説明

酸化セリウムウオッシュコート

【課題】触媒を用いたコンバーター用のウオッシュコートを形成するために用いられる、完全な固溶体となって原子レベルで混合されている、酸化セリウム及び酸化ジルコニウムのような安定化作用を有する高い酸素貯蔵能力を有し超微細微結晶サイズを高温においても維持する貴金属でない金属の酸化物の粉体組成物を提供する。
【解決手段】粉末は、セリウムイオン及び貴金属でない金属のイオンの透明な溶液を微粒子化して微細な霧とし、それを速い速度で炉を通過させて粉末粒子を生成させることを包含する、スプレー熱分解法によって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関用の排ガス浄化触媒のウオッシュコート(washcoat)において使用される、高い酸素貯蔵能力を有する、混合された貴金属でない金属の酸化物粉末の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウムは、他の、貴金属でない金属の酸化物で安定化されて触媒及び触媒支持体(ウオッシュコート)として使用されてきた。ウオッシュコートは、一般的に、セラミック又は金属で作られる場合が多い基体にコーティングされ、そして貴金属を、ウオッシュコート上に沈着させる。
【0003】
典型的な応用分野は、内燃機関が発生した排ガスを処理するための触媒を用いたコンバーターである。白金のような貴金属触媒は、貴金属でない金属の酸化物のウオッシュコート上に沈着しそしてコンバーター内部の枠組み上に支持される。エンジンの排ガスに由来する副生成物成分の触媒による変換は、ガスが固体触媒上を通過する時にそれらが酸化されることによって行われる。例えば、特許文献1(権利者:Hindinら)参照。
【0004】
種々の要因が触媒活性に影響する。例えば、固体触媒の効率は一般的に、処理される物質に接する表面積が増加するにつれて増大する。従って、固体触媒の粒子を高度に分割した状態に維持することは、より大きい表面積を与え、その結果より効率の良い触媒をもたらすことになる。 触媒構造がセリア及びジルコニアのような種々の触媒成分の混合物から成る場合は、より均質な成分の混合物が、より効果的な触媒構造をもたらすことになるであろう。エンジン排ガスの成分を触媒的に酸化するために酸素が使用されるので、触媒コンバーター中のウオッシュコートの酸素貯蔵能力もまた、非常に重要である。
【0005】
触媒構造の種々な例が知られている。共沈によって製造された、アルミナ系の触媒担体物質が、特許文献2(権利者:Schaeferら)に開示されている。特許文献3(権利者:Sauvionら)は、微粒子状の酸化セリウム触媒組成物を開示している。その酸化セリウム微粒子は多孔性でありその中に他の金属酸化物が分散している。その組成物は、共沈によって製造されており、そして本発明の完全な固溶体ではない。
【0006】
触媒活性を持つ貴金属と促進剤を含有する複合粉末が、特許文献4(権利者:Berndtら)に記載されている。集合した複合粉末がスプレー熱分解法によって製造されており、そして続いてボールミルにかけて貴金属の露出を増大させている。
【0007】
公知の方法によって得られる触媒物質は、本発明が提供するような、高い酸素貯蔵能力を有する貴金属でない金属の酸化物の完全な固溶体で構成された触媒のウオッシュコートを提供していない。
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,993,572号明細書
【特許文献2】米国特許第4,331,565号明細書
【特許文献3】米国特許第4,940,685号明細書
【特許文献4】米国特許第4,910,180号明細書
【発明の開示】
【0009】
上記した触媒構造の欠陥を克服するために、本発明は、酸化セリウム及び少なくとも1種の他の貴金属でない金属の酸化物で構成された粉末の製造方法を提供する。その酸化物
を原子レベルで混合し、完全な固溶体を形成するのが有利である。
【0010】
本発明の方法は、セリウムイオン及び少なくとも1種の貴金属でない金属のイオンで構成された塩溶液の微細な霧を製造する段階を包含する。微細な霧は、スプレー熱分解によって乾燥され、セリウムイオン及び少なくとも1種の貴金属でない金属のイオンが原子レベルで混合されている粒子を形成する。形成された粒子の塩は分解して酸化物となり、かくして、混合され完全な固溶体となっている酸化セリウムと貴金属でない金属の酸化物の粒子を形成する。貴金属でない金属の酸化物成分が酸化ジルコニウムであることが好ましい。本発明はまた、上記の方法によって製造された、酸化を促進する組成物を提供する。得られた組成物は、他の安定化作用をもつ酸化物を使用することなく立方体構造を有する。
【0011】
