説明

還元鉄製造用炭材内装塊成化物およびそれを用いた還元鉄製造方法

【課題】還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物であって、製造された還元鉄が、炭素を十分に含有しつつ、より高い圧潰強度を備えるような炭材内装塊成化物、および、それを用いた還元鉄の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物であって、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量が7〜15質量%、MgO含有量が0.1〜6質量%、Al/SiOの質量比が0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比が0.25〜2.0であり、かつ、製造された還元鉄中にCが1〜9質量%残留するようなC含有量である還元鉄製造用炭材内装塊成化物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物およびそれを用いた還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭材内装塊成化物を回転炉床炉で加熱還元して還元鉄を製造する技術については種々の技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
ところで、製造された還元鉄は、高炉や転炉、電気炉などの鉄原料として使用されるが、炉のエネルギ効率を改善するためできるだけ高C含有量で、かつ、粉化を防止するためできるだけ高強度のものが望まれる。これらの炉で使用できる還元鉄の強度を評価する指標として一般的に圧潰強度が用いられる。高炉の原料として使用する場合には、回転炉床炉から排出されて高炉に装入されるまでのハンドリングと、高炉内での装入物荷重の圧力に耐えるのに推奨される圧潰強度として180kgf/個(約1760N/個)以上が要求される。転炉や電気炉の原料として使用する場合には、炉内での荷重圧力を考慮する必要がないため高炉の原料として使用する場合よりも低い圧潰強度でよいが、還元鉄の汎用化の面から、できるだけ高いC含有量で、かつ、180kgf/個(約1760N/個)以上の圧潰強度が得られる技術の確立が要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−269978号公報
【特許文献2】特開2009−35820号公報
【特許文献3】特開2009−52138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物であって、製造された還元鉄が、炭素を十分に含有しつつ、より高い圧潰強度を備えるような炭材内装塊成化物、および、それを用いた還元鉄の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物であって、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量が7〜15質量%、MgO含有量が0.1〜6質量%、Al/SiOの質量比が0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比が0.25〜2.0であり、かつ、製造された還元鉄中にCが1〜9質量%残留するようなC含有量であることを特徴とする還元鉄製造用炭材内装塊成化物である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記炭材内装塊成化物の気孔率を37.5%以下とする請求項1に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記炭材内装塊成化物中に含まれる炭材の、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による平均粒径d50を30μm以下とする請求項1または2に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、少なくとも製鉄ダストを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物を、移動炉床炉で加熱し還元して還元鉄を製造する方法であって、前記移動炉床炉は炉床の移動方向に複数のゾーンに分割され、その最終ゾーンが酸化性雰囲気であることを特徴とする還元鉄製造方法である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記最終ゾーンの酸化性雰囲気が、ガス酸化度ODで1.0以上である請求項5に記載の還元鉄製造装置である。
