説明

部分放電位置標定方法及び部分放電位置標定装置

【課題】静止巻線機器の部分放電源の位置が巻線内部の場合の部分放電位置標定の精度を向上させる。
【解決手段】油入変圧器のタンク壁に少なくとも1個のAEセンサを装着するとともに、中性点接地線に流れる部分放電電流をトリガとしてAEセンサから出力されるAE信号に基づいて部分放電源の位置を標定するにあたり、AE信号の直達波の立ち上り時間αが設定値α*以上か否かによる第1判定と、AE信号の直達波の第1波が低周波成分か否かによる第2判定と、AE信号をウェーブレット変換した波形に基づいて第2判定と同様の第3判定の少なくとも1つを行って、放電源が巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する。この判定に基づいて、少なくとも3個のAEセンサを装着し、各AEセンサから出力されるAE信号の直達波の到達時間と高周波成分の到達時間遅れに基づいて、放電源が巻線内部の場合は異なる伝搬媒質に応じて放電音の伝搬速度を変えて放電源から各AEセンサまでの伝搬距離を求めて放電源の位置を標定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分放電位置標定方法及び部分放電位置標定装置に係り、特に変圧器などの巻線を有する静止巻線機器の部分放電位置の標定精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の絶縁劣化診断は、絶縁破壊の前駆現象として発生する部分放電(PD:Partial Discharge)を測定することが最も適切である。部分放電の検出は、部分放電が発生する電磁波を検出して部分放電を検出する方法(特許文献1)、あるいは電気機器の電流に重畳して流れる特有の電流に基づいて部分放電を検出する方法(特許文献2)などが提案されている。しかし、特許文献1に記載の電磁波を検出する方法によれば、診断対象機器に予め電磁波を受信するアンテナを組み込む必要がある。したがって、正常時は不要なアンテナを予め設備し、かつ保守しなければならないという問題がある。この点、特許文献2に記載の技術によれば、診断対象機器の電流に重畳して流れる部分放電電流成分は、一般に、クランプ型の電流検出器を診断対象機器の接地線に装着して検出できるから、診断対象機器に格別な設備を設ける必要はない。しかし、同文献の場合は、部分放電が発生した位置を標定することはできないという問題がある。
【0003】
これに対し、複数の音響センサ(以下、AEセンサという。)を用いて部分放電及びその放電源を特定することが提案されている(特許文献3)。同文献によれば、診断対象である変圧器のタンク外壁に3個以上のAEセンサを取り付け、各AEセンサから出力される部分放電音を電気信号に変換した音響信号(以下、AE信号という。)をウェーブレット変換し、その変換信号に基づいて部分放電の発生及びその放電源の位置を特定することが記載されている。すなわち、変圧器の中性点の接地線に流れる部分放電信号を高周波CTで検知した最初の信号をトリガ信号として、その後に各AEセンサにより検出される部分放電信号を連続して記録する。そして、各AEセンサの部分放電信号にウェーブレット変換を施し、トリガ信号を起点とする経過時間に対応させて、部分放電信号の周波数成分の変化を表す変換信号を生成する。次いで、生成されたウェーブレット変換信号のパターンに基づいて、トリガ信号を起点として放電源からの直達波が各AEセンサに達した到達時間を求め、各AEセンサの到達時間と音波の伝搬速度から放電源と各AEセンサ間の距離を推定し、その距離を半径とする球面の交点を放電源として特定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−25020号公報
【特許文献2】特開平11−326429号公報
【特許文献3】特開2007−292700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、部分放電音の伝搬速度を一律に設定しているので、放電源と各AEセンサ間に異なる伝搬媒質が存在する構造の場合、距離の推定に誤差が含まれるという問題がある。すなわち、診断対象が巻線機器の場合、一般に、鉄心に巻回された巻線を金属製の容器に収容した構造を有する。この場合、巻線と容器の間の空間には、油、空気、絶縁ガスなどの絶縁材が充填されるから、巻線部に発生した音が放電源から各AEセンサに到達するまでに、部分放電音の伝搬速度が異なる巻線部と絶縁材を通ることになる。したがって、一律に設定した伝搬速度と伝搬時間とに基づいて推定する距離は誤差を含むため、放電源の位置標定の精度が低下することになる。
【0006】
本発明が解決しようとする第1の課題は、巻線を備えた静止巻線機器の部分放電源の位置が巻線内部か巻線外周面部かを標定できるようにすることにある。
また、本発明が解決しようとする第2の課題は、第1の課題に加えて、部分放電源の位置が巻線内部の場合の部分放電位置標定の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記第1の課題を解決するため、本発明の部分放電位置標定方法は、静止巻線機器の外壁に少なくとも1個のAEセンサを装着するとともに、前記静止巻線機器の部分放電を検出する部分放電検出器を装着し、前記部分放電検出器の検出信号をトリガとして前記各AEセンサから出力されるAE信号を演算処理装置に入力し、前記AE信号を記録するとともに、前記AE信号に基づいて演算処理により前記静止巻線機器の部分放電源の位置を標定する部分放電位置標定方法において、前記静止巻線機器の部分放電源の位置を標定する前記演算処理は、第1と第2と第3の判定処理の少なくとも1つの判定処理を備え、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定することを特徴とする。
