説明

配電線の対地静電容量補償装置

【課題】簡単な装置構成で、非接地系のリアルタイムの系統における配電線の対地静電容量を連続的に補償する装置。
【解決手段】接地変圧器を介して系統の零相回路に可変リアクトルを挿入すると共に、残留零相電圧に基づく配電線の対地静電容量測定装置を設け、タイマー装置により所定のタイミングで、配電線の対地静電容量を測定し、測定結果に基づいて可変リアクトルを制御する。可変リアクトルは、直流制御巻線と交流主巻線を有し、対地静電容量の測定結果に基づき直流制御巻線の制御電流を調整して、交流主巻線のインダクタンスを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接地系電力系統である配電系統における配電線の対地間に存在する静電容量を所望の対地静電容量に補償する配電線の対地静電容量補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接地系電力系統である配電系統における系統の拡大や地中ケーブルの適用拡大により配電線の対地静電容量が増加しており、今後も更なる増加が見込まれている。非接地系電力系統の電路における対地静電容量の増加は、該電路における地絡発生時の地絡電流の増大を招き、変電所における地絡検出の感度低下と、電路に接続された電力設備・機器の保安のために必要なB種接地抵抗値が低くなり、規定値を確保するための接地工事が困難になる等の問題が生じている。
【0003】
この問題を解決するため、配電用変電所等にリアクトルを設置する等により、電力系統の零相回路における配電線の対地静電容量を相殺し、電気量的に対地静電容量を補償することが行われている。上記の補償は、通常、所定の対地充電電流が得られる所定の不足補償で行われている。
しかしながら、近年、配電系統の運用が自動化され、配電系統の負荷状況に応じ、損失電力、供給電圧等が最適となるように配電線(フィーダ)に対する電力供給の切替が行われており、それによって、運用中の系統における配電線の対地静電容量は頻繁に変化する。そのため、配電系統の運用においては、系統の状況に応じて、例えば、前記補償用のリアクトルのタップを切り替える等の適切な補償を維持するための作業が必要であった。
【0004】
これに対し、特許文献1に開示のような、配電自動化システムと連携し、自動化システムから運用中の配電系統の状況を取得し、一方、自動化運用対象のすべての配電線の区分区間ごとの対地静電容量のデータベースを保有し、当該データベースを参照して前記取得した運用中の配電系統における配電線の対地静電容量を算出して当該静電容量に対応する補償リアクトルの値を算出し、当該リアクトル値に対応してリアクトルのタップを自動的に切替えるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−183122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたものは、配電自動化システムと一体に運用されるものであるために、配電自動化システムとの間の通信設備等が必要であり、装置構成が複雑になり、また、自動化システムから見ても、前述のように運用する全ての配電線の区分区間ごとの対地静電容量のデータベースが必要であり、いずれにしても、複雑で高コストの装置になっている。
更に、補償リアクトルは、タップを切替えるものであり、インダクタンスの値は段階的に制御されるので、必ずしも常に最適な制御が達成されるものでもない。
本発明は、簡単な構成により、変電所の母線に接続するだけで、リアルタイムの運用中の配電系統における配電線の対地静電容量を測定し、測定結果に応じて、連続的にインダクタンス値を可変可能な可変リアクトルを制御して常に最適な補償を達成する配電線の対地静電容量補償装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は以下の技術手段により解決される。
第1の技術手段は、変電所母線に接続される接地変圧器と、該接地変圧器を介して電力系統の零相回路に挿入される可変リアクトルと、接地変圧器を介して取得した残留零相電圧に基づく配電線の対地静電容量測定装置と、該対地静電容量の測定タイミングを設定するタイマー装置と、前記対地静電容量測定装置の測定結果に基づいて前記可変リアクトルを制御する制御装置とを備え、前記可変リアクトルは直流制御巻線と交流主巻線を有し、前記制御装置による前記直流制御巻線の制御電流の調整によって、前記交流主巻線のインダクタンスを連続的に可変されることにより、リアルタイムの配電系統の配電線の対地静電容量値に基づいて前記可変リアクトルのインダクタンスを制御する配電線の対地静電容量補償装置を特徴とする。
【0008】
第2の技術手段は、第1の技術手段の配電線の対地静電容量補償装置において、前記可変リアクトルは、田の字型磁心に交流主巻線、直流制御巻線がそれぞれ対称的に巻装されて構成される可変リアクトルであることを特徴とする。
【0009】
第3の技術手段は、第1又は第2の技術手段の配電線の対地静電容量補償装置において、前記対地静電容量測定装置は、接地変圧器のオープンデルタ回路に接続するインピーダンスの切替えによって生じる残留零相電圧の変化により算出することを特徴とする。
