説明

酸化亜鉛層の製造および構造化のための方法ならびに酸化亜鉛層

本発明は、太陽電池のためのZnOコンタクト層の製造方法に関する。この層は、テクスチャを生成するためにフッ化水素酸でエッチングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛層の製造方法および酸化亜鉛層に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングされた多結晶酸化亜鉛層(ZnO)は、光電子部品、例えば太陽電池で、透明なコンタクト層として使用されている。ZnOは、その他の透明なコンタクト材料、例えばスズをドープした酸化インジウム(ITO)に対する割安な代替物である。
【0003】
酸化亜鉛は、塩酸中でエッチングできることが知られている。酸化亜鉛層を湿式化学エッチングすることにより、層の表面が横方向に構造化される。その際、異方性エッチングプロセスでは、ナノメートルまたはマイクロメートルの範囲内の構造を備えたテクスチャが生じる。
【0004】
薄膜太陽電池では、スパッタリングされた多結晶酸化亜鉛層をフロントコンタクト層として、およびいわゆる中間反射板として、または反射板と組み合わせてバックコンタクト層としても使用する。
【0005】
薄膜太陽電池では、スパッタリングされ、次いで湿式化学的に構造化された多結晶酸化亜鉛層が透明なコンタクト層として用いられる。スパッタリングされた酸化亜鉛層のrms粗さは、規則的に5〜15nm未満である。ZnO層は、希釈した塩酸中で高速エッチングすることができる。その際、酸化亜鉛表面のrms粗さが上昇し、光散乱に必要なクレータが生じる。
【0006】
クレータの直径および深さは、エッチング時間を変えることで変化させることができる。その際、クレータの数または密度は本質的には変化しない。pH値を操作しても構造を本質的に変えることはできない。酸性領域内でpH値が高くなるにつれて、規定のクレータ深さが達成されるまでのエッチング時間が長くなる。
【0007】
エッチング工程後の構造のサイズや密度に関して生じるテクスチャは、むしろエッチング前のZnO層の特性自体に左右される。この特性もまた、スパッタリングによりZnO層を製造している間の様々なパラメータに影響される。影響を及ぼすパラメータには、(a)基板およびその前処理、(b)スパッタリング条件、例えば基板温度、放電出力、スパッタリング圧力、ガス組成、およびドーピングが含まれる。エッチング液およびエッチング時間は、狭い範囲内において、エッチング時に生じる構造およびクレータの形状に影響を及ぼすことができる。エッチング時間またはエッチング媒体の選択は、クレータの数およびサイズをほとんど変化させない。酸中でのエッチングに関しては、エッチングされた表面に応じて基本的に3つのタイプに区別される。
【0008】
タイプ1:タイプ1の表面トポグラフィーは顕微鏡的に粗く、かつ横方向の寸法が約300nmで、側面の勾配が急な、エッジの鋭い表面構造を有している。図1aは、従来技術として、そのような粗い表面を示しており、この表面の高さはほぼガウス状の統計学的分布を示す。この構造の典型的な開口角は40°〜80°である。クレータの横方向の寸法は300nm未満である。エッチング後の表面トポグラフィーはエッチング時間に左右される。約800nm厚であり、そのうち約150nmが塩酸中での湿式化学的除去により取り去られる酸化亜鉛層に関しては、rms粗さは約50〜120nmであり、横方向の相関長は100〜300nmの間である。
【0009】
タイプ2:タイプ2の表面トポグラフィーの場合、表面は大きなクレータでほぼ均一に覆われている(図1b)。横方向のクレータ直径は0.5μm〜3μmであり、クレータの深さは150nm〜400nmの間の範囲内にある。クレータの典型的な開口角は約120°〜135°である。エッチング後の表面トポグラフィーはエッチング時間に左右される。約800nm厚であり、そのうち約150nmが塩酸中での湿式化学的除去により取り去られる層に関しては、rms粗さが100〜180nmの間、典型的には約135nmであり、横方向の相関長は400〜1000nmである。
【0010】
タイプ3:表面トポグラフィータイプ3も大きなクレータを有しており、このクレータは比較的平滑な領域に囲まれている(図1c)。この平滑な領域は、深さが最大で約100nmの平らで小さなクレータだけを含んでいる。横方向の大きさが最大3μmの、まばらにある大きなクレータの一部は基板にまで達しており、したがってそこではプラトーが形成されている。エッチング後の表面トポグラフィーはエッチング時間に左右される。約800nm厚であり、そのうち約150nmが塩酸中での湿式化学的除去により取り去られる層に関しては、rms粗さが100nm未満、典型的には20〜50nmであり、横方向の相関長は250〜800nmである。
