説明

酸化マグネシウム(MgO)絶縁膜の成膜方法、酸化マグネシウム絶縁膜および酸化マグネシウム絶縁膜の成膜装置

【課題】本発明は、低コストにて、高温処理を必要とせず、高品質(結晶性の良い)酸化マグネシウム絶縁膜を成膜する技術を提供する。
【解決手段】本発明では、金属源を含む溶液(4)をミスト化させる。一方、酸化マグネシウム絶縁膜が成膜される基板(2)を加熱する。そして、加熱中の基板の第一の主面上に、ミスト化された溶液を経路(L1)にて供給すると共に、オゾン発生器(7)で生成されたオゾンを経路(L2)にて供給する。ここで、金属源はマグネシウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に酸化マグネシウム(MgO)絶縁膜の成膜する方法および、当該方法を実施する成膜装置および、当該方法により成膜された酸化マグネシウム絶縁膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウム(MgO)絶縁薄膜(以下、酸化マグネシウム膜と称する)は、プラズマディスプレイなどの保護膜や反射防止膜として、開発要望が高まっている。
【0003】
酸化マグネシウム膜の成膜プロセスとしては、たとえば、EB蒸着(非特許文献1)、ラジオ周波数スパッタリング(非特許文献2)、イオンビームスパッタリング(非特許文献3)、原子層成長法(非特許文献4)、分子線成長法(非特許文献5)、イオンプレーティングの物理気相成長法(非特許文献6)などがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.O.Aboelfotoh,K.C.Park,and W.A.Pliskin、「Infrared and high−energy electron diffraction analyses of electron−beam−evaporated MgOfilms」、J.Appl.phys.、Vol.48 pp2910−2917(1977)
【非特許文献2】P.Vuoristo,T.Mantyla,and Kettunen、「Adhesion and structure of rf−sputtered magnesium oxide coating on various metal substrates」、J.Vac.Sci.& Technol.A、Vol.4 pp2923−2937(1986)
【非特許文献3】T.Ishihara, and M.motoyama、「Structure of MgO Films Prepared by Ion Beam Sputtering」、J.Ceram.Soc.Jpn.、Vol97、pp771−777(1986)
【非特許文献4】R.Huang, and A.H.Kita、「Temperature−dependence of the growth orientation of atomic layer growth MgO」、Appl.Phys.Lett.、Vol.61、pp1450−1452(1992)
【非特許文献5】S.Yadavalli, M.H.Yang, and C.P.Flynn、「Low−temperature growth of MgO by molecular−beam epitaxy」、Phys.Rev.B、Vol.41、pp7961−7963(1990)
【非特許文献6】梶山博司、上谷一夫、加藤明、床本勲、小泉康浩、能勢功一、井原靖、鬼沢賢一、「イオンプレーティング法で作製したMgO薄膜の二次電子放出特性」、信学技報、EID2000−248(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記各手法で酸化マグネシウム膜を大気圧下で成膜する場合には、高温状態(500℃程度)での加熱が必要である。つまり、高温処理を伴ってしまう。
【0006】
当該高温処理を回避するために、前記各手法において真空状態下で、酸化マグネシウム膜を成膜する方法も考えられる。しかしながら、当該真空状態を作り出すためには、成膜装置の製造コストが高くなる(換言すれば、酸化マグネシウム膜の成膜コストが高くなる)という問題が生じる。
【0007】
一方で、基板に成膜される酸化マグネシウム膜は、当然、高品質(結晶性が良い)方が好ましい。
【0008】
そこで、本発明は、低コストにて、高温処理を必要とせず、高品質(結晶性の良い)酸化マグネシウム膜を成膜する方法、および当該方法を実施する装置、および当該方法により作成された酸化マグネシウム膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る酸化マグネシウム絶縁膜の成膜方法では、(A)金属源を含む溶液をミスト化させる工程と、(B)基板を加熱する工程と、(C)前記工程(B)中の前記基板の第一の主面上に、前記工程(A)においてミスト化された前記溶液と、オゾンとを、別経路にて供給する工程とを備えており、前記金属源は、マグネシウムである。
【0010】
