説明

部分的に脱水酸(dehydroxylation)されたハイドロタルサイトを含むスパンデックス繊維

【課題】200℃以上で紡糸しても変色しない優れた耐塩素性を有するスパンデックス繊維の提供。
【解決手段】部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトをスパンデックス繊維の全重量に対して0.1〜10重量%含むスパンデックス繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部の水酸基が除去された(以下、部分的に脱水酸された)ハイドロタルサイト(hydrotalcite)を含むスパンデックス繊維に関し、より詳しくは、スパンデックス繊維本来の物性はそのまま維持しながら、優れた耐変色性及び耐塩素性を有するスパンデックス繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
スパンデックス繊維は、高度なゴム状弾性を保持しながら高引張力、復元力等のような物性に優れているため、例えば、下着、靴下、スポーツ衣類用に多用されている。しかしながら、スパンデックス繊維の主成分であるポリウレタンは塩素水に曝されると、物性が相当に低下し、スパンデックス繊維とポリアミド繊維とを交編みして製造された水着の場合、水泳プールの塩素水(活性塩素濃度0.5〜3.5ppm)に曝されるとその物性が低下する。
【0003】
従って、スパンデックス繊維に添加剤を添加して耐塩素性を改善するために多くの研究が行われた。例えば、スパンデックス繊維に添加する耐塩素剤として:米国特許公報第4,340,527号は酸化亜鉛;米国特許公報第5,626,960号はハント石(huntite)と水苦土石(hydromagnesite)との混合物;韓国公告特許公報第1992−3250号は炭酸カルシウムと炭酸バリウムとの組み合わせ;日本国特開平6−81215号はMgO/ZnO固溶体(solid solution);日本国特開昭59−133248号は酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム又はハイドロタルサイト;日本国特開平3−292364号は高級脂肪酸及びシランカップリング剤で処理されたハイドロタルサイトをそれぞれ開示している。
【0004】
特に、米国特許公報第5,447,969号は、結晶水を含むC10〜C30脂肪酸でコーティングされたハイドロタルサイトを用いることによって、ハイドロタルサイトの分散性を向上させてスパンデックス繊維の製造工程中のハイドロタルサイトの凝集を防止し、紡糸工程中の押し出圧(discharge pressure)の上昇や頻繁な糸切り(yarn breakage)を抑制すると共に、タンニン溶液で処理してもスパンデックス繊維の褐変化が起らず、塩素水に浸漬しても膨潤しないことを開示している。前記米国特許公報によれば330℃の高温下でポリウレタン重合体溶液を乾式紡糸してスパンデックス糸を得ている。しかしながら、結晶水を含むと共にC10〜C30脂肪酸でコーティングされたハイドロタルサイトの使用は、250℃以上の温度で実施される乾式紡糸工程中にスパンデックス糸の黄褐色化をもたらす。
【0005】
米国特許公報第6,692,828号はスパンデックス繊維の耐塩素性を改善させるための添加剤として、耐熱性に優れたメラミン系化合物でコーティングされたハイドロタルサイトの用途を開示している。しかしながら、このスパンデックス糸は250℃以上の温度下での乾式紡糸中に依然として変色現象が起る。
【0006】
ヨーロッパ公開特許公報第1 262 499 A1号は、スパンデックス繊維の耐塩素性を改善させるために、平均粒径が1μm以下になるようにミルし、部分的に脱炭酸(decarbonation)されたハイドロタルサイトの用途を開示している。前記部分的に脱炭酸されたハイドロタルサイトは、ハイドロタルサイトの炭酸イオンの一部が二酸化炭素と酸素とに分解されることにより得られる。ハイドロタルサイト内の炭酸イオン含量はスパンデックス繊維に耐塩素性を付与する重要な役割をするが、反面、その結果得られるスパンデックスは炭酸イオン含量の減少のために、耐塩素性が劣化するという問題が発生する。
【0007】
韓国公開特許公報第2006−5814号は、メラミン系化合物でコーティングされ、結晶水が除去されたハイドロタルサイトを用いて耐変色性及び耐塩素性に優れたスパンデックス繊維を製造する方法を開示している。しかしながら、このようなハイドロタルサイトは吸湿性が高いため、スパンデックスの製造工程中のスラリーの製造過程中、又はスラリーとポリマーとの混合過程中に結晶水を含む元の状態に戻りやすいので、取り扱いに非常に注意しなければならない。また、このような高い吸湿性のため、スパンデックス糸を250℃以上で紡糸すると変色が起る。
【0008】
このような変色したスパンデックスは、耐塩素性に優れている反面、その変色を防ぐことができなく、商品価値が劣るので、スパンデックス繊維の変色現象及び耐塩素性を改善できる新規な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公報第4,340,527号
【特許文献2】米国特許公報第5,626,960号
【特許文献3】韓国公告特許公報第1992−3250号
【特許文献4】日本国特開平6−81215号
【特許文献5】日本国特開昭59−133248号
【特許文献6】日本国特開平3−292364号
【特許文献7】米国特許公報第5,447,969号
【特許文献8】米国特許公報第6,692,828号
【特許文献9】ヨーロッパ公開特許公報第1 262 499 A1号
