説明

部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材

【課題】低コストで簡単に穴を塞ぐことができる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供する。
【解決手段】部材本体1に設けられた穴6の開口部6aを覆うようにして、部材本体1に各種材料からなるシート状材11を重ね、部材本体1の開口部6aの周囲を相対的にシート状材11に押圧することにより、シート状材11の一部が開口部6aに対応する形状に打ち抜かれて穴6内に侵入し、開口部6aを塞いで塞ぎ体13となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート、ナット、雄ねじ等の各種部材に設けられた穴を、シート状材からなる塞ぎ体で塞ぐ方法、および塞ぎ体で塞がれた穴を有する各種部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、雄ねじを直接螺合することが不可能なような薄い板材に、インサートと呼ばれる部品(スペーサ、圧入ナット、ファスナー、ボス部材等とも呼ばれている)を固着し、このインサートを介して前記板材に間接的に被締結物を締結する技術がよく知られている。このような技術は、例えば、電子機器等において広く利用されている。
【0003】
従来の前記インサートにおいては、多くの場合、雄ねじが螺合される穴は、該インサートを軸方向に貫通する貫通穴となっていた(なお、タッピンねじが螺合される場合は、前記穴には雌ねじは設けられない一方、タッピンねじではない雄ねじが螺合される場合は、前記穴には雌ねじが設けられる)。
【0004】
このため、誤って本来指定されているものより長い雄ねじが使用されてしまったりすると、雄ねじの先端がインサートから突出し、本来は接触してはならない基板等に接触してしまうことがあるという問題があった。
【0005】
また、インサートの穴から切り粉、メッキ粉等が、該インサートが装着された機器内に流出する虞があるという問題もあった。
【0006】
そこで、特許文献1等に開示されているように、インサートに対し穴を貫通させず、穴の一端側が閉じられた構成とするクローズドタイプと呼ばれるインサートも従来から存在した(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−197762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来のクローズドタイプのインサートにおいては、次のような問題があった。
【0009】
(a)穴が閉じているため、メッキ処理の前工程における洗浄液による洗浄や、洗浄処理完了後の洗浄液の乾燥がうまく行かないとともに、メッキ液を穴の内壁面に残りなく接触させることができないので、部材のメッキ処理を良好に行うことができない、
(b)穴に雌ねじを設ける場合、雌ねじを加工するタップを貫通させることができないので、有効ねじ部を長くすることができない、
(c)穴に雌ねじを設ける場合、雌ねじ加工時にタップを軸方向に往復動させなければならないので、加工コストが高くなる。
【0010】
また、従来は、前記インサート以外の、穴の少なくとも一端側を閉じられた部品においても、同様の問題があった。また、部材によっては、穴が最初から閉じられていてはその機能を果たせず、ある時点以降に穴が閉じられる必要があるものもある。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、低コストで簡単に穴を塞ぐことができる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、部材のメッキ処理を良好に行うことを可能にする、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、穴に雌ねじを設ける場合、有効ねじ部を長くすることができる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、穴に雌ねじを設ける場合、雌ねじ加工コストを低減することができる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、各部のサイズ等の仕様が異なる同種の部材が存在する場合、それら相互の識別を容易にすることができる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法は、
穴を設けられた部材本体を用意する段階と、
前記穴の開口部を覆うようにして前記部材本体にシート状材を重ねる段階と、
押圧体を前記シート状材を介して前記部材本体のうちの前記開口部の周囲に相対的に押圧することにより、前記シート状材の一部が前記開口部に対応する形状に打ち抜かれて前記穴内に侵入し、前記穴の開口部付近を塞いで塞ぎ体となるようにする段階とを有してなるものである。
【0018】
本発明による塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材は、
穴と、
シート状材からなり、外周部を前記穴の内壁に接触された状態で前記穴の開口部付近を塞いでいる塞ぎ体と、
前記部材本体のうちの前記開口部の周囲部分を塑性変形してなり、前記シート状材をかしめて前記部材本体に固定している塑性変形部とを有してなるものである。
【0019】
本発明によれば、低コストで簡単に各種部材の穴を塞ぐことできる。
【0020】
また、元々は貫通穴である部材の穴を塞ぐことにより、例えばインサートの場合、クローズドタイプとして、インサートに螺合される雄ねじの先端がインサートから突出し、本来は接触してはならない基板等に接触してしまったり、インサートの穴から切り粉、メッキ粉等が、該インサートが装着された機器内に流出するという不都合を防止できる。
【0021】
その一方、塞ぎ体で穴が塞がれる前は、貫通穴であるので、メッキ処理の前工程における洗浄液による洗浄や、洗浄処理完了後の洗浄液の乾燥を良好に行うことができるとともに、メッキ液を穴の内壁面に残りなく接触させることができるので、部材のメッキ処理を良好に行うことができる。
【0022】
また、穴に雌ねじを設ける場合、塞ぎ体で穴を塞ぐ前に雌ねじを加工することにより、雌ねじ加工時、雌ねじを加工するタップを穴に対し貫通させることができるので、有効ねじ部を長くすることができる(ただし、貫通穴に雌ねじ部の内径より小さい径を有する部分を設けない場合)。
【0023】
また、穴に雌ねじを設ける場合、塞ぎ体で穴を塞ぐ前に雌ねじを加工することにより、雌ねじを加工するタップを軸方向に往復動させないで、軸方向に一方向にのみ動かし、穴を貫通させて雌ねじを加工することができるので、雌ねじ加工コストを低減することができる(ただし、貫通穴に雌ねじ部の内径より小さい径を有する部分を設けない場合)。