また、本発明に係る酸化マグネシウム絶縁膜の成膜装置では、金属源を含む溶液が存する溶液容器と、前記溶液容器に配設されるミスト化器と、オゾン発生器と、基板が配置される反応容器と、前記基板を加熱する加熱器と、前記溶液容器において前記ミスト化器によりミスト化された溶液を、前記反応容器に供給する第一の経路と、前記オゾン発生器で発生したオゾンを、前記反応容器に供給する第二の経路とを備え、前記金属源は、マグネシウムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、(A)金属源を含む溶液をミスト化させる工程と、(B)基板を加熱する工程と、(C)前記工程(B)中の前記基板の第一の主面上に、前記工程(A)においてミスト化された前記溶液と、オゾンとを、別経路にて供給する工程とを備えており、前記金属源は、マグネシウムである。
【0012】
したがって、低コストにて、高温処理を必要とせず、高品質(結晶性の良い)酸化マグネシウム絶縁膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る酸化マグネシウム膜の成膜装置100の概略構成を示す図である。
【図2】アンモニア液(またはEDA液)とソース液とを混合して溶液4を作成する構成を示す図である。
【図3】オゾンの供給を行わず、アンモニア(またはEDA)を含まない溶液4の供給のみを実施した場合に成膜される、酸化マグネシウム膜のX線回折測定結果を示す図である。
【図4】オゾンの供給とアンモニア(またはEDA)を含まない溶液4の供給とを実施した場合に成膜される、酸化マグネシウム膜のX線回折測定結果を示す図である。
【図5】オゾンの供給とアンモニア(またはEDA)を含む溶液4の供給とを実施した場合に成膜される、酸化マグネシウム膜のX線回折測定結果を示す図である。
【図6】各種条件で成膜された酸化マグネシウム膜の結晶性向上効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0015】
<実施の形態>
図1は、本実施の形態に係る酸化マグネシウム膜の成膜装置の概略構成を示す図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る酸化マグネシウム膜の成膜装置100は、反応容器1、加熱器3、溶液容器5、ミスト化器6およびオゾン発生器7から構成されている。
【0017】
当該成膜装置100は、スプレー熱分解法、パイロゾル法またはミスト堆積法などが実施される。つまり、成膜装置100では、基板2の第一の主面上にミスト化した所定の溶液を噴霧することにより、当該基板2の第一の主面上に酸化マグネシウム膜を成膜することができる。
【0018】
加熱器3上に基板2が載置されている状態で、反応容器1内における所定の反応により、基板2の第一の主面上には、絶縁膜である薄膜の酸化マグネシウム膜が成膜される。なお、基板2の第二の主面が加熱器3に載置される。
【0019】
前記記載より分かるように、本明細書内で述べる基板2の第一の主面とは、酸化マグネシウム膜が成膜される側の基板2の主面である。これに対して、本明細書内で述べる基板2の第二の主面とは、加熱器3に載置される側の基板2の主面である。
【0020】
ここで、反応容器1内を0.0001〜0.1MPaの範囲で減圧しながら、当該減圧環境下において基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜しても良いが、本実施の形態では、反応容器1内を大気圧として、当該大気圧下において基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜する。
【0021】
また、基板2としては、ガラス基板、樹脂フィルムおよびプラスチック基板などである。
【0022】
加熱器3は、ヒータ等であり、当該加熱器3に載置された基板2を加熱することができる。外部制御部により当該加熱器3の加熱温度は調整され、成膜処理の際には、加熱器3は、酸化マグネシウム膜の成膜温度まで加熱される。
【0023】
溶液容器5内には、酸化マグネシウム膜を成膜するための材料溶液(以下、溶液と称する)4が充填されている。当該溶液4には、金属源と化合物とが含まれている。ここで、金属源は、マグネシウム(Mg)である。化合物は、アルコキシド化合物、β-ジケトン化合物、カルボン酸塩化合物、ハロゲン化合物、アルキル化合物、およびシクロペンタジエニル化合物の内の少なくとも何れか1つである。
【0024】
なお、上記溶液4の溶媒として、水、エタノールやメタノールなどのアルコールや、これらの液体の混合液などを採用することができる。また、溶媒として、アセトンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル、トルエンやキシレンなどの各種有機溶媒も採用しても良い。
【0025】
また、上記溶液4には、アンモニアまたはエチレンジアミン(Ethylenediamine、以下EDAと称する)も含まれている。
【0026】