【特許文献10】韓国公開特許公報第2006−5814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、200℃以上の温度で紡糸しても変色しないとともに、優れた耐塩素性を有するスパンデックス繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施様態によれば、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトをスパンデックス繊維の全重量に対して0.1〜10重量%の量で含むスパンデックス繊維を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるスパンデックス繊維は200℃以上で紡糸しても変色が起らず、優れた耐塩素性を有するので、下着や靴下、特に水着のようなスポーツ衣類に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ハイドロタルサイトの構造を示す概略図である。
【図2】製造例2で用いられたハイドロタルサイト(Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2O)の27Alマジック角回転核磁気共鳴(MAS NMR:magic angle spinning nuclear magnetic resonance)のスペクトルである。
【図3】製造例2で得た部分的に脱水酸されたハイドロタルサイト(Mg8Al4(OH)164(CO32)の27Al MAS NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られたスパンデックス糸の27Al MAS NMRスペクトルである。
【図5】実施例2のスパンデックス糸から抽出されたハイドロタルサイトの27Al MASNMRスペクトルである。
【図6】製造例2で用いられたハイドロタルサイト(Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2O)の赤外線吸収スペクトルである。
【図7】製造例2で得られた部分的に脱水酸されたハイドロタルサイト(Mg8Al4(OH)164(CO32)の赤外線吸収スペクトルである。
【図8】実施例2のスパンデックス糸から抽出されたハイドロタルサイトの赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスパンデックス繊維は、結晶水を含むハイドロタルサイトを約200〜390℃で熱処理して一部の水酸基が除去されたハイドロタルサイトをポリウレタン溶液に加えることによって製造され、200℃以上で紡糸しても変色が起らなく、優れた耐塩素性を有する。
【0015】
本発明は、韓国公開特許公報第2006−5814号に開示されたハイドロタルサイトの熱処理温度及び時間より高い温度及び長時間で処理することによってハイドロタルサイトを部分的に脱水酸させたものを用い、ヨーロッパ公開特許公報第1 262 499 A1号に開示された脱炭酸されたものと違って、十分な耐塩素性を有する。
【0016】
また、米国特許公報第5,447,969号は、結晶水を含むハイドロタルサイトを用いることによって、タンニン溶液で処理しても変色せず、塩素処理水に浸漬しても膨潤しないと開示しているが、本発明者らは結晶水を有せず、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを用いると、前記のようにタンニン溶液で処理しても変色しないと共に、塩素処理水に浸漬しても膨潤しないということを発見して、本発明を完成するに至った。
【0017】
以下、本発明によるスパンデックス繊維に対して具体的に説明する。
【0018】
まず、本発明で用いられる用語は、本発明の機能を考慮して定義されたものであり、当該技術分野における技術者の意図や慣例によって異なり得るが、本発明の技術的な構成要素を限定しない。
【0019】
紡糸又は紡糸工程とは、溶融紡糸と乾式紡糸とをいずれも含む。紡糸温度とは、溶融紡糸の場合にはポリマーチップが溶解される際の温度を、乾式紡糸の場合には紡糸筒内の温度を意味し、これは紡糸工程中におけるスパンデックスポリマーが曝される最高温度である。また、変色とは、スパンデックス繊維が白色ではない黄色とか茶色などの他の色に変わることを意味する。
【0020】
ハイドロタルサイトは金属水酸化物の一種であって、2価又は3価の金属カチオン(M+2又はM+3)が中核に位置し、6個の水酸化イオン(OH-)が該金属カチオンを取り囲む8面体配位を基本単位体とし、このような8面体単位体の繰り返しによって形成される2重層(double layer)構造を有しており、2重層間にアニオン(An-)と水分子(H2O)とが位置して荷電量の平衡を維持している物質である(図1参照)。ハイドロタルサイトを高温で熱処理すると、2重層間の水分子(即ち、結晶水)が除去され、脱水温度よりもっと高温で熱処理すると脱水酸が起り、これよりもっと高温で熱処理すれば脱炭酸が起る(スタニミロバ(Stanimirova)らの文献(Clay Minerals,39:177−191(2004))参照)。
【0021】
部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトとは、結晶水を含むハイドロタルサイトを高温で熱処理してハイドロタルサイトに含有された水酸基が水と酸素イオンとに分解される脱水酸反応(2OH-→H2O+O2-)が起ったハイドロタルサイトを意味する。部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは、脱水酸によって8面体配位の金属カチオンを取り囲む6個の水酸基の一部が除去されて4個の水酸基が金属カチオンを取り囲む4面体配位に変換され、2重層内に8面体配位と4面体配位が混在しているものを指す(同文献参照)。
【0022】
本発明において、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは、好ましくは下記の化学式で表される:
【化1】

【0023】
