説明

配線

【課題】ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送するのに好適な配線を提供する。
【解決手段】ギガヘルツ帯の信号を伝送する配線であって、互いに撚り合わされた一対の心線と、第1の絶縁性被覆材と、第2の絶縁性被覆材と、前記一対の心線から放射されるエバーネッセント波を封じ込めるシールド材と、を備え、前記一対の心線は、この配線の特性インピーダンスを100Ωから200Ωとし、かつ、前記一対の心線から放射されるTEM波とエバーネッセント波との位相を整合させる、撚り合わせ回数と、直径と、間隔とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送するのに好適な配線に関する。
【背景技術】
【0002】
TEM波(Transverse Electro-Magnetic Wave)の伝送線路として、同軸線路やツイストペア線路等が知られている。
しかし、信号伝送線路には直流抵抗(R)や誘電損失(G)が存在するため、伝送中の信号は減衰する。特にギガヘルツ帯の高周波信号を伝送する場合には、直流抵抗と誘電損失を合成した特性インピーダンス(Z)は周波数特性を持つため、信号は大きく減衰する。
また、高周波信号の伝送線路において電磁波伝送状態を精査すると、エバーネッセント波(Evanescent Wave)としてサイドローブ的な電磁放射が認められ、100m以上の線路になると、このエバーネッセント波による信号の減衰は直流抵抗や誘電損失による減衰と同程度となる。
さらに、信号を伝送する場合、当該信号伝送線路に外部からの電磁波が混入するクロストークが存在する。
【0003】
そこで、特許文献1は、伝送線路に接続されるメモリ回路が備えるトランジスタの構造を変形することにより、クロストークを回避する技術を開示している。
また、特許文献2は、伝送線路をシールドすることにより、エバーネッセント波による信号の減衰を防ぐ技術を開示している。
【特許文献1】特開2003−224462号公報
【特許文献2】特開2005−244733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されている構成では、TEM波とエバーネッセント波との2つの波の伝送時間がずれるため、信号として解像度が劣化するおそれがあった。従って、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送するのに好適な配線が求められている。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送するのに好適な配線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る配線は、
ギガヘルツ帯の信号を伝送する配線であって、
互いに撚り合わされた一対の心線と、
各前記心線を被覆する一対の第1の絶縁性被覆材と、
前記一対の第1の絶縁性被覆材を被覆する第2の絶縁性被覆材と、
前記第2の絶縁性被覆材を覆い、前記一対の心線から放射されるエバーネッセント波を封じ込めるシールド材と、を備え、
前記一対の心線は、この配線の特性インピーダンスを100Ωから200Ωとし、かつ、前記一対の心線から放射されるTEM(Transverse Electro-Magnetic)波とエバーネッセント波との位相を整合させる、撚り合わせ回数と、直径と、間隔とを有する、
ことを特徴とする。
【0007】
前記心線の撚り合わせ回数は、前記TEM波の実効長が前記一対の心線の線路長の√2倍となるように設定されている、ことも可能である。
【0008】
前記心線の撚り合わせピッチが10.3mmである、ことも可能である。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る複合配線は、
前記配線を複数備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るツイストペアケーブルについて図1を参照して説明する。
【0012】
本実施形態のツイストペアケーブル10は、図1(a)及び(b)に示すように、心線11と、第1の被覆材12と、第2の被覆材13と、シールド材14と、外皮材15と、から構成される。本ツイストペアケーブル10の特性インピーダンスは、約135Ω以上となるよう形成され、好ましくは200Ωに形成される。
【0013】
