説明

酵素シプロシン(シナラ・カルズンクルス由来のアスパラギン酸ペプチダーゼ)を含有する医薬組成物及びそれを含む抗腫瘍配合物

本発明の目的は、フィテプシン(phytepsin)を含有する調製物、より具体的には、シナラ・カルズンクルス(Cynara cardunculus)の花から抽出及び部分精製される天然物、又は、シプロシンの異種産生のために遺伝子改変されたサッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)の培養物に由来する上清から抽出される組換え体であっても、ヘテロダイマー、そのN末端プロペプチド、成熟N末端ペプチド及び成熟C末端ペプチド、同様にまた、他の前駆体化学種、プロセシング産物及び集合化学種を、分離されて、又は、前者の任意の組合せでのいずれかで含有するシプロシン(cyprosin)を含有する調製物の、治療的適用のための使用、より正確には、抗腫瘍剤としてのその使用のための使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、フィテプシン(phytepsin)の調製物を含有する医薬配合物、より具体的には、シナラ・カルズンクルス(Cynara cardunculus)の花に由来する天然のアスパラギン酸プロテアーゼであるとして特徴づけられるシプロシン(cyprosin)(UniProtKB/TrEMBLにおけるアクセス番号:Q39476)の調製物を含有する医薬配合物を開発することにある。
【0002】
本発明の目的は、ヘテロダイマー、シプロシンプレプロペプチド、ならびに/あるいは、N末端サブユニット及び/又はローブ(lobe)/鎖/N末端成熟サブユニットを含有するシプロシンプロペプチド、ならびに/あるいは、植物フィテプシンの特異的なC末端ドメイン及び/若しくはPSIドメイン、及び/又は、ローブ/ポリペプチド鎖/N末端成熟サブユニットを含有するシプロシンプロペプチド、ならびに/あるいは、PSIドメインを含有する単離されたポリペプチド、あるいは、初期プレプロペプチドのプロセシング又は分解に由来する任意の他の二次産物、同様にまた、他の前駆体化学種、プロセシング産物及び集合化学種を、分離されて、又は、前者の任意の組合せのもとでのいずれかで含有する言及されたシプロシンの調製物を提供することにある。
【0003】
本発明の目的は、シナラ・カルズンクルスの花から抽出される天然シプロシン、又は、異種タンパク質の産生のために遺伝子改変されたサッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)の培養物に由来する上清から抽出される組換えシプロシンのいずれかの調製物を提供することにある。
【0004】
本発明の目的は、言及されたシプロシンを含有する調製物を、ヒト上皮細胞株(すなわち、結腸由来細胞株(HCT)、腺ガン由来細胞株(HeLa)、線維肉腫由来細胞株(HT)及び横紋筋肉腫由来細胞株(TE))においてインビトロで明らかにされる抗腫瘍活性を有する医薬配合物を提供することを含む。
【背景技術】
【0005】
正常(非腫瘍)細胞の増殖及び老化の機構と、腫瘍細胞の増殖及び老化の機構とは類似している。これらの機構の1つの異常な調節により、腫瘍形成が誘導されることがある。因子、例えば、化学的作用因又は放射線作用因などはDNAに損傷を与え、プログラム化された細胞死(PCD)、すなわち、アポトーシスに関与する遺伝子の発現を変化させることができ、これにより、増殖因子の非存在下での制御されない細胞増殖を生じさせる。
【0006】
ペプチダーゼ、プロテアーゼ又はプロテイナーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素はペプチド結合を加水分解する。エキソペプチダーゼは末端のポリペプチド領域の近くで作用し、一方、エンドペプチダーゼは、ポリペプチド鎖を、酵素の性質に依存して、より大きい特異性又はより低い特異性で内部において切断する。エンドペプチダーゼが、PCDプログラムの正しい機能のために要求される生化学的シグナルの伝達において重要な役割を果たす。それらの触媒作用機構によれば、エンドペプチダーゼは、セリンペプチダーゼ、システインペプチダーゼ、アスパラギン酸ペプチダーゼ、トレオニンペプチダーゼ及びメタロペプチダーゼの5つの異なるサブクラスに分けられる(非特許文献1及び非特許文献2参照)。PCDに関与するプロセスが、誘導シグナルの合成及び放出(細胞外)、誘導シグナルの伝達(細胞内)、そして、最後に、執行経路と称される、すべての細胞に共通する細胞内経路の3つの異なる関連した経路で生じる。エンドペプチダーゼは、PCDを誘導するための特異的なシグナルを、生物活性分子のプロセシング及び送達と、細胞表面における受容体の活性化とによって生じさせる[例えば、サイトカイン(TNF−α、γ−インターフェロン(IFN−γ)、TGF−β)、及び、Fas/APO−1のための受容体リガンド](非特許文献3参照)。
【0007】
PCD誘導シグナルを伝達することに関するエンドペプチダーゼ(すなわち、カスパーゼ)の役割が広く実証されている。カスパーゼは、例えば、エンドヌクレアーゼ阻害剤タンパク質の切断及びその結果としての阻害により、核DNAの切断を間接的に促進させる。これにより、アポトーシスに入る細胞において観測される形態学的変化、すなわち、サイズにおける低下、及び、細胞の核の凝縮が説明される(Muzzio(1998)及びHorta(1999)参照)。
【0008】
執行経路が何に関係するかにおいて、プロテアーゼが、2つの異なる機能的グループに由来する2つのタイプの分子をプロセシング/切断することによって、すなわち、細胞構造の組織化及び維持に関して関与する分子と、恒常性に関して関与する酵素とをプロセシング/切断することによって作用し得る(Thornberryら(1997)参照)。
【0009】