前記式中、MはMg、Ca又はZn、yは2.4<y≦4の範囲内の値、zは0<z≦8の範囲内の値、mは0又は正の数である。
【0024】
また、前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは下記構造式で表される化合物から選ばれる一つ以上であることが好ましい。
【0025】
Mg8Al4(OH)164(CO32、Mg8Al4(OH)88(CO32、Mg9Al3(OH)183(CO31.5、Mg9Al3(OH)126(CO31.5、Mg9.6Al2.4(OH)19.22.4(CO31.2、Mg9.6Al2.4(OH)14.44.8(CO31.2、Mg8Al4(OH)164(CO32・6H2O、Mg8Al4(OH)88(CO32・7H2O、Mg9Al3(OH)183(CO31.5・7.5H2O、Mg9Al3(OH)126(CO31.5・8H2O、及びこれらの混合物。
【0026】
本発明において、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは結晶水を含むハイドロタルサイトを窒素、ヘリウム、酸素、水素又は二酸化炭素のように水分を含まない雰囲気中で約200〜390℃、好ましくは約250〜300℃で熱処理して製造される。
【0027】
200℃未満の温度で結晶水を含むハイドロタルサイトを熱処理すれば、結晶水は除去されるが、脱水酸が進行しない場合もある。また、390℃を超える温度で結晶水を含むハイドロタルサイトを熱処理すれば、ハイドロタルサイトが脱水酸されるだけでなく脱炭酸され、これによってハイドロタルサイトの耐塩素性が低下し得る。約250〜300℃で熱処理して得た部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを用いる場合、スパンデックス繊維の耐塩素性を効率よく改善させることができる。
【0028】
本発明の部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは大気中に曝された場合に水分を吸着するが、この吸着水分の大部分は、約100℃で蒸発するので、これは、最初の熱処理前のハイドロタルサイトに含有された結晶水が約170〜220℃の温度範囲で除去されるものとは明らかに区別できる。従って、結晶水を含むハイドロタルサイトを用いると、200℃以上の紡糸工程における結晶水の除去によってスパンデックス糸が変色し得るが、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを用いれば表面に吸着された水分が約100℃前後で脱着するため、200℃以上の紡糸工程中にスパンデックス糸の変色が起らない。
【0029】
また、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを添加して製造される本発明のスパンデックス繊維は、結晶水を含むハイドロタルサイトを添加して製造されるものより耐塩素性に優れている。これは、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトの2重層構造の変化によってハイドロタルサイトの吸収容量及びイオン交換能力がより向上するからであると考えられる。
【0030】
本発明によるスパンデックス繊維の製造に用いられるポリウレタンは、当該分野に公知されたように、有機ジイソシアネートと高分子ジオールとを反応させてポリウレタン前駆体を製造した後、これを有機溶媒に溶解させ、ジアミン及びモノアミンと反応させることによって製造される。本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、水素化されたジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。また、高分子ジオールとしてはポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカーボネートジオール等が用いられ得る。ジアミンは鎖延長剤として用いられ、その例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヒドラジン等が挙げられる。一方、モノアミンは連鎖停止剤として用いられ、その例としては、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミン等が挙げられる。
【0031】
本発明において、スパンデックス繊維の変色又は物性低下を防止するために、ヒンダードフェノール系化合物、ベンゾフラノン系化合物、セミカルバジド系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、高分子第三級アミン安定剤(例えば、第三級窒素原子含有ポリウレタン、ポリジアルキルアミノアルキルメタクリレート)等のような有機添加剤をポリウレタンにさらに添加してもよい。
【0032】
本発明のスパンデックス繊維は前記成分以外に、二酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム等のような無機添加剤をさらに含んでもよい。二酸化チタンはスパンデックス繊維の要求される白色程度に従って約0.1〜5重量%範囲の量で用いられ得る。また、ステアリン酸マグネシウムは約0.1〜2重量%範囲の量で用いられ得、これはスパンデックス繊維の巻き戻し性を向上させる。
【0033】
本発明による部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトの添加量は、ポリウレタン重合物を基準として約0.1〜10重量%であることが好ましい。0.1重量%未満であると、スパンデックス繊維の耐塩素性が不十分になり、10重量%を超えると、スパンデックス繊維の強度、伸び、モジュラスが低下する。
【0034】
