説明

酸化ジルコニウム酸素センサを校正するための校正技術及び校正されたセンサ

【課題】酸化ジルコニウムセンサを素早く、正確に、そして確実に校正する安価なシステム及び方法を提供する。
【解決手段】既知の酸素モル分率を有する基準ガスと既知の酸素モル分率を有する測定ガスとを用いる酸化ジルコニウムセンサの校正方法であって、基準ガス及び測定ガスは同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有することを特徴とする。この構成は、酸素濃度の範囲全体にわたって基準ガス及び測定ガスの両方に空気などの単一のガス供給源を使用可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウム酸素センサを校正するための技術及び校正されたセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ジルコニウム酸素センサは、ボイラー、窯、オーブン、内燃機関、ドライヤー、加熱処理用の加熱炉、焼却炉、精製プロセスユニット、ガスタービン、洗浄器などの燃料燃焼装置によって生じる燃焼ガスの酸素成分を継続的にモニタリングするために広く使われている。集められた情報に基づき、酸素と燃料との混合を最適なレベルに調節することができる。例えば、ボイラーの燃焼フェースに導入された空気は最適な効率を実現するように制御され、酸化窒素及び/又は二酸化硫黄の排出を低減することができる。上述のモニタリングシステムはそのような調整を継続的及び自動的に実施するために利用されている。
【0003】
酸化ジルコニウムセンサは、サンプルガス中の酸素含有量を正確に測定するために解析装置にも用いられている。そのような一つの利用形態が、ミネソタ州、ミネアポリスのモコン・インコーポレーテッドから購入可能なパック チェック(PAC CHECK) ベンチトップ O2 ヘッドスペース アナライザーである。
【0004】
通常、酸化ジルコニウムセンサは、イットリウムで安定化された酸化ジルコニウムから作られているセラミックチューブで出来ており、チューブの内(モニタ)面と外(基準)面上にチューブの検出先端において相互に対向するようにコートされた多孔質のプラチナ電極を有する。チューブが約600℃(1100°F)以上まで加熱されると、セラミック素材は酸素イオンに対して透過性になり、チューブは酸素イオン導電性固体電解質になる。単位体積あたりの酸素分子数がチューブの一側で他側より大きくなると、酸素イオンは一側から他側へと移動する。プラチナ電極は、酸素分子の酸素イオンへの還元と酸素イオンの酸素分子への酸化のための触媒面を提供する。そのため、高濃度側からの酸素分子は高濃度側の電極で酸素イオンへと還元されて加熱されたセラミックチューブを通り、それらが酸素分子へと再び酸化されて放出される低濃度側の電極へと移動する。このイオンの流れは、電極間に電位差を生じる電子の不均衡を生じる。その電位差の強さはネルンストの式で以下のように定義されている。
E=(RT/zF)LnQ
ここで、
Eは電池電位(起電力)
Rは一般気体定数(8.314472JK-1mol-1
Tは絶対温度
Fはファラデー定数(9.64853399×104℃mol-1
zは電池反応において移動した電子のモル数
Qは反応商(すなわち、化学反応に関与する化学種の活性又は濃度の関数)
である。
【0005】
酸化ジルコニウムセンサ用のzの値は、酸化還元反応がO2+4e-⇔2O-2であるため、4である。
【0006】
酸化ジルコニウムセンサ用の反応商(Q)は、測定ガス(P2O2)中の酸素分圧に対する基準ガス(P1O2)中の酸素分圧の比である。
【0007】
これらの値をネルンストの式において置換すると、ジルコニウム酸化センサ用の以下の式が得られる。
E=(RT/4F)Ln(P1O2/P2O2
【0008】
したがって、測定ガス(P2O2)中の酸素濃度は、基準ガス(P1O2)中の酸素濃度が分かっていれば、既知の絶対温度(T)において酸化ジルコニウムセンサから得られる電位差から算出できる。
【0009】
各酸化ジルコニウムセンサの性能におけるわずかな違いや、長い時間において酸化ジルコニウムセンサに生じる変化のために、ゲイン(CG)(すなわち、完全な出力範囲を超えた理想からのずれ)及びオフセット(CO)(すなわち、最小出力における理想からのずれ)の校正係数が各センサに対して定められており、酸化ジルコニウムセンサ用のネルンストの式に組み込まれることによって、以下の酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式が生み出される。
E=(RT/4F)Ln(P1O2/P2O2)CG+CO
【0010】
通常、測定ガス(P2O2)として既知の酸素分圧を有するタンクガスと、基準ガス(P2O1)として(体積で20.95%が酸素である)空気とを用いてセンサから測定値を取得し、必要に応じてそれぞれの測定値から得られた校正値P2O2を可能な限りP2O2の既知な値に一致するようゲイン(CG)及びオフセット(CO)の値を調整することによって、各センサに対するゲイン(CG)及びオフセット(CO)の校正係数が取得される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この従来の校正法は酸化ジルコニウムセンサを正確に校正するために有効であるが、時間と費用がかかる。
