説明

酵母由来グルカンの製造方法

水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を用いることなく、安全性が高く且つ酸化異臭を発生することのないグルカンを、簡便に製造することの出来る方法を提供することを課題とし、物理的に破砕した酵母を、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中で、かかる酵母の細胞内酵素により自己消化処理するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、酵母由来グルカンの製造方法に係り、特に、水の電気分解で得られるアルカリ電解水を処理媒体として用いて、酵母細胞壁から多糖類であるβ−グルカンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
β−グルカンは、糖の成分が高分子結合した物質であり、免疫力向上作用や、抗腫瘍作用、コレステロール低減作用、抗ウイルス作用、白血球増加作用等、数多くの生理的作用があることが報告されており、近年においては、健康食品や医薬品等として、注目を浴びている。
ところで、上記したβ−グルカンは、酵母菌の細胞壁等に含まれており、そのような酵母の細胞壁から、β−グルカン等の多糖類を得る各種の手法が、これまでに数多く提案されてきている。例えば、特開2003−197号公報には、酵母に対して、蛋白質分解酵素、特にグルカナーゼ活性総量が少ない酵素剤を作用させて、酵母を溶菌させることにより、生理活性の高いインタクトな状態のβ−グルカンを多く含む多糖類含有組成物を得る技術が、明らかにされている。また、特開2002−209598号公報には、高圧ホモジナイザーを用いて酵母を物理的に破壊した後、自己消化処理を施し、次いで、洗浄した酵母細胞壁画分に、細胞壁溶解酵素を作用させて、可溶性の多糖を得る手法が提案されており、これによって、β−グルカンを多く含む可溶性多糖が、高収率で製造され得ることが明らかにされている。
さらに、特表平11−508772号公報には、pH5〜6及び35〜60℃の温度で、6〜48時間、微生物細胞を自己消化して得られる生成物から、固体材料を分離することによって、β−グルカン−マンナン調製物を得る手法が、明らかにされている。加えて、特表平11−500159号公報には、キチンを含有する微生物を、アルカリ溶液で処理した後、得られた生成物を希鉱酸で処理し、更に、アルカリ度の高いアルカリ溶液で処理することによって、部分的な脱アセチル化を施して、キトサン−グルカン複合体を調製する方法が、明らかにされている。
また、特表平9−512708号公報には、グルカンを含有する酵母細胞を、適切な抽出用水性アルカリ溶液や加水分解用酸、エタノール等を、それぞれ用いて、不溶性β−(1−3)−グルカン粒子を調製することが、明らかにされている。更に、特開平9−322795号公報には、酵母等の水不溶性グルカンを構成成分とする微生物菌体の含有溶液を、特定の濃度の酸化物と溶液のpHを10〜12.5にする水酸化物とで同時に処理することにより、生産菌の細胞破壊、脱色及び粘度低下が同時に実現されて、水不溶性グルカンが効率的に精製され得ることが、明らかにされている。
しかしながら、上述せるように、アルカリや酸、有機溶媒を用いてグルカンを得る手法においては、中和処理や脱塩処理等を行なう必要があり、製造工程が煩雑となる他、食品としての安全性の面からも不安が残るものであり、更には、収率の面でもあまり良好であるとは言い難いものであった。また、酵素剤を用いる手法では、酵素剤に含まれるアミラーゼ等によって、グルカンが分解されてしまう恐れがあり、効能の高い長鎖のグルカンを得ることが難しいといった問題があった。また更に、かかる手法で得られるグルカンにあっては、酵母細胞内の脂質分を充分に除去することが出来ず、かかる脂質の酸化によって、得られる製品が着色したり、酸化異臭が惹起される恐れがあった。
【発明の開示】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を用いることなく、安全性が高く且つ酸化異臭を発生することのないグルカンを、簡便に製造することの出来る方法を提供することにある。
そして、本発明者らは、そのような課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、物理的に破砕した酵母を、その細胞内酵素で自己消化する際や、酵素を添加して蛋白質を分解せしめる際に、媒体として、水道水等の水を電気分解することによって得られる電解水(電解生成水)、中でも、陰極側に生成されるアルカリ性の水(以下、アルカリ電解水と呼称する)を用いることにより、酸化による着色や酸化異臭のないグルカンを、有利に製造できることを見出したのである。
従って、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において、物理的に破砕された酵母に対して、かかる酵母の細胞内酵素による自己消化処理を実施する一方、アルカリ性プロテアーゼを添加して酵素処理を施すことを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法にある。
