説明

酵素反応におけるPITエマルジョンの使用

本発明は、少なくとも水、乳化剤および油相を含有するo/wエマルジョンの酵素触媒反応用反応媒体としての使用に関する。本発明は、該エマルジョンがPIT法によって製造され、50〜400nmの液滴サイズを有することを特徴とする。使用する酵素は、界面活性酵素、特に加水分解酵素および/またはアシル転移酵素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PIT法により製造されたエマルジョンの、酵素触媒反応用反応媒体としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、化学的および生化学的な合成における触媒として、ますます使用されつつある。こうして、加水分解酵素、とりわけリパーゼ(EC 3.1.1.3)は、多くの場合より穏やかな反応条件であることから、既に多くの工業的な脂肪分解プロセスで用いられつつある。
【0003】
適当な酵素的エステル化またはエステル交換プロセスは、例えば、K. Drauz and H. Waldmann、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis、VCH-Verlag、ワインハイム(1975年)に記述されている。
【0004】
水不含有または実質的に水不含有の媒体中でのエステル交換が、リパーゼによって触媒されることは既知である。エステル、アルコールおよびリパーゼの反応系に水も存在する場合、結合酸の遊離酸への脱離が通常起こる。様々なリパーゼはまた、遊離脂肪酸とアルコールからのエステル形成を触媒するため、大抵の場合には、酸中間段階とのエステル交換反応が、直接的エステル交換に加えて最終的に行われる。しかし、多くの工業的プロセスにとって、系内での遊離酸形成は重大な欠点である。水含有量は、工業的および商業的に許容される転化率を部分的に妨げる(好ましくない熱力学平衡の形成)。十分な収率を得るためには高価な工業設備を用いなければならない(例えば、共沸蒸留、膜分離プロセス、減圧蒸留などによる水の除去)。
【0005】
酵素触媒反応の欠点は、プロセスに関与する機能蛋白質の入手可能性と安定性に存することが多い。固定化(例えばマイクロカプセル化)により安定化された酵素は、様々な用途に用いることができ、先行技術から既知である。
【0006】
Candida rugosa由来のリパーゼについて、Orlich and Schomaeker in Enzyme Microb. Technol.; 2001年; 第28巻; 第1号; 第42-48頁に記載されたように、油中水(w/o)ミクロエマルジョンの使用により疎水性化合物の反応を実施し得る。しかし、溶液中での水の濃度とw/oミクロエマルジョンの成分組成は、反応の成功にとって極めて重要である。
【0007】
【非特許文献1】K. Drauz and H. Waldmann、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis、VCH-Verlag、ワインハイム(1975年)
【非特許文献2】Orlich and Schomaeker in Enzyme Microb. Technol.; 2001年; 第28巻; 第1号; 第42-48頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明により取り組むべき課題は、反応または酵素の活性に大きな影響を与えない範囲で、界面、よって油と水の濃度が一定のまま基質濃度を変化させ得る、酵素触媒反応用の系を提供することであった。また、このような系を、安価かつ再利用可能とすることであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の開示
本発明は、少なくとも水、乳化剤および油相を含有するo/wエマルジョンの酵素触媒反応用反応媒体としての使用であって、該エマルジョンは、PIT法によって製造され、および50〜400nmの液滴サイズを有する使用に関する。
驚くべきことに、PIT法により製造されたo/wエマルジョンは、上記要件を素晴らしい態様で充足することを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
PITエマルジョン
エマルジョンは、互いに不溶な少なくとも2つの液体であってその一方が水を含有する、分散調製物である。非混和性の油/水相を乳化により均質化するため、乳化剤または乳化剤系を使用する。安定化する乳化剤が存在しないと、それらの異なる極性のため、相は再び分離してしまう。両親媒性乳化剤は、微細液滴とコヒーレント相の間の界面に存在し、立体的または静電的に遮蔽することによって、それらが合体することを妨げる。乳化剤は、親水性および親油性の構造単位をその分子構造中で互いにつなぐ化合物である。影響を受ける乳化剤分子または乳化剤系における特定構造単位の選択および範囲は、しばしば親水性/親油性バランス[HLB(数)値]により特徴付けられる。原則として、比較的強力な親水性成分を有する乳化剤または乳化剤系では高いHLB値となり、その実用化においては、一般に分散油相を有する水系o/wエマルジョンとなる。比較的強力な親油性成分を有する乳化剤または乳化剤系では比較的低いHLB値となり、よって連続油相と分散水相を有するw/o反転エマルジョンとなる。