ここに、OD=(CO+HO+2O)/(CO+HO+O+CO+H)[ただし、CO、HO、O、COおよびHの単位は容量%]である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭材内装塊成化物中のスラグ成分の組成および還元後の製品還元鉄中の残留C量を特定の範囲とすることで、炭素を十分に含有しつつ、より高い圧潰強度を備えた還元鉄が製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】還元鉄の圧潰強度に及ぼす炭材内装ブリケットのスラグ成分組成の影響を示すグラフ図である。
【図2】炭材内装ブリケットのスラグ成分と液相線温度との関係を説明するためのFeO−CaO−Al−SiO系状態図である。
【図3】炭材内装ブリケットのスラグ成分と液相線温度との関係を説明するためのMgO−CaO−Al−SiO系状態図である。
【図4】炭材内装ブリケットの還元後の内部構造を示す断面図であり、(a)は還元性雰囲気下、(b)は酸化性雰囲気下のものである。
【図5】還元鉄中のC含有量と還元鉄の圧潰強度との関係を示すグラフ図である。
【図6】炭材内装ブリケットの気孔率と還元鉄の圧潰強度との関係を示すグラフ図である。
【図7】高炉湿ダストの粒度分布を示すグラフ図である。
【図8】高炉湿ダストを電子顕微鏡で観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
本発明は、炭材内装ブリケットC中のスラグ成分組成および炭素含有量を所定の範囲とすることを特徴とし、これにより、高炉や電気炉、転炉などの鉄原料としてより適した、炭素を十分に含有しつつ、圧潰強度がさらに高められた製品還元鉄が得られる。
【0016】
具体的には、炭材内装ブリケットCとして、該炭材内装ブリケットC中における、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量を7〜15質量%、MgO含有量を0.1〜6質量%、Al/SiOの質量比を0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比を0.25〜2.0(より好ましくは0.25〜1.5、特に好ましくは0.25〜1.0)とするとともに、該炭材内装ブリケットCを還元して得られた製品還元鉄F中にCが1〜9質量%残留するように該炭材内装ブリケットC中のC含有量を調整したものを用いるのが好ましい。
【0017】
以下に、上記各パラメータの数値限定根拠を説明する。
【0018】
<炭材内装ブリケット中における、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量を7〜15質量%>
炭材内装ブリケットC中における、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量は、炭材内装ブリケットC中のスラグ成分含有量にほぼ相当する。炭材内装ブリケットC中のスラグ成分含有量が低すぎるとスラグ成分の溶融化による金属鉄の焼結促進効果が発現できなくなる。一方、炭材内装ブリケットC中のスラグ成分含有量が高すぎると、還元後の還元鉄F中のスラグ含有量が高くなりすぎて金属鉄の焼結反応を阻害して強度を低下するように作用するとともに、鉄品位が低下する。炭材内装ブリケットC中における、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量の好適範囲は、7〜15質量%である。
【0019】
なお、下記の加熱還元試験に用いた炭材内装ブリケットCの、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量はいずれも7〜15質量%の範囲にあった。
【0020】
<MgO含有量を0.1〜6質量%>
MgO含有量が高くなると、スラグの融点が高くなり、スラグの溶融量が減少し、後述の還元鉄Fの強度発現作用を十分に発揮し得なくので、MgO含有量の上限は6質量%とした。一方、製鉄ダスト中には不可避的にMgO成分が含まれることから、MgO含有量の下限は0.1質量%とした。
【0021】
なお、下記の加熱還元試験に用いた炭材内装ブリケットCのMgO含有量はいずれも0.1〜6質量%の範囲にあった。
【0022】
<Al/SiOの質量比を0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比を0.25〜2.0(より好ましくは0.25〜1.5、特に好ましくは1.0)>
【0023】
本発明者らは、先ず、製品還元鉄の圧潰強度に及ぼすスラグ成分組成の影響を調査するため、以下の加熱還元試験を実施した。
