説明

酸化セルロースの製造方法

【課題】酸化セルロースにおけるカルボキシル基の導入量を厳密に制御し、種種の物性の再現性が高い酸化セルロース及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ニトロキシラジカル誘導体と、アルカリ物質と、臭化アルカリ金属と、酸化剤とを用いる酸化反応によりカルボキシル基が導入された酸化セルロースの製造方法において、カルボキシル基の導入量を、酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段のうちいずれか1の手段によって調整し、カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきを±5%以内にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを出発原料とした酸化セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の枯渇や大気の二酸化炭素濃度の増加による温暖化や環境汚染、廃棄物問題などを背景に、製造時の化石資源の使用量が少なく、廃棄時において低エネルギーで処理でき二酸化炭素の排出が少ない、環境に配慮された材料の利用が注目されている。こうした中、化石資源を原料とせず、一部または全部を天然の植物などを原料とするバイオマス資源由来の材料や、環境中で分解されて水と二酸化炭素になるポリ乳酸に代表される生分解性材料の積極利用が期待されている。
【0003】
バイオマス材料の中でもその生産量の約半分を占めるセルロースは、その生産量の多さから有効利用が期待されている。さらに、高強度、高弾性率、極めて低い熱膨張係数を有しており、耐熱性に関して記述すると、ガラス転移点を持たず、230度と高い熱分解温度を示す。
【0004】
ところが、セルロースはその多量な生産量に対して材料としての利用が多いとは言えない。その理由の一つに水系や非水系溶剤への溶解性・分散性の低さがある。セルロースはブドウ糖の6員環であるD−グルコピラノースがβ‐(1→4)グルコシド結合したホモ多糖であり、C2位、C3位、C6位に水酸基を持つ。そのため、分子内、分子間に強固な水素結合を形成しており、水や一般的な溶剤に対して溶解しない。
【0005】
最も一般的なセルロースの利用法の一つにカルボキシメチル化がある。カルボキシル基がC2位、C3位、C6位の水酸基にランダムに導入され、その置換度により多置換度では水溶性で増粘剤として利用できるものから、低置換度では不溶性のカルボキシメチル化セルロース繊維と多様な材料が得られる。しかし、セルロースのカルボキシメチル化反応では多量の有機溶剤を使用し、毒性のあるモノクロロ酢酸を用いているため、環境汚染や廃液処理などへの問題がある。また、導入されるカルボキシル基は水酸基の位置に区別がないため、生成物は不均一な化学構造となる。
【0006】
2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(以下TEMPOという)を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理すると、結晶性セルロースのミクロフィブリル表面に存在するC6位の水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基を経由してカルボキシル基が導入される。これを水中または水系溶媒中でせん断をかけることによりセルロースはミクロフィブリルレベルまで解繊され、幅数nm〜数200nmのナノファイバー状に分散する。このTEMPO酸化反応では有機溶剤は使用せず、常温・常圧の温和な条件下、短時間で反応が完了するなど反応プロセスの環境適応性が極めて高い。セルロースをナノ分散体や液体状態として用いることができ、また環境への負荷が低いため、TEMPO酸化反応による処理及び酸化物はセルロースの新たな利用形態として期待されている。また、カルボキシル基を有するため、これを足がかりとして多様な改質、高機能化が可能な材料となる。石油代替としてのバイオマス資源、透明ディスプレイ分野、ヘルスケア(機能性食品、スキンケア)、再生医療材料、二次電池用部材(触媒担体、分離膜)などの材料として注目されている。
【0007】
TEMPO酸化セルロースは様々な特異な性質を有している。まず、特有の金属イオン吸着能、さらに高い吸水性を示す。これらはいずれも酸化セルロース中のカルボキシル基量に強く依存する。つまり、水中においてミクロフィブリル表面に導入されたカルボキシル基は弱酸の性質を示し、電離して陰イオンとなる。その結果陰イオン同士の反発力によって表面積が増大し、金属イオンのアクセシビリティー向上、保水体積の増加につながる。
【0008】
さらに、TEMPO酸化セルロースを水系溶媒中で機械的処理を施すと、チクソ性を有するセルロースナノファイバーの分散液が得られる。その粘度や光線透過率といった液性は、分散媒中にミクロフィブリルとして分散した酸化セルロースに由来する。TEMPO酸化反応により得られた酸化セルロースは、ミクロフィブリルの表面に生成したカルボキシル基がアニオンとして分散媒中で荷電反発し浸透圧効果を示すためミクロフィブリル間の水素結合が弱まり、機械的処理を与えることによりナノオーダーに孤立したミクロフィブリル状として得られる。この際、分散したミクロフィブリルのアスペクト比や繊維径、膨潤度などが液性を決定付ける。
【0009】
また、分散媒中にアルカリを添加しpH調整するとカルボキシル基の電離度が変化するため、同エネルギーを付与した際の分散性が異なる。カルボキシル基の導入量が異なるとアルカリの添加量が変化したり、調整するpH範囲がずれたりすることになり、分散度の制御が困難になる。また、分散液を用いて基材上に塗工し、バリア層としての利用が検討されているが、カルボキシル基量によって分散性から派生し基材への濡れ性やバリア性も異なってくる。あるいは、機械的処理により得られた微細化セルロースは分散体とした際の粒度や繊維長、繊維径などが異なり、例えば合成樹脂などに添加して物理強度を付与する添加材として使用した時の強度も異なる。
【0010】
