説明

酸化ストレス評価用オリゴヌクレオチドプローブ

【課題】酸化ストレスによる遺伝子変動を簡便に分類、評価することができる手法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列からなるDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酸化ストレス関連遺伝子のmRNAを検出し得る機能を有するDNA。前記オリゴヌクレオチドプローブが搭載された酸化ストレス評価用DNAマイクロアレイ。前記DNAマイクロアレイを用いて、酸化ストレスを評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ストレス関連遺伝子の発現を検出することのできるオリゴヌクレオチドプローブに関する。また本発明は、当該オリゴヌクレオチドプローブを搭載したDNAマイクロアレイとその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間の老化要因として、生体の内因性(不適切な食生活、ストレス)あるいは外因性の原因(紫外線等)により生ずる活性酸素が広く注目されている。この活性酸素は老化のみでなく、癌その他、種々の疾病の要因あるいは悪化の要因としても問題視され、動脈硬化や高血圧、癌、糖尿病、白内障、痴呆症など多くの疾患の原因となる。また、皮膚においては、コラーゲンやエラスチンを変性させ、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs;Matrix metalloproteinases)が関与したシワ形成や弾性低下といった原因にもなっている。
【0003】
一方、生体が上記のようなストレスに適応し、酸化還元状態を制御する基本的なシステムとして、レドックス制御がある。レドックス制御に関連する代表的な生体物質としては、例えばグルタチオンが挙げられる。グルタチオンは生体内に幅広く分布する抗酸化物質であり、生体内の主な還元剤としてその作用部位であるチオール基によって種々の酸化還元的代謝による細胞防御、異物代謝及び修復過程等に重要な役割を担っている。グルタチオンは、グルタチオンペルオキシターゼの基質として、生体内に発生した過酸化水素や過酸化脂質などの過酸化物を無毒化し、自身が酸化されることにより生体内に及ぼす酸化障害(例えば上記過酸化物やフリーラジカルなど)から保護する働きがある。
【0004】
また、レドックス制御に関連する酵素としては、スーパーオキシドディスムターゼが挙げられる。これは活性酸素の1種であるスーパーオキシド(・O−)を消去する酵素として知られており、中でも、スーパーオキシドディスムターゼ(Mn−SOD)は、ミトコンドリアで発生する活性酸素を除去する酵素である。Mn−SODは、運動により活性化され、Mn−SODを活性化することにより、心臓動脈の疾患による病気や死の可能性を減らすことも報告されている(非特許文献1)。
【0005】
さらに、チオレドキシンもレドックス制御に関連していることが知られている。チオレドキシンは、その活性部位にある2つのシステイン残基によって、NADPH依存性酵素であるチオレドキシンリダクターゼを触媒として、可逆的な酸化還元反応(レドックス制御)を行う分子である(例えば非特許文献1)。これは、細胞内還元環境を維持し、酸化ストレス(フリーラジカル)や腫瘍壊死因子α(TNF−α)が引き起こす障害から細胞を保護する役割を持つことが知られている(例えば非特許文献2,3)。
【0006】
以上、3例ほど生体での酸化ストレスに対する制御機構をあげたが、このような制御機構が何らかの原因によって破たんしたり十分な適応ができなくなったりすると酸化ストレスの状態を引き起こすことになる。特にレドックス制御機構は酸化ストレス以外の多くのストレスに共通したさまざまな遺伝子の発現変動とも関連していることがわかってきており、例えば、一酸化窒素をはじめとする活性窒素種もシグナル伝達、炎症などに関連した遺伝子発現に影響を与え、酸化ストレスと同じ状態を引き起こすことがある。したがって多様な遺伝子の変動が影響しあう酸化ストレス状態の評価はこれまで非常に難しいと考えられてきた。
【0007】
一方、近年のDNAマイクロアレイ技術の発達によって、大量の遺伝子発現プロファイルを短時間で調べることができるようなってきた。DNAマイクロアレイ技術は、一度に多くの遺伝子の発現変動をまとめて捕らえることができるため、その遺伝子発現データを解析することにより、複雑な結果を単純化して評価することが可能となりつつある。
【0008】
これまでに培養細胞を用いて酸化ストレスに関連した発現プロファイルの変化を調べた報告としては、例えば、分化誘導した脂肪細胞に対してTNF-αを作用させ、一万種類以上の遺伝子発現プロファイルの変化を調べたものなどがある(非特許文献4,5)。
【0009】
しかしながら、先に述べたような酸化ストレスに応じて変動する遺伝子を選抜したDNAマイクロアレイ、酸化ストレスにフォーカスしたアレイは無く、特に酸化ストレスを低減させる機能をもつ物質の簡便なスクリーニングは依然として難しいものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.77, p.2777 (1980)
【非特許文献2】Immunol. Lett. Vol.42, p.75 (1994)
