説明

配管継手

【課題】配管の挿込みによってシールリングが保持溝からはみ出したときにこれを検知でき、長期間経って漏水を起す恐れを解消し得る配管継手を提供する。
【解決手段】管継手10において、配管20の挿込方向のOリング24-2の後側位置であって、保持溝22-2に保持させたOリング24-2の周方向の一部が配管20に押されて軸方向にはみ出したとき、そのはみ出し部と重なる位置に、内筒部18の外周面に沿って無端環状をなし、Oリング24-2のはみ出しを検知する溝70を設けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は配管継手に関し、詳しくは内筒部の外周面に保持させた弾性体から成るシールリングによって配管と内筒部との間を水密にシールする形式の配管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、配管を軸方向に外挿させて配管に対し内嵌状態に嵌合する内筒部を継手本体に備え、その内筒部の外周面の無端環状をなす保持溝に保持させた弾性体から成るシールリングにて、配管の内周面と内筒部の外周面との間を水密にシールするようになした配管継手が広く用いられている。
【0003】
この配管継手では、通常、配管の挿込前においてシールリングを内筒部の外周面から径方向外向きに所定寸法突出させておき、配管を内筒部に挿し込んだときに(挿し込むだけで)、シールリングを配管の内周面と内筒部の外周面詳しくは保持溝の溝底面とで径方向に圧縮して、配管と内筒部との間をシールするようになすが、この場合、配管の挿込み時に配管からの力を受けてシールリングの周方向の一部が保持溝から外れて浮上りを生じてしまうことがある。
特に配管が樹脂の配管である場合にこうしたことが生じ易い。
【0004】
近年、例えば給水用,給湯用の配管としてポリブテン,架橋ポリエチレン等の硬質の樹脂材から成る樹脂製の配管が用いられるようになって来ている。
この場合、施工現場の状況に応じて長い配管を切断して配管接続することができ、施工現場の状況に応じた適正な長さで配管を構成でき且つ良好な状態に配管接続を行うことができる。
【0005】
ところがその際、詳しくは配管を切断するときにこれを斜めに切断してしまうことがあり、この場合その配管を斜めに切断した側から内筒部に対して軸方向に外挿したとき、内筒部に予め装着してあるシールリングの周方向の一部が保持溝から浮き上ってしまうことがある。
【0006】
図8はこれを詳しく説明したものである。
図8において200は内筒部で、202は外周面に形成された無端環状且つ外周側が開放された形状の保持溝であり、そこに弾性を有するシールリング(ここではOリング)204が嵌め込まれ、保持されている。
206は樹脂製の配管で、208は斜めに切断された先端面である。
【0007】
図8に示しているようにこの配管206を先端面208の側から内筒部200に対して軸方向に外挿すると、シールリング204が斜めに切断された先端面208によって図中下側から上向きに絞り上げられて、図中の上部が保持溝202から浮き上ってしまうことがある。
詳述すると、配管206を内筒部200に軸方向に外挿して図中下端部がシールリング204の下部に嵌ると、シールリング204の下部が縮径方向に強制的に弾性変形させられる。
一方シールリング204の上部は未だ配管206にて拘束されていないため、下部において強制的に縮径方向に弾性変形させられたシールリング204が、あたかも下側から上側に向って絞り上げられるようにして、その上部が保持溝202から浮き上って(突出して)しまう(図8(I)参照)。
【0008】
そしてその状態で更に配管206が図中右向きに押し込まれて来ると、上方に浮き上ったシールリング204の上部が配管206の先端面208に当って図中右方向に押し込まれ、図5(B)に示すように保持溝202から図中右側にはみ出してしまう(図8(II)参照)。
【0009】
こうした問題の解決を狙いとした配管継手が下記特許文献1に開示されている。
この特許文献1に開示のものは、継手本体にコイルばね(浮上り防止ばね)を備えて、そのコイルばねの作用でシールリングの浮上りを防ぐようになしたもので、図9にその具体例が示してある。
