説明

配線機器の耐火取付け構造及び貫通孔閉塞用筒体

【課題】耐火取付け構造の特殊構成に着目した合理的な改造により、製造コストの低廉化と施工の容易化、能率化を図りながら火災発生時に壁の貫通孔を確実に閉塞することができ、しかも、貫通孔閉塞用筒体の取付け忘れに起因する後付け作業も容易に対応することができる。
【解決手段】耐火性の壁1に形成された貫通孔2の裏面側に配線ボックス3が設けられ、貫通孔2の表面側には、配線ボックス3側から導出される配線4に接続処理される表面側配線機器Aが設けられている配線機器の耐火取付け構造であって、壁1の貫通孔2の内周面1cに、当該貫通孔2内に配設される孔内配設部材が内部空間S内に位置する内寸法で筒状に構成された熱膨張性耐熱樹脂製の貫通孔閉塞用筒体9が挿設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気スイッチ、電気コンセント、通信コンセント、漏電ブレーカー、警報用音響装置、暖房用パネルスイッチ等の機器構成要素を備えた表面側配線機器の一つ又は複数個を建造物の壁に取付ける構造で、詳しくは、耐火性の壁に形成された貫通孔に裏面側から臨む配線ボックスに、この配線ボックス側から導出される配線に接続処理される表面側配線機器が、これら両者間に設けられた締付け固定具により固定されている配線機器の耐火取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
火災発生時に、石膏ボードや繊維混入珪酸カルシウムボード等を用いた耐火壁(耐火構造壁)に形成されている貫通孔を通して火炎、煙、有毒ガス等が隣室に広がるのを防止する技術として、従来では、下記の(イ)〜(ハ)の配線機器の耐火取付け構造が提案されている。
【0003】
(イ)耐火壁の裏面に配設される金属製の配線ボックスの内面又は外面に、この内面又は外面に沿って成形された熱膨張性耐火材製のボックス閉塞材を貼り付けたもの(例えば、特許文献1〜3、特許文献4の図6,7参照)。
【0004】
(ロ)耐火壁の裏面における貫通孔の開口周縁と金属製の配線ボックスの開口縁部との間に、貫通孔の開口形状よりも大きな相似形の板状に成形された熱膨張性耐熱ゴム製の貫通孔閉塞用挾持板を配設したもの(例えば、特許文献4の図8,9、特許文献5参照)。
【0005】
(ハ)耐火造壁の貫通孔内の表面側に、当該貫通孔の横断面形状より僅かに小となる相似形の板状に成形された熱膨張性耐熱ゴム製の貫通孔閉塞用仕切り板を挿設したもの(例えば、特許文献4の図10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2945272号公報
【特許文献2】特許第3923369号公報
【特許文献3】特許第4268338号公報
【特許文献4】特開2003−244817号公報
【特許文献5】特開2004−320857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記(イ)の耐火取付け構造では、耐火壁の裏面側の胴縁や間柱等に固定される配線ボックスの内面又は外面に熱膨張性耐火材製のボックス閉塞材を貼り付ける必要があるため、施工が面倒で多くの手間を要していた。
しかも、配線ボックスの各サイズのボックス形状に合致する複数種類のボックス閉塞材を準備する必要があるため、製造コストの高騰化を招来していた。
さらに、配線ボックスの内面又は外面にボックス閉塞材を貼り付けるのを忘れた場合、配線ボックスが耐火壁の裏面側の胴縁や間柱等に固定されているため、ボックス閉塞材を後付けすることができない、又は、困難を伴う後付け工事になっていた。
【0008】
また、(ロ)の耐火取付け構造では、前記貫通孔閉塞用挾持板に、配線ボックス側から表面側配線機器に導出される配線が挿通される配線挿通孔と、配線ボックスに表面側配線機器を固定する締付け固定具が挿通される固定具挿通孔とを形成するための孔形成用脆弱部を形成する必要があり、しかも、配線ボックスの種類と同じ種類の貫通孔閉塞用挾持板を準備する必要があるため、製造コストの高騰化を招来していた。
さらに、前記貫通孔閉塞用挾持板を取付けるのを忘れた場合、配線ボックスが耐火壁の裏面側の胴縁や間柱等に固定されているため、貫通孔閉塞用挾持板を後付けすることができない、又は、困難を伴う後付け工事になっていた。
【0009】
