説明

酵母保管装置及び酵母保管方法

【課題】保管タンク内の酵母の腐敗及び粗たんぱく質含量の低下を防止することができる酵母保管装置を提供する。
【解決手段】発酵工程後に回収した酵母を保管する保管タンク11を備えた酵母保管装置1において、保管タンク11内に保管された酵母の温度上昇による腐敗を防止できるように冷却器16とウォータジャケット14との間で水を循環させる冷却手段と、保管タンク11内に保管された酵母の温度低下による粗たんぱく質含量の低下を防止できるように熱交換水槽17とウォータジャケット14との間で水を循環させる保温手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵工程後に回収した酵母の腐敗及び粗たんぱく質含量の低下を防止する酵母保管装置並びに酵母保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビール・発泡酒等の発泡性麦芽飲料や雑酒等の製造工程内での発酵工程後に回収された酵母は、余剰酵母として乾燥酵母や酵母エキスの原料にされ、その含有たんぱく質、ビタミン等の有価物に着目して、調味料・健康食品等の食品、医薬品、動物飼料等として利用されている。このため、回収された酵母のたんぱく質、ビタミン等の有価物はその含有量が多いことが望ましく、例えば、たんぱく質含量が低い場合には、原料として使用できない。このような酵母に含有される粗たんぱく質の含量を高める技術として、酵母をその至適生育温度を遥かに超える40°C以上の高い温度の液体に混濁させる方法(例えば、特許文献1参照)、酵母を好気状態で撹拌して酵母中のグリコーゲンを消費させ、相対的に酵母中のたんぱく質含量等を増加させる方法(例えば特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−196265号公報
【特許文献2】特開2006−14719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ビール製造工場等で余剰酵母をタンクで保管する場合に、冬季の低気温時に酵母の粗たんぱく質含量が低下してしまうことがある。特許文献1、2の技術は酵母に含有される有価物の含量を高める技術であり、酵母に含有される有価物の含量の低下を抑えるための技術ではない。特許文献1の技術のように、酵母の温度を至適生育温度よりも遥かに上昇させた場合には、酵母が腐敗するおそれがあり、酵母を保管しながら粗たんぱく質含量の低下を防止する目的には適用し難い。
【0005】
そこで、本発明は、保管タンク内の酵母の腐敗及び粗たんぱく質含量の低下を防止することができる酵母保管装置及び酵母保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明の酵母保管装置及び酵母保管方法について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
本発明の酵母保管装置(1)は、発酵工程後に回収した酵母を保管する保管タンク(11)と、前記保管タンク(11)を冷却する冷却手段(14、21、22、23、16)と、前記保管タンク(11)を保温する保温手段(14、22、24、21、25、17)とを備えることにより、上述した課題を解決する。また、本発明の酵母保管装置の好適な一形態において、前記冷却手段は、前記保管タンク内に保管された酵母の温度上昇による腐敗を防止できるように前記保管タンクを冷却し、前記保温手段は、前記酵母の温度低下による粗たんぱく質含量の低下を防止できるように前記保管タンクを保温する。
【0008】
本発明の酵母保管装置によれば、保管温度が適正温度よりも上昇するおそれがあるときには冷却手段にて保管タンクを冷却して酵母の腐敗を防止し、保管温度が適正温度よりも低下するおそれがあるときには保温手段にて保管タンクを保温して酵母の粗たんぱく質含量の低下を防止することができる。
【0009】