【0008】
第1判定処理は、前記AE信号の直達波の立ち上り時間αを計測し、前記立ち上り時間αが設定値α*以上か否かを比較して前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する。ここで、立ち上り時間αとは、AE信号の直達波の第1波のゼロクロス点からピークまでの時間をいう。したがって、第1波が低周波成分のときはαが長く、第1波が高周波成分を含むときはαが短くなる。
第2判定処理は、前記AE信号の直達波の到達後の低周波成分と高周波成分を識別し、前記低周波成分の到達時間に対する前記高周波成分の到達時間遅れ(以下、高周波成分の到達時間遅れ又は単に到達時間遅れと略称する。)Δtを計測し、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する。
第3判定処理は、前記AE信号をウェーブレット変換して得られる変換波形データに基づいて、前記到達時間遅れΔtを求め、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する。
【0009】
このようにして、1個のAEセンサによりAE信号を検出して前記第1乃至第3判定処理の少なくとも1つを実行することにより、前記放電源の位置が巻線内部か巻線外周面部かの判定を行うことができる。そして、判定結果に基づいて、前記部分放電検出器の検出信号が入力されてから前記AE信号の直達波が前記各AEセンサに到達するまでの到達時間Tと、前記巻線内の設定音速と、前記巻線と前記外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速とに基づいて、前記各AEセンサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定する。なお、放電源の位置を標定する場合は、静止巻線機器の外壁に少なくとも3個のAEセンサを装着する必要がある。
【0010】
上述したように、静止巻線機器の部分放電は、巻線内部で起こる部分放電と、巻線の外周表面又はそれに近い巻線内部(以下、巻線の外周表面部と総称する。)で起こる場合に大きく分けることができる。巻線の外周表面部で発生する部分放電音は、巻線の外周に充填されている油、空気、絶縁ガスなどの絶縁材だけを伝搬してAEセンサに到達するから、その到達時間と絶縁材の音速とにより、誤差なく放電源の位置を標定することができる。
【0011】
しかし、巻線内部で発生した部分放電音は、巻線内部を伝搬して巻線の外周表面部に達し、さらに絶縁材を伝搬してAEセンサに到達する。本発明者らの研究によると、音速(伝搬速度)は、伝搬媒質及び周波数によって異なることが判明した。したがって、単に、巻線内部で発生した部分放電音の到達時間を計測しても、部分放電音の伝搬経路中の伝搬媒質が異なれば、放電源の位置を精度よく標定することはできない。
【0012】
そこで、油入変圧器の部分放電の伝搬をシミュレーションにより解析したところ、部分放電発生音の巻線内部の音速は周波数によって大きな違いがあり、低周波(例えば30kHz)は、高周波(例えば300kHz)に比べて巻線内部の音速が速いことを知見した。つまり、部分放電発生後、AEセンサに到達する直達波は低周波成分が多く、高周波成分は遅れて到達する。この高周波成分の到達時間遅れΔtは、部分放電発生音の巻線内部の伝搬距離に相関する。したがって、AE信号の周波数成分を識別して高周波成分の到達時間遅れΔtを計測し、巻線内部中の音速データを周波数成分に対応して解析し、予めデータテーブルなどに設定しておくことにより、放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lcを推定することができる。
【0013】
また、トリガ信号を起点としてAEセンサに到達する直達波の低周波成分の第1波の到達時間Tは、放電源からAEセンサまでの伝搬距離Lに相関し、伝搬距離Lは巻線内部の伝搬距離Lcと絶縁材である油中の伝搬距離Loの和になる。なお、解析結果によれば、低周波成分の音速Vは巻線部と絶縁材でほぼ同じであり、かつ絶縁材中の高周波成分の音速VHOと大差がないことが分かった。そこで、後述する解析データに基づいて、低周波成分の音速Vを設定音速VLS=VHO(例えば1400m/s)としても誤差は少ない。つまり、巻線部と絶縁材中の低周波成分の設定音速VLSを予めデータテーブルなどに設定しておき、到達時間Tと設定音速VLSから、放電源からAEセンサまでの伝搬距離Lを推定できる。そして、先に求めた放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lcを引くことにより、絶縁材中の伝搬距離Loを分離して求めることができる。
【0014】