要するに、本発明に従う酵母由来グルカンの製造方法にあっては、アルカリ電解水中において、破砕された酵母の細胞内酵素による自己消化処理と、アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理(蛋白質分解処理)が行なわれているところから、酵母細胞を構成する蛋白質成分が効果的に分解され得ると共に、アルカリ電解水による洗浄効果乃至は界面活性効果が有利に発現され、以て、酵母細胞内の脂質や他の不要な成分がアルカリ電解水中に効果的に溶解されたりエマルジョン化されて、目的とするグルカンとの分離が良好に行なわれる。このように、アルカリ電解水中に、グルカン以外の他の成分が溶出せしめられることにより、固形分として残るグルカンから、蛋白質や脂質等の他の成分が効果的に取り除かれて、得られるグルカンの純度が向上することとなる。
また、アルカリ電解水は、アルカリ性を呈すると共に、酸化還元電位が低く、還元力を有しているところから、処理中、脂質の酸化等が惹起されることもない。従って、脂質の酸化によって招来される着色や酸化異臭の発生も有利に抑制乃至は防止され得ることとなる。更に、アルカリ電解水を用いることによって、メカニズムについては未だ充分に明らかにはされてはいないものの、酵母の細胞内酵素中のプロテアーゼの活性が高められると共に、アミラーゼ活性が効果的に抑制されて、従来に比して、より長鎖のグルカンを得ることが出来るのである。
しかも、アルカリ電解水は、アルカリ性を呈しているものの、水酸化ナトリウムの如きアルカリ金属の水酸化物を用いていないところから、煩雑な中和処理や脱塩処理が不要であり、従来に比して、簡便にグルカンを製造することが出来ると共に、得られるグルカンにあっては、食品としての安全性において、何等問題のないものとなる。
加えて、酵母の細胞内酵素による自己消化処理とアルカリ性プロテアーゼによる酵素処理が組み合わされて、実施されているところから、それぞれの処理を単独で行なう場合に比して、効率的な分解反応が可能となる。また、酵素処理のみを行なう場合に比べて、アルカリ性プロテアーゼの添加量を少なくすることが可能となり、製造コストを低く抑えることが出来ると共に、酵素添加に起因するアレルギーの発症を有利に防止して、得られるグルカンの品質を高度に確保することが出来る。
また、本発明に従う酵母由来グルカンの製造方法における望ましい態様の一つによれば、前記酵母の物理的な破砕が、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において行なわれる構成が有利に採用され、これによって、酵母細胞を構成する成分の酸化が、極めて効果的に防止され得るようになる。
さらに、本発明は、水を電気分解して得られるアルカリ電解水に対して、酵母とアルカリ性プロテアーゼを添加、混合せしめた後、その得られた混合液中において、該酵母を物理的に破砕する一方、該破砕された酵母に対して、該酵母の細胞内酵素による自己消化処理と該アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理とを同時に実施することを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法、及び、酵母を物理的に破砕した後、直ちにアルカリ性プロテアーゼを添加せしめることにより、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において、該破砕された酵母に対して、該酵母の細胞内酵素による自己消化処理と該アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理とを同時に実施することを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法を、別の態様とするものである。
これらの本発明に従う酵母由来グルカンの製造方法の態様においても、上述せるように、安全性が高く且つ酸化異臭を発生することのないグルカンを、有利に製造することが出来る。また、酵母の自己消化を促進するアルカリ性プロテアーゼが、製造工程の早い段階で添加されて、酵母の細胞内酵素による自己消化処理とアルカリ性プロテアーゼによる酵素処理が同時に行なわれているところから、自己消化処理と酵素処理が相俟って、酵母細胞中の蛋白質をより一層短時間で分解することが出来、以て、製造時間の短縮化を有利に実現することが出来るようになる。
また、本発明に従う酵母由来グルカンの製造方法における他の望ましい態様によれば、前記アルカリ電解水のpHが、8.5〜11.5の範囲内とされる。このようなpHが採用されることにより、酵母の細胞内酵素による自己消化やアルカリ性プロテアーゼによる酵素処理が、有利に実現される一方、蛋白質が媒体中に溶解され易くなり、高純度のグルカンを製造することが可能となる。
さらに、本発明に従う酵母由来グルカンの製造方法における更に別の好ましい態様によれば、前記アルカリ電解水の酸化還元電位が、−100〜−800mVの範囲内とされる。これにより、アルカリ電解水の還元力が効果的に作用せしめられ、各種成分の酸化が有利に防止されることとなる。ひいては、人体に悪影響を与えると考えられる酸化物の生成が効果的に抑制され、人体に対してより一層安全で、効能に優れたグルカンが有利に製造され得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例の実験例1において、SDS−PAGEを行なった際の結果を示す図であって、(a)は、酵素処理を2時間実施したものを、(b)は、酵素処理を4時間実施したものを、それぞれ示し、電気泳動後のゲルの写真と共に、ゲルの青色の強度の度合いが、「+」の数で表されている。