本発明の組成物及び方法は、高い酸素貯蔵能力を有する触媒支持体を提供する。本発明の方法は、既知の方法より低温で行われる点が有利である。従って、本発明の方法によって製造される粉末は、以前の方法によって製造された粉末に比較して粉末の表面積の損失が少ない。
【0012】
発明の詳細な説明
完全な固溶体となっている酸化セリウムと少なくとも1種の貴金属でない金属の酸化物の粉末の製造方法は、セリウム塩及び少なくとも1種の貴金属でない金属の塩の均一な水溶液を調製することを包含する。その溶液の微細な霧を形成しそしてその霧を約500℃〜1000℃の温度で加熱することにより乾燥する。乾燥は約0.5秒〜約20秒間行われ、その際セリウムイオン及び少なくとも1種の貴金属でない金属のイオンが原子レベルで混合されている粒子が形成される。粒子の塩が分解して、酸化セリウムと少なくとも1種の貴金属でない金属の酸化物が原子レベルで混合され完全な固溶体となっている粒子を形成する。
【0013】
適切な貴金属でない金属の酸化物の例としては、それに限定はされないが、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物及びそれらの組み合わせが挙げられる。好ましい貴金属でない金属の酸化物の例としては、ジルコニア、イットリア、ランタニド、アクチニド及びそれらの組み合わせが挙げられる。ジルコニア(酸化ジルコニウム)が、最も好ましい。
【0014】
本明細書で用いられる塩の例としては、貴金属でない金属の、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、及び酢酸塩のような水溶性の塩が挙げられる。酢酸塩が好ましい。
【0015】
均一な水溶液を、固溶体粉末中の貴金属でない金属の酸化物の最終濃度が約7〜約80重量%、好ましくは約25〜約42重量%になるように調製するのが好ましい。安定化されたセリアの最も好ましい組成は、ZrO42重量%及びCeO約58重量%である。
【0016】
水溶液を噴霧して、直径約10μ〜約200μ、好ましくは約25μ〜約100μ、最も好ましくは約25μ〜約50μの微細な液滴を有する霧とする。微細な霧を、金属塩を分解して対応する酸化物にするのに十分な温度、例えば、約300℃〜約1,200℃、好ましくは約500℃〜約1,000℃、最も好ましくは約750℃〜約1,000℃、で運転する炉を通過させる。
【0017】
炉の中での滞留時間は、約0.5秒〜約20秒、好ましくは約0.7秒〜約11秒、最も好ましくは約0.7秒〜約6秒である。この高速、高温のプロセスは、スプレー熱分解として知られている。
【0018】
上記の方法によって製造された粉末は、新たに製造したときは約60m/gの表面積を有する粒子で構成される。粒子は、微結晶サイズが、約25オングストローム〜約15
0オングストロームの範囲であり、平均微結晶サイズが約32オングストロームである。約700℃迄の粒子の酸素貯蔵能力は、約200μモル/g〜約600μモル/gの範囲であり、平均約510μモル/gである。約1000℃迄の粒子の酸素貯蔵能力は、約500μモル/g〜約1200μモル/gの範囲であり、平均約1040μモル/gである。
【0019】
1000℃迄で5時間熟成後に、粒子は、表面積が約1m/g〜約50m/gであり、そして微結晶サイズが、約25オングストローム〜約400オングストロームである。平均の表面積は約5m/gであり微結晶サイズは76オングストロームである。熟成された粒子は、約700℃迄の粒子の酸素貯蔵能力が、約300μモル/g〜約500μモル/gの範囲であり、平均約400μモル/gであり、約1000℃迄の粒子の酸素貯蔵能力が、約500μモル/g〜約1200μモル/gの範囲であり、平均約670μモル/gである。
【0020】
本発明のその他の特徴と利点は、以下に示す実施例(この実施例は発明を限定するものではない)からより明らかになるであろう。
【実施例】
【0021】
本発明の方法が、以下に示すように、酸化セリウムウオッシュコートを製造するために用いられた。炭酸セリウム粉末を希酢酸中に溶解して酢酸セリウムの水溶液を調製した。酢酸セリウム水溶液を酢酸ジルコニル水溶液に添加して、均一な、セリア及びジルコニアイオンの水溶液を生成させた。
【0022】
その均一な水溶液を、二流体ノズルを用いて噴霧して、直径が10μ〜100μの小滴の微細な霧とした。微細化した液滴を空気の流れを用いて管式炉に導入した。管を約2”H2Oのわずかな減圧にして霧に炉を通過させた。微細な霧を約1,000℃の温度の炉の中で加熱した。炉内の滞留時間は0.7秒であった。液滴が乾燥すると、酢酸ジルコニウムと酢酸セリウムが原子レベルで混合している粉末が形成された。
【0023】
酢酸塩が分解して、原子レベルで混合されているジルコニウムとセリウムの酸化物の粉末が生成した。得られた粉末は、酸化ジルコニウム42%及び酸化セリウム58%であった。