ここで、第1判定処理の具体的態様は、前記直達波の立ち上り時間αが前記設定値α*以上のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置し、前記直達波の立ち上り時間αが設定値α*未満のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置するものと判定することができる。また、第2又は第3判定処理の具体的態様は、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以下のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置し、前記到達時間遅れΔtが前記設定値Δtsを越えたとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置するものと判定することができる。
【0015】
さらに、位置標定処理の具体的な態様は、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線外周面部に位置する場合は、前記到達時間Tと、前記巻線と前記静止巻線機器の外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速に基づいて前記各AEセンサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定することができる。
また、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置する場合は、上述したように、AE信号の高周波成分の到達時間遅れΔtを計測し、予めデータテーブルなどに設定された巻線内部の低周波成分の設定音速VLSを乗算することにより、放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lcを推定する。また、トリガ信号を起点としてAEセンサに到達する直達波の低周波成分の第1波の到達時間Tは、放電源からAEセンサまでの伝搬距離L(=Lc+Lo)に相関する。そこで、到達時間Tをデータテーブルなどに設定された低周波成分の設定音速VLSを乗算することにより、放電源からAEセンサまでの伝搬距離Lを推定する。そして、先に求めた放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lcを引いて、絶縁材中の伝搬距離Loを求める。
【0016】
このようにして求めた絶縁材中の伝搬距離Loを各AEセンサを中心として巻線外周表面の位置を求める。この位置は、巻線外周表面が円筒状であることから、長円形になる。ここで、部分放電音の伝搬経路は直線であるから、放電源の位置は各AEセンサと巻線外周表面に描いた長円を結んで形成される長円錐の延長線上にあることになる。そこで、この長円錐の延長線上に伝搬距離Lcを延長した長円形を描き、各AEセンサの長円形の交点が求める放電源の位置となる。
【0017】
なお、前記位置標定処理において、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線外周面部に位置する場合には、さらにスネルの法則を適用して前記放電源の位置の合理性を確認することができる。ここで、合理性とは、標定された放電源の位置と前記AEセンサとを結ぶ油中の伝搬経路と、前記AEセンサが取り付けられた外壁内面とのなす音波の入射角が予め設定された範囲内でないときは、前記AEセンサの取り付け位置が不適切であるから、位置を変更して再度標定をやり直す。
【0018】
以上、本発明を油入変圧器を例に説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、ガス絶縁変圧器にも適用でき、さらに巻線を備えたリアクトルや分路リアクトル等の静止巻線機器の部分放電の位置標定に適用できることは言うまでもない。また、本発明の部分放電位置標定方法を実施する部分放電位置標定装置は、着脱式のAEセンサと、着脱式の部分放電検出器と、可搬式のパソコンなどを用いて構成することができる。したがって、本発明の部分放電位置標定装置を診断対象の静止巻線機器に常時設置しておく必要はなく、必要な時に装着して部分放電診断及び部分放電位置標定を簡便に、かつ精度よく行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、巻線を備えた静止巻線機器の部分放電源の位置をAEセンサを用いて標定するとともに、その標定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の部分放電位置標定方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の部分放電位置標定方法を適用した一実施形態の部分放電位置標定装置のブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施形態の部分放電位置標定方法を適用する一例の油入変圧器の断面構成を示す図である。
【図4】油入変圧器の巻線最外周表面部(タップ巻線外側)すなわち油中側で部分放電が発生した場合のAE信号の波形図及びウェーブレット変換信号の波形図を示す図である。
【図5】油入変圧器の1次巻線の外周表面部で部分放電が発生した場合のAE信号の波形図及びウェーブレット変換信号の波形図を示す図である。
【図6】油入変圧器の2次巻線の外周表面部で部分放電が発生した場合のAE信号の波形図及びウェーブレット変換信号の波形図を示す図である。
【図7】油入変圧器の3次巻線の外周表面部で部分放電が発生した場合のAE信号の波形図及びウェーブレット変換信号の波形図を示す図である。