Louis Deissら(1996)は、サイトカインにさらされた細胞から調製されるアンチセンスcDNAによるランダム遺伝子サイレンシング法を使用して、アスパラギン酸プロテアーゼのカテプシンD(CatD)に由来するアンチセンスRNAが、腺ガン由来のヒト上皮細胞株(HeLa細胞)を、IFN−γ、Fas/APO−1及びTNF−αを介するPCDから保護することができたことを示した(非特許文献3参照)。これは、サイトカインによって媒介されるか、又は、サイトカインによって媒介されないプログラム化された細胞死の誘導に関するCatDの直接的な役割を明らかにした多くの研究の中で最初のものであった。それ以降、多くの他の機構が、PCDの誘導におけるCatDの機能を説明するために提案されている。Wuら(1998)は、p53因子に依存する腫瘍の抑制に関するCatDの役割を指摘した(非特許文献4参照)。さらに後に、Bidereら(2003)は、CatDを介するヒトTリンパ球のアポトーシス表現型の誘導が、アポトーシス開始プロセスの活性化因子として特異的に機能するAIF因子(ミトコンドリアのタンパク質)の選択的な放出を誘導するBaxタンパク質の不活性化から生じることを提案した(非特許文献5参照)。Piwnicaら(2004)によれば、CatDはヒトプロラクチンをプロセシングすることができ、それにより、そのN末端に類似する小さいフラグメントを生じさせる(非特許文献6参照)。その血管形成活性のために、これらのフラグメントは腫瘍発達に関して阻害的役割を果たす。同年には、Iacobuzio−Donahueらは、ウエスタンブロッティング、免疫組織化学及びグリコシル化分析の技術を使用して、結腸腫瘍の59のサンプルにおけるCatDの発現パターンを研究した(非特許文献7参照)。CatDの含有量及び発現を調べることによって、Iacobuzio−Donahueらは、CatD発現の喪失を、観測されたサンプルの50%超において病理学と相間させることができた。さらに後に、Haendelerら(2005)は、チオレドキシン−1(Trx)(反応性酸素ラジカル(ROR)を封鎖するその能力に由来する不可欠なアポトーシス防止タンパク質)の分解を介するPCDに関するカテプシンDの役割を報告した(非特許文献8参照)。より近年には、CatDがカスパーゼ依存的アポトーシスをラット腫瘍胚性細胞株(3Y1−Ad12系統)及びヒト慢性骨髄性白血病(K562)において刺激することが明らかにされている。最初の場合には、CatD媒介のアポトーシスがその触媒活性とは無関係であり、このことから、構造的特徴との関連性が説明される(非特許文献9及び非特許文献10参照)。
【0010】
現在、動物細胞のアポトーシスにおけるCatDの根本的な役割を予見することができず、従って、そのアポトーシス活性が1つだけの機構に起因するかどうかの結論を下すことができない。最終的な影響は、一部の癌型に対する新しい作用因/分子を見出すために詳しく探索され得るいくつかの相互に関連した経路に起因するかもしれない。
【0011】
動物モデルにおけるPCDに関して存在する知識と対照的に、ペプチダーゼと、植物細胞におけるPCDとの間での直接的な関連性に関しては何ら報告されていない。Dunn(2002)は、動物細胞との類推を指摘して、植物でのPCDにおける植物ペプチダーゼの関与が及ばない機構に関して報告している(非特許文献11参照)。今回の革新技術のために特に関連性がある植物ペプチダーゼの一例が、フィテプシン類(ペプシン様アスパラギン酸エンドペプチダーゼのファミリーA1)のペプチドである(非特許文献2参照)。フィテプシンは、植物におけるPCDに関連するものとして記載される、MEROPSデータベース(ペプチダーゼ及びそれに対応する特異的阻害剤の参照データベース)に載せられる唯一のアスパラギン酸エンドペプチダーゼである(非特許文献12参照)。そのような仮定に対する証拠が、これらの酵素のmRNA発現のレベルが老化に沿って葉及び花弁において増大することである(非特許文献13及び非特許文献14参照)。フィテプシンが、PSI(植物特異的挿入)ドメインによって示されるC末端付近の100残基を除いて、動物のCatDとの大きい相同性を有するプレプロペプチドとして合成される。その名が示唆するように、このドメインはフィテプシンについて特異的である(非特許文献15参照)。PSIドメインは、サポシン(動物におけるスフィンゴ脂質の活性化因子であることが知られている酵素)との大きい相同性を示す。PSIドメインは、プロペプチドを2つのほぼ等しい部分に切断する翻訳後プロセシングの期間中に生じる切断によってプロペプチドのC末端から分離される(非特許文献16参照)。この最初の切断は、コムギのフィテプシンに関してはたまたまそうであるように自己触媒的であり得る。この最初の切断は、成熟タンパク質のエンドペプチダーゼ活性のためには不可欠なものである。
【0012】
その結果として、成熟タンパク質が、最初の切断から生じるN末端プロペプチドのプロセシングに由来する1つの重鎖と、PSIドメインを含有する第2の部分のC末端からなる軽鎖との2つの鎖の集合から生じる。PSIドメインが存在しないため、N末端プロペプチドは、動物及び微生物のアスパラギン酸エンドペプチダーゼ(例えば、CatDなど)のすべてのプロ形態(pro−form)に共通する典型的な構造を示す(非特許文献16参照)。
【0013】
CatDとの大きい相同性を有するフィテプシンの典型的な場合がシプロシンファミリーであり、これは以前には、シナラ・カルズンクルス(アザミ)の花からHeimgartnerら(1989)によって初めて単離されているシナラーゼ(cynarase)又はシナリン(cynarin)によって示されたものである(非特許文献17参照)。イベリア半島においてチーズを製造するために従来から使用されるカルドシン(cardosin)とよく類似するように、シプロシンが、カゼインを基質として使用するとき、pH5.1において最大活性を有する、ヘテロダイマーのグリコシル化されたアスパラギン酸エンドペプチダーゼであるとして初めて記載されている(非特許文献18参照)。それ以降、cDNAライブラリーが構築され、シプロシン3をコードするcDNA及びCYPRO11遺伝子の配列を含有するクローンが解読された。これらの結果に続いて、シプロシン3の特徴づけが行われており、C.cardunculusの花の種々の器官におけるその組織化学的局在化が研究された(非特許文献18〜非特許文献22参照)。より近年には、これらのプロテアーゼの全体的構造(それらのプレドメイン及びプロドメインの配列)だけでなく、それらのグリコシル化パターンを、それらの典型的なプロセシング機構と同様に解明する他の研究が行われている(非特許文献16、非特許文献23〜非特許文献28参照)。最後に、産業的適用のためのシプロシンの大規模製造を目指すCYPRO11遺伝子が酵母において発現することが引き金となり、アスパラギン酸エンドペプチダーゼのますますの経済的関心及び治療的関心が増加されている(非特許文献29及び特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第1196542号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Rawlings N. D., Morton F. R. and A. J. Barrett(2006). MEROPS: the peptidase database databese. Nucleic Acids Res 34:D270−D272