以上より、TEMPO酸化により得られた酸化セルロースやミクロフィブリル状の分散液、または微細化セルロースの物性を制御するためにはミクロフィブリル表面に導入するカルボキシル基量を厳密に制御することが極めて重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009‐197122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、TEMPO酸化反応においてそのカルボキシル基の導入量を厳密に制御した酸化セルロースやその製造方法についての検討はほとんど進められていない。例えば、特許文献1には、微細化した酸化セルロースを合成樹脂などに添加して物理強度を付与する添加材としての応用について記載がある。しかし、酸化セルロースの調製方法や微細化方法、生成物の形状について言及があるものの、酸化セルロースの調製において物性を制御する制御幅が広く、同質の生成物を再現性良く得る方法についての言及がない。
【0013】
本発明は、以上のような背景技術を考慮してなさられたもので、天然資源の産業利用を促進し、物性を厳密に制御した生成物やその製造方法を提供することを課題とする。特に、酸化セルロースにおけるカルボキシル基の導入量を厳密に制御し、種種の物性の再現性が高い酸化セルロース及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、少なくともニトロキシラジカル誘導体と、アルカリ物質と、臭化アルカリ金属と、酸化剤とを用いる酸化反応によりカルボキシル基が導入された酸化セルロースにおいて、前記カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきが±5%以内であることを特徴とする酸化セルロースである。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記設定値が0.6mmol/g以上2.4mmol/g以下の範囲から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の酸化セルロースである。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、少なくともニトロキシラジカル誘導体と、アルカリ物質と、臭化アルカリ金属と、酸化剤とを用いる酸化反応によりカルボキシル基が導入された酸化セルロースの製造方法において、前記カルボキシル基の導入量を、酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段のうち、少なくともいずれか1の手段によって調整することを特徴とする酸化セルロースの製造方法である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記セルロースが天然セルロースまたは誘導体化したセルロースであることを特徴とする請求項3に記載の酸化セルロースの製造方法である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記温度を0℃以上70℃以下に制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の酸化セルロースの製造方法である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記温度を反応調製工程から反応終了時まで±1℃以内に制御することを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、前記pHを反応開始時から反応終了時まで±0.1に制御することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、天然資源の産業利用を促進し、物性を厳密に制御した生成物やその製造方法を提供することができる。本方法によると、セルロースのカルボキシル基導入量を厳密に制御し、種種の物性の再現性が高い酸化セルロースや酸化セルロースを材料とする分散液または分散体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0023】
本発明に用いるセルロースは、天然セルロースまたは誘導体化したセルロースであることが好ましい。具体的には、出発原料として、漂白及び未漂白クラフト木材パルプ、前加水分解済みクラフト木材パルプ、亜硫酸木材パルプ並びにこれらの混合物を用いることができ、これらを物理的、化学的処理した物質の何れを用いてもよい。また、セルロースと同様に、結晶性を示すキチンを用いたナノファイバー状物質の調製方法など同様な処理方法においても適用することができる。
【0024】
ニトロキシラジカル誘導体を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理し、C6位に選択的にカルボキシル基を導入する方法は、まず、出発原料であるセルロースを水に分散させ、ニトロキシラジカル誘導体及び臭化アルカリ金属を添加して攪拌する。次いで、酸化剤を添加する。その後、アルカリ物質を添加しながら酸化反応を行い、数時間後酸化剤を失活させて反応を終了させる。
【0025】
ニトロキシラジカル誘導体を触媒とした酸化反応に用いられる臭化アルカリ金属としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属塩が挙げられる。
【0026】
ニトロキシラジカル誘導体を触媒とした酸化反応に用いられる酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できるが、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
【0027】
酸化反応に用いられるニトロキシラジカル誘導体としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)が望ましい。このほかに、TEMPOの誘導体である4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−ホスホノオキシTEMPO等を用いることができる。
【0028】
ニトロキシラジカル誘導体を触媒とした酸化反応を用いてセルロースを処理し、C6位に選択的にカルボキシル基を導入する際、そのカルボキシル基の導入量を調整ためには、酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段を用いて調整することが好ましい。特に、カルボキシル基の導入量とアルカリ物質の添加量は厳密な相関があることから、酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段を用いることで、容易にカルボキシル基の導入量を調整することができる。
