説明

部材の接合方法

【課題】加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに対して十分な耐久性を得ることができる部材の接合方法を提供する。
【解決手段】
部材の接合方法では、2つの被接合部材2,4の間に、Ag層6,8,7とBi層9a,9bとを形成し、Ag層6,8,7及びBi層9a,9bを加熱してAg−Bi合金からなる接合層3を形成する。接合層3は、Ag−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満となっている。一方の被接合部材4はAlからなり、他方の被接合部材2はSiからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの被接合部材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、パワーデバイス(電力用半導体素子)が接合された電子基板のように、接合された状態で加熱及び冷却の熱サイクルが繰り返される2つの被接合部材を接合する接合方法として、該2つの被接合部材の間に5質量%のSnを含むPbからなる接合層を形成する方法が知られている。
【0003】
近年、接合層にPbを使用しないことが求められていることから、前記5質量%のSnを含むPbからなる接合層に代えて、20質量%のSnを含むAuからなる接合層や、2.5質量%のAgを含むBiからなる接合層を形成する方法が検討されているが、得られた接合層が脆弱である、Auが高価である等の理由により、実用化が困難となっている。
【0004】
そこで、従来、Ag及びBiを真空下で960〜1000℃の温度で加熱し溶解させた後に室温まで冷却してワイヤ形状に成形された、2〜18質量%のAgを含み残部がBiであるAg−Bi合金を含むハンダを用いて、ハンダ付けにより2つの被接合部材を接合する接合方法が提案されている(特許文献1参照)。前記ハンダ付けは、430℃以下の温度で30秒間加熱することにより行われる。また、0.01〜5質量%のAgを含み残部がBiであるAg−Bi合金からなるハンダを用いて、325℃の温度でハンダ付けすることにより2つの被接合部材を接合する接合方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、前記従来の接合方法によれば、前記ハンダ付けにより形成された接合層に対して加熱及び冷却の熱サイクルが繰り返されたときに、十分な耐久性を得ることができないという不都合がある。
【特許文献1】特開2004−533327号公報
【特許文献2】特開2007−181880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに対して十分な耐久性を得ることができる部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記従来のAg−Bi合金を含むハンダを用いた接合方法によれば、形成された接合層において、Ag−Bi合金中にBiが多量に偏析していて、該Biの熱膨張率が該Ag−Bi合金の熱膨張率よりも小さいために、熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しの際に、Biにクラックが生じることを知見した。
【0008】
そこで、かかる目的を達成するために、本発明の部材の接合方法は、2つの被接合部材の間にAg層とBi層とを形成し、該Ag層及び該Bi層を加熱してAg−Bi合金からなる接合層を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明では、まず、前記2つの被接合部材の間に前記Ag層と前記Bi層とを形成する。次に、形成された前記Ag層及び前記Bi層を加熱して前記Ag−Bi合金からなる前記接合層を形成する。
【0010】
前記加熱により、まず、前記Ag層と前記Bi層との境界部において、前記Ag−Bi合金からなる前記接合層が形成される。これにより、前記2つの被接合部材が仮接合される。しかし、前記境界部から離れた部分では、前記Ag−Bi合金からなる前記接合層は形成されず、前記Ag層又は前記Bi層のままとなっている。Biの熱膨張率はAgやAg−Bi合金の熱膨張率よりも小さいために、仮接合された前記2つの被接合部材が加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに曝されると、前記Bi層にクラックが生じ、十分な耐久性を得ることができない。
【0011】
そこで、本発明では、前記2つの被接合部材が仮接合された後も前記加熱を継続することにより、前記境界部から離れた部分に存在するAg又はBiを互いに拡散させる。これにより、前記境界部から離れた部分においてもAg−Bi合金からなる前記接合層が形成される。以上により、前記2つの被接合部材が前記Ag−Bi合金からなる前記接合層により確実に接合される。
【0012】
したがって、本発明によれば、前記加熱により、前記接合層において、前記Ag−Bi合金中に偏析するAg及びBiを減少させることができるので、接合された前記2つの被接合部材が加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに曝されたときに、十分な耐久性を得ることができる部材の接合方法を提供することができる。
【0013】
前記接合層において、前記Ag−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%以上である場合には、Biが過剰となって、熱サイクルが繰り返されたときにBiにクラックが生じることがある。そこで、本発明においては、前記接合層において、前記Ag−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満であることが好ましい。これにより、接合された前記2つの被接合部材が加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに曝されたときに、クラックを生ずることなくさらに十分な耐久性を得ることができる。
【0014】
前記2つの被接合部材の間に形成される前記Ag層と前記Bi層とは、例えば、第1のAg層、第1のBi層、第2のAg層、第2のBi層、第3のAg層の順に積層されていてもよい。また、前記2つの被接合部材の間に形成される前記Ag層と前記Bi層とは、例えば、一方の前記被接合部材の接合面に第1のAg層を形成し、他方の前記被接合部材の接合面に第3のAg層を形成し、該第1のAg層と該第3のAg層とにより、両面に前記第1のBi層及び前記第2のBi層が形成された前記第2のAg層としてのAg膜を挟持することにしてもよい。
【0015】