【非特許文献2】Beers E.P.,Bonnie J.W.and C.Zhao(2000).Plant proteolytic enzymes:possible roles during programmed cell death.Plant MoI.Biol.44:399−415.
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【非特許文献12】Rawlings N.D.,Morton F.R.and A.J.Barrett(2006).MEROPS:the peptidase database.Nucleic Acids Res34:D270−D272.
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【非特許文献22】Brodelius P.E.,Cordeiro M.,Mercke P.,Domingos A.,Clemente A.and M.S.Pais(1998).Molecular cloning of aspartic proteinases from flowers of Cynara cardunculus SUBSP.flavescens CV.cardoon and Centaurea calcitrapa.Adv Exp Med Biol.436:435−439.
【非特許文献23】Faro C.,Verissimo P.,Lin Y.,Tang J.and E.Pires(1995).Cardosin A and B,aspartic proteases from the flowers of cardoon.Adv.Exp.Med.Biol.362:373−7.
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【非特許文献25】Costa J.,Ashford D.A,Nimtz M.,Bento I.,Frazao C.,Esteves C.L.,Faro C.J.,Kervinen J.,Pires E.,Verissimo P.,Wlodawer A.and M.A.Carrondo(1997).The gly− cosilation of aspartic proteinases from barley(Hordeuin vulgcire L.)and cardoon(Cynara cardunculus L.).Eur.J.Biochem.243:695−700.
【非特許文献26】Ramalho−Santos M.,Pissarra J.,Verissimo P.,Pereira S.,Salema R.,Pires E.and C.J.Faro.(1997).Cardosin A,an abundant aspartic proteinase,accumulates in protein storage vacuoles in the stigmatic papillae of Cynara cardunculus L.Planta,203:204−12.
【非特許文献27】Bento I.,Coelho R.,Frazao C,Costa J.,Faro C.,Verissimo P.,Pires E.,Cooper J.,Dauter Z.,Wilson K.and M.A.Carrondo(1998).Crystallisation,structure solution,and initial refinement of plant cardosin−A.Adv Exp Med Biol.436:445−52.
【非特許文献28】Frazao C.,Bento I.,Costa J.,Soares J.M.,Verissimo P.,Faro C,Pires E.,Cooper J.and M.A.Carrondo(1999).Crystal structure of cardosin A,a glycosylated and Arg− GIy− Asp−containing aspartic proteinase from the flowers of Cynara cardunculus.J.Biol.Chem.274:27694−27701.
【非特許文献29】Pais M.S.S.,Conceicao F.C.C.and J.Rudy(2000).Production by yeasts of aspartic proteinases from pant origin with sheep’s,cow’s,goat’s milk,etc.clotting and proteolytic activity.WO/2000/075283.
【非特許文献30】Skehan P.,Storeng R.,Scudiero D.,Monks A.,McMahon J.,Vistica D.,Warren J.T.,Bokesch H.,Kenney S.and M.R.Boyd(1990).Evaluation of colorimetric protein and biomass stains for assaying drug effects upon human tumour cell lines.Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.13:1107−1112.