【非特許文献3】J. Immunol. Vol.147, p.3837 (1991)
【非特許文献4】Diabetes, Vol. 51 No. 5 1319-1336 (2002)
【非特許文献5】The Journal of Biological Chemistry, 278, 52298-52306 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の主な目的は、酸化ストレスによる遺伝子変動を簡便に分類、評価することができる手法を提供することにある。すなわち、酸化ストレスに特に関連性が深い遺伝子群を見出し、これらの遺伝子を利用して、物質(食品や薬剤)の抗酸化ストレス機能を評価する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、酸化ストレス機能を評価できる109遺伝子検出用プローブを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(a)若しくは(b)のDNAの塩基配列及び/又は該DNAの塩基配列と相補的な塩基配列を含む酸化ストレス評価用オリゴヌクレオチドプローブに関する。
【0014】
(a) 配列番号3, 4, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 26, 29, 32, 34, 35, 36, 38, 39, 42, 43, 45, 47, 48, 50, 52, 53, 54, 57, 60, 61, 67, 68, 69, 73, 77, 78, 79, 81, 82, 84, 85, 86, 87, 89, 91, 95, 96, 97, 98, 99, 100, 102, 104, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 116, 117, 118, 119, 120, 123, 124, 125, 126, 127, 128, 129, 130, 131, 132, 133, 139, 143, 146, 147, 150, 156, 157, 161, 162, 163, 164, 165, 166, 168, 174, 175, 177, 179, 180, 181, 184, 185, 188, 190, 191, 193, 198, 199, 200, 202, 203, 204, 208, 216 に示される塩基配列からなるDNA
(b) 上記(a)のDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酸化ストレス関連遺伝子のmRNAを検出し得る機能を有するDNA
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化ストレスに関連する109種類の遺伝子の発現を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブを提供することができる。また、本発明によれば、当該オリゴヌクレオチドプローブを搭載したDNAマイクロアレイを提供することもできる。さらには、マウス由来の成熟脂肪細胞を酸化ストレス状態においた後、被験物質で処理し、その遺伝子発現パターンの変化を把握することにより、酸化ストレス改善機能を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】中空繊維束(中空繊維配列体)製造用の配列固定治具を示す概略図である。
【図2】酸化ストレスに関連している219遺伝子、5群についてのDNAマイクロアレイによる解析で、有意に発現変動が見られた109遺伝子の解析結果を示す図である。LTIはLPS+TNF−α+IFN−γを示す。またAはクルクミン、Bはテトラヒドロクルクミンを示す。
【図3】クルクミン添加によってコントロール群の方向に遺伝子発現変動が抑制された典型的な8遺伝子についてのグラフである。LTIはLPS+TNF−α+IFN−γを示す。またAはクルクミン、Bはテトラヒドロクルクミンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
<1.酸化ストレス評価用オリゴヌクレオチドプローブ>
本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、酸化ストレス評価に特に関連性が深い遺伝子群の発現を検出し、物質(食品や薬剤)の抗酸化ストレス機能を評価することができるオリゴヌクレオチドプローブである。
【0018】
酸化ストレス評価に関連性が深い遺伝子は、レドックス制御に関連する遺伝子などであり、例えばグルタチオン代謝、スーパーオキドディスムターゼ、チオレドキシン等に関連するものである。酸化ストレス評価に関連性が深い遺伝子の具体的な遺伝子名、及びGenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ から取得可能)のAccession number(アクセッション番号)は表1に示される。
【0019】
【表1】

【0020】

【0021】

【0022】

【0023】

【0024】

【0025】