【0024】
また、インサート等の部材では、多くの場合、各部のサイズ等が異なる種々の仕様のものが用意されることになるが、従来は、それらの異なる仕様の部材を一目で識別することは困難であった。しかるに、本発明によれば、異なる仕様の部材に対して異なる色の塞ぎ体を装着することにより、異なる仕様の部材間の識別を容易にすることができる。
【0025】
また、必要に応じて、塞ぎ体を外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲したり、逆に外側に対して凸となるドーム状に湾曲したり、平らな状態とすることができる。塞ぎ体を外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲させれば、特に穴の内側から外側に向かって塞ぎ体を突き破ったり、塞ぎ体を部材から離脱させようとする力に対する抵抗強度を高めることができる。反対に、塞ぎ体を外側に対して凸となるドーム状に湾曲させれば、特に穴の外側から内側に向かって作用する力に対する抵抗強度を高めたり、塞ぎ体の外面側に形成される凹部にごみ等が溜まる虞等を防止できる。
【0026】
さらに、締結後に雄ねじの回動穴を塞ぎ体で塞ぐようにすれば、雄ねじのいじり止めを図ることもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、
(A)低コストで簡単に穴を塞ぐことできる、
(B)部材のメッキ処理を良好に行うことができる、
(C)穴に雌ねじを設ける場合、有効ねじ部を長くすることができる。
【0028】
(D)穴に雌ねじを設ける場合、雌ねじ加工コストを低減することができる、
(E)異なる仕様の部材に対して異なる色の塞ぎ体を装着することにより、異なる仕様の部材間の識別を容易にすることができる、
(F)必要に応じて、塞ぎ体を外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲したり、逆に外側に対して凸となるドーム状に湾曲したり、平らな状態とすることができる。
【0029】
(G)締結後に雄ねじの回動穴を塞ぎ体で塞ぐようにすれば、雄ねじのいじり止めを図ることもできる、
等の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1におけるインサート本体を示す正面図である。
【図2】実施例1におけるインサート本体を示す平面図である。
【図3】図2のIII−III線における断面図である。
【図4】実施例1においてインサート本体の穴の開口部にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図5】実施例1においてパンチ金型をシート状材を介してインサート本体に押圧することにより塞ぎ体で穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図6】実施例1における完成されたインサートを示す縦断面図である。
【図7】図6のインサートの塞ぎ体装着部付近の拡大縦断面図である。
【図8】実施例1におけるインサートを板材に固着する作業において、インサートを板材に圧入する直前の状態を示す縦断面図である。
【図9】実施例1におけるインサートを板材に固着する作業の完了時の状態を示す縦断面図である。
【図10】実施例1における固着後のインサートおよび板材を取り出して示す縦断面図である。
【図11】インサート本体に対し塞ぎ体を装着する作業を自動化する際、シート状材をロール状に巻回したテープ状とした場合を示す縦断面図である。
【図12】本発明の実施例2における塞ぎ体でインサート本体の穴を塞ぐ作業を示す縦断面図である。
【図13】本発明の実施例3におけるインサート本体を示す平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線における断面図である。
【図15】実施例3における塞ぎ体でインサート本体の穴を塞ぐ作業を示す縦断面図である。
【図16】実施例3における完成されたインサートを示す縦断面図である。
【図17】本発明の実施例4におけるインサート本体を示す平面図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線における断面図である。
【図19】図18のインサート本体の突起部付近の拡大縦断面図である。
【図20】実施例4においてインサート本体の穴の開口部にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図21】実施例4においてパンチ金型をシート状材を介してインサート本体に押圧することにより塞ぎ体で穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図22】実施例4における完成されたインサートを示す縦断面図である。
【図23】図22のインサートの塞ぎ体装着部付近の拡大縦断面図である。
【図24】本発明の実施例5における完成後のインサートを板材に固着した状態で示す縦断面図である。
【図25】本発明の実施例6における完成されたインサートを示す縦断面図である。
【図26】本発明の実施例7におけるインサート本体を示す平面図である。
【図27】図26のXXVII−XXVII線における断面図である。
【図28】本発明の実施例8におけるボルトを示す平面図である。
【図29】図28のXXIX−XXIX線における断面図である。
【図30】図29のボルトの突起部付近の拡大縦断面図である。
【図31】実施例8において締結後にボルトの頭部の穴にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図32】実施例8においてパンチ金型をシート状材を介してボルトの頭部に押圧することにより塞ぎ体で駆動穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図33】実施例8における駆動穴を塞ぎ体で塞がれたボルトを示す縦断面図である。
【図34】本発明の実施例9におけるボルトを示す平面図である。
【図35】図34のXXXV−XXXV線における断面図である。
【図36】図35のボルトの突起部付近の拡大縦断面図である。
【図37】実施例9において締結後にボルトの頭部の穴にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図38】実施例9においてパンチ金型をシート状材を介してボルトの頭部に押圧することにより塞ぎ体で駆動穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図39】実施例9における駆動穴を塞ぎ体で塞がれたボルトを示す縦断面図である。