本発明によるスパンデックス繊維の製造の際に、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトはポリウレタン重合物の製造工程のいずれの段階においても添加され得る。例えば、他の添加剤と共に溶液に加えてサンドグラインド(sand−grinding)又はミル(milling)工程後に混合してもよく、他の添加剤とは別途に溶剤内でサンドグラインド又はミル工程後に混合してもよい。
【0035】
本発明において、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは当業界で通用されるコーティング剤で任意にコーティングしてもよく、このようなコーティングの有無はスパンデックス糸の耐変色性及び耐塩素性に大きな影響を与えないが、下記のような利点がある。好ましいコーティング剤の例としては、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪族エステル、リン酸エステル、スチレン/無水マレイン酸共重合体及びこれらの誘導体、シラン系カップリング剤、チタン酸系カップリング剤、有機ポリシロキサン、ポリ有機ヒドロゲンシロキサン、メラミン系化合物等が挙げられ、脂肪酸、脂肪酸塩及び/又はメラミン系化合物が特に好ましく、メラミン系化合物を用いる場合は、ハイドロタルサイトを部分的に脱水酸する熱処理工程において変色を最小化させる効果がある。
【0036】
ハイドロタルサイトのコーティング工程は、ハイドロタルサイト重量に対して約0.1〜10重量%の量のコーティング剤を水、アルコール、エーテル、ジオキサンのような溶剤に加えてコーティング溶液を得、これにハイドロタルサイトを添加した後、その結果、得られた溶液を約50〜170℃(必要であれば高圧反応器を使用)に昇温させて10分〜2時間攪拌し、次いでろ過及び乾燥工程を経て行われる。また他の方法としてはコーティング剤を溶剤なしで加熱溶解した後、ハイドロタルサイトと高速ミキサーで混合してコーティングする方法がある。
【0037】
特に、水中でメラミン系化合物を用いるコーティング工程は、メラミン系化合物の融点が高いため、150℃以上の温度又は高圧下で行わなければならない。
【0038】
本発明によれば、水中での脂肪酸又は脂肪酸塩のコーティング工程は100℃以上の温度で行われることが好ましい。100℃未満でコーティングする場合には均一なコーティング及び変色防止を達成し難く、必要以上の量のコーティング剤を要する。例えば、100℃未満でコーティングする場合に、必要な脂肪酸又は脂肪酸塩の量はハイドロタルサイト重量に対して約3重量%であるが、100℃以上でコーティングする場合は、コーティング剤の量をハイドロタルサイト重量に対して約1.5重量%まで減らすことができる。このようにコーティング剤の量を下げれば、ハイドロタルサイトを熱処理する工程におけるコーティング剤の変色度を低減させ得る。
【0039】
本発明でコーティング剤として用いられる脂肪酸は、炭素水3〜40個の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素の一価又は多価脂肪酸から選ばれることが好ましく、その例としては、ラウリン酸、カプリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などがある。
【0040】
本発明でコーティング剤として用いられる脂肪酸塩は、炭素水6〜30個の一官能または二官能性の飽和/不飽和脂肪酸と周期律表I族〜III族から選ばれる金属又は亜鉛とから形成されたものであり、その例としては、オレイン酸、パルミチン酸又はステアリン酸のリチウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム又は亜鉛塩が挙げられ、好ましくはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸アルミニウムなどがあり、より好ましくはステアリン酸マグネシウムである。
【0041】
本発明でコーティング剤として用いられるメラミン系化合物は、カルボキシル基を有する有機化合物で置換または置換されていない、メラミン化合物、リン(P)含有メラミン化合物又はメラミンシアヌレート化合物を単独又は混合して用いることが好ましい。
【0042】
前記メラミン化合物の例としては、メチレンジメラミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、デカメチレンジメラミン、ドデカメチレンジメラミン、1,3−シクロヘキシレンジメラミン、p−フェニレンジメラミン、p−キシレンジメラミン、ジエチレントリメラミン、トリエチレンテトラメラミン、テトラエチレンペンタメラミン、ヘキサエチレンヘプタメラミン、及びメラミンホルムアルデヒド等がある。
【0043】
リン含有メラミン化合物は、前記メラミン化合物にリン酸又はリン酸塩が結合されている形態のものであり、具体的な例としてはピロリン酸ジメラミン、メラミン第一リン酸塩、メラミン第二リン酸塩、ポリリン酸メラミン、ビス−(ペンタエリスリトールリン酸塩)リン酸のメラミン塩等がある。
【0044】
メラミンシアヌレート化合物の例としては、メチル、フェニル、カルボキシメチル、2−カルボキシエチル、シアノメチル、2−シアノエチルの少なくとも一つの置換体で置換されたメラミンシアヌレートなどがある。
【0045】