【0024】
比較実施例
上記の方法によって製造された粉末を、公知の二段法を用いて製造された類似の物質と比較した。ジルコニウムとセリウムの酢酸溶液をスプレー乾燥し、次いで別のトレイでの焼成工程にかけた。塩の水溶液を、上記の実施例と同様な方法で製造した。その溶液を二流体ノズルを用いて180℃の温度でスプレー乾燥した。スプレー乾燥した生成物をトレイ中で600℃の温度で60分間焼成した。
【0025】
トレイで焼成した生成物は、固溶体を生じたけれども、酸素貯蔵能力が、本発明の方法によって製造した同じ組成の生成物より著しく低かった。
【0026】
酸素貯蔵能力
粉体の酸素貯蔵能力(OSC)を、温度プログラム還元(TPR)分析を用いて以下のように比較した。
【0027】
ガス追い出し段階として、100%アルゴンを、用意した試料0.1g上を750℃で1時間、流した。
【0028】
試料を300℃に冷却した。
【0029】
5%H/Arを試料上を流しながら、試料の温度を20℃/分で直線的に上昇させた。
【0030】
還元によって生成した水を、モレキュラーシーブを充填したパイレックスU字管にトラップした。
【0031】
水素の消費量を、入口ガスと出口ガスの熱容量の差によって測定した。 グラフの曲線の下の面積を、100%アルゴンにおけるキャリブレーションのスパイク波形の下の面積と比較した。
【0032】
比較の結果を下記の表に示す。比較試料は上記の比較実施例の方法を用いて製造し、試料1及び2は、本発明の方法を用いて製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
表中の格子パラメーターは、X線回折図形によって求めた。格子パラメーターは、ジルコニウムがセリウムと原子レベルで混合しているかどうか、そしてどの程度まで原子レベルで混合しているかを示す。より小さい数が、より緊密に混合していることを示す。
【0035】
上記の表中の格子パラメーターの数字が示しているように、本発明の方法によって、セリアイオンとジルコニアイオンとの原子レベルでのより緊密な混合が達成される。F.Donald Bloss著、Crystallography and Crystal
Chemistry、485〜487頁を参照。この文献は、引用することによって本明細書に組み込まれるものとする。またこれも上記の表に示されているように、700℃迄のOSCが、本発明の粉末の方が比較実施例より著しく高い。
【0036】
以上、本発明をその個々の態様に関して記載してきたが、多くのその他の変更や修正そしてその他の用途が当業者には明らかになるであろう。それ故に、本発明は、本明細書中の特定の開示によって限定されるのではなくて、添付した「請求の範囲」によってのみ限定されるべきである。
【0037】
本発明の好適の実施態様は以下のとおりである。
1. 固溶体となっている、酸化セリウム及び少なくとも1種のその他の貴金属でない金属の酸化物の粉末の製造方法であって、次の段階:
セリウム塩及び少なくとも1種の貴金属でない金属の塩の溶液を調製する段階;
その溶液の微細な霧を形成する段階;
その微細な霧を、セリウム塩及び少なくとも1種の貴金属でない金属の塩を分解するのに十分な温度で加熱することによって乾燥する段階;及び
酸化セリウム及び少なくとも1種の貴金属でない金属の酸化物が原子的に混合され完全な固溶体になっており、その貴金属でない金属の酸化物が全固溶体の約7〜約80重量%を構成している粒子を形成する段階を含んで成る方法。
2. セリウム塩が酢酸セリウムである上記1に記載の方法。
3. 貴金属でない金属の塩が、貴金属でない金属の酢酸塩である上記1に記載の方法。
4. 貴金属でない金属の酸化物が、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる上記1に記載の方法。
5. 貴金属でない金属の酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、ランタニド、及びアクチニド、並びにそれらの混合物から成る群から選ばれる上記4に記載の方法。
6. 貴金属でない金属の酸化物が、酸化ジルコニウムである上記4に記載の方法。
7. 微細な霧が、直径が約10μm〜約200μmの液滴を含んで成る上記1に記載の方法。
8. 上記1の方法によって製造される組成物。
9. 上記6の方法によって製造される組成物。
10. 安定化作用を有する他の酸化物を使用することなく立方体構造を有する上記8に記載の組成物。
11. 酸化セリウム中の酸化ジルコニウムの重量%が約25と約42の間である上記8に記載の組成物。
12. 粒子が約60m/gの表面積及び約25〜約150オングストロームの微結晶サイズを有する上記8に記載の組成物。
