説明

酒類の分析方法

【課題】酒類又は酒類半製品に含まれる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の簡便かつ高精度な定量方法を提供すること。
【解決手段】工程1:酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合後、生じた不溶性物質を除去して上清を調製する工程、工程2:工程1で得られた上清に、さらにプロトン性有機溶媒を加えた後、内部標準物質を添加してガスクロマトグラフ(GC)装置導入用試料を調製する工程、工程3:工程2で得られた導入用試料を水素炎イオン化検出器を有するGC装置に導入して分析を行う工程、ならびに工程4:工程3で得られた分析結果より、中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量を算出する工程、を含む酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種を定量する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類の分析方法に関する。さらに詳しくは、酒類に含まれる中鎖脂肪酸であるヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、及びそれらのエチルエステル体の同時定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒は米及び米こうじを原料とした醸造酒であり、日本国の長い歴史の中で醸造方法が確立されてきた。清酒の中でも、低温環境下における並行複発酵により製造される吟醸酒は高度な醸造技術を駆使しており、吟醸香と呼ばれる果物様の華やかな香りを特徴としている。
【0003】
吟醸香の主成分は発酵中に酵母が生産するヘキサン酸エチルなどのエステル類である。ヘキサン酸エチルを高産生する酵母は、その前駆体であるヘキサン酸を含む中鎖脂肪酸を高度に産生する酵母の突然変異により得られたヘキサン酸エチル高産生酵母であり、近年においては吟醸酒醸造に汎用されている。しかしながら、清酒もろみの変調などの理由により、酒類中に残存する中鎖脂肪酸や、ヘキサン酸エチルの劣化(加水分解)によって生じるヘキサン酸などの中鎖脂肪酸は、油様の香りをもたらすため市販清酒の香味を損ねることで問題となっている。
【0004】
脂肪酸分析の必要性は清酒に限ることではない。例えば、本格焼酎の一種として粕取り焼酎がある。粕取り焼酎とは、清酒を製造した際に副次的に生産される清酒粕そのもの、あるいは清酒粕を元に発酵させたものを用いて蒸留したものである。この原料となる清酒粕に中鎖脂肪酸が高濃度で含まれていると、蒸留操作によりエステル類とともに中鎖脂肪酸が留液に移行して製品の香味が損なわれるために、中鎖脂肪酸濃度を分析しておくことが望ましい。
【0005】
ビール醸造においては、ビール酵母の生産する中鎖脂肪酸が、ビールの味・発酵・泡持ちに負の効果をもたらすことが報告されており、ビール醸造工程の工程管理や新規単離酵母の特性評価のために迅速かつ精確に中鎖脂肪酸を測定し、醸造をコントロールできるようにすることが望ましい。同様に、ワイン醸造においても中鎖脂肪酸が発酵中に一定濃度以上存在することは好ましくないとされることから、醸造工程の管理のためにも中鎖脂肪酸の測定が必要と考えられている。
【0006】
飲食品の中でも特に酒類に含まれる中鎖脂肪酸分析に関する報告はこれまでに多数有り、以下に挙げるような様々な方法による試みがなされている。
〔1〕酒類または酵母などの中鎖脂肪酸を含む化合物を有機溶媒で抽出後に、トリメチルシリルジアゾメタン又は3フッ化ホウ素/メタノールにより脂肪酸のカルボキシル基をメチルエステル化することで、ガスクロマトグラフ(GC)に供する方法(特許文献1参照)。
〔2〕清酒の中鎖脂肪酸を多孔性高分子充填剤に吸着させ、その後非プロトン性有機溶媒で抽出し、脱水後それを窒素気流下で濃縮した後にGC−FIDに供する方法(非特許文献1参照)。
〔3〕清酒の中鎖脂肪酸をジクロロメタンやジエチルエーテル/ノルマルペンタン(2:1(v/v))を用いて液液抽出を行ない、脱水後減圧濃縮を行なって、さらに窒素気流下で濃縮した後にGC−FIDに供する方法(非特許文献1参照)。
〔4〕ポリジメチルシロキサン塗布済みの攪拌棒(商品名:ツイスター)を用いて、ビール中の脂溶性化合物を吸着させて水で洗った後に有機溶媒で逆抽出し、抽出液の一部をGC−FIDに供する方法(Stir Bar Sorptive Extraction法:SBSE法)(非特許文献2参照)。
〔5〕オクタデシルカラムを用いて、ビール中の中鎖脂肪酸を液相抽出により吸着させ、クロロホルム等の有機溶媒で溶出した後にGCに供する方法(非特許文献3参照)。
〔6〕ヘッドスペースサンプラー及びカーボワックス/ジビニルベンゼンのファイバーを用いて、ビール中の中鎖脂肪酸を気相抽出により吸着させ、GCの気化室で250℃にて5分間加熱脱着を行なうことにより、GC−FIDに供する方法(Head Space−Solid Phase Micro Extraction法:HS−SPME法)(非特許文献3参照)。
〔7〕清酒中のエステル類や中鎖脂肪酸をHS−SPME法を用いて抽出しGC−FIDに供する方法。抽出時及びGC導入時の内部標準としては4−ペンタノールを使用する(非特許文献4参照)。
