説明

配線用電線導体およびそれを用いた配線用電線

【課題】
溶接性・半田接合性に優れ、かつ強度・導電性にも優れ、高い接合信頼性を有する配線用電線導体およびそれを用いた配線用電線を提供する。
【解決手段】
ニッケルを1.0〜4.5質量%、ケイ素を0.2〜1.1質量%、マグネシウムを0.05〜0.5質量%、および亜鉛を0.1〜1.5質量%含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる銅合金材よりなる配線用電線導体、およびそれらの配線用電線導体を複数本撚り合わせてなる配線用電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車およびロボットの配線等に用いられる配線用電線導体およびそれを用いた配線用電線に関するものであり、特に、接続のために端子を圧着して使用する配線用電線導体およびそれを用いた配線用電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の配線用電線として、主にJIS C 3102に規定されるような軟銅線、またはこれに錫メッキ等を施した線を撚り合わせ、この撚線導体に塩化ビニール・架橋ポリエチレン等の絶縁体を同心円状に被覆した電線が使用されてきた。そして自動車に搭載される各種の制御回路は近年増加しており、その配線箇所の数は多くなっている。とりわけ自動車配線回路においては、制御用等の信号電流回路の占める割合が高まっている。そのため使用する電線重量が増加するとともに、電線の接合部等における耐久性・永年通電性についての信頼性の要求は一層高まっている。このような状況をうけ、省エネルギーの立場等からは、上記のような信頼性を確保しつつしかも電線重量を軽減化することが要求されるようになってきた。
【0003】
対応策の一つとして電線導体の細径化による重量軽減化が挙げられている。しかしながら、従来の電線導体では、通電容量には十分余裕があるにもかかわらず、電線導体自体およびその端子圧着部の機械的強度が弱いため細径化することは困難であった。この点、銅合金素材を用いて高強度と細線化を試みたものが開示されており(例えば特許文献1参照)、また銅合金線と硬銅線とを複数本撚り合わせることで巻き癖がつきにくいものとし、かつ機械的・電気的特性の改善を試みたものが開示されている(例えば特許文献2参照)。しかし、これらのものは電線同士の接合部やリード線として使用した時の半田接合部が外れやすいなどという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−60722号公報
【特許文献2】特開平11−224538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車用ワイヤーハーネスを製造する際、個々の電線の末端はコネクターに圧着され、または電線同士がジョイントされる。そして電線同士のジョイントは、超音波溶接または抵抗溶接により行われる。超音波溶接は、束ねた線に超音波を付与し、線同士の摩擦により新生面を出現させ且つ温度を上昇させ、それに圧力を加えることで線同士を接合させる方法である。抵抗溶接は、束ねた線に電気を流すことで発熱・溶融させ、圧力を加えて線同士を接合させる方法である。
【0006】
これに対しCu−Ni−Si系合金は酸化しやすいケイ素を含有しているため、熱処理時に表面に酸化ケイ素が形成される。この酸化ケイ素は、構造が緻密であるため、外力や熱で分解されにくく、超音波溶接や抵抗溶接の接合性を劣化させる。そのためハーネス組み立て工程や車載時の振動によりその溶接部が外れやすくなる。また、酸化ケイ素は半田濡れ性も劣化させ、電子機器用のリード線に用いた場合に半田接合部が外れやすくなる。
【0007】
このような点に鑑み、本発明はなされたものである。すなわち本発明は、溶接性・半田接合性に優れ、かつ強度・導電性にも優れる配線用電線導体およびそれを用いた配線用電線の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、溶接性、半田接合性に優れる配線用電線導体を製造し得ることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、
(1)ニッケルを1.0〜4.5質量%、ケイ素を0.2〜1.1質量%、マグネシウムを0.05〜0.5質量%、および亜鉛を0.1〜1.5質量%含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる銅合金材よりなることを特徴とする配線用電線導体。
(2)ニッケルを1.0〜4.5質量%、ケイ素を0.2〜1.1質量%、マグネシウムを0.05〜0.5質量%、亜鉛を0.1〜1.5質量%、およびスズを0を超え1.0質量%以下含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる銅合金材よりなることを特徴とする配線用電線導体。
(3)(1)または(2)の配線用電線導体を複数本撚り合わせてなる配線用電線