第2図は、β−グルカンの写真であって、(a)は、実施例の実験例2において製造されたβ−グルカンを、(b)は、市販品のβ−グルカンを示す。
第3図は、グルカンの波形図であって、(a)は、実施例の実験例2において製造されたβ−グルカンのFTIRスペクトルであり、(b)は、標準品のFTIRスペクトルである。
第4図は、実施例の実験例3において、SDS−PAGEを行なった際の結果を示す図であって、電気泳動後のゲルの写真と共に、ゲルの青色の強度の度合いが、「+」の数で表されている。
第5図は、実施例の実験例4において、SDS−PAGEを行なった際の結果を示す図であって、電気泳動後のゲルの写真と共に、ゲルの青色の強度の度合いが、「+」の数で表されている。
第6図は、実施例の実験例5において、SDS−PAGEを行なった際の結果を示す図であって、電気泳動後のゲルの写真と共に、ゲルの青色の強度の度合いが、「+」の数で表されている。
【発明を実施するための最良の形態】
ところで、本発明において採用される酵母としては、特に限定されるものではなく、例えば、酒類の醸造やアルコールの製造、製パン等に用いられる、サッカロミセス属(Saccharomyces)の酵母である、ビール酵母や清酒酵母、ワイン酵母、パン酵母、醤油酵母、味噌酵母等を挙げることが出来、これらのうちの少なくとも1種以上の酵母が、有利に用いられることとなる。なお、これらの酵母は、商業的に入手することが可能であって、例えば、パン酵母、ビール酵母等は、乾燥酵母として市販されている。
そして、そのような酵母を物理的に破砕したものに対して、自己消化処理や酵素処理を施すことにより、酵母に含まれる水不溶性のグルカンを取り出して、グルカンを製造するのであるが、本発明においては、自己消化処理や酵素処理に際して、媒体として、水を電気分解することによって得られるアルカリ電解水が用いられるのであり、そこに、大きな特徴を有しているのである。
具体的には、電解水は、通常の水道水等の水を、隔膜を有する電解槽中で電気分解することによって得られるものであり、かかる電気分解によって、水中に含まれているイオンは、それぞれの持っている電荷とは反対の電荷を有する電極に移動し、電気分解装置の陰極側では、カチオンが集まり、更に水素が生成されることにより、水道水(原水)に比して高pH、高濃度のカチオン及び還元性を有する水が生成される一方、陽極側では、アニオンが集まり、酸素が生成されることにより、水道水(原水)に比して低pH、高濃度のアニオン及び酸化性を有する水が生成される。そして、本発明においては、そのような二種類の電解水の中でも、陰極側に生成されるアルカリ電解水が用いられることとなる。
なお、かかるアルカリ電解水としては、上述せるように、電気分解によって陰極側に生成される電解水であれば良く、特に制限されるものではないものの、そのpHが、好ましくは8.5〜11.5、より好ましくは9.5〜10.5であるものが、望ましい。何故なら、pHが上記の範囲より小さいと、蛋白質の溶解作用が良好に発揮され得なくなる恐れがあるからであり、また、上記の範囲より大きくなると、酵素の至適pHから大きく外れて、酵素の活性が失われる恐れがあるからである。
また、アルカリ電解水には、陰極で生成された水素ガスが溶存しており、この水素ガスによって、アルカリ電解水の酸化還元電位は、水道水等の水(原水)に比して低い値となっている。このアルカリ電解水の酸化還元電位にあっても、特に限定されるものではないものの、好ましくは−100〜−800mV、より好ましくは−500〜−800mVであるアルカリ電解水を用いることが望ましい。このように、酸化還元電位の低いアルカリ電解水を用いれば、アルカリ電解水の還元力が効果的に作用せしめられて、酵母細胞中の脂質等の成分の酸化が有利に防止され、酸化異臭の発生が極めて効果的に抑制され得ると共に、緩やかな還元漂白によって、酸化による着色のない、良質なグルカンが得られる。
因みに、陽極側に生成される酸性電解水を用いた場合には、蛋白質の分解を充分に行なうことが出来なかったり、或いは、酵母細胞内の脂質が充分に可溶化されなかったり、また、可溶化されなかった脂質が酸化して黄ばんだり、酸化異臭が発生する等して、得られるグルカンの品質が低下する恐れがある。
ところで、上述せる如きアルカリ電解水を用いて、酵母から水不溶性のグルカンを得るには、例えば、以下の如き手法が好適に採用されることとなる。
すなわち、先ず、酵母を、その細胞内酵素で自己消化するために、酵母が物理的乃至は機械的に破砕されることとなる。この際、酵母を破砕する方法としては、特に限定されるものではなく、ボールミルによる破砕や、バンタムミル粉砕機による破砕、超音波破砕(ソニケーション)等、従来から公知の各種の破砕手法が、適宜に選択されて用いられるのであり、また、破砕処理温度や処理時間等の破砕条件も、使用する酵母の量や種類、破砕方法等に応じて、適宜に設定されることとなる。そして、かかる破砕処理によって、酵母の細胞壁が破砕されることにより、細胞内の、蛋白質、糖質、アミノ酸、有機酸、脂質等の各種成分が、細胞外に取り出され得るようになる。なお、酵母を破砕するに際しては、通常、湿式法が採用され、水道水等の水が、媒体として用いられているのであるが、本発明においては、上述せる如きアルカリ電解水が、使用されることが望ましい。そして、アルカリ電解水中で、酵母の破砕処理が施されることによって、その細胞内に存在する酵素が、アルカリ電解水に溶出されると共に、親水性の他の成分も可溶化される。