〔8〕ワイン中のエステル類や中鎖脂肪酸をHS−SPME法を用いて抽出しGC−MSに供する方法。抽出時及びGC導入時の内部標準としては2−オクタノールを使用する(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−176918号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sakamoto, H., et al. Nippon Nogeikagaku Kaishi, Vol.67, No.4, pp685-692, 1993
【非特許文献2】Tomas, H., et al. J. Chromatogr. A, Vol.1196-1197, pp96-99, 2008
【非特許文献3】Tomas, H., et al. J. Agric. Food Chem. Vol.57, No.23, pp11081-11085, 2009
【非特許文献4】Utsunomiya, H., et al. J. Brew. Soc. Japan. Vol.94, No.3, pp252-257, 1999
【非特許文献5】Catarina, B., et al. J. Biosci. Bioeng. Vol.108, No.2, pp99-104, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの方法を用いることによっても中鎖脂肪酸の定量分析が可能であるが、固層抽出する際の酒類のアルコール度数や、イオン性マトリックスの構成・存在量などの様々な要因によって、酒類全般に対しての適用が困難であることはもとより、分析の精度が高いものではなかった。さらに、試料をGCに導入するまでの前処理工程が煩雑であるために、分析者によって測定値がばらつくほか、高価な備品や消耗品などを揃える必要があり、分析を実際に運用するということについても障害があると考えられた。
【0010】
本発明の課題は、酒類又は酒類半製品に含まれる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の簡便かつ高精度な定量方法を提供することにある。また、中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の同時定量を行なって、その含有量比からエステル生産効率を算出することで、酒類又は酒類半製品の品質管理を簡便に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが検討を重ねた結果、酒類試料にプロトン性有機溶媒を配合して不溶物を形成させた後、該不溶物を除去し、目的化合物の分離とピーク強度が最適になるよう溶媒濃度を調整したサンプルをGC−FID装置に供することによって、中鎖脂肪酸と一部の中鎖脂肪酸エチルエステルを同時に検出し、かつ高精度に定量することができることを見出し、それらの定量値から酒類の貯蔵・品質管理および品質保証を行なう方法を考案し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
〔1〕 以下の工程1〜4を含む、酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種を定量する方法、
工程1:酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合後、生じた不溶性物質を除去して上清を調製する工程
工程2:工程1で得られた上清に、さらにプロトン性有機溶媒を加えた後、内部標準物質を添加してガスクロマトグラフ(GC)装置導入用試料を調製する工程
工程3:工程2で得られた導入用試料を水素炎イオン化検出器を有するGC装置に導入して分析を行う工程
工程4:工程3で得られた分析結果より、中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量を算出する工程
、ならびに
〔2〕 前記〔1〕記載の方法により酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量を同時に測定して、下記式(1)よりエステル生産効率を算出する工程を含む、酒類又は酒類半製品の品質管理を行なう方法
エステル生産効率=(エチルエステル体含有量/中鎖脂肪酸含有量)×100 (1)
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酒類中のヘキサン酸やオクタン酸などの中鎖脂肪酸とヘキサン酸エチルなどの中鎖脂肪酸エチルエステルを、簡便に、かつ、高精度に定量することが可能となる。また、一度の分析で、中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量比からエステル生産効率を算出することができ、酒類又は酒類半製品の品質管理を簡便に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、清酒にプロトン性有機溶媒を各割合(体積比)で添加した直後の写真を示す図である。左より、体積比(清酒/2−プロパノール)が1/1、1/2、1/3、1/4である。
【図2】図2は、清酒にプロトン性有機溶媒を各割合(体積比)で添加して1日経った後の写真を示す図である。左より、体積比(清酒/2−プロパノール)が1/1、1/2、1/3、1/4である。
【図3】図3は、清酒にプロトン性有機溶媒を各割合(体積比)で添加して得られた上清中のグルコース濃度(%)を示す図である。左より、体積比(清酒/2−プロパノール)が1/0、1/1、1/2、1/3、1/4で混合して得られた上清である。
【図4】図4は、清酒分析時の典型的なGC−FIDクロマトチャートを示す図である。(A)が純米酒、(B)が吟醸酒の結果である。