【0011】
非イオン性乳化剤で調製され安定化された水中油(o/w)エマルジョンは、一般に加熱による可逆的転相を受け得ること、すなわち、エマルジョンの型がある温度範囲内でo/wからw/o(油中水エマルジョン)へ変化することが知られている。油が外側連続相になるため、エマルジョンの導電率はゼロに低下する。エマルジョンの最大導電率と加熱時のそのゼロ導電率の間の温度の平均値は転相温度(PIT)と称され、このようにして製造されたエマルジョンはPITエマルジョンと称される。
【0012】
PITの位置は、多くの因子に、例えば、油成分の種類および相体積に、乳化剤の親水性および構造に、ならびに、乳化剤系の組成に依存することも知られている。
【0013】
PITエマルジョンの液滴サイズは、製造方法によりクリティカルに決定される。通常、水相および油相を乳化剤と共に混合し、次いでPITを越える温度まで加熱すると、導電率はゼロまで低下するはずである。次いで、このエマルジョンを出発温度(通常は室温、約20℃)まで冷却する。本発明に従って使用するエマルジョンは、初めにPITを越え、次いでPIT以下に低下する温度によって形成される。
【0014】
転相中に油と水またはラメラ液晶相の間の界面張力が低いミクロエマルジョン相を形成するPITエマルジョンだけが、特に微細な液滴を有することが知られている。ここでの決定的な工程は、常に、冷却時の再反転である。
【0015】
本発明のエマルジョンは、特に、その液滴の微細性によって区別される。液滴サイズは、50と400nmの間、好ましくは70〜300nmの範囲内、より好ましくは80〜250nmの範囲内、最も好ましくは90〜160nmの範囲内である。液滴サイズは、ガウス分布に従うものと考えられる。例えば、光の散乱または吸収によって測定される。
【0016】
これらの微細液滴エマルジョンは、ブラウン分子運動によりその均質性を維持する。ブラウン分子運動は、サイズが5μmより小さい粒子のランダムな熱運動である。それは拡散の原動力であり、沈降とクリーミングアップ(浮揚)の両方を妨げる。大きな利点は、エネルギー多消費型撹拌の必要性を低減し得ることである。それによって、基質と酵素の改善された拡散、および低減されたエネルギーコストがもたらされる。
【0017】
液滴サイズを減少させることを要さずに、基質濃度を変化させることができる。液滴を何ら合体させることなく、高い基質濃度を達成し得る。表面張力が低いため、油/水界面での分子の移動速度が増加する。PITエマルジョンの高い再現性と安定性により、酵素とその反応性についての生化学研究の実施、および既知の反応条件と酵素に対する活性の更なる最適化が可能となる。
【0018】
PITエマルジョンは、水のほかに、脂肪酸アルキルエステルa)または天然植物油および誘導体b)の群からの化合物を含有する油相も含む。群a)およびb)は、水に不溶か極めて僅かにのみ可能な疎水性化合物であって、それは好適には、酵素触媒反応によって得られるべき生成物のための出発物質(すなわち基質)を意味してよいが、助剤として用いてもよい。
【0019】
適当な群a)のエステルは、とりわけ合計7〜23個の炭素原子を含む飽和、不飽和、直鎖または分枝状の脂肪酸に由来する。従って、それらは式(I):
【化1】

〔式中、RはC6−22アルキル基であり、RはC1−4アルキル基であって、メチルおよびエチル基が特に好適である〕
に相当する化合物である。メチルエステルを使用することが最も有利である。式(I)のメチルエステルは、通常の方法、例えばトリグリセリドとメタノールとのエステル交換およびその後の蒸留によって得ることができる。適当な脂肪酸は、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸およびベヘン酸である。不飽和の代表例は、例えば、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、リノール酸、共役リノール酸(CLA)、とりわけシス9,トランス11−CLAまたはトランス10,シス12−CLA、リノライジン酸、リノレン酸、共役リノレン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸およびエルカ酸である。これらの酸のメチルおよび/またはエチルエステル混合物も適当である。オレイン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ペラルゴン酸メチル、オレイン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチルおよび/またはペラルゴン酸エチルからなる群からのメチルおよび/またはエチルエステルを含有するPITエマルジョンを使用するのが特に好ましい。しかし、例えば亜麻仁油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、ヒマシ油、菜種油、大豆油またはヒマワリ油(菜種油およびヒマワリ油の場合には、新しい植物および古い植物)から得られる天然脂肪酸混合物に基づくメチルおよび/またはエチルエステルを使用してもよい。