さらに、(ハ)の耐火取付け構造では、前記貫通孔閉塞用仕切り板に、表面側配線機器に装備される機器構成要素が挿通される要素挿通孔と、配線ボックスに表面側配線機器を固定する締付け固定具が挿通される固定具挿通孔とを形成するための孔形成用脆弱部を形成する必要があり、しかも、表面側配線機器の種類と同じ種類の貫通孔閉塞用仕切り板を準備する必要があるため、製造コストの高騰化を招来していた。
さらに、前記貫通孔閉塞用仕切り板を貫通孔内に嵌め込んだだけでは自立せず、現実的には締付け固定具のネジで止め付けることは不可能である。それ故に、この貫通孔閉塞用仕切り板を表面側配線機器のフレーム枠の形状に合致する形状に予め成形して、この貫通孔閉塞用仕切り板をフレーム枠の裏面に貼り付ける必要があり、製造コストの高騰化を助長し易い。
【0010】
本発明は、上述の実状に鑑みて為されたものであって、その主たる課題は、耐火取付け構造の特殊構成に着目した合理的な改造により、製造コストの低廉化と施工の容易化、能率化を図りながら火災発生時に壁の貫通孔を確実に閉塞することができ、しかも、後付け作業でも容易に処置することのできる優れた配線機器の耐火取付け構造及び貫通孔閉塞用筒体を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による第1の特徴構成は、耐火性の壁に形成された貫通孔の裏面側に配線ボックスが設けられ、前記貫通孔の表面側には、前記配線ボックス側から導出される配線に接続処理される表面側配線機器が設けられている配線機器の耐火取付け構造であって、
前記壁の貫通孔の内周面に、当該貫通孔内に配設される孔内配設部材が内部空間内に位置する内寸法で筒状に構成された熱膨張性耐熱樹脂製の貫通孔閉塞用筒体が挿設されている点にある。
【0012】
本願発明者は、この種の配線機器の耐火取付け構造における特殊な構成、つまり、貫通孔内に配設される配線や表面側配線機器側の機器構成要素等の孔内配設部材が貫通孔の内周面から離れた中央側に設けられている点に着目し、火災発生時に壁の貫通孔を閉塞するための熱膨張性耐熱樹脂を筒状の貫通孔閉塞用筒体に構成して、貫通孔の内周面に沿って挿設可能に構成すると同時に、この貫通孔閉塞用筒体の内寸法を、それの内部空間内に配線等の孔内配設部材が位置する内寸法に構成したものである。
【0013】
これにより、貫通孔閉塞用筒体を構成する熱膨張性耐熱樹脂量を、貫通孔の内周面の周長と貫通長さとを利用して十分確保することができるとともに、配線や表面側配線機器側の機器構成要素等の孔内配設部材を挿通させるための特別な孔形成用脆弱部を形成する必要性がなく、しかも、施工時においては、挿通対象の配線等の孔内配設部材に対応する部位の孔形成用脆弱部を加工して挿通孔を形成する手間が不要となる。
それ故に、壁に形成された貫通孔に貫通孔閉塞用筒体を挿設するだけの作業工程で済むとともに、挿入される貫通孔閉塞用筒体が配線や表面側配線機器側の機器構成要素等の孔内配設部材と衝突することもない。
【0014】
さらに、貫通孔閉塞用筒体を取付けるのを忘れた場合でも、表面側配線機器を取り外して貫通孔閉塞用筒体を貫通孔の表面側から挿入するだけで済む。
【0015】
したがって、配線機器の耐火取付け構造における特殊構成である貫通孔内の孔内配設部材の配置に着目した合理的な改造により、火災発生時に壁の貫通孔を確実に閉塞することのできる優れた耐火取付け構造を製造コストの低廉化を図りながら能率良く容易に施工することができる。しかも、貫通孔閉塞用筒体の取付け忘れに起因する後付け作業も容易に行うことができる。
【0016】
本発明による第2の特徴構成は、前記貫通孔閉塞用筒体の側板部とこれに隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体の側板部との相対向する部位には脱着可能な連結手段が設けられている点にある。
【0017】
上記構成によれば、壁の貫通孔に複数個の表面側配線機器を並設する施工時には、これに対応して貫通孔内に複数個の貫通孔閉塞用筒体を並設することになるが、この場合でも、前記連結手段で隣接する貫通孔閉塞用筒体同士を連結して一体物として取り扱うことができるので、施工の容易化、能率化を促進することができる。
【0018】
本発明による第3の特徴構成は、前記連結手段が、前記貫通孔閉塞用筒体の側板部と隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体の側板部との相対向する部位に設けられた係脱可能な係止部と被係止部とから構成されている点にある。
【0019】