【図8】油入変圧器の3次巻線の内面部(鉄心側)で部分放電が発生した場合のAE信号の波形図及びウェーブレット変換信号の波形図を示す図である。
【図9】油入変圧器のタンク壁から垂直距離にある放電源の音がAEセンサに到達する到達時間との解析結果を示す線図である。
【図10】部分放電位置標定の一例を説明する図である。
【図11】部分放電位置標定の一例を説明する図である。
【図12】スメルの法則を適用して標定の妥当性を評価する一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の部分放電位置標定方法の一実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態の部分放電位置標定方法を油入変圧器の部分放電位置標定に適用した場合のフローチャートであり、図2は図1の一実施形態の部分放電位置標定方法を実施する装置の全体構成図である。図2に示すように、本実施形態の部分放電位置標定装置は、静止巻線機器である油入変圧器1の外壁であるタンク壁2に着脱自在に装着可能な少なくとも3個のAEセンサ11A,B,Cを備えている。また、油入変圧器1の中性点接地線3に着脱自在にクランプされた高周波変流器12を備えている。高周波変流器12は、接地線3に流れる部分放電電流を検出する部分放電検出器である。AEセンサ11A,B,Cは、油入変圧器1の内部で発生する部分放電の発生音を電気信号のAE信号に変換する。AEセンサ11A,B,Cから出力されるAE信号は、それぞれアンプ13によって増幅処理されて演算処理装置を構成するパソコン15に入力されている。また、高周波変流器12の出力である部分放電検出信号は、部分放電位置標定方法を開始するトリガ信号としてパソコン15に入力されている。また、パソコン15は、周知のように、中央演算処理装置であるCPU、記憶装置、液晶表示装置、キーボードやマウスなどの入力装置を備えて構成されている。
【0022】
図3に、油入変圧器1の内部構造の断面図を示す。同図は、1相の巻線部の軸方向中央部の軸心からタンク壁2までの断面構造を示している。図示のように、巻線部の中心側から鉄心31,3次巻線32,2次巻線33,1次巻線34、タップ巻線35が、それぞれ絶縁油層36を介して配置されている。タップ巻線35の外周表面からタンク壁2の内表面の間には、絶縁油37が充填されている。また、タンク壁2の外表面にAEセンサ11が取り付けられている。また、説明の都合上、図中○印により、放電源38の位置を仮定している。
【0023】
このように構成される実施形態の部分放電位置標定装置を用いて部分放電の位置を標定する手順について、図1に示したフローチャートに沿って説明する。まず、図2のように、部分放電位置標定装置を設置してパソコン15を立ち上げて部分放電の位置標定処理を開始する。
(ステップS1)
高周波変流器12からトリガ信号が入力されるとステップS2以降の処理が行われる。
(ステップS2、S3)
各AEセンサ11(A〜C)からAE信号を取得する。AE信号が取得されない場合、又は信号強度が不十分な場合は、十分な強度のAE信号が取得されるまで、各AEセンサ11(A〜C)の取り付け位置を変更する。
【0024】
(ステップS4)
設定された閾値を超える強度のAE信号が取得されたら、パソコン15内のメモリに、例えば、図4の上部に示すようなAE信号の波形を記録する。なお、この波形データはディジタル変換された波形データである。
(ステップS5)
ここで、静止巻線機器である油入変圧器1の部分放電は、巻線内部で起こる部分放電と、巻線の外周表面部で起こる場合に大きく分けることができる。そこで、ステップS5では、取得したAE信号の波形データに基づいて、部分放電の放電源38がタップ巻線35よりも内部か、タップ巻線35よりも外部かを判断する。この判定は、AE信号の直達波の第1波の立ち上り時間αを計測して行う(第1判定処理)。すなわち、本発明の原理は、巻線内部で部分放電が発生した場合は、AE信号の高周波成分が遅れて伝搬されることに基づいている。したがって、直達波の第1波の立ち上り時間αを計測すると、第1波に高周波成分が含まれていれば、立ち上り時間αは短くなる。一方、第1波に高周波成分が含まれていなければ、立ち上り時間αは長くなる。そこで、立ち上り時間の設定値α*(例えば、6μsec)を設定しておき、α≧α*であれば低周波成分が多いことから、放電源38が巻線内部に位置することになる。一方、α<α*であれば放電源38はタップ巻線35の外周表面部に位置すると推定できる。
【0025】
ちなみに、図4のAE信号波形は、放電源38がタップ巻線35の外周表面部に位置する例である。また、図5は1次巻線34の外周表面部に位置する例、図6は2次巻線33の外周表面部に位置する例、図7は3次巻線32の外周表面部に位置する例、図8は鉄心31の表面部に位置する例を、それぞれ示している。ステップS5の判定は、第1判定処理により、AE信号の直達波の第1波の立ち上り時間αの大小で放電源38が、巻線内部に位置するか、あるいはタップ巻線35の外周表面部(油中)に位置するかを識別した。これに代えて、第2判定処理により、図4〜図8に示したAE信号の波形図に基づいて、同様な判断をすることができる。
【0026】
