説明

酵素による抗体処理方法

本発明は、次の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するための方法を含む:a)免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;b)アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、植物由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ、例えば生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)とインキュベートする工程;c)インキュベートしたアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液をプロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えにより産生された免疫グロブリンの酵素による下流処理方法に関する。より詳細には、本発明は、アフィニティークロマトグラフィー後の全長免疫グロブリンまたは免疫グロブリンFc部の(α1,3)グリコシド結合ガラクトースの含有量を酵素処理により改変する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
真核細胞から得られるポリペプチドはグリコシル化されたポリペプチドとして産生される。翻訳後の酵素的修飾として糖鎖構造がアミノ酸主鎖に結合される。
【0003】
グリコシルトランスフェラーゼは、糖タンパク質、プロテオグリカンおよび糖脂質を含めて、ポリペプチドの糖鎖構造の協調的な生合成に関与する、推定250〜300種類の細胞内膜結合型酵素の機能的ファミリーであると認められる。グリコシルトランスフェラーゼはそれらのヌクレオチド単糖供与体特異性に基づいてグループに分類される。例えば、ガラクトシルトランスフェラーゼは活性化単糖供与体としてUDP-ガラクトースを用いるグリコシルトランスフェラーゼのサブセットである一方で、シアリルトランスフェラーゼはCMP-シアル酸を用いるものであり、また、フコシルトランスフェラーゼはGDP-フコースを用いるものである(Shaper, N.L., et al., J. Mamm. Gland Biol. Neopl. 3 (1998) 315-324(非特許文献1))。
【0004】
さまざまな哺乳動物細胞上のα-ガラクトシルエピトープの改変には特に興味がもてる。というのも、ヒトでは循環IgG抗体の1%ほどがこのオリゴ糖残基と相互作用するからである。この自然抗体は、「抗Gal」と呼ばれ、生化学的に特定された糖脂質上の末端Gal(α1,3)Gal(β1,4)GlcNAc-Rと結合することが以前に見出された(Galili, U., et al., J. Exp. Med. 162 (1985) 573-582; Galili, U., et al., J. Exp. Med. 165 (1987) 693-704(非特許文献2および3))。放射性標識したバンディラマメ(Bandeiraea (Griffonia) simplicifolia)IB4レクチンの各種有核細胞への結合の測定からは、抗Galと結合する細胞が106〜3.5×107のα-ガラクトシルエピトープを発現し、その大部分が、抗Gal特異性に基づいて、Gal(α1,3)Gal(β1,4)GlcNAc-Rの構造をもつようであることが示唆される。ヒト細胞からのこうしたエピトープの欠如は、酵素(α1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼの活性低下から生じる(Galili, U., et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 17755-17762(非特許文献4))。
【0005】
マウス由来(Cummings, R.D. and Mattox, S.A., J. Biol. Chem. 263 (1988) 511-519; Blake, D.A., and Goldstein, I.J., J. Biol. Chem. 256 (1981) 5387-5393; Elices, M.J., Blake, D.A., and Goldstein, I.J., J. Biol. Chem. 261 (1986) 6064-6072(非特許文献5〜7))、ウサギ由来(Basu, M., and Basu, S., J. Biol. Chem. 248 (1973) 1700-1706; Betteridge, A., and Watkins, W.M., Eur. J. Biochem. 132 (1983) 29-35(非特許文献8および9))、ブタ由来およびウシ由来(Blanken, W.M., and Van den Eijnden, D.H., J. Biol. Chem. 260 (1985) 12927-12934(非特許文献10))の細胞のゴルジ装置でのGal(α1,3)エピトープの合成は、酵素(α1,3)ガラクトシルトランスフェラーゼによって触媒されることが実証されている。
【0006】
ヒトへの適用を目的とするポリペプチドでは、(α1,3)グリコシド結合した末端ガラクトース残基の存在は、この糖鎖構造がヒト免疫系による応答を惹起すると考えられるので、最小限にとどめる必要がある。これは、例えば、治療用ポリペプチドの糖鎖構造中に(α1,3)グリコシド結合した末端ガラクトース残基を導入しない、治療用ポリペプチドの組換え生産用の細胞株の時間のかかる開発によって、達成することができる。粗製ポリペプチドの下流処理工程で一般に用いられるクロマトグラフィー法では、Gal(α1,3)含有糖鎖構造を取り除くことができない。
【0007】
EP 0 255 153(特許文献1)には、1,4結合β-D-マンノピラノシル単位の主鎖に結合された1,6結合α-D-ガラクトピラノシル単位を切り離すことによってガラクトマンナンのガラクトース含有量を減らすことができるa-ガラクトシダーゼの生産方法が報告されている。免疫グロブリンGに結合したオリゴ糖の構造に基づいた臨床試験の方法は、EP 0 698 793(特許文献2)に報告される。EP 1 878 747(特許文献3)には、糖鎖が改変された抗体が報告されている。免疫グロブリンのグリカンの選択的マーキングはWO 2007/071347(特許文献4)に報告される。WO 1997/016064(特許文献5)には、異種移植の拒絶反応を軽減するための方法および組成物が報告される。酵素処理、特定の条件下での発現、特定の宿主細胞の使用、および血清との接触により調製される、G0およびG2などの、実質的に均質な非シアリル化グリコフォームを含む抗体調製物はWO 2007/024743(特許文献6)に報告される。
【0008】
WO 2008/057634(特許文献7)には、抗炎症性を高めかつ細胞毒性を低下させたポリペプチドならびに関連方法が報告されている。タンパク質分解に抵抗する抗体調製物はWO 2007/024743(特許文献6)に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP 0 255 153
【特許文献2】EP 0 698 793
【特許文献3】EP 1 878 747
【特許文献4】WO 2007/071347
【特許文献5】WO 1997/016064
【特許文献6】WO 2007/024743
【特許文献7】WO 2008/057634