【0024】
(炭材内装塊成化物の加熱還元試験)
高炉ダストを含む複数種類の製鉄ダストを混合してなる製鉄ダスト混合物と鉄鉱石の配合割合を調製してスラグ成分組成を種々変更した配合原料を作製し、これを双ロール型ブリケットマシンで体積6〜7cmの枕形の炭材内装ブリケットに成形し、これを乾燥機で含有水分1質量%以下まで乾燥した。乾燥後のブリケット(以下、「乾燥ブリケット」という。)の化学性状の一例を表1に示す。なお、表中の「T.C」は炭素の全量、「T.Fe」は鉄の全量、「M.Fe」は金属鉄の量を示しており、「T.Fe」にはFe、FeO及び「M.Fe」が含まれる。また、Na,K,Pbは原子の状態では存在せず、酸化物等として存在する。
【0025】
【表1】

【0026】
これらの乾燥ブリケット約44g分をアルミナ製トレーに載せて、容量%でN=100%またはCO/N=30%/70%の2種類のガスを3NL/min流通させた雰囲気中で1300℃に加熱された横型加熱炉内に挿入し還元が終了するまで保持した後に、Nガス雰囲気中で室温まで冷却してから取り出し、圧潰強度の測定を行った。ここに、還元時にはブリケットから所定量のCO含有ガスが発生するので、N=100%の流通ガスを用いた加熱還元試験は、ブリケット周りのガス組成は還元雰囲気になることから、実機の回転炉床炉における還元雰囲気下での還元を模擬したものである。COを含有する流通ガスを用いた還元試験は、ブリケット周りのガス組成は酸化性雰囲気になることから、実機の回転炉床炉における燃焼排ガス存在下での還元を模擬したものである。
【0027】
(加熱還元試験結果)
測定結果を図1に示す。同図に示すように、Al/SiOの質量比を0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比を0.25〜1.0の範囲とするとすることで、還元鉄の圧潰強度が180kgf/個(約1760N/個)以上と、さらに上昇することを見出した。
【0028】
このように、炭材内装ブリケットのスラグ成分のCaO/SiOとAl/SiOの質量比を特定の範囲とすることで還元鉄の圧潰強度が上昇する理由は、以下のように考察される。
【0029】
すなわち、図2に示すように、FeO(30質量%一定)−CaO−Al−SiO系状態図上に上記特定範囲をプロットすると、該特定範囲では液相線温度が1200〜1300℃程度の比較的低温の領域となることから、スラグ成分(CaO、Al、SiO)が、酸化鉄から金属鉄への還元途中で生じた、あるいは、金属鉄が酸化性雰囲気で再酸化されて生じたウスタイト(FeO)と反応して低融点化し、その一部が溶融して固液共存状態になり、金属鉄の焼結が促進されるためと考えられる。
【0030】
ここで、図2から明らかなように、上記特定範囲は、最低融点である共晶点Pを含まない、少しだけ高温側に外れた領域であることがわかる。この理由は以下のように考察される。すなわち、炭材内装ブリケットCのスラグ成分を図2の共晶点P近傍の組成とすると、スラグ成分がウスタイト(FeO)と反応して一挙に全量溶融してしまい、このようなスラグ成分の急激な全量溶融は、ブリケット内に空隙を多く作り、却って金属鉄の焼結の促進を妨げるため、高強度が得られない。これに対し、炭材内装ブリケットCのスラグ成分を図2の上記特定範囲とすることで、スラグ成分の全量ではなく一部が溶融した固液共存状態が得られることにより、スラグの溶融による空隙の形成を抑制しつつ、金属鉄の焼結を促進させることができることになる。要するに、還元鉄の強度発現は、スラグ相によるものでなく、金属鉄の焼結構造によるものである。
【0031】
ここで、図3に示すように、MgO(5質量%一定)−CaO−Al−SiO系状態図上に上記特定範囲をプロットすると、該特定範囲では液相線温度は1300〜1400℃程度となり、図2に示すFeOが共存する場合に比べて100℃程度高い液相線温度となる。このことから、スラグ成分の溶融を容易にするためにはウスタイト(FeO)の共存が望ましいことが理解される。
【0032】
なお、炭材内装ブリケットCのCaO/SiOは、上述の試験結果より0.25〜1.0の範囲とするのが特に好ましいが、炭材内装ブリケットC中にCaOが過剰に存在する場合でも、CaOの一部が溶融することで、溶融スラグのCaO/SiOが0.25〜1.0の範囲となりうるので、上記と同様の作用により金属鉄の焼結が促進され、還元鉄の強度が発現されるため、CaO/SiOは0.25〜2.0(さらには0.25〜1.5)の範囲を好適範囲としたものである。
【0033】
炭材内装ブリケットCのスラグ成分の組成の調整は、例えば、複数の異なるスラグ成分組成を有する製鉄ダストや鉄鉱石の配合割合の他、石灰石、生石灰等のCaO源の添加量を調整すること等によって行うことができる。
