説明

酸化物微粒子含有塗料、透過率向上膜、蛍光ランプ、表示機器

【課題】可視光透過特性を容易に改善することが可能な透過率向上膜を形成できる酸化物微粒子含有塗料とそれを用いた透過率向上膜とを提供する。また、可視光線領域での透過性が当該膜の形成前よりも向上し、輝度も向上した蛍光ランプを提供する。さらに、輝度の改善された表示機器を提供する。
【解決手段】酸化物微粒子と溶媒と平均20〜2000量体のシリケート成分とを含有し、前記酸化物微粒子の含有量を0.2質量%とした際の、光路長10mmにおける全光線透過率が35〜55%である酸化物微粒子含有塗料である。また、当該塗料を用いて形成してなる透過率向上膜である。さらに、透過率向上膜を、ガラスバルブ内面および/またはガラスバルブ外面に形成してなる蛍光ランプである。また、透過率向上膜が形成されたガラスを用いた表示機器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物微粒子含有塗料とそれを用いた透過率向上膜並びに蛍光ランプ及び表示機器に関し、更に詳しくは、蛍光ランプや表示機器のガラスに成膜することにより、光の透過効率を改善させることが可能な酸化物微粒子含有塗料、この酸化物微粒子含有塗料により形成された透過率向上膜、並びに、可視光線領域での透過性を良好に保持することが可能な蛍光ランプ及び表示機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータ(PC)等のOA機器や薄型テレビに用いられている液晶表示装置(LCD)は、自発発光型ではないために外部にバックライトユニットを設ける必要があり、このバックライトユニットには冷陰極型の蛍光ランプが取り付けられている。
【0003】
この蛍光ランプは、例えば、ガラス管の両端が封止された透光性封止管の内面に蛍光体からなる発光層を形成し、この透光性封止管内の両端部側にそれぞれ電極を設け、この透光性封止管内の任意の部分、例えば電極等に酸化セシウム等の電子放射性物質を付着させ、さらに、この透光性封止管内に水銀及びアルゴン等の希ガスを封入したものである。
【0004】
ところで、従来の蛍光ランプでは、製造コストを低減する目的で蛍光体の塗布量を削減すると、発光層における紫外線吸収率が低下し、その結果、光束及び演色性が低下するという欠点があった。これを解消するために、ガラス面に、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、燐酸カルシウム等の非発光物質からなる紫外線反射層と、蛍光体を単独または複数種混合してなる発光層とが順次形成された蛍光ランプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、放電容器の管球部の内面に三重蛍光体層からなるUV−可視変換層を形成し、この放電容器の放電キャビティに突き出した内曲管の表面にUV反射層を形成した無電極コンパクト蛍光ランプが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
ここで、従来の蛍光ランプは、ガラス面に紫外線反射層及び発光層を順次積層した構成であるから、紫外線反射層により紫外線を良好に反射することで発光層自体の発光特性は改善されるものの、紫外線反射層における可視光領域の透過性が十分ではないために、蛍光ランプの輝度を向上させることが難しいという問題点があった。そして、従来の無電極コンパクト蛍光ランプにおいても、上記の蛍光ランプと同様の問題点があった。
【特許文献1】特開平2−223147号公報
【特許文献2】特開2002−319373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蛍光ランプの輝度を向上させるためには、発光層における発光強度の向上を図ることの他、ガラス管における可視光透過特性を改善する方法がある。ガラス管の可視光透過特性を改善させるためには、ガラス管自体の材質を可視光透過特性の良いものに変える方法の他、ガラス管の表面に、例えば低屈折率膜からなる可視光反射防止層を設けることが考えられる。しかしながら、材質の変更はガラス自体が高価なために大幅なコストアップを招き実用的ではない。また、可視光反射防止層の形成も、これを形成するための工程が別途必要になり、その結果、工程に係る時間が長くなり、製造コストも上昇するという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、ガラス等の透明部材の表面に塗布することにより、可視光透過特性を容易に改善することが可能な透過率向上膜を形成できる酸化物微粒子含有塗料とそれを用いた透過率向上膜とを提供することを目的とする。また、本発明は、当該透過率向上膜が透光性封止管の表面に形成されてなり、可視光線領域での透過性が当該膜の形成前よりも向上し輝度も向上した蛍光ランプを提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該透過率向上膜がガラス面に形成されてなり、当該膜が形成される前よりも明るさの改善された表示機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酸化物微粒子と溶媒と特定の重合度のシリケート成分とを含有し、全光線透過率を所定範囲に調整した塗料を用いてガラス面に膜を形成すると、ガラスの可視光透過特性を改善することができ、もって輝度の向上した蛍光ランプや明るさの向上した表示装置が得られることを見出した。すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0010】