【発明の効果】
【0009】
本発明の配線用電線導体は、Cu−Ni−Si合金に所定量のマグネシウムおよび亜鉛を添加することにより溶接性・半田接合性を向上させたものであり、優れた配線用導体として配線用電線(特に自動車用ワイヤーハーネス)に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の配線用電線導体について詳細に説明する。
まず、本発明の配線用電線導体に用いられる銅合金の各合金元素および合金組成について、その作用効果とあわせて詳しく説明する。
【0011】
ニッケルとケイ素は、その添加量比を制御することによりマトリクス中にNi−Si析出物(NiSi)を形成させて析出強化を行うことができ、その添加により銅合金の強度を向上させることができる元素である。ニッケルの含有量は1〜4.5質量%であり、好ましくは1.2〜4.2質量%である。ニッケルの量が少なすぎるとその析出硬化量が小さく強度が不足する。これが多すぎてもその効果は飽和する。
ケイ素は質量%で計算するときはニッケルの添加量の約1/4の時に強化量が大きくなることが知られている。この点に鑑み、本発明の配線用電線導体においては、ケイ素の添加量を0.2〜1.1質量%とし、0.3〜1.0質量%とすることが好ましい。
【0012】
マグネシウムと亜鉛は、溶接性・半田接合性を向上させる元素であり、本発明の配線用電線導体においては、その両者が添加される。
マグネシウムはケイ素より酸化物の生成エネルギーが低いため、酸化が進行しやすい。そのためケイ素の酸化を抑制する効果を有し、また酸化マグネシウムは生成したとしても破壊されやすいため溶接性を阻害しない。0.05質量%未満ではその効果が十分には現れず、逆に0.5質量%を超えると導電性が劣化する。またマグネシウムの量が多すぎると熱間加工性、冷間加工性が劣化する。したがって本発明の配線用電線導体において、マグネシウムの添加量は0.05〜0.5質量%であり、好ましくは0.09〜0.3質量%である。
亜鉛は加熱により半田との密着力が低下することを防止する効果を有する。0.1質量%未満ではその効果が十分には現れず、逆に1.5質量%を超えると導電性が劣化する。したがって本発明の配線用電線導体において亜鉛の添加量は0.1〜1.5質量%であり、好ましくは0.4〜1.2質量%である。
【0013】
また、スズは強度を向上させるため添加することが好ましい。ただし、1.0質量%を超えて添加すると導電率が劣化するため、本発明の配線用電線導体においては、スズの添加量を、0を超え1.0質量%以下とすることが好ましく、0.05〜0.2質量%とすることがより好ましい。
【0014】
次に、本発明の配線用電線導体の製造方法について説明する。
本発明の配線用電線導体に用いられる銅合金は通常の方法にしたがって製造することができ、例えば所望の金属を溶解して鋳造した合金材料を用いることができる。詳しくは、溶体化においてバッチ炉にて900〜950℃で1〜2時間保持する方法である。好ましくはバッチ炉を使用せずに熱間押出により溶体化を行い直ちに急冷する方法であり、このようにすることで結晶粒を微細化できる。具体的には、結晶粒径を小さくするため700〜1000℃に加熱して熱間押出することが好ましい。熱間押出の後は、ただちに水中焼入れを行うことが好ましい。こうして例えば丸棒を製造し、これを所定の直径に伸線して配線用電線導体とすることができる。ただし、本発明の配線用電線導体は上記のような丸棒・伸線加工に限られず、目的の用途に応じて必要な大きさ・形状となるように成型加工すればよい。
【0015】
本発明の配線用電線導体は、その複数本を撚り合わせて(好ましくは3〜20本撚り合わせて)、本発明の配線用電線にすることができる。本発明の配線用電線の形態・大きさは特に限定されず、目的とする用途に応じて所望の形態・大きさに加工すればよく、さらに絶縁体材料などを被覆してもよい。また本発明の配線用電線は、さらに圧縮した後、300〜550℃で1〜5時間時効焼鈍を行うことができる。
【0016】
このように、本発明の配線用電線導体は、Cu−Ni−Si合金に所定量のマグネシウムおよび亜鉛(好ましくはさらにスズ)を添加することにより高い強度や導電性にくわえ、溶接性・半田接合性等を向上させたものであり、接合信頼性が高くしかも軽量化した優れた配線用電線等として、とりわけ自動車用ワイヤーハーネスとして好適に利用することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0018】
下記表1中に示す合金組成となるよう、各金属材料を高周波溶解炉にて溶解し、ビレットを鋳造した。次に前記ビレットを900℃で熱間押出して、直ちに水中焼入れを行い、丸棒を得た。次いで前記丸棒を冷間にて伸線し、直径0.18mmの配線用電線導体を得た。前記電線導体を7本撚り合わせ、さらに圧縮して撚線とし、前記撚線を450℃で2時間時効焼鈍を行い、導体断面積0.13sq(約0.13mm)・長さ1kmの本発明例および比較例の電線試料を製造した。