そして、上述せる如き破砕処理の後、破砕された酵母を、アルカリ電解水の存在下において、自己消化するのである。具体的には、上記した酵母の破砕を、湿式で、つまり、アルカリ電解水中で実施した場合には、破砕された酵母を含むアルカリ電解水中に、酵母の細胞内酵素が溶存されているところから、その溶液が、そのまま、所定の温度で保持されることによって自己消化処理が実施される一方、上記した酵母破砕を、乾式法にて実施した場合には、破砕された酵母に、適量のアルカリ電解水が加えられて、所定の温度で保持されることによって自己消化処理が実施される。
なお、アルカリ電解水の量は、特に制限されるものでないものの、アルカリ電解水の量が酵母に対して少なくなり過ぎると、脂質等の不要な成分をアルカリ電解水中に充分に可溶化せしめることが出来なくなる恐れがある一方、アルカリ電解水の量が多くなり過ぎると、酵母の細胞内酵素による消化が、効率的に行なわれず、酵母細胞を構成する各種成分、例えば、蛋白質、脂質、糖質(グルカンを除く)等を可溶化するまで充分に分解することが出来なくなる恐れがあるところから、アルカリ電解水は、酵母(乾燥重量)の1重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜5重量部となる割合において、用いられることが望ましい。
また、自己消化処理における処理温度は、酵母細胞内の蛋白質や、プロテアーゼ等の酵素が変性されないように、また、酵母の細胞内酵素による消化作用が効果的に発揮され得るように、一般に、40〜70℃程度の範囲の温度とされる。かかる温度範囲の中でも、特に、雑菌による汚染を防ぐためには、60℃程度とすることが望ましく、また、無菌状態で処理を行なう場合には、酵母の細胞内酵素の至適温度である、40〜50℃程度が採用されることが望ましい。
さらに、自己消化処理における処理時間としては、グルカンを除く酵母細胞の構成成分が充分に分解され得るように、酵素処理で添加する酵素の種類や濃度等も勘案して適宜に設定されることとなるが、一般に、8時間〜48時間程度、好ましくは、12時間〜24時間とされることが望ましい。何故なら、自己消化時間が長くなり過ぎると、グルカンの製造時間が長時間化して、製造効率が悪化し、実用的ではなくなると共に、自己消化は当然のことながら、酵母細胞内の酵素が活性を有している間のみ進行するので、自己消化時間を長くし過ぎても酵素が失活して充分な消化が行なわれず、無駄となる傾向があるからであり、更に、アルカリ電解水は有機物等の被酸化物を多く含有すると、還元電位やpHが原水の状態に戻り易くなるという性質を有しているところから、処理時間を長くしても、アルカリ電解水のpHや酸化還元電位が戻ってしまい、アルカリ電解水による効果を得ることが出来なくなる恐れがあるからである。また一方、自己消化時間が短過ぎると、酵母の細胞内酵素による消化が充分になされず、得られるグルカンの純度が低下するようになるからである。
また、本発明においては、上述せる如き自己消化処理を促進せしめて、高純度のグルカンを得るために、かかる自己消化処理に加えて、更に、アルカリ性プロテアーゼ(alkaline protease)による酵素処理が、実施されることとなる。この酵素処理において用いられるプロテアーゼとしては、アルカリ電解水中で蛋白質を分解し得ると共に、人体に対する安全性が確保されているものであれば良く、例えば、プロレザーFG−F(天野エンザイム(株)製)等を挙げることが出来る。
なお、かかるアルカリ性プロテアーゼの添加量としては、使用するプロテアーゼの種類等に応じて適宜に設定され得るのであるが、その添加量が少な過ぎると、アルカリ性プロテアーゼによる蛋白質の分解が充分に実現されず、また、多過ぎると、アルカリ性プロテアーゼによるアレルギーの発症等が懸念されると共に、製造コストの高騰を招く恐れがある。このため、アルカリ性プロテアーゼは、好ましくは、使用する酵母の重量(乾燥重量)の100重量部に対して、0.01〜2.0重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部となる割合において、添加されることが望ましい。
また、かかる酵素処理の処理条件は、使用するアルカリ性プロテアーゼに応じて適宜に設定され、処理時間としては、一般に、1〜48時間程度、好ましくは、1〜10時間程度が採用される。一方、処理温度としては、アルカリ性プロテアーゼが活性を有する温度であれば、特に制限されるものではないものの、好ましくは、アルカリ性プロテアーゼの至適温度が採用されることが、望ましい。なお、かかるアルカリプロテアーゼの至適温度は、一般に、45〜70℃の温度範囲にある。
そして、このようなアルカリ性プロテアーゼによる酵素処理によって、アルカリ電解水に可溶化していない蛋白質やグルカンに結合する蛋白質等の分解が効果的に促進されるようになるのである。
