説明

酵素を用いた植物組織の可溶化方法及び混合酵素製剤

【課題】セルラーゼを用いた植物組織の可溶化方法において、前処理にコストをかけることなく、セルラーゼの分解力を高めることによって植物組織を効率的に可溶化できる方法を提供すること。
【解決手段】セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを順不同で順次又は同時に植物組織に作用させる。好ましくは、植物組織1gに対し、セルラーゼを0.216〜126単位、クロロゲン酸エステラーゼを0.00006〜0.06単位及びタンナーゼを0.002〜2単位作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼの3種類の酵素を併用した植物組織の可溶化方法並びに該可溶化方法に用いられる混合酵素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物にセルラーゼ等の酵素を作用させて植物組織を可溶化することにより、植物の食味の改善(例えば渋みや苦みの低減等)や植物繊維の有効利用が図られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
セルラーゼ製剤で植物組織を可溶化する際、植物組織の可溶化の難易は、植物組織の種類、生育状況等で異なるが、実際には困難な場合が多い。その主な要因は、植物の構成成分に起因する。
【0003】
セルラーゼ製剤で植物組織の崩壊、可溶化を行う場合、まず、細胞を相互に接着しているプロトペクチン、ヘミセルロース等を細胞分離酵素(ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼなど)で分解し単細胞化する。その細胞壁の全表面を露出させた後、セルロース等で構成された細胞壁をセルラーゼ製剤で分解し、内容物を溶出させる方法が基本的な可溶化方法である。この可溶化方法で比較的容易に可溶化できるのは、軟質の植物繊維に限られる。多くの植物繊維は可溶化しにくい。固い植物組織は、セルラーゼ製剤に対し抵抗性を示す。その主な理由は、セルロースやヘミセルロースで構成される細胞壁や細胞間物質がプロトリグニン等の芳香族化合物で包埋されて難分解性化合物になっていて、酵素作用を阻害するためである。
【0004】
また、セルラーゼ製剤で木材等のセルロース系原料を糖化する際、リグニン等により酵素作用が阻害される要因を除去するため、前処理が行われる(例えば、非特許文献1〜2参照)。前処理の方法は、化学的方法や物理的方法あるいは微生物的方法が利用されるが、いずれの方法も一長一短があり有効な方法はまだ確立されていない。また前処理にコストがかかるのも問題となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−161258号公報
【特許文献2】特許第2948471号公報
【非特許文献1】木材学会誌28(2)122(1982)
【非特許文献2】木材学会誌35 521−529(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セルラーゼを用いた植物組織の可溶化方法において、前処理にコストをかけることなく、セルラーゼの分解力を高めることによって植物組織を効率的に可溶化できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、植物組織の多様な構造を理解し、まず天然芳香族化合物に特異性をもつ酵素製剤の検討を行った。
植物組織の基幹部分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンで構成され、これにタンパク質、澱粉、脂質等が結合している。リグニンは、細胞間や細胞壁に沈着し、セルロースやヘミセルロ−スと化学的に結合し物理的な強度を与えている。
ヘミセルロ−スは、種々の糖残基が多様な結合をしたヘテロポリマーである。セルロースのように規則性がなく、複雑な結合様式をしている。このセルロースやヘミセルロースにリグニンが結合し、植物の基幹構造が形成されている。
【0008】
リグニンとは、その前駆体(モノリグノール)である桂皮アルコールが酵素的に脱水素されたフェノキシラジカルが非酵素的に重合したものである。その結合様式は規則性のない複雑な構造であり、三次元網目構造を形成した、巨大な生体高分子である。
しかし、基本的な分子の結合すべてがC6−C3単位ではなく、その結合様式もβ−O−4型だけではなく、他の結合方法も種々存在する。この基質の多様性から、今後、色々な基質特異性を持った酵素製剤の検討が非常に重要になる。