図2に示すように、成膜装置100は、容器5aと容器5bとを別途備えている。当該容器5aには、アンモニア液4a(またはEDA液4a)が収納されている。これに対して、当該容器5bには、アンモニア液4a(またはEDA液4a)以外の溶液4の成分、つまり上記金属源および上記溶媒からなる液(以下、ソース液と称する)4bが収納されている。
【0027】
溶液4を作成するために、外部から当該成膜装置100に対して操作が実行される。当該操作は、溶液4中におけるアンモニア(またはEDA)の含有量を調整・決定するための操作である。成膜装置100における所定の操作部(図示せず)に対して当該操作が実行される。すると、容器5aから所定量のアンモニア液4a(またはEDA液4a)が出力され、容器5bから他の所定量のソース液4bが出力される。したがって、当該各出力されたアンモニア液4a(またはEDA液4a)およびソース液4bは、溶液容器5に供給され、当該溶液容器5において、前記操作によって決定された含有量のアンモニア(またはEDA)含む溶液4が作成される。
【0028】
ここで、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めないようにしても良い。しかし、後述する効果の観点から、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めることが、より好ましい。
【0029】
ミスト化器6として、たとえば超音波霧化装置を採用できる。当該超音波霧化装置であるミスト化器6は、溶液容器5内の溶液4に対して超音波を印加することにより、溶液容器5内の溶液4をミスト化させる。ミスト化された溶液4は、経路L1を通って、反応容器1内の基板2の第一の主面に向けて供給される。
【0030】
オゾン発生器7は、オゾンを発生させることができる。オゾン発生器7で生成されたオゾンは、経路L1と異なる経路L2を通って、反応容器1内の基板2の第一の主面に向けて供給される。つまり、経路L1と経路L2とは、別経路である。
【0031】
オゾン発生器7では、たとえば、平行に配置した平行電極間に高電圧を印加し、その電極間に酸素を通すことで酸素分子が分解し、他の酸素分子と結合することによって、オゾンを発生させることができる。
【0032】
なお、反応容器1内にオゾンおよびミスト状の溶液4が供給されると、加熱器3によって加熱状態である基板2上において当該オゾンと溶液4とが反応し、基板2の第一の主面上に酸化マグネシウム膜が成膜される。また、反応容器1で未反応となったオゾンや溶液4は、経路L3を通して、反応容器1外に常時(連続的に)排出される。
【0033】
次に、本実施の形態に係る酸化マグネシウム膜の成膜方法について説明する。
【0034】
まずはじめに、アンモニア液4a(またはEDA液4a)とソース液4bとを混合することにより、溶液4を作成する。
【0035】
具体的に、溶液4中におけるアンモニア(またはEDA)の含有量を入力・選択できるように、成膜装置100には、所定の操作部(図示せず)が備えられている。当該操作部に対して、ユーザは、当該アンモニア(またはEDA)の含有量として所望の値を入力または選択する操作を行う。
【0036】
すると、容器5aから、当該操作に応じた第一の量のアンモニア液4a(またはEDA液4a)が出力される。他方、容器5bから、当該操作に応じた第二の量のソース液4bが出力される。そして、当該各出力されたアンモニア液4a(またはEDA液4a)およびソース液4bは、溶液容器5に供給され、当該溶液容器5において溶液4が作成される。ここで、溶液4中におけるアンモニア(またはEDA)の含有量は、上記操作部に対する操作により特定される所望の値となっている。
【0037】
さて、溶液容器5において溶液4が作成されると、溶液容器5内において、ミスト化器6により、溶液4はミスト化される。ミスト化された溶液4は、経路L1を通って、反応容器1へ供給される。ここで、溶液4には、マグネシウムが金属源として含有されている。一方、オゾン発生器7でオゾンは生成される。生成されたオゾンは、経路L2を通って、反応容器1へ供給される。
【0038】
一方、加熱器3により、当該加熱器3上に載置されている基板2は、酸化マグネシウム膜成膜温度まで加熱されており、当該各成膜温度で基板2の温度は保持されている。たとえば、基板2の温度が400℃程度で保持されている。
【0039】
上記加熱状態の基板2の第一の主面に、オゾンおよびミスト状の溶液4が供給される。加熱状態の基板2にオゾンおよびミスト状の溶液4が接触すると、オゾンは熱分解を起こし、酸素ラジカルが生成され、当該酸素ラジカルにより溶液4は分解が促進され、基板2の第一の主面上には、酸化マグネシウム膜が成膜する。
【0040】
次に、本実施の形態に係る発明の効果について、実験データを示す図3〜6を用いて説明する。
【0041】
ここで、図3〜6は、X線回折(XRD)測定器(線源CuKα(波長λ=1.54178Å))を用いて、基板2上に成膜された酸化マグネシウム膜を評価した実験データである。図3〜6において、縦軸は強度(Intensity(任意単位))であり、横軸は回折角度(2θ CuKα(deg))である。
