説明

配向膜の形成方法

【課題】吐出不良の発生を抑制して、配向膜を良好に形成できる配向膜の形成方法を提供する。
【解決手段】配向膜の形成方法は、配向膜形成用材料及び複数種類の溶媒を含むインクをインクジェットヘッドの吐出口より基板に供給して、基板に配向膜を形成する工程を含む。形成方法は、複数種類の溶媒のうち、インクに占める割合が最も高い第1溶媒を、吐出口に通ずるインクジェットヘッドの内部流路に供給する第1工程と、第1工程後、内部流路が第1溶媒で満たされた状態で、第1溶媒及び配向膜形成用材料を含む溶液を、内部流路に供給する第2工程と、第2工程後、内部流路が溶液で満たされた状態で、インクを内部流路に供給する第3工程とを含み、第3工程後、吐出口より基板にインクを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイス製造工程において、例えば特許文献1,2に開示されているような、インクジェットヘッドの吐出口より基板にインクを供給して、その基板上にパターンを形成するインクジェット装置(液滴吐出装置)が使用される。
【特許文献1】特許第3928456号公報
【特許文献1】特開2001−042330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、液晶表示装置の配向膜をインクジェット装置で製造する場合、配向膜形成用材料及び溶媒を含むインクを吐出口より良好に吐出できることが望まれる。例えば、吐出口に通ずるインクジェットヘッドの内部流路に気泡が存在する状態で吐出口からインクを吐出すると、吐出不良が発生する可能性がある。その結果、配向膜が不良となる可能性がある。
【0004】
本発明は、吐出不良の発生を抑制して、配向膜を良好に形成できる配向膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用している。
【0006】
本発明の一態様に従えば、配向膜形成用材料及び複数種類の溶媒を含むインクをインクジェットヘッドの吐出口より基板に供給して、基板に配向膜を形成する配向膜の形成方法であって、複数種類の溶媒のうち、インクに占める割合が最も高い第1溶媒を、吐出口に通ずるインクジェットヘッドの内部流路に供給する第1工程と、第1工程後、内部流路が第1溶媒で満たされた状態で、第1溶媒及び配向膜形成用材料を含む溶液を、内部流路に供給する第2工程と、第2工程後、内部流路が溶液で満たされた状態で、インクを内部流路に供給する第3工程と、を含み、第3工程後、吐出口より基板にインクを供給する配向膜の形成方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、インクジェットヘッドの内部流路に、配向膜を形成するためのインクを充填する際、まず、第1工程として、インクに含まれる複数種類の溶媒のうち、インクに占める割合が最も高い第1溶媒を内部流路に供給し、次に、第2工程として、内部流路が第1溶媒で満たされた状態で、第1溶媒及び配向膜形成用材料を含む溶液を、内部流路に供給し、その後、第3工程として、内部流路が溶液で満たされた状態で、インクを内部流路に供給することによって、内部流路に気泡が発生することを抑制しつつ、内部流路をインクで満たすことができる。したがって、第3工程の後、吐出不良の発生を抑制しつつ、吐出口より基板にインクを供給することができる。したがって、配向膜を良好に形成することができる。
【0008】
また、第1,第2、第3工程の少なくとも一つにおいて、インクジェットヘッドの外側より、前記吐出口を吸引することによって、より一層、内部流路に気泡が発生することを抑制することができる。
【0009】
また、複数種類の溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、及びブチルセロソルブを含むことにより、配向膜形成用材料を良好に溶解して、良好な配向膜を形成することができる。
【0010】
また、インクは、固形分濃度が1重量%以上10重量%以下であって、粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下、表面張力が30mN/m以上45mN/m以下に調整されていることが好ましい。こうすることにより、吐出口からインクを良好に吐出することができる。例えば、固形分濃度が1重量%未満であると、得られる配向膜の膜厚が薄くなりすぎ、良好な配向膜とならなくなる可能性がある。固形分濃度が10重量%を超えると、得られる配向膜の膜厚が厚くなりすぎ、やはり良好な配向膜とならなくなる可能性がある。また、固形分濃度が10重量%を超えると、インクの粘性が増大し、吐出口からインクを良好に吐出することができなくなる可能性がある。また、粘度を3mPa・s以上20mPa・s以下に調整することで、良好な流動性を確保できる。したがって、吐出口からインクを良好に吐出することができる。また、表面張力を30mN/m以上45mN/m以下に調整することで、基板の表面におけるインクの濡れ性が良くなる。したがって、吐出口から基板に供給されたインクで、均一な厚みの配向膜を形成することができる。