【図40】本発明の実施例10におけるボルトを示す平面図である。
【図41】図40のXLI−XLI線における断面図である。
【図42】図41のボルトの突起部付近の拡大縦断面図である。
【図43】実施例10において締結後にボルトの頭部の穴にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図44】実施例10においてパンチ金型をシート状材を介してボルトの頭部に押圧することにより塞ぎ体で駆動穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図45】実施例10における駆動穴を塞ぎ体で塞がれたボルトを示す縦断面図である。
【図46】実施例11において締結後にボルトの頭部の穴にシート状材を重ねた状態を示す縦断面である。
【図47】実施例11においてパンチ金型をシート状材を介してボルトの頭部に押圧することにより塞ぎ体で駆動穴を塞いだ状態を示す断面である。
【図48】実施例11における駆動穴を塞ぎ体で塞がれたボルトを示す縦断面図である。
【図49】実施例12における駆動穴を塞ぎ体で塞がれたボルトを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1〜10は本発明の実施例1を示しており、本実施例および後述の実施例2〜7は、直接雄ねじを螺合することが不可能なような薄い板材に固着されることにより、前記板材に間接的に被締結物を締結可能にするインサートが、穴を塞ぎ体で塞がれる部材である場合の実施例である。
【0033】
図1〜3は、本実施例における塞ぎ体で穴を塞ぐ前のインサート本体1(部材本体)を示している。このインサート本体1は、鋼、アルミニウム合金等の金属からなり、円筒状の軸部2と、この軸部2の一端部に設けられた鍔部3とを一体的に有している。前記鍔部3は、軸部2より外径を大きくされていて、該軸部2の径方向外方に突出しており、その全外周にセレーションからなる回り止め凹凸部4を設けられている。前記インサート本体1の鍔部3の端面1aは平面状とされている。前記軸部2のうちの鍔部3付近には、環状溝5が設けられている。このインサート本体1においては、環状溝5と鍔部3との間には軸部2のうちの環状溝5ではない部分が若干存在しており、環状溝5は鍔部3に隣接していない。
【0034】
図3に示されるように、前記インサート本体1には、該インサート本体1全体、すなわち軸部2および鍔部3を軸方向に貫通する貫通穴である横断面円形の穴6が軸部2および鍔部3と同心に明けられている。前記穴6の内壁面には雌ねじ部7が設けられている。前記穴6の内壁のうちの軸部2側の開口部6a付近には、穴6の径方向中心側ほど深くなる傾斜面をなす受け部8が穴6を囲むようにして環状に設けられている。前記インサート本体1の穴6の軸部2側の開口部6aの周囲には、該開口部6aの軸方向に関し外方に突出し、かつ尖った先端を有する突起部9が環状に設けられている。
【0035】
次に、図4および5を用いて、本実施例におけるインサート本体1の穴6を塞ぎ体で塞ぐ作業を説明する。
【0036】
まず、図4に示されるように、台座金型10上にインサート本体1を、鍔部3が下方、軸部2が上方になり、鍔部3側の端面1aが台座金型10の上面に当接するようにして、セットするとともに、穴6の開口部6aを覆うようにしてインサート本体1にシート状材11を重ねる。
【0037】
前記シート状材11としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の各種プラスチック、鋼、ブリキ、アルミ合金等の金属、紙、セラミック、梱包用テープ等の広範な種類の材料を用いることができる。
【0038】
次に、図5に示されるように、上方からパンチ金型12(本実施例における押圧体)を下降し、該パンチ金型12をシート状材11を介してインサート本体1のうちの開口部6aの周囲、すなわち突起部9に押圧する。すると、シート状材11の一部が開口部6aに対応する形状に打ち抜かれて穴6内に侵入し、その外周部の一方の面が受け部8に当接されて、穴6の開口部6a付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、インサート本体1のうちの開口部6aの周囲部分、すなわち環状の突起部9が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられてインサート本体1に固定される。図6は、穴6を塞ぎ体13で塞がれて完成されたインサート14を示す縦断面図、図7は図6のインサートの塞ぎ体13装着部付近の拡大縦断面図である。
【0039】
なお、本実施例では、インサート本体1に突起部9が設けられているので、パンチ金型12(本実施例における押圧体)で押圧したとき、インサート本体1のうちの開口部6aの周囲部分が容易に塑性変形されるようにすることができる。
【0040】
また、本実施例では、さらに突起部9が先の尖った形状とされているので、シート状材11の一部をより円滑に開口部6aに対応する形状に打ち抜いて塞ぎ体13とすることができる。
【0041】
本実施例のインサート14は、日本特許出願、特願2007-271981号およびPCT特許出願、国際出願番号PCT/JP2008/65257で提案されている方法により、図8および9に示されるように下穴としてバーリング穴15を設けられた金属からなる板材16に固着される。下穴としてバーリング穴ではない単純な打ち抜き穴を板材に加工する従来のインサートの板材への固着方法とは異なる点があるので、次に、この固着作業を図8および9を用いて簡単に説明しておく(ただし、本発明は、後述の実施例5に示されるように、下穴として単純な打ち抜き穴が板材に加工される従来のインサートにも適用可能なものである)。
【0042】
板材16は、鋼、アルミ合金等の金属からなり、図8に示されるように、インサート14を固着すべき箇所にバーリング穴15を加工されている。第一の型17は、該第一の型17の上面をなす平面状の板材対向面17aと、この板材対向面17aに対し垂直方向(すなわち、鉛直方向)に明けられている軸部収容穴19とを有している。前記軸部収容穴19の板材対向面17a側の端部にはテーパー状の穴フランジ押圧部20が設けられている。
【0043】
板材16に対しインサート14を固着する際には、まず図8のように第一の型17の板材対向面17a上に板材16を載置し、板材16のバーリング穴15突出側の表面が第一の型17の板材対向面17aに対向されるようにするとともに、バーリング穴15の穴フランジ部15aが穴フランジ押圧部20に対向され、穴フランジ部15aの先端部が第一の型17の穴フランジ押圧部20に当接されるようにする。また、インサート14の軸部2をバーリング穴15に挿通した状態で、第二の型21を下降して行く。