【0010】
図において210はコイルばね(浮上り防止ばね)で、この図9に示すものでは、配管206を内筒部200に対して挿し込んで行くと、コイルばね210がその先端を配管206の先端面208に当接させた状態で、図中左側の部分がシールリング204を外周側から覆い、シールリング204が保持溝202から浮き上ろうとすると、コイルばね210がシールリング204に対して径方向内方に当接し、シールリング204の浮上りを阻止するように働く。
従ってこの図9に示す配管継手の場合、通常の場合には、配管206の挿込時にシールリング204が保持溝202から浮上りを生じることはない。
【0011】
ところが現場作業で配管206を内筒部200に対して挿し込む際に、図10に示すように配管206の先端面208とコイルばね210との間に砂や木片,ゴミ等の異物212を挟み込み、噛み込んでしまうといったことがまれにあり、この場合、コイルばね210がシールリング204の浮上りに対する防止機能を十分に発揮できず、これによってシールリング204の周方向の一部が保持溝202から浮上りを生じてしまうことがある。
【0012】
而してシールリング204の周方向の一部が浮上りを生じると、その浮き上った部分が、配管206の更なる挿込みに連れて挿込方向に押され、図5(B)の比較例図に示すようにその一部が内筒200の外周面に沿って軸方向に弾性伸び変形を伴って保持溝202から図中右向きにはみ出してしまい(図中72Aははみ出し部を示している)、配管206によって噛み込まれてしまうといったことが起り得る。
【0013】
このような状態になると、通常はシールリング204が十分にシール作用せず、従ってこの状態で通水を行うと通常は漏水を生じる。従って現場での施工後に通水検査を行うと、漏水によってシールリング204が十分に機能していないことを知ることができる。
【0014】
しかしながらごくまれには、このようにしてはみ出したシールリング204が、内筒部200の外周面及び配管206の内周面に対して密着状態を保ってそのままシール機能を発揮してしまうことがある。
この場合、シールリング204が異常な状態となっていることに気付かないため、そのまま放置しておくと例えば半年後とか1年後等長期間経た後に、ウォーターハンマの発生その他の原因によってシールリング204によるシール機能が突然失われ、そこで漏水を起すといったことが危惧される。
この場合漏水を生じていることになかなか気付かないため、このことが多量の漏水に繋がる恐れがある。
【0015】
シールリングの浮上りによる上記の問題は、配管が樹脂製の配管である場合のみならず、他の材質から成る配管である場合にも生じ得るし、また上記のコイルばね(浮上り防止ばね)を備えないものにおいても生じ得る問題である。
【0016】
尚本発明に対する先行技術として、下記特許文献2にはシールリングによるシール不良を検知するための手段を備えた配管継手が開示されているが、この特許文献2に開示のものは、シールリングの保持溝からのはみ出しを検知するものではなく、本発明と異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−162060号公報
【特許文献2】特開2002−243087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は以上のような事情を背景とし、配管の挿込みによってシールリングが保持溝からはみ出したときにこれを検知でき、長期間経ってそこで初めて漏水を起すといった問題を生じることのない配管継手を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
而して請求項1のものは、配管を軸方向に外挿させて、該配管に対して内嵌状態に嵌合する内筒部を継手本体に備え、該内筒部の外周面には、該外周面に沿って無端環状をなす保持溝に弾性体から成るシールリングが嵌込状態に保持させてあり、該配管の内周面と該内筒部の外周面との間を該シールリングにて水密にシールするようになした配管継手において、前記配管の挿込方向の前記保持溝の後側位置であって、該保持溝に保持させた前記シールリングの周方向の一部が該保持溝から外れ、前記内筒部の外周面に沿って該挿込方向にはみ出したとき、はみ出し部と重なる近接位置に、前記内筒部の外周面に沿って無端環状をなし、前記シールリングと略平行な溝を設けてあることを特徴とする。
