説明

配電線転負荷可否判定システム

【課題】配電線のループ切替可否の事前検討および確認を確実かつ迅速に行うことができる配電線転負荷可否判定システムを提供する。
【解決手段】配電線転負荷可否判定システム10は、ループ対象変電所の上位系統の%Zの合計Σ%Z、%Zと潮流Pとの積算値の合計Σ(%Z・P)および基準変電所からループ対象変電所の1次母線においてのループアングルθを示す上位系統情報を制御所システム1から取得するとともに、ループ対象変電所に設置された変圧器の%Zとループ対象変電所以降の配電線のループ点まで%Zおよび負荷電流とを示す営業所情報を配電自動化システム2から取得し、取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時のループ電流I’を算出し、算出したループ電流I’に基づいて配電線のループ切替可否判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線の転負荷切替のために配電線ループ操作を行うのに好適な配電線転負荷可否判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力会社では、配電線の転負荷切替のために配電線ループ操作を行う場合には、制御所システムから伝送される系統情報に基づいて配電自動化システムにおいて同系統(110kV連系変電所が同じ)であることを確認した上で配電線ループ操作を行っている。このため、異系統の場合(110kV連系変電所が異なる場合)には、配電線ループ操作前に同系統にするよう依頼があり、ループ対象変電所の同系統操作行っている。
【0003】
ここで、制御所システムは、220kV〜66kV系統の上位系統から配電線送出し遮断器までの情報を管理している。また、配電自動化システムは、配電用変圧器一次側開閉器から変圧器・6.6kV母線までの情報および配電線遮断器以降の配電線設備を管理しているため、上位の系統状況の変化による判断ができない。ただし、最低限の情報として「系統名」のみ制御所システムとやり取りすることにより、同系統か異系統かを判断している。
すなわち、配電自動化システムで上位系統を判断しようとすると、500kV以下の関係する系統すべての情報を取り込む必要があるため、上述したように機能分散してシステムの負担を軽減している。
【0004】
なお、本出願人は、上位系統のループシステムとして、電力系統の同期状態予測システムを下記の特許文献1で開示している。
【0005】
また、下記の特許文献2には、2つのバンクに所属する配電線間でループ切替を行うに際して停電対象区間以遠の負荷側区間を無停電に保ってループ切替をするために、2つの配電線が端末において連系点の常開開閉器を介して連系されているとき、一方の配電用変電所に属する負荷の一部を、連系点開閉器を操作して他方の配電用変電所側に移行して、連系点開閉器両側の電圧差を縮小し、ループ切替時に発生する配電線遮断器の過電流の発生を防止するようにした配電線自動ループ切替装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−55705号公報
【特許文献2】特開平10−66261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、最近、配電設備の制約個所は各配電線の設備状況によって異なるため、配電線の系統ループにおいて上位系統が同系統か異系統かにかかわらずループアングルによってはループ電流が負荷電流に重畳されて、開閉器などを損傷する可能性がある個所もあることが明らかになってきた。
【0008】
従来の配電自動化システムでは、上位系統の状況(ループ対象変電所間のループアングルおよびループ電流)が分からないため、配電線のループ切替後の負荷電流などの検討しか行われておらず、常に上位系統が同系統であれば問題なしと判断して、配電線の系統ループ操作を行っている。
【0009】
また、配電自動化システムによる事故復旧時においても異系統である個所については、自動での送電をしないなどの制約があり、人間系での判断が必要となっている。
特に、複数台の火力発電機が連係されているような110kV系統では、電源線および連系線潮流が需要によって大きく変化するため、ループアングルが一定せず、事前の検討が難しい場合もある。
【0010】
上記の特許文献1で開示した電力系統の同期状態予測システムは、制御所システムにおけるループ電流計算に係るものであり、頻繁に切替を行っている配電自動化システムでは潮流計算が行われておらず、上位系統の切替においてループ電流の変化把握ができないため、ループ電流による配電設備への影響が考えられる。
【0011】
