説明

酸の濃縮方法

【課題】この発明は、操作性及び経済性に優れ、かつ、酸濃縮率を向上させる酸の濃縮方法を得ることを課題とするものである。
【解決手段】この発明の酸の濃縮方法は、ナノメーター単位、好ましくは0.1〜10nmの微細孔を備え荷電した分離膜2が装着された圧力透析装置1にAlを含有する廃酸溶液を加圧して供給し、前記分離膜2で透析して廃酸溶液中の酸を濃縮することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミサッシ製造工程におけるアルマイト陽極酸化処理液からの硫酸回収、アルミコンデンサー製造工程におけるHClによるアルミホイルエッチング工程からの塩酸回収、アルミ材のリン酸による化学研磨工程からのリン酸回収、その他酸洗浄などによる廃酸溶液からの酸回収などを目的として、廃酸溶液中の酸を濃縮する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、廃酸溶液中の酸を濃縮する方法としては、電位差を駆動力とする電気透析法、濃度差を駆動力とする拡散透析法、吸着力を駆動力とするイオン交換膜法、圧力を駆動力とする逆浸透法、圧力透析法などが用いられている。
【0003】
電気透析法は金属除去率がよいが設備投資、ランニングコストともに高コストで経済性に難があり、拡散透析法は操作が簡単で金属除去率がよく、ランニングコストも比較的安価であるものの、所要膜面積が大きくメンテナンス性に欠け、原液量とほぼ同じ廃液を排出する等の欠点がある。
イオン交換樹脂法は金属除去率がよく、ランニングコストも比較的安価であるが、建設費が高く操作が複雑である。
逆浸透法はpH2以下の酸濃度に対して耐久性に欠ける。また、本願発明と同様に圧力透析を用いることも提案されている。この方法は金属除去率がよく廃酸量を減らすことができるが、酸濃縮率がよくない。
すなわち、何れの方法によっても一長一短がある。
【特許文献1】特開2003−144858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、操作性及び経済性に優れ、かつ、酸濃縮率を向上させる酸の濃縮方法を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の酸の濃縮方法は、ナノメーター単位、好ましくは0.1〜10nmの微細孔を備え荷電した分離膜が装着された圧力透析装置にAlを含有する廃酸溶液を加圧して供給し、前記分離膜で透析して廃酸溶液中の酸を濃縮することを特徴とするものである。膜中に含まれる単位量の水に対する固定電荷の量(固定電荷密度)は0.1〜10×10−8当量/kg程度が好ましい。
前記廃酸溶液のAlの濃度は0.01molないし2molであることが好ましく(請求項2)、この範囲の濃度となるように必要によりAlを添加し、又は溶液を希釈する。Al濃度が0.01mol以上でないとAlを固定電荷として機能させることができず、また、2mol以上であると浸透圧が高くなって透析が困難な場合が生ずるためである。
また、透析の操作圧力は1ないし7MPaとするのが好ましい(請求項3)。操作圧力が1MPa以下ではフラックス(単位時間・単位膜面積当たりの膜ろ過水量)が小さく、7MPa以上では装置の耐圧性により運転に支障が生ずる場合があるためである。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、廃酸溶液中にAlが含有されており、溶液中でAlは網目構造のAl3+イオンとして存在し、このAl3+イオンがあたかも固定電荷のように振る舞うものと考えられる。そのために、処理すべき廃酸溶液が陰イオンの解離度が高い強酸の廃酸溶液である場合には、陰イオン及びHイオンの分離膜透過が共に促進されるので、分離膜の酸の阻止率を大幅に減少させることができる。他方、陰イオンの解離度が低い弱酸の廃酸溶液である場合には、陰イオンよりもHイオンの分離膜透過が促進されるので、結果として陰イオンは廃酸溶液側に濃縮され、分離膜の酸の阻止率を大幅に増大させることができる。
したがって、Alを含有した廃酸溶液を透析圧で圧力透析装置に供給、透析することで、強酸の場合には透析液側において、弱酸の場合には廃酸溶液側において酸を濃縮することができる。
ここで、阻止率は、分離膜を介した供給液側の溶質の濃度Cc と透析液側の溶質濃度Cpで定義され、〔阻止率R=(1−Cp/Cc)×100[%]〕で求められる。
したがって、操作性及び経済性に優れ、かつ、金属除去率がよく廃酸量も少ない利点を有する圧力透析法において、酸濃縮率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、この発明の酸の濃縮方法に用いる圧力透析装置の模式図である。
圧力透析装置1の内部には分離膜2が取り付けられ、この分離膜2によって圧力透析装置1の内部は廃酸液漕11と透析液漕12とに隔てられ、廃酸液漕11には透析される廃酸液を供給する供給口111及び透析後の廃液を取り出す取出口112が設けられ、透析液漕12には透析液を取り出するための取出口122が設けられている。
分離膜2はナノメーター単位(0.1〜10nm)の微細孔を多数備えた構造となっており、廃酸液漕11側に廃酸液を供給して圧力を加えると水及び酸は透過するが、金属及び分子量の大きな有機物は透過しない。また、この微細孔は低級のアミノ基又は4級アンモニウム塩基などの荷電基をもつものとしてあり、その固定電荷密度は0.1〜10×10−8当量/kg程度としてある。
【0008】
前記廃酸液漕11に供給される廃酸液は0.01〜2molの濃度でAlを含有するものとする。廃酸液のAl濃度がこれよりも高い場合は希釈してこの範囲に調製し、これよりも低い場合はAlを添加する。この廃酸液に1Mpaないし7Mpaの圧力を加えて分離膜を透過させて圧力透析を行う。
廃酸液がAlを含有することによって、濃縮対象となる酸が硫酸などの強酸である場合には、SO2−などの陰イオン及びHイオンの分離膜透過が共に促進されるので、分離膜の酸の阻止率が負の値となり、硫酸が透析液漕12側において濃縮される。他方、リン酸などの弱酸の場合には、PO3−などの陰イオンよりもHイオンの分離膜透過が促進されるので、分離膜の酸の阻止率が正の値に増大され、リン酸が廃酸液漕11側において濃縮される。
したがって、操作性及び経済性に優れ、かつ、金属除去率がよく廃酸量も少ない利点を有する圧力透析法において、酸濃縮率を向上させることができる。
【0009】
廃酸溶液にAlを添加して圧力透析を行った場合と、Alを添加せずに圧力透析を行った場合の実施例・比較例を以下に示す。
【0010】
[実施例1・比較例1]強酸の例
SO143g/lを含む廃酸溶液にAl16g/l(0.6mol/l)を添加した場合とAlを添加しなかった場合とで圧力透析を行い、表1の結果を得た(温度:44℃、透析圧:5MPa、微細孔の大きさ:0.1〜1nm、荷電基の種類:アミノ基、固定電荷密度:(1〜10)×10−8 当量/kg−HO)。
【表1】