【0034】
<炭材内装ブリケットを還元して得られた製品還元鉄中のC残留量:1〜9質量%>
炭材内装ブリケットCを還元して得られた製品還元鉄F中のC残留量が低くなりすぎると、高炉や転炉、電気炉等の鉄原料として使用した場合における、製品還元鉄F中に残留する未還元の酸化鉄(FeO等)を還元する還元材としての残留炭素の作用が不十分となるとともに、金属鉄への浸炭による溶融速度の向上効果が得られなくなる。一方、製品還元鉄F中のC残留量が高くなりすぎると、還元鉄F中に残留する多量の炭素粒子が金属鉄粒子の結合を妨げるため還元鉄Fの強度が不足する。炭材内装ブリケットCを還元して得られた製品還元鉄F中のC残留量の好適範囲は1〜9質量%である。
【0035】
なお、上記の加熱還元試験に用いた炭材内装ブリケットを還元して得られた製品還元鉄中のC含有量はいずれも1〜9質量%の範囲にあった。
【0036】
製品還元鉄F中のC残留量の調整は、炭材内装ブリケットC中の炭材量(炭素含有量)を調整することよって行うことができ、例えば、炭材内装ブリケットCの製造時において、炭素含有量の高い高炉ダストの配合割合や、石炭、コークス粉等の炭材の添加量を調整することによって行うことができる。
【0037】
炭材内装ブリケットC中の炭素含有量Xcは、具体的には以下の式(1)を用いて設定すればよい。
Xc=Xc+Xc…式(1)
ここに、Xc=(12/16)・Xoであり、Xcは、炭材内装ブリケットC中の酸化鉄および酸化亜鉛を完全に金属まで還元するのに必要な理論C量であり、Xcは、この理論C量Xcにより前記酸化鉄および酸化亜鉛が完全に金属まで還元された際における、還元鉄中の残留C量であり、Xoは、炭材内装ブリケットC中における、酸化鉄の酸素と酸化亜鉛の酸素との合計量である。
【0038】
上記式(1)において、酸化鉄の他に酸化亜鉛の還元を考慮したのは、原料として製鉄ダストを用いる場合には、相当量の酸化亜鉛が含まれ、その還元に相当量のC量を必要とするためである。ただし、鉛、アルカリ金属など他の非鉄金属の酸化物の含有量は酸化鉄や酸化亜鉛に比べて少ないので無視した。
【0039】
ここで、理論C量は、酸化鉄または酸化亜鉛の酸素1モルを還元するのに炭素1モルを必要とするとして定義したものである。しかしながら、実際の移動炉床炉による炭材内装ブリケットCの還元においては、炭素による酸化鉄または酸化亜鉛の還元(直接還元)で発生したCOガスでさらに酸化鉄または酸化亜鉛の還元(ガス還元)が進行するため、酸化鉄または酸化亜鉛の酸素1モルを還元するのに炭素は1モルより少ない量でよい。一方、移動炉床炉内での炭材内装ブリケットCの加熱はバーナの燃焼で行われるため、その燃焼ガスによって炭材内装ブリケットC中の炭材(炭素)の一部が、酸化鉄および酸化亜鉛の還元に使われることなく消費される。結果的には、ガス還元によるC消費量の減少分とバーナ燃焼ガスによるC消費量の増加分がほぼ相殺されるため、上記理論C量を、実際に還元に必要なC量とみなすことができる。
【0040】
上述したように、炭材内装ブリケットC中においてスラグ成分の溶融を容易にするためにはウスタイト(FeO)の共存が望まれることから、上記の炭材内装ブリケットCを用いて、移動炉床炉(例えば回転炉床炉)で加熱し還元して還元鉄を製造するに際し、この回転炉床炉は、炉床の移動方向に複数のゾーンに分割されたものとし、その最終ゾーンを酸化性雰囲気とすることが好ましい。このように最終ゾーンを酸化性雰囲気とすることで、図4(b)に示されるように、炭材内装ブリケットCが還元されて得られた還元鉄の表面近傍の金属鉄が再酸化しウスタイト(FeO)化してスラグ成分の溶融が容易となり、金属鉄の焼結がさらに促進される。
【0041】
ここで、図4は、上記加熱還元試験において、炭材内装ブリケットを還元性雰囲気下(同図(a))と酸化性雰囲気下(同図(b))で還元して得られた還元鉄の内部構造を比較して示すものである。いずれの雰囲気下でも、金属鉄粒子間の結合が進んでいるものの、酸化性雰囲気下で還元したもの(同図(b))では、ブリケットの表面近傍に、溶融したウスタイト粒子(灰色)が存在し、結合している金属鉄(白色)が太くなっているのが認められ、金属鉄の焼結がより進行していることがわかる。なお、図4(a)の還元鉄の圧潰強度は300kgf/個(約2940N/個)程度であるのに対し、同図(b)の還元鉄の圧潰強度は600kgf/個(約5880N/個)を超えていた。
【0042】
上記最終ゾーンの酸化性雰囲気は、具体的には、ガス酸化度ODで1.0以上とするとよい。
ここで、OD=(CO+HO+2O)/(CO+HO+O+CO+H)[ただし、CO、HO、O、COおよびHの単位は容量%]である。