本発明の目的は、配電線のループ切替可否の事前検討および確認を確実かつ迅速に行うことができる配電線転負荷可否判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の配電線転負荷可否判定システムは、制御所システム(1)および配電自動化システム(2)と常時連係された配電線転負荷可否判定システム(10)であって、ループ対象変電所の上位系統のパーセントインピーダンス(%Z)の合計(Σ%Z)、パーセントインピーダンスと潮流(P)との積算値の合計(Σ(%Z・P))および基準変電所から前記ループ対象変電所の1次母線においてのループアングル(θ)を示す上位系統情報を前記制御所システムから取得するとともに、前記ループ対象変電所に設置された変圧器のパーセントインピーダンスと該ループ対象変電所以降の配電線のループ点までパーセントインピーダンスおよび負荷電流とを示す営業所情報を前記配電自動化システムから取得し、該取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時のループ電流(I’)を算出して、該算出したループ電流に基づいて配電線のループ切替可否判定を行うループ切替可否判定手段を具備することを特徴とする。
ここで、前記ループ点までの前記ループ対象変電所以降の配電線が複数の区間に分けられており、前記ループ切替可否判定手段が、前記上位系統情報を前記制御所システムから取得する第1の手段と、前記営業所情報を前記配電自動化システムから取得する第2の手段と、前記取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時の前記ループ電流を算出する第3の手段と、前記ループ対象変電所の各区間毎の負荷電流に前記算出されたループ電流を加えた各区間毎のループ中電流(I”)の大きさが許容電流以上にならないかを判定して、配電線のループ切替可否判定を行う第4の手段とを備えてもよい。
前記第2の手段が、前記ループ対象変電所に設置された変圧器のパーセントインピーダンスと前記各区間のパーセントインピーダンスおよび負荷電流とを示す営業所情報を前記配電自動化システムから取得してもよい。
前記第3の手段が、次式を用いて前記ループ潮流を前記ループ電流に換算してもよい。
ループ電流(A)=ループ潮流(MW)/{電圧(kV)×10-3×31/2×力率}
前記許容電流が、前記各区間毎の配電設備許容電流であってもよい。
前記配電設備許容電流が、前記各区間の配電線に設置された開閉器(31〜35)および前記各区間の配電線の許容電流であってもよい。
前記ループ切替可否判定手段が、前記第4の手段によってループ切替可と判定された場合には、前記算出されたループ電流およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報を前記配電自動化システムに送信する第5の手段をさらに備えてもよい。
前記第5の手段が、前記第4の手段によってループ切替否と判定された場合には、前記算出されたループ電流およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報と、対策を制御所に依頼するように指示する対策依頼指示信号とを前記配電自動化システムに送信してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の配電線転負荷可否判定システムは、以下の効果を奏する。
(1)上位系統情報および営業所情報に基づいて算出した配電線のループ切替時のループ電流に基づいて配電線のループ切替可否判定を行うことにより、配電線のループ切替可否の事前検討および確認を確実かつ迅速に行うことができる。
(2)配電線のループ切替を迅速に行えるため、電力の安定供給を図ることができる。
(3)配電線のループ切替を適格に行えるため、配電設備の損壊を防止できる。
(4)配電線のループ切替可否の事前検討および確認を確実かつ迅速に行えるため、手続の簡素化および業務効率の向上(同系統操作回数の低減)を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例による配電線転負荷可否判定システム10と制御所システム1と配電自動化システム2との接続関係を示す図である。
【図2】図1に示した配電線転負荷可否判定システム10の動作について説明するための電力系統図である。
【図3】図2に示したA変電所とB変電所との間の6.6kV配電線のループ切替を行う際の事前検討時の図1に示した配電線転負荷可否判定システム10の動作について説明するためのフローチャートである。
【図4】図2に示したA変電所とB変電所との間の6.6kV配電線のループ切替を行う際の事前検討時の図1に示した配電線転負荷可否判定システム10の動作について説明するための第1乃至第6区間のパーセントインピーダンスおよび負荷電流などの一例を示す図である。
【図5】図4に示した例において配電線転負荷可否判定システム10によって算出されるループ電流I’および各区間毎のループ中電流I”などを示す図である。
【図6】図2に示したA変電所とB変電所との間の6.6kV配電線のループ切替を行う際の事前検討時の図1に示した配電線転負荷可否判定システム10の動作について説明するための第1乃至第6区間のパーセントインピーダンスおよび負荷電流などの他の例を示す図である。