また、本発明において、例えば、一方の前記被接合部材が金属部材であって、他方の前記被接合部材が該金属部材と同種の金属部材、又は、他方が該金属部材と異種の金属部材、或いは、他方が非金属部材としてもよい。例えば、一方の前記被接合部材がAlからなり、他方の前記被接合部材がSiからなるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の部材の接合方法により接合されたSi−Al基板を説明する説明的断面図であり、図2は本実施形態の部材の接合方法の一例を説明する説明的断面図であり、図3は本実施形態の部材の接合方法の変形例を説明する説明的断面図である。
【0017】
図1に示す本実施形態の部材の接合方法により接合されたSi−Al基板1は、Siチップ2を、Ag−Bi合金からなる接合層3によりAl板4に接合されたものである。接合層3とAl基板4との間には、Ni層5が形成されている。接合層3において、Ag−Bi合金中に偏析しているBiは35質量%未満となっている。次に、図2に従って、本実施形態の部材の接合方法によるSi−Al基板1の接合方法について説明する。
【0018】
まず、図2(a)に示すように、Siチップ2の接合面に、例えばスパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層6を形成する。
【0019】
次に、Al板4の接合面に、例えばメッキにより、厚さが1〜2μmであるNi層5を形成する。続いて、Ni層5の上に、例えば蒸着により、厚さが120nmであるAg層7を形成する。
【0020】
次に、厚さが20μmである銀箔8の両面に、例えばスパッタリングにより、厚さが0.2μmであるBi膜9a,9bを形成する。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、Al板4の接合面に形成されたAg層7の上に、Bi膜9bを対向させて銀箔8を積層し、銀箔8に形成されたBi膜9aの上に、Ag層6を対向させてSiチップ2を積層することにより、積層板1aを形成する。このとき、積層板1aにおいて、上から順に、Siチップ2、第1のAg層としてのAg層6、第1のBi層としてのBi膜9a、第2のAg層としての銀箔8、第2のBi層としてのBi膜9b、第3のAg層としてのAg層7、Ni層5、Al板4が積層されている。
【0022】
次に、積層板1aを、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、250〜265℃の範囲の温度に3〜60分の範囲の時間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成する。
【0023】
前記加熱により、まず、図2(c)に示すように、Ag層6、Bi膜9a、銀箔8、Bi膜9b、Ag層7の各境界部において、Ag−Bi合金からなる接合層3aが形成される。これにより、Siチップ2及びAl板4が仮接合される。しかし、前記境界部から離れた部分では、Ag−Bi合金からなる接合層3aは形成されず、Ag層6、Bi膜9a、銀箔8、Bi膜9b、Ag層7のままとなっている。
【0024】
Biの熱膨張率はAg及びAg−Bi合金の熱膨張率よりも小さいために、仮接合されたSiチップ2及びAl板4は、加熱及び冷却の熱サイクルの繰り返しに曝されると、Bi膜9a,9bにクラックが生じ、十分な耐久性を得ることができない。
【0025】
そこで、本実施形態では、Siチップ2及びAl板4が仮接合された後も前記加熱を継続することにより、Ag層6、Bi膜9a、銀箔8、Bi膜9b、Ag層7の各境界部から離れた部分に存在するAg又はBiを互いに拡散させる。これにより、図1に示すように、前記境界部から離れた部分においてもAg−Bi合金からなる接合層3が形成されるとともに、接合層3において、Ag−Bi合金中に偏析しているBiは35質量%未満となる。以上により、Siチップ2及びAl板4が、Ag−Bi合金からなる接合層3により確実に接合されて、図1に示すSi−Al基板1が形成される。
【0026】
本実施形態の部材の接合方法によれば、Si−Al基板1のAg−Bi合金からなる接合層3は、該Ag−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満であるので、熱サイクルの繰り返しに対して、クラックを生ずることなく十分な耐久性を得ることができる。
【0027】
Si−Al基板1は、上述の部材の接合方法に代えて、図3に示す部材の接合方法によっても形成することができる。
【0028】
まず、図3に示すように、Siチップ2の接合面に、例えばスパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層6を形成する。
【0029】
次にAl板4の接合面に、例えばメッキにより、厚さが2μmであるNi層5を形成する。続いて、Ni層5の上に、例えばメッキにより、厚さが10μmであるAg層7を形成する。さらに、Ag層7の上に、スパッタリングにより、厚さが0.1μmであるBi層10を形成する。
【0030】
次に、Al板の接合面に形成されたBi層10の上に、Ag層6を対向させてSiチップ2を積層することにより、積層板(図示せず)を形成する。このとき、前記積層板において、上から順に、Siチップ2、第1のAg層としてのAg層6、第1のBi層としてのBi層10、第2のAg層としてのAg層7、Ni層5、Al板4が積層されている。
【0031】
次に、前記積層板を、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、265〜300℃の範囲の温度に3〜180分の範囲の時間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成する。以上により、Siチップ2及びAl板4が、Ag−Bi合金からなる接合層3により確実に接合されて、図1に示すSi−Al基板1が形成される。
【0032】
次に、実施例と比較例とを示す。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、図2に示す方法に従って、まず、寸法が10mm×10mmであるSiチップ2の接合面に、スパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層6を形成した。
【0034】
次に、寸法が20mm×20mm×5mmであるA1050からなるAl板4の接合面に、メッキにより厚さが2μmのNi層5を形成した。続いて、Ni層5の上に、蒸着により、厚さが120nmであるAg層7を形成した。
【0035】
次に、厚さが20μmである銀箔8の両面に、スパッタリングにより、厚さが0.2μmであるBi膜9a,9bを形成した。
【0036】
次に、Al板4の接合面に形成されたAg層7の上に、Bi膜9bを対向させて銀箔8を積層し、銀箔8の上のBi膜9aの上に、Ag層6を対向させてSiチップ2を積層することにより、積層板1aを形成した。
【0037】
次に、積層板1aを、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、265℃の温度に180分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成し、Si−Al基板1を完成させた。