13. 粒子の約700℃迄における酸素貯蔵能力が、約300μモル/g〜約500μモル/gである上記8に記載の組成物。
14. 基体上にコーティングされており、そして、その上に貴金属触媒が沈着している上記8に記載の組成物。
15. 酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を含んで成る組成物であって、酸化ジルコニウムが組成物の約25〜約42重量%であり、そして組成物の約700℃迄における酸素貯蔵能力が約300μモル/g〜約500μモル/gの範囲である組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固溶体となっている酸化セリウム及び少なくとも1種のその他の貴金属でない金属の酸化物の、そして高い酸素貯蔵能力を有している粉末の製造方法であって、次の段階:
セリウム塩及び少なくとも1種の貴金属でない金属の塩から成る溶液を調製する段階;
その溶液を管式炉を用いるスプレー熱分解にかけて、溶液の微細な霧を形成しそしてその微細な霧をセリウム塩及び少なくとも1種の貴金属でない金属の塩を分解するのに十分な温度で加熱することによって乾燥する段階;及び
酸化セリウム及び少なくとも1種の貴金属でない金属の酸化物が原子的に混合され完全な固溶体になっており、その貴金属でない金属の酸化物が全固溶体の7〜80重量%を構成しており、そして表面積が60m/gであり、700℃迄における酸素貯蔵能力が300μモル/g〜500μモル/gである粒子を形成する段階
を含んで成る方法。
【請求項2】
セリウム塩が酢酸セリウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
貴金属でない金属の塩が、貴金属でない金属の酢酸塩である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
貴金属でない金属の酸化物が、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
貴金属でない金属の酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、ランタニド、及びアクチニド、並びにそれらの混合物から成る群から選ばれる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
貴金属でない金属の酸化物が、酸化ジルコニウムである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
微細な霧が、直径が10μm〜200μmの液滴を含んで成る請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1の方法によって製造される組成物。
【請求項9】
請求項6の方法によって製造される組成物。
【請求項10】
安定化作用を有する他の酸化物を使用することなく立方体構造を有する請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
酸化セリウム中の酸化ジルコニウムの重量%が25と42の間である請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
粒子が60m/gの表面積及び25〜150オングストロームの微結晶サイズを有する請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
基体上にコーティングされており、そして、その上に貴金属触媒が沈着している請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
酸化ジルコニウムと酸化セリウムの固溶体を含んで成る組成物であって、酸化ジルコニウムが組成物の25〜42重量%であり、そして組成物の700℃迄における酸素貯蔵能力が300μモル/g〜500μモル/gの範囲である組成物。

【公開番号】特開2009−91238(P2009−91238A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261976(P2008−261976)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【分割の表示】特願平10−522621の分割
【原出願日】平成9年11月5日(1997.11.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(399016927)ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー−コネチカット (63)
【Fターム(参考)】