行うことによりpH8〜10に調整を行った。
【0064】
pH調整有無双方とも、表5に記載の周波数で超音波処理を行い、その後に湿式磁選を行った。磁選の方式および磁力の強度は実施例1と同様である。
【0065】
図9および図10は、表5に示す超音波処理・湿式磁選後の非磁着側回収物のZnとFe含有量、および磁着側の回収物のZnとFe含有量を、pH調整有無の比較でそれぞれ示している。また、図11は、非磁着側の亜鉛回収率のpH調整有無の比較を示す図である。
【0066】
図9および図10から、磁選後の非磁着側および磁着側のZnあるいはFeの成分値(ドライ状態の質量%)は、それぞれのダストでpH調整有無による実験・分析誤差以上の有意な差異はないと判断された。カリウム、カルシウム、ナトリウムや塩素などの溶解挙動が淡水とpH8〜10のアルカリ水とで異なり、その結果、超音波洗浄による亜鉛微粒子のミクロ剥離挙動が異なるという懸念された現象はなかった。また、図11に示すように、磁選の非磁着側への亜鉛回収率は2〜5%向上して、pH調整を行うほうが好ましい効果が得られた。また実施例1の結果と同様に、磁選の磁力の強弱による差はないと判断された。
【実施例3】
【0067】
図12に示すように、超音波洗浄によるミクロな剥離後のマクロな亜鉛分離濃縮方法としてハイドロサイクロンを用いた例を示す。
【0068】
15%Zn−30%Fe組成の還元炉二次ダストを、44KHzの超音波を照射した場合と、照射しない場合の両方でハイドロサイクロンでの分離を行った。用いたハイドロサイクロンは、特許文献1と同様に負圧を利用しない通常タイプのサイクロンである。ハイドロサイクロンでは、上排出側に亜鉛を多く含む小粒度の部分が排出され、鉄分を多く含む比較的粒径の大きな部分が下側に排出された。図13に上排出側亜鉛濃縮率を、また、図14に上排出側の亜鉛回収率を示す。同図に示すように、何れも超音波照射実施のほうが好ましい値が得られた。これによって、超音波照射によるミクロな亜鉛微粒子剥離の場合は、第二工程のマクロ状の亜鉛濃縮法がハイドロサイクロンによる場合でも効果あることが判明した。
【実施例4】
【0069】
表6は、従来法、比較法および本発明法のそれぞれで5日間分操業した還元炉製品として、還元ペレットのZn値の比較を示す。還元炉は回転炉床式の還元炉である。
【0070】
原料および還元ペレットのサンプリングおよび分析は一日3回のシフト毎に1回実施した。
【0071】
従来法とは、図15に示す処理フローによるものであって、還元炉二次ダストの鉄分を有効利用せず、二次ダストを外部に委託処理するものである。当然ながら、二次ダストを全くリサイクルしていないので、還元炉製品のZn値は低い結果が得られた。Zn値の管理上限0.15%は1シフトも超えることはできなかった。
【0072】
比較法とは、特許文献1に記載の方法で亜鉛分離を行ったもので、下側排出物を還元炉にリサイクルする方法であり、図16にその処理フローを示す。前述のようにハイドロサイクロンだけの処理では亜鉛回収率が低いため、還元炉にリサイクルされる鉄分と共に亜鉛も多く再装入された結果、還元ペレットのZn値が高くなり、5日間の15シフト中の7シフトで管理上限0.15%を超えた。その結果各シフトの還元ペレットは高炉での使用時に配合制限を行わざるを得なかった。
【0073】
本発明の実施例は、図17に示す処理フローに基づくものである。二次ダストをスラリー化後、超音波洗浄を行い湿式磁選機で分離した磁着物質を還元炉に再装入を行った。スラリー濃度は12%で、周波数28KHzの超音波で洗浄を行い、ドラム式の湿式磁選機でマクロな分離を行った。
【0074】
従来法よりは、還元ペレットの亜鉛値は高くなったが、1シフトも管理上限0.15%を超えることはなかった。
【0075】
比較例の上排出側物質または本発明による非磁着側物質は、前記特許文献7に開示された炭酸アンモニウム溶解法による炭酸亜鉛製造プロセスの原料とした。 何れも二次ダストを無処理で直接原料として使用するのに比べて、炭酸亜鉛製造時の精製残渣の発生量が少ない結果が得られた。その中でも本発明法の方が、より残渣発生原単位が少なかった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】還元炉二次ダストのSEM(Scanning Electron Microscope)観察結果を示す写真である。
【図2】SEM観察結果による還元炉ダストの構造を示す模式図である。
【図3】金属イオンの溶解度とpHの関係を示すグラフの一例である。
【図4】還元炉二次ダストのスラリーのpH値と液中Zn濃度の実績値を示すグラフである。
【図5】実施例1および実施例2の処理フローを示す図である。
【図6】実施例1の非磁着側のZn濃縮率を示すグラフである。
【図7】実施例1の磁着側のFe濃縮率を示すグラフである。
【図8】実施例1の非磁着側のZn回収率を示すグラフである。
【図9】実施例2の超音波処理・磁選後の非磁着側成分のpH調整有無による比較を示すグラフである。
【図10】実施例2の超音波処理・磁選後の磁着側成分のpH調整有無による比較を示すグラフである。
【図11】実施例2の超音波処理・磁選後の非磁着側Zn回収率のpH調整有無による結果比較を示すグラフである。
【図12】実施例3の処理フローを示す図である。
【図13】実施例3のサイクロン上排出側のZn濃縮率を示すグラフである。
【図14】実施例3のサイクロン上排出側のZn回収率を示すグラフである。
【図15】実施例4に対する従来法の処理フローを示す図である。
【図16】実施例4の比較法の処理フローを示す図である。
【図17】実施例4の本発明法の処理フローを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉から発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する第二の工程と、分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する第三の工程の三工程を順次行う還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項2】
製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉から発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する第二の工程と、分離された鉄粒子を多く含む部分を製鉄原料として利用する第三の工程の三工程を順次行う還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項3】