上記構成によれば、前記連結手段を、簡単なメカ的な係合構造である係止部と被係止部とから構成することにより、複数個の貫通孔閉塞用筒体を並設する場合の施工の容易化、能率化を促進しながら、貫通孔閉塞用筒体の個々を極力簡素な構造に維持して製造コストの高騰化を抑制することができる。
【0020】
本発明による第4の特徴構成は、前記連結手段の係止部と被係止部とが貫通孔閉塞用筒体の筒軸芯方向から係脱可能に構成されている点にある。
【0021】
上記構成によれば、例えば、前記連結手段の係止部と被係止部とが貫通孔閉塞用筒体の並設方向から係脱可能に構成されている場合では、貫通孔外において挿入対象の全ての貫通孔閉塞用筒体を係合連結して貫通孔に一括挿入する必要がある。
しかし、前記係止部と被係止部とが筒軸芯方向から係脱可能に構成されている場合には、先に貫通孔内に挿入されている先行の貫通孔閉塞用筒体の係止部又は被係止部に対して、後続の貫通孔閉塞用筒体を貫通孔内に並設挿入しながらそれの被係止部又は係止部を係合させることができるから、前者に比して施工性を大幅に改善することができる。
【0022】
本発明による第5の特徴構成は、前記貫通孔閉塞用筒体が、最小単位の表面側配線機器の縦横寸法に対応した縦横寸法の角筒状に成形されている点にある。
【0023】
上記構成によれば、最小単位の表面側配線機器に対応した最小単位の貫通孔閉塞用筒体とすることにより、表面側配線機器の複数の種類に応じた複数のサイズの貫通孔閉塞用筒体を製作する場合に比して製造コストの低廉化を図ることができる。
【0024】
本発明による第6の特徴構成は、耐火性の壁に形成された貫通孔の裏面側に配線ボックスが設けられ、前記貫通孔の表面側には、前記配線ボックス側から導出される配線に接続処理される表面側配線機器が設けられている配線機器の耐火取付け構造に用いられる貫通孔閉塞用筒体であって、
前記貫通孔内に配設される孔内配設部材が内部空間内に位置する内寸法で壁の貫通孔の内周面に挿設可能な角筒状に熱膨張性耐熱樹脂で形成されているとともに、左右の側板部の一方には、隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体における他方の側板部に設けられた被係止部と係脱可能な係止部が設けられているとともに、他方の側板部には、隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体における一方の側板部に設けられた係止部と係脱可能な被係止部が設けられている点にある。
【0025】
上記構成によれば、貫通孔閉塞用筒体を構成する熱膨張性耐熱樹脂量を、貫通孔の内周面の周長と貫通長さとを利用して十分確保することができるとともに、配線や表面側配線機器側の機器構成要素等の貫通孔内に配設される孔内配設部材を挿通させるための特別な孔形成用脆弱部を形成する必要性がなく、しかも、施工時においては、挿通対象の配線や機器構成要素等の孔内配設部材に対応する部位に形成された孔形成用脆弱部を加工して挿通孔を形成する手間が不要となる。
それ故に、壁に形成された貫通孔に貫通孔閉塞用筒体を挿設するだけの作業工程で済むとともに、挿入される貫通孔閉塞用筒体が配線や表面側配線機器側の機器構成要素等の孔内配設部材と衝突することもない。
【0026】
また、貫通孔閉塞用筒体を取付けるのを忘れた場合でも、表面側配線機器を取り外して貫通孔閉塞用筒体を貫通孔の表面側から挿入するだけで済む。
【0027】
さらに、壁の貫通孔内に複数個の貫通孔閉塞用筒体を並設する場合でも、隣接する貫通孔閉塞用筒体の側板部に設けられている係止部と被係止部とを係合連結して一体物として取り扱うことができるので、施工の容易化、能率化を促進することができる。
【0028】
したがって、配線機器の耐火取付け構造における特殊構成である貫通孔内の孔内配設部材の配置に着目した合理的な改造により、火災発生時に壁の貫通孔を確実に閉塞することのできる優れた耐火取付け構造を製造コストの低廉化を図りながら能率良く容易に施工することができる。しかも、貫通孔閉塞用筒体の取付け忘れに起因する後付け作業も容易に行うことができる。
【0029】
しかも、係止部と被係止部とを簡単なメカ的な係合構造とすることにより、複数個の貫通孔閉塞用筒体を並設する場合の施工の容易化、能率化を促進しながら、貫通孔閉塞用筒体の個々を極力簡素な構造に維持して製造コストの高騰化を抑制することができる。
【0030】
本発明による第7の特徴構成は、前記左右の側板部と天板部及び底板部の各外面における少なくとも筒軸芯方向の一端側部位には、一端側ほど内面側に近づくテーパ面が形成されている点にある。
【0031】