第2判定処理は、AE信号の直達波の到達後の低周波成分と高周波成分を識別し、到達時間遅れΔtを計測する。すなわち、図4〜図8に示すように、トリガ信号が入力された時刻T=0から、AE信号の直達波の第1波が到達する到達時間をTとする。そして、第1波の立ち上りの時間範囲Aを経て時間範囲Bに移行し、さらに時間範囲Cに移る。特に、時間範囲AとBを対比すると、図4の場合はそれほど顕著ではないが、他の図5〜図8の例では時間範囲Aでは低周波成分が多く高周波成分は殆ど識別できない。このことは、時間範囲Aでは高周波成分の伝搬が遅れていることを示している。この到達時間遅れΔtは、高周波成分が巻線部において伝搬が遅れることを示しているから、到達時間遅れΔtは巻線部の伝搬距離に相関する。そこで、到達時間遅れΔtが予め設定した設定値Δts以上か否かに基づいて、放電源38が巻線内部かタップ巻線の外周面部に位置するかを判定することができる。
【0027】
なお、第1判定処理又は第2判定処理に代えて、後述するウェーブレット変換処理をした変換波形図に基づいて判定する第3判定処理を用いることができる。さらに、第1乃至第3判定処理の2つ又は3つを行って判定することにより、放電源38が巻線内部か油中かの判別の信頼性を向上することができる。
【0028】
上述したステップS5の判定によって、放電源38が巻線内部に位置するか、あるいはタップ巻線35の外周表面部(油中)に位置するかを識別できる。この識別の結果に合わせて、複合絶縁放電位置の標定処理開始S10か、油中放電位置の標定処理開始S20に移行する。
【0029】
[放電源の位置が巻線部内部に位置する場合]
(ステップS11)
ここで、放電源38の位置が、巻線部の軸方向の巻線部中心部か、巻線上下部かを判別する。この判別は、AE信号の強度及び周波数成分の違いに基づいて行う。AE信号の強度は、複数の巻線を経由する多重複合絶縁を伝搬すると減衰が大であるから、AE信号の強度の低下がみられるときは、多重複合絶縁経由と判別する。一方、軸方向の油中を伝搬の場合は減衰が小である。また、巻線部を伝搬しないで巻線の上部又は下部を伝搬する場合は、少数の複合絶縁を伝搬することになり、この場合は減衰が小である。したがって、多重複合絶縁を伝搬した場合は、AE信号の周波数特性を観察すると、線間ギャップによるピーク周波数成分がAE信号の周波数特性に表れるから、多重複合絶縁経由であると判別でき、放電源38が巻線の中心部に位置すると判別する。これに対して、少数の複合絶縁を伝搬した場合は、ブロードな周波数特性が表れるから、少数複合絶縁経由であると判別でき、放電源38の位置が巻線の上部又は下部に位置すると判別する。ステップS11の判定で、放電源38の位置が巻線部中心であると判別された場合はステップS12に移行し、巻線上下部と判別された場合はステップS15に移行する。
【0030】
[放電源の位置が巻線中心部に位置する場合]
(ステップS12)
ここでは、AE信号に周知のウェーブレット変換を施す。ウェーブレット変換して得られる変換波形データは、図4〜図8の下部に示したものになる。すなわち、ウェーブレット変換で得られる変換波形データは、経過時間軸と、周波数分布と、AE信号強度の情報を備えた波形データである。図4〜図8の下部の波形データにおいて、横軸は経過時間、縦軸は周波数成分、AE信号強度は濃淡で表される。例えば、図5〜図8において長円41で囲った部分は、高周波成分(例えば、100kHz以上)がAEセンサに到達していない時間帯であることが分かる。この点は、それらの図の上部に示したAE信号の波形図と対応している。
【0031】
(ステップS13)
ステップS12でウェーブレット変換して得られる変換波形データに基づいて、AE信号の高周波成分の到達時間遅れΔtを求める。なお、到達時間遅れΔtを求めれば、上述したようにステップS5の判定に適用できる。つまり、到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、放電源38が巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定することができる。
【0032】
(ステップS14)
ここでは、ステップS13で求めた高周波成分の到達時間遅れΔtに基づいて放電源38の位置標定をする。まず、トリガ信号が入力されてからAE信号の直達波が各AEセンサ11A〜11Cに到達するまでの到達時間Tを計測する。次に、巻線内の設定音速と、絶縁材である油中の設定音速とに基づいて、各AEセンサ11A〜11Cから放電源38までの距離を演算して放電源の位置を標定する。
【0033】
図9に、油入変圧器1の部分放電の伝搬をシミュレーションにより解析して得られた音速データを示す。同図は、横軸がタンク壁2から油入変圧器1の中心部に至る垂直距離を示し、縦軸が放電源38からの放電音の到達時間(T)を示している。図において、◇印は低周波(30kHz)の実測値であり、□印は高周波(300kHz)の実測値である。図中の線52は放電音の油中及び巻線中の音速データ(ほぼ1400m/s)である。図中の線53は、放電音の低周波の巻線中における音速データであり、図中の線54は、放電音の高周波の巻線中における音速データである。このように、部分放電発生音の巻線内部の音速は周波数によって大きな違いがある。この音速の違いを利用して、到達時間遅れΔtは、部分放電発生音の巻線内部の伝搬距離に相関することになる。そこで、図9に示すように、巻線内部中の音速データを周波数成分に対応して解析し、予めデータテーブルなどに設定しておくことにより、放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lwを推定することができる。
【0034】