【0020】
請求項2のものは、請求項1において、前記溝は、前記保持溝から前記シールリングの幅よりも小さい距離を隔てて該保持溝に近接した位置に設けてあることを特徴とする。
【0021】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記溝は、前記シールリングの幅よりも溝幅が狭くしてあることを特徴とする。
【0022】
請求項4のものは、請求項3において、前記溝は、断面V字形状の溝となしてあることを特徴とする。
【0023】
請求項5のものは、請求項3において、前記溝は、断面4角形状で設けてあり且つ開口側のコーナ部が面取り形状となしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、配管の挿込方向の保持溝の後側位置であって保持溝に近接した位置に、内筒部の外周面に沿って無端環状をなし、シールリングと略平行な溝を設けたもので、本発明によれば、内筒部への配管の挿込時にシールリングの周方向の一部が浮上りを生じて、更に配管の挿込みにより軸方向に押され、軸方向の弾性伸び変形を伴って保持溝からはみ出したとき、そのはみ出し部が溝に径方向に重なることによって、はみ出し部と内筒部の外周面との間に溝による隙間が生じ、従ってその状態で通水検査したとき確実に漏水を起させることができる。
ここで溝は保持溝に対し、シールリングの周方向の一部が軸方向に弾性伸び変形したときに軸方向の到達可能な近接位置に配置しておくこととなる。
【0025】
従ってシールリングが保持溝からのはみ出しを生じているにも拘らず、まれにシール機能を発揮してしまい、その後長期間使用後に何等かの原因でシール性を失って、そこで漏水を引き起してしまうといった不具合を未然に防ぐことができ、シールリングのはみ出しを早期に発見し得て、長期間経った後に漏水を起すことによる多量の漏水に繋がる問題を確実に防ぐことができる。
【0026】
本発明では、溝が保持溝に近接した位置で内筒部の外周面に沿ってシールリングと略平行に無端環状に設けてあるため、即ち全周に亘って連続した環状に設けてあるため、シールリングの周方向のどの部分がはみ出しを生じた場合においても、確実にこれを溝に重ならせてシールリングのはみ出しを検知することができる。
【0027】
ここで溝は、保持溝からシールリングの幅よりも小さい距離を隔てて保持溝に近接した位置に設けておくのが望ましい(請求項2)。
このように保持溝に近い位置に溝を配置しておくことで、シールリングの周方向の一部がはみ出しを生じたときにこれを溝に径方向に重ならせ、はみ出し部と内筒部の外周面との間に隙間形成することができる。
【0028】
またその溝は、シールリングの幅よりも溝幅を狭くしておくことが望ましい(請求項3)。
溝の溝幅をシールリングの幅よりも大きくしておくと、場合によってシールリングの保持溝からのはみ出し部が、溝の内部に嵌り込んで溝の内面に密着してしまったり、或いはその隙間を小さくしてしまう恐れが生ずるが、この請求項3によればシールリングのはみ出し部が溝の内部に嵌り込んでしまうのを防止でき、溝の部分においてシールリングのはみ出し部と内筒部の外周面との間に確実に隙間形成することができる。
【0029】
この場合において溝は断面V字形状の溝となしておくことができる(請求項4)。
このようにすることで、シールリングのはみ出し部が溝の内部に嵌り込み、溝の内部をそのはみ出し部が埋め、シールしてしまうのをより確実に防ぐことができる。
【0030】
尚、溝の開口側のコーナ部は面取り形状となしておくことが望ましい。
開口側のコーナ部(縁部)がエッジ形状をなしていると、シールリングのはみ出し部がそのエッジ部で傷付き損傷してしまう恐れがある。
【0031】
漏水に気付いて一旦配管を外し、再度同じシールリングを用いて配管継手に配管接続するといったことが行われてしまうと、損傷したOリングが引続き用いられることとなって、傷付いたOリングによるシールが十分になされず、漏水を生じてしまう恐れがある。