【0011】
また、前記配向膜形成用材料が、以下の式(I)
【化1】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位、及び以下の式(II)
【化2】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位から選ばれる、少なくとも一種を有する重合体であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。
【0013】
図1は、本実施形態に係るインクジェット装置IJの一例を示す斜視図である。本実施形態のインクジェット装置IJは、配向膜形成用材料S及び複数種類の溶媒A,B,Cを含むインク(機能液)Kの液滴Dをインクジェットヘッド2の吐出口1より基板Pに供給して、基板Pに配向膜を形成可能である。
【0014】
図1において、インクジェット装置IJは、インクKの液滴Dを吐出する吐出口1を有するインクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2にインクKを供給可能な供給装置10と、インクジェットヘッド2に対して移動可能な基板ステージ3と、インクジェットヘッド2に対して移動可能なキャッピングステージ4とを備えている。
【0015】
本実施形態のインクジェット装置IJは、複数のインクジェットヘッド2を備えたマルチヘッドタイプのインクジェット装置であり、複数のインクジェットヘッド2を支持するキャリッジ部材5を有する。キャリッジ部材5は、支持機構38に支持されている。
【0016】
基板ステージ3は、液滴Dで配向膜が形成される基板Pを保持して移動可能である。キャッピングステージ4は、インクジェットヘッド2を覆うキャッピング装置6を含む。基板ステージ3及びキャッピングステージ4のそれぞれは、ベース部材7の支持面8上において、例えばリニアモータ等の駆動装置の駆動力により、インクジェットヘッド2に対して移動可能である。
【0017】
図2は、キャリッジ部材5に支持された複数のインクジェットヘッド2を下側から見た図、図3は、インクジェットヘッド2の構造の一例を説明するための断面図である。
【0018】
本実施形態のインクジェットヘッド2は、ピエゾ素子(圧電素子)33に所定の駆動信号を供給して、そのピエゾ素子33を変形させることによって、インクKを収容したキャビティ34の圧力を可撓性の振動板(膜)35を介して変動させ、その圧力の変動を利用して、吐出口1よりインクKの液滴Dを吐出する、いわゆる電気機械変換方式のインクジェットヘッドである。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のインクジェット装置IJは、複数のインクジェットヘッド2を有する。複数のインクジェットヘッド2は、キャリッジ部材5に支持されている。インクジェットヘッド2は、インクKの液滴Dを吐出する吐出口(吐出ノズル)1が形成された吐出面(ノズル形成面)9を有する。吐出面9は、所定方向に長い形状(本実施形態においてはほぼ長方形状)を有する。吐出口1は、吐出面9において、所定方向(吐出面9の長手方向)に沿って複数形成されている。本実施形態においては、複数の吐出口1が並ぶ所定方向は、XY平面内においてX軸方向に対して傾斜する方向である。
【0020】
図3に示すように、インクジェットヘッド2は、ヘッド本体36と、ヘッド本体36の下端に配置されたプレート部材(ノズルプレート)37とを有する。吐出口1は、プレート部材37に形成されている。プレート部材37は、上下方向に貫通する孔を複数有する。吐出口1は、その孔の下端に配置されている。吐出面9は、プレート部材37に配置されている。
【0021】