以下、具体的に説明する。トリガ信号を起点としてAEセンサ11A〜11Cに到達する直達波の低周波成分の第1波の到達時間Tは、放電源からAEセンサ11A〜11Cまでの伝搬距離L(=Lc+Lo)に相関する。ここで、Lcは巻線内部の伝搬距離、Loは油中の伝搬距離である。また、図9の音速データによれば、低周波成分の音速は、巻線内部と油中でほぼ同一値(例えば1400m/s)である。低周波成分の音速を設定音速VLSとすると、放電源38からAEセンサ11A〜11Cまでの伝搬距離Lを下式(1)により推定できる。
L=Lc+Lo=T×VLS (1)
ところで、巻線内部の伝搬距離Lcは、到達時間遅れΔtに相関する。そこで、伝搬距離Lcは低周波の設定音速VLSにより、次式(2)で求めることができる。
Lc=Δt×VLS (2)
式(1)と(2)から、油中の伝搬距離Loは、次式(3)で求まる。
Lo=L−Lc=T×Vc−Δt×VLS (3)
【0035】
このようにして、各AEセンサ11A〜11Cについて、油中の伝搬距離Lo〜Loを求め、AEセンサ11A〜11Cを中心としてタップ巻線の外周表面までの距離Lo〜Loの位置を求める。図10、図11に示すように、タップ巻線の外周表面は円筒状であるから、各距離Lo〜Loの位置はそれぞれ長円56A,56B・・・の上に位置することになる。ここで、図10はAEセンサ11A,Bから放電源までのAE信号の伝搬経路を油入変圧器1の側面から見た模式図である。また、図11の左図は、図10においてAEセンサ11A,B側から見た放電源の標定位置の候補を示す模式図であり、右図はAEセンサ11A,Bから放電源までのAE信号の伝搬経路を油入変圧器1の巻線の上面から見た模式図である。
【0036】
ところで、部分放電音の伝搬経路は直線であるから、放電源38の位置は各AEセンサ11A〜11Cと巻線外周表面に描いた長円56A,56B・・・を結んで形成される長円錐の延長線上にある。そこで、この長円錐の延長線上に伝搬距離LcA,LcB・・・を延長した長円57A,57B・・・を描き、各AEセンサ11A〜11C同士の長円57A,57B・・・の交点を求める。少なくとも3個のAEセンサ11A〜11Cの長円57A,57B、57Cの交点58を求めれば、その交点58が巻線内部の放電源38の位置として標定することができる。このようにして、巻線内部の放電源38の位置を標定して処理を終了する。
【0037】
[放電源の位置が巻線部の上又は下部に位置する場合]
(ステップS15)
ステップS11の判断で、放電源38の位置が巻線部の上又は下部に位置すると判断された場合は、ステップS15において、AE信号の強度及び到達時間Tを確認する。
(ステップS16)
ステップS15の判断を支援するために、放電源38が巻線部の上又は下部に位置する場合は、ステップS3に戻り、巻線部の上又は下部から十分な強度のAE信号が得られるように、AEセンサ11A〜11Cの位置を変更し、ステップS2〜S11の処理を繰り返す。
(ステップS17)
ここにおいて、AE信号の強度及び到達時間遅れΔtを求めて、巻線単位すなわち3次巻線32、2次巻線33、1次巻線34、タップ巻線35のどの部位で部分放電が発生したかを判別する。
(ステップS18)
巻線単位でどの巻線の上下部で部分放電が発生したかを判別した結果に基づいて、上記の式(1)〜(3)に基づいて、同様の処理により巻線上下部の位置標定を行って放電源38の位置を標定して、終了する。
【0038】
[放電源が巻線の外周面部(油中)に位置する場合]
ステップS5の判別で、タップ巻線35の巻線外周表面部に放電源38が位置すると判別した場合は、ステップ20に進んで、ステップS21〜S23の処理を行って油中放電源位置標定を行う。
(ステップS21)
ここで、AE信号にウェーブレット変換を施してウェーブレット変換波形信号を生成する。
(ステップS22)
そして、ウェーブレット変換波形信号に基づいて、トリガ信号が入力されてから放電音が各AEセンサ11A〜11Cに達する到達時間Tを計測する。
(ステップS23)
到達時間Tは、発生源38から油中のみを伝搬して各AEセンサ11A〜11Cの到達した時間であるから、油中の設定音速Vo(=VLS)に基づいて、次式(4)により各AEセンサ11A〜11Cから放電源38までの伝搬距離Lo(LoA〜LoC)をそれぞれ求める。
Lo=T×Vo (4)
そして、求めた伝搬距離Lo(LoA〜LoC)に基づいて、図10で説明した手順で、タップ巻線35の巻線外周表面部の放電源38の位置を標定して終了する。
【0039】
(ステップS24)
ステップS24は、適宜選択する付加的な処理であり、ステップS23の放電源38の位置標定が妥当か否かを、スメルの法則を利用して判断する処理である。すなわち、図12に示すように、油中の伝搬距離Loが求まると、AEセンサ11の位置との関係から、タップ巻線の外周表面の放電源の位置が決まり、これにより放電音の伝搬経路Rが決まる。この伝搬経路RとAEセンサ11が取り付けられたタンク壁2の内面とがなす立体角である音波の入射角θiが決まる。この入射角θiがタンク壁2の材質(鉄)により決まる透過率Tにより、全反射する場合は、放電音がAEセンサ11に入射しない。したがって、AEセンサ11の位置を入射角θiが予め設定された範囲θi*内に収まる位置に変更して、再度、放電源の位置標定を実施する。つまり、図12において、伝搬経路Rの場合は透過角θtで透過率Tにより放電音の一部がタンク壁2を透過してAEセンサ11に入射する。しかし、伝搬経路Rの場合は放電音がタンク壁2の内面で全反射し、タンク壁2を透過しないから、AEセンサ11には放電音が入射しない。