【0038】
次に、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により、Si−Al基板1の接合層3において、Ag−Bi合金中に偏析しているBiの濃度を定量分析した。前記Bi定量分析は、Ag層6の中心部に相当する箇所について1点、Bi膜9aの中心部に相当する箇所について2点、銀箔8の中心部に相当する箇所について1点の計4点について行われた。結果として、4点の定量分析におけるBiの最大濃度を表1に示す。
【0039】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1を、大気中で室温から180℃まで加熱し再び室温まで冷却する処理を1サイクルとする熱サイクル試験を5000サイクルまで行い、該サイクルの繰り返しに対する耐久性を評価した。結果として、接合部が剥離するまでの耐久サイクル数とその評価を表1に示す。表1の「評価」において、“○”は耐久サイクル数が5000以上であることを示し、“×”は耐久サイクル数が5000未満であることを示す。
【実施例2】
【0040】
本実施例では、積層板1aを、270℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0041】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0042】
本実施例では、積層板1aを、270℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0043】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0044】
本実施例では、積層板1aを、280℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0045】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0046】
本実施例では、積層板1aを、280℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0047】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例6】
【0048】
本実施例では、積層板1aを、300℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0049】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例7】
【0050】
本実施例では、積層板1aを、300℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0051】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
本比較例では、積層板1aを、250℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0052】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
本比較例では、積層板1aを、250℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0053】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
本比較例では、積層板1aを、260℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0054】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
本比較例では、積層板1aを、260℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0055】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例5]
本比較例では、積層板1aを、265℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0056】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
[比較例6]
本比較例では、積層板1aを、265℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例1と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0057】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】



【0059】
表1から、接合層3のAg−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満になっている実施例1〜7の接合方法によれば、Ag−Bi合金からなる接合層3において、熱サイクルに対して5000サイクル以上の優れた耐久性を得ることが明らかである。従って、Ag−Bi合金からなる接合層3により、Siチップ2とAl板4とを確実に接合できることが明らかである。
【0060】
一方、接合層3のAg−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%以上になっている比較例1〜6の接合方法によれば、Ag−Bi合金からなる接合層3において、熱サイクルに対する耐久性が5000サイクル未満であり、十分な耐久性を得られないことが明らかである。
【実施例8】
【0061】
本実施例では、図3に示す方法に従って、まず、寸法が10mm×10mmであるSiチップ2の接合面に、スパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層6を形成した。
【0062】
次に、寸法が20mm×20mm×5mmであるA1050からなるAl板4の接合面に、メッキにより厚さが2μmのNi層5を形成した。続いて、Ni層5の上に、メッキにより、厚さが10μmであるAg層7を形成した。さらに、Ag層7の上に、スパッタリングにより厚さが0.1μmであるBi層を形成した。
【0063】
次に、Al板の接合面に形成されたBi層10の上に、Ag層6を対向させてSiチップ2を積層することにより、積層板(図示せず)を形成した。
【0064】
次に、前記積層板を、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、265℃の温度に180分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成し、Si−Al基板1を完成させた。
