説明

酸化物微結晶粒子からなる粉体、それを用いた触媒、及びその製造方法

【課題】 活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の比率を従来より大幅に向上させることが可能な酸化物微結晶粒子の製造方法を提供し、それによって従来は得ることができなかった活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占める粉体、さらには低温及び高温触媒活性に優れた触媒を提供すること。
【解決手段】 高温高圧の水熱合成法における反応場において、酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオンの水酸化物から有機物質の共存下で酸化物微結晶粒子を合成する。それによって得られるようになった、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めている酸化物微結晶粒子からなる粉体に、触媒活性種を担持せしめて触媒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物微結晶粒子からなる粉体、それを用いた触媒、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子、特にはナノメーターサイズの粒子(ナノ粒子)は、様々な特有の優れた性状・特性・機能を示すことから、材料・製品のすべてに対して、現状よりも高精度で、より小型化、より軽量化の要求を満たしている技術を実現するものとして期待されている。このようにナノ粒子は、セラミックスのナノ構造改質材、光機能コーティング材、電磁波遮蔽材料、二次電池用材料、蛍光材料、電子部品材料、磁気記録材料、研摩材料等の産業・工業材料、医薬品・化粧品材料等の高機能・高性能・高密度・高度精密化を可能にする材料として注目されている。
【0003】
このような状況の下、例えば特開2003−47849号公報(特許文献1)においては、アルミナにセリアを高分散させた担持基材に触媒金属元素を担持させてなる排ガス浄化用触媒であって、X線回折による(111)面の回折ピークの積分強度I111に対する(200)面の回折ピークの積分強度I200の比I200/I111が0.4を超えるセリアを含んでいることを特徴とする排ガス浄化用触媒が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の排ガス浄化用触媒においては、セリアをアルミナ担体に高分散状態で担持することでしか結晶面の制御を行うことができないため、結晶面の制御を行ったセリア単独の粒子を得ることができず、組成に大きな制約があるため、セリアに任意の成分を担持した組成物を得ることができないという問題があった。
【0005】
なお、特許文献1においては、前記の比I200/I111が0.4を超えるという現象から(200)面方向に成長したセリアの割合が多くなっているという結論が導かれているが、以下の理由によりその結論は不正確であると本発明者らは確信している。すなわち、同文献に記載のセリア粒子はアルミナ担体の間隙で任意の結晶方位で成長しているはずであり、X線回折の測定をする場合にもアルミナと分離するのは不可能であることから、任意の結晶方位を向いたままのはずである。そして、セリアを高分散状態にするということは、結晶子径が小さくなる傾向にあることから、前記の比I200/I111が大きくなる現象は結晶子径の変化と関連した形で理解されるべきであり、(200)面方向に成長したセリアの割合が多くなっているとは言えない。
【0006】
また、K.Zhou et al.,J.Catalysis 229(2005)p.206〜212(非特許文献1)においては、硝酸セリウムを水酸化ナトリウムで中和し、100℃の水熱条件で10時間処理し、洗浄しろ過した後に60℃で乾燥し、さらに350℃で4時間焼成することで、太さが約20nmで長さが約200nmの棒状セリア単結晶が得られることが開示されている。そして、かかる棒状セリア単結晶は端面が(110)面からなり、側面が(110)面と(001)面とからなる直方体であることが記載されており、さらに従来のセリアナノ粒子の主たる表面を構成する(111)面は非常に安定であるのに対して、(110)面は安定性がやや低く、(001)面は表面エネルギーがより高く活性であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の棒状セリア単結晶においては、(001)面が50%以下であり、活性な(001)面の比率をそれ以上に高めることはできないという問題があった。また、棒状セリア単結晶は、触媒スラリーを調製する際に少量の添加で高粘度化し易く、さらに混合過程で棒状結晶が破壊されて活性な(001)面の比率が減少してしまうという問題もあった。
【0008】
さらに、特開2005−193237号公報(特許文献2)においては、超臨界水熱合成法における反応場で、有機修飾剤を共存させて有機修飾金属酸化物微粒子を製造する方法が開示されており、実施例において硝酸セリウム水溶液に過酸化水素を加え、ヘキサン酸の共存下で高温高圧水熱合成によって有機修飾金属酸化物微粒子を製造する方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の金属酸化物微粒子の製造方法においては、有機修飾により結晶成長が抑制されて結晶性の高いナノ粒子が得られるものの、同文献では得られた金属酸化物微粒子の結晶面については検討されておらず、実際に同文献に記載の方法は活性な結晶面からなる金属酸化物微粒子の比率の向上に限界があるという点で必ずしも十分なものではないということを本発明者らが見出した。
【特許文献1】特開2003−47849号公報
【非特許文献1】K.Zhou et al.,J.Catalysis 229(2005)p.206〜212