本発明の一形態において、前記保管タンクの周囲には、前記冷却手段及び前記保温手段の間で共用されるウォータジャケット(14)が設けられ、前記冷却手段は、前記ウォータジャケットから回収される水を冷却器(16)で冷却して該ウォータジャケットに送り込むことにより前記保管タンクを冷却し、前記保温手段は、前記ウォータジャケットから回収される水を加熱器(17)で加熱して該ウォータジャケットに送り込むことにより前記保管タンクを保温するものとしてもよい。本形態によれば、冷却器を稼働させてウォータジャケットと冷却器との間で水を循環させることにより保管タンクを冷却し、加熱器を稼働させてウォータジャケットと加熱器との間で水を循環させることにより保管タンクを保温することができる。前記冷却器と前記加熱器とを前記ウォータジャケットに対して選択的に接続する弁機構(30)をさらに備えた場合には、冷却器又は加熱器を選択的に接続してウォータジャケットに冷水又は温水を供給することができる。冷却手段及び保温手段の間でウォータジャケットを共用することにより、設備負担を軽減することができる。
【0010】
本発明の酵母保管装置の一形態において、前記冷却手段は、前記ウォータジャケットと前記冷却器との間で前記水を循環させる冷水配管部(21、22)、及び前記冷水配管部の水流を形成する循環ポンプ(23)を備え、前記保温手段は、前記循環ポンプを含むようにして前記冷水配管部と一部の管路を共用しつつ、前記冷却器を迂回しかつ前記加熱器を経て前記ウォータジャケットに至るように構成された温水配管部(21、22、24、25)を備え、前記弁機構は、前記冷水配管部と前記温水配管部との間で前記水の流れる方向を切り換えるものとしてもよい。本形態によれば、弁機構にて水の流れる方向を切り換えることにより、冷水配管部を介してウォータジャケットと冷却器との間で水を循環させる状態と、温水配管部を介してウォータジャケットと加熱器との間で水を循環させる状態とを切り換えることができる。そして、冷水配管部の一部を温水配管部で共用し、かつ循環ポンプも冷却手段と保温手段との間で共用することができるので、両手段を設けることによる設備負担が軽減される。
【0011】
前記冷却手段は、前記冷却器から前記ウォータジャケットに水を送り込む送水管(21)と、前記ウォータジャケットから前記冷却器に水を回収する回収管(22)と、前記送水管から前記ウォータジャケットを経て前記回収管に至る水流を形成する循環ポンプ(23)とを備え、前記保温手段は、前記循環ポンプよりも前記冷却器に近い位置にて前記回収管と前記送水管とを接続するバイパス管(24)と、前記バイパス管よりも前記ウォータジャケットに近く、かつ前記循環ポンプの上流又は下流のいずれか一方の位置にて前記送水管に接続され、前記送水管から取り込んだ水を前記加熱器を経て前記送水管に戻す取水管(25)とを備え、前記弁機構は、前記回収管から前記冷却器を経て前記送水管に至る水の流れと前記回収管から前記バイパス管を経て前記送水管に至る水の流れとを切り換える第1の弁手段(31、32、33)と、前記取水管を経ずに前記送水管を通過する水の流れと前記取水管を経由する水の流れとを切り換える第2の弁手段(34、35、36)とを備えるものとしてもよい。
【0012】
本形態によれば、第1の弁手段により、回収管及び送水管とバイパス管との接続部ではバイパス管側を閉じる一方で冷却器側を開き、さらに、送水管と取水管との接続部では第2の弁手段にて取水管側を閉じる一方で送水管側を開くことにより、ウォータジャケットと冷却器との間で水を循環させて保管タンクを冷却することができる。一方、第1の弁手段により、回収管及び送水管とバイパス管との接続部ではバイパス管側を開く一方で冷却器側を閉じ、さらに、送水管と取水管との接続部では第2の弁手段により取水管側を開く一方で送水管側を閉じることにより、ウォータジャケットと加熱器との間で水を循環させて保管タンクを保温することができる。この形態によれば、冷却手段の送水管と回収管とに対してバイパス管及び取水管を接続し、取水管による水の流路の途中に加熱器を配置し、かつ第1の弁手段及び第2の弁手段を設けることにより、冷却手段及び保温手段を実現することができる。例えば、冷却手段のみが設けられた酵母保管装置に対しても、少ない設備負担で保温手段を追加できる利点がある。
【0013】
本発明の酵母保管装置の一形態においては、前記加熱器として、既設設備(2)の排熱で前記水を加熱する熱交換器(17)が設けられてもよい。さらに、前記熱交換器は、前記既設設備としての酵母乾燥機送り蒸気配管のスチームトラップ(2)から排出される蒸気ドレンと前記水との間で熱交換して前記水を加熱するものでもよい。既設設備の排熱を利用することにより保温に必要なエネルギを節約でき、保温手段の追加による酵母保管装置の運用コストの上昇を抑えることができる。