上記構成によれば、壁の貫通孔に対して貫通孔閉塞用筒体を一端側から挿入する際、それの外面に形成されているテーパ面によって引っ掛かることなく又は引っ掛かりの少ない状態でスムーズに挿設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の配線機器の耐火取付け構造及び貫通孔閉塞用筒体の第1実施形態を示す分解斜視図
【図2】耐火取付け構造の縦断面図
【図3】貫通孔閉塞用筒体の前面側斜視図(a)と後面側斜視図(b)
【図4】貫通孔閉塞用筒体の縦断面図
【図5】貫通孔閉塞用筒体の拡大横断面図
【図6】二個の貫通孔閉塞用筒体の連結斜視図(a)と三個の貫通孔閉塞用筒体の連結斜視図(b)
【図7】本発明の第2実施形態を示す貫通孔閉塞用筒体の前面側斜視図(a)と後面側斜視図(b)
【図8】貫通孔閉塞用筒体の拡大横断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔第1実施形態〕
図1〜図6は、耐火性の壁(耐火壁又は耐火構造壁)の一例で、複数枚の石膏ボードや繊維混入珪酸カルシウムボード等の耐火ボード1A,1B等を積層して構成される片壁1の貫通孔2に、配線機器の一例である最小単位の一個タイプ(1個口タイプ)のスイッチ機器を取付けてある耐火取付け構造を示す。
【0034】
このスイッチ機器の耐火取付け構造では、片壁1の裏面1bに、貫通孔2に臨む状態で金属製又は耐熱合成樹脂製の配線ボックス3が配設され、片壁1の表面1aには、表面側配線機器の一例で、配線ボックス3から貫通孔2側に導出される電気ケーブル(配線)4に接続される三つの電気スイッチ(機器構成要素の一例)5を備えた金属製のフレーム枠6と、このフレーム枠6を化粧する合成樹脂製の化粧カバー7とを備えたスイッチ機器本体Aが配設されている。
【0035】
このスイッチ機器本体Aのフレーム枠6は、当該フレーム枠6と配線ボックス3との間に設けられた締付け固定具8の締め付け操作により片壁1の表面1aに当て付けた挾持状態で固定されている。
【0036】
この第1実施形態では、前記電気ケーブル4(ケーブル端末が電気スイッチ5内に入り込むため)とスイッチ機器本体Aの三つの電気スイッチ5及び締付け固定具8とが貫通孔2内に配設される孔内配設部材となり、前記片壁1の貫通孔2の内周面1cには、前記孔内配設部材が内部空間S内に位置する内寸法で角筒状に構成された熱膨張性耐熱樹脂製(当該実施形態では熱膨張性耐熱ゴム製)の貫通孔閉塞用筒体9が挿設されている。
【0037】
前記片壁1の貫通孔2は、最小単位のスイッチ機器本体Aの縦横寸法及び最小単位の配線ボックス3の縦横寸法に対応した縦横寸法の角孔に形成されているとともに、前記貫通孔閉塞用筒体9も、最小単位のスイッチ機器本体Aの縦横寸法及び最小単位の配線ボックス3の縦横寸法に対応した縦横寸法の角筒状に形成されている。
【0038】
前記配線ボックス3は、片壁1の裏面1b側から貫通孔2に向かって開口する状態で、片壁1の裏面1b側の胴縁や間柱等にビス等の適宜固定手段で固定され、その開口部周縁の上下二箇所には、フレーム枠6の上下二箇所の取付け孔6aに挿通された取付けネジ8Aに対するネジ孔3bを形成してある取付け片3aが折り曲げ形成されている。
【0039】
この配線ボックス3の取付け片3aとフレーム枠6の取付け孔6a及び取付けネジ8Aとをもって前記締付け固定具8が構成されている。
【0040】
前記配線ボックス3の底壁部3A及び周壁部3Bには、片壁1の裏面1b側に沿って配設される電気ケーブル4を配線ボックス3の内部に導入するための挿通口3cを簡易形成可能な挿通口形成用脆弱部3dが打ち出し成形されている。
【0041】
また、前記フレーム枠6の上下二箇所には、化粧カバー7の上下二箇所の取付け孔7aに挿通された取付けネジ10が螺合固定されるネジ孔6bが形成されている。
【0042】
前記フレーム枠6の横幅寸法は貫通孔2の横幅寸法よりも小さく、かつ、縦幅寸法は貫通孔2の縦幅寸法よりも大に構成されているとともに、化粧カバー7の横幅寸方及び縦幅寸法は、貫通孔2の横幅寸方及び縦幅寸法よりも共に大に構成されている。
【0043】
前記貫通孔閉塞用筒体9の外面の縦方向外寸法及び横方向外寸法は、片壁1の貫通孔2の縦幅寸法及び横幅寸法と同一又は僅かに小に構成されているとともに、貫通孔閉塞用筒体9の内周面の縦方向内寸法及び横方向内寸法は、片壁1の貫通孔2の内周面1cと締付け固定具8の挿設経路との間の最も近接する部位での対向間隔よりも小なる厚みで形成される縦方向内寸法及び横方向内寸法に構成されている。