【非特許文献31】Monks A.,Scudiero D.,Skehan P.,Shoemaker R.,Paull K.,Vistica D.,Hose C.,Langley J.,Cronise P.,Vaigro−Wolff A.,Gray−Goodrich M.,Campbell H.,Mayo J.and M.Boyd(1991).Feasibility of high−flux anticancer drug screen using a diverse panel of cultured human tumour cell lines.J.Nat.Can.Inst.Vol.83,N° 11.
【非特許文献32】Faro C,Ramalho−Santos M.,Vieira M.,Mendes A.,Simoes I.,Andrade R.,Verissimo P.,Lin X.,Tang J and E.Pires(1999)Cloning and Characterization of cDNA encodong Cardosin A,an RGD−containing Plant Aspartic Proteinase.J.Biol.Chem.274:28724−28729
【非特許文献33】Glathe S.,Kervinen J.,Nimtz M.,Li G.H.,Tobin G.J.,Copeland T.D.,Ashford D.A.,Wlodawer A.and J.Costa(1998)Transport and activation of the vacuolar aspartic proteinase phytepsin in barley(Hordeuin vulgare L.).J.Biol.Chem.273:31230−31236.
【非特許文献34】Kervinen J.,Tobin G.J.,Costa J.,Waugh D.S.,Wlodawer,A.and A.Zdanov(1999).Crystal structure of plant aspartic proteinase prophytepsin:inactivation and vacuolar targeting.EMBO J.18:3947−3955.
【非特許文献35】Ruoslahti E.(1996).RGD and other recognition sequences for integrins.Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.12:697−715.
【発明の概要】
【0016】
本発明は、シナラ・カルズンクルスの花又は組換えサッカロミセス・セレビジアエ培養物(BJ1991)の上清のどちらかからそれぞれ抽出される天然シプロシン調製物及び組換えシプロシン調製物(UniProtKB/TrEMBLにおけるアクセス番号:Q39476)の細胞毒性研究に基づく。
【0017】
これらの酵素調製物は、両方の構造的ポリペプチド鎖、すなわち、N末端鎖(これはN末端プロペプチド又はN末端成熟ペプチドであり得るか、あるいは、両方の組合せでさえあり得る)と、C末端鎖(成熟C末端ペプチド)とを含有する。
【0018】
天然タンパク質及び組換えタンパク質の両方が、以前に記載された方法に従って抽出及び精製された(非特許文献21及び非特許文献29参照)。
【0019】
本発明をもたらした細胞毒性研究は、スルホローダミンB(SRB)の方法を使用して行われた。この方法は、SRBにより着色される、培養されたヒト細胞株における総細胞タンパク質バイオマスの比色測定定量によって製造物の細胞毒性を測定するための迅速かつ正確な方法である。酸性条件下において、SRBは、トリクロロ酢酸(TCA)により事前に固定処理された細胞における塩基性タンパク質のアミノ酸に結合し、これにより、培養プレートにおける細胞密度に比例している固定処理細胞内の総タンパク質含有量が示される。結果として、培養プレートでの細胞数における増減が、測定される染色量に比例する変化をもたらし、そのような変化は結果的には、研究されている化合物の細胞毒性影響を示す(非特許文献30参照)。
【0020】
SRB量が、光を565nmの波長で吸収するその能力によって測定される。この方法を使用することにより、同じ条件のもとで成長させられるコントロール細胞に対する、研究されている化合物により処理される細胞の相対的な成長/生存性を評価することが可能である(非特許文献31参照)。
【0021】
シプロシンの細胞毒性影響を、ヒトの腫瘍細胞株及び非腫瘍細胞株を使用して、細胞の形態学観察、及び、対応するIC50(細胞増殖が50%阻害されるシプロシン濃度を示すパラメータ)をインビトロで求めることによって評価した。
【0022】
シプロシンの影響について得られる結果を腫瘍細胞株対非腫瘍細胞株に関して比較するとき、100μg/mLの濃度については、この酵素が、アッセイされたすべての腫瘍細胞株において形態学的変化を誘導し、この形態学的変化には、溶解が伴ったことが確認されている。そしてまた、非腫瘍細胞株は、同じ(100μg/mLの)シプロシン濃度に付された場合、形態学及び細胞成長における著しい変化を何ら示さなかった。腫瘍細胞株におけるシプロシンの影響についてのIC50値が、非腫瘍細胞株に関して得られたIC50値と比較されたとき、一般に、酵素調製物が、非腫瘍細胞株の生存性/成長に著しい影響を及ぼすことなく、腫瘍細胞株に対してより大きい致死的影響を示すことが観測された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コントロール非腫瘍細胞FHs74Intの培養及び腫瘍細胞HCTの培養。A−天然シプロシン溶液を添加する前のFHs74細胞;B−100μg/mLの天然シプロシン溶液を添加した後48時間でのFHs74Int細胞;C−天然シプロシン調製物の天然シプロシン溶液を添加する前のHCT細胞;D−100μl/mLを添加した後48時間でのHCT細胞。天然シプロシンの添加によって影響を受けないFHs74Int細胞とは対照的に、HCT細胞は、酵素添加後48時間で、溶解の証拠を示す。スケールバー=100μm。