これら遺伝子の発現を特異的に検出することのできるオリゴヌクレオチドプローブを設計する。ポジティブコントロール及びネガティブコントロールを含めた全ての遺伝子に対するキャプチャープローブは、鎖長65塩基の合成オリゴヌクレオチドで、融解温度(Tm)はほぼ同一であり、標的遺伝子のmRNAの3’末端側より1,500塩基以内の領域に特異的に結合するように、専用ソフトウェアを用いて設計したものである。設計したオリゴヌクレオチドプローブの配列を表1に示す。
【0026】
さらに、これら219種類のプローブを搭載したDNAマイクロアレイを作製し、
(1)酸化ストレス状態にせず、被験物質での処理もしない評価対象(コントロール)
(2)(1)の評価対象を酸化ストレス状態においた評価対象、
(3)(2)の評価対象に対してさらに少なくとも1種類の被験物質で処理した評価対象
の少なくとも3群以上の遺伝子発現データを分散分析により比較し、有意に変動した109遺伝子を選抜、酸化ストレス機能を評価できる109遺伝子検出用プローブを見出した。選抜したプローブは、表1の配列番号3, 4, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 26, 29, 32, 34, 35, 36, 38, 39, 42, 43, 45, 47, 48, 50, 52, 53, 54, 57, 60, 61, 67, 68, 69, 73, 77, 78, 79, 81, 82, 84, 85, 86, 87, 89, 91, 95, 96, 97, 98, 99, 100, 102, 104, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 116, 117, 118, 119, 120, 123, 124, 125, 126, 127, 128, 129, 130, 131, 132, 133, 139, 143, 146, 147, 150, 156, 157, 161, 162, 163, 164, 165, 166, 168, 174, 175, 177, 179, 180, 181, 184, 185, 188, 190, 191, 193, 198, 199, 200, 202, 203, 204, 208, 216 に示される塩基配列からなるDNAである。
【0027】
また、配列番号1〜219にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酸化ストレス関連遺伝子のmRNAを検出し得る機能を有するDNA断片も、本発明のオリゴヌクレオチドプローブとして用いることができる(b)。
【0028】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等を適宜参照することができる。
【0029】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション時の条件であって、バッファーの塩濃度が97.5〜390mM、温度が37〜80℃、好ましくは塩濃度が97.5〜200mM、温度が50〜70℃の条件を意味する。具体的には、例えば195mMで65℃等の条件を挙げることができる。さらに、このような塩濃度や温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件も考慮し、条件を適宜設定することができる。
【0030】
(b)のDNAとしては、上記表1のDNAの塩基配列に対して少なくとも90%以上の相同性を有する塩基配列であることが好ましく、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0031】
なお、上記(b)のDNAは、酸化ストレス関連遺伝子のmRNAを検出し得る機能を有するDNAであることが重要である。当該機能は、上述のハイブリダイズするDNAとしての物性により発揮され得るものである。
【0032】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、前述した酸化ストレス評価に特に関連性が深い109種類の遺伝子と、特異的に結合する(ハイブリダイズする)ものである。このように特異的に結合することにより、酸化ストレス関連遺伝子のmRNAの検出ができ、被験物質(食品や薬剤)の抗酸化ストレス機能を簡便に評価することができる。
【0033】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブの作製方法は、特に限定はされないが、公知の各種DNA合成機を用いて得る方法等が挙げられる。
<2.酸化ストレス評価用DNAマイクロアレイ>
本発明のDNAマイクロアレイ(DNAチップ)は、上述した本発明のオリゴヌクレオチドプローブ(キャプチャープローブ)が搭載されたものである。
【0034】
DNAマイクロアレイについて、その支持体の形態は、限定はされず、平板、棒状、ビーズ等のいずれの形態も使用できる。支持体として、平板を使用する場合は、その平板上に、所定の間隔をもって、所定のプローブを種類毎に固定することができる(スポッティング法等;Science 270, 467−470 (1995)等参照)。また、平板上の特定の位置で、所定のプローブを種類毎に逐次合成していくこともできる(フォトリソグラフィー法等;Science 251, 767−773 (1991)等参照)。他の好ましい支持体の形態としては、中空繊維を使用するものが挙げられる。支持体として中空繊維を使用する場合は、所定のプローブを種類毎に各中空繊維に固定し、すべての中空繊維を集束させ固定した後、繊維の長手方向で切断を繰り返すことにより得られるDNAマイクロアレイが好ましく例示できる。このDNAマイクロアレイは、貫通孔基板に核酸を固定化したタイプのものと説明することができ、いわゆる「貫通孔型マイクロアレイ」とも言われる(特許第3510882号公報等を参照、図1)。