[1] 酸化物微粒子と溶媒と平均20〜2000量体のシリケート成分とを含有し、前記酸化物微粒子の含有量を0.2質量%とした際の、光路長10mmにおける全光線透過率が30〜60%である酸化物微粒子含有塗料。
[2] 前記酸化物微粒子が、酸化イットリウム及び酸化アルミニウムの少なくともいずれかである[1]に記載の酸化物微粒子含有塗料。
[3] 前記酸化イットリウムおよび/または前記酸化アルミニウムの平均一次粒子径が0.01〜0.20μmである[2]に記載の酸化物微粒子含有塗料。
【0011】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物微粒子含有塗料を用いて形成してなる透過率向上膜。
[5] 膜厚が0.01〜0.50μmである[4]に記載の透過率向上膜。
[6] [4]または[5]に記載の透過率向上膜を、ガラスバルブの内面および/または外面に形成してなる蛍光ランプ。
[7] [4]または[5]に記載の透過率向上膜が形成されたガラスを用いた表示機器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガラス等の透明部材の表面に塗布することにより、可視光透過特性を容易に改善することが可能な透過率向上膜を形成できる酸化物微粒子含有塗料とそれを用いた透過率向上膜とを提供することができる。また、当該透過率向上膜が透光性封止管の表面に形成されてなり、可視光線領域での透過性が当該膜の形成前よりも向上し、輝度も向上した蛍光ランプを提供することができる。さらに、当該透過率向上膜がガラス面に形成されてなり、当該膜が形成される前よりも明るさの改善された表示機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[酸化物微粒子含有塗料]
本発明の酸化物微粒子含有塗料(以下、単に「塗料」ということがある)は、酸化物微粒子と、溶媒と、平均20〜2000量体のシリケート成分とを含有してなる。
【0014】
酸化物微粒子としては、酸化イットリウム及び酸化アルミニウムの少なくともいずれかであることが好ましい。これら金属酸化物の屈折率は、酸化イットリウムが1.91、酸化アルミニウム単結晶が1.76〜1.77であり、比較的低屈折率であるためである。また、詳細は不明であるが、これら酸化物微粒子が塗料中で形成する二次粒子が安定であり、粒径制御が行いやすいためである。
【0015】
酸化イットリウム微粒子及び酸化アルミニウム微粒子の平均一次粒子径は0.01〜0.20μmであることが好ましく、0.01〜0.10μmであることがより好ましい。
平均一次粒子径が0.01μm〜0.20μmであれば、一次粒子の凝集性がよく、塗料中で形成される二次粒子の粒径が十分な大きさとなることから、塗膜を形成した際に、該塗膜中に十分な空隙が生成し、良好な塗膜特性が得られやすくなる。
一方、平均一次粒子径が0.01μm未満の場合、一次粒子の凝集性は良いが、凝集しても一次粒子が小さいために二次粒子の粒径が十分な大きさとならず、塗膜の空隙率が低下するため良好な塗膜特性が得られない。また、平均一次粒子径が0.2μmを越えると、一次粒子の凝集性が悪くなり、二次粒子の粒径が小さくなる、あるいは二次粒子の粒径のばらつきが大きくなるため、やはり塗膜の空隙率が低下して良好な塗膜特性が得られない。
なお、平均一次粒子径は、日機装社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIシリーズ、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950などにより測定することができる。
【0016】
酸化物微粒子の形状は特に限定されないが、球状よりは多角形状あるいは不定形状の方が好ましく、さらに不定形多角形状であればより好ましい。これは、粒子が球状の場合には、粒子の充填性がよいために空隙率が高くなりにくいのに対し、粒子が多角形状や不定形状であれば、各粒子がランダムな方向を向くことにより空隙率を高めることができるからである。また、粒子が不定形多角形状であれば、各粒子が形状や大きさを揃えて配列することが起こりえないため、空隙率をより高めることができる。
なお、空隙を設けることの意義については後述する。
【0017】
さらに、酸化物微粒子として凹部や空孔を有するものを用い、塗膜の形成時にこの凹部や空孔にシリケート成分が充填されて埋まらないようにすれば、空隙率をより高めることができるので好ましい。
【0018】
塗料中の酸化物微粒子の含有量は、全光線透過率が所定の範囲に入るように調整されるが、例えば、平均一次粒子径が0.01〜0.20μmの場合は、0.1〜5.0質量%程度とすることが好ましい。
【0019】