【図2】SBRによる細胞染色によって評価され、アッセイされた腫瘍細胞株のそれぞれについて試験された天然シプロシンの濃度(μg/ml)の対数に対してプロットされる細胞生存性:A−HCT、B−HT、C−TE、D−Hela。
【図3】SBRによる細胞染色によって評価され、試験された非腫瘍細胞株のそれぞれについて天然シプロシンの濃度(μg/ml)の対数に対してプロットされる細胞の生存性:A−Vero細胞、B−FHs74Int細胞。
【図4】コントロール非腫瘍細胞FH74Int細胞及び腫瘍細胞HCT。A−組換えシプロシンを添加する前のFHs74Int細胞;B−100μg/mLの組換えシプロシン調製物を添加した後48時間でのFHs74Int細胞;C−組換えシプロシン調製物を添加する前のHCT細胞;D−100μg/mLの組換えシプロシン調節物を添加した後48時間でのHCT細胞。組換えシプロシンの添加に対する影響を示さないFHs74Int細胞とは対照的に、HCT細胞は、組換えシプロシン調製物を添加した後48時間で、溶解の明瞭な証拠を示す。スケールバー=100μm。
【図5】アッセイされた細胞株のそれぞれについて組換えシプロシンの濃度(μg/ml)の対数に対してプロットされる、SBRによる細胞染色による細胞生存性の表示:A−HCT腫瘍細胞;B−FHs74Int非腫瘍細胞。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の性質によれば、以下に詳細に説明する実施例によって、よりよく達成される。
【0025】
下記の実施例は、例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
[実施例]
[実施例I]
両方の構造的な鎖、すなわち、N末端鎖(これはN末端プロペプチド及び成熟N末端からなる)と、C末端鎖(成熟ペプチドのC末端)とを含有し、乾燥したシナラ・カルズンクルスの花から単離及び精製される天然シプロシンの調製物の抗腫瘍活性。
【0026】
シプロシン調製物を、Brodeliusら(1995)によって以前に記載されたように、乾燥したシナラ・カルズンクルスの花から得た(非特許文献21参照)。酵素調製物の抗腫瘍活性を、4つのヒト腫瘍細胞株、すなわち、ガン腫に由来する上皮細胞株(HCT116、ATCC CCL−247)、線維肉腫に由来する上皮細胞株(HT1080、ATCC CCL−121)、横紋筋肉腫に由来する上皮細胞株(TE671、ATCC CCL−136)、及び、腺ガンに由来する上皮細胞株(Hela、ATCC CCL−2(商標))と、2つの非腫瘍細胞株、すなわち、ヒト腸(上皮)細胞からなる非腫瘍細胞株(FHs74Int、ATCC CCL−241)、及び、アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞からなる別の非腫瘍細胞株(Vero、ATCC CRL−1587)とを使用して評価した。
【0027】
HCT116、HT1080及びTE671の腫瘍細胞株を、5%のウシ胎児血清(FBS−Gibco社製)が補充された基礎培地DMEM(Cambrex社製)に接種した。グルコース(Sigma社製)及びL−グルタミン(Sigma社製)の最終濃度をそれぞれ、4.5g/L及び6.0mMとした。培養培地には、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)溶液が補充された。
【0028】
腫瘍のHela細胞株を、10%のFBS(Gibco社製)、2.1g/Lの重炭酸ナトリウム(NaHCO−Sigma社製)、1.0mMのピルビン酸ナトリウム(CNaO−Sigma社製)及び0.1mMの非必須アミノ酸溶液(NEAA−Cambrex社製)が補充されたDMEM(Cambrex社製)基礎培地に接種した。グルコース(Sigma社製)及びL−グルタミン(Sigma社製)の最終濃度をそれぞれ、1.0g/L及び2.0mMとした。培養培地には、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)が補充された。
【0029】
非腫瘍のVero細胞を、10%の胎児ウシ血清(FBS−Gibco社製)及び3.56mMのL−グルタミン(Sigma社製)が補充された基礎培地DMEM(Cambrex社製)に接種した。培養培地にはまた、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)が補充された。
【0030】
非腫瘍細胞株FHs74Intを、10%のウシ胎児血清(FBS−Gibco社製)、2.1g/LのNaHCO(Sigma社製)溶液、2.0mMのL−グルタミン(Sigma社製)及び30ng/mLの上皮増殖因子(EGF−Sigma社製)が補充されたHybricare(ATCC;Cat.46−X)に接種した。培地には、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)が補充された。
【0031】
細胞を、バッチ様式で操作される静置培養システムで増殖させた。細胞の濃度及び生存性を、トリパンブルー排除法を使用して評価した。
【0032】
表IIIは、それぞれの細胞培養についての比成長速度(μ)及び対応する倍加時間(DT)を示す。
【表1】

【0033】
IC50値を、スルホローダミンB(SRB)法を使用してこれらの培養された異なる細胞株について求めた。
【0034】
それぞれの細胞株からの100μLの総体積を96ウェルプレートに三連(tripricate)で接種した。対応する密度を、24時間の処理の後でそれぞれの培養物がおよそ50%のコンフルエンスを示したような様式でそれぞれの複製物の比成長速度に基づいて推定した。この方策に従った場合、HCT116細胞及びHela細胞について得られた接種密度が3.1×10細胞/cmであり、HT1080細胞及びVero細胞については4×10細胞/cmであり、TE671細胞株については1.6×10細胞/cmであり、FHs74Int細胞株については2.5×10細胞/cmであった。