植物組織に広く分布するリグニン以外の天然芳香族化合物のなかで、低分子のフェノール酸類は、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等とエステル結合をして存在するものも多い。これらの存在様式の詳細は不明だが、本発明者らは、これを、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ等のエステラーゼで加水分解することで、難分解性化合物の一角を崩し、セルラーゼ、へミセルラーゼの反応性が高まることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0009】
すなわち、本発明は、セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを順不同で順次又は同時に植物組織に作用させることを特徴とする、植物組織の可溶化方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、上記の本発明の植物組織の可溶化方法に用いられる酵素製剤として、セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを含有することを特徴とする、混合酵素製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前処理にコストをかけることなく、植物組織を効率的に可溶化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用されるセルラーゼとしては、セルロースに作用するものであれば特に限定されない。微生物起源としては、バチルス サブティリス(Bacillus subtilis) 、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger) 、イルペクス ラクトース(Irpex lacteus) 、ヒュミクラ インソレンス(Humicura insorens) 、トリコデルマ バリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ リーセイ(Trichoderm reesei) 等が代表的なものである。このなかでも特に、トリコデルマ属由来のものが最適である。
通常、セルラーゼは、上記生産菌を使用して、固形培養法又は液体培養法で製造されるが、セルラーゼとしては、麹、培養液、これを精製した濃縮液又は粉末等あらゆる態様で使用することが可能である。また、市販されているセルラーゼ製剤、例えば、協和化成社製セルラーゼ製剤「TP2−協和」等を使用することもできる。
【0012】
本発明で使用されるクロロゲン酸エステラーゼは、別名ヒドロキシシナミック酸エステル加水分解酵素とも言われる公知酵素である。クロロゲン酸エステラーゼとしては、クロロゲン酸エステラーゼ活性を有するものであればよく、例えばアスペルギルス属やボトリシス属等に属しクロロゲン酸エステラーゼ生産能を有する微生物をこれら糸状菌の培養に用いられる培地を用い、常法にしたがって固体培養又は液体培養して得られた、培養物又はその処理物が挙げられる。処理物としては、(1)該培養物の水抽出液、(2)液体培養濾液、(3)該水抽出液又は該液体培養濾液から硫安等を用いる塩析法又はアルコール等を用いる沈殿法等により沈殿物を得、これを乾燥した粗酵素粉末、(4)必要によりこの粗酵素粉末から調製した精製酵素、及び(5)市販されているクロロゲン酸エステラーゼ製剤、例えばキッコーマン社製クロロゲン酸エステラーゼ等が挙げられる。
【0013】
本発明で使用されるタンナーゼとしては、通常のタンナーゼ、例えば、没食子酸エステルを加水分解する活性を有するタンナーゼが挙げられる。具体的には、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、ムコール属等に属しタンナーゼ生産能を有する微生物をこれら微生物の培養に用いられる培地を用い、常法にしたがって固体培養又は液体培養して得られた、培養物又はその処理物が挙げられる。処理物としては、(1)該培養物の水抽出液、(2)液体培養濾液、(3)該水抽出液又は該液体培養濾液から硫安等を用いる塩析法又はアルコール等を用いる沈殿法等により沈殿物を得、これを乾燥した粗酵素粉末、及び(4)市販されているタンナーゼ製剤、例えば、キッコーマン社製タンナーゼ等が挙げられる。
【0014】
上記酵素により処理される植物としては、セルロースを主体成分とする植物であればよく、例えば、茶葉、ユーカリ、ポプラ等の木の葉、根及び枝等、サツマイモ、トウモロコシ、稲、麦、豆等の蔓、茎、葉及び刈草等、リンゴ、ユズ、ブドウなどの果実類等が挙げられる。
これらの植物は、そのままでもよく、必要に応じて乾燥、粉砕、加熱等の前処理を施してもよい。
【0015】
而して、本発明の植物組織の可溶化方法を実施するには、上記植物に上記のセルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを添加し、これら3種類の酵素を植物組織に作用させる。