すなわち、廃酸液にAlを添加した場合、分離膜2のHSOの透過が促進され、透析液漕12側においてHSOを濃縮することができる。
【0011】
[実施例2・比較例2]強酸の例
HCl179g/lを含む廃酸溶液にAl5.0g/l(0.19mol/l)を添加した場合とAlを添加しなかった場合とで圧力透析を行い、表2の結果を得た(温度:40℃、透析圧:5MPa、微細孔の大きさ:0.1〜1nm、荷電基の種類:アミノ基、固定電荷密度:(1〜10)×10−8 当量/kg−HO)。
【表2】

すなわち、廃酸液にAlを添加した場合、分離膜2のHClの透過が促進され、透析液漕12側においてHClを濃縮することができる。
【0012】
[実施例3・比較例3]弱酸の例
PO163g/lを含む廃酸溶液にAl1.9g/l(0.07mol/l)を添加した場合とAlを添加しなかった場合とで圧力透析を行い、表3の結果を得た(室温、透析圧:3MPa、微細孔の大きさ:0.1〜1nm、荷電基の種類:アミノ基、固定電荷密度:(1〜10)×10−8 当量/kg−HO)。
【表3】

すなわち、廃酸液にAlを添加した場合、分離膜2のHPOの透過が抑制され、廃酸液漕11側においてHPOを濃縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
この発明は、各種廃酸溶液からの酸回収などを目的として、廃酸溶液中の酸を濃縮する方法に関するものであって、産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施例に用いられる圧力透析装置の模式図
【符号の説明】
【0015】
1 圧力透析装置
11 廃酸液漕
12 透析液漕
2 分離膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメーター単位の微細孔を備え荷電した分離膜が装着された圧力透析装置に、Alを含有する廃酸溶液を加圧して供給し、前記分離膜で透析して廃酸溶液中の酸を濃縮することを特徴とする酸の濃縮方法。
【請求項2】
廃酸溶液のAl濃度は0.01molないし2molとした、請求項1記載の酸の濃縮方法。
【請求項3】
透析の操作圧力は1ないし7MPaとした、請求項1又は2記載の酸の濃縮方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−260009(P2010−260009A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113534(P2009−113534)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(505232324)株式会社野坂電機 (7)
【出願人】(500057113)
【Fターム(参考)】