【0035】
支持体へのプローブの固定方法は、限定はされず、どのような結合様式でもよい。支持体に直接固定することに限定はされず、例えば、予め支持体をポリリジン等のポリマーでコーティング処理し、処理後の支持体にプローブを固定することもできる。さらに、支持体として中空繊維等の管状体を使用する場合は、管状体にゲル状物を保持させ、そのゲル状物にプローブを固定することもできる。当該貫通孔型マイクロアレイとしては、例えば、三菱レイヨン社製のDNAマイクロアレイ(GenopalTM)等が好ましく挙げられる。
<3.酸化ストレス評価>
本発明のオリゴヌクレオチドプローブ及び/又はDNAマイクロアレイを利用した酸化ストレスの評価方法は、一例としては次の(1)〜(3)を含む評価方法である。
(1)評価対象を酸化ストレス状態におく工程
(2)酸化ストレス状態の評価対象に対して被験物質で処理する工程
(3)工程(1)と工程(2)における評価対象の転写産物の発現変動をオリゴヌクレオチドプローブ及び/又はDNAマイクロアレイを用いて比較する工程。
【0036】
ここで、工程(1)における評価対象とはヒト、マウス等の生体そのものであってもよいが、より好ましくは培養細胞である。
【0037】
酸化ストレス状態におく工程としては、TNF−α等を含有する培地で培養細胞を培養するなどが考えられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0038】
工程(2)の被験物質による処理と、工程(1)の処理とを行う順番としては、両方の処理を同時に行ってもよく、一方の処理を行った後に他方の処理を行ってもよい。
【0039】
工程(3)での転写産物の発現変動は、本発明のオリゴヌクレオチドプローブ及び/又はDNAマイクロアレイを用いることで把握することができる。具体的には、上記工程(1)と工程(2)を実施した評価対象から調製した核酸(核酸増幅産物)を本発明のDNAマイクロアレイ等に接触させ、本発明のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズした酸化ストレス関連遺伝子の転写産物を検出する。核酸(核酸増幅産物)の調製方法は特に限定はされないが、例えば、実験動物由来の臓器・組織、もしくは培養細胞から、カラム等を用いて転写産物を含む核酸を分離、場合により分離後増幅することにより得ることが出来る。
【0040】
なお、接触とは、具体的には、上記の核酸(核酸増幅産物)をハイブリダイゼーション用の溶液と混合させ、この溶液(ハイブリダイゼーション溶液)をDNAマイクロアレイに搭載されたオリゴヌクレオチドプローブに結合(ハイブリダイズ)させることを言う。
【0041】
ハイブリダイゼーション溶液とDNAマイクロアレイとの接触、すなわちハイブリダイゼーション反応は、当該溶液中の核酸が当該アレイに搭載されたオリゴヌクレオチドプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るよう、反応条件(緩衝液の種類、pH、温度など)を適宜設定して行うことができる。なお、ここで言う「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション時の条件であって、バッファーの塩濃度が97.5〜390mM、温度が37〜80℃、好ましくは塩濃度が97.5〜200mM、温度が50〜70℃の条件を意味する。具体的には、例えば195mMで65℃等の条件を挙げることができる。
【0042】
洗浄後、オリゴヌクレオチドプローブに結合した核酸の標識を検出できる装置により、スポットごとに検出強度を測定する。蛍光標識化された核酸を結合させた場合、又は核酸を結合後に蛍光標識化した場合は、各種蛍光検出装置(例えば、三菱レイヨン社製の冷却CCD式蛍光検出装置など)を使用して蛍光強度を測定することができる。得られた検出結果(蛍光強度)は、公知の処理方法により、ターゲットとなる各種遺伝子の発現量を数値化することが出来る。その後、この数値をもとに酸化ストレス状態を分類、評価することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.DNAマイクロアレイの製造。
【0044】
チオレドキシン、グルタチオン代謝、アポトーシス、シグナル伝達等、酸化ストレス状態の評価に特に関連性が深い遺伝子、219遺伝子を選択し、これらの遺伝子の発現を特異的に検出するキャプチャープローブを搭載したDNAマイクロアレイ(貫通孔型オリゴヌクレオチドマイクロアレイ(GenopalTM)、三菱レイヨン社製)を作製した。
【0045】
ポジティブコントロール及びネガティブコントロールを含めた全ての遺伝子に対するキャプチャープローブは、鎖長65塩基の合成オリゴヌクレオチドで、融解温度(Tm)はほぼ同一であり、標的遺伝子のmRNAの3’末端側より1,500塩基以内の領域に特異的に結合するように、専用ソフトウェアを用いて設計したものである。設計したオリゴヌクレオチドプローブの配列を表1に示した。