【0011】
図1bおよび図1cのタイプ2およびタイプ3に関しては、高さ分布がたいていは非常に非対称的である。これは、エッチングによりクレータ状に形成される表面構造に原因がある。この構造の典型的な開口角は120°〜140°である。rms粗さは、エッチング時間に大きく左右される。
【0012】
タイプ2(図1b)とタイプ3(図1c)は、面積当たりのクレータの数で区別される。タイプ2の方がクレータ密度が高い。したがってタイプ2に基づく表面を有する層は、層除去が同じ場合、タイプ3より高いrms粗さを示す。
【0013】
クレータは光散乱に好ましく作用するので、タイプ2に基づく表面は、タイプ3またはタイプ1に基づく表面より薄膜太陽電池に適している。
【0014】
エッチングプロセスによって生じる酸化亜鉛層の表面テクスチャは、太陽電池に当たる光を散乱させる。この光は、入射の際、酸化亜鉛層を通り抜けた後、吸収層内に散乱され、理想的には何度もセル内で反射され(「光トラッピング」効果)、これはセル効率を改善させる。
【0015】
太陽電池では、直径が約0.5〜3μmのクレータ構造が層の表面全体に均一に分布していること(タイプ2)が光散乱に有利であることが分かった。この相互連関は、Berginskyらから知られている(Berginsky M.、Huepkes J.、Schulte M.、Schoepe G.、Stiebig H.、Rech B.、Wuttig M.(2007)The effect of front ZnO:Al surface texture and optical transparency on efficient light trapping in silicon thin-film solar cells. Journal of Applied Physics 101, 074903-1-11(非特許文献1))。
【0016】
図1a〜cに示した酸化亜鉛層は、塩酸(0.5重量%(重量パーセント))中での30秒間のエッチングによって生じる。これらの層は、規則的にスパッタリングによって製造される。エッチング後にどのタイプの表面トポグラフィーが得られるかは、スパッタリングパラメータの選択によって決まる。放電出力2kW、アルゴンガス流量200sccm、および堆積圧力10μbarのような堆積条件の場合、塩酸中でのエッチング後にタイプ2の表面が得られる。この場合、酸化アルミニウムを0.5重量%ドープした酸化亜鉛の円筒形セラミックターゲットによる、40kHzの中周波励起(MF)での非反応性スパッタリングが使用される。これに対して、放電出力14kW、アルゴンガス流量200sccm、および堆積圧力20μbarのような堆積条件の場合は、塩酸中でのエッチング後にタイプ3に類似の表面が得られる。
【0017】
平たいZnO:Alセラミックターゲットのターゲットドーピングおよび基板温度が、エッチング後に生じる表面に及ぼす影響も調べられた。このため(rf)無線周波スパッタリングプロセスが、比較的低い出力で用いられた。すべての実験に対し、出力密度(2W/cm)およびアルゴン流量(100sccm)のプロセスパラメータは一定に保たれた。好ましくは低い基板温度および低いターゲットドーピング、例えば0.2重量%のAlドーピングおよび170℃の場合は、エッチング後にタイプ1の表面が得られる。これに対して、高い基板温度および高いターゲットドーピング、例えば2重量%のAlドーピングおよび460℃の場合は、エッチング後にタイプ3に基づく表面が生じる。これに対して、低〜中程度の温度での、タイプ1とタイプ3の間の温度に関連する狭いプロセスウィンドウ内、例えば1重量%のAlドーピングおよび約300℃の基板温度の場合は、エッチング後にタイプ2の表面が得られる。酸化亜鉛層がエッチングによりタイプ2の表面にエッチングされ得るこのプロセスウィンドウは、ターゲットドーピングを減らすにつれてさらに狭くなる。
【0018】
スパッタリング圧力および基板温度が、スパッタリングされた酸化亜鉛層に及ぼす影響も調べられた。ここでは、基板温度270℃でのスパッタリング圧力20μbarに対し、0.5重量%HCl中でのエッチング後にタイプ1に基づく表面が生じる。基板温度270℃でのスパッタリング圧力2.7μbarに対しては、0.5重量%HCl中でのエッチング後にタイプ2に基づく表面が生じる。
【0019】
酸化亜鉛層のエッチングには、通常は0.5重量%HCl(0.137N)が使用される。その他のエッチング液、例えば硫酸、リン酸、クエン酸も、酸化亜鉛をエッチングすることができる。原理的には、塩酸中でのエッチングに対して得られるのと類似のトポグラフィーが生じる。生じる表面はそれぞれ、前述のタイプ1〜3と類似の特徴を示す。同様にクレータ状の表面が生じ、その際のエッチング特性は、本質的には、スパッタリングパラメータの選択により決定された層特性から生じる。