平均20〜2000量体のシリケート成分は、有機ケイ素化合物またはその重合体(ポリマー)から構成される。ここでシリケート成分が平均で20量体未満であると、本塗料を用いて塗膜を形成した場合において、酸化物微粒子間に存在するシリケート成分が酸化物微粒子相互の間隔を保った状態を維持することが難しいために、塗膜中の酸化物微粒子相互はほぼ接した状態となり、更にシリケート成分が酸化物微粒子間を充填する形となるため、空隙率の低下を招いてしまい、良好な塗膜特性が得られなくなってしまう。また、平均で2000量体を超えると、シリケート成分の架橋により塗料がゲル化してしまう。このため、当該シリケート成分は20〜2000量体であることが好ましく、100〜1000量体であることがより好ましい。
また、当該シリケート成分の含有量は、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.02〜5質量%であることがより好ましい。
【0020】
ここで、有機ケイ素化合物としては、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、アシロキシシラン化合物、シラザン化合物などが挙げられる。かかる有機ケイ素化合物は、その分子中にアルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基などの置換基を有していてもよい。
【0021】
有機ケイ素化合物としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独または2種以上を混合して用いられる。
【0022】
シリケート成分は、上記有機ケイ素化合物が加水分解された加水分解生成物あってもよい。加水分解生成物は、上記有機ケイ素化合物に塩酸、リン酸、酢酸などの酸または水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの塩基を加えることにより生成させることができる。
【0023】
溶剤としては、シリケート成分を溶解し、塗布後揮発し、無機微粒子を分散し得るものであれば特に限定されるものではなく、塗膜を形成する基材の材質、形状、塗布方法などに応じて適宜選択される。基本的には、水および/または低沸点有機溶媒である。
【0024】
上記の低沸点有機溶媒は、乾燥速度を向上させるために用いられるもので、常圧(1気圧)下で150℃以下の沸点を有する有機溶媒である。この低沸点有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸−1−ブチル、酢酸−2−ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等の1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
なかでも、水、低級アルコール類、ケトン類等が挙げられ、特に、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)等が好適である。
【0026】
この塗料の乾燥速度を調節するために、高沸点有機溶媒を添加してもよい。
この高沸点有機溶媒は、常圧(1気圧)下で150℃を超える沸点を有する有機溶媒であり、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0027】
分散性を向上させるために、分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸塩、ポリアルキル硫酸塩、ポリビニルアルコール(PVA)等の水に可溶なポリマー類が挙げられる。
【0028】
また、本発明の酸化物微粒子含有塗料には、反応促進剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を含有していてもよい。
有機ケイ素化合物としてその加水分解生成物を用いる場合には、塩酸、リン酸、酢酸などの酸;水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの塩基;などを加えてもよい。
【0029】
また、本発明の酸化物微粒子含有塗料は、既述の酸化物微粒子の含有量を0.2質量%とした際の、光路長10mmにおける全光線透過率が30〜60%となっている。全光線透過率が30%未満では、本塗料を用いて作製した塗膜(透過率向上膜)の透過率が低下してしまい、60%を超えると、本塗料を用いて作製した塗膜の空隙率が低下して、良好な塗膜特性が得られなくなってしまう。全光線透過率は35〜56%であることがより好ましく、50〜56%であればさらに好ましい。
なお、全光線透過率はヘーズメーターにより測定することができる。
【0030】
ここで、塗料の透過率を調整することで、得られる塗膜の特性を制御できることを説明する。
まず、粒子を含有する液体における光の透過度は、液中の粒子成分による光の散乱状態により決定される。そして、液中における粒子の散乱状態を決めるのは,分散している粒子の分散粒径と粒子数である。従って、塗料における光の透過率を制御するということは、塗料中の粒子成分である酸化物微粒子による光の散乱状態を制御するということであり、また散乱状態を決めるのは、酸化物微粒子の分散粒径と粒子数であるということになる。
なお、本発明では、酸化物微粒子の含有量は0.2質量%と決められているので、分散粒径と粒子数は逆比例の関係となる。
【0031】