ところで、上記した自己消化処理操作と酵素処理操作とは、順次に実施されても、或いは、同時に行なわれても良い。具体的には、(1)破砕された酵母に対して、自己消化処理を所定時間実施した後に、アルカリ性プロテアーゼを添加して酵素処理を行なう手法、(2)酵母とアルカリ性プロテアーゼをアルカリ電解水中に添加、混合した後、酵母を破砕して、自己消化処理と酵素処理を同時に行なう手法、(3)酵母を破砕した後、直ちにアルカリ性プロテアーゼを添加して、自己消化処理と酵素処理を略同時に行なう手法等が、何れも採用され得るのである。特に、上記(2)や(3)のように、自己消化処理と酵素処理とを同時に実施する場合には、酵母の細胞内酵素とアルカリ性プロテアーゼの特性を勘案して、処理温度や処理時間が設定されることは、勿論、言うまでもないところであり、処理温度としては、一般に、50〜70℃の範囲の温度が好適に採用される一方、処理時間としては、12時間〜24時間の範囲の時間が採用されることが望ましい。なお、上記(2)や(3)の場合には、酵母の細胞内酵素とアルカリ性プロテアーゼとが同時に作用せしめられるところから、上記(1)の場合より、酵母細胞中の蛋白質が、より一層短時間で分解され得ることとなり、グルカンの製造時間の短縮化を図ることが出来る。
このように、酵母の細胞内酵素による自己消化処理とアルカリ性プロテアーゼによる酵素処理とを組み合わせて実施することによって、酵母細胞を構成する各種成分、特に、蛋白質が効果的に分解され、アルカリ電解水中に可溶化されるのである。
また、本発明においては、処理媒体として、通常の水に比して酸化還元電力が低く、且つpHが高いという特性を有する、アルカリ電解水が採用されているところから、水不溶性の長鎖のグルカンが有利に製造されるのである。この理由は、充分に解明されていないものの、本発明者等は、アルカリ電解水によって、細胞内酵素中のプロテアーゼ活性が高められて、プロテアーゼによる蛋白質の分解が効果的に実現される一方で、細胞内酵素中のグルカンを分解する酵素の活性が抑制されて、グルカンの分解が抑制されるからであると、推察している。
しかも、アルカリ電解水は、通常の水に比して、表面張力が弱く、浸透力やエマルジョン化能が高いといった特性を有しているところから、つまり、アルカリ電解水には、洗浄作用乃至は界面活性作用があるところから、その作用が有利に発揮されて、酵母細胞の構成成分である脂質等が、アルカリ電解水中に効果的にエマルジョン化され、以て、脂質等の成分と、水不溶性のグルカンとの分離も、極めて良好に実施され得るようになっている。
加えて、アルカリ電解水は、酸化還元電位が低いところから、アルカリ電解水中で、酵母細胞の構成成分が酸化するようなことも極めて効果的に防止されて、酸化異臭の発生や、酸化によるグルカンの着色も効果的に防止され得るようになっているのである。
そして、上述せる如き自己消化処理と酵素処理とが終了した後、所定の熱処理が実施される。この熱処理によって、各種酵素が失活せしめられ、酵素による各種成分の分解反応が終了する。なお、かかる熱処理の条件は、特に限定されるものではく、一般的な熱処理条件が採用され得るのであり、通常、80〜100℃で、5〜60分程度の加熱操作が施されることによって、アルカリ電解水中の酵素が失活することとなる。
その後、各種不要な成分が溶出せしめられたアルカリ電解水が、遠心分離や濾過等の固液分離操作によって分離、除去される。例えば、グルカンが分散せしめられた状態のアルカリ電解水を遠心分離して、上清を取り除くことによって、不要な成分が分離、除去されて、グルカンからなる固形分が取り出される。そして、更に必要に応じて、得られた固形分に対して洗浄処理や乾燥処理が実施されることにより、目的とするβ−グルカンが製造されるのである。
なお、上記洗浄処理においては、アルカリ電解水が用いられることが望ましい。アルカリ電解水を用いて固形分を洗浄すると、アルカリ電解水の洗浄作用によって、固形分に残存する脂質等の成分が、通常の水を使用した場合に比して、効果的に除去されることとなり、以て、得られるグルカンの純度が、より一層有利に高められることとなる。更に、アルカリ電解水を使用することによって、還元状態において洗浄処理を実施することが出来ることから、この洗浄処理においても、酸化による製品の劣化を防ぐこと出来る。また、かかる洗浄操作は、アルカリ電解水等の媒体にて、固形分を濯ぐことによって行なわれ、その回数は、適宜に設定されるものの、1〜8回程度、実施されることが、望ましい。
而して、このようにして製造される酵母由来グルカンにあっては、上述せるように、高い純度が確保されていると共に、酸化異臭の発生や酸化による着色も有利に抑制乃至は防止されている。しかも、グルカン自体の分解が抑制されて、免疫力向上作用等の効能が良好な、長鎖のグルカンとされているのである。
また、上記した酵母由来グルカンの製造方法によれば、アルカリ性を呈する電解水を使用しているものの、水酸化ナトリウムの如きアルカリ金属の水酸化物を何等使用していないところから、煩雑な中和処理や脱塩処理も不要であり、グルカンを簡便に製造することが出来ると共に、得られるグルカンにあっては、食品としての安全性も、充分に確保されたものとなるといった利点も得られる。
そして、本発明に従って製造される酵母由来グルカン(β−グルカン)は、従来のβ−グルカンと同様に、健康食品や医薬品等として、有利に使用されることとなる。
【実施例】
以下に、本発明の実施例を含む幾つかの実験例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実験例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