【0014】
本発明の酵母保管方法は、発酵工程後に回収した酵母を保管タンク(11)に保管する酵母保管方法において、前記保管タンク内に保管された酵母の温度上昇による腐敗を防止できるように前記保管タンクを冷却する冷却工程と、前記酵母の温度低下による粗たんぱく質含量の低下を防止できるように前記保管タンクを保温する保温工程と、を備えることにより上述した課題を解決する。
【0015】
本発明の酵母保管方法によれば、保管温度が適正温度よりも上昇するおそれがあるときには冷却工程を実施して保管タンクを冷却することにより酵母の腐敗を防止し、保管温度が適正温度よりも低下するおそれがあるときには保温工程を実施して保管タンクを保温することにより酵母の粗たんぱく質含量の低下を防止することができる。なお、本発明の酵母保管方法では、上述した酵母保管装置の各種の形態を利用してこれを実施してよい。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明したように、本発明の酵母保管装置及び酵母保管方法によれば、保管温度が適正温度よりも上昇するおそれがあるときには保管タンクを冷却して酵母の腐敗を防止し、保管温度が適正温度よりも低下するおそれがあるときには保管タンクを保温して酵母の粗たんぱく質含量の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の一形態に係る酵母保管装置を示している。酵母保管装置1は、保管タンク11と、保管タンク11の温度を調整するための温度調整装置12とを備えている。保管タンク11には、例えば、ビール・発泡酒等の発泡性麦芽飲料や雑酒等のビール様飲料の製造工程内での発酵工程後に回収された酵母が保管される。なお、保管される酵母は、ビール酵母・発泡酒酵母といった発泡性麦芽飲料用酵母、雑酒等のビール様飲料用酵母に限定されるものではなく、ワイン酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、その他の醸造用酵母等いずれでもよい。ビール酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等がある。
【0018】
温度調整装置12は、保管タンク11の外周を取り囲むように設けられたウォータジャケット14と、そのウォータジャケット14に温度調整用の水を流通させるための配管部15と、ウォータジャケット14に送り込まれる水を冷却する冷却器16と、ウォータジャケット14に送り込まれる水を加熱する加熱器としての熱交換水槽17とを備えている。配管部15は、ウォータジャケット14の注水口14a及び回収口14bのそれぞれと冷却器16とを接続する送水管21及び回収管22と、送水管21の途中に配置される循環ポンプ23とを備えている。循環ポンプ23は、送水管21からウォータジャケット14を経て回収管22に至る水流を形成する。また、配管部15には、循環ポンプ23の吸込み側(上流側)、つまり冷却器16に近い位置にて回収管22と送水管21とを接続するバイパス管24と、循環ポンプ23の吐出側(下流側)にて送水管21に接続され、送水管21から取り込んだ水を熱交換水槽17を経て送水管21に戻す取水管25とを備えている。取水管25は、送水管21から分岐されて熱交換水槽17に向かう往路部25aと、熱交換水槽17の内部に配置される蛇行部25bと、熱交換水槽17から出て往路部25aよりも下流側で送水管21に合流する復路部25cとを備えている。
【0019】
さらに、配管部15には、冷却器16と熱交換水槽17とをウォータジャケット14に対して選択的に接続する弁機構30が設けられている。弁機構30は、送水管21及び回収管22とバイパス管24との接続位置と冷却器16との間に配置されて送水管21及び回収管22を開閉する第1仕切弁31及び第2仕切弁32と、バイパス管24を開閉する第3仕切弁33と、取水管25の往路部25a及び復路部25cをそれぞれ開閉する第4仕切弁34、及び第5仕切弁35と、送水管21と取水管25の往路部25a及び復路部25cとの接続位置間にて送水管21を開閉する第6仕切弁36とを備えている。