【0040】
以上、本発明の一実施形態の部分放電位置標定方法を説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、図1の実施形態では、ウェーブレット変換波形に基づいて、到達時間T、到達時間遅れΔtを計測する例を示したが、これに代えて、第2の判定処理で説明したAE信号の波形から直接、到達時間T、到達時間遅れΔtを計測できる。したがって、ステップS12のウェーブレット変換を省略し、ステップS13でAE信号の波形から到達時間T、到達時間遅れΔtを求めて、ステップS14の標定処理を行うことができる。
【0041】
また、上記実施形態では、本発明を油入変圧器に適用した例に基づいて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、ガス絶縁変圧器にも適用できる。さらに、巻線を備えたリアクトルなどの静止巻線機器の部分放電の位置標定に適用できることは言うまでもない。
【0042】
また、上記実施形態の部分放電位置標定装置は、着脱式のAEセンサと、着脱式の部分放電検出器と、可搬式のパソコンなどを用いて構成することができるから、診断対象の静止巻線機器に常時装着しておく必要はなく、必要な時に装着して部分放電診断及び部分放電位置標定を簡便に行うことができる。
【符号の説明】
【0043】
1 油入変圧器
2 タンク壁
3 中性点接地線
11(11A〜11C) AEセンサ
12 高周波変流器
13 アンプ
15 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止巻線機器の外壁に少なくとも1個の音響センサを装着するとともに、前記静止巻線機器の部分放電を検出する部分放電検出器を装着し、前記部分放電検出器の検出信号をトリガとして前記各音響センサから出力される音響信号を演算処理装置に入力し、前記音響信号を記録するとともに、前記音響信号に基づいて演算処理により前記静止巻線機器の部分放電源の位置を標定する部分放電位置標定方法において、
前記静止巻線機器の部分放電源の位置を標定する前記演算処理は、
前記音響信号の直達波の立ち上り時間αを計測し、前記立ち上り時間αが設定値α*以上か否かを比較して前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第1判定処理と、
前記音響信号の直達波の到達後の低周波成分と高周波成分を識別し、前記低周波成分の到達時間に対する前記高周波成分の到達時間遅れΔtを計測し、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第2判定処理と、
前記音響信号をウェーブレット変換して得られる変換波形データに基づいて、前記音響信号の低周波成分の到達時間に対する高周波成分の到達時間遅れΔtを求め、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第3判定処理の少なくとも1つの判定処理を備えてなることを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項2】
前記第1乃至第3判定処理の少なくとも1つを実行して得られる前記放電源の位置が巻線内部か巻線外周面部かの判定結果に基づいて、前記静止巻線機器の外壁に少なくとも3個の前記音響センサを装着し、前記部分放電検出器の検出信号が入力されてから前記各音響センサから出力される前記各音響信号の直達波が前記各音響センサに到達するまでのそれぞれの到達時間Tと、前記巻線内の設定音速と、前記巻線と前記外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速とに基づいて、前記各音響センサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定する位置標定処理を備えることを特徴とする請求項1に記載の部分放電位置標定方法。
【請求項3】
前記第1判定処理は、前記立ち上り時間αが前記設定値α*以上のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置し、前記立ち上り時間αが設定値α*未満のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置するものと判定し、
前記第2又は第3判定処理は、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以下のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置し、前記到達時間遅れΔtが前記第設定値Δtsを越えたとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置するものと判定し、
前記位置標定処理は、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線外周面部に位置する場合は、前記各到達時間Tと、前記巻線と前記静止巻線機器の外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速に基づいて前記各音響センサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定し、