本発明の酸化物微粒子含有塗料における酸化物微粒子の平均一次粒子径が0.01〜0.20μmと微小である場合、粒子の表面積が大きいため粒子間の凝集力が増大し、酸化物微粒子同士は凝集粒子、すなわちサブミクロン〜ミクロンオーダーの二次粒子を形成すると考えられる。
【0032】
一方、散乱にはレイリー散乱とミー散乱がある。レイリー散乱は光の波長の数分の一以下のサイズの粒子による散乱で、波長依存性を有しているため、塗料における散乱の原因がレイリー散乱だとした場合、塗料中の分散粒子の状態を制御するためには、波長ごとの透過率を定めなければならない。逆に、ミー散乱は光の波長程度のサイズの粒子による散乱で波長依存性が無いため、全光線透過率を制御すれば塗料中の分散粒子の状態が制御できる。つまり、全光線透過率が一定であれば、塗料中の分散粒子の状態もほぼ一定と考えられる。
【0033】
本発明の酸化物微粒子含有塗料の透過率制御はヘーズメーターによる全光線透過率によるのであるから、塗料の全光線透過率を制御することで形成される膜の特性が制御できている。従って、塗料の散乱原因はミー散乱と推定できる。すなわち、本塗料中にはサブミクロン〜ミクロンオーダーの粒子が主に存在すると考えられる。これは、既述の二次粒子形成における粒子径とも合致する。
【0034】
以上から、本発明において、塗料の全光線透過率を調整するということは、塗料中のサブミクロン〜ミクロンオーダーの酸化物微粒子の分散粒径と粒子数を制御していることになる。
【0035】
次に、本発明の酸化物微粒子含有塗料により形成した膜を考えると、当該膜はサブミクロン〜ミクロンオーダーの酸化物微粒子が基材表面に堆積して形成された膜と考えられる。粒子径がある程度大きいため、粒子間を結合し膜として形成させるためのバインダー成分が一定値以下(例えば、本発明に係るシリケート成分の塗料中における含有量が20質量%以下)であれば、各粒子間に空隙が存在する可能性が高い。
【0036】
前述のように、塗料の透過率が一定であれば塗料中の酸化物微粒子の分散粒径や粒子量が一定であるから、透過率が一定の塗料を用いれば、すなわち得られる膜の空隙率もほぼ一定の値を有すると考えられる。したがって、塗料の全光線透過率を制御することで、得られる膜の空隙率が制御可能となる。
【0037】
そして、塗料中の酸化物微粒子の分散状態を、酸化物微粒子の含有量を0.2質量%とした際の、光路長10mmにおける全光線透過率が30〜60%となるように調整すれば、この塗料を用いて成膜した際における膜中の酸化物微粒子の状態が膜体中で空隙を形成するのに適した値となり、結果として膜中の空隙率の値が最適となる。その結果、構成する酸化物微粒子およびシリケート成分のそれぞれに比べて、屈折率の低下が図られ優れた透明性を発揮することができる。
【0038】
このようにして粒子間に形成された空隙は、それぞれが独立して閉じた状態でも良く、あるいは互いに連通していてもよい。
空隙が独立して閉じた状態の場合には、膜外の雰囲気(例えば湿度)の変化により低屈折率膜の特性が変化することは無いが、空隙率を一定値以上に上げることが難しいため、膜の屈折率を小さくすることに限界が生じることがある。一方、空隙が連通している場合には、空隙率を増し膜の屈折率を十分に小さくすることが可能となるが、雰囲気の変化が膜特性に影響する可能性が高まる。従って、これらは透過率向上膜に必要とされる条件により選択される。
【0039】
なお、塗料の全光線透過率の測定条件を、塗料中の酸化物微粒子の含有量を0.2質量%としたのは、実際の塗料における酸化物微粒子の含有量に近く実際の塗料と測定試料の間に差異が生じにくいためである。また、測定光路長を10mmとしたのは、既述の酸化物微粒子の含有量とした際の全光線透過率の測定が安定しかつ誤差が少なく測定できるためである。
【0040】
[透過率向上膜]
本発明の透過率向上膜は、本発明の酸化物微粒子含有塗料を用いて形成されてなる。ここで、膜厚は0.01〜0.50μmであることが好ましく、0.01〜0.20μmであることがより好ましい。
【0041】
膜厚が0.01μm以上の場合には、透過率向上膜としての十分な効果が得られ、膜厚が0.50μm以下の場合には、塗膜による光の反射や吸収の影響を考慮する必要がほとんどなくなり、やはり透過率向上膜としての十分な効果が得られやすくなる。
【0042】
酸化物微粒子含有塗料を基材上に塗布して透過率向上膜を形成する際の塗布方法は、通常と同様の方法、例えばマイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、スプレーコート法などの方法が挙げられる。
【0043】
基材としては、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、トリアセチルセルロース樹脂などからなる樹脂基材、無機ガラスなどの無機基材などが挙げられる。
【0044】
基材は、板(シート)、フィルムなどのように表面が平面である基材あってもよいし、凸レンズ、凹レンズなどのように表面が曲面である基材であってもよい。また、表面に細かな凹凸が設けられていてもよい。
【0045】
塗布後の塗膜を硬化させるには、例えば加熱を行えばよい。加熱温度、加熱時間は用いる有機ケイ素化合物の種類、使用量などに応じて適宜選択される。このようにして基材の表面に本発明の透過率向上膜が作製される。