【0020】
つまり、ZnO層のエッチングプロセスの際にクレータが生じる場所は、既に酸化亜鉛層の製造条件により、内在する層特性として刻み込まれているようだ。これらのパラメータおよび特にスパッタリング中の基板温度は、技術的に多大な労力を費やしても、大規模工業の尺度では満足には均一に調整することができないので、従来技術に基づくエッチング方法では、大量の望ましくない不良品またはタイプ1およびタイプ3の層のZnO層の部分領域が生じるという欠点がある。というのもエッチング媒体は、製造の以降の進行過程でエッチング構造の形状だけを決定するのであり、エッチング構造の面密度は決定しない。したがってタイプ2の層は部分的にランダムに生じるのであって、必要な程度の均質性および再現性では生じない。
【0021】
これに関しては、エッチング媒体としてのアルカリ液も解決策ではない。図1dに示したように、アルカリ液を用いると酸化亜鉛層に深い穴が生じる。物理的除去は多くの浅いくぼみをもたらす。両方の場合とも、侵食点の密度は層特性により予め定められている。これらの層は太陽電池での光散乱には不向きである。
【0022】
再現性の欠如だけでなく、これまでに知られているエッチング方法の欠点は他にもあり、特に、
1.大きな面積の基板(>0.1m)上の酸化亜鉛層に対し、優れた光散乱特性を有する二重構造、つまりクレータの中のクレータを安価に製造することができない。二重構造は、SnO層において光散乱を改善させるので望ましい。
2.エッチングされた酸化亜鉛層でのクレータのサイズおよび数が、スパッタリングプロセスまたは様々な液状媒体、例えば酸もしくはアルカリ液中でのエッチングプロセスによって非常に限定的にしかコントロールできない。
3.そのウィンドウ内ではエッチングプロセスにより適切な表面構造が生成される、酸化亜鉛層の製造に関してのプロセスウィンドウが狭い。特に、高い堆積速度で製造された高導電性の酸化亜鉛層は、決まってエッチング後には、低いクレータ密度しか示さない。これには、この酸化亜鉛層上で製造された光起電性ソーラーモジュールの効率が低くなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Berginsky M.、Huepkes J.、Schulte M.、Schoepe G.、Stiebig H.、Rech B.、Wuttig M.(2007)The effect of front ZnO:Al surface texture and optical transparency on efficient light trapping in silicon thin-film solar cells. Journal of Applied Physics 101, 074903-1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、クレータ密度およびクレータサイズを、均質かつ再現可能に、つまり堆積条件および材料特性に大幅に左右されるのではなく、むしろエッチング液およびエッチング方法自体によって調整できる安価な方法、ならびに酸化亜鉛層を製造するためのエッチング液を提供することである。本発明のさらなる課題は、酸化亜鉛層における二重構造の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。有利な形態は、従属する請求項から明らかである。
【0026】
本発明によれば、酸化亜鉛層を製造するための方法は、フッ化水素酸での湿式化学エッチングにより酸化亜鉛を準備するステップを有している。
【0027】
酸化亜鉛層をフッ化水素酸でエッチングすることにより、層において、再現可能なクレータサイズおよびクレータ密度を調整できることが有利である。特に有利なのは、酸化亜鉛層がエッチング前に異なる方法で製造されていても、フッ化水素酸でのエッチング方法により、酸化亜鉛層が再現可能に変化することである。したがって、エッチングされていない酸化亜鉛層に関する予め定められている特性を有する所与の酸化亜鉛層に対し、その表面トポグラフィーを、それも特にクレータ密度およびクレータサイズに関して、変化させることが初めて可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の枠内では、本発明により製造された構造が、他のエッチング手段により可能であるよりも規則的に表面全体に分布されていることが確認された。フッ化水素酸(HF)エッチングにより、特に高いクレータ密度を規則的に生成することができる。その際、フッ化水素酸の侵食点は、エッチングプロセスおよびエッチング液自体によって制御することができ、堆積条件および酸化亜鉛層のその他の特性だけで決定されるのではない。
【0029】