【図5】図5は、清酒分析時の典型的なGC−FIDクロマトチャートにおいて中鎖脂肪酸のピークを拡大して示す図である。(A)が純米酒、(B)が吟醸酒の結果である。
【図6】図6は、工程2におけるプロトン性有機溶媒の添加有無による清酒分析時のヘキサン酸エチル検出位置のGC−FIDクロマトチャート(6.0〜6.6分付近)を示す図である。(A)がプロトン性有機溶媒の添加がある場合、(B)がプロトン性有機溶媒の添加がない場合の結果である。
【図7】図7は、ビール、赤ワイン分析時の典型的なGC−FIDクロマトチャートを示す図である。(A)がビール、(B)が赤ワインの結果である。
【図8】図8は、酒類試料に内部標準物質(ヘプタン酸)を添加しなかった場合のGC−FIDクロマトチャート(18分付近、n=3)を示す図である。(A)列が清酒、(B)列がビール、(C)列が赤ワインの結果である。
【図9】図9は、ビール及び赤ワイン分析時のオクタン酸検出位置のGC−FIDクロマトチャート(19分付近)を示す図である。(A)がビール、(B)が赤ワインの結果である。
【図10】図10は、カラム長の異なるカラムを用いた場合の清酒分析時の典型的なGC−FIDクロマトチャートを示す図である。(A)が33m長のカラムを用いた結果、(B)が50m長のカラムを用いた結果である。
【図11】図11は、50m長のカラムを用いて分析した場合のオクタン酸検出位置のGC−FIDクロマトチャートを示す図である。(A)がビール、(B)が赤ワインの結果である。
【図12】図12は、最終有機溶媒成分含有量が異なる清酒試料について、50m長のカラムを用いた分析時のヘキサン酸エチル検出位置のGC−FIDクロマトチャート(10分付近)を示す図である。最終有機溶媒成分含有量が(A)34.2v/v%、(B)45.4v/v%、(C)57.7v/v%、(D)68.0v/v%、(E)79.2v/v%の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、
工程1:酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合後、生じた不溶性物質を除去して上清を調製する工程
工程2:工程1で得られた上清に、さらにプロトン性有機溶媒を加えた後、内部標準物質を添加してガスクロマトグラフ(GC)装置導入用試料を調製する工程
工程3:工程2で得られた導入用試料を水素炎イオン化検出器を有するGC装置に導入して分析を行う工程、ならびに
工程4:工程3で得られた分析結果より含有量を算出する工程
を含み、酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種を定量する方法であって、なかでも、工程1の試料の前処理方法に大きな特徴を有する。本発明において、酒類中の中鎖脂肪酸としては、ブタン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸等が挙げられ、そのエチルエステル体としては、ブタン酸エチル、ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、デカン酸エチル等が挙げられるが、これに限定されない。なお、本明細書において、工程1及び工程2の処理を含めて試料の前処理といい、プロトン性有機溶媒とはプロトン性有機溶媒成分(単に、有機溶媒成分ともいう)を含む溶液のことを意味する。
【0016】
<工程1>
工程1は、酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合後、得られた混合液から生じた不溶性物質を除去して上清を調製する工程である。
【0017】
酒類には、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物が含まれる。これらの物質は不揮発性物質であるため、ガスクロマトグラフ(GC)分析においては予め除去されることが好ましい。本発明では、非プロトン性有機溶媒による液液抽出、固相抽出、マイクロ固相抽出、ヘッドスペース濃縮、メチルエステル化工程などを経ることなく、その後の分析に用いるGC装置にそのまま供することができるよう、プロトン性有機溶媒を添加して混合するという簡便な処理によって、前記物質が変性・凝集して不溶性物質を形成するため、該不溶性物質を、例えば、遠心分離などにより簡便に除去することが可能となる。なお、このようにして除去される成分を、本願明細書では高分子成分ともいう。
【0018】
酒類試料としては、特に限定はなく、清酒、ワイン、ビール、ビール類似品などの醸造酒、これら醸造酒を含む飲料品、焼酎などの蒸留酒等の酒類;酒母、もろみ、おり、酵母懸濁液、酒粕等の酒類半製品が挙げられる。
【0019】
プロトン性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、疎水性が高い、気化体積が小さい等の観点から、1−プロパノール、2−プロパノールが好ましく、強極性キャピラリーカラムやポリエチレングリコールキャピラリーカラムを用いたGC分析における溶出位置がより早く、沸点が低いことから、2−プロパノールがより好ましい。有機溶媒濃度は特に限定されないが、50v/v%以上が好ましく、60v/v%以上がより好ましく、65v/v%以上がさらに好ましい。
【0020】
酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合する際の体積比(酒類試料/プロトン性有機溶媒)は、酒類試料の体積を1とした場合、プロトン性有機溶媒の体積は、高分子成分の沈殿を促進する観点から、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、GC分析における感度を向上させる観点から、10以下が好ましく、4以下がより好ましい。よって、1/1.5〜1/10が好ましく、1/2〜1/4がより好ましい。