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Shaper, N.L., et al., J. Mamm. Gland Biol. Neopl. 3 (1998) 315-324
【非特許文献2】Galili, U., et al., J. Exp. Med. 162 (1985) 573-582
【非特許文献3】Galili, U., et al., J. Exp. Med. 165 (1987) 693-704
【非特許文献4】Galili, U., et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 17755-17762
【非特許文献5】Cummings, R.D. and Mattox, S.A., J. Biol. Chem. 263 (1988) 511-519
【非特許文献6】Blake, D.A., and Goldstein, I.J., J. Biol. Chem. 256 (1981) 5387-5393
【非特許文献7】Elices, M.J., Blake, D.A., and Goldstein, I.J., J. Biol. Chem. 261 (1986) 6064-6072
【非特許文献8】Basu, M., and Basu, S., J. Biol. Chem. 248 (1973) 1700-1706
【非特許文献9】Betteridge, A., and Watkins, W.M., Eur. J. Biochem. 132 (1983) 29-35
【非特許文献10】Blanken, W.M., and Van den Eijnden, D.H., J. Biol. Chem. 260 (1985) 12927-12934
【発明の概要】
【0011】
植物由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ、例えば生コーヒー豆(green coffee beans)由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)は、免疫グロブリンCH2ドメイン中のアミノ酸Asn297にあるオリゴ糖から、(α1,3)グリコシド結合した末端ガラクトース残基を選択的に取り除くために使用できることがわかった。非植物由来の(α1,3)ガラクトシダーゼは、(β1,4)ガラクトシダーゼ副反応性をもつことがわかり、かつ/または3-もしくは4-分岐型のオリゴ糖とは反応性が乏しいか、反応性がなかった。
【0012】
したがって、本明細書では、以下の工程を以下の順序で含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法を報告する:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を切り離す酵素と共に、インキュベートする工程;
- インキュベートしたアフィニティークロマトグラフィー溶出液を、プロテインAクロマトグラフィー材料に、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをプロテインAクロマトグラフィー材料に結合させるのに適する条件下でアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。
【0013】
一態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素は、植物由来のものである。一態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素は、α-D-ガラクトシドガラクトヒドロラーゼ(EC 3.2.1.22)またはメリビアーゼ(Melibiase)から選択される。別の態様において、前記酵素は生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)である。別の態様では、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基は、(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基である。
【0014】
一態様において、アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素と共に、インキュベートする工程は、以下の工程を含む:
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を(α1,3)グリコシダーゼとインキュベートする工程;
- 該インキュベーション混合物からサンプルを採取する工程;
- 以下のどちらか一方を行う工程:
o 該サンプルをプロテインA被覆セファロースビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること、
o プロテインAセファロースビーズから免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収すること、
o グリコシダーゼ/シアリダーゼ消化のためのバッファー条件を調整すること、
o 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをグリコシダーゼ/シアリダーゼとインキュベートして、全てのN-グリカンを切り離すこと、および
o MALDI分析の前に消化物のアリコートを採取すること;
または
o サンプルをプロテインA被覆磁性ビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること、
o 該ビーズをグリコシダーゼとインキュベートして、切り離されたオリゴ糖を回収すること、および
o 切り離されたオリゴ糖をカチオン交換クロマトグラフィーで精製すること;
- 切り離されたオリゴ糖中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基の種類および量を質量分析により測定する工程;
- 前記酵素によって切り離すことができる糖鎖構造の非還元末端にある全ての単糖残基が切り離されるまで、前記インキュベートする工程を継続する工程。
【0015】
さらなる他の態様において、前記方法は最初の工程として以下の工程を以下の順序で含む:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードする核酸を含む細胞を用意する工程;
- 該細胞を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの発現に適する条件下で培養する工程;
- 前記細胞または培地から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収する工程;
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、プロテインAクロマトグラフィー材料に、免疫グロブリンをプロテインAクロマトグラフィー材料に結合させるのに適する条件下でアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンを回収する工程。
【0016】
一態様において、前記方法は最後の工程として以下の工程を含む:
- 生産された所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを1〜3のクロマトグラフィー工程で精製する工程。