【図7】図6に示した例において配電線転負荷可否判定システム10によって算出されるループ電流I’および各区間毎のループ中電流I”などを示す図である。
【図8】ループ切替実施日における再度検討時(確認時)の配電線転負荷可否判定システム10の動作について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の目的を、制御所システムおよび配電自動化システムと常時連係された配電線転負荷可否判定システムが、ループ対象変電所の上位系統のパーセントインピーダンスの合計、パーセントインピーダンスと潮流との積算値の合計および基準変電所からループ対象変電所の1次母線においてのループアングルを示す上位系統情報を制御所システムから取得するとともに、ループ対象変電所に設置された変圧器のパーセントインピーダンスとループ対象変電所以降の配電線のループ点までパーセントインピーダンスおよび負荷電流とを示す営業所情報を配電自動化システムから取得し、取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時のループ電流を算出し、算出したループ電流に基づいて配電線のループ切替可否判定を行うことにより実現した。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の配電線転負荷可否判定システムの実施例について図面を参照して説明する。
本発明の一実施例による配電線転負荷可否判定システム10は、図1に示すように、制御所システム1および配電自動化システム2と通信回線を介して相互に接続されている。
ここで、制御所システム1は、制御所に設置されており、通信網を介して各変電所との間で各種のデータの送受信が可能なものである。また、制御所システム1は、上位系統の潮流および基準変電所から各変電所の1次母線においてのループアングルなどを常時算出している。さらに、制御所システム1は、予め定めた基準変電所を示す基準変電所データ、算出した潮流を示す潮流データおよび算出したループアングルを示すループアングルデータなどを格納するための制御所システム・データベース(不図示)を備える。
配電自動化システム2は、営業所に設置されており、最新の各変電所の設備データや、最新の各配電線の各区間のパーセントインピーダンス(以下、「%Z」と称する。)および負荷電流を示す営業所情報などが格納された配電自動化システム・データベース(不図示)を備える。
【0017】
配電線転負荷可否判定システム10は、制御所システム1および配電自動化システム2と常時連係されており、予め指定するループ対象変電所の上位系統のΣ%Z(%Zの合計)、Σ(%Z・P)(%Zと潮流P(潮流値)との積算値の合計)および基準変電所からループ対象変電所の1次母線においてのループアングルθを示す上位系統情報を制御所システム1から取得するとともに、ループ対象変電所に設置された変圧器の%Zとループ対象変電所以降の配電線のループ点までの各区間の%Zおよび負荷電流とを示す営業所情報を配電自動化システム2から取得して、取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時のループ電流I’を算出し、配電線の各区間毎の負荷電流に算出したループ電流I’を加えたループ中電流I”の大きさが各区間毎の配電設備許容電流以上にならないかを判定することにより、配電線のループ切替可否の事前検討および確認が確実かつ迅速に行えるようにすることを特徴とする。
【0018】
なお、制御所システム1が扱う上位系統(送電線系統)では、潮流Pの単位はMW(メガワット)とされるが、配電線での取扱いは、配電設備(たとえば、高圧配電線、開閉器や電圧調整装置)などの許容電流(単位は、A(アンペア))で管理しているため、制御所システム1で扱っているループ潮流P’(有効電力量)を次の(1)式を用いてループ電流I’(単位は、A)に換算する。
ループ電流I’(A)=ループ潮流P’(MW)/{電圧V(kV)×10-3×31/2×力率(=0.95%)} (1)
ここで、ループ潮流P’は、次の(2)式により表わされる。
ループ潮流P’(MW)=Σ(%Z・P)/Σ%Z (2)
【0019】
ループアングルθ(単位は、°(度))は、次の(3)式により算出する。
ループアングルθ(°)=Σ(%Z・P)/定数(=17.45) (3)
ここで、定数(=17.45)は、角度のラジアンを度に換算する指数であり、π/180≒0.01745から、インピーダンスZはパーセント法(すなわち、%Z)で用いているため、0.01745×103=17.45として電圧単位補正する。
【0020】
次に、図2に示すようにI変電所から電力供給を受けているA変電所とD変電所から電力供給を受けているB変電所との間の6.6kV配電線のループ切替を行う際の事前検討時の配電線転負荷可否判定システム10の動作について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0021】