【0035】
培養物を7%CO雰囲気及び90%湿度において37℃で24時間インキュベーションした。
【0036】
接種後24時間で、100μLのシプロシン調製物を、IC50を計算するために、1000μg/mL、100μg/mL、10μg/mL、1μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL及び0.001μg/mLに濃度を低下させて、それぞれのウェルに加えた。
【0037】
プレートを7%CO雰囲気及び90%湿度において37℃で48時間インキュベーションした。
【0038】
コントロールアッセイを、シプロシン調製物の非存在下、使用されたすべての細胞株について行った。
【0039】
酵素調製物を添加した48時間後、細胞培養物を光学顕微鏡で観察して、細胞のコンフルエンス及び形態学的特徴を記録した。
【0040】
100μg/mLのシプロシン濃度については、非腫瘍のFHs74Int細胞と、HCT腫瘍細胞との間における違いが顕著になった。非腫瘍のFHs74Int細胞と、HCT腫瘍細胞との間における違いを図1に示す。
【0041】
一般には、1000μg/mL〜100μg/mLの間に及ぶシプロシン調製物の濃度のみが、これらの異なる細胞株の形態学に関して違いを誘導した。最大濃度(1000μg/mL)では、溶解がすべての細胞株集団(腫瘍及び非腫瘍)において誘導された。
【0042】
100μg/mLの濃度での酵素調製物は、目に見える溶解の徴候を伴って顕著な形態学的変化をすべての腫瘍細胞に誘導し、より長く、かつ、より薄くした(図1)。
【0043】
そしてまた、非腫瘍のFHs74Int細胞及びVero細胞は、同じ100μg/mLの酵素調製物に付された場合には、形態学的変化を示さなかった(図1)。
【0044】
上述した方法を使用した場合、10μg/mL未満の酵素濃度についてはアッセイされたこれらの異なる細胞株に対して、酵素調製物の毒性の徴候が何ら観測されなかった。
【0045】
顕微鏡観察の後、プレートのウェルすべてに50μLの50%(w/v)TCA溶液(Fluka)を加え、4℃で1時間インキュベーションした。その後、プレートを蒸留水により5回洗浄した。
【0046】
最後の洗浄の後、プレートを乾燥し、100μLの新たに調製された0.4%(w/v)SRB(Sigma社製)をそれぞれのウェルに加えた。
【0047】
プレートを室温で30分間インキュベーションし、遮光した。
【0048】
SRB染料を、250μLの1%酢酸(Rieldel−de Haen)により5回洗浄することによって細胞から除いた。
【0049】
その後、それぞれのプレートウェルを、絶えず振とうしながら、室温で10分間、遮光しながら、200μLの10mM Trizma塩基(Fluka)溶液と共にインキュベーションした。細胞を破砕し、SRB染色されたタンパク質を放出させた。
【0050】
アッセイは、シプロシン調製物及びコントロールにさらされたときの相対的な成長及び細胞生存性を評価するために吸光度を測定することにより終了した。
【0051】
IC50値を計算するために、細胞タンパク質におけるSRBの取り込み(%SRB)を、下記の式(1)(式中、SRBは酵素調製物のそれぞれの濃度についての吸光度平均値を表し、SRBはブランクアッセイについての吸光度平均値を表し、SRBはコントロールアッセイについての吸光度平均値を表す)に従って、コントロール細胞に対して評価した。
【0052】
%SRB=(SRB−SRB)/(SRB−SRB)×100 (1)
【0053】
酵素濃度(μg/mL)の対数に対する%SRBの図における曲線を、バックグラウンド及びシグナルのパラメータがそれぞれ、0%及び100%である生物統計学プログラムのWindows(登録商標)用Prism5(GraphPad Software)によって決定される下記のHill関数(2)を使用して合致させた。
【0054】
Y=バックグラウンド+(シグナル−バックグラウンド)/(1+10(logIC50−X)*Hill傾き) (2)
【0055】
それぞれの細胞株についての、シプロシン濃度(μg/mL)の対数に対して関連づけられる、SRBにより染色された細胞の生存性のグラフ表示を図2において認めることができる。対応するIC50の値を表IVに示す。
【0056】
【表2】

【0057】
研究された腫瘍細胞株については、HCT116細胞が酵素調製物の抗腫瘍効果に対して最も敏感であり、一方、TE671細胞が最も抵抗性であることが観測された。非腫瘍細胞株については、FHs74Int細胞がVero細胞よりも敏感であることが観測された。
【0058】
腫瘍細胞株の方が一貫して、シプロシン調製物に対して感受性であるという事実は、(絶対的に見て、非腫瘍細胞について得られるIC50値の1/5以下である)それらのIC50値によって明らかであり、形態学的な観測結果と一致している。
【0059】
一般には、これらの結果は、同じ濃度のシプロシン調製物に付された非腫瘍細胞と比較したとき、シナラ・カルズンクルスの乾燥した花から精製される天然酵素の腫瘍細胞特異的な致死的効果を表す。
【0060】
報告されるこれらの結果は、天然シプロシン調製物の潜在的な抗腫瘍の細胞毒性効果が1000μg/mLまでの濃度で存在することを示す。
【0061】
[実施例II]
2つの構造的な鎖、すなわち、N末端鎖(これはN末端プロペプチド及び成熟N末端ペプチドからなる)と、C末端鎖(これは成熟C末端ペプチドからなる)とを含有し、CYPRO11遺伝子により形質転換されたサッカロミセス・セレビジアエ菌株の培養培地から単離及び精製される組換えシプロシンの調製物の抗腫瘍活性。
【0062】