本実施形態においては、インクジェットヘッド2(プレート部材37)の吐出面9は、下側(−Z側)に向いている。インクジェットヘッド2からの液滴Dが吐出(供給)される基板Pの表面は、インクジェットヘッド2の吐出面9と対向するように、上側(+Z側)に向いている。基板ステージ3は、基板Pの表面が上側(+Z側)を向くように、基板Pを保持する。また、インクジェットヘッド2の吐出面9は、XY平面とほぼ平行である。基板ステージ3は、基板Pの表面とXY平面とがほぼ平行となるように、基板Pを保持する。インクジェットヘッド2の吐出面9と基板ステージ3に保持された基板Pの表面との間の距離(プラテンギャップ)が所定の値(例えば600μm)に維持された状態で、吐出口1より基板Pに液滴Dが供給される。
【0022】
また、インクジェットヘッド2は、プレート部材37(吐出口1)の上方に形成されたキャビティ(空間)34と、キャビティ34の上方に配置された可撓性の振動板35と、振動板35の上方に配置されたピエゾ素子33とを有する。キャビディ34は、吐出口1に通じている。キャビティ34は、複数の吐出口1のそれぞれに対応するように複数形成されている。キャビティ34は、インクジェットヘッド2の内部流路40の一部を構成する。内部流路40は、例えばチューブにより形成される供給流路を介して供給装置10と接続される。供給装置10は、キャビティ34を含む内部流路40にインクを供給可能である。キャビティ34は、供給装置10からのインクKを収容し、吐出口1に供給する。
【0023】
振動板35は、上下方向に振動することによって、キャビティ34の圧力(容積)を変動可能である。ピエゾ素子33は、振動板35を上下方向に振動可能である。ピエゾ素子33は、複数の吐出口1のそれぞれに対応するように複数配置されている。ピエゾ素子33は、駆動信号に基づいて振動板35を振動させ、キャビティ34の圧力を変動させることによって、吐出口1よりインクKの液滴Dを吐出させる。
【0024】
図4は、キャッピングステージ4を−X側から見た図、図5は、キャッピングステージ4の動作の一例を説明するための図である。
【0025】
キャッピングステージ4は、インクジェットヘッド2の吐出面9を覆うキャッピング装置6を含む。キャッピング装置6は、インクジェットヘッド2の吐出面9を覆うキャップ部50を備える。キャップ部50は、インクジェットヘッド2の吐出面9との間で密閉された空間49を形成可能である。キャップ部50は、キャッピングステージ4の上面に形成された凹部(溝)を含み、その凹部によって、インクジェットヘッド2の吐出面9との間で空間49を形成可能である。キャップ部50は、複数のインクジェットヘッド2に対応するように、複数設けられている。
【0026】
図5に示すように、キャッピング装置6は、インクジェットヘッド2の吐出面9の全てをキャップ部(凹部)50の内側に配置可能である。キャッピング装置6は、例えばキャップ部(凹部)50の内側面の上端と、吐出面9の外側のインクジェットヘッド2(プレート部材37)の側面とを接触させることによって、空間49を形成する。
【0027】
また、キャッピング装置6は、キャップ部(凹部)50の底面に形成され、空間49の流体を吸引可能な吸引口53と、吸引口53と流路54を介して接続された真空システム55とを有する。
【0028】
キャッピング装置6は、インクジェットヘッド2の吐出面9とキャップ部50との間で空間49を形成した状態で、真空システム55を駆動することによって、空間49の流体を吸引口53を介して吸引可能である。キャッピング装置6は、吸引口53より空間49の流体(主に気体)を吸引して、空間49を負圧にすることができる。キャッピング装置6は、空間49を負圧にすることによって、キャビティ34等、インクジェットヘッド2の内部流路40のインクKを、吐出口1を介して吸引可能である。キャッピング装置6は、空間49の流体を吸引することによって、インクジェットヘッド2の内部流路40において、吐出口1に向かうインクKの流れを生成できる。
【0029】
なお、図4及び図5を参照して説明したキャッピング装置6は、主にインクジェットヘッド2のインクKを吸引する吸引機能を有するが、吐出面9(吐出口1)の乾燥を抑制する機能(保湿機能)を有していてもよい。例えば、キャップ部50の内側に湿った多孔部材を配置し、その湿った多孔部材を含むキャップ部50とインクジェットヘッド2の吐出面9とを対向させることによって、吐出面9の乾燥を抑制できる。
【0030】
図6は、本実施形態に係る供給装置10の一例を示す図である。供給装置10は、インクジェットヘッド2にインクKを供給可能である。インクKは、配向膜形成用材料S及び複数種類の溶媒A,B,Cを含む。
【0031】