先ず、電解水と酵母を準備して、以下の実験例1〜5を実施した。
−電解水−
松江市の上水道水から、ホシザキ電機(株)製電解水生成装置(HOX−40A)を用いて、電解水を製造した。電解条件は、かかる装置の電解強度:3〜4(アンペア)、流量:3〜4L/minを採用した。また、得られた電解水の酸化還元電位は、酸性電解水が約+580mV、アルカリ電解水が約−700mVであった。
−酵母−
酵母菌としては、家庭用の乾燥パン酵母として市販されているドライイースト(日清スーパーカメリヤドライイースト)を準備した。
実験例 1
1−1) 酵母の細胞破砕処理
ビーズ式細胞破砕法にて、酵母細胞の破砕を行なった。即ち、先ず、乾燥酵母を、0.05gずつ量り取り、細胞破砕用チューブに、それぞれ、収容した。次いで、各チューブに、下記表1に示される媒体を、それぞれ、0.5mlずつ加えて、10w/v%の濃度に調整した。その後、各チューブ内に、小さじ1杯程度の細胞破砕用のビーズを投入して、かかるチューブを、Beads Homogenizer Model BC−20(販売元:(株)セントラル科学貿易)に取り付け、ホモジナイザーの回転軸を、回転速度:2500rpmで3分間、回転させることにより、酵母細胞の細胞壁を破砕した。
1−2)自己消化処理
インキュベーターを50℃に設定し、上記細胞破砕処理が施されたNo.1〜13の酵母のうち、No.4〜7及びNo.10〜13の酵母を、チューブごと、そのまま、インキュベーター内に収容し、下記表1に示されるように、24時間又は48時間の間、保持することにより、自己消化処理を実施した。
1−3)酵素処理
酸性電解水を用いたNo.3,5,7の酵母には、酵母菌体の重量の1%に相当する量の酸性プロテアーゼを加える一方、アルカリ電解水を用いた試料No.9,11,13の酵母には、酵母菌体の重量の0.5%に相当する重量のアルカリ性プロテアーゼを加えて、かかる添加酵素の至適温度:60℃に設定されたインキュベーター内で、2時間又は4時間、保持することにより、酵素処理を行なった。ここで、酸性プロテアーゼとしては、プロテアーゼM(天野エンザイム(株)製)を採用する一方、塩基性プロテアーゼとしては、プロレザーFG−F(天野エンザイム(株)製)を採用した。また、上記自己消化処理を実施したNo.5,7及びNo.11,13の試料については、かかる自己消化処理の後、速やかに酵素を加えて、この酵素処理を実施した。
1−4)蛋白質の消化確認試験
上述せる如き処理の後、No.1〜13の試料を充分に攪拌、混和した後に、ビーズのみを沈殿させて、かかる試料液を、希釈することなく、そのまま、SDS−PAGE用サンプル緩衝液(CBB溶液)と、1:1の割合で混合し、100℃で5分間、反応させた。次いで、そのサンプルを、各レーンに15μlずつアプライし、200Vの電圧をかけて、SDS−PAGEによる蛋白質の泳動を行なった。そして、SDS−PAGEの結果を示す写真を、第1図(a),(b)に示した。また、ゲルの染色の度合い(青色の強度の度合い)を、「+」印で、5段階に評価し、その結果を、下記表1と第1図に示した。なお、色が濃いもの程、「+」印の数が多く、蛋白質の消化率(分解率)が悪いことを示している。
また、第1図(a)及び(b)には、それぞれ、「酵素処理時間:2時間」及び「酵素処理時間:4時間」の結果が、それぞれ別個に示されているが、酵素処理を実施していない試料については、「酵素処理:無」の結果を、第1図(a)及び(b)に示した。

かかる表1及び第1図からも明らかなように、アルカリ電解水中で、酵母を自己消化した後、塩基性プロテアーゼを用いて酵素処理を施したNo.11,13は、蛋白質の消化率の高いことが、分かる。
これに対して、酸性電解水中で、酵素処理を実施したNo.5,7にあっては、特殊なバンドが見られ、酸化力が強い酸性電解水中で、酸性プロテアーゼを用いても、酵母蛋白質を充分に分解、除去できないことが、分かる。
また、自己消化のみを48時間実施したNo.12の結果から明らかな如く、酵母の細胞内酵素による自己消化のみでは、蛋白質の除去に限界があることが、分かる。
実験例 2
また、上記実験例1において、最も良好な結果を示したNo.13の自己処理条件及び酵素処理条件を採用して、β−グルカンを製造した。即ち、先ず、50gの乾燥酵母を、500mlのアルカリ電解水(pH10.0)に入れた後、酵母細胞を、ボールミルを用いて破砕した。次いで、破砕された酵母を、50℃の恒温器で48時間、保持することにより、自己消化を行なった後、酵母菌体の重量の0.5%に相当する重量の塩基性プロテアーゼ(プロレザーFG−F)を加えて、60℃の恒温器で4時間、保持することにより、酵素処理を実施した。その後、沸騰水を用いて10分間、熱処理を施すことによって、アルカリ電解水中の酵素を失活させた後、遠心分離操作を実施して、上清を除去した。次いで、500mlのアルカリ電解水(pH10.0)を加えて、攪拌することによって懸濁させた後、遠心分離操作を実施して、上清を除去する洗滌操作を3回繰り返し、最後に、500mlの蒸留水を加えて、懸濁させた後、遠心分離操作を実施して、上清を除去した。そして、得られた沈殿物に、適量の蒸留水を加えて、別の容器に移し、フリーズドライすることにより、酵母由来のβ−グルカンを製造した。