【0020】
適当な群(b)の化合物は、植物起源の天然油である。これらは本質的にはトリグリセリドおよびトリグリセリド混合物であり、グリセロールが比較的長鎖の脂肪酸によって完全にエステル化されている。特に適する植物油は、ピーナツ油、ヤシ油および/またはヒマワリ油からなる群から選択される。
【0021】
本発明に従って使用するPITエマルジョンの重要な構成成分は、使用する乳化剤および乳化剤系である。非イオン性乳化剤、より具体的には、エトキシル化した脂肪アルコールおよび脂肪酸を、乳化剤として使用するのが好ましい。PITエマルジョンを得るために、親水性の乳化剤(A)、および疎水性の乳化助剤(B)を含有する2成分乳化剤系を使用するのが有利である。適当な親水性の非イオン性乳化剤(A)は、HLB値が約8〜18の物質である。このHLB値(親水性/親油性バランス)は、以下の式:
【数1】

〔式中、Lは、親油性基の重量%、即ち、エチレンオキシド付加生成物中の脂肪アルキル基または脂肪アシル基の%である〕
に従って算出しうる値である。
【0022】
本発明の教示における脂肪アルコールエトキシレートは、以下の式(II):
【化2】

〔式中、R3は6〜24個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐状の飽和もしくは不飽和のアルキル基であり、nは1〜50の数である〕
で示される。nが1〜35の数、より具体的には1〜15の数である式(II)の化合物が特に好ましい。他の特に好ましい式(II)の化合物は、R3が16〜22個の炭素原子を含むアルキル基である化合物である。
【0023】
式(II)の化合物は、所望により酸触媒または塩基触媒の存在下に、加圧下での脂肪アルコールとエチレンオキシドとの反応によって、既知のようにして得られる。その代表例は、カプロンアルコール、カプリルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、イソトリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、ペトロセリニルアルコール、リノリルアルコール、リノレニルアルコール、エレオステアリルアルコール、アラキルアルコール、ガドレイルアルコール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコールおよびブラシジルアルコール、ならびに、例えば、油脂に基づく工業用メチルエステルまたはRoelenのオキソ合成に由来するアルデヒドの高圧水素化において、および不飽和脂肪アルコールの二量化におけるモノマー分画として得られる上記アルコールの工業用混合物である。12〜18個の炭素原子を含む工業用脂肪アルコール(例えば、ヤシ油、パーム油、パーム核油または獣脂の脂肪アルコールなど)が好ましい。
【0024】
また、乳化剤成分(A)として使用することができる脂肪酸エトキシレートは、好ましくは以下の式(III):
【化3】

〔式中、R4は12〜22個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、mは5〜50、好ましくは15〜35の数である〕
で示される。その代表例は、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸およびエルカ酸、ならびに、例えば、天然油脂の加圧加水分解において、またはRoelenのオキソ合成に由来するアルデヒドの還元において得られる上記酸の工業用混合物への、10〜30モルのエチレンオキシドの付加生成物である。C16-18脂肪酸への10〜30モルのエチレンオキシドの付加生成物を使用するのが好ましい。
【0025】
また、乳化剤成分(B)として使用することができる部分グリセリドは、好ましくは以下の式(IV):
【化4】

〔式中、COR5は12〜22個の炭素原子を含む直鎖もしくは分岐状のアシル基であり、x、yおよびzは共に0であるかまたは1〜50、好ましくは15〜35の数である〕
で示される。本発明の目的に適する部分グリセリドの代表例は、ラウリン酸モノグリセリド、ヤシ油脂肪酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、イソステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド、共役リノール酸モノグリセリドおよび獣脂脂肪酸モノグリセリド、ならびに、これらと5〜50モル、好ましくは20〜30モルのエチレンオキシドとの付加生成物である。COR5が16〜18個の炭素原子を含む直鎖アシル基であるモノグリセリド(IV)を多く含有するモノグリセリドまたは工業用モノ/ジグリセリド混合物を使用するのが好ましい。
【0026】
成分(A)および(B)を10:90〜90:10、好ましくは25:75〜75:25、より具体的には40:60〜60:40の重量比で含有する乳化剤混合物を使用するのが一般的である。