【0046】
[蛍光ランプ及び表示機器]
本発明の蛍光ランプは、本発明の透過率向上膜を、ガラスバルブ内面および/またはガラスバルブ外面に形成してなる。また、本発明の表示機器は、本発明の透過率向上膜が形成されたガラスを用いてなる。表示機器としては、液晶テレビ、PDP、PCモニタ等の各種ディスプレイ装置の他、看板等が挙げられる。
【0047】
本発明の透過率向上膜をガラスバルブ外面や表示機器のガラス面に設ければ、ガラスバルブ外表面や表示機器ガラス面における反射を低減することができるから、ガラスバルブ内や表示機器内での発光光の取り出しロスを低減することができ、よって蛍光ランプや表示機器の輝度を高めることができる。また、当該膜をガラスバルブ内面に設ければ、ガラスバルブ内表面における反射を低減することができるから、蛍光ランプの輝度を高めることができる。
【0048】
図1及び図2に本発明の蛍光ランプの一実施形態を示す。
図1は、本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図、図2は同横断面図であり、図において、1は両端が封止されたガラス管からなる透光性封止管、2は本発明の透過率向上膜であり透光性封止管1の内壁全体(内面)に形成されている。3は赤色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体及び青色系発光蛍光体の混合物からなる蛍光体層、4は透光性封止管1内の両端部側にそれぞれ設けられた電極、5は電極4に電気的に接続されたリード線である。
また、Gは透光性封止管1内に封入された封入ガスであり、この封入ガスGは、水銀、及びアルゴン等の希ガスや窒素等の不活性ガスにより構成されている。
【0049】
蛍光ランプは、点灯用電気回路を介して通電して点灯させると、透光性封止管1内の放電空間から発生する水銀の輝線である254nmの波長の光を蛍光体層3が吸収・励起しバルブを通して放射する。このとき変換された可視光線バルブを透過する。
【0050】
なお、本発明の透過率向上膜を、光の透過率向上度からシミュレーションした場合の屈折率は約1.3となり、これは蛍光ランプにおけるガラスバルブの屈折率よりも低い値であるが、下記実施例における塗膜の特性においても、この程度の屈折率を有することが示唆されている。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
酸化物微粒子としての酸化イットリウム微粒子(平均一次粒子径0.07μm)2.0質量部、テトラメトキシシランを出発原料とし重合させることによってなるシリケート成分(平均200量体のシリケート成分)0.2質量部を、分散剤を含む2−プロピルアルコール中にビーズミルを用いて分散させ、その後ビーズを分離し、酸化イットリウムの微粒子含有塗料を作製した。分散時間はビーズ径やディスク周速などにより異なるが、本例では2時間とした。この塗料を光路長10mmのガラスセルに入れ、ヘーズメータ NDH2000(日本電色工業社製)にて全光線透過率を測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0052】
次いで、この塗料を乾燥膜厚が0.05μmになるよう、ガラス(厚さ:2.0mm)の片面に塗布し、室温で5分間乾燥した後、80℃で20分間加熱して、透過率向上膜を作製した。膜厚はFE−SEMにて断面観察により測定して求めた。
この膜の全光線透過率をヘーズメータ NDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。結果を下記表1に示す。
【0053】
なお、全光線透過率の測定では、対照として未塗布の石英ガラスを用い、この石英ガラスの全光線透過率を100として各々の試料の測定値を補正した。表1において、◎は当該補正値が102.0以上を示し、○は100.5以上102.0未満を示し、△は99.5以上100.5未満を示し、×は99.5未満を示す。
【0054】
(実施例2)
分散時間を実施例1の1.5倍とした以外は実施例1と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0055】
(実施例3)
分散時間を実施例1の2.0倍とした以外は実施例1と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0056】
(実施例4)
分散時間を実施例1の2.5倍とした以外は実施例1と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0057】
(実施例5)
実施例3と同様にして酸化物微粒子含有塗料を作製し、膜厚を0.01μmとした以外は実施例3と同様にして、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0058】
(実施例6)
実施例3と同様にして酸化物微粒子含有塗料を作製し、膜厚を0.10μmとした以外は実施例3と同様にして、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0059】
(実施例7)
実施例3と同様にして酸化物微粒子含有塗料を作製し、膜厚を0.30μmとした以外は実施例3と同様にして、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0060】