【0042】
図3は、上記発明において、反応容器1へのオゾンの供給を行わず、かつ、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めず、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。具体的に、基板2の加熱温度を変化させて(250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃)、オゾンなしおよびアンモニア(またはEDA)なしにて、酸化マグネシウム膜を成膜し、図3には、これら成膜された各酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果が示されている。
【0043】
図3に示すように、オゾンなしおよびアンモニア(またはEDA)なしの条件の場合には、基板2の加熱温度が450℃、500℃で、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークがわずかに観察できる(図3の丸の部分参照)。これに対して、オゾンなしおよびアンモニア(またはEDA)なしの条件の場合には、基板2の加熱温度が400℃以下では、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークは観察できない。
【0044】
なお、図3において、基板2の加熱温度が400℃のときには、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークらしきものが確認できる。しかし、SEM(scanning electron microscope)画像では、基板2の加熱温度が400℃のときには、酸化マグネシウム膜の結晶性の向上は確認されなかった(つまり、ほとんど結晶化はしていなかった)。
【0045】
ここで、当該回折ピークが観察できるということは、酸化マグネシウム膜の結晶化に成功していることを意味する。換言すれば、当該回折ピークが観察できない場合には、酸化マグネシウム膜は結晶化していない。
【0046】
図4は、上記発明において、反応容器1へのオゾンの供給を行うが、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めず、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。具体的に、基板2の加熱温度を変化させて(250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃)、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)なしにて、酸化マグネシウム膜を成膜し、図4には、これら成膜された各酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果が示されている。
【0047】
図4に示すように、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)なしの条件の場合には、基板2の加熱温度が400℃以上で、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークが明確に観察できる(図4の丸の部分参照)。
【0048】
図3,4の比較から、溶液4(アンモニアorEDA含まず)とオゾンとを別経路で、反応容器1へ供給すると、基板2の加熱温度を50℃下げたとしても、成膜された酸化マグネシウム膜は結晶化することが分かる。
【0049】
なお、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)なしの条件の場合で、基板2の加熱温度が400℃以上で成膜された酸化マグネシウム膜に対してSEM画像したところ、各酸化マグネシウム膜において結晶性の向上が確認された。
【0050】
したがって、上記本実施の形態に係る発明の説明において、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めない場合で、当該溶液4とオゾンとを別経路で反応容器1へ供給する構成(方法)を採用することも有益である。つまり、上記で、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めない場合であっても、低コスト(真空での処理を要せず、真空ポンプ等の設備を省略できるので)にて、高温処理を必要とせず、高品質(結晶性の良い)酸化マグネシウム膜を成膜することができる。
【0051】
