説明

酒種入りパン類

【課題】
食感・風味・保存性に優れた酒種入りパンを提供する。
【解決手段】
黒麹を含む麹を用いた酒種を配合したことを特徴とするパン類

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れ、きめ細かく弾力性に富んだ酒種入りパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にパン類の製造には、生イーストやドライイーストなどのパン酵母が用いられる。パン酵母は、発酵するとパン生地中の糖を分解して炭酸ガスとアルコールを生じ、この炭酸ガスによってパン生地をふくらませる。一方、日本特有の製造方法として、このパン酵母の代わりに清酒酵母(黄麹)を利用したものがある。すなわち、米麹と米の混合物に清酒酵母を添加して発酵させたもの(酒種)を配合したパンの製造方法で、酒種特有の豊かな風味を特徴とする。しかし、天然発酵種を利用することから酒種の発酵状態が不安定で、成形時にパン生地がだれやすく、保存性が悪いなどの欠点がある。
酒種や麹菌を用いたパンの製造方法としては、従来の黄麹を用いた製造方法に加え、小麦粉加工物を培地として製麹した紅麹を配合したもの(特許文献1)、麦麹などを添加したパン用酒種の製造方法(特許文献2)などが知られている。
【特許文献1】特許第2729667号公報
【特許文献2】特許2534870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
黒麹を用いた酒種をパン生地に配合することにより、生地だれせず、きめが細かく弾力性に富み、保存性にも優れ、風味や旨味の豊かなパン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)黒麹を含む麹を用いた酒種を配合したことを特徴とするパン類。
(2)酒種を30〜50%配合した(1)記載のパン類。
(3)パン類が具入りパンであることを特徴とする(1)又は(2)記載のパン類。
(4)具が餡であることを特徴とする(3)記載のパン類。
(5)酒種用麹として黄麹、白麹の一方又は両方を配合したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のパン類。
(6)少なくとも黒麹を用いて酒種を仕込、該酒種を用いてパン原料を混練り、熟成してパン生地を作成し、該パン生地を個分けし、そのままあるいは包餡などの個別成形を施し、さらに熟成した後焼成してパン類を製造する方法。
【発明の効果】
【0005】
作用効果は次のとおりである。
(1)黒麹を用いることにより、保存性に優れ、酒種独特の風味や旨味が非常に豊かなパンが得られる。
(2)酒種を高配合しても生地だれせず、きめが細かく弾力性に富み、食感や外観に優れた酒種入りパンが得られる。
(3)黒麹が生成するクエン酸により酒種の品質安定性が向上し、雑菌汚染の危険が軽減し、安定度の高いもろみが製造できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本願発明に配合される黒麹は、Aspergillus awamori やAspergillus saitoiなど、特に限定されるものではなく、さまざまな黒麹を用いることができる。酒種にはこれらの黒麹を1〜15%配合することが好ましい。
【0007】
本願発明には、Aspergillus oryzaeやAspergilus sojaeなどの黄麹やAspergillus kawaciiなどの白麹、あるいは培養した酵母菌から得られる酵母液も、黒麹に加えて用いることができる。これらの麹のうち1種類または2種類以上を15%を上限として配合することができる。
【0008】
本願発明において、黒麹を使用した酒種は、パン生地粉に30〜50%添加することが好ましい。黄麹を使用した従来の酒種とは異なり、30%以上添加しても生地がだれることなく、きめの細かいしっかりした弾力性のあるパン生地に仕上がるとともに、50%を上限に配合することにより、酒種の風味や旨味が増した、おいしい酒種入りパンとなる。