前記メラミン系化合物はカルボキシル基を有する有機化合物と反応されることが好ましい。前記カルボキシル基を有する有機化合物の例としては、脂肪族モノカルボン酸(例:カプリル酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸及びベヘン酸)、脂肪族ジカルボン酸(例:マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、及び1,14−テトラデカンジカルボン酸)、芳香族モノカルボン酸(例:安息香酸、フェニル酢酸、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、桂皮酸、p−アミノ馬尿酸及び4−(2−チアゾイルスルファミル)−フタラニノン酸)、芳香族ジカルボン酸(例:テレフタル酸、イソフタル酸及びフタル酸)、芳香族トリカルボン酸(例:トリメリット酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸及びトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート)、芳香族テトラカルボン酸(例:ピロメリット酸及びビフェニルテトラカルボン酸)、脂環族モノカルボン酸(例:シクロヘキサンカルボン酸)、及び脂環族ジカルボン酸(例:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸)等がある。
【0046】
前記コーティング剤はスパンデックスポリマー中でのハイドロタルサイトの分散型を高めてスパンデックスポリマーの紡糸性悪化を防止する。
【0047】
しかしながら、コーティングされていない本発明のハイドロタルサイトを用いる場合でも、サンドグラインド又はミル工程において、コーティングされたハイドロタルサイトを用いる場合とほぼ同一な紡糸性が得られる。
【0048】
本発明のハイドロタルサイトをサンドグラインド又はミルする工程は、通常のビーズミル(bead mill)を用いて該ハイドロタルサイト、溶剤及び少量のポリウレタンの混合物又はスラリーをミルすることで達成できる。ここで用いられる少量のポリウレタンは前記ハイドロタルサイトの分散性を向上させる役割をする。溶剤としてはジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド又はこれらの混合物を用いる。
【0049】
前記ハイドロタルサイトをサンドグラインド又はミルしてその2次凝集粒子の平均粒度を約15μm以下にすれば、前記ハイドロタルサイトをコーティングしてサンドグラインド又はミルした場合に比べて、スパンデックス繊維の製造工程における差は顕著でない。
【0050】
本発明において部分的に脱水酸されるハイドロタルサイトを製造する機器としては、約200〜390℃に加熱し得る乾燥器を用いることができ、このような乾燥器は、例えば対流、伝導、輻射、マイクロ波又は真空加熱処理方式で作動可能である。
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、これらの実施例は本発明を制限しない。
【0052】
(実施例)
製造例1
ステアリン酸及び構造式Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトを順次水に添加した。この時、ステアリン酸の添加量はハイドロタルサイト重量に対して2重量%になるようにした。前記混合物を150℃で20分間攪拌した後、ろ過及び乾燥してステアリン酸でコーティングされたハイドロタルサイトを得た。次いで、コーティングされたハイドロタルサイトを250℃で4時間熱処理してステアリン酸でコーティングされた構造式Mg8Al4(OH)164(CO32のハイドロタルサイトを製造した。
【0053】
製造例2
ステアリン酸、ポリリン酸メラミン及び構造式 Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトを水に添加した。この時、ステアリン酸とポリリン酸メラミンの添加量はハイドロタルサイトの重量に対してそれぞれ2重量%、1重量%になるようにした。前記混合物を160℃で30分間攪拌した後、ろ過及び乾燥してステアリン酸及びポリリン酸メラミンでコーティングされたハイドロタルサイトを得た。次いで、250℃で4時間熱処理してステアリン酸及びポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg8Al4(OH)164(CO32のハイドロタルサイトを製造した。
【0054】
製造例3
構造式Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトをポリリン酸メラミン3重量%でコーティングしたことを除いては、製造例2と同一な方法によってポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg8Al4(OH)164(CO32のハイドロタルサイトを得た。次いで、湿り空気中に1週間曝すことでポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg8Al4(OH)164(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトを製造した。
【0055】
製造例4
構造式Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトを250℃で4時間熱処理して構造式Mg8Al4(OH)164(CO32のハイドロタルサイトを得た後、室温で水中に5時間浸漬した後、60℃で48時間乾燥して構造式Mg8Al4(OH)164(CO32・7H2Oのハイドロタルサイトを得た。
【0056】
製造例5
構造式Mg9Al3(OH)24(CO31.5・7.5H2Oのハイドロタルサイトをステアリン酸1.5重量%でコーティングしたことを除いては、製造例1と同一な方法によってステアリン酸でコーティングされた構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5のハイドロタルサイトを製造した。
【0057】
製造例6
構造式Mg9Al3(OH)24(CO31.5・7.5H2Oのハイドロタルサイトをステアリン酸1.5重量%及びポリリン酸メラミン1重量%でコーティングしたことを除いては製造例2と同一な方法によってステアリン酸及びポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5のハイドロタルサイトを製造した。