【0021】
酒類試料とプロトン性有機溶媒との混合方法に特に限定はなく、例えば、酒類に対するプロトン性有機溶媒の量が体積比で前記範囲内となるように、それぞれを所定の容器に添加し、該容器を密閉して転倒混合する方法が挙げられる。混合は、両成分が混和される程度に行われるのであればよく、温度、時間は特に制限されない。
【0022】
混合後は、高分子成分を十分に変性・凝集させる観点から、酒類試料とプロトン性有機溶媒の混合物を室温(15〜25℃)にて10〜20分間、又は4℃にて一晩(12〜24時間)静置することができる。
【0023】
不溶性物質を除去して上清を調製する方法としては、特に限定はなく、例えば、遠心分離により不溶性物質の沈殿物を形成させて、上清を取得する方法が挙げられる。
【0024】
かくして得られた上清を工程2に供する。
【0025】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた上清に、さらにプロトン性有機溶媒を加えた後、内部標準物質を添加してガスクロマトグラフ(GC)装置導入用試料を調製する工程である。
【0026】
この工程では、GC測定条件に応じた導入用試料を調製する。即ち、GC装置にて測定試料が揮発されるようにする観点、及び、前記工程1において除去しきれなかった高分子成分等の不揮発性成分を希釈する観点から、工程1で得られた上清にプロトン性有機溶媒をさらに加える。また、GC装置導入用試料中の有機溶媒含有量が多い場合には、低沸点成分のピーク強度が増強されて高沸点成分のピーク強度が減弱されることから、試料中のエタノール濃度がある程度ばらついていたとしても、プロトン性有機溶媒を加えることによりGC装置導入用試料中の有機溶媒含有量を同程度に調整することが可能となる。さらに、目的化合物ピークの重なりを最小限にする効果もあり、例えば、低沸点成分のヘキサン酸エチルと2−メチルブタノール/3−メチルブタノールのピーク分離度を向上することができる。前記のプロトン性有機溶媒に加えて、後述の工程4にて含有量を算出する際に用いる内部標準物質も工程2で添加する。
【0027】
工程2で用いられるプロトン性有機溶媒は、工程1で用いたプロトン性有機溶媒と同一でも異なっていてもよいが、工程1において除去しきれなかった高分子成分等の不揮発性成分を希釈する観点から、同一溶媒で、かつ、溶媒濃度が50〜100v/v%であるものが好ましい。添加量は、試料中の測定対象物の濃度あるいは工程3のGC分析条件に応じて適宜設定することができ、例えば、工程3において30m長程度のキャピラリーカラムを使用する場合は、試料中の最終有機溶媒成分含有量が、好ましくは40〜65v/v%、より好ましくは50〜60v/v%となるように添加することができる。工程3において50〜60m長程度のカラムを使用する場合は好ましくは80v/v%以上となるように添加することができる。なお、工程2で用いられるプロトン性有機溶媒は、試料中の最終有機溶媒成分含有量が前記範囲内となるのであれば、水で希釈したものであってもよい。また、ここでいう最終有機溶媒含有量とは、GC装置導入用試料に含まれる全てのプロトン性有機溶媒成分の合計含有量のことである。
【0028】
内部標準物質は、測定対象物のピーク検出時に同時に検出されないものであれば、公知の方法に従って公知のものを適宜選択して使用することができる。1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、酢酸イソアミル、ヘキサン酸エチル、2−メチルブタノール、3−メチルブタノールの検出にはペンタノールが好ましく、酢酸2−フェニルエチルエステル、2−フェニルエタノール、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸の検出にはヘプタン酸が好ましい。なお、添加量は、試料中の測定対象物の濃度に応じて適宜設定することができる。
【0029】
得られた導入用試料を工程3に供する。
【0030】
<工程3>
工程3では、工程2で得られた導入用試料を、水素炎イオン化検出器(FID)を有するGC装置(GC−FID)に導入して分析を行う。より詳しくは、工程2で得られた導入用試料は、試料導入部から導入され気化室にて気化された後、恒温槽内に設置されたカラムに導入されて分離された成分をFIDにて検出する。なお、検出器はFIDに限るものではなく、炭化水素構造を検出できる質量分析等の検出器を利用することもできる。
【0031】
工程3で用いられるGC−FID装置は、スプリットレス分析機能、セプタムパージ機能、高圧分析モード、定圧分析モード、定線速度モードなど一般的な機能が搭載されている装置であれば、特に限定されない。また、最少検出量ができる限り小さい装置が好ましいが、例えば、4.5pgC/sec程度のものでも使用することができる。具体的には、例えば島津製作所社製のGC14B、GC17Aバージョン1が挙げられる。
【0032】