【0017】
一態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素は、植物由来のものである。別の態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素は、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、マンノシダーゼ、フコシダーゼ、またはシアリダーゼから選択される。さらなる態様において、細胞は哺乳動物細胞である。別の態様では、哺乳動物細胞がハムスター細胞、またはマウス細胞、またはウサギ細胞、またはヒツジ細胞、またはそのハイブリドーマ細胞である。さらに他の態様では、細胞がCHO細胞、NS0細胞、BHK細胞またはSP2/0細胞である。
【0018】
本明細書で報告するさらなる局面は、組換えにより産生された免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造から末端(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基を切り離すための、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】変異型IL15FC-Fc融合ポリペプチドの基準サンプル(上部)の、およびキサントモナス・マニホチス(Xanthomonas manihotis)由来の(α1,3)ガラクトシダーゼとのインキュベーション(下部)の、全イオンクロマトグラム。この酵素は(β1,4)ガラクトシダーゼ活性をも有することが見て取れる。
【図2】変異型IL15FC-Fc融合ポリペプチドの基準サンプル(上部)の、および大腸菌(Escherichia Coli)由来の(α1,3)ガラクトシダーゼとのインキュベーション(下部)の、全イオンクロマトグラム。(α1,3)グリコシド結合ガラクトースは2分岐型のオリゴ糖でのみ除去され、この酵素も(β1,4)ガラクトシダーゼ活性を有することがわかる。
【図3】変異型IL15FC-Fc融合ポリペプチドの基準サンプル(上部)の、および生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼとのインキュベーション(下部)の、全イオンクロマトグラム。(α1,3)グリコシド結合ガラクトースは完全に除去され、この酵素には(β1,4)ガラクトシダーゼ活性がないことがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本明細書では、例えば生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)を用いて、免疫グロブリンCH2ドメインにアミノ酸残基Asn297で結合されたオリゴ糖から、(α1,3)グリコシド結合した末端ガラクトース残基を選択的に取り除くことができることを報告する。植物以外の他の供給源から得られる(α1,3)ガラクトシダーゼは、(β1,4)ガラクトシダーゼ副反応性をもつことがわかり、かつ/または3-もしくは4-分岐型のオリゴ糖とは反応性が乏しいか、反応性がなかった(表1参照)。
【0021】
(表1)異なる供給源からの(α1,3)ガラクトシダーゼの比較

【0022】
したがって、一態様において、本明細書に報告する方法で用いる、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を切り離す酵素は、植物由来のものである。別の態様において、本明細書に報告する方法で用いる、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を切り離す酵素は、(i) (α1,3)グリコシド結合した糖残基を切り離し、かつ(ii) (α1,4)グリコシド結合した糖残基を切り離すことはなく、かつ(iii) 2-、3-および4-分岐型のオリゴ糖から糖残基を切り離す、酵素である。
【0023】
本明細書では、以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法を報告する:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)とインキュベートする工程;
- インキュベートしたアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、プロテインAクロマトグラフィー材料に、任意に免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをプロテインAクロマトグラフィー材料に結合させるのに適する条件下で、アプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。
【0024】
ヒト免疫グロブリンは主に、重鎖CH2ドメインの297位のアスパラギン残基(Asn297)で、コアフコシル化2分岐型複合オリゴ糖によりグリコシル化されている(Kabatによる免疫グロブリンアミノ酸残基ナンバリング、下記参照)。2分岐型の糖鎖構造は、各アーム中の最大2個連続したガラクトース(Gal)残基で終わることがある。これらのアームは中心のマンノース残基へのグリコシド結合に応じて(1,6)および(1,3)と表される。G0で示される糖鎖構造はガラクトース残基を含まない。G1で示される糖鎖構造は1本のアームに1つまたは複数のガラクトース残基を含む。G2で示される糖鎖構造は各アームに1つまたは複数のガラクトース残基を含む(Raju, T.S., Bioprocess Int. 1 (2003) 44-53)。ヒト定常重鎖領域は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)により、およびBrueggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361; Love, T.W., et al., Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527により詳しく報告されている。免疫グロブリンFc部のCHO型グリコシル化は、例えば、Routier, F.H., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207に記載されている。
【0025】
用語「免疫グロブリン」は、ヒト免疫グロブリン、ヒト化免疫グロブリン、キメラ免疫グロブリン、またはT細胞抗原枯渇免疫グロブリンなど、さまざまな形態の免疫グロブリンを表しかつ包含する(例えば、WO 98/33523、WO 98/52976、およびWO 00/34317参照)。一態様において、本明細書に報告する方法で用いる抗体は、ヒトまたはヒト化抗体である。免疫グロブリンの遺伝子工学的操作は、例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; US 5,202,238およびUS 5,204,244; Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327; Neuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270; Lonberg, N., Nat. Biotechnol. 23 (2005) 1117-1125に記載されている。
【0026】