心線11は、例えば、銅などの電気伝導性素材から構成され、2本の線を撚り合わせたツイスト状に形成される。心線の直径D1は、約0.2mm〜0.4mmであり、好ましくは0.3mmである。心線のピッチD2は、約9mm〜11mmであり、好ましくは10.3mmである。2本の心線の間隔D3は、約1.2mm〜1.4mmであり、好ましくは1.36mmである。
なお、ツイストペアケーブル10の長さが100m程度の場合には、心線のピッチD2は10.3mm±0.4mmとすることが好ましく、また、200m以上の場合には、10.3mm±0.2mmとすることが好ましい。
【0014】
第1の被覆材12は、例えば、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、テフロン(登録商標)などの絶縁性素材から構成され、2本の心線11をそれぞれ覆い、離間させるよう形成される。第1の被覆材12の被誘電率は3以下であって、誘電体による伝送損失の低い素材であることが好ましい。第1の被覆材12の厚さ(肉厚)を変化させて心線の間隔D3を広げることにより、ツイストペアケーブル10の特性インピーダンスを高くすることができる。
【0015】
第2の被覆材13は、第1の被覆材12と同様に絶縁性素材から構成され、心線11を被覆した第1の被覆材12を覆うように形成される。第2の被覆材13による絶縁により、後述するTEMモード伝送を維持することができる。また、第1の被覆材12を形成せずに第2の被覆材13のみによって心線の間隔D3を調節することにより、特性インピーダンスを高くすることもできる。なお、第2の被覆材13と第1の被覆材12とは同一の絶縁性素材であるが、異なる絶縁性素材とすることもできる。
【0016】
シールド材14は、例えば、銅などの電磁波を遮蔽する金属素材から構成され、第2の被覆材13を覆うように形成される。シールド材14は、心線11から中空に放射されるエバーネッセント波を遮蔽することにより、当該エバーネッセント波のエネルギーをシールド材14内に閉じ込め、伝送損失を減少させる。シールド材14の厚さ(肉厚)は、エバーネッセント波を遮蔽することができれば、任意である。
【0017】
外皮材15は、例えば、ゴム、ガラス繊維などの可撓性を有する絶縁性素材から構成され、シールド材14等を覆い保護するために形成される。外皮材15の厚さ(肉厚)は任意である。また、外皮材15は、水、油などが外皮材15内に浸入するのを防ぐために、シールド材14等を密閉する形状とすることもできる。
【0018】
次に、TEM波及びエバーネッセント波の発生原理について図2を参照して説明する。
【0019】
TEM波は、電磁波が信号の進行方向とその進行方向に垂直な方向とに同時に光速で進行するため、図2(a)に示すように、45度の立体角を有するコーン状(円錐状)に発生し、進行する。また、TEM波は、進行経路から絶え間なく発生するため、TEM波の後続波も発生する。本実施形態において、信号の進行経路は心線11であるため、TEM波は心線11から発生する。
【0020】
エバーネッセント波は、図2(b)に示すように、TEM波とTEM波の後続波との位相がずれて干渉することにより発生する。エバーネッセント波は、TEM波に直交する方向に発生する。つまり、エバーネッセント波は、信号の進行方向に対して立体角45度で中空に放射される。エバーネッセント波はTEM波の進行工程において次々と発生するため、当該エバーネッセント波の累積エネルギーは、伝送中の信号の減衰に比べて無視できないものとなる。なお、エバーネッセント波は心線11のカップリングが弱まることにより増幅される。
【0021】
次に、伝送経路である通常のツイストペアケーブル(例えば、カテゴリ6の0.5mmφの銅線LANケーブル)と本実施形態のツイストペアケーブル10におけるTEM波及びエバーネッセント波の進行工程を図3に示す。図3では、心線11を簡易的に並行線路として示す。まず、伝送波(TEM波)が進行するモード(状態)を説明する。
【0022】
伝送線路周辺が空気で満たされた理想的なペア伝送線路では当該周辺の誘電率は均質となるため、発生する電磁界は伝送波の進行方向に対して直角方向に形成される。この場合、電磁界の広がりが崩れないため、伝送波は光速で進行する。この状態をTEMモード伝送という。
【0023】
一方、ペア伝送線路の間に比誘電率が1以上の絶縁物が挟まれた場合には、電磁界の広がりが崩れ、空気中に比べ伝送波の進行が遅れることにより遅延波が発生する。この状態を疑似TEMモード伝送という。TEM波は疑似TEMモード伝送では大きく減衰する。
【0024】
TEM波は、図3(a)及び(b)に示すように、心線11に沿って進行する。