これら3種類の酵素は、植物組織に別々に順次添加して作用させてもよいが、植物組織に同時に添加して作用させる方が好ましい。順次添加する場合、3種類の酵素の添加順序は順不同でよく、特に限定されないが、セルラーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼの順で添加するのが好ましい。
【0016】
上記の3種類の酵素を同時に添加して作用させる場合、各酵素の添加量及び酵素反応条件は、処理対象の植物の種類や酵素の形態等によっても異なるが、通常、次のようにするとよい。
セルラーゼの添加量は、植物組織1gに対し、0.216〜126単位、好ましくは7.2〜18単位(1単位はCMC溶液中で40℃、30分反応させたとき、1分間に1マイクロモルのグルコースを生成する酵素量)であることが好ましい。
クロロゲン酸エステラーゼの添加量は、植物組織1gに対し、0.00006〜0.06単位、好ましくは0.006〜0.015単位(1単位は30℃の水中において3−カフェオイルキナ酸を1分間に1マイクロモル加水分解する酵素活性を示す)であることが好ましい。
タンナーゼの添加量は、植物組織1gに対し、0.002〜2単位、好ましくは0.2〜0.5単位(1単位は30℃の水中においてタンニン酸に含まれるエステル結合を1分間に1マイクロモル加水分解する酵素量を示す)であることが好ましい。
【0017】
上記の3種類の酵素を同時に添加して作用させる場合の酵素反応は、従来より行われている方法に準じて行うことができ、例えば、植物に水又は水溶液を加え、そこに上記の3種類の酵素を同時に添加する方法、或いは3種類の酵素を予め混合しておき、この混合酵素と植物とを水又は水溶液に加える方法等により行うことができる。
この際の酵素反応条件は、反応温度が30〜50℃、特に40〜43℃で、反応時間が2〜50時間、特に3〜6時間であることが好ましい。水又は水溶液のpHは、調整しても調整しなくてもよいが、3.0〜7.0、特に4.0〜6.0に調整することが好ましい。また、反応中、攪拌しても攪拌しなくてもよい。
【0018】
また、上記の3種類の酵素を別々に順次添加して作用させる場合は、植物に水又は水溶液を加え、そこに上記の3種類の酵素を順次添加して反応させればよく、その際の各酵素の添加量及び各酵素反応条件は、次のようにするとよい。
セルラーゼの添加量は、植物組織1gに対し、0.216〜126単位、好ましくは7.2〜18単位であることが好ましい。
セルラーゼ処理に当り、反応温度は30〜50℃、特に40〜50℃に調整することが好ましい。反応時間は2〜50時間、好ましくは3〜6時間である。また、上記水又は水溶液のpHは、調整しても調整しなくてもよいが、3.0〜7.0、特に4.0〜6.0に調整することが好ましい。また、反応中、攪拌しても攪拌しなくてもよい。
【0019】
クロロゲン酸エステラーゼの添加量は、植物組織に含まれるクロロゲン酸が殆ど、ないし完全に分解するのに十分な量、例えば、植物組織1gに対し、0.00006〜0.06単位、好ましくは0.006〜0.015単位であることが好ましい。
クロロゲン酸エステラーゼ処理に当たり、反応温度は25〜60℃、特に50〜55℃に調整することが好ましい。反応時間は1〜10時間、好ましくは2〜6時間である。また、上記水又は水溶液のpHは、調整しても調整しなくてもよいが、5.0〜8.0、特に6.0〜7.0に調整することが好ましい。また、反応中、攪拌しても攪拌しなくてもよい。
【0020】
タンナーゼの添加量は、植物組織1gに対し、0.002〜2単位、好ましくは0.2〜0.5単位であることが好ましい。
タンナーゼ処理に当たり、反応温度は30〜46℃、特に40〜42℃に調整することが好ましい。反応時間は1〜10時間、好ましくは2〜6時間である。また、pHは、調整しても調整しなくてもよいが、4.5〜6.0、特に5.0〜5.5に調整することが好ましい。また、反応中、攪拌しても攪拌しなくてもよい。
【0021】
上記の3種類の酵素を別々に順次添加して作用させる場合、前に添加した酵素を失活させてから次の酵素を添加してもよく、前に添加した酵素を失活させずに次の酵素を添加してもよい。
【0022】
次に、上記の本発明の植物組織の可溶化方法に用いられる本発明の混合酵素製剤について説明する。
本発明の混合酵素製剤は、上述した3種類の酵素(セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼ)、及び必要に応じてこの種の酵素製剤の製造に従来より用いられている種々の担体、賦形剤、その他の添加剤を配合して製剤化したものである。剤型は、錠剤、散剤、顆粒剤、液剤等であり、常法により製剤化することができる。
【0023】
本発明の混合酵素製剤において、セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼの配合割合は、セルラーゼ100質量部に対し、クロロゲン酸エステラーゼを20〜30質量部、特に25〜27質量部とし、タンナーゼを20〜30質量部、特に25〜27質量部とすることが好ましい。