免疫グロブリンは一般に、2本のいわゆる全長軽鎖ポリペプチド(軽鎖)と2本のいわゆる全長重鎖ポリペプチド(重鎖)から成り立っている。全長重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれには、抗原と相互作用する結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般的には、全長ポリペプチド鎖のアミノ末端部分)が含まれる。全長重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれには、定常領域(一般的には、カルボキシル末端部分)が含まれる。全長重鎖の定常領域は、i)Fcガンマ受容体(FcγR)をもつ細胞(例えば食細胞)への、またはii)新生児Fc受容体(FcRn)(Brambell受容体の別名でも知られる)をもつ細胞への免疫グロブリンの結合を仲介する。それはまた、成分(C1q)などの古典的補体系の因子を含むいくつかの因子への結合をも仲介する。次に、全長免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメント、すなわち、4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(CDR)を含む。「全長免疫グロブリン重鎖」は、N末端からC末端の方向に、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)、免疫グロブリン定常ドメイン1(CH1)、免疫グロブリンヒンジ領域、免疫グロブリン定常ドメイン2(CH2)、免疫グロブリン定常ドメイン3(CH3)、および任意にサブクラスIgEの免疫グロブリンの場合には免疫グロブリン定常ドメイン4(CH4)、からなるポリペプチドである。「全長免疫グロブリン軽鎖」は、N末端からC末端の方向に、免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)および免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチドである。これらの全長免疫グロブリン鎖は、CLドメインとCH1ドメイン間および全長免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域間でポリペプチド間ジスルフィド結合を介して一緒に連結されている。
【0027】
用語「免疫グロブリンフラグメント」は、本出願においては、全長免疫グロブリン重鎖の少なくともCH2ドメインとCH3ドメインを含むポリペプチドを意味する。免疫グロブリンフラグメントは、免疫グロブリン以外に由来する追加のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0028】
近年、免疫グロブリンのグリコシル化パターン、すなわち、結合した糖鎖構造の糖組成およびその数の多さは、生物学的性質に強い影響を及ぼすことが報告された(例えば、Jefferis, R., Biotechnol. Prog. 21 (2005) 11-16参照)。哺乳動物細胞により産生された免疫グロブリンは2〜3質量%のオリゴ糖を含有する(Taniguchi, T., et al., Biochem. 24 (1985) 5551-5557)。これは、例えばクラスGの免疫グロブリン(IgG)において、マウス由来のIgGでは2.3個のオリゴ糖残基に相当し(Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophys. 257 (1987) 387-394)、かつ、ヒト由来のIgGでは2.8個のオリゴ糖残基に相当し(Parekh, R.B., et al., Nature 316 (1985) 452-457)、そのうち、一般的に2個がAsn297でFc領域に位置し、残りが可変領域に位置する(Saba, J.A., et al., Anal. Biochem. 305 (2002) 16-31)。
【0029】
本出願において用いる用語「糖鎖構造」とは、免疫グロブリンの特定のアミノ酸残基に結合された全てのオリゴ糖を表しかつ包含する。細胞のグリコシル化の不均一性のため、組換えにより産生された免疫グロブリンは、特定のアミノ酸残基に単一の規定されたN-またはO-結合型オリゴ糖を含むだけでなく、それぞれ同じアミノ酸配列を有するが特定のアミノ酸位置に異なって構成されたオリゴ糖を含むポリペプチド(免疫グロブリン分子)の混合物である。したがって、用語「糖鎖構造」は、組換えにより産生された免疫グロブリンの特定のアミノ酸位置に結合されているオリゴ糖の一群、すなわち、結合されたオリゴ糖の不均一性を表す。本出願において用いる用語「オリゴ糖」とは、2個以上の共有結合された単糖単位から構成される高分子糖を表す。
【0030】
本発明では異なるN-またはO-結合型オリゴ糖を表記するため、個々の糖残基をオリゴ糖分子の非還元末端から還元末端へと記載する。表記のために最長の糖鎖が基本鎖として選択された。N-またはO-結合型オリゴ糖の還元末端は、免疫グロブリンのアミノ酸主鎖のアミノ酸に直接結合される単糖残基である一方で、基本鎖の還元末端とは反対の末端に位置するN-またはO-結合型オリゴ糖の末端は非還元末端と呼ばれる。
【0031】
本出願において用いる用語「アフィニティークロマトグラフィー」とは、「アフィニティークロマトグラフィー材料」を使用するクロマトグラフィー法を意味する。アフィニティークロマトグラフィーでは、ポリペプチドが、その生物学的活性または化学構造に基づいて、クロマトグラフィー材料のクロマトグラフ官能基との静電相互作用、疎水結合、および/または水素結合の形成により分離される。特異的に結合したポリペプチドをアフィニティークロマトグラフィー材料から回収するために、競合リガンドを添加することが可能であり、またはバッファーのpH値、極性またはイオン強度などのクロマトグラフィー条件を変更することが可能である。例示的な「アフィニティークロマトグラフィー材料」は以下のものである:金属キレートクロマトグラフィー材料、例えばNi(II)-NTAもしくはCu(II)-NTA;または免疫グロブリンアフィニティークロマトグラフィー材料、例えば、本明細書で報告する方法の一態様では、プロテインAもしくはプロテインGが共有結合されて含まれているクロマトグラフィー材料;または酵素結合性アフィニティークロマトグラフィー材料、例えば酵素基質類似体、酵素補因子、もしくは酵素阻害剤がクロマトグラフ官能基として共有結合されて含まれているクロマトグラフィー材料;またはレクチン結合性クロマトグラフィー材料、例えば多糖類、細胞表面受容体、糖タンパク質、もしくはインタクトな細胞がクロマトグラフ官能基として共有結合されて含まれているクロマトグラフィー材料。
【0032】
用語「免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素」は、糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を選択的に切り離す酵素を意味する。そのような酵素は植物由来のものである。一態様において、酵素は植物由来のものであり、かつα-ガラクトシダーゼ((α1,3)-、(α1,4)-、および/または(α1,6)グリコシド結合したガラクトース残基の切り離し)、β-ガラクトシダーゼ((β1,4)グリコシド結合したガラクトース残基の切り離し)、マンノシダーゼ(マンノース残基の切り離し)、フコシダーゼ(フコース残基の切り離し)、およびシアリダーゼ(シアル酸残基の切り離し)から選択される。例示的なα-ガラクトシダーゼは(α1,3)ガラクトシダーゼ、例えばEC 3.2.1.22またはEC 2.4.1.151である(例えば、Dabkowski, P.L., et al., Transplant Proc. 25 (1993) 2921およびYamamoto, F., et al., Nature 345 (1990) 229-233参照)。一態様において、酵素は生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)である。