【0043】
ここに、ガス酸化度ODは、雰囲気中にO成分が存在する場合には、そのO成分は金属元素に対してCO成分およびHO成分の2倍の酸化能を有する(例えば、Fe+CO=FeO+CO、Fe+HO=FeO+H、2Fe+O=2FeOの反応式より、1モルのCOまたはHOは1モルのFeを酸化できるだけであるのに対し、1モルのOは2モルのFeを酸化できる)ので、OD=(CO+HO+2O)/(CO+HO+O+CO+H)[ただし、CO、HO、O、COおよびHの単位は容量%]で定義するものとする。
【0044】
上記最終ゾーンの雰囲気のガス酸化度は、例えばバーナの空燃比で調整することができる。
【0045】
(実施形態2)
上記実施形態1では、炭材内装ブリケットC内の物理的構造については特に限定しない場合を例示したが、炭材内装ブリケットC内の物理的構造、特に、炭材内装ブリケットCの気孔率を特定の範囲とすることで、還元して得られた製品還元鉄F中の残留炭素量が多い場合でも、十分に高い圧潰強度が確実に得られる。
【0046】
具体的には、炭材内装ブリケットCとして、気孔率を37.5%以下のものを用いるのが推奨される。
【0047】
以下に、炭材内装ブリケットCの気孔率を37.5%以下に限定した根拠を説明する。
【0048】
本発明者らは、製鉄ダストを使用して製作した炭材内装ブリケットを上記実施形態2と同様の試験条件で還元して得られた還元鉄Fの圧潰強度に及ぼす各種パラメータの影響の調査を行った。
【0049】
図5に、還元鉄中のC含有量と還元鉄の圧潰強度との関係を示す。同図に示すように、高炉等の鉄原料としてより適した、圧潰強度が180kgf/個(約1760N/個)以上を示す還元鉄は、低C含有量(C:1質量%以上4質量%未満)のもの[領域A]と、高C含有量(C:4質量%以上)のもの[領域B]が存在することがわかった。ここで、領域Aのものは、還元鉄中のC含有量が高くなるほど還元鉄の圧潰強度が低下するという従来の技術常識(図中の直線L)の延長線上にあるものであるが、領域Bのものは、この従来の技術常識から離れて、高C含有量でも高い圧潰強度が得られるものである。
【0050】
このように、高C含有量でも高い圧潰強度が得られる理由についてさらに検討を進めた結果、還元前の炭材内装ブリケットの気孔率が影響していることを見出した。
【0051】
図6に、炭材内装ブリケットの気孔率と還元鉄の圧潰強度との関係を示す。同図に示すように、炭材内装ブリケットの気孔率と還元鉄の圧潰強度との間には、還元鉄のC含有量のレベルによらず、非常に良好な相関関係が認められる。
【0052】
したがって、同図に示すように、炭材内装ブリケットの気孔率を37.5%以下に制御することによって、C含有量に関わらず180kgf/個(約1760N/個)以上の高圧潰強度を有する還元鉄を確実に製造することができる。
【0053】
このように、炭材内装ブリケットの気孔率を所定値以下とすることで、炭材内装ブリケット中における、酸化鉄粒子間の距離が小さくなり、還元後の金属鉄粒子の結合(金属鉄の焼結)が促進され、還元鉄の強度がより向上するものと考えられる。
【0054】
なお、炭材内装ブリケットの気孔率は小さくしすぎると、還元時に爆裂(バースティング)を起こしやすくなるので、その下限は25%とするのが好ましい。
【0055】
ここに、炭材内装ブリケットの気孔率は、炭材内装ブリケットの見掛け密度と真密度から、
気孔率(%)=(1−[見掛け密度]/[真密度])×100
で計算されるが、炭材内装ブリケットの見掛け密度としては、乾燥ブリケットの見掛け密度を測定して使用し、炭材内装ブリケットの真密度としては、炭材内装ブリケットの構成原料それぞれ単独の真密度を配合割合で加重平均して求めた値を使用した。
【0056】
原料として製鉄ダストを使用する場合には、製鉄ダストは粒度が非常に細かいため圧密することが難しく、使用する製鉄ダストの種類や配合割合によっては、通常の成形手段では炭材内装ブリケットの気孔率を37.5%以下とすることが困難な場合がある。そのような場合には、例えば、ブリケットマシンで圧縮成形した後の篩下をリサイクル原料として新原料に混ぜてブリケットマシンに戻し圧縮性成形することで炭材内装ブリケットの見掛け密度を高める(すなわち、気孔率を小さくする)手段(特開2009−7667号公報参照)を採用することができる。
【0057】
(実施形態3)
上記実施形態1および2では、炭材内装ブリケットC中に内装される炭材の粒度については特に限定しない場合を例示したが、炭材の粒度を特定の範囲とすることで、炭材内装ブリケットCを還元して得られた製品還元鉄Fの圧潰強度を確保しつつ、還元鉄F中の残留炭素量をより多くすることができる。
【0058】