図6において、供給装置10は、インクKに含まれる複数種類の溶媒A,B,Cのうち、インクKに占める割合が最も高い第1溶媒Aを収容する第1容器11と、第1溶媒A及び配向膜形成用材料Sからなる溶液Lを収容する第2容器12と、インクKを収容する第3容器13と、一端が第1容器11と接続される第1チューブ14と、一端が第2容器12と接続される第2チューブ15と、一端が第3容器13と接続される第3チューブ16と、第1,第2,第3チューブ14,15,16の他端と接続される流路切替機構17と、流路切替機構17とインクジェットヘッド2とを接続するチューブ18とを備えている。チューブ18の流路は、キャビティ34を含むインクジェットヘッド2の内部流路40と通じている。
【0032】
配向膜形成用材料Sは、合成樹脂を含む固体(固形分)である。配向膜形成用材料Sとして、例えばポリイミドを用いることができる。なお、配向膜形成用材料Sとして、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等を用いることもできる。
【0033】
本実施形態においては、配向膜形成用材料Sは、以下の式(I)
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位、及び以下の式(II)
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位から選ばれる、少なくとも一種を有する重合体である。
【0038】
第1,第2,第3溶媒A,B,Cのうち、第1溶媒Aは、インクKに占める割合が最も高い。すなわち、第1溶媒Aは、第2,第3溶媒B,Cより、インクK中に含まれる量が多い。本実施形態において、第1溶媒Aは、γ−ブチロラクトンである。第2溶媒Bは、N−メチル−2−ピロリドンである。第3溶媒Cは、ブチルセロソルブである。以下の説明において、γ−ブチロラクトンを適宜、GBL、と称し、N−メチル−2−ピロリドンを適宜、NMP、と称し、ブチルセロソルブを適宜、BC、と称する。
【0039】
インクKは、配向膜形成用材料S、第1溶媒A、第2溶媒B、及び第3溶媒Cからなる。なお、これら配向膜形成用材料S、及び溶媒A,B,Cの他に、別の材料(添加剤)、溶媒がインクKに含まれてもよい。本実施形態において、インクKは、固形分濃度が1重量%以上10重量%以下であって、粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下、表面張力が30mN/m以上45mN/m以下に調整されている。
【0040】
本実施形態において、第1溶媒A、溶液L、及びインクKのうち、第1溶媒Aの粘度が最も低く、第1溶媒Aに次いで溶液Lの粘度が低く、インクKの粘度が最も高い。
【0041】
次に、本実施形態に係る配向膜の形成方法の一例について説明する。本実施形態の形成方法は、図7のフローチャートに示すように、第1溶媒Aを、吐出口1に通ずるインクジェットヘッド2の内部流路40に供給する第1工程SP1と、第1工程SP1後、インクジェットヘッド2の内部流路40が第1溶媒Aで満たされた状態で、第1溶媒A及び配向膜形成用材料Sを含む溶液Lを、インクジェットヘッド2の内部流路40に供給する第2工程SP2と、第2工程SP2後、インクジェットヘッド2の内部流路40が溶液Lで満たされた状態で、インクKをインクジェットヘッド2の内部流路40に供給する第3工程SP3とを含む。第3工程SP3後、吐出口1より基板PにインクKを供給して、配向膜を形成する第4工程SP4が実行される。
【0042】
例えば、インクジェット装置IJの稼動を開始するとき、まず、第1容器11からの第1溶媒Aがチューブ18に供給され、第2容器12の溶液L及び第3容器13のインクKがチューブ18に供給されないように、流路切替機構17が制御される。そして、図8(A)に示すように、第1容器11に収容されている第1溶媒Aが、第1チューブ14及びチューブ18の流路を介して、インクジェットヘッド2の内部流路40に供給される。これにより、キャビティ34を含むインクジェットヘッド2の内部流路40が第1溶媒Aで満たされる。
【0043】
本実施形態においては、インクジェットヘッド2の内部流路40に第1溶媒Aを供給しているとき、インクジェットヘッド2の外側より吐出口1を吸引する動作が実行される。すなわち、図8(A)に示すように、キャッピング装置6を用いて、インクジェットヘッド2の内部流路40の第1溶媒Aを吐出口1を介して吸引しながら、供給装置10よりインクジェットヘッド2の内部流路40に第1溶媒Aを供給する動作が実行される。これにより、インクジェットヘッド2の内部流路40を第1溶媒Aで良好に満たすことができる。