【0044】
すると、図9のように、鍔部3が板材16のうちのバーリング穴15の穴フランジ部15a部分に該穴フランジ部15aの内面側から圧入されるとともに、穴フランジ部15aが第一の型17に外側から押圧される。これにより、穴フランジ部15aは鍔部3と穴フランジ押圧部20により挟まれるようにして塑性変形し、穴フランジ部15aの材料の一部が環状溝5に侵入して該環状溝5を充填する一方、穴フランジ部15aの材料の他の一部がインサート14の軸部2のうちの鍔部3と環状溝5との間の部分および鍔部3の軸部2側の端面3bに密着する。これにより、板材16に対しインサート14が強固に固着される。
【0045】
図10は、固着後のインサート14および板材16を取り出して示す縦断面図である。図10の一点鎖線で示すように、板材16に固着されたインサート14の雌ねじ部7に雄ねじ22を螺合することにより、板材16に対してインサート14を介して被締結物(図示せず)を取り付けることができる。
【0046】
さて、本実施例によれば、インサート本体1の穴6が塞ぎ体13で塞がれることにより、穴6が元々非貫通穴である場合と同様の機能を果たさせることができる。すなわち、クローズドタイプとして、誤った長さの雄ねじ22が雌ねじ7に螺合され、該雄ねじ22の先端がインサート14から突出し、本来は接触してはならない基板(図示せず)等に接触してしまったり、インサート14の穴6から切り粉、メッキ粉等が、インサート14が装着された機器内に流出する虞を防止できる。
【0047】
さらに、シート状材11として、磁石粉を混入される等によって磁石性を付与された材料からなるものを使用することにより、塞ぎ体13に磁石性を付与しておけば、磁性を有する切り粉やメッキ粉等を塞ぎ体13に吸着保持させておくこともできる。この場合は、その後インサート14から雄ねじ22が取り外されるようなことがあっても、インサート14の穴6から切り粉、メッキ粉等が機器内に流出する虞を防止できる。
【0048】
その一方、塞ぎ体13で穴6が塞がれる前は、穴6はインサート本体1を貫通する貫通穴であるので、メッキ処理の前工程における洗浄液による洗浄や、洗浄処理完了後の洗浄液の乾燥を良好に行うことができるとともに、メッキ液を穴6の内壁面に残りなく接触させることができるので、インサート本体1のメッキ処理を良好に行うことができる。
【0049】
また、塞ぎ体13で穴6を塞ぐ前に雌ねじ部7を加工することにより、雌ねじ部7加工時、雌ねじ部7を加工するタップ(図示せず)を穴6に貫通させることができるので、有効ねじ部を長くすることができる。
【0050】
また、塞ぎ体13で穴6を塞ぐ前に雌ねじ部7を加工することにより、雌ねじ部7を加工するタップを軸方向に往復動させないで、軸方向に一方向にのみ動かして穴6を貫通させて雌ねじ部7を加工することができるので、雌ねじ部7の加工コストを低減することができる。
【0051】
また、この種のインサートは、多くの場合、各部のサイズ等が異なる種々の仕様のものが用意されることになるが、従来は、それらの異なる仕様のインサート14を一目で識別することは困難であった。しかるに、異なる仕様のインサート14に対して異なる色の塞ぎ体13を装着することにより、異なる仕様のインサート14間の識別を容易にすることができる。
【0052】
また、本実施例では、塞ぎ体13が、外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されてインサート本体1に装着されるので、雌ねじ部7に螺合される雄ねじ22の先端が誤って塞ぎ体13にぶつかった場合のように、特に穴6の内側から外側に向かって塞ぎ体13を突き破ったり、塞ぎ体13を部材から離脱させようとする力が塞ぎ体13に作用したとき、そのような力に対する抵抗強度を特に高めることができる。
【0053】
なお、本実施例のようにパンチ金型12(押圧体)のシート状材11に対向される面が平らであり、塞ぎ体13の大きさに対する受け部8の面積の割合がある程度小さい場合は、受け部8が傾斜面とされていない場合でも、一般に、塞ぎ体13のうちの受け部8より内側の部分が穴6内に落ち込んで外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲される傾向がある。しかし、本実施例のように、受け部8を穴6の径方向中心側ほど深くなる傾斜面としておけば、塞ぎ体13が、確実に外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されるようにすることができる。
【0054】
さらに、本方法は、自動化が容易である。インサート本体1に対し塞ぎ体13を装着する作業の自動化するときは、例えば、インサート本体1はパーツ供給装置(図示せず)等により自動的にパンチ金型12の下方に順次送られるようにする一方、シート状材11の方は図11に示すようにロール状に巻回されたテープ状とし、このテープロール11aから順次繰り出されるようにすることができる。
【実施例2】
【0055】
図12は、本発明の実施例2における、塞ぎ体13でインサート本体1の穴6を塞ぐ作業を示している。インサート本体1、シート状材11、台座金型10およびパンチ金型12自体の構成は、それぞれ前記実施例1の場合と同様である。
【0056】
本実施例では、実施例1の場合とは異なり、台座金型10上にシート状材11を載置し、さらにその上にインサート本体1を実施例1とは上下逆向きに載置した状態で、パンチ金型12で上方からインサート本体1を下方、すなわちシート状材11および台座金型10に向かって押圧する。
【0057】
これにより、台座金型10(本実施例における押圧体)が相対的にシート状材11を介してインサート本体1のうちの開口部6aの周囲、すなわち突起部9を押圧することになり、実施例1の場合と全く同様に、シート状材11の一部が開口部6aに対応する形状に打ち抜かれて穴6内に侵入し、穴6の開口部6a付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、インサート本体1のうちの開口部6aの周囲部分、すなわち環状の突起部9が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられてインサート本体1に固定される。本実施例のような押圧様式としても、実施例1の場合と同じ結果が得られる。
【実施例3】
【0058】