【0044】
つまり、前記貫通孔閉塞用筒体9の内周面の内寸法について詳述すると、貫通孔閉塞用筒体9の左右の側板部9A、9Bと天板部9C及び底板部9Dの各厚みは、貫通孔2の内周面1cにおける上側内面と貫通孔2の上方側に挿設される締付け固定具8の取付けネジ8Aとの間の対向間隔、及び、貫通孔2の内周面1cにおける下側内面と貫通孔2の下方側に挿設される締付け固定具8の取付けネジ8Aとの間の対向間隔よりも小に構成され、この貫通孔閉塞用筒体9を貫通孔2内に挿設した状態では、貫通孔閉塞用筒体9の内部空間S内における天板部9C及び底板部9Dの各内面近傍箇所に締付け固定具8の取付けネジ8Aが挿設されることになる。
【0045】
これにより、角筒状の貫通孔閉塞用筒体9を構成する熱膨張性耐熱樹脂量(熱膨張性耐熱ゴム量)を、貫通孔2の内周面1cの周長と貫通長さとを利用して火災発生時に貫通孔2を確実に閉塞することが可能な十分な量を確保することができるとともに、電気ケーブル4やスイッチ機器本体Aに装備される電気スイッチ5、或いは、締付け固定具8の取付けネジ8Aをそれぞれ挿通させるための特別な孔形成用脆弱部を形成する必要性がなく、しかも、施工時においては、挿通対象の電気ケーブル4や取付けネジ8A或いは電気スイッチ5に対応する部位においてそれぞれ孔形成用脆弱部を加工して挿通孔を形成する手間が不要となる。
それ故に、片壁1に形成された貫通孔2に貫通孔閉塞用筒体9を挿設するだけの作業工程で済むとともに、挿入される貫通孔閉塞用筒体9が、電気ケーブル4やスイッチ機器本体Aに装備される電気スイッチ5、或いは、締付け固定具8の取付けネジ8A等の孔内配設部材と衝突することもない。
【0046】
前記貫通孔閉塞用筒体9の天板部9C及び底板部9Dの厚みが、左右の側板部9A、9Bの厚みよりも少し大に構成されているとともに、左右の側板部9A、9Bと天板部9C及び底板部9Dの各外面における筒軸芯方向の一端側部位には、一端側ほど内面側に近づくテーパ面9aが形成されている。
【0047】
これにより、片壁1の貫通孔2に対して貫通孔閉塞用筒体9をそれの筒軸芯方向の一端側から挿入する際、その外面に形成されているテーパ面9aによって引っ掛かることなく又は引っ掛かりの少ない状態でスムーズに挿設することができる。
【0048】
尚、当該実施形態は、図1、図2において、前記貫通孔閉塞用筒体9を貫通孔2の表面側から挿設した一般的な施工態様を表しているが、この貫通孔閉塞用筒体9を貫通孔2の裏面側から挿設しても何等の問題も無い。それ故に、貫通孔2に対する貫通孔閉塞用筒体9の挿設方向は施工手順等に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
前記貫通孔閉塞用筒体9の一方の側板部9Aの上下両側部には、図3〜図5に示すように、隣接配置される他の同一構造の貫通孔閉塞用筒体9における他方の側板部9Bの対応する部位に形成されている被係止部12と筒軸芯方向から係脱可能な係止部11が一体形成されているとともに、他方の側板部9Bには、隣接配置される他の同一構造の貫通孔閉塞用筒体9における一方の側板部9Aの対応する部位に形成されている係止部11と筒軸芯方向から係脱可能な被係止部12が一体形成されている。
【0050】
前記係止部11は、一方の側板部9Aの外面における筒軸芯方向の他端から一端側に向って突出形成されたL字状の係止突起11Aから構成されているとともに、この係止突起11Aの筒軸芯方向他端側の外側端面11aが、製造社名や品番等の各種情報を表示する表示面に構成されている。
【0051】
前記被係止部12は、図5に示すように、他方の側板部9Bの内面における筒軸芯方向の他端側部位から端面に掛けての領域に、係止突起11Aが筒軸芯方向から係合する横断面略L字状の係止溝12Aを形成して構成されている。
【0052】
この係止溝12Aのうち、側板部9Bの端面側となる第1溝部12aは、これに嵌まり込む係止突起11Aの立上り部分11bの厚みと同一又は略同一の係合深さに構成され、側板部9Bの内面の他端側部位に対応する第2溝部12bは、これに嵌まり込む係止突起11Aの係止爪部分11cの厚みよりも小さな浅い係合深さ(当該実施形態では、係止突起11Aの係止爪部分11cの厚みの半分弱の係合深さに設定)に構成されている。
【0053】