本発明の枠内では、特に、塩酸中では適切にエッチングできない、高速で堆積されたタイプ3の酸化亜鉛層が、フッ化水素酸エッチング後には規定通りのクレータ構造を有することが確認された。
【0030】
特に有利なのは、フッ化水素酸中でのエッチングにより生成されるクレータ密度およびクレータサイズが酸濃度に左右されることである。低い酸濃度(<<1重量%)は、大きくて平らなクレータを低密度で生じさせる。
【0031】
最高2Nのフッ化水素酸(4重量%に相当)が特に有利である。なぜならこの範囲内では、幅広くて平らなクレータ(低濃度)から狭くて急勾配のクレータ(高濃度)へと、表面構造を変化させることができるからである。これにより、表面構造を、対応する用途のために好都合に最適化できる。
【0032】
低くとも0.01Nのフッ化水素酸(0.02重量%に相当)を使用することが望ましい。これによりエッチング中に、太陽電池での光結合に有利な大きなクレータ構造が生成される。より低い濃度は、エッチング時間を非常に長くするという欠点がある。
【0033】
表面構造への効果を達成するためには、1秒超のエッチング時間が有利である。300秒を超えるエッチング時間は、表面構造を不均質にする可能性がある。挙げたエッチング時間は、エッチング媒体中を移動する基板を用いた動的エッチング法にも当てはまる。
【0034】
本発明の一形態では、エッチング方法中に、フッ化水素酸とその他の酸、例えば塩酸との酸混合物が使用される。これにより、混合比の選択によってクレータサイズを再現可能に調整することができる。
【0035】
本発明のさらなる一形態では、他の酸での第2のエッチングステップが実施される。最初に他の酸またはアルカリ液でのエッチングをしてもよい。「他の酸」という概念には、他の濃度のフッ化水素酸も含まれる。しかし塩酸、または化学的にフッ化水素酸とは異なる任意の他の酸でエッチングすることもできる。フッ化水素酸中でのエッチングプロセスの前または後に実施されるさらなるエッチングステップにより、生じる表面構造を、後続のエッチングプロセスによって修飾することが有利である。これにより二重構造、つまり横方向の寸法が異なる構造を生じさせることができ、かつエッジの鋭い構造の平滑化を達成することができる。
【0036】
エッチングステップの数に関係なく、フッ化水素酸により、その他の酸中でのエッチングではほとんどクレータが生じない酸化亜鉛層の表面を粗くすることができる。この効果は、特に、高い堆積速度で堆積された酸化亜鉛層に当てはまる。
【0037】
フッ化水素酸およびフッ化水素酸とその他の酸との混合物でエッチングされた酸化亜鉛層は、鋭いエッジをもつ表面を有している。その上に堆積された太陽電池は、改善された光学特性を示す。フッ化水素酸によるエッチングの後で実施された他の酸、例えば希釈された塩酸(HCl)中でのエッチングステップは、鋭いエッジを平滑化する。これは、太陽電池の曲線因子および電気特性に良い影響を及ぼす。
【0038】
電気光学部品中での光散乱性素子としてこのような酸化亜鉛層を適用することにとって有利であるのは、同時にコンタクト層の機能を有することである。このためには、エッチングされていない酸化亜鉛層が、エッチングステップ前に有利には10−2Ω・cm、特に10−3Ω・cmを超えない固有抵抗を有するべきである。これは、100Ω未満、特に10Ω未満の表面抵抗をもたらす。
【0039】
エッチングすべき酸化亜鉛は、エッチング前に、有利にはスパッタリングプロセスにより基板上に堆積されるべきである。スパッタリングされた酸化亜鉛は、エッチング挙動に有利な強いc軸テクスチャを規則的に有している。c軸が基板平面上で垂直に立っていない結晶方位を有する酸化亜鉛層は、湿式化学エッチングプロセスの後、決まって本質的な光散乱を示さない。
【0040】
基板としては、柔軟な基板、例えば金属フィルムまたはプラスチックフィルムを使用することができる。これらから製造されたソーラーモジュールの軽量および柔軟性は、剛性で重い基板よりも多数の適用可能性、例えば負荷能力が小さい場合の屋根への取付けまたは衣服へのPVモジュールの取付けのような適用可能性を提供する。ただし、酸化亜鉛層が堆積された剛性基板を使用してもよい。これらの基板は、機械的特性、例えば層張力および付着性へ要求が比較的低い。
【0041】
エッチングすべき酸化亜鉛層が300〜1500nmの間の厚さであることが有利である。エッチングステップ後の層厚が200〜1400nm、特に400〜900nmであることが有利である。エッチング中は、エッチングプロセスにより50〜1000nm、特に100〜500nmが除去されることが有利である。以下の例示的実施形態では、目標サイズとして約150nmの除去が報告されている。この除去は、従来技術に基づくエッチング方法では、エッチングされた層の品質評価に関し、十分であると判断された。層は、表面形状測定器により測定される。
