説明

部分多孔質ポリマー粒子の製造方法及び部分多孔質ポリマー粒子

【課題】粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子を容易に製造する方法及び部分多孔質ポリマー粒子を提供する。
【解決手段】単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレート、重合開始剤及び特定の多孔質化剤を水中に分散させ懸濁状態とし、懸濁重合法により重合した後に多孔質化剤を除去することを特徴とする部分多孔質ポリマー粒子の製造方法及び該製造方法により製造した部分多孔質ポリマー粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分多孔質ポリマー粒子の製造方法及び部分多孔質ポリマー粒子に関する。詳しくは、種々の分野で使用される合成樹脂改質剤、イオン交換樹脂のベース樹脂材、有機フィラー、触媒用支持担体、分離剤、イオン交換樹脂のベースポリマー、光反射材、光拡散材などとして好適に用いられる、粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分多孔質体は、合成樹脂改質剤、イオン交換樹脂のベース樹脂材、有機フィラー、触媒用支持担体、分離剤、イオン交換樹脂のベースポリマー、光反射材、光拡散材などに使用されている。該部分多孔質を有するポリマー粒子の製造方法として、分子内に親水性と疎水性とを有する櫛型高分子からなる界面活性剤を用いて製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、エネルギー線の照射により重合可能なモノマーおよび/またはオリゴマーと、このモノマーおよび/またはオリゴマーと相溶し、かつこのモノマーおよび/またはオリゴマーにエネルギー線を照射することにより生成したポリマーと相溶せず、しかもエネルギー線に対して不活性な相分離剤とを混合した均一な重合性溶液と、エネルギー線の照射により重合可能なモノマーおよび/または前記と同じあるいは異なるオリゴマーを主要構成成分とする重合性液体とを、同一支持体上に互いに境界を接するように配置し、エネルギー線を照射して硬化させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−117920号公報
【特許文献2】特許第3309923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では分子内に親水性と疎水性とを有する櫛型高分子からなる特殊な界面活性剤を用いなければならなく、特許文献2では設備コストの高い紫外線照射装置の使用を要し、その上、露光、現像など工程が煩雑という問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、特殊な界面活性剤を使用することなく、あるいは煩雑な工程を経ずとも、粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子を容易に製造することができる製造方法及び部分多孔質ポリマー粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、懸濁重合法により、粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子を製造する際に、単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマー、重合開始剤を含む重合性水系懸濁液に、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレート及び特定の性状を有する多孔質化剤を配合することにより、上記問題を解消することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、少なくとも単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマー、重合開始剤及び多孔質化剤を水中に分散させ懸濁状態とし、懸濁重合法によりポリマー粒子を製造する方法であって、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレートを用いること、多孔質化剤として前記単官能ビニルモノマー及び多官能ビニルモノマーに対し良溶媒であって、生成するポリマー粒子に対し貧溶媒である有機溶剤を用いること、及び懸濁重合した後に多孔質化剤を除去することを特徴とする部分多孔質ポリマー粒子の製造方法、並びに該製造方法により製造した部分多孔質ポリマー粒子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、特殊な界面活性剤を用いずまた煩雑な工程を経ずとも、粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子を容易に製造することができ、イオン交換樹脂のベースポリマーや光拡散材などに使用されるポリマー粒子の製造を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の部分多孔質ポリマー粒子の表面を示した概念図である。
【図2】本発明(実施例1)の部分多孔質ポリマー粒子の走査型電子顕微鏡図である。
【図3】全面多孔質ポリマー粒子の表面を示した概念図である。
【図4】全面多孔質ポリマー粒子の走査型電子顕微鏡図である。
【図5】全面多孔質ポリマー粒子の走査型電子顕微鏡図の拡大図である。
【図6】空孔を形成しないポリマー粒子の表面を示した概念図である。
【図7】空孔を形成しないポリマー粒子の走査型電子顕微鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法により得られる部分多孔質ポリマー粒子は、図1に示すように粒子表面上に空孔が疎に存在する連続した領域2中に、空孔が密に存在する部分3(径がポリマー粒子径よりも小さい)が複数分散された構成を有する。
上記のような構成を有する粒子が、合成樹脂改質剤、イオン交換樹脂のベース樹脂材、有機フィラー、触媒用支持担体、分離剤、イオン交換樹脂のベースポリマー、光反射材、光拡散材などの用途において有用である。