【0027】
他の適当な乳化剤は、例えば、以下の群の1つからの非イオン性界面活性剤である:
・8〜22個の炭素原子を含む直鎖脂肪アルコールへの、エチレンオキシド2〜30モルおよび/またはプロピレンオキシド0〜5モルの付加生成物;
・6〜22個の炭素原子を含む飽和および不飽和脂肪酸のグリセロールモノエステルおよびジエステルおよびソルビタンモノエステルおよびジエステルならびにこれらのエチレンオキシド付加物;
・アルキル基に8〜22個の炭素原子を含むアルキルモノおよびオリゴグリコシドならびにこれらのエトキシル化類似体;
・ヒマシ油および/または水素化ヒマシ油への、エチレンオキシド15〜60モルの付加生成物;
・ポリオールエステル、特にポリグリセロールエステル、例えばポリグリセロールポリリシノレエートまたはポリグリセロールポリ-12-ヒドロキシステアレート(これらの群の数種からの化合物の混合物も適する);
・ヒマシ油および/または水素化ヒマシ油への、エチレンオキシド2〜15モルの付加生成物;
・直鎖、分岐鎖、不飽和または飽和のC6/22脂肪酸、リシノール酸および12-ヒドロキシステアリン酸、ならびに、グリセロール、ポリグリセロール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、糖アルコール(例えばソルビトール)およびポリグルコシド(例えばセルロース)に基づく部分エステル;
・羊毛ワックスアルコール;
・ポリアルキレングリコール。
【0028】
脂肪酸のグリセロールモノおよびジエステルおよびソルビタンモノおよびジエステルへの、またはヒマシ油へのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドの付加生成物は、既知の市販生成物である。これらは同族体混合物であり、その平均アルコキシル化度は、付加反応を行う基質とエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドの量比に対応する。
【0029】
適当な乳化剤系を選択するために、特定の系のPITを算出するのが有用になりうる。しかし、このことは、特に乳化剤または乳化剤系の選択における潜在的な最適化、ならびに、一方における水相の選択および混合および他方における油相の種類(技術的操作に関する他の考慮事項によって予め決定される)に対する適合化にも当てはまる。対応する専門家の知識が、基本的に全く異なる分野において、特に化粧品の製造において進展している。これに関連して、特に、TH.Foerster, W.von Rybinski, H.TesmannおよびA.Wadleの論文「Calculation of Optimum Emulsifier Mixtures for Phase Inversion Emulsification」[International Journal of Cosmetic Science 16, 84-92 (1994)]が挙げられる。この論文は、油相の特徴であるEACN値(等価アルカン炭素数)に基づいて、CAPICO法(濃厚物における転相の算出)によって、油相、水相および乳化剤からなる所与の3成分系の転相温度(PIT)範囲をどのように算出しうるかについての詳細な記載を含んでいる。より具体的には、このFoersterらの論文は、ここで議論している対象に対する重要な文献を挙げている(このFoersterらの論文の開示に関連して見るべきである)。多数の例を挙げることにより、EACNの概念と組合わせたCAPICO法によって、転相温度範囲の最適予備決定値の調節に、乳化剤/乳化剤系の選択および最適化をどのように利用できるかが示されている。
【0030】
本発明に従って使用するPITエマルジョンは、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、最も好ましくは30〜60重量%の水を含有する。100重量%までの残りは、油相および乳化剤ならびに所望による他の助剤および添加剤により構成される。この油相それ自体は、好ましくは10〜80重量%、より具体的には40〜70重量%の量で存在する。好ましい態様においては、油相は、成分(a)もしくは(b)またはこれら成分の混合物のみを含有する。乳化剤または乳化剤系は、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%、最も好ましくは5〜15重量%の量で存在する。本発明に従って使用するエマルジョンは、20〜95℃、より具体的には30〜95℃の範囲内の転相温度を有する。
【0031】
本発明により用いられる酵素は界面活性である。加水分解酵素および/またはアシル転移酵素の群からの酵素は好適に用いられ、これらはそのままで若しくは数個の酵素と組み合わせて用いてよい。
【0032】