【0020】
冷却器16は回収管22から流入する水を冷却して送水管21に供給する。冷却器16には、例えば冷水チラーを利用することができる。冷却器16の冷却能力は、夏期において、保管タンク11内の酵母が腐敗するおそれがない温度域まで保管タンク11を冷却できるように設定される。一例として、夏期でも酵母を10°C程度の温度で保管できるように冷却器16の冷却能力が設定される。一方、熱交換水槽17は、既設設備としての酵母乾燥機送り蒸気配管のスチームトラップ2から排出される蒸気ドレンを槽内に導入し、取水管25の蛇行部25bを通過する水と蒸気ドレンとを熱交換させることにより水を加熱する。加熱後の水の温度は、冬季において、酵母の粗たんぱく質含量の低下を実質的に防止できる温度で保管タンク11を保温できるように設定すればよい。目安として、酵母温度を9°C以上に維持できればよく、そのためには、ウォータジャケット14の注水口14aの水温が10°C程度であればよい。加熱に必要な熱量が蒸気ドレンのみで確保できる場合には、蒸気ドレン以外の熱源を設けることを要しない。蒸気ドレンのみで必要な熱量を確保できないときは電気、ガス、石油等の各種のエネルギ源を利用した熱源を追加してもよい。
【0021】
次に、酵母保管装置1の操作を説明する。まず、保管タンク11内の酵母が腐敗するおそれがある領域まで外気温が上昇する時期(夏期)には、第1仕切弁31、第2仕切弁32、第6仕切弁36を開き、第3仕切弁33、第4仕切弁34及び第5仕切弁35を閉じる。この状態で冷却器16及び循環ポンプ23をそれぞれ動作させる。これにより、冷却器16にて冷却された水が送水管21を介してウォータジャケット14に流入する。ウォータジャケット14を通過する水によって保管タンク11が冷却される。これにより、保管タンク11内の酵母の腐敗が防止される。ウォータジャケット14を通過した水は回収管22を介して冷却器16に戻され、再び冷却されて送水管21に送り出される。
【0022】
一方、保管タンク11内の酵母の粗たんぱく質含量が低下するおそれがある領域まで外気温が低下する時期(冬季)には、第1仕切弁31、第2仕切弁32、第6仕切弁36を閉じ、第3仕切弁33、第4仕切弁34及び第5仕切弁35を開く。この状態で熱交換水槽17に蒸気ドレンを導入しかつ循環ポンプ23を動作させる。これにより、循環ポンプ23から送り出される水が取水管25に取り込まれ、その蛇行部25bを通過する水が加熱されて復路部25cに低温の温水(以下、低温温水と呼ぶことがある。)が送り出される。低温温水は復路部25cから送水管21に導かれてウォータジャケット14に流入する。ウォータジャケット14を通過する低温温水によって保管タンク11が保温される。これにより、保管タンク11内の酵母の粗たんぱく質含量の低下が抑制される。ウォータジャケット14を通過した水は回収管22からバイパス管24を介して循環ポンプ23に戻される。
【0023】
以上の形態においては、送水管21及び回収管22によって冷水配管部が構成され、その冷水配管部、ウォータジャケット14、循環ポンプ23及び冷却器16によって冷却手段が構成される。また、ウォータジャケット14から回収管22、バイパス管24、送水管21、取水管25及び送水管21を経てウォータジャケット14に至る管路により温水配管部が構成され、その温水配管部、ウォータジャケット14、循環ポンプ23及び熱交換水槽17により保温手段が構成される。さらに、第1仕切弁31、第2仕切弁32及び第3仕切弁33により、回収管22から冷却器16を経て送水管21に至る水の流れと、回収管22からバイパス管24を経て送水管21に至る水の流れとを切り換える第1の弁手段が構成され、第4仕切弁34、第5仕切弁35及び第6仕切弁36により、取水管25を経ずに送水管21を通過する水の流れと取水管25を経由する水の流れとを切り換える第2の弁手段が構成される。
【0024】