本発明で用いられる、GC−FID装置に接続されるカラムとしては、ガラス管内に充填剤を詰めた充填カラム(パックドカラム)、及び、ガラス管の内壁に吸着剤を塗布したキャピラリーカラムが挙げられるが、本発明では、脂肪酸の保持と分離に優れ、かつ、水に対して耐性を有する観点から、強極性キャピラリーカラム、ポリエチレングリコールキャピラリーカラムが好ましく、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールキャピラリーカラムがより好ましい。例えば、ポリエチレングリコールキャピラリーカラム(アジレント社製、30m長、膜厚0.25μm、内径0.32mm、未修飾)、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールキャピラリーカラム(アジレント社製、30m長、膜厚0.25μm、内径0.25〜0.32mm)等の市販品が好適に用いられる。本発明では、前記キャピラリーカラムを用いる場合、検出感度及び定量精度の向上の観点から、スプリットレスによって試料を導入することが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、試料内の夾雑成分によるカラムの酸化・液層剥離を局部に集中させ、分離の再現性を高める観点から、リードカラムが用いられることが好ましい。具体的には、例えば、分析定量用のキャピラリーカラム(約30m)の試料導入部側に、リードカラムとして該キャピラリーカラムを約3m長に別途切断したものを、コネクターで接続して用いることができる。また、中鎖脂肪酸のピーク分離が十分ではない場合や、より高精度での定量を行ないたい場合には、好ましくは20〜30mの長さを有するリードカラムを用いて、高沸点成分の分離度をさらに向上させることもできる。ただし、長いリードカラムを接続した場合には低沸点成分のピーク検出位置が大きくずれることから、工程2において添加するプロトン性有機溶媒を溶媒濃度が100%に近いものとすることで、ヘキサン酸エチルと2−メチルブタノール/3−メチルブタノールのピーク溶出順を逆転させつつ良好に分離させることができる。
【0034】
キャリアガスとしては、カラムの理論段相当高さが低くなり、かつ、安全性に優れるという観点から、ヘリウムガスが好ましい。ヘリウムガスとしては、高純度のヘリウムガスを利用することが好ましいが、純度の比較的低いヘリウムガスでも配管中に設けたヘリウム純化装置を介する等して利用することができる。
【0035】
助燃ガスとしては、圧縮空気、水素ガスが挙げられるが、十分に水分を除去させたものを用いることが好ましい。また、メイクアップガスとしては、検出感度向上の観点から窒素ガスが好ましいが、キャリアガスと同種のガス、例えばヘリウムガスを用いることもできる。
【0036】
試料導入部の気化室において用いられるガラスインサートとしては、未処理タイプ、予め不活性処理されたタイプが挙げられ、いずれも用いることができる。また、エチルエステル体の導入効率を上げる観点から、テーパ処理が施されたものを用いることもできる。またさらに、溶媒効果を効果的に利用してピークの高さを上昇させ、不揮発性マトリックスのカラムへの導入を抑制する観点から、シリカウールを挿入して用いることもできる。シリカウールは、試料中の水分を吸湿する観点から、不活性処理を施していないものが好ましい。また、中鎖脂肪酸の吸着を防ぐ観点から、使用量はなるべく5mg以下であることが好ましい。
【0037】
セプタムは、例えば、スプリットレス分析を行う場合、ゴーストピークが発生し難い低ブリードセプタムが好ましい。具体的には、例えば、島津GLC社製「GLCこまち」が好適に用いられる。なお、セプタム由来のピークをカラムに導入させないことが好ましいが、エチルエステル体の消失をなるべく抑える観点から、セプタムパージ流量は3.0mL/min程度にすることが好ましい。
【0038】
カラム昇温プログラムには、エチルエステルピーク、中鎖脂肪酸ピーク、内部標準物質ピークをそれぞれ分離できるプログラムを設定する。検出効率を上げる観点から、初期に低温で保持する工程や、夾雑物を追い出すために高温で焼き出す工程を含んでいてもよい。GC装置にバックフラッシュ機能がついているものはこの機能により焼き出し工程を行なうことができる。
【0039】
<工程4>
工程4は、工程3で得られた分析結果より含有量を算出する工程である。より詳しくは、工程3で検出されたピークを電子機器上で処理してピーク面積を算出し、内部標準物質のピーク面積との比から測定対象物の含有量を算出する工程である。必要により、ベースライン補正やピーク分離補正などを行なってもよい。
【0040】
ピーク処理に用いる電子機器ソフトとしては、パーソナルコンピューター上の専用アプリケーションソフトが好ましいが、クロマトパックなどの端末機を利用することもできる。装置の分析精度を確認する条件としては公知の条件を適宜採用することができる。
【0041】
かくして、酒類又は酒類半製品に含まれる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体を定量することができる。従来の方法では、これらの分析には時間と費用の負荷が大きく相当な実験誤差も生じていたが、本発明によれば、汎用分析機器を用いて、短時間、かつ、低費用で高精度に検出・定量を行なうことができる。また、本発明によって高精度な検出・定量が可能であることから、その他の高級アルコールや酢酸エステル、例えば、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール、酢酸2−フェニルエチルエステル、2−フェニルエタノールなども同条件で定量することができる。
【0042】
本発明では、前記方法によって酒類又は酒類半製品に含まれる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量を同時に測定することで、式(1):
エステル生産効率=(エチルエステル体含有量/中鎖脂肪酸含有量)×100 (1)