図13および14は、本発明の実施例3におけるインサート本体1を示している。前記実施例1および2においては、穴6は雌ねじ部7の内径より小さい径を有する部分を有さないが、本実施例においては、インサート本体1のうちの塞ぎ体13が装着されることとなる端部付近において、穴6の径が雌ねじ部7の内径より小さくなる小径部6bが設けられている。インサート本体1の他の構成は実施例1と同様である。
【0059】
図15は、本実施例における塞ぎ体13でインサート本体1の穴6を塞ぐ作業を示しており、実施例1の場合と同様にして、塞ぎ体13でインサート本体1の穴6を塞ぐことができる。図16は、穴6を塞ぎ体13で塞がれて完成されたインサート14を示している。
【0060】
本実施例では、小径部6bが存在するので、雌ねじ部7加工時、雌ねじ部7を加工するタップ(図示せず)を穴6に貫通させることができないため、有効ねじ部の長さA(図16参照)を長くすることはできない(図16のBは、不完全ねじ部の長さを示している)。また、雌ねじ部7を加工するタップ(図示せず)を軸方向に往復動させる必要があるので、雌ねじ部7の加工コストを低減することはできない。
【0061】
しかし、誤って本来使用されるべき雄ねじ22より長い雄ねじ22が使用されてしまっても、小径部6bで突抜けをより強固に防止できる上、実施例1で述べたその他の作用効果を得ることができる。
【実施例4】
【0062】
図17〜19は、本発明の実施例4におけるインサート本体1を示しており、この実施例は塞ぎ体13が、実施例1〜3とは反対に、インサート本体1の鍔部3側の端部に装着される例である。インサート本体1の穴6の内壁のうちの鍔部3側の開口部6c付近には、穴6の径方向中心側ほど深くなる傾斜面をなす受け部8が穴6を囲むようにして環状に設けられている。前記インサート本体1の穴6の鍔部3側の開口部6cの周囲には、軸方向に突出し、かつ尖った先端を有する突起部9が環状に設けられている。図19の拡大図によく示されるように、前記突起部9の周囲には、凹部23が環状に設けられている。インサート本体1の他の構成は、実施例1の場合と同様である。
【0063】
次に、図20および21を用いて、本実施例におけるインサート本体1の穴6を塞ぎ体13で塞ぐ作業を説明する。
【0064】
まず、図20に示されるように、台座金型10上にインサート本体1を、軸部2が下方、鍔部3が上方になり、軸部2側の端面1bが台座金型10の上面に当接するようにして、セットするとともに、穴6の開口部6cを覆うようにしてインサート本体1にシート状材11を重ねる。
【0065】
次に、図21に示されるように、パンチ金型12(本実施例における押圧体)を下降し、該パンチ金型12をシート状材11を介してインサート本体1のうちの開口部6cの周囲、すなわち突起部9に押圧する。すると、シート状材11の一部が開口部6cに対応する形状に打ち抜かれて穴6内に侵入し、その外周部の一方の面が受け部8に当接されて、穴6の開口部6c付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、インサート本体1のうちの開口部6cの周囲部分、すなわち環状の突起部9が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられてインサート本体1に固定される。図22は、実施例4における完成されたインサート14を示す縦断面図、図23は図22のインサート14の塞ぎ体13装着部付近の拡大縦断面図である。
【0066】
なお、凹部23が設けられていないと、パンチ金型12で押圧したとき、突起部9を構成している材料の一部が外側にも流動することにより、パンチ金型12で押圧後のインサート本体1の鍔部3側の端面1aが平面状でなくなってしまうが、本実施例では、突起部9の外側に凹部23が設けられているので、突起部9が塑性変形されたとき、該突起部9のうちの外側に流動する部分は凹部23を充填することになるため、パンチ金型12で押圧後のインサート本体1の鍔部3側の端面1aを全体に平面状にすることができる。
【0067】
また、本実施例でも、受け部8が穴6の径方向中心側ほど深くなる傾斜面とされているので、塞ぎ体13が確実に外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されるようにすることができる。
【0068】
本実施例においても、前記実施例1の場合同様の作用効果を得ることができる。
【0069】
なお、本実施例では、インサート本体1(部材本体)のうちの環状の突起部9の外側に比較的に幅の広い平面状の端面1aが存在するので、シート状材11が比較的に厚い場合等は、パンチ金型12を下降し、該パンチ金型12をシート状材11を介してインサート本体1のうちの開口部6cの周囲、すなわち突起部9に押圧し、シート状材11の一部を開口部6cに対応する形状に打ち抜いたとき、シート状材11の打ち抜き残りの部分がパンチ金型12とインサート本体1の端面1aとの間に挟まった状態で残存し、作業に悪影響を生じさせる虞がある。このような不都合を回避するには、パンチ金型12を下降し、突起部9を大きく塑性変形させることがない程度に押圧して、シート状材11の一部を開口部6cに対応する形状に打ち抜いた後、パンチ金型12を上昇し、次に、抜き残りのシート状材11に対してインサート本体1を相対的に移動して、抜き残りのシート状材11をパンチ金型12とインサート本体1の端面1aとの間から除去し、しかる後にパンチ金型を下降して、もう一度突起部9を押圧し、突起部9を塑性変形させ、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部をかしめインサート本体1に固定してもよい。なお、2回目の押圧を行うパンチ金型としては、最初に塞ぎ体13を打ち抜いたパンチ金型12をもう一度使用してもよいし、別位置に設置されている他のパンチ金型を使用してもよい
【実施例5】
【0070】
図24は、本発明の実施例5における完成後のインサート14を板材16に固着した状態で示している。
【0071】
本実施例においては、インサート本体1の環状溝5が、従来のインサートと同様に、鍔部3に隣接して設けられている。インサート本体1の他の構成および塞ぎ体13でインサート本体1の穴6を塞ぐ作業は、前記実施例5の場合と同様である。
【0072】
本実施例においては、塞ぎ体13で穴6を塞がれて完成したインサート14は、従来のインサートの場合と同様に、下穴として、バーリング穴ではない単純な打ち抜き穴が加工された金属からなる板材16に圧入される。図24における板材16の穴24は、インサート14が圧入された結果、前記単純な打ち抜き穴が変形したものである。
【0073】
このように本発明は、圧入のための下穴として単純な打ち抜き穴が板材に加工されるインサートにも適用可能なものである。
【実施例6】
【0074】