【0011】
とりわけ、液晶バックライト用光拡散板や導光板の光拡散材として用いられることが好ましい。その理由として、図3に示すように全面に空孔を有するポリマー粒子の場合、光拡散性が高くなりすぎて導光距離が短くなるおそれがあるのに対し、部分的に空孔を有するポリマー粒子の場合、光を反射させたり散乱させたりする効果が適度に高められ、導光距離が長くなるので好ましい。さらに、部分的に空孔を有するポリマー粒子は空孔が部分的にしか存在しないため、全面に空孔を有するポリマー粒子に比べ機械的強度が高いので一層効果的である。
【0012】
本発明の部分多孔質ポリマー粒子の製造方法は、少なくとも単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマー、重合開始剤及び多孔質化剤を水中に分散させ懸濁状態とし、懸濁重合法によりポリマー粒子を製造する方法であって、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレートを用いること、多孔質化剤として前記単官能ビニルモノマー及び多官能ビニルモノマーに対し良溶媒であって、生成するポリマー粒子に対し貧溶媒である有機溶剤を用いること、及び懸濁重合した後に多孔質化剤を除去することを特徴とする。
【0013】
単官能ビニルモノマーとしては、1分子中に1個のビニル基を有するものであり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、酢酸ビニル、スチレンなどを使用することができ、これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
また、多官能ビニルモノマーとしてはジアリルフタレートを使用する。
【0014】
単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの配合割合は、質量比で90:10〜65:35であることが好ましい。単官能ビニルモノマーの質量比が90以下であれば(多官能ビニルモノマーの質量比が10以上であれば)多孔質化せずに単なる球形ポリマー粒子となることがない。また、単官能ビニルモノマーの質量比が65以上であれば(多官能ビニルモノマーの質量比が35以下であれば)得られるポリマー粒子は球状形化し、凝集粒子や粒子表面に皺のよった粒子となることがない。
【0015】
重合開始剤としては、過酸化物系やアゾビス系などを好ましく使用することができる。
過酸化物系としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0016】
アゾビス系としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’−アソビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートなどが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
重合開始剤の配合量は、単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの合計100質量部に対して、0.05〜5.0質量部であることが好ましい。
【0017】
多孔質化剤としては、前記単官能ビニルモノマー及び多官能ビニルモノマーに対し良溶媒であって、生成するポリマー粒子に対し貧溶媒であれば、特に限定せずに使用することができるが、有機溶剤であることが好ましい。
具体的には、例えば、n−ヘキサン及びn−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
多孔質化剤は、単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの合計量に対し5〜15質量%となる量で配合することが好ましい。5質量%以上であればマクロな部分空孔を有するポリマー粒子を得ることができる。また、15質量%以下であれば全体がポーラスなポリマー粒子の発生及び凝集物や梅干状のポリマー粒子の発生を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の部分多孔質ポリマー粒子の製造方法において、分散安定剤を使用することが好ましい。分散安定剤としては、難水溶性金属化合物や有機系分散安定剤などを使用することができる。
難水溶性金属化合物としては、例えば、硫酸バリウム及び硫酸カルシウムなどの硫酸塩、炭酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、リン酸カルシウムなどのリン酸塩、酸化アルミニウム及び酸化チタンなどの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び水酸化第二鉄などの金属水酸化物などを挙げることができる。これらの難水溶性金属化合物は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。この難水溶性金属化合物は、単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの合計量に対し0.1〜10質量%となる量で配合することが好ましい。
【0020】
有機系分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリンドン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、アラビアゴム、高級脂肪酸の金属塩などを挙げることができる。これらの有機系分散安定剤は、単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。この有機系分散安定剤は、単官能ビニルモノマーと多官能ビニルモノマーの合計量に対し0.05〜10質量%となる量で配合することが好ましい。
また、水溶性の組成物を使用する場合や系の比重を変更したい場合には、塩化ナトリウムなどの塩類も添加することができる。
【0021】