【0010】
第4の技術手段は、第3の技術手段の配電線の対地静電容量補償装置において、前記オープンデルタ回路は前記可変リアクトルを零相回路に挿入するための接地変圧器の三次巻線、又は、該接地変圧器とは独立した接地変圧器の巻線であることを特徴とする。
【0011】
第5の技術手段は、第1〜第3の何れかの技術手段の配電線の対地静電容量補償装置において、前記タイマー装置は予め設定されたタイミング及び/又は所定の時間間隔で前記対地静電容量測定装置の測定タイミングを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単な構造で、変電所に設置し母線に接続するだけで、非接地系電力系統である配電系統のリアルタイムの運用中の系統における配電線の対地静電容量を目標とする適切な対地静電容量値へ無段階に、連続的且つ瞬時に可変することが可能である。
配電系統は需要家の負荷状況に対応し最適な電力供給のために頻繁に系統の切替えが行われるが、リアルタイムの運用系統における配電線の対地静電容量の測定を短時間で且つ高頻度で行うことが出来るので、常に目標とする適切な対地静電容量の制御が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態及び適用形態を説明する図である。
【図2】配電系統の切替えを説明する図である。
【図3】本発明による対地静電容量の補償を説明する図である。
【図4】本発明に適用される可変リアクトルの1例を説明する図である。
【図5】本発明に適用される対地静電容量測定装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、本発明の実施形態及び配電系統への適用について説明する。
第1図は、本発明に係る配電線の対地静電容量補償装置を非接地系電力系統の配電用変電所に設置して運用する形態を示す図である。
図において、Trは配電用の主変圧器であり、該変圧器の2次側には複数の配電線(フィーダ)F1〜Fnに電力を供給する母線(BUS)が接続されている。
配電線F1〜Fnは、それぞれ遮断器CB1〜CBnを介して前記母線に接続されており、通常、これらの配電算は6.6kVの非接地系である。
各配電線F1〜Fn及び母線BUSには対地間に各線路の亘長や構造に応じた静電容量が存在し、図ではこれをωC1〜ωCn及びωCbとして示している。
【0015】
また、この配電線F1〜Fnには、図2に示すように当該配電線を所定の区間で区分できるように所定の間隔で区分開閉器Csを設けられている。この区分開閉器は、配電線の負荷の状況に応じて電力供給を最適化するために開閉され、配電線の各フィーダF1〜Fnに対する電力供給系統が切替えられる。
このように、配電系統の運用中の切替えにより、当該変電所の母線から電力供給する各配電線F1〜Fnの対地静電容量は変化する。
【0016】
本発明に係る配電線の対地静電容量補償装置は、図中1で示している。本発明の装置は、開閉器LSを介して前記母線に接続され、当該母線に接続されている運用中の配電線F1〜Fnの対地静電容量を補償するものである。
GTrは可変リアクトル20を零相回路に挿入するための接地変圧器であり、2次側のオープンデルタ回路に可変リアクトルの交流主巻線22が接続される。
MTrは対地静電容量測定のために配電系統の残留零相電圧を抽出するための接地変圧器である。
【0017】
3は対地静電容量測定のタイミングを設定するタイマー装置である。該タイマー装置の設定に従って、静電容量測定装置4が前記接地変圧器MTrの2次側オープンデルタ回路に接続するインピーダンスを切替えて残留零層電圧V01、V02を取得し、この2つの残留零相電圧に基づいて対地静電容量ωCを算出する。また、測定のタイミングは外部入力信号、例えば、配電自動化システムによる遠方の有人監視所からの指令によることも可能である。
算出されるωCは、図3に示すように実際に配電線に存在する対地静電容量ωC0に対し、本発明の装置によって零相回路に挿入されているリアクトルωLで相殺(補償)された値(ωC0−1/ωL)である。
【0018】
可変リアクトルの制御装置5は、配電系統における対地静電容量を目標の設定値ωCrへ補償するため、測定結果のωCに基づいて直流制御巻線21に通電する制御電流を算出し制御電流を調整して交流主巻線22のインダクタンスを制御する。
ここで、目標値のωCrは、配電系統の状況により異なるが、前述のように保安用のB種接地の接地抵抗の確保や、保護リレーの動作の確保等を考慮して設定され、例えば、地絡電流(充電電流)20アンペア程度となるように設定されている。
【0019】
図4は、本発明の装置に用いられる可変リアクトルの1例を示す図である。可変リアクトルは、田の字型の磁心11の中心軸磁心に交流主巻線12(図1の22)が図示のように交流主磁束14を発生するように巻装され、前記中心軸磁心を連結する周囲の磁心に直流制御巻線11(図1の21)が図示のように直流制御磁束15を発生するように巻装されている。