【0042】
酸化亜鉛層は、導電性の改善、光学特性の改善、および長期的な安定性の向上のために、ドーピングされるか、または他の材料と合金化され、その後でエッチングされる。適切なドーピング原子と見なされるのは、特に第3主族の元素、例えばアルミニウム、ガリウム、およびインジウムである。酸化亜鉛と、その他の金属酸化物、例えばMgOまたはSnOとの合金も使用することができる。酸化亜鉛中のすべての原子に対する外来の金属原子の合計分率が0.1〜20at%、特に0.2〜10at%の間または0.3〜4at%の間であることが有利である。
【0043】
高い堆積速度で堆積された酸化亜鉛層がエッチングされることが有利である。これは、製造価格を引き下げる。適切な堆積速度は、有利には、5nm/s超、特に10nm/s超である。動的スパッタリングプロセスに関しては、これに対応して、2分未満、特に1分未満のサイクルタイムが達成されるように、静的堆積速度を動的な速度に換算しなければならない。
【0044】
本発明による酸化亜鉛層は、大きなクレータの中に小さなクレータがエッチングされた二重構造を有することが有利である。大きなクレータは300nm超の大きさであり得て、これに対し小さなクレータは300nm未満の大きさである。大きなクレータのクレータ密度は0.3〜3μm−2である。小さなクレータのクレータ密度は5〜100μm−2であることが有利であり、したがって1つの大きなクレータの中に複数の小さなクレータが配置される。
【0045】
少なくとも1つのこのような酸化亜鉛層を含む、基板を有する層構造が、例えば太陽電池で用いられることが有利である。
【0046】
ここからは、例示的実施形態および添付した図に基づき、本発明をさらに詳しく説明する。
【0047】
以下の例示的実施形態では、ZnO層のための目標サイズとして約100〜500nmの除去が報告されている。この除去は、従来技術に基づくエッチング方法では、エッチングされた層の品質評価に関し、十分であると判断された。層は、表面形状測定器により測定された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来技術に基づき、エッチングされたZnO表面の反射電子顕微鏡写真であって、HClエッチングステップ後のタイプ1が(a)、タイプ2が(b)、タイプ3が(c)であり、KOH中でのエッチングステップ後が(d)である。
【図2】例示的実施形態1に基づき、最初に塩酸中で30秒間、続いてフッ化水素酸中で30秒間エッチングされた酸化亜鉛層の二重構造の表面の反射電子顕微鏡写真である。
【図3】例示的実施形態2〜4に基づき、HFおよびHClから成る酸混合物中でエッチングされたZnO層の表面の反射電子顕微鏡写真である。混合比、帰属のエッチング時間、ならびにrms粗さおよび横方向の相関長は表1にまとめられている。図3d)は従来技術に関する。
【図4】エッチング条件:(a)本発明によるエッチングステップに基づき1重量%HF溶液中で120秒、(b)従来技術に基づき0.5重量%HCl溶液中で30秒での、高速堆積ZnO層の表面の反射電子顕微鏡写真である。
【図5】例示的実施形態5に基づく、最初に1重量%HF溶液中で120秒間、続いて0.5重量%HCl中で4秒間エッチングされた高速堆積ZnO層の表面の反射電子顕微鏡写真である。
【図6】エッチング条件:(a)4重量%HF、120秒、(b)2重量%HF、120秒、(c)1重量%HF、70秒、(d)0.5重量%HF、120秒、(e)0.25重量%HF、120秒、または(f)0.125重量%HF、120秒での、様々な濃度のフッ化水素酸中でエッチングされた酸化亜鉛層の表面の反射電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0049】
第1の例示的実施形態
陰極スパッタリングにより、ガラス基板上に800nmの薄いZnO層を施した。以下のコーティングパラメータ、すなわちAl含有率が1重量%の平たいZnO:Alセラミックターゲット、13.56MHzの無線周波(rf)励起、洗浄されたCorningガラスEagle XG、プロセスガス:アルゴン、動作圧力1×10−3mbar、発電機出力2W/cm、アルゴンガス流量2×50標準立方センチメートル(sccm)、基板温度300℃、スパッタリング装置:Von Ardenne Anlagentechnik社(VISS300)が選択された。静的堆積速度は0.5nm/sであった。
【0050】
酸化亜鉛でコーティングされたガラス板を、0.5重量%の塩酸(HCl)中で30秒間エッチングする。タイプ2に基づく既知のクレータが生じる(例えば図1bを参照)。続いてこの試料を1重量%のフッ化水素酸(HF)中で30秒間エッチングする。フッ化水素酸が他のエッチング侵食点を選択するので、大きなクレータの中に複数の小さなクレータを有する二重構造が生じる(図2)。