そして、上記の如くして酵母菌から抽出されたβ−グルカンの写真を、第2図(a)に示すと共に、比較のために、市販のβ−グルカンの写真を、第2図(b)に併せて示した。また、得られたβ−グルカンを、フーリエ変換赤外分析法(FTIR)にて分析し、得られたチャートを、第3図(a)に示すと共に、比較のために、4つの標準品(A:β−1,3−グルカン、B:β−1,6−グルカン、C:ビール酵母抽出グルカン、D:パン酵母の細胞壁)のチャートを、第3図(b)に示した(P.Thanardkit,P.Khunrae,M.Suphantharika and C.Verduyn,Glucan from spent brewer’s yeast:preparation,analysis and use as a potential immunostimulant in shrimp feed.World Journal of Microbiology & Biotechnology,Vol.18,527−539,2002参照)。
市販のグルカンは、強力なアルカリや酸を用いた加水分解により、脂質やタンパク質を分解しており、脂質の酸化等によって着色や酸化臭があったが、上述せるようにして製造されたβ−グルカンは、純白色で、異臭も無かった。これは、アルカリ電解水による還元力が作用されて、酵母に含まれる脂肪分やグルカンが酸化を受けず、また、アルカリ電解水による還元漂白作用が発揮されたことに起因するものと、推察される。
また、第3図(a)及び(b)中の枠▲1▼、枠▲2▼の部分が、β−グルカンの特徴的な波形が出る波長範囲であるが、得られたグルカンのFTIRスペクトルを、標準品のFTIRスペクトルと比較すると、得られたグルカンは、その波形から、β−1,3−グルカンを主に含む、β−1,6−グルカンとの混合物であることが、分かる。更に、余分なピークも出ていないことから、かなり高い純度であることが、推察される。また、酵母から抽出されたβ−グルカンの収率を算出したところ、約5%程度であった。
実験例 3
3−1)酵母の細胞破砕処理
乾燥酵母を、0.05gずつ量り取り、細胞破砕用チューブに、それぞれ、収容した。次いで、かかる各チューブに、アルカリ電解水(pH9.95)を、それぞれ、0.5mlずつ加えると共に、下記表2に示される割合に相当する量のアルカリ性プロテアーゼ(プロレザーFG−F)を、それぞれ加えた。その後、各チューブ内に、小さじ1杯程度の細胞破砕用のビーズを投入して、実験例1と同様にして、酵母細胞の細胞壁を破砕した。
3−2)自己消化処理・酵素処理
上記細胞破砕処理が施されたNo.14〜25の酵母を、添加酵素の至適温度に近い55℃で、下記表2に示される時間(0,2,4又は8時間)保持することにより、酵母の細胞内酵素による自己消化処理と、添加酵素による酵素処理を実施した。
3−3)蛋白質の消化確認試験
上記実験例1と同様にして、No.13〜25の試料について、SDS−PAGEによる蛋白質の泳動を行ない、その結果を示す写真を、第4図に示した。また、染色の度合い(青色の強度の度合い)を、上記実験例1と同様の評価方法で評価し、その結果を、下記表2と第4図に示した。

かかる表2及び第4図の結果から明らかなように、酵素濃度が0.5%であり、且つ処理時間が8時間であるNo.17の試料の蛋白質が、最も分解されていることが、分かる。また、かかるNo.17の試料を、実験例1のNo.13の試料と比較すると、蛋白質の消化率が低くなっているものの、8時間で、「++」となっている。このため、処理時間をもう少し長くすれば、No.13と同等の消化率が得られると思われる。従って、酵母細胞内の酵素による自己消化処理と添加酵素による酵素処理を同時に実施すれば、酵母細胞中の蛋白質を、より短時間で除去することが可能となり、以て、グルカンの製造時間の短縮を図ることが出来ると、考えられる。
実験例 4
4−1)酵母の細胞破砕処理
乾燥酵母を、0.05gずつ量り取り、細胞破砕用チューブに、それぞれ、収容した。そして、かかる各チューブに、アルカリ電解水(pH9.72)を、それぞれ、0.5mlずつ加えた。その後、各チューブ内に、小さじ1杯程度の細胞破砕用のビーズを投入して、実験例1と同様にして、酵母細胞の細胞壁を破砕した。
4−2)熱処理
上記細胞破砕処理が施されたNo.26,27の試料を、95℃で5分間加熱して、酵母の細胞内酵素を失活させた。その後、13,000prmの回転速度で5分間、遠心分離操作を行なって、上澄液を取り除いた後、新たに0.5mlのアルカリ電解水(pH9.72)を加えて、良く攪拌した。
4−3)酵素処理
上記熱処理が施された試料のうち、No.27の試料には、更に、酵母菌体の重量の0.5%に相当する量のアルカリ性プロテアーゼ(プロレザーFG−F)を加えて、添加酵素の至適温度に近い55℃で、4時間、保持することにより、添加酵素による酵素処理を実施した。
4−4)蛋白質の消化確認試験
上記実験例1と同様にして、No.26,27の試料について、SDS−PAGEによる蛋白質の泳動を行ない、その結果を示す写真を、第5図に示した。また、染色の度合い(青色の強度の度合い)を、上記実験例1と同様の評価方法で評価し、その結果を、下記表3と第5図に示した。

かかる表3及び第5図からも明らかなように、アルカリ電解水を用いても、自己消化処理及び酵素処理を実施しないNo.26は、蛋白質が全然消化されていないことが、分かる。