図5は、上記本実施の形態の説明を採用し、反応容器1へのオゾンの供給と、反応容器1へのアンモニア(またはEDA)を含む溶液4への供給とを(オゾンと溶液4とは別経路にて供給)実施し、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。具体的に、基板2の加熱温度を変化させて(250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃)、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)ありにて、酸化マグネシウム膜を成膜し、図5には、これら成膜された各酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果が示されている。
【0052】
図5に示すように、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)ありの条件の場合には、基板2の加熱温度が400℃以上で、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークが観察できる(図5の丸の部分参照)。
【0053】
図3,5の比較から、溶液4(アンモニアorEDAあり)とオゾンとを別経路で、反応容器1へ供給すると、基板2の加熱温度を50℃下げたとしても、成膜された酸化マグネシウム膜は結晶化することが分かる。
【0054】
また、図4と比較すると、図5の方が、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークが、よりはっきり観察できることが分かる(つまり、強度がより高い)。ここで、当該回折ピークがより強く出現するほど、酸化マグネシウム膜の結晶性がより向上しているのである。
【0055】
なお、オゾンありおよびアンモニア(またはEDA)ありの条件の場合で、基板2の加熱温度が400℃以上で成膜された酸化マグネシウム膜に対してSEM画像したところ、各酸化マグネシウム膜において結晶性の向上が確認された。
【0056】
したがって、図4の場合と異なり、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含め、当該溶液4とオゾンとを別経路で反応容器1へ供給する構成(方法)を採用することにより、低コスト(真空での処理を要せず、真空ポンプ等の設備を省略できるので)にて、高温処理を必要とせず、高品質(結晶性の良い)酸化マグネシウム膜を成膜することができる。ここで、上記の通り、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めた方が、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めない場合と比較して、成膜される酸化マグネシウム膜の結晶性はより向上する。
【0057】
図6は、溶液4にアンモニア(またはEDA)を含め、当該溶液4とオゾンとを別経路で反応容器1へ供給する構成(方法)を採用することにより、成膜される酸化マグネシウム膜の結晶性が向上する効果を示す、データである。
【0058】
図6に示すデータは、図3〜5の基板加熱温度が500℃のときの各データをまとめたものである。つまり、アンモニア(またはEDA)の供給の有無およびオゾンの供給の有無を変化させて、他は同じ条件で、酸化マグネシウム膜の成膜を行って、当該酸化マグネシウム膜のX線回折測定を実施している。
【0059】
図6に示すデータの内、最下段のデータは、図3と同様、反応容器1へのオゾンの供給を行わず、かつ、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めず、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。
【0060】
また、図6に示すデータの内、中間位置のデータは、図4と同様、反応容器1へのオゾンの供給を行うが、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めず、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。
【0061】
また、図6に示すデータの内、最上段のデータは、図5と同様、反応容器1へのオゾンの供給と、反応容器1へのアンモニア(またはEDA)を含む溶液4への供給とを(オゾンと溶液4とは別経路にて供給)実施し、基板2上に酸化マグネシウム膜を成膜し、当該酸化マグネシウム膜に対するX線回折測定結果である。
【0062】
ここで、図6に示す全てのデータにおいて、酸化マグネシウム膜の成膜時の基板2の加熱温度は、500℃である。
【0063】
図6に示すように、酸化マグネシウム(200)面からの回折ピークが、最下段のデータで最も小さく、最上段のデータで最も大きくなっていることが分かる。
【0064】
つまり、成膜される酸化マグネシウム膜の結晶性は、反応容器1へのオゾンの供給と、反応容器1へのアンモニア(またはEDA)を含む溶液4への供給とを(オゾンと溶液4とは別経路にて供給)実施した場合(第一のケース)で、最も向上している。そして、反応容器1へのオゾンの供給を行わず、かつ、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めない場合(第二のケース)で、成膜される酸化マグネシウム膜の結晶性が最も悪くなっている。