一方、従来例の電線試料は、特開平6−60722号公報の実施例1と同様にして以下のように製造した。合金を溶解、鋳造し、鋳塊とした。直径16mmまで冷間鍛造した後、950℃で2時間加熱して溶体化処理を施し、水中焼き入れを行なった。このようにして得られた焼き入れ材を所定の直径サイズまで伸線し、素線を作製した。その後素線を7本撚り合わせ撚線とし、この撚線を真空中460℃で2時間加熱することにより時効処理を行った。次いで、導体断面積0.13sq(mm)・長さ1kmの電線導体を製造した。
なお本発明において規定の範囲の合金組成を有するものは本発明例として、その範囲外のものについては比較例または従来例として表1に示されている。
【0019】
このようにして得られた各々の電線試料について、[1]引張強度、[2]導電率、[3]超音波溶接強度、[4]抵抗溶接強度[5]半田接合強度を下記方法により測定した。各項目の測定方法は以下のとおりである。
[1]引張強度
JIS Z 2241に準じて、各電線試料の3本について引張強度を測定し、その平均値(MPa)を表1に示した。なお、実用上、引張強度が540MPa以下であると強度が不足し、配線時に断線が生じる。
[2]導電率
四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各電線試料の2本について導電率を測定し、その平均値(%IACS)を表1に示した。このとき端子間距離は100mmとした。なお、実用上、導電率が40%IACS以下であると電線として使用するのに必要とされる電気特性が確保出来ない。
[3]超音波溶接強度
各電線試料の15本を束ねて超音波溶接し、束の外側に配置されている、ある1本の電線導体を束から引き剥がすのに必要な張力を求めて、これを超音波溶接強度とした。この測定を10セット行い、その平均値を表1に示した。なお、実用上、超音波溶接強度が7N以下であると配線時に加えられる強度や、機器への搭載後の振動により接合部が外れる可能性がある。
[4]抵抗溶接強度
抵抗溶接により溶接した以外上記の超音波溶接強度の測定と同様にして抵抗溶接強度を測定し、その結果を表1に示した。なお、実用上、抵抗溶接強度が7N以下であると配線時に加えられる強度や、機器への搭載後の振動により接合部が外れる可能性がある。
[5]半田接合強度
半田接合強度の測定は以下のように別途電線導体試料を作製して行った。
表1の合金組成となるようにして銅合金を鋳造し、900℃で熱間押出して溶体化材丸棒を作製した。この丸棒を直径1.0mmまで伸線した後、450℃で2時間時効処理を行った電線導体試料(長さ1km)を作成した。各電線導体試料の長さ5mmが内径3.0mmの銅管内に入るように入れて、その隙間を半田で埋め、150℃で2時間加熱を行った。そののち銅管から素線を引き抜くのに必要な荷重を測定して、これを半田接合強度とした。各試料につき3回の引き抜き測定を行い、その平均値を表1に示した。なお、実用上、半田強度が100N以下であると部品組み立て時や、機器への搭載後の振動により接合部が外れる可能性がある。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、比較例1ではマグネシウムを含有しないため、溶接強度が劣った。比較例2、3では亜鉛を含有しないか、含有量が少なすぎるため、半田接合強度が劣った。比較例4では亜鉛含有量が多すぎるため、導電率が劣った。従来例1、2ではマグネシウムと亜鉛が両者とも添加されていないため、溶接強度、半田接合強度が劣った。これに対し、本発明の配線用電線導体を用いたものは引張強さ、導電率、溶接強度、および半田強度のすべてにおいて優れた特性を示した。以上の結果から、本発明の配線用電線導体は優れた特性を示し、電線材料等として用いたときの耐久性などに優れて、信頼性が高く、軽量化が可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを1.0〜4.5質量%、ケイ素を0.2〜1.1質量%、マグネシウムを0.05〜0.5質量%、および亜鉛を0.1〜1.5質量%含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる銅合金材よりなることを特徴とする配線用電線導体。
【請求項2】
ニッケルを1.0〜4.5質量%、ケイ素を0.2〜1.1質量%、マグネシウムを0.05〜0.5質量%、亜鉛を0.1〜1.5質量%、およびスズを0を超え1.0質量%以下含有し、残部が銅と不可避不純物とからなる銅合金材よりなることを特徴とする配線用電線導体。
【請求項3】
請求項1または2の配線用電線導体を複数本撚り合わせてなる配線用電線。

【公開番号】特開2007−157509(P2007−157509A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351278(P2005−351278)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】