【0012】
したがって、酸化ジルコニウムセンサを素早く、正確に、そして確実に校正する安価なシステム及び方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の側面は、酸化ジルコニウム酸素センサを校正する方法である。校正方法は、既知の酸素モル比率を有する基準ガスと、既知の酸素モル比率を有する測定ガスを用いる方法であって、同じ酸素モル分率を有するが異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを使用することを特徴とする。
【0014】
より詳細には、本発明の第1の側面の第1実施形態は、(i)ZrO2センサの第1面を既知の第1全圧であり既知のゼロではない酸素濃度を有する基準ガスと流体連通させ、(ii)ZrO2センサの第2面を、既知の第1全圧とは異なる既知の第2全圧である基準ガスと流体連通させることで、酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を作り出し、(iii)酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式を用いて酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1から予測される酸素含有量を算出し、(iv)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を用いて酸素含有量の測定値を得て、(v)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1に対して予測される酸素含有量を用いて、酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を用いて得られる酸素含有量の測定値を補正することで、補正された一対のΔP1の値を得て、(vi)補正された一対のΔP1の値を用いて酸化ジルコニウムセンサを校正することを有する。
【0015】
本発明の第2の側面は、発明の第1の側面に基づいて校正された酸化ジルコニウム酸素センサである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化ジルコニウムセンサを素早く、正確に、そして確実に校正する安価なシステム及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
特許請求の範囲を含む本明細書中で用いられる場合、“酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式”は、
E=(RT/4F)Ln(P1O2/P2O2)CG+CO
を意味し、ここで
Eは電池電位(起電力)
Rは一般気体定数(8.314472JK-1mol-1
Tは絶対温度
Fはファラデー定数(9.64853399×104℃mol-1
zは電池反応において移動した電子のモル数(4)
P1O2は基準ガスの酸素分圧
P2O2は測定ガスの酸素分圧
Gはゲイン校正係数
Oはオフセット校正係数
であり、ゲイン(CG)及びオフセット(CO)の校正係数の少なくとも一つが使用される。
【0018】
校正法
既知の酸素モル分率を有する基準ガスが選択される。基準ガスは、その利用容易性と信頼性の高い安定した酸素濃度(すなわち、RHが50%の状態で20.86%)により、空気であることが好ましい。既知のゼロではない酸素濃度のタンクガスも基準ガスとして使用可能である。
【0019】
基準ガスと同一の酸素モル分率を有する測定ガスが選択される。測定ガスは、基準ガスと同一であることが好ましく、基準ガスと全く同一の供給源(例えば、すぐ周りにある大気)から得ることが最も好ましい。
【0020】
基準ガスは、既知の圧力において加熱されたZrO2のセラミックチューブの外面と流体連通され、基準ガスの酸素モル分率が分かっているため、前記既知の圧力から基準ガスP1O2の酸素分圧がドルトンの法則を用いて算出される。基準ガスとして好ましい圧力は、試験場所におけるその時の大気圧である。
【0021】
測定ガスは、加熱されたZrO2のセラミックチューブの外面と流体連通する基準ガスの圧力とは異なる既知の圧力において加熱されたZrO2のセラミックチューブの内面と流体連通される。これは、基準ガスをZrO2のセラミックチューブの内部空間に導入して、前記内部空間を密閉し、その後に所望の低減した圧力が得られるまで減圧することによって最も容易に実現できる。基準ガスと同様に、ZrO2のセラミックチューブの内部空間における測定ガスの酸素のモル分率と全圧とを知ることで、ドルトンの法則を用いて測定ガスP2O2中の酸素分圧を算出できる。
【0022】