また、本発明の混合酵素製剤は、セルラーゼ活性が100〜10,000単位、特に500〜5,000単位、クロロゲン酸エステラーゼ活性が1〜100単位、特に5〜50単位及びタンナーゼ活性が50〜5,000単位、特に250〜2,500単位であることが好ましい。
本発明の混合酵素製剤には、例えば、アミラーゼ、プロテアーゼ等を適宜配合してもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0025】
実施例1
(1)茶葉の分解−1
茶葉(生)1gに対し純水30mlを加えた。これに、次の1)〜4)の製剤を添加した。
1) セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mg(60単位)単独
2) セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mg(60単位)にタンナーゼ製剤(キッコーマン社製)3mg(0.3単位)を併用
3) セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mg(60単位)にクロロゲン酸エステラーゼ製剤(キッコーマン社製)3mg(0.009単位)を併用
4) セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mg(60単位)にタンナーゼ製剤(キッコーマン社製)3mg(0.3単位)及びクロロゲン酸エステラーゼ製剤(キッコーマン社製)3mg(0.009単位)を併用
以上4区について比較試験を行った。酵素反応は、40℃で、43時間行い、反応終了後、分解液の生成還元糖を定量した。その結果を下記に示す。
1) セルラーゼ製剤単独:135mg
2) セルラーゼ製剤にタンナーゼ製剤を併用:150mg
3) セルラーゼ製剤にクロロゲン酸エステラーゼ製剤を併用:180mg
4) セルラーゼ製剤にタンナーゼ製剤及びクロロゲン酸エステラーゼ製剤を併用:240mg
この結果から、セルラーゼ製剤にエステラーゼを併用することで、セルラーゼ製剤の反応性が高まることがわかる。
特に、3種類の酵素を併用した本発明に係る4)区は、生成還元糖量が、セルラーゼ製剤単独処理の1)区の約1.8倍である。また、この4)区は、分解液の全体的な低分子化が進み濾紙濾過時の濾過速度も速く、完全な透明液が得られた。
【0026】
実施例2
(2)茶葉の分解−2
3種類の茶葉(生)(茶葉−1、茶葉−2、茶葉−3)を用いた。この茶葉1gに対し純水30mlを加え、これに、セルラーゼ6mg(21.6単位)、クロロゲン酸エステラーゼ2mg(0.006単位)及びタンナーゼ2mg(0.2単位)を含む混合酵素製剤10mgを添加し、反応させた。コントロールとして、セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mg(60単位)を単用した。40℃で保温して反応させ、24時間経過後にサンプリングし、ポアサイズ0.2μmのメンブランフイルターで濾過して、濾過液の総ポリフェノール量を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明の混合酵素製剤使用区は、総ポリフェノール量がコントロール(単用区)に比べて大きく上回っている。茶葉の種類によって酵素作用に違いはあるが、3種類の酵素の併用効果が各茶葉で認められた。
総ポリフェノール量を経時的にみると、茶葉−1では、本発明の混合酵素製剤使用区及びコントロール(単用区)の何れにおいても、酵素反応開始後6時間でほぼピークに達し、その後は横ばいで推移した。茶葉−2と茶葉−3では、6時間後も、本発明の混合酵素製剤使用区では総ポリフェノール量が徐々に増加したが、コントロール(単用区)では横ばいか、少し低下傾向を示した。
【0029】
実施例3
(3)呈味性への影響
実施例2で用いたものと同じ3種類の茶葉(茶葉−1、茶葉−2、茶葉−3)を用いて、呈味性に関係する遊離アミノ酸を調べた。茶葉1gに対し純粋30mlを加え、これに、実施例2で用いたものと同じ混合酵素製剤10mgを添加し、反応させた。コントロールとして、セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)10mgを単用した。40℃で保温して反応させ、経時的に、アスパラギン酸、グルタミン酸及びテアニンの量を測定した。結果は、いずれの試験区もアミノ酸量が2時間でピークとなり、酵素作用の違いは認められなかった。水溶性で低分子の遊離アミノ酸は比較的容易に水に溶解しやすいことが原因だと思われる。茶葉の種類でそれぞれのアミノ酸の溶出量に差はあるが、経時的にみた溶出量のパターンは同じで、2時間をピークにあとは横ばいに推移した。
【0030】
実施例4
(4)稲ワラの分解
稲ワラ(粉砕物又は未粉砕物)5gに対し水100mlを加え、実施例2で用いたものと同じ混合酵素製剤200mgを添加し、40℃で48時間反応させた。コントロールとして、セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)200mgを単用した。反応終了後、反応液の生成還元糖を測定した。その結果を下記に示す。