黒麹が多いと酸味の強いパンに仕上げることができる。
【0009】
本願発明のパン類としては、酒種入りパンの元祖である「あんぱん」を始めとし、フランスパン(フィセル・バタールなど)、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パンなど)、食パン(イギリスパン)、リッチパン(バターロール、デニッシュ)、イタリアパン(フォカッチャ・パネトーネ)、ベルギーパン(ワッフル)、中近東パン(ナン・ピタパン)などのパン、あるいは豚まんなどの中華饅頭や酒饅頭、ピザなどが挙げられる。また本願発明は、これらのパン類に限られることなく、パン酵母などを用いたあらゆる食品に応用することが可能である。あんぱんなどの具は、小豆餡に限らずジャムやクリームなど多様な材料を用いることができる。菓子パンの生地としても有効である。
従来、酒種に使用する麹は黄麹のみであったが、黒麹を混合する事により明らかに酒種の風味が増強し、旨味も増す事が確認された。パン生地の粉に対して酒種を30%以上添加すると、生地がだれやすくなり、焼成後、気泡が荒くなる傾向にあったが、黒麹を混合する事により40%添加でも、目の細かいしっかりしたパン生地に仕上がった。
また、黒麹が生成するクエン酸により酒種の品質安定性が向上し、雑菌汚染の心配が軽減され、より安定度の高いもろみの製造が可能になった。
従来のものより各種アミノ酸、ミネラル、有機酸の含有量が高く、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル分も豊富であり、クエン酸は特に多く含まれている。
本発明のパンに含まれる成分的特徴により、健康にも効果がある。例えば、クエン酸は、体液の弱アルカリ化作用により、新陳代謝を活発化し、血液改善及び肉体疲労やストレスなどで出来る体内の乳酸を減少させる働きが期待できる。
また、カルシウム・マグネシウム・鉄分などのミネラルの補給を助け、動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中の抑制などにも効果が期待できる。必須アミノ酸や、ビタミンB群などの栄養素も従来のパンよりも多く含まれている。
【実施例1】
【0010】
<実施例1>黒麹を用いた酒種入りあんぱん
小豆を用いて常法により小倉あんを準備する。
米1000gを蒸し、乾燥黒麹650g、水2500ml、酵母液200mlを加え混ぜ、13〜20℃で6日間静置し、約4000gの酒種を作成した。この酒種とパン原料とを用いてパン生地を作成し、包餡し、焼成してあんぱんを作成した。パンの配合は、小麦粉を100として、砂糖25、水15、卵20、塩0.9、脱脂粉乳3、マーガリン8.6、ドライイースト少々とした。酒種とパン原料の一部をまず最初に混合撹拌し、さらに残りの原料を混合撹拌してよく捏ねあわせたのち、個分け、包餡し、加飾などを施して焼成して黒麹酒種入りあんぱんを得た。製造工程は実施例2に準ずるものである。
【0011】
〈比較例1〉黄麹を用いた酒種入りあんぱん
実施例1と同様に小倉あんを準備した。
黒麹に代えて乾燥黄麹とした他は、実施例1と同様にして黄麹酒種入りあんぱんを得た。
【0012】
〈比較例2〉ドライイーストを用いたあんぱん
ドライイーストを用いたあんぱんは、市販品を使用した。
【0013】
〈官能評価〉
10名のモニターに、実施例1及び比較例1、比較例2の形状、香り・風味について、1(最低点)〜5(最高点)までの5段階で評価してもらった集計結果を表1に示す。実施例1は、生地内部のきめの細かさや弾力性に優れ、香りや酒種独特の風味が豊かで、しっとりとして舌触りがよく、ほとんどすべての項目について比較例1、比較例2に比べ高い評価を得た。
【0014】
【表1】