【0051】
フッ化水素酸および塩酸の濃度は、これに制限されるものではなく例でしかない。つまり、フッ化水素酸および塩酸に対し、その他の濃度、例えば他の例示的実施形態のための濃度、およびそこで挙げられた濃度の間にある中間濃度としての濃度を何の問題もなく選択することができる。
【0052】
第2〜第4の例示的実施形態(図3a〜c)
陰極スパッタリングにより、ガラス基板上に800nmの薄いZnO層を施した。コーティングパラメータは、例示的実施形態1のように選択された。酸化亜鉛をコーティングしたガラス板を、塩酸とフッ化水素酸の比率(HCl:HF)が異なる混合物中で、様々なエッチング時間でエッチングする。正確なパラメータは表1に示している。両方の酸の相互の混合比に応じ、ZnO層には異なるサイズのクレータが生じる(図3a〜cを参照)。rms粗さは、エッチング液の相対的HCl率が上昇するのに対応して少しだけ高くなる傾向にある(純粋な1重量%HFでの105nmから、両方の酸の混合物での125nmを経て、純粋な0.5重量%HClでの139nmへと)。ここでは平均クレータ直径に関する尺度である横方向の相関長は、エッチング液中での相対的HCl率が上昇するのに対応して大きくなる(HCl率0%での181nmから、HCl率100%での644nmへと)。すべてのエッチングされた層について、層除去は約150nmであった。rms粗さおよび横方向の相関長は表1に示している。
【0053】
表1:HFとHClの混合比および帰属のエッチング時間ならびにrms粗さおよび横方向の相関長。プロセスa〜cは本発明による例示的実施形態2〜4に対応しており、プロセスdは従来技術に対応している
【表1】

【0054】
フッ化水素酸および塩酸の濃度は、これに限定されるものではなく例でしかない。つまり、フッ化水素酸および塩酸に対し、その他の濃度、例えば他の例示的実施形態のための濃度、およびそこで挙げられた濃度の間にある中間濃度ももちろん何の問題もなく選択することができる。
【0055】
第5の例示的実施形態
陰極スパッタリングにより、移動する基板を用いた100nm・m/min(約7nm/s)超の高い動的堆積速度で、ガラス基板上に800nmの薄い酸化亜鉛層を施した。以下のコーティングパラメータ、すなわちAl含有率が0.5重量%のZnO:Al円筒形セラミックターゲット、40kHzでの二重陰極の中周波(MF)励起、洗浄されたCorningガラスEagle XG、プロセスガス:アルゴン、動作圧力20×10−3mbar、発電機出力14kW、アルゴンガス流量200標準立方センチメートル(sccm)、基板温度350℃、スパッタリング装置:Von Ardenne Anlagentechnik社(VISS300)が選択された。
【0056】
酸化亜鉛層をコーティングしたガラス板を、1重量%HF溶液中で120秒間エッチングする。規則的に表面全体に分布した鋭いエッジのクレータが現れ(図4aを参照)、一方で従来技術として0.5重量%HCl中でエッチングされた層は、タイプ3に基づく表面に類似して平らなクレータしか有さない(図4bを参照)。
【0057】
表示したZnO層は、シリコン系薄膜太陽電池での優れた光散乱、したがって量子収率の上昇を可能にする。
【0058】
図4aに基づく構造に、続いて0.5重量%HCl中での例えば4秒間の短いエッチングステップを施すことにより、表面が修飾され、エッジが平滑化される。図5の酸化亜鉛層が生じる。
【0059】
表示した図5の酸化亜鉛層も同様に、薄膜太陽電池において、高い量子収率を伴う優れた光散乱と同時に優れた電気特性を可能にする。
【0060】
ここでもフッ化水素酸および塩酸の濃度は、これに制限されるものではなく例でしかない。つまり、フッ化水素酸および塩酸に対し、その他の濃度、例えば他の例示的実施形態のための濃度、およびそこで挙げられた濃度の間にある中間濃度ももちろん何の問題もなく選択することができる。
【0061】
第6〜第11の例示的実施形態
酸化亜鉛層を様々な濃度のHF中でエッチングした。約50〜500nmの除去が報告された。これには、例示的実施形態1で説明したようなZnO層が用いられた。
【0062】
試料を、4重量%、2重量%、1重量%、0.5重量%、0.25重量%、および0.125重量%のフッ化水素酸中でエッチングした。1重量%溶液(70秒)を除き、すべての試料が120秒間エッチングされた。結果として生じる表面を図6a〜fに示す。低い酸濃度(約0.125wt.%未満)の場合は、直径が最高1000nmの平らなクレータが生じる。より高い酸濃度(>0.125%)のHF含有溶液を使用すると、傾向的にエッジがより鋭く、より深く、300nm未満のより小さな直径のクレータが生じる。したがってフッ化水素酸の酸濃度が初めて、エッチング後の酸化亜鉛層の構造サイズを意図的に調整するためのパラメータとなる。