また、アルカリ電解水中で酵素処理のみを実施したNo.27は、蛋白質が熱変性され、アルカリ電解水中で自己消化と酵素処理を実施した上記実験例3のNo.16に比して、蛋白質の消化率が低くなっていることが、分かる。これは、熱処理によって、酵母の細胞内酵素が失活したこと、及び、熱変性による蛋白質の凝集及び高分子化が、アルカリ性プロテアーゼによる蛋白質の分解を阻害することによるものと、考えられ、アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理のみでは、蛋白質の除去に限界があることが推察される。
実験例 5
5−1)酵母の細胞破砕処理
乾燥酵母を、0.05gずつ量り取り、細胞破砕用チューブに、それぞれ、収容した。そして、かかる各チューブに、アルカリ電解水(pH9.95)を、それぞれ、0.5mlずつ加えた。その後、各チューブ内に、小さじ1杯程度の細胞破砕用のビーズを投入して、実験例1と同様にして、酵母細胞の細胞壁を破砕した。
5−2)酵母の洗滌処理
上記細胞破砕処理が施されたNo.28〜41の試料のうち、No.28を除く試料に対して、洗滌処理を実施した。即ち、各試料を、13,000prmの回転速度で5分間、遠心分離して、上清を取り除いた後、新たに0.5mlのアルカリ電解水(pH9.72)を加えて、良く攪拌することにより、酵母の洗滌を行なった。
5−3)自己消化処理・酵素処理
上記洗滌処理が施された試料のうち、No.30〜41の試料には、更に、下記表4に示される割合に相当する量のアルカリ性プロテアーゼ(プロレザーFG−F)を、それぞれ加えて、添加酵素の至適温度に近い55℃で、下記表2に示される時間(0,2,4又は8時間)保持することにより、酵母の細胞内酵素による自己消化処理と、添加酵素による酵素処理を実施した。
5−4)蛋白質の消化確認試験
上記実験例1と同様にして、No.28〜41の試料について、SDS−PAGEによる蛋白質の泳動を行ない、その結果を示す写真を、第6図に示した。また、染色の度合い(青色の強度の度合い)を、上記実験例1と同様の評価方法で評価し、その結果を、下記表4と第6図に示した。

かかる表4及び第6図の結果から明らかなように、酵母の未洗滌のNo.28と酵母を洗滌したNo.29とを比較すると、洗滌を行なったNo.29の方が、蛋白質が少ない。これは、アルカリ電解水に溶解した蛋白質の一部が洗い流されたことによるものと、考えられる。また、かかる洗滌処理の施されたNo.30〜41と、実験例3の、洗滌処理の施されていないNo.14〜25とを比較すると、両者に極端な差は無いように思われる。しかしながら、アルカリ電解水には、蛋白質を僅かではあるが溶解せしめたり、脂肪などの不純物を除去する作用があるところから、洗滌処理を施すことは有効であると、考えられる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において、物理的に破砕された酵母に対して、かかる酵母の細胞内酵素による自己消化処理を実施する一方、アルカリ性プロテアーゼを添加して酵素処理を施すことを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法。
【請求項2】
前記酵母の物理的な破砕が、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において行なわれる請求の範囲第1項に記載の酵母由来グルカンの製造方法。
【請求項3】
水を電気分解して得られるアルカリ電解水に対して、酵母とアルカリ性プロテアーゼを添加、混合せしめた後、その得られた混合液中において、該酵母を物理的に破砕する一方、該破砕された酵母に対して、該酵母の細胞内酵素による自己消化処理と該アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理とを同時に実施することを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法。
【請求項4】
酵母を物理的に破砕した後、直ちにアルカリ性プロテアーゼを添加せしめることにより、水を電気分解して得られるアルカリ電解水中において、該破砕された酵母に対して、該酵母の細胞内酵素による自己消化処理と該アルカリ性プロテアーゼによる酵素処理とを同時に実施することを特徴とする酵母由来グルカンの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ電解水のpHが、8.5〜11.5の範囲内である請求の範囲第1項乃至第4項の何れかに記載の酵母由来グルカンの製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ電解水の酸化還元電位が、−100〜−800mVの範囲内である請求の範囲第1項乃至第5項の何れかに記載の酵母由来グルカンの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/078114
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517854(P2005−517854)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001592
【国際出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【出願人】(501279752)株式会社アルプロン (2)
【Fターム(参考)】