第一の工程において、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する手段が、撹拌翼などを用いた機械的な強撹拌、分散剤を併用しての撹拌洗浄、超音波洗浄の何れかである請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項4】
超音波洗浄において照射する超音波の周波数が160KHz以下である請求項3に記載の鉄および亜鉛含有の製鉄工程副産物の有効活用方法。
【請求項5】
第二の工程において、亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する手段が、湿式磁選法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱の何れかである請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項6】
第一の工程および第二の工程におけるスラリーのpH範囲が、8以上10以下である請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項7】
還元炉が、回転炉床式還元炉である請求項1から請求項6に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項8】
分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する第三の工程が、炭酸アンモニウム溶解法によってZn含有原料から高純度の炭酸亜鉛を晶出する高純度炭酸亜鉛を製造する方法である請求項1に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項9】
分離された鉄粒子を多く含む部分の利用方法が、還元炉に装入することにより鉄分を製鉄原料として再度有効利用する方法である請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項1】
製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉から発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する第二の工程と、分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する第三の工程の三工程を順次行う還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項2】
製鉄工程から発生する鉄および亜鉛含有の副生物を還元する還元炉から発生した二次ダストを、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する第一の工程と、その亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する第二の工程と、分離された鉄粒子を多く含む部分を製鉄原料として利用する第三の工程の三工程を順次行う還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項3】
第一の工程において、液体に懸濁したスラリーとした上で亜鉛含有量の多い微粒子を鉄含有量の多い大きな粒子からミクロ状に剥離する手段が、撹拌翼などを用いた機械的な強撹拌、分散剤を併用しての撹拌洗浄、超音波洗浄の何れかである請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項4】
超音波洗浄において照射する超音波の周波数が160KHz以下である請求項3に記載の鉄および亜鉛含有の製鉄工程副産物の有効活用方法。
【請求項5】
第二の工程において、亜鉛微粒子を多く含む部分と鉄粒子を多く含む部分をマクロ状に分離する手段が、湿式磁選法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱の何れかである請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項6】
第一の工程および第二の工程におけるスラリーのpH範囲が、8以上10以下である請求項1または請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項7】
還元炉が、回転炉床式還元炉である請求項1から請求項6に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項8】
分離された亜鉛微粒子を多く含む部分を亜鉛原料として利用する第三の工程が、炭酸アンモニウム溶解法によってZn含有原料から高純度の炭酸亜鉛を晶出する高純度炭酸亜鉛を製造する方法である請求項1に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【請求項9】
分離された鉄粒子を多く含む部分の利用方法が、還元炉に装入することにより鉄分を製鉄原料として再度有効利用する方法である請求項2に記載の還元炉から発生する二次ダストの鉄分および亜鉛分の有効利用方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
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【図1】
【図2】
【公開番号】特開2009−191305(P2009−191305A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31680(P2008−31680)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000253226)濱田重工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000253226)濱田重工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
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