【0063】
例示的実施形態でのフッ化水素酸およびその他の酸の濃度は、それに制限されるものとしてではなく、例としてのみ理解すべきである。つまり、これらの酸に対し、その他の濃度、例えば挙げられた濃度の間にある中間濃度を何の問題もなく選択できることは自明である。
【0064】
さらに、例示的実施形態での塩酸の代わりにリン酸、硫酸、硝酸、酢酸、またはクエン酸も、または適切なその他の、場合によっては有機酸も使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛層が、フッ化水素酸によりエッチングされることを特徴とする酸化亜鉛層の製造方法。
【請求項2】
酸化亜鉛層が、少なくとも0.01N(0.02重量%)のフッ化水素酸でエッチングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化亜鉛層が、最高2N(4重量%)のフッ化水素酸でエッチングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1〜300秒の間のエッチング時間を特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
酸化亜鉛層が、フッ化水素酸とさらなる酸、特に塩酸とから成る混合物でエッチングされることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
酸化亜鉛層が、少なくとも1つのさらなるエッチングステップによりエッチングされることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
酸化亜鉛層が、フッ化水素酸でのエッチングステップの前に、他の酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸、またはクエン酸で、またはその他の、場合によっては有機酸でエッチングされることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
濃度の異なるフッ化水素酸中での2つのエッチングステップを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
酸化亜鉛層が、フッ化水素酸でのエッチングステップの後に、他の酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸、またはクエン酸で、またはその他の、場合によっては有機酸でエッチングされることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
10−2Ω・cm未満の固有抵抗を有する酸化亜鉛層がエッチングされることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
少なくとも5nm/sの静的堆積速度で基板上に堆積された酸化亜鉛層がエッチングされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
大きなクレータの中に小さなクレータがエッチングされた二重構造を有する酸化亜鉛層。
【請求項13】
大きなクレータが、直径300nm超の大きさであることを特徴とする請求項12に記載の酸化亜鉛層。
【請求項14】
小さなクレータが、直径300nm未満の大きさであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一つに記載の酸化亜鉛層。
【請求項15】
大きなクレータのクレータ密度0.3〜3μm−2を特徴とする請求項1〜14のいずれか一つに記載の酸化亜鉛層。
【請求項16】
小さなクレータのクレータ密度5〜100μm−2を特徴とする請求項1〜15のいずれか一つに記載の酸化亜鉛層。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか一つに記載の酸化亜鉛層を少なくとも1つ含む、基板を有する層構造。
【請求項18】
請求項12〜16のいずれか一つに記載の酸化亜鉛層を含む太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−504184(P2013−504184A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527197(P2012−527197)
【出願日】平成22年8月7日(2010.8.7)
【国際出願番号】PCT/DE2010/000943
【国際公開番号】WO2011/026455
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】