2.サンプルの調製
2−1.成熟脂肪細胞の調製。
【0046】
マウス由来前駆脂肪細胞株3T3−L1(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を24ウェルプレートに撒き、10%FCS(バイオロジカル インダストリーズ社)含有DMEM(シグマ社)にて、5%CO、37℃で培養した。細胞がハイパーコンフルエントになった時点で、分化誘導剤として最終濃度がそれぞれ2μM インスリン(insulin)(シグマ社)、1μM デキサメタソン(dexamethasone)(ICN社)、及び0.25mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(3−isobutyl−1−methylxanthine)(ICN社)を含む10%FCS含有DMEMに培地交換し(Day0とする)、3日間培養した。その後2μMインスリン含有10%FCS含有DMEMに培地交換して(Day3)2日間培養し、その後同様の培地に交換して(Day5)1日間培養した(Day6)。
2−2.酸化ストレス状態の誘導と被験物質での処理。
【0047】
被験物質としてクルクミン、テトラヒドロクルクミンを検討した。DMSOに溶解して50mM濃度の溶液を調製した。この溶液を必要に応じて希釈し、10%FCS含有DMEMに、最終濃度が25μM(テトラヒドロクルクミンは50μMも実施)となるようにそれぞれ添加した。Day6の時点で、上記の培地に交換し、5%CO、37℃で1時間培養した。その後、LPS、マウスTNF−α、マウスIFN−γの3種類すべてを最終濃度が10ng/mLとなるように培地に添加し、さらに、15時間、5%CO、37℃で培養した。対照として添加しないものについても同時に実験を行った。
3.サンプルからのtotal RNAの回収。
【0048】
培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄した後に、1ウェルあたり1mLのQIAZOL(キアゲン社)を加え、セルスクレイパーで細胞を回収し、全量を滅菌済みの1.5mLチューブに加えてヴォルテックスミキサーでよく混合した。さらに、200μLのクロロホルムを加えてヴォルテックスミキサーでよく混合した後、そのまま室温で5分間静置した。次に、13000rpm、4℃で15分間遠心分離し、水層を新しい1.5mLチューブに回収した。回収した液に同量のイソプロパノールを加えてよく混合し、室温で5分間静置した。次に、13000rpm、4℃で15分間遠心分離し、上清を取り除いた。さらに1mLの70%エタノールを加えてよく混合した後、13000rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清を取り除いた。そのまま沈殿を室温で5分間風乾させた。次に、沈殿にヌクレアーゼフリー水30μLを加えてピペッティングでよく混合した。吸光度計を用いて、260nmにおける吸光度を測定し、total RNA濃度を定量した。また2100Bioanalyzer(Agilent社)で電気泳動を行い、total RNAが分解していないかどうかを確かめた。RIN値はRNAの分解度を示す数字であり、1〜10の値で表され、10はほぼ分解していないことを表す(LTIはLPS+TNF−α+IFN−γを示す。)。結果を表2に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
4.total RNAからのaRNA合成。
【0051】
それぞれの群由来(TNF―α処理有りまたは無し)のTotal RNAを用いてBiotin標識aRNAを調製し、これを前記製造したDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションさせる被験試料とした。Biotin標識aRNAの調製はMessage AmpII Biotin Enhanced Kit (Ambion社製)を用いて、所定の方法に従って実施した。aRNAの取得量を表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
5.DNAマイクロアレイによるアッセイ。
【0054】
前述のビオチン標識済みaRNA5μgを、キットに付属の5×Fragmentation Bufferを用いて94℃にて7分30秒加熱し、断片化した。断片化したビオチン標識aRNA溶液を、最終的な組成が0.12M Tris−HCl/0.12M NaCl/0.05% Tween20となるように各種試薬を添加し、150μlのハイブリダイゼーションサンプルとした。ハイブリダイゼーション反応は、65℃で16時間行った。反応後のDNAマイクロアレイは、洗浄バッファー溶液(0.12M TNT溶液)を用いて65℃で20分間の洗浄を2回行い、最後に0.12M TN溶液で65℃、10分間洗浄した。
【0055】
0.12M TNT溶液は以下のように調製した。
1M Tris−HCl 120ml
1M NaCl 120ml
0.5%Tween20 100ml
蒸留水で 1000mlにメスアップ。
【0056】
0.12M TN溶液は以下のように調製した。
1M Tris−HCl 120ml