シプロシン調製物を、以前の記載(Paisら、2000)のように、シプロシンをコードするCYPRO11遺伝子により形質転換されたサッカロミセス・セレビジアエ菌株(BJ1991)の培養物に由来する上清から得た(非特許文献29参照)。酵素調製物の抗腫瘍活性を、ガン腫に由来するヒト腫瘍上皮細胞株(HCT116、ATCC CCL−247)に対して、同様にまた、ヒト腸由来の上皮細胞からなる非腫瘍細胞株(FHs74Int、ATCC CCL−241)に対して試験した。
【0063】
腫瘍細胞株HCT116を、ウシ胎児血清(FBS−Gibco社製)が補充された基礎培地DMEM(Cambrex社製)に接種した。グルコース(Sigma社製)及びL−グルタミン(Sigma社製)の最終濃度をそれぞれ、4.5g/L及び6.0mMとした。
【0064】
培地には、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)が補充された。
【0065】
非腫瘍細胞株FHs74Intを、10%のウシ胎児血清(FBS−Gibco社製)、2.10g/Lの重炭酸ナトリウム(NaHCO)(Sigma社製)、2.0mMのL−グルタミン(Sigma社製)及び30ng/mLの上皮増殖因子(EGF−Sigma社製)が補充された基礎培地Hybricare(ATCC;Cat.46−X)に接種した。
【0066】
培地には、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社製)が補充された。
【0067】
細胞を、不連続的に操作される静置培養システムにより増殖させた。細胞の濃度及び生存性を、トリパンブルー排除法を使用して評価した。
【0068】
腫瘍細胞株及び非腫瘍細胞株(それぞれ、HCT116及びFHs74Int)の比成長速度(μ)及び倍加時間を上記(実施例I)における表IIIに示す。
【0069】
実施例Iの場合と同様に、細胞の形態学的分析を光学顕微鏡によって行い、IC50の決定を、スルホローダミンB(SRB)法を使用して行った。
【0070】
100μg/mLの酵素調製物により処理された細胞についての形態学的分析の結果を図4に示す。組換えシプロシン調製物の添加によって影響を受けない非腫瘍細胞株FHs74Intとは対照的に、HCT細胞は、酵素調製物の添加後48時間で、溶解の明瞭な証拠を示す。
【0071】
実施例Iの場合のように、IC50パラメータを、形態学的研究の後、両方の培養物について求めた。
【0072】
それぞれの培養された細胞株についての、シプロシン濃度(μg/mL)の対数に対して関連づけられる、SRBにより染色された細胞のパーセント細胞生存性の変動が図5において表される。
【0073】
IC50の値が、腫瘍細胞株HCT116については20.51μg/mLであり、FHs74Int細胞株については70.50μg/mLであった。このことは、組換えシプロシンに対する腫瘍細胞株の感受性が、コントロールの非腫瘍細胞株FHs74Intに関して観測された感受性よりも3倍大きいことを示している。
【0074】
結果はまた、天然シプロシン調製物と比較されたとき、組換えシプロシン調製物より大きい致死的効果(一貫してより低いIC50値)を示す。
【0075】
これらの結果は、組換えシプロシン調製物の潜在的な抗腫瘍の細胞毒性効果が100μg/mLまでの酵素濃度で存在することを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質シプロシン(cyprosin)を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記タンパク質シプロシンが、精製の有無にかかわりなく、天然供給源から、より具体的には、これに限定するものではないが、シナラ・カルズンクルス(Cynara cardunculus)から直接抽出されることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
酵素シプロシンをコードするDNA配列又はその任意の一部が組み換えられており、結果として、翻訳及び翻訳後プロセシングの産物が、前記産物を異種的に発現する微生物、より具体的には、これらに限定するものではないが、サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)及び大腸菌(Escherichia coli)から得られ、かつ、精製されることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記酵素シプロシンをコードする前記DNA配列又はその任意の一部が組み換えられており、結果として、前記翻訳及び翻訳後プロセシングの産物が、培養されている遺伝子改変された細胞株、例えば、これに限定するものではないが、ヒト細胞株を含めて、昆虫又は哺乳動物に由来する細胞株から得られ、かつ、精製されることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ホロ酵素、すべての構造サブユニット/ポリペプチド鎖、前駆体及び最終産物を組み合わせて又は分離して、又は、これらを任意の組合せ及び割合で含有する混合物を形成してなるもののいずれか、あるいは、特有のポリペプチド実体を含有する組成物において、いずれの場合でも、シプロシン転写物の翻訳産物、すなわち、いずれかの前駆体シプロシン転写物又は前駆体シプロシンポリペプチドの転写後プロセシング又は翻訳後プロセシングのどちらかに由来するシプロシン転写物の翻訳産物を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