図25は、本発明の実施例6における完成後のインサート14を示している。本実施例のインサート14はタッピンねじ用のもので、インサート本体1の本体に雌ねじ部は設けられておらず、タッピンねじ(図示せず)が穴6に螺入されることが予定されている。
【0075】
インサート本体1の他の構成、塞ぎ体13で穴6を塞ぐ方法およびインサート14を板材16に固着する方法は、実施例1と同様である。
【実施例7】
【0076】
図26および27は、本発明の実施例7における完成後のインサート14を示している。本実施例は、塞ぎ体13が穴6を完全に密閉しないようにしたい場合のものである。
【0077】
本実施例においては、塞ぎ体13に十字状の塞ぎ体穴25が明けられている。インサート本体1の他の構成は実施例1と同様である。塞ぎ体穴25は、予め塞ぎ体穴25を明けられているシート状材11を用いて実施例1の場合と同様の作業で塞ぎ体13で穴6を塞ぐか、または実施例1の場合と同様にして塞ぎ体13で穴6を塞いだ後、塞ぎ体13に塞ぎ体穴25を明けることにより、塞ぎ体13に対して形成することができる。なお、塞ぎ体穴25の形状は、用途に応じて、本実施例とは異なる形状のものも勿論選択できる。
【実施例8】
【0078】
図28〜33は、本発明の実施例8を示しており、この実施例は本発明を雄ねじ(ボルト)26のいじり止めに適用した例である。図28〜30は、本実施例における金属からなる雄ねじ26(部品本体)を示しており、雄ねじ26の頭部26aには六角穴状の駆動穴(リセス)27aをその主要部とする穴27が設けられている。この穴27は、駆動穴27a部分に加えて、拡大部27bを有している。この拡大部27bは、駆動穴27a部分と同心の横断面円形で、かつ駆動穴27a部分より大径とされており、雄ねじ26の頭部26aの上面に開口する穴27の開口部を構成している。前記拡大部27bの内壁と駆動穴27a部分の開口端との間には、穴27の径方向中心側ほど深くなる傾斜面をなす受け部28が穴27を囲むようにして環状に設けられている。前記拡大部27bの周囲には、軸方向に突出し、かつ尖った先端を有する突起部29が環状に設けられている。
【0079】
本実施例では、図31に示されるように、雄ねじ26により被取付物31に被締結物32を締結した後、穴27の拡大部27b(開口部)を覆うようにして雄ねじ26の頭部26aにシート状材11を重ねる。
【0080】
次に、図32に示されるように、パンチ金型10(本実施例における押圧体)をシート状材11を介して雄ねじ26のうちの拡大部27b(開口部)の周囲、すなわち突起部29に押圧する。すると、シート状材11の一部が拡大部27b(開口部)に対応する形状に打ち抜かれて穴27内に侵入し、その外周部の一方の面が受け部28に当接されて、穴27の拡大部27b(開口部)付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、雄ねじ26の頭部26aのうちの拡大部27b(開口部)の周囲部分、すなわち環状の突起部29が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられて雄ねじ26の頭部26aに固定される。図33は、穴27を塞ぎ体13で塞がれた雄ねじ26を示す縦断面図である。
【0081】
このようにして穴27が塞ぎ体13で塞がれることにより、以後は駆動穴27aを用いて雄ねじ26を回転させることができなくなるので、雄ねじ26のいじり止めを図ることができる。また、塞ぎ体13が無理矢理除去されて雄ねじ26が不正に駆動されてしまったときは、塞ぎ体13が除去されてしまっているという状況から、その不正行為を明確に把握できる。なお、シート状材11が不透明な材料からなるときは、知らない人には駆動穴27aが存在しないように見えるので、これによってもいじり止めを図ることができる。
【0082】
本実施例では、駆動穴27aは六角穴状とされているが、駆動穴27aは四角穴状、十字穴状等の他の形状であってもよい。
【実施例9】
【0083】
図34〜39は、本発明の実施例9を示しており、この実施例も本発明を雄ねじ(ボルト)26のいじり止めに適用した例である。図34〜36は、本実施例における金属からなる雄ねじ26(部品本体)を示しており、雄ねじ26の頭部26aには六角穴状の駆動穴(リセス)27aをその主要部とする穴27が設けられている。この穴27は、駆動穴27a部分に加えて、拡大部27bを有している。この拡大部27bは、駆動穴27a部分と同心の横断面六角形で、かつ駆動穴27a部分より大径とされており、雄ねじ26の頭部26aの上面に開口する穴27の開口部を構成している。前記拡大部27bの内壁と駆動穴27a部分の開口端との間には、雄ねじ26の軸方向に対して垂直な平面をなす受け部28が穴27を囲むようにして六角環状に設けられている。前記拡大部27bの周囲には、軸方向に突出し、かつ尖った先端を有する突起部29が六角環状に設けられている。
【0084】
本実施例においても、図37に示されるように、雄ねじ26により被取付物31に被締結物32を締結した後、穴27の拡大部27b(開口部)を覆うようにして雄ねじ26の頭部26aにシート状材11を重ねる。
【0085】
次に、図38に示されるように、パンチ金型10(本実施例における押圧体)をシート状材11を介して雄ねじ26のうちの拡大部27b(開口部)の周囲、すなわち突起部29に押圧する。すると、シート状材11の一部が拡大部27b(開口部)に対応する形状に打ち抜かれて穴27内に侵入し、その外周部の一方の面が受け部28に当接されて、穴27の拡大部27b(開口部)付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、雄ねじ26の頭部26aのうちの拡大部27b(開口部)の周囲部分、すなわち六角環状の突起部29が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられて雄ねじ26の頭部26aに固定される。図39は、穴27を塞ぎ体13で塞がれた雄ねじ26を示す縦断面図である。
【0086】
本実施例においても、このようにして穴27が塞ぎ体13で塞がれることにより、以後、雄ねじ26のいじり止めを図ることができる。
【実施例10】
【0087】
図40〜45は、本発明の実施例10を示しており、この実施例も本発明を雄ねじ(ボルト)26のいじり止めに適用した例である。図40〜42は、本実施例における金属からなる雄ねじ26(部品本体)を示しており、雄ねじ26の頭部26aには十字穴状の駆動穴(リセス)27aをその主要部とする穴27が設けられている。この穴27は、駆動穴27a部分に加えて、拡大部27bを有している。この拡大部27bは、駆動穴27a部分と同心の横断面円形で、かつ駆動穴27a部分より大径とされており、雄ねじ26の頭部26aの上面に開口する穴27の開口部を構成している。前記拡大部27bの内壁と駆動穴27a部分の開口端との間には、雄ねじ26の軸方向に対して垂直な平面をなす受け部28が設けられている。前記拡大部27bの周囲には、軸方向に突出し、かつ尖った先端を有する突起部29が環状に設けられている。