よりエステル生産効率を容易に算出することができる。エステル生産効率が算出されると、酒類又は酒類半製品の吟醸香の生成程度、保存状態等を管理することや、あるいは醸造工程中の種々の影響の評価が容易となる。よって、本発明はまた、本発明の方法により酒類中に含まれる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量を同時に測定して、エステル生産効率を算出する工程を含む、酒類又は酒類半製品の品質管理を行なう方法を提供する。品質管理を行なうことによって品質保証も可能となり、酒類試料の品質管理をスクリーニングで行なうことも可能となる。なお、本明細書において「エステル生産効率」とは、試料中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量比(エチルエステル体含有量/中鎖脂肪酸含有量)に基づいて算出されるものであり、酒類又は酒類半製品の吟醸香の生成程度、保存状態、または一般に状態を示す指標を意味する。
【0043】
例えば、市販されている清酒(吟醸酒)のエステル生産効率はおおむね12〜25程度の範疇にあることから、前記範囲内のエステル生産効率を有する試料は吟醸香品質が良好であり、一方、前記範囲より大きい値を示す場合は発酵における吟醸香エステルの生産効率が何らかの理由で通常よりも高い、小さい値を示す場合は発酵における吟醸香エステルの生産効率が低い又は保管が不良であると判断することができる。なお、エステル生産効率を算出する際に用いる中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量とは、酒類又は酒類半製品に含まれ定量できる、全ての中鎖脂肪酸の含有量を合計したもの、及び全ての中鎖脂肪酸エチルエステル体の含有量を合計したものを意味する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0045】
実施例1 前処理方法
<試料とプロトン性有機溶媒との混合>
試験醸造清酒を試料とした。2mLの無色透明バイアルに、試料と2−プロパノール(100v/v%)を体積比(清酒/2−プロパノール)が1/1、1/2、1/3、1/4となるように、それぞれ分注後、容器を密閉して転倒混合した。バイアルの液相状態を目視で観察した。転倒混合直後の状態を図1に示す。また、その後、4℃にて一晩(16時間)静置させた後の状態を図2に示す。
【0046】
図1より、清酒/2−プロパノールが1/2、1/3、1/4のバイアルでは液相に白濁がはっきりと認められたが、清酒/2−プロパノールが1/1のバイアルでは白濁が僅かに認められる程度であった。また、図2より、清酒/2−プロパノールが1/2、1/3、1/4のバイアルでは沈殿物が形成され、上清が澄明であることが分かった。なお、等量の清酒に対して2−プロパノールを体積比(清酒/2−プロパノール)が1/2、1/3、1/4となるように添加した場合、形成される沈殿物の体積に殆ど差が認められなかった。
【0047】
<上清の評価>
次に、清酒と2−プロパノールを混合後に4℃にて一晩静置させたバイアルの上清のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、グルコースC2−テストワコーキットを用いてムタロターゼ・GOD法により測定した。参照として、清酒のみのバイアル(清酒/2−プロパノール=1/0)についても測定した。結果を図3に示す。なお、グルコース濃度は、清酒の単位容量あたりの濃度として原液換算濃度を表す。
【0048】
図3より、2−プロパノールの混合割合に関わらず、グルコース濃度に差は認められなかった。これらの結果より、酒類試料をプロトン性有機溶媒である2−プロパノールと混合することによって、米、麹、酵母由来のタンパク質、核酸、多糖類などの高分子成分は部分的に沈殿し、脂肪酸、エステル、アルコール類、あるいはグルコースなどの低分子化合物は液層に留まることが示唆された。
【0049】
実施例2 GC−FIDによる中鎖脂肪酸とエチルエステルの同時定量1
<試料の前処理>
市販の清酒(純米酒、吟醸酒)、ビール、赤ワインを試料とした。2mLのディスポーザブルチューブに、1mLの2−プロパノール(100v/v%)を分注し、これに試料を0.5mLずつ添加した(酒類試料/2−プロパノール=1/2)。容器を密閉して転倒混合後、室温に15分静置した後、17000×gで2分間遠心分離した。上清720μLをバイアルに移し、さらに等量の55v/v%の2−プロパノール、160μLの内部標準液〔500mg/Lペンタノール、200mg/Lヘプタン酸のエタノール(17v/v%)溶液〕を添加し容器を密閉した(最終有機溶媒成分含有量59.0v/v%)。
【0050】
<GC−FID分析条件>
GC装置は島津GC17Aバージョン1を使用した。検出器は水素炎イオン化検出器(FID)を用いた。インジェクションには島津製作所社製のオートインジェクターAOC−20と伊藤製作所社製の10μLシリンジを使用した。キャリアガス、メイクアップガスには99.99%ヘリウムガスをヘリウム純化装置で精製したものを使用した。水素は99.99%水素ガスを用い、酸素の供給には空気圧縮装置に脱水装置を連結したものを使用した。スプリットレスによるサンプリングを行い、サンプリングタイムを30秒とした。入口圧は120kPaに設定し、スプリット比は1:30に設定した。ガラスインサートにはスプリットレス分析用のもので且つシングルテーパ処理があるものを使用した。セプタムにはGLCこまちを使用し、約100回の分析の度に交換した。セプタムパージは3.0mL/minに設定した。カラムには、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールカラム(アジレント社製、30m長、膜厚0.25μm、内径0.32mm)の気化室側にさらに、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールカラムを約3mに切断したリードカラムをコネクターで接続させたものを使用した(カラム全長33m)。