交流主磁束14と直流制御磁束15は一部の磁路を共有しているので、直流制御磁束を制御することによって、交流主磁束と直流制御磁束の共通磁路の一部が磁気飽和することにより当該磁路の磁気抵抗が変化し、交流主磁束が変化するので交流主巻線12のインダクタンスを連続的に可変することができる。
【0020】
図における直流制御巻線13の巻装は、田の字型磁心の側辺部に限られるものではなく、交流主巻線が巻装される中心軸磁心と交叉する他方の中心軸磁心に巻装することもできる。
補償用リアクトルを可変する手法として、リアクトルに対する交流通電電流の位相を制御するものもあるが、その場合、地絡電流の波形が歪むことになり、保護リレーの動作に影響を与えることになる。しかし、本発明におけるリアクトルは通電電流に歪みを生ずることはなく、保護装置の動作に影響はない。
なお、この可変リアクトルは本願出願人等が開発したものであり、詳細は特許第3789333号参照されたい。
【0021】
図5は、本発明における配電線の対地静電容量測定装置を説明する図である。図は、対地静電容量測定装置4のV01、V02取得部を説明する図であり、R1、R2は接地変圧器MTrのオープンデルタ回路に接続されるインピーダンス(制限抵抗)であり、対地静電容量測定の時にスイッチSがタイマー装置により閉じられる。
図5は、零相等価回路を示しており、Eは対地電圧で、V/√3(Vは線路電圧)、Cは三相一括の対地静電容量、C′は各相の対地静電容量のアンバランス分である。
スイッチSを開路しているときの残留零相電圧をV01、同閉じた時の電圧をV02とした場合、図示の式によってωCを算出できる。
この測定手法も出願人等が開発した手法であり、詳細は特許第1972688号を参照されたい。
【0022】
図1では、特に静電容量測定のために接地変圧器MTrを設けているが、可変リアクトル挿入用の接地変圧器GTrに3次巻線を設けて対応することもできる。
以上のように、本発明の配電線の対地静電容量補償装置は、公知の従来の装置に対して極めて簡単な構成であり、配電系統を運用するために必要な他の設備とは独立しており、変電所に設置して母線に接続するだけで直ちに運用可能なものである。それ故、設備の導入コストも低く、保守の負担が少なく、配電用変電所に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0023】
1…本発明の装置、2…可変リアクトル、3…タイマー装置、4…対地静電容量測定装置、5…可変リアクトルの制御装置、11…田の字型磁心、12…交流主巻線、13…直流制御巻線、14…交流主磁束、15…直流制御磁束、Tr…主変圧器、GTr,MTr…接地変圧器、CB…遮断器、LS…開閉器、CS…区分開閉器、C…対地静電容量、R1,R2…制限抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所母線に接続される接地変圧器と、該接地変圧器を介して電力系統の零相回路に挿入される可変リアクトルと、接地変圧器を介して取得した残留零相電圧に基づく配電線の対地静電容量測定装置と、該対地静電容量の測定タイミングを設定するタイマー装置と、前記対地静電容量測定装置の測定結果に基づいて前記可変リアクトルを制御する制御装置とを備え、前記可変リアクトルは直流制御巻線と交流主巻線を有し、前記制御装置による前記直流制御巻線の制御電流の調整によって、前記交流主巻線のインダクタンスを連続的に可変されることにより、リアルタイムの配電系統の配電線の対地静電容量値に基づいて前記可変リアクトルのインダクタンスを制御することを特徴とする配電線の対地静電容量補償装置。
【請求項2】
前記可変リアクトルは、田の字型磁心に交流主巻線、直流制御巻線がそれぞれ対称的に巻装されて構成される可変リアクトルであることを特徴とする請求項1に記載の配電線の対地静電容量補償装置。
【請求項3】
前記対地静電容量測定装置は、接地変圧器のオープンデルタ回路に接続するインピーダンスの切替えによって生じる残留零相電圧の変化により算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の配電線の対地静電容量補償装置。
【請求項4】
前記オープンデルタ回路は前記可変リアクトルを零相回路に挿入するための接地変圧器の三次巻線、又は、該接地変圧器とは独立した接地変圧器の巻線であることを特徴とする請求項3に記載の配電線の対地静電容量補償装置。
【請求項5】
前記タイマー装置は予め設定されたタイミング及び/又は所定の時間間隔で前記対地静電容量測定装置の測定タイミングを制御することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の配電線の対地静電容量補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−259620(P2011−259620A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132203(P2010−132203)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(391004920)東北電機製造株式会社 (7)
【Fターム(参考)】