1M NaCl 120ml
蒸留水で 1000mlにメスアップ。
【0057】
次に、オリゴヌクレオチドプローブに結合した核酸の蛍光標識を行った。蛍光標識は、あらかじめ蒸留水によって1mg/mlに溶解したCy5−Streptavdin(GE Healthcare社製)を1/500に蒸留水で希釈した溶液5mlに、DNAマイクロアレイを室温で30分間浸漬させることで行った。浸漬後のDNAマイクロアレイは5mlの0.12M TNT溶液によって5分間、4回洗浄に供した。
6.DNAマイクロアレイによる発現量データの取得。
【0058】
Cy5標識後のDNAチップは、専用のDNAチップ検出器を用い、0秒から40秒の複数の露光時間で蛍光を検出し、スポットそれぞれにおいて、当該スポット中に飽和画素を含まない画像のうち、最長の露光時間の画像を用い、単位時間あたりに換算した蛍光シグナル強度として数値化した。引き続きデータ解析を実施した。
7.発現解析データの取得。
【0059】
以下のようにして解析を実施した。
(1)検出した蛍光強度の生データからブランクスポット(プローブを搭載していないスポット)の中央値を差し引き、シグナル強度とした。またブランクスポットの標準偏差を算出した。
(2)内部コントロール遺伝子をArbpとした。比較するチップ間でArbpのシグナル強度が最大のチップを選択し、チップ間でのArbpのシグナル強度比を算出してチップ間の補正係数とした。各チップのスポットのシグナル強度に補正係数を乗算しシグナル強度の補正を行った。
(3)補正後のデータについて、コントロール群でシグナル強度の平均値をとり、この強度で各チップのシグナル強度を除算し、その値に対して、底が2のLogをとった。これを発現比とした。
(4)発現比の値をもとに、有意水準0.05として5群で分散分析を行い、有意と判定された遺伝子を選抜し、引き続いてクラスタリングを行った。クラスタリングの距離関数はピアソンの距離係数を用いた。クラスタリング結果を図2に示した。なお、シグナル強度が低いものは、(1)で算出したブランクスポットの標準偏差×3の値を基準にして、データを確認する際に留意した。
8.被験物質の酸化ストレス関連評価。
【0060】
クラスタリング後のデータから以下の特徴を見出した。
<クルクミンを添加した群の評価>
Icam1、Icam5、Timp1、Mt1、Sod2、Sod3、Gsta2、Gsta4遺伝子の発現をコントロールの状態に戻す方向に働いていた。これにより、クルクミンが接着因子、抗酸化関連遺伝子へ影響を及ぼしていることが示された([図3])。
<テトラヒドロクルクミンを添加した群の評価>
シグナル強度から判断すると酸化ストレス惹起群(LTI群)での発現上昇を増強させる方向に働いており、クルクミンのような特徴的な抑制作用は見られなかった。
【符号の説明】
【0061】
11 孔
21 多孔板
31 中空繊維
41 板状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)若しくは(b)のDNAの塩基配列及び/又は該DNAの塩基配列と相補的な塩基配列を含む酸化ストレス評価用オリゴヌクレオチドプローブ。
(a) 配列番号3, 4, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 26, 29, 32, 34, 35, 36, 38, 39, 42, 43, 45, 47, 48, 50, 52, 53, 54, 57, 60, 61, 67, 68, 69, 73, 77, 78, 79, 81, 82, 84, 85, 86, 87, 89, 91, 95, 96, 97, 98, 99, 100, 102, 104, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 116, 117, 118, 119, 120, 123, 124, 125, 126, 127, 128, 129, 130, 131, 132, 133, 139, 143, 146, 147, 150, 156, 157, 161, 162, 163, 164, 165, 166, 168, 174, 175, 177, 179, 180, 181, 184, 185, 188, 190, 191, 193, 198, 199, 200, 202, 203, 204, 208, 216 に示される塩基配列からなるDNA
(b) 上記(a)のDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ酸化ストレス関連遺伝子のmRNAを検出し得る機能を有するDNA
【請求項2】
請求項1記載のオリゴヌクレオチドプローブが搭載された酸化ストレス評価用DNAマイクロアレイ。
【請求項3】
請求項1記載のオリゴヌクレオチドプローブ及び/又は請求項2記載のDNAマイクロアレイを用いて、酸化ストレスを評価する方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−65596(P2012−65596A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213411(P2010−213411)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】