前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bと隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとの相対向する部位に設けられた係脱可能な係止部11と被係止部12とをもって、前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとこれに隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとを脱着自在に連結する連結手段Bが構成されている。
【0054】
そして、図6(a)は、最小単位のスイッチ機器本体Aの二個を装備する二連タイプ(二個口タイプ)の配線ボックス3に対応して、二連タイプの貫通孔2内に並設する二個の貫通孔閉塞用筒体9を連結手段Bで連結した場合を示す。
【0055】
また、図6(b)は、最小単位のスイッチ機器本体Aの三個を装備する三連タイプ(三個口タイプ)の配線ボックス3に対応して、三連タイプの貫通孔2内に並設する三個の貫通孔閉塞用筒体9を連結手段Bで連結した場合を示す。
【0056】
このように片壁1の貫通孔2内に複数個の貫通孔閉塞用筒体9を並設する場合でも、隣接する両貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bに設けられている連結手段Bの係止部11と被係止部12とを係合連結して一体物として取り扱うことができるので、施工の容易化、能率化を促進することができる。
【0057】
しかも、前記連結手段Bの係止部11と被係止部12とを簡単なメカ的な係合構造とすることにより、複数個の貫通孔閉塞用筒体9を並設する場合の施工の容易化、能率化を促進しながら、貫通孔閉塞用筒体9の個々を極力簡素な構造に維持して製造コストの高騰化を抑制することができる。
【0058】
さらに、前記連結手段Bの係止部11と被係止部12とが筒軸芯方向から係脱可能に構成されているので、先に貫通孔2内に挿入されている先行の貫通孔閉塞用筒体9の係止部11又は被係止部12に対して、後続の貫通孔閉塞用筒体9を貫通孔2内に並設挿入しながらそれの被係止部12又は係止部11を係合させることができる。
それ故に、例えば、前記連結手段Bの係止部11と被係止部12とが貫通孔閉塞用筒体9の並設方向から係脱可能に構成されている場合のように、貫通孔2外において挿入対象の全ての貫通孔閉塞用筒体9を係合連結して貫通孔2に一括挿入する必要がなく、施工性を大幅に改善することができる。
【0059】
尚、前記貫通孔閉塞用筒体9を単独で使用する一個タイプ(1個口タイプ)の場合、或いは、図6に示すように、貫通孔閉塞用筒体9を複数個連結して使用する複数連タイプ(複数個口タイプ)の何れにおいても、貫通孔2の横幅方向の一側に位置する側板部9Aの外面に連結手段Bの係止部11が突出することになる。
この突出する係止部11は、貫通孔2の内周面1cにおける横幅方向の一側面と貫通孔閉塞用筒体9の側板部9Aの外面との間に存在する空隙が大きい場合には、貫通孔閉塞用筒体9と一緒にスムーズに貫通孔2内に挿入することができるが、前記空隙が小さい場合には、係止部11及び貫通孔閉塞用筒体9の弾性又は可撓性を利用して貫通孔2内に撓み変形状態で挿設することになる。
【0060】
前記貫通孔閉塞用筒体9を構成する熱膨張性耐熱樹脂の組成には、炭酸カルシウム等の無機質充填材、熱膨張性基材、ゴム成分、合成樹脂等を含有しており、熱膨張性基材としては、膨張黒鉛、バーミキュライト、アルカリ金属ケイ酸塩などを挙げることができる。
【0061】
また、熱膨張性耐熱樹脂の熱膨張倍率も任意に設定することが可能であるが、当該実施形態では少なくとも10倍以上、好ましくは20倍以上に設定している。
【0062】
そして、火災が発生したとき、片壁1の貫通孔2に挿設した貫通孔閉塞用筒体9の熱膨張によって、貫通孔2を効率良く確実に閉塞することができるから、配線ボックス3から貫通孔2を通してスイッチ機器本体Aのフレーム枠6側に至るまでに存在する多数の隙間、及び、配線ボックス3に形成されている多数の隙間を通して、火炎や有毒ガスが隣室側に流入することを抑制することができる。
【0063】
〔第2実施形態〕
図7、図8は、前記貫通孔閉塞用筒体9の両側板部9A、9Bの上下両側部に形成された係止部11及び被係止部12の変形例を示す。
前記係止部11は、一方の側板部9Aの外面における筒軸芯方向の他端側部位に突出形成された逆台形状の係止突起11Bから構成されているとともに、各係止突起11Bが、筒軸芯方向の一端側ほど細幅となる先細り形状に構成されている。
【0064】