この意味において、溝の開口側のコーナ部は面取り形状となしておくことが望ましい。
【0032】
ところが溝を上記の断面V字形状の溝とする場合、溝を加工形成する工具の先端部が細いものとなり、この場合において溝形成と同時にコーナ部の面取り加工を行うようにすると、工具が強度的に耐えられず、良好に溝加工することが難しい。
【0033】
そこで溝を請求項5に従って断面4角形状で設けておき、開口側のコーナ部を面取り形状となしておくことができる(請求項5)。
この断面4角形状の溝の場合、溝の加工形成と同時にコーナ部を面取り加工することが容易であり、而してこのようにコーナ部を面取り形状とすることで、シールリングが保持溝からのはみ出しを生じたときに、そのはみ出し部が溝のコーナ部によって損傷するのを防ぐことができる。
【0034】
尚、本発明の配管継手は、樹脂配管用の配管継手として好適に用いることができる。
また配管継手はロックリングを備え、そのロックリングの爪を配管(配管の外周面又は内周面)に食い込ませることによって配管を抜止めするものとなしておくことができる。
また本発明の配管継手は、内筒部への配管の挿込前において上記シールリングを内筒部の外周面から半径方向外向きに所定寸法突出させておき、配管を内筒部に挿し込むだけでシールリングを配管の内周面と内筒部の外周面、詳しくは保持溝の溝底面とで径方向に圧縮し、シール作用させるものとなしておくことができる。
この場合において、シールリングを径方向外側から覆う状態にコイルばね(シールリングの浮上り防止ばね)を内筒部の外周側に装着しておき、配管の内筒部への挿込時に配管によってシールリングの周方向の一部が保持溝から径方向外方に浮き上るのを、そのコイルばねのシールリングに対する径方向内向きの当接作用によって防止するものとなしておくことができる。
ここでシールリングの径方向外方への突き出し寸法は0.3mm以上となしておくのが好適である。
上記配管継手は、外筒部を有し、内筒部との間に環状をなす配管の挿入空間を形成するものとなしておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態である配管継手の断面図である。
【図2】図1の配管継手を配管接続状態で示した断面図である。
【図3】同実施形態の配管継手を各部品に分解して示した図である。
【図4】同実施形態の要部拡大図である。
【図5】同実施形態の配管継手を従来のものと比較して示した作用説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態の要部の図である。
【図7】本実施形態において使用可能な解除操作部材を示した図である。
【図8】従来の配管継手における不具合を説明するための図である。
【図9】本発明の先願に係る配管継手の一例を示す図である。
【図10】配管が異物を挟み込む様子を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1〜図3において、10は樹脂製の配管用の配管継手、12は金属製の継手本体でフランジ状の大径の工具掛部14を有しており、その工具掛部14の図中右側の外周面に、後述の配管20を接続すべき相手側の配管との接続部としての雄ねじ部16を有している。
また雄ねじ部16とは反対側の図中左側に、円筒形状の内筒部18を一体に備えている。
そしてこの内筒部18に対して樹脂製の配管20が軸方向に外挿され、内筒部18を配管20内部に内嵌させる状態に接続されるようになっている。
ここで内筒部18の外周面には軸方向に間隔を隔てて、内筒部18の外周面に沿って無端環状をなす一対の保持溝22-1,22-2が形成されており、そこに弾性を有するシールリングとしてのOリング24-1,24-2が嵌め込まれ、保持されている。
ここで保持溝22-1,22-2は断面4角形状に形成されている。
【0037】
26は配管継手10に備えられた外筒部で、外スリーブ28と内スリーブ30とから成っており、その内スリーブ30と内筒部18との間に、配管20を挿入する環状の挿入空間32を形成している。