エステラーゼ、ホスホリパーゼ、リパーゼおよびリパーゼ/アシル転移酵素からなる群から選択される加水分解酵素は、特に好適である。後者は、リパーゼに特有の反応を触媒する界面活性酵素である。これらのポリペプチドは、短鎖アルコールの存在下、0.8より大きな水分活性に相当する反応混合物中の含水量で、エステル交換反応を触媒する能力があることがわかった。この含水量では、従来のリパーゼであれば、主としてアルコール成分に基づいて、エステルの加水分解を触媒するであろう。従って、当該酵素は、リパーゼにとっても、アシル転移酵素にとっても特徴的な機能を有する。例えばCandida parapsilosis由来のリパーゼのような従来の酵素への配列相同性に基づくと、本発明による天然酵素はリパーゼであり、その酵素活性に基づくと、アシル転移酵素である。
【0033】
適当な酵素の代表例としては、本発明を何ら限定することを意味しないが、Alcaligenes、Aspergillus niger、Aspergillus oryzea、Aeromonas aerophila、Bacillus species、Candida albicans、Candida antarctica (Trychosporon oryzae、Pseudozyma antarctica)、Candida antarctica、Candida cylindracea、Candida glabrata、Candida maltosa、Candida parapsilosis、Candida lipolytica、Candida tropicalis、Candida viswanathii、Chromobacterium viscosum、Fusarium solani、Geotrichum candidum、Issatchenkia orientalis (Candida krusei)、Kluyveromyces marxianus (C. kefyr, C. pseudotropicalis)、Mucor javanicus、Penicilium camemberti、Penicilium roqueforti、Pichia guilliermondii (Candida guilliermondii)、Porcine pancreas、Pseudomonas cepacia、Pseudomonas fluorescens、Rhizomucor miehei、Rhizopus arrhizus、Rhizopus oryzae、Rhizopus niveus、Rhizopus javanicusおよびThermomyces lanugenosus、並びにそれらの混合物からなる群から選択される生物由来のリパーゼおよび/またはリパーゼ/アシル転移酵素が挙げられる。生物 Alcaligenes、Candida、Chromobacterium、Rhizomucor、Pseudomonas、RhizopusおよびThermomyces由来のリパーゼおよびリパーゼ/アシル転移酵素、とりわけCandida parapsilosis、Pichia guilliermondii (Candida guilliermondii)またはCandida antarctica由来の酵素は、特に活性であるため好適である。
【0034】
本発明に従い用いるべき酵素は、様々な形態で使用できる。原則として、当業者に既知のあらゆる酵素の供給形態を使用してよい。本発明では、「酵素」の定義は、タンパク質と酵素タンパク質も包含する。酵素タンパク質および総タンパク質であって、本発明によるタンパク質の機能をタンパク質シーケンスの一部に含むものは、いずれも本発明に従って用い得る。酵素は、純粋形態で、若しくは、キャリア材料に固定化された、および/または溶液中、とりわけ水溶液中の工業用酵素製剤として、好適に使用され、および所謂繰り返しバッチで再使用される。例えばアルタス社から得られる結晶化酵素、所謂CLECも好適である。特定の工業用酵素製剤中の活性酵素の比率は、製造業者によって異なる。しかし、その平均は1〜10%活性酵素の間である。
【0035】
本発明の別の態様では、本発明に従って使用されるべき酵素は、純酵素あるいは酵素製剤として表して、用いる油相の総量に基づき0.001〜20重量%の量で用いられる。より具体的には、使用量は0.002〜1重量%、特に好適な態様では0.002〜0.2重量%である。
【0036】
本発明によれば、酵素触媒反応は、加水分解、エステル交換またはエステル化であることが好ましく、エステル化が特に好ましい。
【0037】
本発明によれば、化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品は、本発明のPITエマルジョンを用いた酵素触媒反応によって製造される。より具体的には、カロチノイド、ステロール含有油成分および/またはビタミンEが製造される。
【0038】
少なくとも水、乳化剤および油相を含有しPIT法により製造される本発明によるo/wエマルジョンは、酵素触媒反応用の反応媒体としての使用にとって極めて適当である。従って、本発明はまた、PIT法により製造されたo/wエマルジョンを反応媒体として使用する、脂肪酸アルキルエステルおよび/またはトリグリセリドの酵素触媒加水分解、エステル交換またはエステル化の方法にも関する。本発明の方法に用いられるエマルジョンは、その構成物質、条件およびより詳細な態様において、これらのo/wエマルジョンの使用に対して既に詳述したエマルジョンに対応する。化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品は、本発明に従う方法によって好適に製造される。より具体的には、カロチノイド、ステロール含有油成分および/またはビタミンEが製造される。この方法では、水不溶性物質がPITエマルジョンの油相中に可溶となることによってそれが酵素触媒反応に利用可能となるという事実から、使用をなし得る。