【0051】
温度条件は、気化室、検出器ともに250℃に設定した。カラムオーブンの1サイクルは以下のとおりである。50℃で3分平衡化したあと、試料を注入後50℃で6分間保持し、その後10℃/minで210℃まで上昇させ210℃に到達後、235℃に30℃/minで昇温させ、その後15分間保持しさらに240℃に30℃/minで昇温後、5分間保持し50℃に冷却した。1サイクルに要する時間は、室温が約20℃のときで約60分である。
【0052】
試料注入量は0.8μLとし、インジェクション後1秒気化室内に針先を留めた。ニードル洗浄液には50%エタノールを使用した。
【0053】
検出器からのシグナルは60ms毎に記録し、解析はPC上でGCsolutionアプリケーションソフトを使用して行なった。
【0054】
<市販清酒中の中鎖脂肪酸とエチルエステル体の同時定量分析>
前処理を行なった市販清酒の試料0.8μL量をGC−FIDに導入し、前記ガスクロマトグラフ分析条件に従って定量分析を行なった。代表的な測定例について、全体のクロマトチャートを図4に、中鎖脂肪酸のピーク付近のクロマトチャートを図5に示す。
【0055】
図4の吟醸酒のクロマトチャートにおいて、約7分にヘキサン酸エチル、約17.3分にヘキサン酸、約19.6分にオクタン酸のピークが検出された。一方、純米酒のクロマトチャートにおいては、前記成分のピークは検出されるもののいずれも低かった。また、図5の拡大クロマトより、吟醸酒のクロマトチャートにおいては、前記ヘキサン酸及びオクタン酸の中鎖脂肪酸のピークに加えて、約17.0分に酢酸2−フェニルエチルエステル、18.1分に2−フェニルエタノールのピークが検出され、いずれのピーク形状も良好であった。全体クロマトチャートにおいてピークが低かった純米酒においても、特にヘキサン酸のピーク形状が良好であることが確認された。なお、内部標準物質のペンタノールは約8.2分に、ヘプタン酸は約18.5分に検出された。
【0056】
得られたクロマトチャートより、エチルエステル体については、内部標準物質ペンタノールで面積値の補正を行ない、中鎖脂肪酸については内部標準物質ヘプタン酸で面積値の補正を行ない、標準溶液により作製した検量線により、測定に供された清酒1Lあたりの含有量を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
また、比較のために、試料の前処理において、不溶性物質除去後の上清に2−プロパノールをさらに加えなかったサンプルについて、前記と同様の条件で分析を行なった。結果を図6に示す。
【0059】
図6より、工程2におけるプロトン性有機溶媒の添加がない場合には、ヘキサン酸エチル(黒塗矢印)と2−メチルブタノール/3−メチルブタノール(白抜矢印)とのピーク分離が低下することが分かった。
【0060】
<市販ビール、赤ワイン中の中鎖脂肪酸とエチルエステル体の同時定量分析>
市販清酒中の中鎖脂肪酸とエチルエステル体の同時定量分析と同様にして定量分析を行なった。代表的なビール測定例のクロマトチャートを図7(A)に、代表的な赤ワイン測定例のクロマトチャートを図7(B)に、定量結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
図7より、ビール、赤ワインのいずれにおいても、ヘキサン酸とオクタン酸のピークは清酒と同様の保持時間で検出された。
【0063】
また、清酒(純米酒および吟醸酒)、ビール、赤ワインのサンプルに内部標準物質を添加せずにGC−FID分析を行なった結果、ヘプタン酸の位置(約18.4分)にピークがないことが分かった(図8参照)。従って、清酒、ビール、赤ワイン中に含まれる中鎖脂肪酸の定量分析において、内部標準物質としてヘプタン酸が利用できることが確認された。なお、オクタン酸のピークについては、図9に示すとおり保持時間の近接する内在性の化合物ピークによりピーク分離が低い可能性が示唆された。
【0064】
実施例3 GC−FIDによる中鎖脂肪酸とエチルエステルの同時定量2
<試料の前処理>
市販の清酒(純米酒および吟醸酒)、ビール、赤ワインを試料とした。2mLのディスポーザブルチューブに、1mLの2−プロパノール(100v/v%)を分注し、これに試料を0.5mLずつ添加した(酒類試料/2−プロパノール=1/2)。容器を密閉して転倒混合後、室温に15分静置した後、17000×gで2分間遠心分離した。上清720μLをバイアルに移し、さらに等量の100v/v%の2−プロパノール、160μLの内部標準液〔500mg/Lペンタノール、200mg/Lヘプタン酸のエタノール(17v/v%)溶液〕を添加し容器を密閉した(最終有機溶媒成分含有量79.2v/v%)。
【0065】
<GC−FID分析条件>
実施例2のGC−FID分析条件において、分析カラムに接続させるリードカラムとして、ニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールカラムの長さを約3mから約20mに変更したもの(カラム全長50m)を用いた以外は、実施例2のGC−FID分析装置と同様に装置を設定した。
【0066】