ここで内スリーブ30は透光性を有する樹脂製の部材から成っており、一方外スリーブ28には開口窓33が設けられており、この開口窓33から内スリーブ30を通して、挿入空間32への配管20の挿入深さが確認できるようになっている。
【0038】
外スリーブ28は、図中右端部に雌ねじ部34を有していて、その雌ねじ部34において、継手本体12の雄ねじ部36にねじ結合され、固定されている。
この外スリーブ28には、段付形状の第1挟持部38が形成されていて、この第1挟持部38が、内スリーブ30の端部にて構成される第2挟持部39とともに、金属製の皿ばね状のロックリング40のリング基部42(図3参照)を、ワッシャ41を介して軸方向に挟持し保持している。
このロックリング40は、図3に示すように周方向に連続した円環状をなすフラットなリング基部42、及びリング基部42から配管20の挿入方向に向けて径方向内方に斜めに突出する形態で、リング基部42に沿って周方向に並んで形成された複数の爪44を有しており、図2に示しているように挿入空間32に挿入された配管20の外面に爪44を食い込ませて、配管20を抜止状態にロックする。
【0039】
図1〜図3において、46はOリング24-1,24-2の外周側において内筒部18に嵌装された金属製のコイルばね(Oリング24-1,24-2の浮上り防止ばね)である。
このコイルばね46は、図3に示しているように隣接する円形の線材48と48との間に隙間を生ぜしめないで密着巻きして成る密巻部50と、線材48と48との間に隙間を形成する状態で疎に巻いて成る疎巻部52とを有しており、その密巻部50を挿入前の配管20の先端面20A(図1参照)の側に、また疎巻部52を反対側に位置させる状態で、Oリング24-1,24-2の外周側に嵌装されている。
【0040】
このコイルばね46は、配管20を挿入空間32に挿入して配管20に対し内筒部18を内嵌状態に嵌め合せる際、配管20の先端部にてOリング24-1,24-2の周方向の一部がOリング溝22-1,22-2から浮き上るのを防止する働きをなす。
詳しくは、配管20の挿入時に密巻部50にてOリング24-1,24-2を外周側から被った状態として、Oリング24-1,24-2の周方向の一部が保持溝22-1,22-2から浮き上ろうとしたとき、密巻部50をその浮き上ろうとする部分に対し径方向内方に当接させて、Oリング24-1,24-2の周方向の一部が保持溝22-1,22-2から浮き上るのを防止する。
【0041】
図1及び図3に示しているように、上記配管継手10における外筒部26、詳しくは内スリーブ30の内周面は、挿入空間32の図中右側の奥部の側が大径部54とされ、また図中左側の挿入側が小径部56とされていて、それらの間に段付部58が形成されている。
【0042】
他方コイルばね46もまた、図3に示しているように図中右部が大径部60、左部が小径部62とされ、そしてそれらの間に、大径部60から小径部62に径を移行させる中間径の移行部63が形成されている。
コイルばね46は、このように構成された結果、配管継手10に嵌装された状態で、大径部60が内スリーブ30の段付部58に当ることによって、かかる配管継手10から脱落防止される。
尚、コイルばね46は図1に示しているように、大径をなす図中右端において、継手本体12の嵌合突部65に外嵌状態に嵌合されている。
【0043】
図1〜図3において、64はロックリング29によるロックを解除するロック解除部で円形のリング状をなしており、外筒部26、詳しくは外スリーブ28の内周面に沿って軸方向に進退可能に設けられている。
このロック解除部64は軸方向、詳しくは図中右方向の前進移動によってロックリング40の爪44を拡開させ、配管20の外面に対する爪44の食込みを解除する働きをなす。即ち配管20に対するロックリング40によるロックを解除する働きをなす。
このロック解除部64は、外スリーブ28の内周面に環状に形成されたストッパ部66によって軸方向に抜け防止されている。
【0044】
尚、ロック解除部64はロックリング40に対して図中左側位置、即ちロックリング40に対して配管20の挿入方向の前側位置に位置しており、ロックリング40の爪44が図中左向きの引張りの力により変形しようとしたとき、爪44に当接して過大な変形を防止するバックアップリングとしての働きも有する。