【0088】
本実施例においても、図43に示されるように、雄ねじ26により被取付物31に被締結物32を締結した後、穴27の拡大部27b(開口部)を覆うようにして雄ねじ26の頭部26aにシート状材11を重ねる。
【0089】
次に、実施例8および9の場合と同様に、図44に示されるように、パンチ金型10(本実施例における押圧体)をシート状材11を介して雄ねじ26のうちの拡大部27b(開口部)の周囲、すなわち突起部29に押圧する。すると、シート状材11の一部が拡大部27b(開口部)に対応する形状に打ち抜かれて穴27内に侵入し、その外周側の一方の面が受け部28に当接されて、穴27の拡大部27b(開口部)付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、雄ねじ26の頭部26aのうちの拡大部27b(開口部)の周囲部分、すなわち環状の突起部29が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられて雄ねじ26の頭部26aに固定される。図45は、穴27を塞ぎ体13で塞がれた雄ねじ26を示す縦断面図である。
【0090】
本実施例においても、このようにして穴27が塞ぎ体13で塞がれることにより、以後、雄ねじ26のいじり止めを図ることができる。
【0091】
そして、本実施例においては、パンチ金型10の下面、すなわちパンチ金型10(押圧体)のうちのシート状材11に対向される部分に、シート状材11に対して凹となる凹部33が設けられているので、形成される塞ぎ体13は外側に対して凸となるドーム状に湾曲されている。
【0092】
このように塞ぎ体13が外側に対して凸となるドーム状に湾曲することにより、特に穴の外側から内側に向かって作用する力に対する抵抗強度を高めることができるとともに、塞ぎ体13の外面側に形成される凹部にごみ等が溜まる虞等を防止できる。また、雄ねじ26が外界に露出されるような使用環境では、塞ぎ体13が外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されている場合より、雄ねじ26に人体や物体が接触したときの安全性を高めることができる可能性がある。また、シート状材11、ひいては塞ぎ体13の材料をプラスチック等のような柔軟な材料とすると、塞ぎ体13にクッション性を与えてより安全性を高めることができる。
【実施例11】
【0093】
図46〜48は、本発明の実施例11を示しており、この実施例も本発明を雄ねじ(ボルト)26のいじり止めに適用した例である。
【0094】
前述の実施例10(図40〜45)では、パンチ金型10(押圧体)に凹部33を設けているので、シート状材11の材質の如何にかかわらず、塞ぎ体13を確実に外側に対して凸となるドーム状に湾曲させることができるが、実施例10のように、塞ぎ体13の大きさに対する受け部8の面積の割合が大きい場合は、シート状材11としてプラスチックのような弾性が大きい材料を用いれば、パンチ金型10の下面、すなわちパンチ金型10(押圧体)のうちのシート状材11に対向される部分を前記各実施例と同様に平面状としても、最終的に形成される塞ぎ体13は外側に対して凸となるドーム状に湾曲される傾向がある。
【0095】
本実施例は、パンチ金型10の下面を平面状として、なおかつ最終的に形成される塞ぎ体13を外側に対して凸となるドーム状に湾曲させる実施例である。
【0096】
本実施例における雄ねじ26およびパンチ金型10の構成は、パンチ金型10の下面が平面状とされていて凹部33を設けられていない点を除いて実施例10(図40〜45)と同じである。シート状材11としては、プラスチックのような弾性が大きい材料を用いる。
【0097】
本実施例においても、図46に示されるように、雄ねじ26により被取付物31に被締結物32を締結した後、穴27の拡大部27b(開口部)を覆うようにして雄ねじ26の頭部26aにシート状材11を重ねる。
【0098】
次に、実施例10の場合と同様に、図47に示されるように、パンチ金型10(本実施例における押圧体)をシート状材11を介して雄ねじ26のうちの拡大部27b(開口部)の周囲、すなわち突起部29に押圧する。すると、シート状材11の一部が拡大部27b(開口部)に対応する形状に打ち抜かれて穴27内に侵入し、その外周側の一方の面が受け部28に当接されて、穴27の拡大部27b(開口部)付近を塞いで塞ぎ体13となるとともに、雄ねじ26の頭部26aのうちの拡大部27b(開口部)の周囲部分、すなわち環状の突起部29が塑性変形され、この塑性変形部で塞ぎ体13の外周部がかしめられて雄ねじ26の頭部26aに固定される。
【0099】
図47のようにパンチ金型が10が下限位置まで降下したときは、塞ぎ体13はほぼ平らになるが、その後、パンチ金型10が上昇すると、材料の弾性により塞ぎ体13は外側に対して凸となるドーム状に湾曲した形状となる。図48は、穴27を塞ぎ体13で塞がれた雄ねじ26を示す縦断面図である。
【実施例12】
【0100】
図49は、本発明の実施例12において、最終的に穴27を塞ぎ体13で塞がれた雄ねじ26を示す。この実施例は、雄ねじ26およびパンチ金型10の構成および塞ぎ作業は前記実施例11(図46〜48)と全く同じとするが、シート状材11としてアルミ合金のような比較的に弾性が小さい材料を使用した例である。この場合には、最終的に形成される塞ぎ体13は、ほぼ平面状で十字穴状の駆動穴27aの部分がややへこんだ形状になる傾向がある。
【0101】
シート状材の材質にかかわらず塞ぎ体を確実に外側に対して凸となるドーム状に湾曲させるには、実施例10のように、押圧体のうちのシート状材に対向される部分に、該シート状材に対して凹となる凹部を設けたり、実施例1〜8の場合とは逆に、受け部を、部品本体の穴の外周側ほど深くなる傾斜面としたりする必要がある。
【0102】
なお、前記各実施例は、本発明を板材16に圧入されるインサート14およびいじり止め用雄ねじ26に適用した例であるが、本発明はその他の部材にも適用できるものであり、例えば、板材に圧入されないで使用されるナットや、締結用以外の部材にも適用できるものである。
【0103】
また、本発明においては、部材本体の穴の開口部を覆うようにして前記部材本体にシート状材を重ねる段階と、前記部材本体のうちの前記開口部の周囲を相対的に前記シート状材に押圧する段階とは、完全に分離された2つ工程とせず、一連の連続した工程として行ってもよい。