前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置する場合は、前記各到達時間遅れΔtと、巻線内部中の設定音速VLSとから、前記放電源から巻線外周表面までの各伝搬距離Lcを推定し、前記各到達時間Tと設定音速VLSから前記放電源から前記各音響センサまでのそれぞれの伝搬距離Lを推定し、前記各伝搬距離Lから前記各伝搬距離Lcを差し引いて絶縁材中の各伝搬距離Loを分離して求め、前記各伝搬距離LoとLcに基づいて、前記放電源の位置を標定することを特徴とする請求項1又は2に記載の部分放電位置標定方法。
【請求項4】
前記位置標定処理は、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線外周面部に位置する場合、さらにスネルの法則を適用して前記放電源の位置の合理性を確認することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の部分放電位置標定方法。
【請求項5】
静止巻線機器の外壁に装着される少なくとも3個の音響センサと、前記静止巻線機器の中性点の接地線にクランプされる部分放電を検出する高周波変流器と、前記各音響センサから出力される音響信号と前記高周波変流器の出力信号がトリガ信号として入力される演算処理装置とを備え、前記演算処理装置は前記トリガ信号に基づいて前記音響信号を記憶部に記録するとともに、前記トリガ信号と前記音響信号に基づいて前記静止巻線機器の部分放電源の位置を標定する演算処理部を有してなる部分放電位置標定装置において、
前記演算処理装置は、前記音響信号の直達波の立ち上り時間αを計測し、前記立ち上り時間αが設定値α*以上か否かを比較して前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第1処理部と、
前記音響信号の直達波の到達後の低周波成分と高周波成分を識別し、前記低周波成分の到達時間に対する前記高周波成分の到達時間遅れΔtを計測し、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第2処理部と、
前記音響信号をウェーブレット変換して得られる変換波形データに基づいて、前記音響信号の低周波成分の到達時間に対する高周波成分の到達時間遅れΔtを求め、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以上か否かに基づいて、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部か巻線外周面部に位置するかを判定する第3処理部の少なくとも1つの処理部を備え、
前記第1乃至第3処理部の少なくとも1つを実行して得られる前記放電源の位置が巻線内部か巻線外周面部かの判定結果に基づいて、前記トリガ信号が入力されてから前記音響信号の直達波が前記各音響センサに到達するまでの到達時間Tと、前記巻線内の設定音速と、前記巻線と前記外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速とに基づいて、前記各音響センサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定する位置標定処理部を備えることを特徴とする部分放電位置標定装置。
【請求項6】
前記第1判定処理は、前記立ち上り時間αが前記設定値α*以上のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置し、前記立ち上り時間αが設定値α*未満のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置するものと判定し、
前記第2又は第3判定処理は、前記到達時間遅れΔtが設定値Δts以下のとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線の外周面部に位置し、前記到達時間遅れΔtが前記第設定値Δtsを越えたとき前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置するものと判定し、
前記位置標定処理部は、前記放電源が前記静止巻線機器の巻線外周面部に位置する場合は、前記到達時間Tと、前記巻線と前記静止巻線機器の外壁との間に設けられた絶縁材の設定音速に基づいて前記各音響センサから前記放電源までの距離を演算して前記放電源の位置を標定し、
前記放電源が前記静止巻線機器の巻線内部に位置する場合は、前記到達時間遅れΔtと、巻線内部中の設定音速VLSとから、前記放電源から巻線外周表面までの伝搬距離Lcを推定し、前記到達時間Tと設定音速VLSから前記放電源から前記音響センサまでの伝搬距離Lを推定し、前記伝搬距離Lから前記伝搬距離Lcを差し引いて絶縁材中の伝搬距離Loを分離して求め、前記伝搬距離LoとLcに基づいて、前記放電源の位置を標定することを特徴とする請求項5に記載の部分放電位置標定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−44616(P2013−44616A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182035(P2011−182035)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】