【0045】
ここでロック解除部64は、外スリーブ28の図中左端の内周面よりも径方向内方に突出している。即ち、外スリーブ28の図中左端の開口68の部位において、外スリーブ28の図中左端の内周面と、挿入状態の配管20の外周面との間に形成される環状の隙間S(図2参照)に軸方向に臨むように配置されている。
【0046】
この実施形態では、図1,図2に示しているように保持溝22-2の図中右側に近接した位置において、内筒部18の外周面に検知溝(溝)70がOリング24-2と平行(但し略平行であっても良い)に設けられている。即ち配管20の挿込方向において、保持溝22-2の後側位置に、内筒部18の外周面に沿って無端環状(円環状)をなす検知溝70が設けられている。
【0047】
この検知溝70は、内筒部18への配管20の挿込時にOリング24-2(又はOリング24-2及び24-1。以下Oリング24-2についてのみ述べる)が配管20からの力を受け、周方向の一部が保持溝22-2(又は保持溝22-2及び22-1。以下保持溝22-2についてのみ述べる)から径方向外方に浮き上り、更に配管20に押されてその一部が軸方向の弾性伸び変形を伴って保持溝22-2からはみ出したとき、そのはみ出し部72(図5(A)参照)を、検知溝70に径方向に重ならせ、そのことによってOリング24-2、具体的にははみ出し部72と内筒部18の外周面との間に隙間を生ぜしめるもので、そのために検知溝70は、Oリング24-2の一部が軸方向に弾性伸び変形したときの到達可能な近接した位置に配置されている。
【0048】
尚、Oリング24-1がはみ出し部72を生じて、これが検知溝70に重なるときには、検知溝70がOリング24-1に対しても検知溝として働く。
尤もOリング24-1は、Oリング24-2よりも検知溝70に対して軸方向に離れており、Oリング24-1のはみ出し部72が検知溝70に到達せず、これに重ならない場合も、保持溝22-1と検知溝70との距離によっては生じ得る。
但しその場合であっても、Oリング24-1のはみ出し部72が通常はその隣の保持溝22-2に重なって、そこで隙間を生じるため、その隙間によってOリング24-1によるシール性が失われ、そこで漏水を生じる。
【0049】
一方最も後側、即ち図中右側のOリング24-2については、その後側即ち図中右側に検知溝70がないと、はみ出し部72が内筒部18の外周面に密着状態となってシール機能を発揮してしまう恐れがある。
従って本発明では、複数の保持溝22,Oリング24が互いに隣接して配置されている場合において、最も後側位置の保持溝22に対し更にその後側即ち図中右側に、検知溝70を設けておくのが効果的である。
但し複数の保持溝22,Oリング24を内筒部18に設ける場合において、それらを軸方向に一定以上の間隔を隔てて設け、各保持溝22にそれぞれ対応して、複数の検知溝70を各保持溝22の後ろ側の位置に設けておくこともできる。
【0050】
上記検知溝70は、保持溝22-2からOリング24-2の幅よりも小さい距離を隔てて保持溝22-2に近接した位置に配置してある。
より具体的には、ここでは図4に示すようにOリング24-2の幅寸法(断面の直径d=1.8mmに対してd=1.0mm離れた近接位置に配置されている。
尚この実施形態において、保持溝22-1,22-2は同形状,同寸法で形成してあり、またOリング24-1,24-2も同じく同形状且つ同寸法で形成してある。
【0051】
図4(B)に示しているようにこの実施形態において、Oリング24-2は配管20の挿込前において、保持溝22-2よりも即ち内筒部18の外周面よりも径方向に寸法h突出せしめられている。
Oリング24-2(Oリング24-1も同様)は、配管20が内筒部18に外挿された段階で、配管20の内周面と保持溝22-2の底部とによって径方向に圧縮され、円筒部18の外周面と配管20の内周面との間を水密にシールする。
【0052】
この実施形態において、寸法h=0.45mmである。本発明では寸法hは少なくとも0.3mm以上としておくことが望ましい。
尚この実施形態において、保持溝22-2の溝深さh=1.35mmである。
【0053】