【0058】
製造例7
構造式Mg9Al3(OH)24(CO31.5・7.5H2Oのハイドロタルサイトをポリリン酸メラミン3重量%でコーティングしたことを除いては、製造例2と同一な方法によってポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5のハイドロタルサイトを得た後、湿り空気中に1週間曝すことでポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5・7.5H2Oのハイドロタルサイトを製造した。
【0059】
製造例8
構造式Mg9Al3(OH)24(CO31.5・7.5H2Oのハイドロタルサイトを250℃で4時間熱処理して構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5のハイドロタルサイトを得た後、室温で水中に5時間浸漬した後、60℃で48時間乾燥して構造式Mg9Al3(OH)183(CO31.5・8H2Oのハイドロタルサイトを製造した。
【0060】
比較製造例1
構造式Mg6Al2(OH)16CO3・5H2Oのハイドロタルサイトをステアリン酸で置換されたポリリン酸メラミン3重量%でコーティングしたことを除いては、製造例2と同一な方法によってコーティングした。次いで、生成物を180℃で4時間熱処理してコーティングされた構造式Mg6Al2(OH)16CO3のハイドロタルサイトを製造した。
【0061】
比較製造例2
構造式Mg6Al2(OH)16CO3・5H2Oのハイドロタルサイトをステアリン酸で置換されたポリリン酸メラミン3重量%でコーティングしたことを除いては、製造例2と同一な方法によってコーティングした。次いで、生成物を100℃で1時間乾燥してステアリン酸で置換されたポリリン酸メラミンでコーティングされた構造式Mg6Al2(OH)16CO3・5H2Oのハイドロタルサイトを製造した。
【0062】
比較製造例3
構造式Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oのハイドロタルサイトをメラミンシアヌレート3重量%でコーティングしたことを除いては、製造例2と同一な方法によってコーティングした。次いで、生成物を100℃で1時間乾燥してメラミンシアヌレートでコーティングされた構造式Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2Oのハイドロタルサイトを製造した。
【0063】
比較製造例4
ステアリン酸及び構造式Mg6Al2(OH)16CO3・5H2Oのハイドロタルサイトを順次水に入れた。この時、ステアリン酸の量はハイドロタルサイト重量に対して3重量%になるようにした。得られた混合物は95℃で30分間攪拌した後、ろ過及び乾燥してステアリン酸でコーティングされたハイドロタルサイトを得た。次いで、前記コーティングされたハイドロタルサイトを180℃で4時間熱処理してステアリン酸でコーティングされた構造式Mg6Al2(OH)16CO3のハイドロタルサイトを製造した。
【0064】
比較製造例5
構造式Mg6Al2(OH)16CO3・5H2Oのハイドロタルサイトを180℃で4時間熱処理して、構造式Mg6Al2(OH)16CO3のハイドロタルサイトを製造した。
【0065】
試験例1:ハイドロタルサイトの27Alマジック角回転核磁気共鳴分析
得られたハイドロタルサイトが部分的に脱水酸されているかどうかを確認するために27Alマジック角回転核磁気共鳴(MAS NMR:magic angle spinning nuclear magnetic resonance)分析を行った。
【0066】
27Al MAS NMR分析は、400MHz固体(soild state)NMR分光計(spectrometer)(バリアン社製、米国)を用いて測定し、ここで標準試料としてAl23を用い、送信周波数(transmitter frequency)104.21MHz、回転速度(spinning rate)15kHz、スキャン回数(scan No.)512(ハイドロタルサイト粉末)又は8192(ハイドロタルサイト含有糸)の条件化で、一つのパルスのパルス長(pulse length)は2.3μsであった。
【0067】
27Al MAS NMR分析法を用いればハイドロタルサイト内のAl3+を取り囲む周辺環境が分かるが、例えば、製造例2で用いる結晶水を含み、脱水酸されていない構造式Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトは6つの水酸基がAl3+を取り囲む8面体配位を形成するので、27Al MAS NMR分析の際に図2のようなピークが現われた。また、製造例2で得た構造式Mg8Al4(OH)164(CO32の部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは脱水酸によって6つの水酸基がAl3+を取り囲む8面体配位と、4つの水酸基がAl3+を取り囲む4面体配位とが混在するので、図3に示されるように、27Al MAS NMR分析の際に8面体によるピークと4面体によるピークとが同時に現われた。
【0068】
これによって、製造例2で得たハイドロタルサイトが部分的に脱水酸されたことが分かる。
【0069】
試験例2:ハイドロタルサイトの赤外分光分析
得られたハイドロタルサイトが部分的に脱水酸されているかどうかを確認するために赤外分光法(IR spectroscopy)を用いて分析した。もし、前記ハイドロタルサイトが部分的に脱水酸されていれば、赤外線吸収スペクトルは約1,500〜1,600cm-1の波数領域でピークが現われる。
【0070】