【0065】
次に、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により、Si−Al基板1の接合層3において、Ag−Bi合金中に偏析しているBiの濃度を定量分析した。前記Bi定量分析は、Ag層6の中心部に相当する箇所について1点、Bi層10の中心部に相当する箇所について2点、Ag層7の中心部に相当する箇所について1点の計4点について行われた。結果として、4点の定量分析におけるBiの最大濃度を表2に示す。
【0066】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例9】
【0067】
本実施例では、前記積層板を、270℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0068】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例10】
【0069】
本実施例では、前記積層板を、270℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0070】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例11】
【0071】
本実施例では、前記積層板を、280℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0072】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例12】
【0073】
本実施例では、前記積層板を、280℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0074】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例13】
【0075】
本実施例では、前記積層板を、300℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0076】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【実施例14】
【0077】
本実施例では、前記積層板を、300℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0078】
次に、本実施例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例7]
本比較例では、前記積層板を、250℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0079】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例8]
本比較例では、前記積層板を、250℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0080】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例9]
本比較例では、前記積層板を、260℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0081】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例10]
本比較例では、前記積層板を、260℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0082】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例11]
本比較例では、前記積層板を、265℃の温度に3分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0083】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
[比較例12]
本比較例では、前記積層板を、265℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層3を形成した点を除いて、実施例8と全く同一にして、Si−Al基板1を形成した。
【0084】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例8と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】



【0086】
表2から、接合層3のAg−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満になっている実施例11〜14の接合方法によれば、Ag−Bi合金からなる接合層3において、熱サイクルに対して5000サイクル以上の優れた耐久性を得ることが明らかである。従って、Ag−Bi合金からなる接合層3により、Siチップ2とAl板4とを確実に接合できることが明らかである。
【0087】
一方、接合層3のAg−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%以上になっている比較例7〜12の接合方法によれば、Ag−Bi合金からなる接合層3において、熱サイクルに対する耐久性が5000サイクル未満であり、十分な耐久性を得られないことが明らかである。
[比較例13]
本比較例では、まず、寸法が10mm×10mmであるSiチップの接合面に、スパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層を形成した。
【0088】
次に、寸法が20mm×20mm×5mmであるA1050からなるAl板の接合面に、メッキにより厚さが2μmのNi層を形成した。続いて、Ni層5の上に、蒸着により、厚さが120nmであるAg層を形成した。
【0089】
次に、Al板の接合面に形成されたAg層の上に、厚さが100μmであって、2.5質量%のAgを含み残部がBiからなるロウ材シートを積層し、該ロウ材シートの上に、Ag層を対向させてSiチップを積層することにより、積層板を形成した。
【0090】
次に、前記積層板を、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、265℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層を形成し、Si−Al基板を完成させた。
【0091】
次に、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)により、Si−Al基板1の接合層において、Ag−Bi合金中に偏析しているBiの濃度を定量分析した。前記Bi定量分析は、前記ロウ材シートの一端面に相当する箇所について1点、中心部に相当する箇所について2点、他端面に相当する箇所について1点の計4点について行われた。結果として、4点の定量分析におけるBiの最大濃度を表3に示す。