【0104】
また、本発明は部材の穴の一端のみならず、穴の両端を閉じる場合にも適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上のように本発明による部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法および塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材は、種々の部材において有用である。
【符号の説明】
【0106】
1 インサート本体(部材本体)
6 穴
6a 穴の軸部側開口部
6c 穴の鍔部側開口部
7 雌ねじ部
8 受け部
9 突起部
10 台座金型(押圧体)
11 シート状材
12 パンチ金型(押圧体)
13 塞ぎ体
14 インサート(部材)
22 雄ねじ(部材本体)
26 いじり止め用雄ねじ(部材本体)
27 穴
27a 駆動穴
27b 拡大部(開口部)
28 受け部
29 突起部
33 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴を設けられた部材本体を用意する段階と、
前記穴の開口部を覆うようにして前記部材本体にシート状材を重ねる段階と、
押圧体を前記シート状材を介して前記部材本体のうちの前記開口部の周囲に相対的に押圧することにより、前記シート状材の一部が前記開口部に対応する形状に打ち抜かれて前記穴内に侵入し、前記穴の前記開口部付近を塞いで塞ぎ体となるようにする段階とを有してなる、部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項2】
前記穴の内壁のうちの前記開口部付近に、前記穴を囲むように受け部を設けておき、前記塞ぎ体の少なくとも外周部の一方の面が前記受け部に当接されるようにする請求項1記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項3】
前記塞ぎ体を、外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されるようにする請求項1または2記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項4】
前記受け部を、前記穴の径方向中心側ほど深くなる傾斜面とする請求項3記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項5】
前記塞ぎ体を、外側に対して凸となるドーム状に湾曲されるようにする請求項1または2記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項6】
前記押圧体のうちの前記シート状材に対向される部分に、前記シート状材に対して凹となる凹部を設けておく請求項5記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項7】
押圧体を前記部材本体のうちの前記開口部の周囲に相対的に押圧することにより、前記部材本体のうちの前記開口部の周囲部分が塑性変形され、この塑性変形部で前記塞ぎ体の外周部がかしめられて前記部材本体に固定されるようにする段階をさらに有する請求項1乃至6のいずれかに記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項8】
前記部材本体のうちの前記開口部の周囲に、該開口部の軸方向に関し外方に突出する突起部を設けておき、前記押圧体を前記突起部に相対的に押圧することにより、前記突起部が塑性変形されて、前記塞ぎ体をかしめるようにする請求項7記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項9】
前記穴は前記部材本体を貫通する貫通穴である請求項1乃至8のいずれかに記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項10】
前記穴は、前記塞ぎ体で塞がれる前に雌ねじ部を形成されている請求項1乃至9のいずれかに記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項11】
前記シート状材は、磁石性を有している請求項1乃至10のいずれかに記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項12】
前記部材本体は雄ねじ、前記穴は前記雄ねじの頭部に設けられた、該雄ねじを駆動回転するための駆動穴を少なくともその一部に含む穴であり、前記雄ねじによる締結が完了した後、前記穴を前記塞ぎ体で塞ぐ請求項1乃至8のいずれかに記載の部材の穴を塞ぎ体で塞ぐ方法。
【請求項13】
穴を設けられた部材本体と、
シート状材からなり、外周部を前記穴の内壁に接触された状態で前記穴の開口部付近を塞いでいる塞ぎ体と、
前記部材本体のうちの前記開口部の周囲部分を塑性変形してなり、前記シート状材をかしめて前記部材本体に固定している塑性変形部とを有してなる、塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。
【請求項14】
前記塞ぎ体は、外側に対して凹となる逆ドーム状に湾曲されている請求項13記載の塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。
【請求項15】
前記穴の内壁のうちの前記開口部付近に前記穴を囲むように設けられており、前記穴の径方向中心側ほど深くなる傾斜面をなす受け部をさらに有し、
前記塞ぎ体の少なくとも外周部の一方の面が前記受け部に接触されている請求項14記載の塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。
【請求項16】
前記塞ぎ体は、外側に対して凸となるドーム状に湾曲されている請求項13記載の塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。
【請求項17】
前記穴6は前記部材本体を貫通する貫通穴である請求項13乃至16のいずれかに記載の塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。
【請求項18】
前記穴は雌ねじ部を形成されている請求項13乃至17のいずれかに記載の塞ぎ体で塞がれた穴を有する部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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