【0044】
次に、図8(B)に示すように、インクジェットヘッド2の内部流路40が第1溶媒Aで満たされた状態で、第2容器12に収容されている溶液Lが、第2チューブ15及びチューブ18の流路を介して、インクジェットヘッド2の内部流路40に供給される。流路切替機構17は、第2容器12からの溶液Lがチューブ18に供給され、第1容器11の第1溶媒A及び第3容器13のインクKがチューブ18に供給されないように、流路を切替える。これにより、キャビティ34を含むインクジェットヘッド2の内部流路40が溶液Lで満たされる。
【0045】
インクジェットヘッド2の内部流路40に溶液Lを供給しているとき、インクジェットヘッド2の外側より吐出口1を吸引する動作が実行される。すなわち、図8(B)に示すように、キャッピング装置6を用いて、インクジェットヘッド2の内部流路40の溶液Lを吐出口1を介して吸引しながら、供給装置10よりインクジェットヘッド2の内部流路40に溶液Lを供給する動作が実行される。これにより、インクジェットヘッド2の内部流路40を溶液Lで良好に満たすことができる。
【0046】
次に、図8(C)に示すように、インクジェットヘッド2の内部流路40が溶液Lで満たされた状態で、第3容器13に収容されているインクKが、第3チューブ16及びチューブ18の流路を介して、インクジェットヘッド2の内部流路40に供給される。流路切替機構17は、第3容器13からのインクKがチューブ18に供給され、第1容器11の第1溶媒A及び第2容器12の溶液Lがチューブ18に供給されないように、流路を切替える。これにより、キャビティ34を含むインクジェットヘッド2の内部流路40がインクKで満たされる。
【0047】
インクジェットヘッド2の内部流路40にインクKを供給しているとき、インクジェットヘッド2の外側より吐出口1を吸引する動作が実行される。すなわち、図8(C)に示すように、キャッピング装置6を用いて、インクジェットヘッド2の内部流路40のインクKを吐出口1を介して吸引しながら、供給装置10よりインクジェットヘッド2の内部流路40にインクKを供給する動作が実行される。これにより、インクジェットヘッド2の内部流路40をインクKで良好に満たすことができる。
【0048】
そして、インクジェットヘッド2の内部流路40がインクKで良好に満たされた後、吐出口1よりインクKを基板Pに供給して、その基板Pに配向膜を形成する処理が実行される。
【0049】
図9は、上述の形成方法により形成される配向膜71,72を備える液晶表示装置100の一例を示す図である。図9に示す液晶表示装置100は、パッシブマトリクス方式の半透過反射型カラー液晶表示装置である。
【0050】
図9において、液晶表示装置100は、第1基板P1と、第2基板P2と、第1基板P1と第2基板P2との間に配置される液晶層60とを備えている。
【0051】
また、液晶表示装置100は、第1基板P1と液晶層60との間に配置された複数のセグメント電極61と、配向膜71とを備えている。セグメント電極61は、インジウム錫酸化物(ITO)等の透明導電膜により形成されている。
【0052】
また、液晶表示装置100は、第2基板P2と液晶層60との間に配置されたカラーフィルタ62と、オーバーコート膜66と、コモン電極68と、配向膜72とを備えている。
【0053】
カラーフィルタ62は、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色素層62R、62G、62Bを有し、それら色素層62R、62G、62Bの間には、ブラックマトリクス64が配置される。
【0054】
オーバーコート膜66は、色素層62R、62G、62B間の段差を小さくするとともに、色素層62R、62G、62Bの表面を保護するものである。
【0055】
コモン電極68は、ITO等の透明導電膜から形成されており、第1基板P1に形成されているセグメント電極61と直交するように配置されている。
【0056】
配向膜71、72は、本実施形態に係る形成方法により形成される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、インクジェットヘッド2の内部流路40に配向膜を形成するためのインクKを充填する際、まず、第1工程SP1として、インクKに含まれる複数種類の溶媒A,B,Cのうち、インクKに占める割合が最も高い第1溶媒Aをインクジェットヘッド2の内部流路40に供給し、次に、第2工程SP2として、インクジェットヘッド2の内部流路40が第1溶媒Aで満たされた状態で、第1溶媒A及び配向膜形成用材料Sを含む溶液Lを、インクジェットヘッド2の内部流路40に供給し、その後、第3工程SP3として、インクジェットヘッド2の内部流路40が溶液Lで満たされた状態で、インクKをインクジェットヘッド2の内部流路40に供給することによって、インクジェットヘッド2の内部流路40に気泡が発生することを抑制しつつ、インクジェットヘッド2の内部流路40をインクKで満たすことができる。したがって、第3工程SP3の後、吐出不良の発生を抑制しつつ、吐出口1より基板PにインクKを供給することができる。したがって、配向膜を良好に形成することができる。