(実施例8)
実施例3と同様にして酸化物微粒子含有塗料を作製し、膜厚を0.50μmとした以外は実施例3と同様にして、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0061】
(実施例9)
酸化物微粒子として、酸化イットリウム微粒子のかわりに酸化アルミニウム微粒子(平均一次粒子径0.02μm)2.0質量部とした以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0062】
(実施例10)
酸化物微粒子として、酸化イットリウム微粒子のかわりに酸化アルミニウム微粒子(平均一次粒子径0.02μm)1.0質量部及び酸化イットリウム微粒子(平均一次粒子径0.07μm)1.0質量部とした以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0063】
(実施例11)
シリケート成分として平均20量体のものを用いたこと以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0064】
(実施例12)
シリケート成分として平均2000量体のものを用いたこと以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0065】
(比較例1)
分散時間を実施例1の1/4とした以外は実施例1と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0066】
(比較例2)
分散時間を実施例1の1/2とした以外は実施例1と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0067】
(比較例3)
酸化物微粒子の平均一次粒子径を0.5μmとした以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0068】
(比較例4)
酸化物微粒子として、酸化イットリウム微粒子のかわりに酸化アルミニウム微粒子(平均一次粒子径0.15μm)2.0質量部とした以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0069】
(比較例5)
酸化物微粒子として、酸化イットリウム微粒子のかわりに酸化アルミニウム微粒子(平均一次粒子径0.15μm)2.0質量部とした以外は実施例4と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0070】
(比較例6)
シリケート成分として平均3000量体のものを用いたこと以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製したが、ゲル化してしまい透過率向上膜及び測定は作製できなかった。結果を下記表1に示す。
【0071】
(比較例7)
シリケート成分として平均10量体のものを用いたこと以外は実施例3と同様にして、酸化物微粒子含有塗料を作製し、透過率向上膜を作製した。また、実施例1と同様にして、全光線透過率等の測定も行った。結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1より、本発明による塗料を用いて作製された塗膜を用いることにより、基材のみに比べて透過率が向上した優れた膜が形成されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す横断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1・・・透光性封止管
2・・・透過率向上膜
3・・・蛍光体層
4・・・電極
5・・・リード線
G・・・封入ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物微粒子と溶媒と平均20〜2000量体のシリケート成分とを含有し、
前記酸化物微粒子の含有量を0.2質量%とした際の、光路長10mmにおける全光線透過率が30〜60%である酸化物微粒子含有塗料。
【請求項2】
前記酸化物微粒子が、酸化イットリウム及び酸化アルミニウムの少なくともいずれかである請求項1に記載の酸化物微粒子含有塗料。
【請求項3】
前記酸化イットリウムおよび/または前記酸化アルミニウムの平均一次粒子径が0.01〜0.20μmである請求項2に記載の酸化物微粒子含有塗料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物微粒子含有塗料を用いて形成してなる透過率向上膜。
【請求項5】
膜厚が0.01〜0.50μmである請求項4に記載の透過率向上膜。
【請求項6】
請求項4または5に記載の透過率向上膜を、ガラスバルブの内面および/または外面に形成してなる蛍光ランプ。
【請求項7】
請求項4または5に記載の透過率向上膜が形成されたガラスを用いた表示機器。

【図1】
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【図2】
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