【0033】
用語「所定の糖鎖構造(defined glycostructure)」は、本出願において、糖鎖構造の非還元末端のそれぞれにおける単糖残基が、特定の種類のものであり、かつその糖鎖構造の残部に特定のグリコシド結合で連結されている、すなわち、それより先の全ての単糖残基がすでに切り離されている糖鎖構造を表す。用語「所定の糖鎖構造」は、本出願において、特定の種類の、糖鎖構造に特定のグリコシド結合で連結された、糖鎖構造の非還元末端にある全ての単糖残基が、すでに切り離されている、すなわち、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造が、糖鎖構造の残部に特定のグリコシド結合を介して連結された特定の末端単糖残基を失っているか、または欠いている糖鎖構造を表す。例えば、一態様として、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを(α1,3)ガラクトシダーゼと一緒にインキュベートする場合、その免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの全ての糖鎖構造は、非還元末端にある(α1,3)グリコシド結合ガラクトース単糖残基を欠失し、すなわち、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、(α1,3)グリコシド結合した末端ガラクトース残基を欠く所定の糖鎖構造を有する。
【0034】
本出願において用いる「〜にアプライする」およびその文法的に同等の用語は、対象の物質を含む溶液を固定相と接触させる精製方法の部分工程を表す。精製すべき関心対象の物質を含む溶液は固定相を通過して、固定相と溶液中の物質との相互作用をもたらす。例えば、pH、導電率、塩濃度、温度、および/または流速などの条件に応じて、溶液の一部の物質は固定相に結合され、それとともに溶液から取り除かれる。他の物質は溶液中に残る。溶液中に残存する物質はフロースルー中に見出される。「フロースルー」はクロマトグラフ装置を通過させた後に得られる溶液を意味し、この溶液は関心対象の物質を含むアプライされた溶液であってもよいし、あるいはカラムを洗い流すためにまたは固定相に結合した1種または複数種の物質の溶離を起こさせるために用いるバッファーであってもよい。関心対象の物質は、当業者によく知られた方法(例えば沈殿、塩析、限外ろ過、ダイアフィルトレーション、凍結乾燥、アフィニティークロマトグラフィー、または溶剤量の減少など)により精製工程後の溶液から回収することができ、実質的に均質な形態の物質が得られる。
【0035】
本明細書に報告する方法で糖鎖構造を改変できる免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、組換え手段により生産することができる。組換え生産方法は当技術分野で広く知られており、真核細胞でのタンパク質の発現と、その後の免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの単離および薬学的に許容される純度への精製が含まれる。免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの発現のために、ハイブリドーマ細胞または真核細胞のいずれかが用いられ、その細胞には免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードする1つまたは複数の核酸が導入されている。一態様において、真核細胞はCHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、BHK細胞、ウサギ細胞、またはヒツジ細胞から選択される。別の態様において、真核細胞はCHO細胞、HEK細胞、またはウサギ細胞から選択される。発現後、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、細胞から(上清からまたは溶解後の細胞から)回収される。免疫グロブリンの組換え生産のための一般的方法は当技術分野で周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説に報告されている。
【0036】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの精製は、細胞成分または他の汚染物質(例えば、他の細胞核酸またはタンパク質)を取り除くために、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および当技術分野で周知の他の方法を含めて、標準的な技法により行うことができる(例えば、Ausubel, F., et al.(編), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)参照)。さまざまな方法がタンパク質精製のために十分に確立されており、以下の方法などが広く普及している:微生物のタンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)、およびミックスモード交換)、チオール親和性(thiophilic)吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニル-セファロース、アザアレーン親和性(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)-およびCu(II)-アフィニティー材料を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、および電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)、ならびにこれらの組合せ、例えば、微生物タンパク質によるアフィニティークロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーおよびアニオン交換クロマトグラフィー(例えば、Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102参照)。
【0037】
組換えにより産生された免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造は、用いた細胞株と採用した培養条件によって決まる。従来の下流処理技術を用いて、特定の糖鎖構造を選択的に除去することは不可能である。
【0038】
本明細書で報告する方法を用いると、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを下流処理で取得することが可能である。免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造の非還元末端にある(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基の除去には、植物由来の、特に生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼが唯一適していることがわかった。