上記検知溝70は、図4(B)に示しているように断面4角形状で設けてあり、且つ開口側のコーナ部(縁部)74が円弧形状の面取り形状となしてある。
ここでは検知溝70は溝幅d=1.6mmとされており、また溝深さh=0.34mmとされている。
更にコーナ部74は、半径R=0.2mmの円弧形状の面取り形状となしてある。
ここでコーナ部74の円弧形状(R形状)は、半径0.1mm以上の円弧形状となしておくことが望ましい。
【0054】
従来の配管継手の場合、上記のようにOリング204の周方向の一部が、図5(B)に示しているようにはみ出しを生じた場合であっても、はみ出し部72Aが内筒部200の外周面に密着状態となってシール機能を発揮してしまうことがまれに起り得る。
【0055】
しかるに本実施形態では、配管20の挿込時にOリング24-2の一部がはみ出しを生じたとき、図5(A)に示しているように、そのはみ出し部72が検知溝70に掛かることによって、はみ出し部72と内筒部18との間に検知溝70による隙間が生じる。
従ってその状態で配管20及び配管継手10内に通水を行って通水検査をしたとき、配管20内の水が検知溝70を通じて外部に漏出する。
そしてそのことによって、Oリング24-2の一部がはみ出しを生じていることを直ちに知ることができる。
【0056】
以上のように本実施形態によれば、内筒部18への配管20の挿込時に、Oリング24-2の周方向の一部が浮上りを生じて、更に配管20の挿込みにより軸方向に押され、軸方向の弾性伸び変形を伴って保持溝22-2からはみ出したとき、そのはみ出し部72が検知溝70に径方向に重なることによって、はみ出し部72と内筒部18の外周面との間に検知溝70による隙間が生じ、従ってその状態で通水検査したとき、確実に漏水を起させることができる。
【0057】
従ってOリング24-2が保持溝22-2からはみ出しているにも拘らず、まれにシール機能を発揮してしまい、その後長期間使用後に何等かの原因でシール性を失って、そこで漏水を引き起してしまうといった不具合を未然に防ぐことができ、Oリング24-2のはみ出しを早期に発見し得て、長期間経った後に漏水を起すことによる多量の漏水に繋がる問題を防ぐことができる。
【0058】
本実施形態では、検知溝70が全周に亘り保持溝22-2に等距離で近接した位置に設けてあるため、Oリング24-2の周方向のどの部分がはみ出しを生じた場合においても、確実にこれを検知溝70に重ならせてOリング24-2のはみ出しを検知することができる。
【0059】
また検知溝70はOリング24-2の幅よりも溝幅を狭くしてあるため、Oリング24-2のはみ出し部72が、検知溝70の内部に嵌り込んでしまうのを防止でき、検知溝70の部分においてOリング24-2のはみ出し部72と内筒部18の外周面との間に確実に隙間形成することができる。
【0060】
尚、検知溝70の開口側のコーナ部74は面取り形状となしてあるため、Oリング24-2のはみ出し部72が、そのエッジ部で傷付き損傷してしまうのを防ぐことができ、従って漏水に気付いて一旦配管20を外し、再度同じOリング24-2を用いて配管継手10に配管接続することで、損傷したOリング24-2が引続き用いられることとなって、傷付いたOリング24-2によるシールが十分になされず、漏水を生じてしまう恐れを解消することができる。
【0061】
図6は本発明の他の実施形態を示している。
この例は、検知溝70を断面V字形状の溝となした例である。
この図6の実施形態においても、検知溝70の溝幅はOリング24-2の幅よりも狭くしてある。
尚、この実施形態では検知溝70のコーナ部は特に面取り形状とはなしていない。
図6に示す実施形態においても、Oリング24-2のはみ出し部72が検知溝70の内部に嵌り込み、溝の内部をはみ出し部72が埋め、シールしてしまうのを防ぐことができる。
【0062】
図7は、上記の配管継手10におけるロック解除部64を図中右方向に押して、ロックリング40による配管20のロックを解除操作するための解除操作部材を示したもので、ここではサイズの異なる配管20用の3種類の解除操作部材76-1,76-2,76-3を連結部78で繋いで、それらを一体の解除操作部材ユニット80と成している。