本発明の部分多孔質ポリマー粒子の製造方法における懸濁重合は、水系の懸濁重合法であり公知の方法で実施することができる。
例えば、まず、反応槽に水と分散安定剤を入れ、撹拌して水中に分散安定剤を分散又は溶解させる。次に、単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマーとしてのジアリルフタレート及び多孔質化剤を含む溶液並びに重合開始剤を加え、所望の粒子径に分散させたのち、反応温度に昇温して重合を開始する。このとき、反応温度は50〜95℃であることが好ましく、60〜85℃であることがより好ましい。60℃以上であれば重合反応の時間が長くなりすぎず、残存モノマー量の増加をともなうなどの不都合が生じることがない。
【0022】
重合反応が終了後、各種蒸留操作を行うことにより多孔質化剤を取り除いて反応物を取り出し、濾過により生成した重合体粒子を単離し、スラリーなどの洗浄により分散安定剤を除去したのち、乾燥してポリマー粒子を得る。
【0023】
また、本発明の製造方法により得られるポリマー粒子の粒径は、分散剤の種類、分散方法を含めた公知の懸濁重合法により得られる粒径の範囲内であれば特に制限されるものではないが、1μm以上2mm以下であることが好ましく、10μm以上1mm以下であることがより好ましい。
とりわけ、ポリマー粒子をフィラーとして使用する場合は粒径が20μm以上100μm以下であることが好ましく、光拡散材に使用する場合は10μm以上100μm以下であることが好ましい。
なお、本発明のポリマー粒子の粒径は、例えばレーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA-920(株式会社堀場製作所社製)で測定することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において「部」は「質量部」を表わす。
【0025】
[実施例1]
単官能ビニルモノマーとしてアクリル酸メチル(三菱化学株式会社製、商品名:MA)42.5部、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレート(ダイセル化学工業株式会社製、商品名:ダイセルジアリルフタレートモノマー(APM))7.5部、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(日油株式会社製、商品名:ナイパーBW)0.5部、多孔質化剤としてn−ヘプタン(和光純薬工業株式会社製)5.0部を混合し樹脂溶液とした〔質量比 単官能ビニルモノマー:多官能ビニルモノマー=85:15〕。この樹脂溶液を、分散剤としてポリビニルアルコール0.2部を含む水媒体中へ投入し、分散させ懸濁状態とし、75℃にて8時間懸濁重合反応を行った。
反応終了後、樹脂懸濁液を水蒸気蒸留してn−ヘプタンを除去したのち濾過し、水洗浄を繰り返して分散剤を除去し、洗浄終了後40℃にて乾燥を行い、ポリマー粒子を得た。
得られたポリマー粒子は、平均粒子径が350μm〔レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA-920(株式会社堀場製作所社製)〕であった。また、走査型電子顕微鏡で表面(確認写真:図2)及び断面を観察したところ、部分的に空孔を持つことが確認できた。
【0026】
[実施例2,3、比較例1〜5]
表1に示す組成及び配合割合により、実施例1と同様の方法でポリマー粒子を得た。
各実施例及び比較例で得られたポリマー粒子の平均粒子径並びに表面及び内部状態の評価を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1からわかるとおり、実施例1〜3では、粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子が得られた。これに対し、多孔質化剤を配合しない比較例1,2では空孔を形成しないポリマー粒子が得られ、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレート以外を配合した比較例3,4では全面に多孔質化したポリマー粒子が得られた。また、多官能ビニルモノマーを配合しない比較例5では空孔を有しないポリマー粒子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、特殊な界面活性剤を用いずまた煩雑な工程を経ずとも、容易に粒子内部及び表面に部分的に空孔を有するポリマー粒子を容易に製造することができるので、特に合成樹脂改質剤、イオン交換樹脂のベース樹脂材、有機フィラー、触媒用支持担体、分離剤、イオン交換樹脂のベースポリマー、光反射材、光拡散材などに関する産業上の分野に非常なる有用性を有する。
【符号の説明】
【0030】
1.部分多孔質ポリマー粒子
2.疎部(殆んど空孔を有さない部分)
3.密部(空孔が密集した部分)
4.全面多孔質ポリマー粒子
5.空孔を形成しないポリマー粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも単官能ビニルモノマー、多官能ビニルモノマー、重合開始剤及び多孔質化剤を水中に分散させ懸濁状態とし、懸濁重合法によりポリマー粒子を製造する方法であって、多官能ビニルモノマーとしてジアリルフタレートを用いること、多孔質化剤として前記単官能ビニルモノマー及び多官能ビニルモノマーに対し良溶媒であって、生成するポリマー粒子に対し貧溶媒である有機溶剤を用いること、及び懸濁重合した後に多孔質化剤を除去することを特徴とする部分多孔質ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法により得られる部分多孔質ポリマー粒子。

【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−57011(P2012−57011A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200063(P2010−200063)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】