測定値は、いくつかの異なる測定ガス圧においてセンサによって得られ、Eに相当する算出値を伴い、またはO2濃度へと変換され、各測定値は酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式が用いられて出され、対である一連の検出値及び算出値を生じる。測定値は、広い範囲の測定ガス圧にわたって取られることが好ましく、少なくとも一つ、又は複数の測定値が基準ガス圧の50%未満の測定ガス圧でとられることが好ましく、更に好ましいのは基準ガス圧の25%未満であり、最も好ましいのは基準ガス圧の5%〜20%である。
【0023】
対になった一連の検出値及び算出値により、当業者に周知の一般的な校正技術を用いたセンサのために、ゲイン(CG)及び/又はオフセット(OC)の校正係数が確定できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の酸素モル分率を有する基準ガスと既知の酸素モル分率を有する測定ガスとを用いて酸化ジルコニウムセンサを校正する方法であって、
同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを用いる方法。
【請求項2】
基準ガスと測定ガスとは、全圧の違いにより酸素分圧が異なるように、同一の供給源から取得される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化ジルコニウムセンサを校正する方法であって、
(a)対向する第1及び第2の面を有する加熱された酸化ジルコニウムのセラミックのパーティションを通る酸素イオンの移動を検出することによって測定ガスの酸素含有量を測定するよう作動可能な酸化ジルコニウムのセンサを得ること、ここで、前記第1の面は既知の酸素分圧を有する基準ガスと流体連通しており、第2の面は測定ガスと流体連通しており、
(b)(i)第1の面を既知の第1の全圧においてゼロではない酸素濃度を有する基準ガスと流体連通させ、(ii)既知の第1の全圧とは異なる既知の第2の全圧において基準ガスと第2の面を流体連通させることで酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を生じさせ、(iii)酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式を用いて酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1から予想される酸素含有量を算出することによって、第1の校正値を得ること、
(c)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を用いて酸素含有量を測定すること、
(d)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1を用いて測定される酸素含有量を、酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP1に対して予測される酸素含有量を用いて補正することによって、補正された対のΔP1値を得ること、及び
(e)補正された対のΔP1値を用いて酸化ジルコニウムセンサを校正すること
を有する方法。
【請求項4】
(f)(i)既知の第1の全圧において第1の面を基準ガスと流体連通させ、(ii)既知の第1及び第2の全圧とは異なる既知の第3の全圧において基準ガスと第2の面を流体連通させることで、酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP2を生じさせ、(iii)酸化ジルコニウムセンサ用に校正されたネルンストの式を用いて酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP2から予測される酸素含有量を算出することによって、第2の校正値を得ること、
(g)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP2を用いて酸素含有量を測定すること、
(h)酸化ジルコニウムセンサに作用するΔP2を用いて測定された酸素含有量を、酸化ジルコニウムに作用するデルタP2に対して予測される酸素含有量を用いて補正することによって、補正された対のΔP2値を得ること、及び
(i)校正された対のΔP1値と共に校正された対のΔP2値を用いることによって、酸化ジルコニウムセンサを校正すること
を有する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
基準ガスが空気である請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
基準ガスが大気圧で用いられている請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
使用される基準ガスの全圧の20%未満の全圧で測定ガスが用いられる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
既知の第1の全圧が大気圧であり、既知の第2の全圧が既知の第1の全圧の20%未満である請求項3又は4に記載の方法。
【請求項9】
既知の第3の全圧は既知の第2の全圧の少なくとも2倍である請求項4に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって校正された酸化ジルコニウムセンサを有する酸素センサ。