【0039】
本明細書で報告する方法を用いる、組換えにより産生された免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの下流処理の間の(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基の除去は、
- 組換えにより産生された免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの免疫原性を低下させる方法を提供する;
- 末端(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基を含む糖鎖構造を生成しない細胞株の取得/選択/使用の必要性をなくする;
- 追加のインキュベーションを含まない方法と比較して、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの追加のインキュベーション工程が原因で産物の品質が変化することがない;
- 下流処理の間に、すなわち、発現がインビトロで終了した後に、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する方法を提供する;
- 望ましくない糖鎖構造をもつ免疫グロブリンは除去されないが、全ての免疫グロブリンが所定の糖鎖構造へと酵素により変換されるので、改善された収率で所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンを提供する。
【0040】
したがって、本明細書で報告する一局面は、以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法である:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を特異的に切り離す酵素と共にインキュベートする工程。
【0041】
一態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を特異的に切り離す酵素は、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼである。別の態様において、末端単糖は(α1,3)グリコシド結合ガラクトースである。
【0042】
したがって、本明細書で報告する一局面は、以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法である:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を特異的に切り離す酵素と共に、インキュベートする工程;
- 酵素により改変されたアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、プロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。
【0043】
酵素反応の進行状況をモニタリングするために、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのグリコシル化プロファイルのオンライン測定を行うことができる。したがって、本明細書で報告する一局面は、以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法である:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液中に含まれる免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、
a)アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を特異的に切り離す酵素と共に、インキュベートすること;
b)該インキュベーション混合物からサンプルを採取すること;
c)該サンプルをプロテインA被覆磁性ビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること;
d)該ビーズをグリコシダーゼとインキュベートし、かつ切り離されたオリゴ糖を回収すること;
e)切り離されたオリゴ糖をカチオン交換クロマトグラフィーで精製すること;
f)切り離されたオリゴ糖の非還元末端にある単糖残基の種類および量を質量分析により、例えばMALDI-TOF MSにより測定すること;
g)酵素によって切り離すことができる免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造の非還元末端にある全ての単糖残基が切り離されるまで、工程a)〜f)を繰り返すこと
によって改変する工程;
- 酵素により改変されたアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、プロテインAクロマトグラフィー材料に、任意に免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをプロテインAクロマトグラフィー材料に結合させるのに適する条件下で、アプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。
【0044】
生コーヒー豆由来の酵素(α1,3)ガラクトシダーゼは、驚いたことに、本明細書で報告する方法において有用であることが判明した。細菌源由来の(α1,3)ガラクトシダーゼは、本明細書に報告する方法で検討されたものの、適さないことがわかった。全てのこうした酵素がオリゴ糖の(α1,3)グリコシド結合を切断できるが、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼだけが、適当な条件で、適切な特異性で、および適切な基質特異性で、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造のそのような結合を切断する。
【0045】
本明細書で報告するさらなる局面は、以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの生産方法である:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードする核酸を含む細胞を用意する工程;
- 該細胞を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの発現に適する条件下で培養する工程;
- 該細胞または培地から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収する工程;
- 回収した免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、プロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを溶出することによってプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンを回収する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液中に含まれる免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、