【0065】
なお、反応容器1へのオゾンの供給を行うが、反応容器1に供給される溶液4にアンモニア(またはEDA)を含めない場合には、成膜される酸化マグネシウム膜の結晶性は、上記第一のケース程の結晶性向上は無いが、上第二のケースよりも結晶性は向上している。
【0066】
また、図1の構成から分かるように、溶液4とオゾンとは、異なる経路を通して基板2へ供給されている。図1の構成では、溶液4は、経路L1を通して、反応容器1内の基板2に向けて供給される。他方、オゾンは、経路L2を通して、反応容器1内の基板2に向けて供給される。
【0067】
このように、異なる経路L1,L2を通して、溶液4とオゾンとを基板2へ供給することにより、オゾンと溶液4との混ざり合う場所を反応容器1(基板2の配設領域)のみに限定することができる。
【0068】
つまり、溶液4とオゾンとが供給過程の経路において混ざり合うことを防止できる。よって、溶液4とオゾンとの反応を基板2の配置領域のみとすることができ、当該基板2における反応効率を向上させることができる。
【0069】
また、溶液4とオゾンが供給過程で混ざり合うことで、基板到達前に溶液4とオゾンが反応し気相中で意図しない反応物が生成される場合がある。当該意図しない反応物の生成は、基板表面での膜成長を妨げる(意図しない反応物の堆積による膜質低下、成膜レートの低下)原因となる。そこで、異なる経路L1,L2を通して、溶液4とオゾンとを基板2へ供給することにより、このような意図しない反応物の生成も抑制できる。
【0070】
なお、成膜装置100は、次のような制御を行う制御部(図示省略)を、さらに備えていても良い。当該制御部は、ミスト化された溶液4とオゾンとを、同時にまたは所定のタイミングで別々に、反応容器1内の基板2へ供給される制御を行う。
【0071】
ミスト化された溶液4とオゾンとを同時に反応容器1内の基板2へ供給することにより、反応容器1内におけるオゾン反応性(酸化力)を十分に利用することができる。
【0072】
他方、ミスト化された溶液4とオゾンとを交互または所定の順序で反応容器1内の基板2へ供給することにより、基板2上でない反応容器1の気相内においてオゾンとミスト化された溶液4とが反応することを抑制できる。これにより、結晶性の悪い粉状生成物が基板2上に形成されることを抑制できる。
【符号の説明】
【0073】
1 反応容器
2 基板
3 加熱器
4 溶液
4a アンモニア液(またはEDA液)
4b ソース液
5 溶液容器
5a,5b 容器
6 ミスト化器
7 オゾン発生器
L1,L2,L3 経路
100 成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属源を含む溶液をミスト化させる工程と、
(B)基板を加熱する工程と、
(C)前記工程(B)中の前記基板の第一の主面上に、前記工程(A)においてミスト化された前記溶液と、オゾンとを、別経路にて供給する工程とを、備えており、
前記金属源は、
マグネシウムである、
ことを特徴とする酸化マグネシウム絶縁膜の成膜方法。
【請求項2】
前記溶液には、
アンモニアがさらに含まれている、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化マグネシウム絶縁膜の成膜方法。
【請求項3】
前記溶液には、
エチレンジアミンがさらに含まれている、
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化マグネシウム絶縁膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の酸化マグネシウム絶縁膜の成膜方法により作成されたことを特徴とする酸化マグネシウム絶縁膜。
【請求項5】
金属源を含む溶液が存する溶液容器と、
前記溶液容器に配設されるミスト化器と、
オゾン発生器と、
基板が配置される反応容器と、
前記基板を加熱する加熱器と、
前記溶液容器において前記ミスト化器によりミスト化された溶液を、前記反応容器に供給する第一の経路と、
前記オゾン発生器で発生したオゾンを、前記反応容器に供給する第二の経路とを、備え、
前記金属源は、
マグネシウムである、
ことを特徴とする酸化マグネシウム絶縁膜の成膜装置。
【請求項6】
前記溶液には、
アンモニアがさらに含まれている、
ことを特徴とする請求項5に記載の酸化マグネシウム絶縁膜の成膜装置。
【請求項7】
前記溶液には、
エチレンジアミンさらに含まれている、
ことを特徴とする請求項5に記載の酸化マグネシウム絶縁膜の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−148922(P2012−148922A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8549(P2011−8549)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】