なお、以下の説明では、ループ点に設置されている開閉器を第1の開閉器31(許容電流=200Aの共用型自動気中開閉器(AS))とし、ループ点とA変電所との間のループ点側に設置されている開閉器を第2の開閉器32(許容電流=200Aの共用型自動気中開閉器)とし、ループ点とA変電所との間のA変電所側に設置されている開閉器を第3の開閉器33(許容電流=400Aの共用型自動気中開閉器)とし、ループ点とB変電所との間のループ点側に設置されている開閉器を第4の開閉器34(許容電流=200Aの共用型自動気中開閉器)とし、ループ点とB変電所との間のB変電所側に設置されている開閉器を第5の開閉器35(許容電流=400Aの共用型自動気中開閉器)とする。
【0022】
また、第1の開閉器31と第2の開閉器32との間を第1区間とし、第2の開閉器32と第3の開閉器33との間を第2区間とし、第3の開閉器33とA変電所との間を第3区間とし、B変電所と第5の開閉器35との間を第4区間とし、第5の開閉器35と第4の開閉器34との間を第5区間とし、第4の開閉器34と第1の開閉器31との間を第6区間とする。
【0023】
さらに、第1および第6区間の6.6kV配電線は許容電流=125Aの屋外用アルミ導体架橋ポリエチレン電線(ACSR−OC25mm2)からなり、第2および第5区間の6.6kV配電線は許容電流=205Aの屋外用アルミ導体架橋ポリエチレン電線(ACSR−OC58mm2)からなり、第3および第4区間の6.6kV配電線は許容電流=455Aの屋外用アルミ導体架橋ポリエチレン電線(ACSR−OC200mm2)からなるものとする。
【0024】
A変電所とB変電所との間の6.6kV配電線のループ切替の事前検討を行う際には、まず、営業所の担当者は、ループ点を指定するために、ループ点に設置された第1の開閉器31を示すループ点指定データを配電自動化システム2に入力する。
配電自動化システム2は、入力されたループ点指定データ(第1の開閉器31)に基づいて配電自動化システム・データベースを検索し、ループ切替の対象となるループ対象変電所としてA変電所およびB変電所を選択する(ステップS11)。その後、配電自動化システム2は、選択したA変電所およびB変電所を示すループ対象変電所データを制御所システム1および配電線転負荷可否判定システム10に送信する。
また、配電自動化システム2は、選択したA変電所およびB変電所以降の6.6kV配電線のループ点までの営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)を配電自動化システム・データベースから取得する。
【0025】
制御所システム1は、配電自動化システム2からループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)を受信すると、ループ対象変電所データに基づいて制御所システム・データベースを検索し、A変電所とB変電所との間の潮流データを取得し、取得した潮流データに基づいて公知の算出手法(たとえば、上記の特許文献1に記載されている算出手法)を用いてA変電所およびB変電所の上位系統のΣ%ZおよびΣ(%Z・P)を算出する(ステップS12)。
また、制御所システム1は、ループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)に基づいて制御所システム・データベースを検索し、A変電所とB変電所との間の母線においてのループアングルθを取得する。
その後、制御所システム1は、算出した上位系統のΣ%ZおよびΣ(%Z・P)と取得したループアングルθとを示す上位系統情報を配電線転負荷可否判定システム10に送信する。
【0026】
配電線転負荷可否判定システム10は、配電自動化システム2からループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)を受信するとともに制御所システム1から上位系統情報を受信すると、A変電所およびB変電所以降の6.6kV配電線のループ点までの営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)を送信するよう配電自動化システム2に要求する(ステップS13)。
【0027】
続いて、配電線転負荷可否判定システム10は、制御所システム1から受信した上位系統情報(Σ%Z、Σ(%Z・P)およびループアングルθ)と配電自動化システム2から受信した営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)とに基づいてループ電流I’を算出する(ステップS14)。
【0028】