【0058】
また、第1,第2,第3工程SP1,SP2,SP3において、キャッピング装置6を用いて、インクジェットヘッド2の外側より、吐出口1を吸引することによって、より一層、インクジェットヘッド2の内部流路40に気泡が発生することを抑制することができる。
【0059】
また、複数種類の溶媒A,B,Cが、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、及びブチルセロソルブを含むことにより、配向膜形成用材料Sを良好に溶解して、良好な配向膜を形成することができる。
【0060】
また、インクKは、固形分濃度が1重量%以上10重量%以下であって、粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下、表面張力が30mN/m以上45mN/m以下に調整されているので、吐出不良の発生を抑制しつつ、吐出口1からインクKを良好に吐出することができる。例えば、固形分濃度が1重量%未満であると、得られる配向膜の膜厚が薄くなりすぎ、良好な配向膜とならなくなる可能性がある。固形分濃度が10重量%を超えると、得られる配向膜の膜厚が厚くなりすぎ、やはり良好な配向膜とならなくなる可能性がある。また、固形分濃度が10重量%を超えると、インクKの粘性が増大し、吐出口1からインクKを良好に吐出することができなくなる可能性がある。また、粘度を3mPa・s以上20mPa・s以下に調整することで、良好な流動性を確保できる。したがって、吐出口1からインクKを良好に吐出することができる。また、表面張力を30mN/m以上45mN/m以下に調整することで、基板Pの表面におけるインクKの濡れ性が良くなる。したがって、吐出口1から基板Pに供給されたインクKで、均一な厚みの配向膜を形成することができる。
【0061】
<実施例>
以下、実施例を示す。以下の各実施例、及び比較例に示す条件で、インクジェットヘッド2に関する実験を行った。そして、吐出口1より吐出されるインクに気泡が存在するかどうか、及びインクの吐出動作を開始した直後において吐出不良が発生したかどうか、インクジェットヘッド2がダメージを受けたかどうか、について評価した。
【0062】
評価用のインクとして、以下のインクK1,K2を用意した。
【0063】
インクK1は、配向膜形成用材料S1を溶媒V1で溶解したものである。配向膜形成用材料S1は、JSR社製のAL−60601[VA用]である。溶媒V1は、GBLを40%含み、NMPを30%含み、BC30%を含む溶媒である。インクK1の固形分濃度は、4.0重量%である。インクK1の粘度は、9.3cPである。溶媒V1の粘度は、2.2cPである。
【0064】
インクK2は、配向膜形成用材料S2を溶媒V2で溶解したものである。配向膜形成用材料S2は、JSR社製のAL−16470[IPS用]である。溶媒V2は、GBLを82%含み、NMPを6%含み、BCを12%含む溶媒である。インクK2の固形分濃度は、4.0重量%である。インクK2の粘度は、11.5cPである。溶媒V2の粘度は、2.1cPである。
【0065】
(実施例1−1)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、第1工程SP1として、GBL(粘度1.9cP)を供給し、第2工程SP2として、GBLとAL−60601とからなる溶液L1(固形分濃度4.0重量%、粘度9.0cP) を供給し、第3工程SP3として、上述のインクK1を供給した。
【0066】
(実施例1−2)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、第1工程SP1として、GBL(粘度1.9cP)を供給し、第2工程SP2として、GBLとAL−16470とからなる溶液L2(固形分濃度4.0重量%、粘度11.2cP) を供給し、第3工程SP3として、上述のインクK2を供給した。
【0067】