【0029】
本発明の酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段としては、酸化反応中のアルカリ物質の消費量をモニタリングしながらアルカリ物質を添加する手段などが挙げられる。例えば、反応系における残りのアルカリ物質量が1.1×10−4mol/lから9.9×10−5mol/lとなったとき、新たなアルカリ物質を0.1×10−4mol/l添加する。この作業を繰返し、添加したアルカリ物質の総量がセルロースの重量に対し2.7mmol/gになったところで反応を停止して1.57mmo/gのカルボキシル基を導入した酸化セルロースを得るなどが挙げられる。あるいは、複数回の実験に基づく経験式を用いてアルカリ物質量を決定することもできる。
【0030】
本発明の酸化反応中の温度を制御する手段としては、具体的には、反応系を外部から温調する手段などが挙げられ、ウォーターバス、オイルバスなどの公知の温調手段が挙げられる。
【0031】
ここで、本発明の酸化反応中の温度は、0℃以上70℃以下に制御することが好ましい。この範囲にすることで、カルボキシル基の導入量のばらつきや酸化セルロースの分子量を同時に制御することができる。
【0032】
さらに、温度を反応調製工程から反応終了まで±1℃以内に制御することが好ましい。ここで、反応調製工程とは、ニトロキシラジカル誘導体及び臭化アルカリ金属を添加する工程であり、反応終了とは、酸化剤を失活させて反応を停止させる時点のことをいう。セルロースはアルカリ条件下で熱によってグリコシド結合が切断されるβ脱離が促進されるため、pH10付近を最適pHとするニトロキシラジカル誘導体による酸化反応において、反応温度により分子量低下速度が異なる。そのため、反応調製工程から反応終了時まで±1℃以内に制御することにより生成物の物性の再現性を向上させることができる。
【0033】
本発明の酸化反応中のpHを制御する手段としては、具体的には、アルカリ物質を添加して酸化反応中のpHを制御する手段が挙げられる。アルカリ物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類の水酸化物等の公知のアルカリ物質が挙げられるが、本発明のアルカリ物質としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0034】
ここで、酸化反応中のpHについては、反応開始時から反応終了時までのpH変動を±0.1に制御することが好ましい。これにより、水酸化ナトリウムが副反応によって消費されることが抑制され、カルボキシル基の導入量のみならずセルロース中の導入分布を制御することができる。これにより、生成物の物性の再現性を向上させることができる。
【0035】
本発明の酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段については、それぞれ単独で用いてもよく、各手段組み合わせて用いてもよい。特に、アルカリ物質の添加量を制御する手段を用いた上で、さらに温度を制御する手段又はpHを制御する手段を組み合わせて用いることで、よりカルボキシル基の導入量及びその導入量のばらつきを制御することができる。
【0036】
その他の手段としては、酸化の原料に用いるセルロースの種類や結晶性を制御する手段が挙げられる。原料セルロースの種類とは、前述のように綿、針葉樹・広葉樹という大きなくくりから、個別の樹種や、パルプ化など単離・精製の方法、粉末や繊維状、シート状などの形状、乾燥の有無などの履歴といったものにまで至る。また、原料セルロースの結晶性を制御するとは、原料の種類によっても異なるが、例えば、それらを水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液で処理するなどの方法によって制御することが挙げられる。具体的には、質量で15%の水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬した後の針葉樹クラフトパルプは浸漬前のパルプに比べ結晶性が下がっている。
【0037】
本発明の酸化セルロースは、カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきを±5%以内に制御することができる。ここで、カルボキシル基の導入量の設定値とは、目的とする酸化セルロースの物性に応じて決定される値であり、カルボキシル基の導入量の設定値としては、0.6mmol/g以上2.4mmol/g以下の範囲から選ばれる。
【0038】
ニトロキシラジカル誘導体による酸化の反応過程として、まずセルロースの水酸基が酸化されてアルデヒド基が生成し、これらが徐々にカルボキシル基へと酸化される。その反応速度は一律ではなく、初期反応が著しく早いため、カルボキシル基0.6mmol/gより小さい範囲に制御するのが困難である。また、2.4mmol/gより大きい範囲になるとミクロフィブリル表面だけでなく結晶内部にまで酸化が進行し、その反応はランダムとなるため制御は困難となる。本発明の酸化セルロースは、特に、上記範囲のカルボキシル基の導入量の設定値において、その設定値に対するばらつきが±5%以内になる。このように、本発明の酸化セルロースは、カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきが±5%以内であるため、本発明の酸化セルロースやそれを用いた分散液の物性制御が容易である。そのため、本発明の酸化セルロースを用いた積層体などの物理強度やバリア性などの物性も容易に制御することができる。
【0039】
酸化セルロースについて、カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきを±5%以内に制御するための方法としては、前述した酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段を用いることにより可能となる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0041】
<実施例1>
以下の手順により、セルロースのTEMPO酸化反応を行った。
【0042】
(1)試薬・材料