続いて、配電線転負荷可否判定システム10は、ループ対象配電線(第1乃至第6区間の配電線)の負荷電流に算出したループ電流I’を加えた各区間毎のループ中電流I”の大きさと許容電流(第1乃至第5の開閉器31〜35および第1乃至第6区間の配電線の許容電流)とを比較して、各区間毎のループ中電流I”が許容電流よりも小さければループ切替可と判定し、一方、各区間毎のループ中電流I”が許容電流以上であればループ切替否と判定する(ステップS15)。
【0029】
たとえば、上位系統のΣ%Z=2.310およびΣ(%Z・P)=31.90であり、ループアングルθ=1.82°であり、図4に示すようにA変電所の変圧器の%Z=7.1、B変電所の変圧器の%Z=7.55であり、第1区間の%Z=0.319および負荷電流=0A、第2区間の%Z=21.080および負荷電流=40A、第3区間の%Z=5.054および負荷電流=50A、第4区間の%Z=21.67および負荷電流=80A、第5区間の%Z=2.74および負荷電流=30A、第6区間の%Z=23.56および負荷電流=10Aである場合には、図5(a),(b)に示すように配電線転負荷可否判定システム10によって算出されるループ電流I’の大きさは69A(=0.75MW/(6.6kV×10-3×31/2×0.95))になるとともにループ電流I’の向きはA変電所からB変電所に流れる向きになる(図5(b)のループアングルθ=3.90°(=68.45/17.45)、ループ潮流P’=0.75MW(=68.45/91.383)およびループ潮流P’の向き=A変電所→B変電所を参照)結果、ループ切替後の各区間毎のループ中電流I”(第1乃至第6区間の配電線電流および第1乃至第5の開閉器31〜35の開閉器電流)は図5(b)の計算結果に示すようにすべて許容電流(第1乃至第5の開閉器31〜35および第1乃至第6区間の配電線の各許容電流)よりも小さくなるため、配電線転負荷可否判定システム10はループ切替可と判定する。
一方、図6に示すように第2区間の負荷電流=200A、第3区間の負荷電流=236A、第4区間の負荷電流=210A、第5区間の負荷電流=109A、第6区間の負荷電流=51Aである以外は図4に示したものと同じである場合には、図7(a),(b)に示すように配電線転負荷可否判定システム10によって算出されるループ電流I’の大きさは65A(=0.71MW/(6.6kV×10-3×31/2×0.95))になるとともにループ電流I’の向きはA変電所からB変電所に流れる向きになる(図7(b)のループアングルθ=3.71°(=65.09/17.45)、ループ潮流P’=0.71MW(=65.09/91.383)およびループ潮流P’の向き=A変電所→B変電所を参照)結果、ループ切替後の第2区間の配電線電流(=第2区間の負荷電流+ループ電流I’)は265A(=200A+65A)になり(図7(b)の計算結果参照)、第2区間の配電線許容電流=205Aより第2区間の配電線電流=265Aの方が大きくなるため、配電線転負荷可否判定システム10はループ切替否と判定する。
【0030】
配電線転負荷可否判定システム10は、ループ切替可と判定した場合には、ループ電流I’およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報を配電自動化システム2に送信する。これにより、配電自動化システム2の表示装置にループ電流I’およびループ切替可を示す判定結果が表示されるため、営業所の担当者は、系統操作手順を作成する(ステップS16)。
一方、配電線転負荷可否判定システム10は、ループ切替否と判定した場合には、ループ電流I’およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報と対策を制御所に依頼するように指示する対策依頼指示信号とを配電自動化システム2に送信する(ステップS18)。これにより、配電自動化システム2の表示装置にループ電流I’およびループ切替否を示す判定結果と対策を制御所に依頼するように指示する依頼指示とが表示されるため、営業所の担当者は、対策を制御所に依頼したのち、その結果に基づいて系統操作手順を作成する(ステップS16)。
【0031】
なお、ループ切替実施日には、営業所の担当者は、次に説明するように配電線転負荷可否判定システム10を用いて再度検討したのちに、配電自動化システム2を用いてループ切替を実施する(ステップS17)。
【0032】
次に、ループ切替実施日における再度検討時(確認時)の配電線転負荷可否判定システム10の動作について、図8に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、営業所の担当者は、ループ点を指定するために、ループ点に設置された第1の開閉器31を示すループ点指定データを配電自動化システム2に入力する。
配電自動化システム2は、入力されたループ点指定データ(第1の開閉器31)に基づいて配電自動化システム・データベースを検索し、ループ切替の対象となるループ対象変電所としてA変電所およびB変電所を選択する(ステップS21)。その後、配電自動化システム2は、選択したA変電所およびB変電所を示すループ対象変電所データを制御所システム1および配電線転負荷可否判定システム10に送信する。