【0092】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板1について、実施例1と全く同一にして、熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
[比較例14]
本比較例では、前記積層板を、280℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層を形成した点を除いて、比較例13と全く同一にして、Si−Al基板を形成した。
【0093】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板について、比較例13と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
[比較例15]
本比較例では、前記積層板を、300℃の温度に60分間保持することにより、Ag−Bi合金からなる接合層を形成した点を除いて、比較例13と全く同一にして、Si−Al基板を形成した。
【0094】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板について、比較例13と全く同一にして、Bi定量分析と熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
[比較例16]
本比較例では、まず、寸法が10mm×10mmであるSiチップの接合面に、スパッタリングにより、厚さが200nmであるAg層を形成した。
【0095】
次に、寸法が20mm×20mm×5mmであるA1050からなるAl板の接合面に、メッキにより厚さが2μmのNi層を形成した。続いて、Ni層5の上に、蒸着により、厚さが120nmであるAg層を形成した。
【0096】
次に、Al板の接合面に形成されたAg層の上に、厚さが100μmであって、20質量%のSnを含み残部がAuからなるロウ材シートを積層し、該ロウ材シートの上に、Ag層を対向させてSiチップを積層することにより、積層板を形成した。
【0097】
次に、前記積層板を、200g/cmの荷重を負荷した状態で、100kPaの圧力のArガス雰囲気下で、300℃の温度に5分間保持することにより、Au−Sn合金からなる接合層を形成し、Si−Al基板を完成させた。
【0098】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板について、比較例13と全く同一にして、熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。ただし、Bi定量分析は行わなかった。
[比較例17]
本比較例では、前記積層板を、320℃の温度に5分間保持することにより、Au−Sn合金からなる接合層を形成した点を除いて、比較例16と全く同一にして、Si−Al基板を形成した。
【0099】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板について、比較例13と全く同一にして、熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
[比較例18]
本比較例では、前記積層板を、340℃の温度に5分間保持することにより、Au−Sn合金からなる接合層を形成した点を除いて、比較例16と全く同一にして、Si−Al基板を形成した。
【0100】
次に、本比較例で得られたSi−Al基板について、比較例13と全く同一にして、熱サイクル試験を行った。結果を表3に示す。
【0101】
【表3】



【0102】
表3から、2.5質量%のBiを含み残部がAgからなるロウ材シートを用いた比較例13〜15の接合方法によれば、接合層のAg−Bi合金中に偏析しているBiが97質量%以上になり、熱サイクルに対する耐久性が5000サイクル未満であり、十分な耐久性を得られないことが明らかである。
【0103】
また、表3から、20質量%のSnを含み残部がAuからなるロウ材シートを用いた比較例16〜18の接合方法によれば、熱サイクルに対する耐久性が5000サイクル未満であり、十分な耐久性を得られないことが明らかである。
【0104】
したがって、表1乃至表3から、実施例1〜14の接合方法によれば、従来技術の接合方法である比較例13〜18と比較して、熱サイクルに対して5000サイクル以上の優れた耐久性を得ることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本実施形態の部材の接合方法により接合されたSi−Al基板を説明する説明的断面図。
【図2】本実施形態の部材の接合方法の一例を説明する説明的断面図。
【図3】本実施形態の部材の接合方法の変形例を説明する説明的断面図。
【符号の説明】
【0106】
2…被接合部材、Si 3…接合層、 4…被接合部材、Al、 6…第1のAg層、 7…第3のAg層、 8…第2のAg層、Ag膜、 9a…第1のBi層、 9b…第2のBi層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被接合部材の間にAg層とBi層とを形成し、該Ag層及び該Bi層を加熱してAg−Bi合金からなる接合層を形成することを特徴とする部材の接合方法。
【請求項2】
前記接合層は、前記Ag−Bi合金中に偏析しているBiが35質量%未満であることを特徴とする請求項1記載の部材の接合方法。
【請求項3】
前記2つの被接合部材の間に形成される前記Ag層と前記Bi層とが、第1のAg層、第1のBi層、第2のAg層、第2のBi層、第3のAg層の順に積層されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の部材の接合方法。
【請求項4】
前記2つの被接合部材の間に形成される前記Ag層と前記Bi層は、一方の前記被接合部材の接合面に第1のAg層を形成し、他方の前記被接合部材の接合面に第3のAg層を形成し、該第1のAg層と該第3のAg層とにより、両面に前記第1のBi層及び前記第2のBi層が形成された前記第2のAg層としてのAg膜を挟持させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の部材の接合方法。
【請求項5】
一方の前記被接合部材がAlからなり、他方の前記被接合部材がSiからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−183995(P2009−183995A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28572(P2008−28572)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)