【0015】
〈旨味評価〉
実施例1及び比較例1について、アミノ酸等の分析試験を行った結果を表2に示す。分析の結果、実施例1は比較例1に比べてアミノ酸・ミネラル分が多く、旨味成分の多いことが明らかとなった。クエン酸・リンゴ酸も含有量が多い。
【0016】
【表2】

【0017】
〈保存性評価〉
実施例1及び比較例2について、製造直後から30日間の間、5日おきに細菌検査を行った。細菌検査は、一般細菌とカビについて一般的な評価法を用いて実施した。評価結果を表3に示す。比較例2が製造5日後から細菌・カビともに増加しているのに対し、実施例は製造30日後においても細菌・カビが増加せず、保存性に著しく優れていることが明らかとなった。
【0018】
【表3】

【0019】
官能評価、旨味評価及び保存性評価の結果より、酒種入りパンに黒麹を用いることにより、生地内部のきめの細かさや弾力性、食感や風味に優れ、保存性にも非常に優れたパンが得られることが示された。
【実施例2】
【0020】
黒麹酒種入りパンの製造工程例を示す。使用する原材料の例を表4に製造工程を図1に示す。時間や配合は、これに限定されるものではなく、バリエーションがあることはいうまでもない。
酒種の原材料は、米、黒麹を含む麹、水、酵母液を用いる。米は、蒸して蒸し米とする。麹は、酒種全体の5〜20%程度用いることができる。黒麹に黄麹などを併用することができる。黄麹を併用する場合は、乳酸を少々添加すると良い。本実施例では、黒麹のみ6.5kgを用いた。乳酸は使用していない。
酒種の製造は、麹を水に溶き蒸し米、酵母液を加えて混合し、13〜20℃で6日間程度寝かせて黒麹入り酒種を製造する。製造過程で水分等が蒸散し、酒種の仕上がりは約40kgになる。
パンの仕込工程は、中種製造しその後本捏仕込、個分け焼成してパンを完成させる。
製造した黒麹入り酒種とマーガリンを除く中種原料を混合して、20分から30分間ミキシングする。10分程度経過した時点でマーガリンを添加する。ミキシング程度は低速から始めてその後やや回転数を上げる。マーガリンを添加時には回転数を下げるなど、撹拌調整する。本実施例では、イーストを少々配合したが、これは発酵を促進する作用がある。
撹拌終了後、70〜80%の湿度、30℃で30分間程度フロアタイムをとり、生地全体を落ち着かせて馴染ませる。
その後、パンの1個分の分量に個分けする。本実施例では38g程度とした。
個分け後25〜28℃の室温で10〜15分間ベンチタイムをとる。
その後、別途製造した小豆あんなどの具材を包餡する。本実施例では、小豆あん33gを用いた。
包餡後、80%の湿度、37℃で1時間ホイロする。これによって、発酵しパン生地が膨らんでくる。
その後、黄味やごまなどのトッピングを施して、200℃で10分間焼成して、あんぱんを完成した。
【0021】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施例2の黒麹酒種入りパンの製造工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒麹を含む麹を用いた酒種を配合したことを特徴とするパン類。
【請求項2】
酒種を30〜50%配合した請求項1記載のパン類。
【請求項3】
パン類が具入りパンであることを特徴とする請求項1又は2記載のパン類。
【請求項4】
具が餡であることを特徴とする請求項3記載のパン類。
【請求項5】
酒種用麹として黄麹、白麹の一方又は両方を配合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパン類。
【請求項6】
少なくとも黒麹を用いて酒種を仕込、該酒種を用いてパン原料を混練り、熟成してパン生地を作成し、該パン生地を個分けし、そのままあるいは包餡などの個別成形を施し、さらに熟成した後焼成してパン類を製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生きている黒麹を含む麹を用いた酒種を配合したことを特徴とするパン類。
【請求項2】
酒種を30〜50%配合した請求項1記載のパン類。
【請求項3】
パン類が具入りパンであることを特徴とする請求項1又は2記載のパン類。
【請求項4】
具が餡であることを特徴とする請求項3記載のパン類。
【請求項5】
酒種用麹として黄麹、白麹の一方又は両方を配合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパン類。
【請求項6】
少なくとも生きている黒麹を用いて酒種を仕込、該酒種を用いてパン原料を混練り、熟成してパン生地を作成し、該パン生地を個分けし、そのままあるいは包餡などの個別成形を施し、さらに熟成した後焼成してパン類を製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−42679(P2006−42679A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228185(P2004−228185)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【特許番号】特許第3701959号(P3701959)
【特許公報発行日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(596116710)株式会社斎藤商事 (4)
【Fターム(参考)】