赤外線吸収スペクトルはIFS 88(ブルカー(Bruker)社製、ドイツ)を用いて測定し、実験条件として400〜4000cm-1の波数領域で4cm-1の分解能(resolution)でスキャン回数(scan No.)を16にしてATR(attentuated total reflectance)方法で測定した。
【0071】
製造例2で用いられた結晶水を含み脱水酸されていない構造式Mg8Al4(OH)24(CO32・6H2Oのハイドロタルサイトを赤外分光法によって分析した結果、図6に示されるように約1,300〜1,400cm-1の波数領域のみでピークが現われた。しかしながら、図7に示されるように、製造例2で得た構造式Mg8Al4(OH)164(CO32の部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトは約1,300〜1,400cm-1の波数領域以外に約1,500〜1,600cm-1の波数領域でもピークが観察された。
【0072】
これによって、製造例2で得たハイドロタルサイトが部分的に脱水酸されたことが分かる。
【0073】
実施例1〜8及び比較例1〜5
ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート518gとポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量1,800)2,328gを、窒素ガス雰囲気下で80℃、90分間攪拌しながら反応させ、両端にイソシアネイト基を持つポリウレタンプレポリマーを製造した。このプレポリマーを室温まで冷却させた後、ジメチルアセトアミド4,269gを加えてポリウレタンプレポリマー溶液を得た。エチレンジアミン34.4g、プロピレンジアミン10.6g、ジエチルアミン9.1gをジメチルアセトアミド1,117gに溶解し、10℃以下で前記プレポリマー溶液に添加してポリウレタン溶液を得た。
【0074】
前記ポリウレタン溶液の固形分の全重量を基準に、添加剤としてエチレンビス(オキシエチレン)ビス−(3−(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)−プロピオネート)1重量%、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−p−フェニレン)ジセミカルバジド1重量%、ポリ(N,N−ジエチル−2−アミノエチルメタクリレート)1重量%、二酸化チタン0.5重量%、ステアリン酸マグネシウム0.5重量%と製造例1〜8及び比較製造例1〜5で製造したハイドロタルサイト4重量%をそれぞれ添加してポリウレタン溶液と混合してポリウレタン紡糸原液を得た。この時、前記添加剤は、ポリウレタン紡糸原液に添加される前にアドバンチス(Advantis)V3(ドライス(Drais)社製、ドイツ)を用いてジメチルアセトアミド溶媒に分散して粉砕したものである。
【0075】
前記紡糸原液を脱泡した後、250℃の紡糸温度で乾燥紡糸して4本のフィラメントからなる40デニールのスパンデックス繊維を製造した。
【0076】
得られたスパンデックス繊維の物性を評価して表1に示す。
【0077】
1)耐塩素性
スパンデックス糸を50%伸張下でpH4.2、97〜98℃の水で2時間処理し、室温に冷やした後、活性塩素量3.5ppm、pH7.5の塩素水45Lに室温で24時間浸漬した後、下記式を用いて計算して強度保持率を評価した。強度評価のためにインストロン4301(インストロン社製、米国)を用い、試料片の長さは5cmで、セル(cell)1kgを用いて300mm/minの引張速度(クロスヘッド速度)で測定した。
【0078】
強度保持率(%)=S/S0×100
(前記式中、S0は処理前の強度であり、Sは処理後の強度である。)
2)耐変色性
円筒状編機(KT−400、直径4inch、針数400個、永田精機社製、日本)を用いてスパンデックスのみからなる円筒状編生地を用意し、この生地をユニトル(UNITOL)CT−81(SY chem社製、韓国)2g/L、ユニトル(UNITOL)SMS(シンヨン化学社製、韓国)3g/LとNaOH 0.5g/Lとの混合物からなる漂白洗剤(scouring agent)を含む円筒状編生地の重量の40倍量の水中で90℃で30分間洗浄処理した。このようにして得られた円筒状編生地は色視分光光度計(color−view spectrophotometer)(BYKガードナー社製、米国)を用いて黄変値「b」を各々測定した(テスト条件:機器配置(Instrument Geometry)=450/00、光源/観察者(Illuminant/Observer)=D65/100、試料ポート開口(sample port aperture):11mm、測定回数:3回)。b値が小さいほど変色が少ない。
【表1】

【0079】
表1に示されたように、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを含む実施例1〜8のスパンテックス糸の場合は、200℃以上の高温の紡糸工程中で変色されなかったと共に、耐塩素性にも優れていた。
【0080】
これに対し、結晶水を含むハイドロタルサイトを用いる比較例2及び3のスパンテックス糸の場合には、高温の紡糸工程中での耐変色性も耐塩素性も劣った(比較例2及び3参照)。なお、結晶水のみが除去され、部分的に脱水酸されていないハイドロタルサイトを用いる場合には、高温の紡糸工程中の耐変色性が、結晶水を含むハイドロタルサイトよりは優れていたが、本発明のスパンデックス繊維に比べては耐変色性も耐塩素性も不十分であった(比較例1、4及び5参照)。
【0081】
試験例3:スパンデックス繊維内のハイドロタルサイトの27Al MAS NMR分析
実施例2で製造したスパンデックス糸自体を試験例1の工程に従って27Al MAS NMRによって分析し、その結果を図4に示す。図4に示されるように、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトで現われる4面体配位Al3+ピークが8面体 体配位Al3+ピークと同時に現われた。