【0039】
本発明によれば、基質を含有するPITエマルジョンを、固定化され或いは固定化されていないリパーゼまたはリパーゼ/アシル転移酵素と、必要に応じ他の助剤および添加剤とを含む反応槽へ添加する。この方法の詳細、とりわけ酵素および添加エマルジョンの量は、酵素および選択したPITエマルジョンの性質によって決定され、特定の状況に適するよう専門家によって適合され得る。系を加熱することにより、相分離させることができ、水相中の乳化剤と油相中の生成物をお互いから容易に分離することができる。酵素を含有する固定床反応器を用いることにより、酵素を除去して再使用できる。
【0040】
油滴が細かいと、油相と水相の間の界面が大きくなることにより、急速な接触と、酵素と基質を含有する油相の間の反応速度の増加がもたらされる。
【0041】
この方法のある特定の態様では、用いる酵素は、本発明によるo/wエマルジョンの使用に対して既に列挙した酵素である。
【0042】
酵素触媒反応のための本発明による反応条件は、選択する酵素と使用するエマルジョンの最適な反応範囲によって決定される。より具体的には、とりわけ反応温度は、15〜50℃、好ましくは20〜40℃、特に、35℃である。
【実施例】
【0043】
製造例H1
オレイン酸エチルエステルのメタノールとのエステル交換またはオレイン酸エチルエステルのリパーゼ/アシル転移酵素による加水分解および用いたオレイン酸エステルの加水分解
【0044】
C18:1オレイン酸エチルエステルのPITエマルジョンを製造するため、ポリオキシエチレン-12-セチルステアリルアルコール(Eumulgin(登録商標)B1)0.25gとポリオキシエチレン-6-セチルアルコール0.2gの混合物を、オレイン酸エチルエステル1gおよび超純水3gと共に、全成分が融解するまで、撹拌しながら95℃へ加熱した。その後、撹拌しながらエマルジョンを室温に冷却した。転相温度(PIT)は約66℃であった。このエマルジョン(10μmol/ml)を、pH6.5に緩衝化したリパーゼ/アシル転移酵素(CPLIP2)とメタノール2.2mol/lを基質として含有する溶液へ添加し、加水分解またはメタノリシスを酵素量[μg/ml]に基づきμmol/分/mlで測定した。結果を表1に示す。
【0045】

【0046】
また、オレイン酸エチルエステルを含有するPITエマルジョン中での酵素の活性を、メタノールまたはイソプロパノールの存在下で測定した。結果を表2および3に示す。
【0047】

【0048】

【0049】
結果の考察
結果は、メタノリシスのエステル交換と加水分解のどちらもPITエマルジョン中で行うことができ、また酵素がその格別な機能を失わないことを示している。結果はまた、水の存在下でのPITエマルジョンのメタノリシスが加水分解に好適であることを示している。
【0050】
上記系中でオレイン酸イソプロピルへのエステル交換も行うことができ、酵素の活性はイソプロパノール2.25mol/lで最大値を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、乳化剤および油相を含有するo/wエマルジョンの酵素触媒反応用反応媒体としての使用であって、該エマルジョンは、PIT法によって製造され、および50〜400nmの液滴サイズを有することを特徴とする使用。
【請求項2】
油相は、脂肪酸アルキルエステルおよびトリグリセリドからなる群から選択される化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
式(I):
【化1】

〔式中、RはC6−22アルキル基であり、RはC1−4アルキル基である〕
に相当する脂肪酸アルキルエステル含有エマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
油相を10〜80重量%、好ましくは20〜50重量%の量で含有するエマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
水を20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、とりわけ30〜70重量%の量で含有するエマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
HLB値が8〜18の親水性乳化剤を疎水性の乳化助剤と組み合わせて含有するエマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
その乳化剤系が親水性乳化剤と乳化助剤の量比10:90〜90:10を有するエマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