結果:
還元糖(稲ワラ乾物あたり)
稲ワラ(粉砕) ;本発明(混合酵素製剤使用区) 34.8%
:コントロール(セルラーゼ製剤単用区) 28.8%
還元糖(稲ワラ乾物あたり)
稲ワラ(未粉砕) ;本発明(混合酵素製剤使用区) 19.2%
:コントロール(セルラーゼ製剤単用区) 15.6%
粉砕ワラ及び未粉砕ワラのいずれの場合も、本発明の混合酵素製剤の分解力がコントロール(単用区)を上回った。粉砕と未粉砕では粉砕ワラがよい結果を示した。セルロース系固形基質の場合、一般に、粒度と分解率に相関がみられる。粉砕稲ワラと未粉砕稲ワラの分解率の違いは粒度の関係である。稲ワラのリグニン含有量は6〜7%である。
【0031】
実施例5
(5)サツマイモの蔓(生)の分解
サツマイモの蔓(生)60gに水200mlを加え、ミキサーでジュース状にした。少量の水で、全体を300mlにして、2等分した。これに、液量に対して0.1質量%の酵素を添加して、40℃で24時間酵素反応を行った。酵素は、実施例2で用いたものと同じ混合酵素製剤を用いた。またコントロールとして、セルラーゼ製剤(TP2−協和
協和化成社製)を単用した。反応終了後、濾紙で自然濾過した。この濾過液について生成還元糖を測定した。その結果を下記に示す。
生成還元糖の総量は、コントロール(単用区)では600mgであったのに対し、本発明の混合酵素製剤使用区では950mgであった。これは対照区の1.5倍である。この影響で酵素処理液の粘性に差が生じ、コントロール(単用区)では32cp(30℃)、本発明の混合酵素製剤使用区では11cp(30℃)の粘度であった。これは濾過性にも反映し、本発明の混合酵素製剤使用区の濾過速度はコントロール(単用区)の3倍であった。この多糖類の低分子化で濾過性が改善されることになり、濾過工程時間の短縮になる。
【0032】
実施例6
(6)トウモロコシの芯の分解
トウモロコシの芯1gに水30mlを加え、オートクレーブ後、セルラーゼ製剤(TP2−協和 協和化成社製)、タンナーゼ製剤(キッコーマン社製)、クロロゲン酸エステラーゼ製剤(キッコーマン社製)、ペクチナーゼ製剤(新日本化学社製) 、ヘミセルラーゼ製剤(新日本化学社製) 各15mgを表2に示す通りに添加した。試験区として表2に示す8試験区を用意した。37℃で4日間放置後、サンプル中のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度の測定は、グルコース測定キット(Megazyme社製)を用いた。
【0033】
【表2】

【0034】
図1に各試験区のサンプル中のグルコース濃度を示す。一般的に植物組織分解酵素とされるペクチナーゼ製剤やヘミセルラーゼ製剤を添加した試験区5や試験区6に比べて、クロロゲン酸エステラーゼ製剤を添加した試験区4ではほぼ同程度のグルコース濃度になっている。また、本発明に係る3種類の酵素を併用した試験区8ではさらにグルコース濃度が高くなる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例6で測定した各試験区のサンプル中のグルコース濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを順不同で順次又は同時に植物組織に作用させることを特徴とする、植物組織の可溶化方法。
【請求項2】
植物組織1gに対し、セルラーゼを0.216〜126単位、クロロゲン酸エステラーゼを0.00006〜0.06単位及びタンナーゼを0.002〜2単位作用させる、請求項1記載の植物組織の可溶化方法。
【請求項3】
請求項1記載の植物組織の可溶化方法に用いられる酵素製剤であって、セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼを含有することを特徴とする、混合酵素製剤。
【請求項4】
セルラーゼ、クロロゲン酸エステラーゼ及びタンナーゼの配合割合が、セルラーゼ100質量部に対し、クロロゲン酸エステラーゼ20〜30質量部及びタンナーゼ20〜30質量部である、請求項3記載の混合酵素製剤。
【請求項5】
セルラーゼ活性が100〜10,000単位、クロロゲン酸エステラーゼ活性が1〜100単位及びタンナーゼ活性が50〜5,000単位である、請求項3又は4記載の混合酵素製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−136234(P2009−136234A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318031(P2007−318031)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(594101307)協和化成株式会社 (2)
【Fターム(参考)】