また、配電自動化システム2は、選択したA変電所およびB変電所以降の6.6kV配電線のループ点までの営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)を配電自動化システム・データベースから取得する。
【0033】
制御所システム1は、配電自動化システム2からループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)を受信すると、ループ対象変電所データに基づいて制御所システム・データベースを検索し、A変電所とB変電所との間の潮流データを取得し、取得した潮流データに基づいて公知の算出手法を用いてA変電所およびB変電所の上位系統のΣ%ZおよびΣ(%Z・P)を算出する(ステップS22)。
また、制御所システム1は、ループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)に基づいて制御所システム・データベースを検索し、A変電所とB変電所との間の母線においてのループアングルθを取得する。
その後、制御所システム1は、算出した上位系統のΣ%ZおよびΣ(%Z・P)と取得したループアングルθとを示す上位系統情報を配電線転負荷可否判定システム10に送信する。
【0034】
配電線転負荷可否判定システム10は、配電自動化システム2からループ対象変電所データ(A変電所およびB変電所)を受信するとともに制御所システム1から上位系統情報を受信すると、A変電所およびB変電所以降の6.6kV配電線のループ点までの営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)を送信するよう配電自動化システム2に要求する(ステップS23)。
【0035】
続いて、配電線転負荷可否判定システム10は、制御所システム1から受信した上位系統情報(Σ%Z、Σ(%Z・P)およびループアングルθ)と配電自動化システム2から受信した営業所情報(A変電所およびB変電所の変圧器の%Zと第1乃至第6区間の%Zおよび負荷電流)とに基づいてループ電流I’を算出する(ステップS24)。
【0036】
続いて、配電線転負荷可否判定システム10は、ループ対象配電線(第1乃至第6区間の配電線)の負荷電流に算出したループ電流I’を加えた各区間毎のループ中電流I”の大きさと許容電流(第1乃至第5の開閉器31〜35および第1乃至第6区間の配電線の許容電流)とを比較して、各区間毎のループ中電流I”が許容電流よりも小さければループ切替可と判定し、一方、各区間毎のループ中電流I”が許容電流以上であればループ切替否と判定する(ステップS25)。
【0037】
配電線転負荷可否判定システム10は、ループ切替可と判定した場合には、ループ電流I’およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報を配電自動化システム2に送信する。これにより、配電自動化システム2の表示装置にループ電流I’およびループ切替可を示す判定結果が表示されるため、営業所の担当者は、上述した事前検討時に作成した系統操作手順を実行し(ステップS26)、配電自動化システム2を用いてループ切替を実施する(ステップS27)。
一方、配電線転負荷可否判定システム10は、ループ切替否と判定した場合には、ループ電流I’およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報と、対策を制御所に依頼するように指示する対策依頼指示信号とを配電自動化システム2に送信する。これにより、配電自動化システム2の表示装置にループ電流I’およびループ切替否を示す判定結果と対策を制御所に依頼するように指示する依頼指示とが表示されるため、営業所の担当者は、対策を制御所に依頼する。その結果、制御所では、系統確認を行い(ステップS28)、系統対応および対策を実施したのち(ステップS29)、系統対応および対策を実施した旨を営業所の担当者に通知する。
【0038】
営業所の担当者は、この通知を受け取ると、上述した事前検討時に作成した系統操作手順を実行し(ステップS26)、配電自動化システム2を用いてループ切替を実施する(ステップS27)。
【0039】
以上の説明では、A変電所とB変電所との間の配電線を第1乃至第6区間の6つの区間に分けたが、ループ電流I’の計算精度を上げるためには、実系統の負荷の割合に応じてなるべく多くの区間に分けた方がよい。
また、A変電所とB変電所との間の配電線を必ずしも複数の区間に分ける必要はない。
【0040】
配電線転負荷可否判定システム10を配電線のループ切替時に用いたが、事故時などにおいても制御所システム1と配電自動化システム2とを同期させておけば、異系統個所においても配電線のループ切替時と同様にループ電流I’上のネックがない限り送電可能になるため、配電線転負荷可否判定システム10を活用することにより、早期送電および早期復旧が期待できる。