【0082】
試験例4:スパンデックス繊維から抽出したハイドロタルサイトの27Al MAS NMR分析
実施例2で製造したスパンデックス繊維が部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトを含んでいるかどうかを分析した。
【0083】
石油エーテルを用いて実施例2のスパンデックス繊維から油剤を除去し、該油剤が除去されたスパンデックス繊維を含水量100ppm以下のジメチルアセトアミドに1.3%以下の濃度で溶解させた後、前記溶液に対して遠心分離を2回行ってハイドロタルサイトを抽出した。前記抽出されたハイドロタルサイトを60℃以下で乾燥させて試験例1の工程に従って27Al MAS NMRによって分析した。
【0084】
その結果、図5に示されるように、前記抽出されたハイドロタルサイトは4面体配位Al3+ピークと8面体配位Al3+ピークとが同時に現れたことが確認できた。
【0085】
試験例5:スパンデックス繊維から抽出したハイドロタルサイトの赤外分光分析
実施例2で得られたスパンデックス繊維から抽出されたハイドロタルサイトを試験例2の工程に従って赤外分光法によって分析した。
【0086】
その結果、図8に示されるように、前記抽出されたハイドロタルサイトに対する赤外部分光法を用いて、部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトで現われる約1,500〜1,600cm-1波数領域で高い吸収ピークを有することが観察された。
【0087】
上述したように、本発明のスパンデックス繊維は200℃以上の高温紡糸中にも優れた耐塩素性及び耐変色性を有するので、下着、靴下、特に水着のようなスポーツ衣類用に有用である。
【0088】
以上、本発明を前記具体的な実施例と関連して説明したが、添付された特許請求の範囲によって定義された本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当該技術分野における熟練者が本発明を多様に変形及び変化させ得ることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部の水酸基が除去された(部分的に脱水酸された)ハイドロタルサイトを全重量の0.1〜10重量%の量で含むスパンデックス繊維。
【請求項2】
前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトが化2で表されることを特徴とする請求項1に記載のスパンデックス繊維:
【化2】

前記式中、MはMg、Ca又はZnであり、yは2.4<y≦4の範囲内の値であり、zは0<z≦8の範囲内の値であり、mは0又は正の数である。
【請求項3】
前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトが、Mg8Al4(OH)164(CO32、Mg8Al4(OH)88(CO32、Mg9Al3(OH)183(CO31.5、Mg9Al3(OH)126(CO31.5、Mg9.6Al2.4(OH)19.22.4(CO31.2、Mg9.6Al2.4(OH)14.44.8(CO31.2、Mg8Al4(OH)164(CO32・6H2O、Mg8Al4(OH)88(CO32・7H2O、Mg9Al3(OH)183(CO31.5・7.5H2O、Mg9Al3(OH)126(CO31.5・8H2O及びこれらの混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項2に記載のスパンデックス繊維。
【請求項4】
前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトが、結晶水を含むハイドロタルサイトを200〜390℃の温度範囲で熱処理して製造されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパンデックス繊維。
【請求項5】
前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトが、結晶水を含むハイドロタルサイトを250〜300℃の温度範囲で熱処理して製造されることを特徴とする請求項4に記載のスパンデックス繊維。
【請求項6】
27Alマジック角回転核磁気共鳴分析の際に8面体配位Al3+ピークと4面体配位Al3+ピークとが同時に観察されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパンデックス繊維。
【請求項7】
赤外分光法による分析の際に1,300〜1,400cm-1波数領域及び1,500〜1,600cm-1波数領域で吸収ピークが観察されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパンデックス繊維。
【請求項8】
前記部分的に脱水酸されたハイドロタルサイトの2次凝集粒子の平均粒度が15μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパンデックス繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−536274(P2009−536274A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509398(P2009−509398)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000551
【国際公開番号】WO2007/129807
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(501434948)ヒョスン・コーポレーション (18)
【氏名又は名称原語表記】HYOSUNG CORPORATION
【Fターム(参考)】