一方、TEM波の進行方向に対して立体角45度で中空に放射されたエバーネッセント波は、シールド効果によって45度反射を繰り返しながら進行する。
【0025】
通常のツイストペアケーブルの特性インピーダンスは100Ω以下であり、心線11の間のカップリングは強くなるため、図3(a)に示すように、エバーネッセント波は弱められる。また、通常のツイストペアケーブルには第2の被覆材13がないため、疑似TEMモード伝送となる。疑似TEMモード伝送の場合、TEM波とエバーネッセント波との位相がずれる原因となる。
【0026】
一方、本実施形態のツイストペアケーブル10の特性インピーダンスは135Ω以上であり、心線11の間のカップリングを弱めることにより、図3(b)に示すように、エバーネッセント波は強められる。また、ツイストペアケーブル10は第2の被覆材13を備えるため、TEMモード伝送となる。TEMモード伝送において、TEM波とエバーネッセント波との実効長を一致させることにより、位相が整合する。
【0027】
次に、伝送経路における入力波(入力信号)と受信波(受信信号)との関係について図4を参照して説明する。
【0028】
まず、入力波(入力信号)が出発端から伝送経路に供給されることにより、TEM波とエバーネッセント波とが発生する。波形の伝搬による一定の時間経過後、TEM波とエバーネッセント波とが受信端で受信波(受信信号)として観測される。
【0029】
TEM波は伝送経路で減衰するため、受信波形の立ち上がりはなだらかとなる。
一方、エバーネッセント波はTEM波と位相が整合するか否かにより、受信端での波形は変化する。TEM波が受信端に到達する時刻をT1とし、伝送線路の出発端で発生した最も到達の遅いエバーネッセント波が受信端に到達する時刻をT2maxとし、エバーネッセント波の受信端での電圧をV2とする。エバーネッセント波の累積電圧は、V2/(T2max−T1)となる。従って、T2maxが次の入力波形(入力信号)の立ち下がりのタイミング以降となると、エバーネッセント波は雑音源となる。
合成波は、TEM波とエバーネッセント波との合成であるため、エバーネッセント波の減衰が少ない場合には、合成波の減衰も少なくなる。
【0030】
通常のツイストペアケーブルにおいて発生したエバーネッセント波の受信波形は、図4(a)に示すように、シールド効果がないため累積(重畳)されず、受信端で低い矩形波として観測される。このため、TEM波とエバーネッセント波との合成波形も減衰した波形となる。
【0031】
一方、本実施形態のツイストペアケーブル10において発生したエバーネッセント波は、図4(b)に示すように、シールド材14等によるシールド効果及びTEM波との位相整合により、通常のツイストペアケーブルに比べ減衰が少ない。つまり、エバーネッセント波の受信波形は、伝送経路の進行過程において積算され、ほとんど減衰しないで立ち上がる。このため、合成波の減衰も少ない。
【0032】
以下に、TEM波とエバーネッセント波との実効長を一致させる(位相を整合させる)方法について、具体例を示して説明する。
【0033】
実効長Lと線路長Lとの関係式を以下の式(1)に示す。
L=L(1+(1/D2)×π×D3) (1)
ただし、長さの単位はm(メートル)とする。
【0034】
通常のツイストペアケーブルにおいて、線路長(ケーブル長)L=100m、心線の直径D1=0.5mm、心線のピッチD2=8.25mmから12.85mm、心線の間隔D3=1mmとする。式(1)よりTEM波の実効長Lは、124.4mから138mとなる。また、エバーネッセント波の実効長は、図3(a)に示すように45度の多重反射を繰り返すため、141.4m(=100m×√2)となる。従って、通常のツイストペアケーブルでは、TEM波とエバーネッセント波との実効長が異なるため位相は異なる。
【0035】
さらに、絶縁物の比誘電率=2.2とした場合、伝送速度=2.0×10m/s(=3.0×10/√2.2)となる。従って、発信端から受信端までのTEM波の伝送時間T1は、622nsから690nsとなる。また、エバーネッセント波の伝送時間T2は、T1から707nsとなる。従って、TEM波とエバーネッセント波との伝送時間の最小差は、17nsとなる。
つまり、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送する場合には、100ps程度以内のスキューが問題となるため、通常のツイストペアケーブルではエバーネッセント波がノイズとなる。
【0036】