各解除操作部材76-1,76-2,76-3は、全体として概略円形状をなし、周方向の一部が切り欠かれた形態をなしている。図中81はその切欠部を表している。
【0063】
各解除操作部材76-1,76-2,76-3は、それぞれ図2の隙間Sから、ロック解除部64に向けて挿し込まれる概略筒状の押圧部82と、フランジ部84とを有している。
これら解除操作部材76-1,76-2,76-3は、図7(C)に示すように、それぞれ押圧部82にてロック解除部64を図中右向きに押すことによって、ロック解除部64によりロックリング40の爪44を拡開させ、ロックリング40による配管20のロックを解除させる。
【0064】
これら解除操作部材ユニット80は、全体が樹脂製とされており、解除操作部材76-1,76-2,76-3は、切欠部81によって径方向に弾性変形可能である。
従って、3種類の解除操作部材76-1,76-2,76-3の何れかを配管継手10に弾性的に嵌着しておくことによって、解除操作部材ユニット80を、施工現場においてそこに保管しておくことができる。
そのために配管継手10には、解除操作部材76-1,76-2,76-3の嵌着用の溝86(図1参照)が設けてある。
【0065】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば配管継手10に備えた上記ロックリング40はあくまで一例であって、本発明は他の様々なロックリングを用いた配管継手に適用することが可能である。
更にそのロックリングは、配管の外周面に爪を食い込ませて配管20を抜止めするものであっても良いし、或いは内周面に爪を食い込ませることによって配管20を抜止めするものであっても良い。
また上例では検知溝70を1個所だけに設けているが、各Oリングに対応して、それぞれの後側に検知溝を設けておくといったことも可能である。
更に本発明は上例以外の他の様々な形態の配管継手に対して適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 配管継手
12 継手本体
18 内筒部
20 配管
22-1,22-2 保持溝
24-1,24-2 Oリング
70 検知溝(溝)
74 コーナ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管を軸方向に外挿させて、該配管に対して内嵌状態に嵌合する内筒部を継手本体に備え、
該内筒部の外周面には、該外周面に沿って無端環状をなす保持溝に弾性体から成るシールリングが嵌込状態に保持させてあり、該配管の内周面と該内筒部の外周面との間を該シールリングにて水密にシールするようになした配管継手において、
前記配管の挿込方向の前記保持溝の後側位置であって、該保持溝に保持させた前記シールリングの周方向の一部が該保持溝から外れ、前記内筒部の外周面に沿って該挿込方向にはみ出したとき、はみ出し部と重なる近接位置に、前記内筒部の外周面に沿って無端環状をなし、前記シールリングと略平行な溝を設けてあることを特徴とする配管継手。
【請求項2】
請求項1において、前記溝は、前記保持溝から前記シールリングの幅よりも小さい距離を隔てて該保持溝に近接した位置に設けてあることを特徴とする配管継手。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記溝は、前記シールリングの幅よりも溝幅が狭くしてあることを特徴とする配管継手。
【請求項4】
請求項3において、前記溝は、断面V字形状の溝となしてあることを特徴とする配管継手。
【請求項5】
請求項3において、前記溝は、断面4角形状で設けてあり且つ開口側のコーナ部が面取り形状となしてあることを特徴とする配管継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−36984(P2012−36984A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178233(P2010−178233)
【出願日】平成22年8月7日(2010.8.7)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】