(比較例1−1)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、脱気処理していないGBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、脱気処理していない上述の溶媒V1を供給し、次いで、上述のインクK1を供給した。
【0068】
(比較例1−2)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、脱気処理していないGBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、脱気処理していない上述の溶媒V2を供給し、次いで、上述のインクK2を供給した。
【0069】
(比較例2−1)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、NMP(粘度1.8cP)を供給し、次いで、NMPとAL−60601とからなる溶液L3(固形分濃度4.0重量%、粘度8.9cP) を供給し、次いで、上述のインクK1を供給した。
【0070】
(比較例2−2)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、NMP(粘度1.8cP)を供給し、次いで、NMPとAL−16470とからなる溶液L4(固形分濃度4.0重量%、粘度11.0cP) を供給し、次いで、上述のインクK2を供給した。
【0071】
(比較例3−1)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、GBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、GBLを70%含み、BCを30%含む溶媒V3とAL−60601とからなる溶液L5(固形分濃度4.0重量%、粘度9.0cP) を供給し、次いで、上述のインクK1を供給した。
【0072】
(比較例3−2)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、GBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、GBLを88%含み、BCを12%含む溶媒V4とAL−16470とからなる溶液L6(固形分濃度4.0重量%、粘度11.4cP) を供給し、次いで、上述のインクK2を供給した。
【0073】
(比較例4−1)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、GBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、上述のインクK1を供給した。
【0074】
(比較例4−2)
インクジェットヘッド2の内部流路40に、まず、GBL(粘度1.9cP)を供給し、次いで、上述のインクK2を供給した。
【0075】
図10に、評価結果を示す。図10中、「気泡巻き込み」は、吐出されるインクに気泡が存在するかどうか、についての評価結果である。「初期吐出性」は、インクK1,K2の吐出動作を開始した直後において吐出不良が発生したかどうか、についての評価結果である。「ヘッドダメージ」は、インクジェットヘッド2の表面(吐出面9、内部流路40の内面を含む)がダメージを受けたかどうか(劣化したかどうか)、についての評価結果である。
【0076】
本願発明に係る実施例1,2においては、「気泡巻き込み」、「初期吐出性」、「ヘッドダメージ」の全てにおいて良好であった。すなわち、気泡の発生、及び吐出不良の発生がなく、インクの液滴を良好に吐出することができた。また、インクジェットヘッド2の表面はダメージを受けなかった。
【0077】
比較例1−1,1−2では、インクK1,K2中に気泡が僅かに発生した。また、吐出不良が発生した。これは、内部流路40を溶媒V1(V2)で満たした後、その溶媒V1(V2)との粘度差が大きいインクK1(K2)を内部流路40に満たしたことが、原因の一つと考えられる。また、内部流路がインクK1(K2)で満たされる前にその内部流路を満たす溶媒V1(V2)中に、BCが含まれていることも、原因の一つと考えられる。
【0078】
比較例2−1,2−2では、気泡の発生、及び吐出不良の発生は抑制できたものの、インクジェットヘッド2がダメージを受けた。NMPは、GBL、BCに比べて、インクジェットヘッド2にダメージを与えやすい性質を有するので、NMPを多く使用することは好ましくない。
【0079】