具体的には、炭材内装ブリケットC中に含まれる炭材の、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による平均粒径d50を30μm以下(さらには10μm以下)とするのが推奨される。
【0059】
例えば、製鉄ダストとして、コークス粉や微粉炭由来の炭素粒子を多量に含有する高炉湿ダストを用い、その高炉湿ダストの炭素粒子を炭材として炭材内装ブリケットを作製し、これを還元して得られた還元鉄は、圧潰強度を確保しつつ、還元鉄中の残留炭素量を多くすることができることがわかった。その高炉湿ダストについてレーザー回折散乱式粒度分布測定法で粒度分布を測定した結果、図7に示すような粒度分布が得られた。また、図8は、高炉湿ダストを走査型電子顕微鏡で観察したものである。同図において、角張った大きめの粒子は酸化鉄、球状の粒子はCaO−SiO−FeO系のスラグと同定されたが、炭素は軽元素のためどの粒子が炭素粒子かは確定できなかった。しかしながら、酸化鉄の大きな粒子を除くと微細粒のため、炭素粒子も微細粒になっていると推定される。 以上の考察より、炭素粒子の粒度は、少なくとも、図7に示す高炉湿ダスト全体の粒度(平均粒径d50で30μm)以下であることは明らかであり、図8の走査型電子顕微鏡による観察結果から、平均粒径d50で10μm以下と推定される。
【0060】
以上のことから、炭材内装ブリケットC中に含まれる炭材の、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による平均粒径d50の推奨値は、30μm以下、さらには10μm以下とした。
【0061】
炭材内装ブリケットC中に含まれる炭材の平均粒径d50の調整は、例えば、高炉湿ダストを原料の一部として用いる場合は、その配合割合を調整することにより行えばよく、炭材として粉状石炭やコークス粉を添加する場合は、それらの粉砕粒度を調整することにより行えばよい。
【0062】
(変形例)
上記実施形態では、炭材内装塊成化物の塊成化物としての形態としてブリケットを例示したが、ペレットでもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、移動炉床炉の炉形式として回転炉床炉を例示したが、直線炉を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
製鉄設備において、製鉄ダストから還元鉄を製造する技術として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元鉄を製造するための移動炉床炉の原料として用いられる炭材内装塊成化物であって、SiO、Al、CaOおよびMgOの合計含有量が7〜15質量%、MgO含有量が0.1〜6質量%、Al/SiOの質量比が0.34〜0.52、CaO/SiOの質量比が0.25〜2.0であり、かつ、製造された還元鉄中にCが1〜9質量%残留するようなC含有量であることを特徴とする還元鉄製造用炭材内装塊成化物。
【請求項2】
前記炭材内装塊成化物の気孔率を37.5%以下とする請求項1に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物。
【請求項3】
前記炭材内装塊成化物中に含まれる炭材の、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による平均粒径d50を30μm以下とする請求項1または2に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物。
【請求項4】
少なくとも製鉄ダストを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の還元鉄製造用炭材内装塊成化物を、移動炉床炉で加熱し還元して還元鉄を製造する方法であって、前記移動炉床炉は炉床の移動方向に複数のゾーンに分割され、その最終ゾーンが酸化性雰囲気であることを特徴とする還元鉄製造方法。
【請求項6】
前記最終ゾーンの酸化性雰囲気が、ガス酸化度ODで1.0以上である請求項5に記載の還元鉄製造装置。
ここに、OD=(CO+HO+2O)/(CO+HO+O+CO+H)[ただし、CO、HO、O、COおよびHの単位は容量%]である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−42869(P2011−42869A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162520(P2010−162520)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】