一方、ツイストペアケーブル10において、線路長(ケーブル長)L=100m、心線の直径D1=0.3mm、心線のピッチD2=10.3mm、心線の間隔D3=1.36mmとする。式(1)よりTEM波の実効長Lは、141.4mなる。また、エバーネッセント波の実効長は、図3(b)に示すように45度の多重反射を繰り返すため、141.4mとなる。従って、本実施形態に係るツイストペアケーブル10では、TEM波とエバーネッセント波との実効長が一致するため、位相は整合する。
また、TEM波とエバーネッセント波の実効長が一致するため、伝送時間も一致する。従って、本実施形態のツイストペアケーブル10では、エバーネッセント波がノイズとなることはない。
【0037】
なお、1GHzの信号を伝送する場合には1クロックは1nsである。このためツイストペアケーブル10が100mの線路では、心線のピッチD2=10.3mm±0.4mmとする必要がある。また、200mの線路では、D2=10.3mm±0.2mmとする必要がある。
【0038】
以上説明したように、シールド効果によりエバーネッセント波の減衰を防ぎ、また、TEM波とエバーネッセント波との位相を整合させることにより、伝送の減衰を減らし、ギガヘルツ帯の高周波信号を伝送することができる。
【0039】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。
【0040】
ツイストペアケーブル10の特性インピーダンスを約200Ωに形成できれば、心線の直径D1等を任意に変更することができる。また、ツイストペアケーブル10の特性インピーダンスは200Ω以上とすることもできる。
【0041】
外力からの緩衝を和らげるための緩衝材を外皮材15の内側又は外側に設けることもできる。
【0042】
ツイストペアケーブル10を複数本撚り合わせることにより、2本より多い心線(銅線)を備えたケーブルとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るツイストペアケーブルにおける一対の心線のみの概略図であり、(b)はツイストペアケーブルの断面を示す図である。
【図2】(a)はTEM波及びエバーネッセント波の発生を説明する図であり、(b)は(a)の側面側から見た図である。
【図3】TEM波及びエバーネッセント波の伝送工程を説明する図であり、(a)は従来のケーブルにおける伝送工程を説明する図であり、(b)は本実施形態に係るツイストペアケーブルにおける伝送工程を説明する図である。
【図4】入力波形と受信波形との関係を説明する図であり、(a)は従来のケーブルにおける波形を説明する図であり、(b)は本実施形態に係るツイストペアケーブルにおける波形を説明する図である。
【符号の説明】
【0044】
10 ツイストペアケーブル
11 心線
12 第1の被覆材
13 第2の被覆材
14 シールド材
15 外皮材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギガヘルツ帯の信号を伝送する配線であって、
互いに撚り合わされた一対の心線と、
各前記心線を被覆する一対の第1の絶縁性被覆材と、
前記一対の第1の絶縁性被覆材を被覆する第2の絶縁性被覆材と、
前記第2の絶縁性被覆材を覆い、前記一対の心線から放射されるエバーネッセント波を封じ込めるシールド材と、を備え、
前記一対の心線は、この配線の特性インピーダンスを100Ωから200Ωとし、かつ、前記一対の心線から放射されるTEM(Transverse Electro-Magnetic)波とエバーネッセント波との位相を整合させる、撚り合わせ回数と、直径と、間隔とを有する、
ことを特徴とする配線。
【請求項2】
前記心線の撚り合わせ回数は、前記TEM波の実効長が前記一対の心線の線路長の√2倍となるように設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の配線。
【請求項3】
前記心線の撚り合わせピッチが10.3mmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の配線。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の配線を複数備えることを特徴とする複合配線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−181855(P2009−181855A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20869(P2008−20869)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】