清酒分析時の温度条件は、気化室、検出器ともに250℃に設定した。カラムオーブンの1サイクルは以下のとおりである。50℃で3分平衡化したあと、試料を注入後50℃で9分間保持し、その後8℃/minで220℃まで上昇させ220℃に到達後、235℃に30℃/minで昇温させ、その後10分間保持しさらに240℃に30℃/minで昇温後、5分間保持し50℃に冷却した。1サイクルに要する時間は、室温が約20℃のときで約60分である。
【0067】
ビール及びワイン分析時の温度条件は、気化室、検出器ともに250℃に設定した。カラムオーブンの1サイクルは以下のとおりである。50℃で3分平衡化したあと、試料を注入後すぐ6℃/minで230℃まで上昇させ230℃に到達後、235℃に30℃/minで昇温させ、その後10分間保持しさらに240℃に30℃/minで昇温後、5分間保持し50℃に冷却した。1サイクルに要する時間は、室温が約20℃のときで約60分である。
【0068】
<市販清酒、ビール、赤ワイン中の中鎖脂肪酸の分析>
前処理を行なった試料0.8μL量をGC−FIDに導入し、前記ガスクロマトグラフ分析条件に従って定量分析を行なった。なお、比較のために、清酒試料を実施例2の条件(カラム全長33m)でも同様に分析を行なった。清酒試料についてはヘキサン酸とオクタン酸のピーク付近のクロマトチャートを図10に、ビール、赤ワインについてはオクタン酸のピーク付近のクロマトチャートを図11に示す。
【0069】
図10より、清酒のヘキサン酸とオクタン酸はいずれのカラムでも十分に分離することが分かった。また、33mカラムを用いた場合よりも50m長カラムを用いた場合には、黒矢印で示すヘキサン酸のピーク分離度が向上しており、高精度に定量できることが分かった。
【0070】
図11より、図9では分離度が低かったビール及び赤ワインにおけるオクタン酸(白抜矢印)も、50m長カラムを用いた場合には単一ピークで検出されるため、より高精度に定量できることが分かった。
【0071】
また、試料の前処理において、不溶性物質除去後の上清に、最終有機溶媒成分含有量が34.2、45.4、57.7、68.0、79.2v/v%となるよう2−プロパノールを加えた清酒サンプルについて、前記と同様の条件で分析を行なった。結果を図12に示す。
【0072】
図12より、最終有機溶媒成分含有量が34.2、45.4v/v%ではヘキサン酸エチルの方が2−メチルブタノール/3−メチルブタノールより先に溶出しているが、57.7%ではピークが重なり、68.0、79.2v/v%では溶出順序が逆転した。また、79.2v/v%のサンプルではヘキサン酸エチルと2−メチルブタノール/3−メチルブタノールとのピーク分離が良好であるだけでなく、ピーク高さも高く良好に分離できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、酒類および酒類半製品を試料として、それらに含有する中鎖脂肪酸と一部のエチルエステルを直接的に同時に定量することができるので、中鎖脂肪酸とエチルエステル化合物の定量値および酒類製造工程中のエステル/脂肪酸比を用いた吟醸香生成管理、貯蔵管理に利用することができる。また、中鎖脂肪酸濃度から酒類製造工程中の微生物発酵管理に利用することができる。市販酒においては、中鎖脂肪酸とエチルエステル化合物の定量値およびエステル/脂肪酸比から品質管理、品質保証に利用することができる。また、品質検査において、エステル/脂肪酸比を解析するためのスクリーニングにも利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1〜4を含む、酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種を定量する方法。
工程1:酒類試料とプロトン性有機溶媒とを混合後、生じた不溶性物質を除去して上清を調製する工程
工程2:工程1で得られた上清に、さらにプロトン性有機溶媒を加えた後、内部標準物質を添加してガスクロマトグラフ(GC)装置導入用試料を調製する工程
工程3:工程2で得られた導入用試料を水素炎イオン化検出器を有するGC装置に導入して分析を行う工程
工程4:工程3で得られた分析結果より、中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体からなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量を算出する工程
【請求項2】
工程1における、酒類試料とプロトン性有機溶媒の体積比(酒類試料/プロトン性有機溶媒)が1/1.5〜1/10である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程3におけるGC装置がニトロテレフタル酸修飾ポリエチレングリコールカラムを有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の方法により酒類中の中鎖脂肪酸及びそのエチルエステル体の含有量を同時に測定して、下記式(1)よりエステル生産効率を算出する工程を含む、酒類又は酒類半製品の品質管理を行なう方法。
エステル生産効率=(エチルエステル体含有量/中鎖脂肪酸含有量)×100 (1)

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−189442(P2012−189442A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53074(P2011−53074)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)