比較例3−1,3−2では、インクK1,K2中に気泡が発生し、吐出不良が発生した。これは、内部流路40がインクK1(K2)で満たされる前にその内部流路40を満たす溶液L5(L6)中に、BCが含まれていることが、原因の一つと考えられる。
【0080】
比較例4−1,4−2では、インクK1,K2中に気泡が発生した。また、吐出不良が発生した。これは、内部流路40をGBLで満たした後、そのGBLとの粘度差が大きいインクK1(K2)を満たしたことが、原因の一つと考えられる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る形成方法により、気泡の発生を抑制でき、吐出不良の発生を抑制できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施形態に係るインクジェット装置を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係るキャリッジ部材に支持された複数のインクジェットヘッドを下側から見た図である。
【図3】本実施形態に係るインクジェットヘッドの構造の一例を説明するための断面図である。
【図4】本実施形態に係るキャッピングステージの一例を示す図である。
【図5】本実施形態に係るキャッピングステージの動作の一例を示す図である。
【図6】本実施形態に係る供給装置の一例を示す図である。
【図7】本実施形態に係る配向膜の形成方法の一例を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態に係るインクジェット装置の動作の一例を模式図である。
【図9】配向膜を備える液晶表示装置の一例を示す図である。
【図10】評価試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
1…吐出口、2…インクジェットヘッド、3…基板ステージ、4…キャッピングステージ、6…キャッピング装置、10…供給装置、17…流路切替機構、34…キャビティ、A…第1溶媒、B…第2溶媒、C…第3溶媒、D…液滴、P…基板、S…配向膜形成用材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向膜形成用材料及び複数種類の溶媒を含むインクをインクジェットヘッドの吐出口より基板に供給して、前記基板に配向膜を形成する配向膜の形成方法であって、
前記複数種類の溶媒のうち、前記インクに占める割合が最も高い第1溶媒を、前記吐出口に通ずる前記インクジェットヘッドの内部流路に供給する第1工程と、
前記第1工程後、前記内部流路が前記第1溶媒で満たされた状態で、前記第1溶媒及び前記配向膜形成用材料を含む溶液を、前記内部流路に供給する第2工程と、
前記第2工程後、前記内部流路が前記溶液で満たされた状態で、前記インクを前記内部流路に供給する第3工程と、を含み、
前記第3工程後、前記吐出口より前記基板に前記インクを供給する配向膜の形成方法。
【請求項2】
前記第1,第2、第3工程の少なくとも一つは、前記インクジェットヘッドの外側より、前記吐出口を吸引する動作を含む請求項1記載の形成方法。
【請求項3】
前記複数種類の溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、及びブチルセロソルブを含む請求項1又は2記載の形成方法。
【請求項4】
前記インクは、固形分濃度が1重量%以上10重量%以下であって、粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下、表面張力が30mN/m以上45mN/m以下に調整されている請求項1〜3のいずれか一項記載の形成方法。
【請求項5】
前記配向膜形成用材料が、以下の式(I)
【化1】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位、及び以下の式(II)
【化2】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位から選ばれる、少なくとも一種を有する重合体である請求項1〜4のいずれか一項記載の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−139807(P2010−139807A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316545(P2008−316545)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】