本形態の酵母保管装置1では、冷却手段及び保温手段の間で、ウォータジャケット14、送水管21の一部、回収管22の一部、及び循環ポンプ23が共用されているので、構成が簡素化され、かつ設備負担の軽減を図ることができる。冷却手段のみが設置されている酵母保管装置に対して、取水管25、熱交換水槽17及び弁機構30を追加するだけで、冷却手段及び保温手段の両者を備えた酵母保管装置が得られる利点がある。なお、冷却手段及び保温手段は、例えば冷凍サイクルを利用して冷熱又は温熱を選択的に取り出す熱交換装置を水の循環経路に設けることにより共用化してもよい。反対に、冷却手段及び保温手段のそれぞれを互いに独立して設けてもよい。ウォータジャケット14の注水口及び回収口を冷水用及び温水用で別々に設けることにより、ウォータジャケットのみを冷却手段と保温手段との間で共用してもよい。
【0025】
循環ポンプ23は、冷水配管部及び温水配管部のそれぞれにおいて水が循環する水流を形成できる位置にあればよく、例えば送水管21に代えて回収管22に設けられてもよい。この場合、回収管22とバイパス管24との接続位置よりも循環ポンプ23をウォータジャケット14側に配置すればよい。弁機構は図示の形態に限らず、適宜の変更が可能である。例えば、第1仕切弁31、第2仕切弁32及び第3仕切弁33に代えて、回収管22及び送水管21の少なくともいずれか一方とバイパス管24との接続位置に三方弁を設けてもよい。第4仕切弁34、第5仕切弁35及び第6仕切弁36に代えて、取水管25の往路部25a及び復路部25cの少なくともいずれか一方と送水管21との接続位置に三方弁を設けてもよい。要するに、弁機構は冷水配管部と温水配管部との間で水が流れる方向を切り換えることにより、冷却器と加熱器とをウォータジャケットに対して選択的に接続できるものであれば足りる。第1〜第6仕切弁31〜36を自動弁とし、それらの開閉を外気温に応じて自動的に切り換え制御してもよい。
【0026】
上記の酵母保管装置1では、スチームトラップ2の蒸気ドレンを低温温水生成用の熱源として利用しているので、排熱の有効利用を図ることができる。蒸気ドレンのみで保温に必要な熱量を確保できる場合には、専用の熱源を保温手段に設ける必要がなく、酵母保管装置の構成の簡素化、設置コストの削減等を図ることもできる。但し、スチームトラップ2の蒸気ドレンに限らず、各種の排熱を保温手段の熱源として利用してよい。さらに、冷却手段及び保温手段のそれぞれは、ウォータジャケットに対して冷水及び温水を選択的に供給するものに限らず、保管タンクを冷却及び保温できる限りは適宜の手段を採用することができる。
【実施例】
【0027】
上述した形態の酵母保管装置1につき、保管タンク11の周囲の外気温を夏期相当の温度域と冬季相当の温度域との間で周期的に変化させ、酵母の温度、及び粗たんぱく質含量を一定時間毎に測定した結果を図2及び図3にそれぞれ示す。図2において、期間A、Cが夏期相当期間、期間B、Dが冬季相当期間である。期間A、Cではいずれも冷却手段による保管タンク11の冷却を実施し、期間Bでは保温手段による保温を実施せず、期間Dでは保温を実施した。夏期に相当する期間A、Cでは、冷却手段の効果により酵母温度が10°Cに制限されている。これにより、酵母の腐敗は確実に防がれる。一方、冬季に相当する期間Bでは、保温を省略したために酵母温度は約1°Cまで低下している。これに対して、保温を実施した期間Dでは、酵母温度が9°C以上に維持されている。図3は期間B〜Dにおける粗たんぱく質含量の最小値、最大値及び平均値(%)のそれぞれの変化を示している。期間Bでは粗たんぱく質含量が明らかに低下しているのに対して、期間Dでは粗タンパク質含量の低下抑制効果が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る酵母保管装置の概要を示す回路図。
【図2】実施例における酵母温度の経時変化の測定結果を示す図。
【図3】実施例における粗たんぱく質含量の経時変化の測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1 酵母保管装置
2 スチームトラップ(既設設備)
11 保管タンク
12 温度調整装置
14 ウォータジャケット
15 配管部
16 冷却器
17 熱交換水槽(加熱器)
21 送水管
22 回収管
23 循環ポンプ
24 バイパス管
25 取水管
30 弁機構
31 第1仕切弁(第1の弁手段)
32 第2仕切弁(第1の弁手段)
33 第3仕切弁(第1の弁手段)
34 第4仕切弁(第2の弁手段)
35 第5仕切弁(第2の弁手段)