セルロース: 漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「Machenzie」)
TEMPO: 市販品(東京化成工業(株)、98%)
次亜塩素酸ナトリウム: 市販品(和光純薬(株)、Cl:5%)
臭化ナトリウム: 市販品(和光純薬(株))
【0043】
(2)セルロースのTEMPO酸化反応
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2Lのガラスビーカー中イオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。これを温調付きウォーターバスにより20.0℃に温度調整し、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、水酸化ナトリウムの添加量をモニタリングしながら反応を行い、イオン交換水でパルプを十分に水洗した。
【0044】
<実施例2、3>
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。反応温度を実施例1と同様20℃に設定し、実施例1と同量の水酸化ナトリウムを添加した時点で反応を止め、十分水洗してサンプルとした。
【0045】
<比較例1〜3>
実施例1と同様にして酸化セルロースを作製した。水酸化ナトリウムの添加量をモニタリングせず、反応時間1〜6時間にて反応を止め、十分水洗してサンプルとした。
【0046】
[評価]
実施例1〜3及び、比較例1〜3で得られた酸化セルロースについて、カルボキシル基量測定と分子量測定を次のように行った。
【0047】
[カルボキシル基量]
得られた酸化セルロースについて、含有されるカルボキシル基量は以下の方法にて算出した。化学処理したセルロースの乾燥重量換算0.2gをビーカーにとり、イオン交換水80mlを添加する。そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加え、攪拌させながら0.1M塩酸を加えて全体がpH2.8となるように調整した。ここに自動滴定装置(東亜ディーケーケー(株)、AUT−701)を用いて0.1M水酸化ナトリウム水溶液を0.05ml/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。得られた電導度曲線から水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシル基の含有量を算出した。
【0048】
[分子量]
得られた酸化セルロースについて、極限粘度から分子量の導出を行った。まず、前処理として以下の操作を行った。酸化セルロースの乾燥重量2gに対してこれを固形分10%の懸濁液になるようにイオン交換水を添加し、亜塩素酸ナトリウム1.81gと5M酢酸を20ml添加した。これを48時間室温中で攪拌しながら反応させ、十分に水洗することにより酸化反応により生成したアルデヒド基を酸化した。これを十分に乾燥させ、0.5Mの銅エチレンジアミン溶液にセルロース2mg/mlとなるよう溶液を調製する。溶液をキャノン‐フェンスケ型粘度計で流出速度を測定することにより極限粘度を求め、粘度式より導出する方法を用いた。
【0049】
実施例1〜3及び、比較例1〜3で得られた酸化セルロースについて、カルボキシル基量測定と分子量測定を行った結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の通り、実施例1から3の酸化セルロースは、酸化反応中に水酸化ナトリウム水溶液の添加量を制御したため、カルボキシル基の導入量のばらつきを±5%以内に抑えることができた。一方、比較例1から3の酸化セルロースは、酸化反応中に水酸化ナトリウム水溶液の添加量をしなかったため、カルボキシル基の導入量のばらつきを±5%以内に抑えることができなかった。さらに、実施例1から3の酸化セルロースの分子量は、比較例1から3の酸化セルロースの分子量と比べてばらつきは小さく、分子量についても精度よく制御することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニトロキシラジカル誘導体と、アルカリ物質と、臭化アルカリ金属と、酸化剤とを用いる酸化反応によりカルボキシル基が導入された酸化セルロースにおいて、前記カルボキシル基の導入量の設定値に対するばらつきが±5%以内であることを特徴とする酸化セルロース。
【請求項2】
前記設定値が0.6mmol/g以上2.4mmol/g以下の範囲から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の酸化セルロース。
【請求項3】
少なくともニトロキシラジカル誘導体と、アルカリ物質と、臭化アルカリ金属と、酸化剤とを用いる酸化反応によりカルボキシル基が導入された酸化セルロースの製造方法において、前記カルボキシル基の導入量を、酸化反応中に添加するアルカリ物質の添加量を制御する手段、酸化反応中の温度を制御する手段又は酸化反応中のpHを制御する手段のうち、少なくともいずれか1の手段によって調整することを特徴とする酸化セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースが天然セルロースまたは誘導体化したセルロースであることを特徴とする請求項3に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項5】
前記温度を0℃以上70℃以下に制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項6】
前記温度を反応調製工程から反応終了時まで±1℃以内に制御することを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項7】
前記pHを反応開始時から反応終了時まで±0.1に制御することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の酸化セルロースの製造方法。

【公開番号】特開2011−195659(P2011−195659A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62262(P2010−62262)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】