a)アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の末端単糖残基を特異的に切り離す酵素と共に、インキュベートすること;
b)該インキュベーション混合物からサンプルを採取すること;
c)該サンプルをプロテインA被覆磁性ビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること;
d)該ビーズをグリコシダーゼとインキュベートし、かつ切り離されたオリゴ糖を回収すること;
e)切り離されたオリゴ糖をカチオン交換クロマトグラフィーで精製すること;
f)切り離されたオリゴ糖の非還元末端にある単糖残基の種類および量を質量分析により、例えばMALDI-TOF MSにより測定すること;
g)酵素によって切り離すことができる免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの糖鎖構造の非還元末端にある全ての単糖残基が切り離されるまで、工程a)〜f)を繰り返すこと
によって改変する工程;
- 酵素により改変されたアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、プロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程;
- 場合により、生産された所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを1〜3の追加のクロマトグラフィー工程で精製する工程。
【0046】
例えば細胞培養法により産生された、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントの精製では、一般的に異なるクロマトグラフィー工程の組合せが利用される。通常、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーの後に、1つまたは2つの追加の分離工程が続く。一態様において、追加のクロマトグラフィー工程は、カチオンおよびアニオン交換クロマトグラフィー工程またはその逆である。最終的な精製工程は、凝集した免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞タンパク質)、DNA(宿主細胞核酸)、ウイルス、または内毒素のような微量の不純物および汚染物質を取り除くための、いわゆる「ポリッシング工程(polishing step)」である。一態様において、最終精製工程はフロースルーモードでのアニオン交換クロマトグラフィーである。
【0047】
一般的なクロマトグラフィー法およびそれらの使用は当業者に公知である。例えば、以下を参照されたい:Chromatography, 第5版, Part A: Fundamentals and Techniques, Heftmann, E.(編), Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992); Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Deyl, Z.(編), Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998); Chromatography Today, Poole, C.F., and Poole, S.K., Elsevier Science Publishing Company, New York, (1991); Scopes, Protein Purification: Principles and Practice (1982); Sambrook, J., et al.(編), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989; またはCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F.M., et al.(編), John Wiley & Sons, Inc., New York。
【0048】
本発明がなされた時期に、本発明者らの研究室では、N末端の変異型または非変異型IL-15部分とC末端のFc部分からなる融合タンパク質が十分な量で利用可能であった。この融合タンパク質は、例として用いられたものであり、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。したがって、一態様において、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントは、配列番号:1または2のインターロイキン-15部分とヒト由来Fc部分との融合タンパク質である。こうした分子は、WO 2005/100394の実施例1ならびに配列番号:3および4(マウスFc部分を含む)に報告されている。
【0049】
以下の実施例、図面および配列は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。説明した手順に、本発明の精神から逸脱することなく、変更を加えることができることが理解される。
【0050】
配列表の説明
配列番号:1 ヒト変異型インターロイキン15/Fcの核酸配列
配列番号:2 ヒト変異型インターロイキン15/Fcのアミノ酸配列
【実施例】
【0051】
実施例1
精製されたインターロイキン-15/Fc融合タンパク質の調製
インターロイキン-15/Fc融合タンパク質は、国際特許出願WO 1997/041232、WO 2005/100394およびWO 2005/100395に報告されたデータおよび方法に従って調製した。
【0052】
実施例2
(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基の切断
α-ガラクトシダーゼによる消化
サンプルを透析により対応するバッファー条件に調整し(表2参照)、その後酵素とインキュベートした。
【0053】
例えば、40mlのインターロイキン-15/Fc融合タンパク質溶液(約1mg/mlの濃度)を、1.5mLの(α1,3)ガラクトシダーゼ(204U/ml)により25℃で一夜(16時間)消化した。
【0054】
(表2)酵素消化条件

メーカーのマニュアルに従う
【0055】
プロテインAによる小規模精製
プロテインAカラムを、25mM 塩化ナトリウムおよび5mM EDTAを含む25mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンバッファー(TRIS) pH7.2で平衡化した。サンプルをカラムにアプライし、そのカラムを平衡化バッファーで洗浄し、かつ融合タンパク質を100mM クエン酸バッファー pH3.6で溶出させた。
【0056】
質量分析のためのサンプル調製
100μgのインターロイキン-15/Fc融合タンパク質を含むサンプルは、セントリコンを用いて、2mM TRIS-HCl, pH7.0にバッファー交換した。50μlのインターロイキン-15/Fc融合タンパク質を1μlのN-グリコシダーゼFおよび1μlのシアリダーゼで消化して、タンパク質からグリカンを切断し、かつシアル酸部分を除去した。
【0057】
イオン交換樹脂AG 50W-X8を水に懸濁して数回振とうした。樹脂の沈降後、水を廃棄した。これを3回行った。900μlの懸濁液をMICRO Bio-Spinクロマトグラフィーカラムに移し、1分間遠心した。
【0058】