また、前記被係止部12は、他方の側板部9Bの外面における筒軸芯方向の他端側部位に、係止突起11Bが筒軸芯方向から係合するアリ溝状の係止溝12Bを形成して構成されているとともに、各係止溝12Bが、係止突起11Bの先細り形状と同様に筒軸芯方向の一端側ほど細幅となる先細り形状に構成されている。
【0065】
前記貫通孔閉塞用筒体9の底板部9Dの筒軸芯方向他端側の端部で、かつ、締付け固定具8の取付けネジ8Aの挿通経路近傍となる中央側を除く左右両側部には、上方に突出する板部9bを面一状態で一体形成して、この両板部9bと底板部9Dの端面とで形成される連続面を、製造社名や品番等の各種情報を表示するための表示面9cに構成されている。
【0066】
尚、その他の構成は、第1実施形態で説明した構成と同一であるから、同一の構成箇所には、第1実施形態と同一の番号を付記してそれの説明は省略する。
【0067】
〔その他の実施形態〕
(1)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9を、最小単位の表面側配線機器(スイッチ機器本体A)の縦横寸法に対応した縦横寸法の角筒状に成形して、一個タイプ(1個口タイプ)の場合では単独で使用し、複数連タイプ(複数個口タイプ)では複数個の貫通孔閉塞用筒体9を連結して使用したが、前記貫通孔閉塞用筒体9を、一個タイプ(1個口タイプ)、二連タイプ(二個口タイプ)、三連タイプ(三個口タイプ)、四連タイプ(四個口タイプ)の各大きさで各別に製作してもよい。
また、前記貫通孔閉塞用筒体9を、一個タイプ(1個口タイプ)と二連タイプ(二個口タイプ)との二種類を製作して、三連タイプ(三個口タイプ)以上の場合に、二種類の貫通孔閉塞用筒体9を適宜組み合わせた状態で互いに連結して使用してもよい。
【0068】
(2)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bと隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとの相対向する部位に形成された係止部11と被係止部12とを筒軸芯方向から係脱自在に構成したが、この係止部11と被係止部12とを、貫通孔閉塞用筒体9の並設方向又は上下方向から係脱自在に構成してもよい。
【0069】
(3)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bと隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとの相対向する部位に、係止部11と被係止部12とを一体形成したが、この係止部11と被係止部12とを貫通孔閉塞用筒体9とは別の部材から構成してもよい。
【0070】
(4)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9の一方の側板部9Aの上下二箇所に係止部11を、他方の側板部9Bの上下二箇所に被係止部12をそれぞれ形成したが、一方の側板部9Aの上下一箇所又は上下三箇所以上の部位に係止部11を、他方の側板部9Bの上下一箇所又は上下三箇所以上の部位に被係止部12をそれぞれ形成してもよい。
また、前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bの各々に、係止部11と被係止部12とを組み合わせて形成してもよい。
【0071】
(5)上述の各実施形態では、前記連結手段Bを、簡単なメカ的な係合構造である係止部11と被係止部12とから構成したが、この構成に限定されるものではなく、この連結手段Bを、磁力で脱着可能に吸着される両磁石又は磁石と磁性体との組み合わせから構成してもよく、さらに、ホックや面ファスナー等から連結手段Bを構成してもよい。
【0072】
(6)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとこれに隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体9の側板部9A,9Bとの相対向する部位に脱着自在な連結手段Bを設けたが、このような連結手段Bを省略した形態で実施してもよい。
【0073】
(7)上述の各実施形態では、前記貫通孔閉塞用筒体9を角筒状に一体成形したが、帯状に構成された熱膨張性耐熱樹脂を角筒状に折り曲げ、折り曲げられた熱膨張性耐熱樹脂をアルミテープ等の適宜保形手段で角筒状に保持されてなる貫通孔閉塞用筒体9であってもよい。