乳化剤を1〜25重量%の量、好ましくは5〜20重量%の量、とりわけ5〜15重量%の量で含有するエマルジョンを用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
酵素は、界面活性酵素、とりわけ加水分解酵素および/またはアシル転移酵素であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
加水分解酵素は、エステラーゼ、ホスホリパーゼ、リパーゼおよびリパーゼ/アシル転移酵素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
加水分解酵素は、Alcaligenes、Aspergillus niger、Aspergillus oryzea、Aeromonas aerophila、Bacillus species、Candida albicans、Candida antarctica (Trychosporon oryzae、Pseudozyma antarctica)、Candida antarctica、Candida cylindracea、Candida glabrata、Candida maltosa、Candida parapsilosis、Candida lipolytica、Candida tropicalis、Candida viswanathii、Chromobacterium viscosum、Fusarium solani、Geotrichum candidum、Issatchenkia orientalis (Candida krusei)、Kluyveromyces marxianus (C. kefyr、C. pseudotropicalis)、Mucor javanicus、Penicilium camemberti、Penicilium roqueforti、Pichia guilliermondii (Candida guilliermondii)、Porcine pancreas、Pseudomonas cepacia、Pseudomonas fluorescens、Rhizomucor miehei、Rhizopus arrhizus、Rhizopus oryzae、Rhizopus niveus、Rhizopus javanicusおよびThermomyces lanugenosus、並びにそれらの混合物からなる群から選択される生物から得られるリパーゼおよび/またはリパーゼ/アシル転移酵素から選択されることを特徴とする、請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
純酵素または酵素製剤で表して、用いる全油相量に基づき、0.001〜20重量%の量で酵素を用いることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
酵素触媒反応は、加水分解、エステル化またはエステル交換反応であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品を酵素触媒反応において製造することを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品は、カロチノイド、ステロール含有油成分および/またはビタミンEであることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
脂肪酸アルキルエステルおよび/またはトリグリセリドを酵素触媒エステル化、エステル交換または加水分解するための方法であって、請求項1〜8のいずれかに記載のo/wエマルジョンを反応媒体として用いることを特徴とする、方法。
【請求項17】
化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品を酵素触媒反応において製造することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
化粧および/または医薬生成物および/または精密化学品は、カロチノイド、ステロール含有油成分および/またはビタミンEであることを特徴とする、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
請求項9〜12のいずれかに記載の酵素を用いることを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2007−502103(P2007−502103A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522960(P2006−522960)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008770
【国際公開番号】WO2005/017142
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】