シプロシンプレプロペプチド、ならびに/あるいは、N末端サブユニット/ペプチド鎖及び/又は成熟N末端サブユニット/ペプチド鎖を含有するシプロシンプロペプチド、ならびに/あるいは、植物フィテプシン(phytepsin)の特異的なC末端ドメイン及び/若しくはPSIドメイン、及び/又は、成熟C末端サブユニット/ペプチド鎖を含有する前記シプロシンプロペプチド、ならびに/あるいは、前記PSIドメインを含有する単離されたポリペプチド、ならびに/あるいは、初期プレプロペプチドのプロセシング又は分解に由来する任意の他の二次産物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
得られる配列の発現に対応する産物のアミノ酸配列が、天然シプロシンのアミノ酸配列と比較されたとき、変化させられているように、シプロシン酵素をコードするDNAヌクレオチド配列又はその任意の一部が遺伝子操作によって改変されることを特徴とする請求項乃至請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
任意の大きさのペプチドを含有し、ただし、そのアミノ酸配列が前記シプロシンプレプロペプチドのアミノ酸配列から推定され得ること、及び/又は、そのアミノ酸配列が、事前に改変されたDNA配列から誘導され得ること、及び又は、そのアミノ酸配列がポリペプチド分解により誘導され得ること、及び/又は、そのアミノ酸配列が前記プレプロペプチドの酵素消化に誘導され得ること、及び/又は、そのアミノ酸配列がその天然のプロセシングに誘導され得ること、及び/又は、そのアミノ酸配列が化学合成によって合成的に誘導され得ることを特徴とする請求項1乃至請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
免疫系と相互作用する要素、例えば、抗体、あるいは、その鎖/サブユニット又は断片のいずれか、又は、任意の性質の免疫刺激因子、例えば、抗原、細胞毒性を有するTリンパ球、及び/又は、樹状細胞のどちらかと複合化された前記化学種のいずれかを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
組合せ、複合化、あるいは、輸送用分子又は輸送用ビヒクル、例えば、これらに限定するものではないが、封入用ナノ粒子における挿入により投与されることを特徴とする請求項1乃至請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
添加剤、希釈剤、溶媒、フィルター、滑剤、賦形剤又は安定剤との組合せ又は複合化されて投与されることを特徴とする請求項1乃至請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
動物に対して、優先的には哺乳動物に対して、すなわち、ヒトに対して投与されることを特徴とする請求項1乃至請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
全身的様式又は局所的様式、静脈内投与、経口投与、あるいは、何らかの他の様式で投与されることを特徴とする請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗腫瘍活性を有することを特徴とする請求項12又は請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
インビトロでの抗腫瘍活性を細胞株、例えば、これに限定するものではないが、結腸ガン腫に由来するヒト上皮細胞株(HCT)、腺ガンに由来するヒト上皮細胞株(HeLa)、線維肉腫に由来するヒト細胞株(HT)、及び、横紋筋肉腫に由来するヒト上皮細胞株(TE)において有することを特徴とする請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍細胞株、例えば、これに限定するものではないが、結腸ガン腫に由来するヒト上皮細胞株(HCT)、腺ガンに由来するヒト上皮細胞株(HeLa)、線維肉腫に由来するヒト細胞株(HT)、及び、横紋筋肉腫に由来するヒト上皮細胞株(TE)の成長を、1〜100μg/mlの範囲のシプロシン調製物の濃度で50%阻害することを特徴とする請求項14記載の医薬組成物。
【請求項17】
ヒト腫瘍細胞株の成長を、0.001〜1μg/mlの範囲のシプロシン調製物の濃度で50%阻害することを特徴とする請求項14記載の医薬組成物。
【請求項18】
種々の癌型に対して適用されることを特徴とする請求項14乃至請求項18に記載される医薬組成物の使用。
【請求項19】
前記癌型が、結腸直腸ガン、小腸ガン、子宮頸部ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、胃ガン、乳ガン、膀胱ガン、リンパガン、肉腫、膵臓ガン、メラノーマ、神経膠腫、神経芽細胞腫、肺ガン、口腔ガン、頭頸部ガン、肝臓ガン、子宮頸ガン及び血液学的ガンを含有する群に含まれることを特徴とする請求項18に記載される医薬組成物の使用。
【請求項20】
生理学的状態又はヒト病理を回復するために、すなわち、これに限定するものではないが、高血圧、レトロウイルス感染、ヘモグロビン分解及び消化不良を回復するために使用されることを特徴とする請求項12又は請求項13記載の医薬組成物。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−510428(P2012−510428A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526418(P2010−526418)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055009
【国際公開番号】WO2009/040778
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510083120)エーセービオ,インヴェスティガサン イ デゼンヴォルヴィメント エン ビオテクノロジア,ソシエダッド アノニマ (1)
【氏名又は名称原語表記】ECBIO, INVESTIGACAO E DESENVOLVIMENTO EM BIOTECNOLOGIA, S.A.
【Fターム(参考)】