36 第6仕切弁(第2の弁手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵工程後に回収した酵母を保管する保管タンクと、前記保管タンクを冷却する冷却手段と、前記保管タンクを保温する保温手段とを備えたことを特徴とする酵母保管装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記保管タンク内に保管された酵母の温度上昇による腐敗を防止できるように前記保管タンクを冷却し、前記保温手段は、前記酵母の温度低下による粗たんぱく質含量の低下を防止できるように前記保管タンクを保温することを特徴とする請求項1に記載の酵母保管装置。
【請求項3】
前記保管タンクの周囲には、前記冷却手段及び前記保温手段の間で共用されるウォータジャケットが設けられ、前記冷却手段は、前記ウォータジャケットから回収される水を冷却器で冷却して該ウォータジャケットに送り込むことにより前記保管タンクを冷却し、前記保温手段は、前記ウォータジャケットから回収される水を加熱器で加熱して該ウォータジャケットに送り込むことにより前記保管タンクを保温することを特徴とする請求項1又は2に記載の酵母保管装置。
【請求項4】
前記冷却器と前記加熱器とを前記ウォータジャケットに対して選択的に接続する弁機構をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の酵母保管装置。
【請求項5】
前記冷却手段は、前記ウォータジャケットと前記冷却器との間で前記水を循環させる冷水配管部、及び前記冷水配管部の水流を形成する循環ポンプを備え、
前記保温手段は、前記循環ポンプを含むようにして前記冷水配管部と一部の管路を共用しつつ、前記冷却器を迂回しかつ前記加熱器を経て前記ウォータジャケットに至るように構成された温水配管部を備え、
前記弁機構は、前記冷水配管部と前記温水配管部との間で前記水の流れ方向を切り換えることを特徴とする請求項4に記載の酵母保管装置。
【請求項6】
前記冷却手段は、前記冷却器から前記ウォータジャケットに水を送り込む送水管と、前記ウォータジャケットから前記冷却器に水を回収する回収管と、前記送水管から前記ウォータジャケットを経て前記回収管に至る水流を形成する循環ポンプとを備え、
前記保温手段は、前記循環ポンプよりも前記冷却器に近い位置にて前記回収管と前記送水管とを接続するバイパス管と、前記バイパス管よりも前記ウォータジャケットに近く、かつ前記循環ポンプの上流又は下流のいずれか一方の位置にて前記送水管に接続され、前記送水管から取り込んだ水を前記加熱器を経て前記送水管に戻す取水管とを備え、
前記弁機構は、前記回収管から前記冷却器を経て前記送水管に至る水の流れと前記回収管から前記バイパス管を経て前記送水管に至る水の流れとを切り換える第1の弁手段と、前記取水管を経ずに前記送水管を通過する水の流れと前記取水管を経由する水の流れとを切り換える第2の弁手段とを備えている、
ことを特徴とする請求項4に記載の酵母保管装置。
【請求項7】
前記加熱器として、既設設備の排熱で前記水を加熱する熱交換器が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の酵母保管装置。
【請求項8】
前記熱交換器は、前記既設設備としての酵母乾燥機送り蒸気配管のスチームトラップから排出される蒸気ドレンと前記水との間で熱交換して前記水を加熱することを特徴とする請求項7に記載の酵母保管装置。
【請求項9】
発酵工程後に回収した酵母を保管タンクに保管する酵母保管方法において、
前記保管タンク内に保管された酵母の温度上昇による腐敗を防止できるように前記保管タンクを冷却する冷却工程と、前記酵母の温度低下による粗たんぱく質含量の低下を防止できるように前記保管タンクを保温する保温工程と、を備えたことを特徴とする酵母保管方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−131882(P2008−131882A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320230(P2006−320230)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(392032100)キリンエンジニアリング株式会社 (54)
【Fターム(参考)】