また、前記貫通孔閉塞用筒体9の横断面形状は、角筒以外に他の配線機器の形態に応じて円筒形や長円筒形等に構成することは可能である。
【0074】
(8)上述の各実施形態では、配線ボックス3側から導出される配線として電気ケーブル4を例に挙げたが、光ケーブル等であってもよい。
【0075】
(9)上述の各実施形態では、耐火性の壁として、複数枚の耐火ボード1A,1Bを積層して構成される片壁1を例に挙げて説明したが、耐火性の中空壁等であってもよい。
【0076】
(10)上述の各実施形態では、配線機器の一例としてスイッチ機器を例に挙げて説明したが、電気コンセント、通信コンセント、漏電ブレーカー、警報用音響装置、暖房用パネルスイッチ等の他の機器構成要素を備えた配線機器にも本願発明の技術を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、製造コストの低廉化と施工の容易化、能率化を図りながら火災発生時に壁の貫通孔を確実に閉塞することのできる優れた配線機器の耐火取付け構造及び貫通孔閉塞用筒体を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
A 表面側配線機器(スイッチ機器本体、孔内配設部材)
B 連結手段
S 内部空間
1 壁(片壁)
1c 内周面
2 貫通孔
3 配線ボックス
4 配線(電気ケーブル、孔内配設部材)
8 締付け固定具(孔内配設部材)
9 貫通孔閉塞用筒体
9A 側板部
9B 側板部
9C 天板部
9D 底板部
9a テーパ面
11 係止部
12 被係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性の壁に形成された貫通孔の裏面側に配線ボックスが設けられ、前記貫通孔の表面側には、前記配線ボックス側から導出される配線に接続処理される表面側配線機器が設けられている配線機器の耐火取付け構造であって、
前記壁の貫通孔の内周面に、当該貫通孔内に配設される孔内配設部材が内部空間内に位置する内寸法で筒状に構成された熱膨張性耐熱樹脂製の貫通孔閉塞用筒体が挿設されている配線機器の耐火取付け構造。
【請求項2】
前記貫通孔閉塞用筒体の側板部とこれに隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体の側板部との相対向する部位には脱着可能な連結手段が設けられている請求項1記載の配線機器の耐火取付け構造。
【請求項3】
前記連結手段が、前記貫通孔閉塞用筒体の側板部と隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体の側板部との相対向する部位に設けられた係脱可能な係止部と被係止部とから構成されている請求項2記載の配線機器の耐火取付け構造。
【請求項4】
前記連結手段の係止部と被係止部とが貫通孔閉塞用筒体の筒軸芯方向から係脱可能に構成されている請求項3記載の配線機器の耐火取付け構造。
【請求項5】
前記貫通孔閉塞用筒体が、最小単位の表面側配線機器の縦横寸法に対応した縦横寸法の角筒状に成形されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の配線機器の耐火取付け構造。
【請求項6】
耐火性の壁に形成された貫通孔の裏面側に配線ボックスが設けられ、前記貫通孔の表面側には、前記配線ボックス側から導出される配線に接続処理される表面側配線機器が設けられている配線機器の耐火取付け構造に用いられる貫通孔閉塞用筒体であって、
前記貫通孔内に配設される孔内配設部材が内部空間内に位置する内寸法で壁の貫通孔の内周面に挿設可能な角筒状に熱膨張性耐熱樹脂で形成されているとともに、左右の側板部の一方には、隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体における他方の側板部に設けられた被係止部と係脱可能な係止部が設けられているとともに、他方の側板部には、隣接配置される他の貫通孔閉塞用筒体における一方の側板部に設けられた係止部と係脱可能な被係止部が設けられている貫通孔閉塞用筒体。
【請求項7】
前記左右の側板部と天板部及び底板部の各外面における少なくとも筒軸芯方向の一端側部位には、一端側ほど内面側に近づくテーパ面が形成されている請求項6記載の貫通孔閉塞用筒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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