消化したサンプルをカラムにアプライし、そのカラムを1分間遠心した。精製されたグリカンをフロースルー中に回収した。得られた溶液は、sDHBマトリックス溶液(125μlのエタノールと125μlの10mM塩化ナトリウム水溶液中のsDHB)を用いて1:1に希釈した。
【0059】
代替として、1μlの消化物のアリコートを1μlのDHBマトリックス溶液(10mM塩化ナトリウム水溶液中の10mg DHB)と混合し、高真空を用いて迅速に乾燥させてMALDI-TOF分析のための均質なスポットを得た。
【0060】
質量分析
キャリブレーションスペクトルは、Applied Biosystems社製のMALDI-TOF質量分析計Voyager DE Proをリフレクトロンモードで用いて取得した。加速電圧を20000Vに設定した;グリッド電圧は76%、およびミラー電圧比(Mirror Voltage Ratio)は1.12であった。引き出し遅延時間(Extraction Delay Time)を110nsに設定した。取得質量範囲は1000〜5000Daであり、レーザー強度は2460、およびレーザー繰り返し率(Laser Rep Rate)は20.0Hzであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産するための方法:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを含有するアフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を用意する工程;
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す、植物由来の酵素と共に、インキュベートする工程;
- インキュベートしたアフィニティークロマトグラフィー溶出液をプロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収し、それによって所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを生産する工程。
【請求項2】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素が、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素と共にインキュベートする工程が、以下の工程:
- アフィニティークロマトグラフィーカラム溶出液を(α1,3)グリコシダーゼと共にインキュベートする工程;
- 該インキュベーション混合物からサンプルを採取する工程;
- 以下のどちらか一方を行う工程:
o 該サンプルをプロテインA被覆セファロースビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること、
o プロテインAセファロースビーズから免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収すること、
o グリコシダーゼ/シアリダーゼ消化のためのバッファー条件を調整すること、および
o 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをグリコシダーゼ/シアリダーゼとインキュベートして、全てのN-グリカンを切り離すこと;
または
o 該サンプルをプロテインA被覆磁性ビーズにアプライし、その後ビーズを洗浄すること、
o 該ビーズをグリコシダーゼとインキュベートし、かつ切り離されたオリゴ糖を回収すること、および
o 切り離されたオリゴ糖をカチオン交換クロマトグラフィーで精製すること;
- 切り離されたオリゴ糖中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基の種類および量を質量分析により測定する工程;
- 該酵素によって切り離すことができる糖鎖構造の非還元末端にある全ての単糖残基が切り離されるまで、前記インキュベートする工程を継続する工程
を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
最初の工程として以下の工程:
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントをコードする核酸を含む細胞を用意する工程;
- 該細胞を培養する工程;
- 該細胞または培地から免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを回収する工程;
- 免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを、プロテインAクロマトグラフィー材料にアプライし、かつプロテインAクロマトグラフィー材料から免疫グロブリンを回収する工程
をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
最後の工程として以下の工程:
- 生産された所定の糖鎖構造をもつ免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントを1〜3のクロマトグラフィー工程で精製する工程
をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメイン中の糖鎖構造の非還元末端にある単糖残基を切り離す酵素が、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、マンノシダーゼ、フコシダーゼ、シアリダーゼから選択されることを特徴とする、請求項1および3〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が哺乳動物細胞であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物細胞がハムスター細胞、マウス細胞、ウサギ細胞、ヒツジ細胞、またはそのハイブリドーマ細胞であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がCHO細胞、NS0細胞、BHK細胞またはSP2/0細胞であることを特徴とする、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントが配列番号:2のアミノ酸残基18〜364に相当するアミノ酸配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
組換えにより産生された免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメントのCH2ドメインのアミノ酸アスパラギンに結合された糖鎖構造から末端(α1,3)グリコシド結合ガラクトース残基を切り離すための、生コーヒー豆由来の(α1,3)ガラクトシダーゼ(EC 3.2.1.22)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−500002(P2013−500002A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520966(P2012−520966)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004622
【国際公開番号】WO2011/012297
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】