【符号の説明】
【0041】
1 制御所システム
2 配電自動化システム
10 配電線転負荷可否判定システム
31〜35 第1乃至第5の開閉器
P 潮流
P’ ループ潮流
θ ループアングル
Z インピーダンス
I 負荷電流
I’ ループ電流
I” ループ中電流
V 電圧
S11〜S18,S21〜S29 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御所システム(1)および配電自動化システム(2)と常時連係された配電線転負荷可否判定システム(10)であって、
ループ対象変電所の上位系統のパーセントインピーダンス(%Z)の合計(Σ%Z)、パーセントインピーダンスと潮流(P)との積算値の合計(Σ(%Z・P))および基準変電所から前記ループ対象変電所の1次母線においてのループアングル(θ)を示す上位系統情報を前記制御所システムから取得するとともに、前記ループ対象変電所に設置された変圧器のパーセントインピーダンスと該ループ対象変電所以降の配電線のループ点までパーセントインピーダンスおよび負荷電流とを示す営業所情報を前記配電自動化システムから取得し、該取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時のループ電流(I’)を算出して、該算出したループ電流に基づいて配電線のループ切替可否判定を行うループ切替可否判定手段を具備する、
ことを特徴とする、配電線転負荷可否判定システム。
【請求項2】
前記ループ点までの前記ループ対象変電所以降の配電線が複数の区間に分けられており、
前記ループ切替可否判定手段が、
前記上位系統情報を前記制御所システムから取得する第1の手段と、
前記営業所情報を前記配電自動化システムから取得する第2の手段と、
前記取得した上位系統情報および営業所情報に基づいて配電線のループ切替時の前記ループ電流を算出する第3の手段と、
前記ループ対象変電所の各区間毎の負荷電流に前記算出されたループ電流を加えた各区間毎のループ中電流(I”)の大きさが許容電流以上にならないかを判定して、配電線のループ切替可否判定を行う第4の手段と、
を備えることを特徴とする、請求項1記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項3】
前記第2の手段が、前記ループ対象変電所に設置された変圧器のパーセントインピーダンスと前記各区間のパーセントインピーダンスおよび負荷電流とを示す営業所情報を前記配電自動化システムから取得することを特徴とする、請求項2記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項4】
前記第3の手段が、次式を用いて前記ループ潮流を前記ループ電流に換算する、
ループ電流(A)=ループ潮流(MW)/{電圧(kV)×10-3×31/2×力率}
ことを特徴とする、請求項2または3記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項5】
前記許容電流が、前記各区間毎の配電設備許容電流であることを特徴とする、請求項2または4記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項6】
前記配電設備許容電流が、前記各区間の配電線に設置された開閉器(31〜35)および前記各区間の配電線の許容電流であることを特徴とする、請求項3または4記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項7】
前記ループ切替可否判定手段が、前記第4の手段によってループ切替可と判定された場合には、前記算出されたループ電流およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報を前記配電自動化システムに送信する第5の手段をさらに備えることを特徴とする、請求項2乃至6いずれかに記載の配電線転負荷可否判定システム。
【請求項8】
前記第5の手段が、前記第4の手段によってループ切替否と判定された場合には、前記算出されたループ電流およびループ切替可否判定結果を示すループ切替判定情報と、対策を制御所に依頼するように指示する対策依頼指示信号とを前記配電自動化システムに送信することを特徴とする、請求項7記載の配電線転負荷可否判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−90386(P2012−90386A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233280(P2010−233280)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】