【特許文献2】特開2005−193237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の比率を従来より大幅に向上させることが可能な酸化物微結晶粒子の製造方法を提供し、それによって従来は得ることができなかった活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占める粉体を提供し、さらにそれを用いて低温及び高温触媒活性に優れた触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高温高圧の水熱合成法における反応場において有機物質の共存下で酸化物微結晶粒子を合成する方法において、酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオンの水酸化物を原料として用いることによって活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の比率が大幅に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法は、高温高圧の水熱合成法における反応場において、酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオンの水酸化物から有機物質の共存下で酸化物微結晶粒子を合成することを特徴とする方法である。本発明において、前記陽イオンの水酸化物と前記有機物質との比(モル比)は5:1〜1:10であることが好ましい。
【0013】
そして、このような本発明にかかる前記陽イオンの水酸化物としては、Ce、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素の水酸化物が好ましく、Ceの水酸化物と、Ce以外の希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの第二成分(特に好ましくはLa)の水酸化物とを含有するものであることがより好ましい。このような第二成分を含有する場合、その含有率は、Ceと前記第二成分との合計量を基準として3〜20モル%であることが好ましい。 また、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体は、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、前記活性な結晶面が以下の(i)〜(iii)のうちの少なくとも一つの条件を満たしていることが好ましい。
(i)前記活性な結晶面を構成する最表面の酸素イオンに対する陽イオンの配位数が2以下であること。
(ii)前記活性な結晶面が、表面エネルギーが高く不安定な結晶面であること。
(iii)前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子がホタル石構造を有しており、前記活性な結晶面が(001)面及び該(001)面と結晶学的に等価な結晶面であること。
【0015】
また、本発明にかかる前記酸化物微結晶粒子を構成する陽イオンが、複数の原子価を取り得る元素の陽イオンであることが好ましく、Ce、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素の陽イオンであることがより好ましく、Ceの陽イオンと、Ce以外の希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの第二成分(特に好ましくはLa)の陽イオンとを含有するものであることが特に好ましい。このような第二成分を含有する場合、その含有率は、Ceと前記第二成分との合計量を基準として3〜20モル%であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子としては、2nm〜30nmの範囲内の平均粒径を有するものであることが好ましく、単分散ナノ結晶粒子であることがより好ましい。
【0017】
また、本発明の触媒は、前記本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体と、前記粉体の表面に担持された触媒活性種とを備えることを特徴とするものである。そして、このような触媒活性種としては、遷移元素の酸化物及び貴金属からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法において有機物質(表面修飾剤分子)によって最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面(蛍石構造の場合は(001)面)が選択的に成長するようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、酸化物結晶が成長する初期段階にその結晶の核が生成する。そして、その核に対して、有機物質(表面修飾剤分子)は表面エネルギーが高く不安定なため反応性の高い結晶面(蛍石構造の場合は(001)面)と反応し、結晶表面が安定化される。一方、表面修飾剤分子と反応して安定化されている結晶面以外の結晶面には、引き続き酸化物の析出が進行してその面が消滅してしまう。その結果として、表面修飾剤分子で安定化された結晶面のみになると推察される。また、高温高圧の水熱合成法における反応場、特に超臨界水中では、表面修飾剤分子が均一に溶解し、効率良く酸化物の結晶面と接触して反応することが可能である。したがって、表面エネルギーが高く不安定な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が高い割合で得られるようになると本発明者らは推察する。
【0019】
また、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体を用いて得た本発明の触媒によれば低温及び高温触媒活性が向上するようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、酸化物の結晶構造には、一般に酸素が密に充填された結晶面と陽イオンが密に充填された結晶面、そしてそれらの両方が充填された結晶面が存在する。一般に、酸素が密に充填された結晶面が出た結晶粒子の形態は、熱力学的に不安定である。その理由は、結晶のチャージバランスの観点から、表面は酸素が半分だけ充填された構造となり、酸素イオンに対する構造的な制約は殆どない状態となる。例えば、蛍石構造の(001)面及び該(001)面と結晶学的に等価な結晶面のように、最表面の酸素イオンに対する陽イオンの配位数が2以下である結晶面では表面エネルギーが高い。この状態の酸素は、空気中の酸素分子よりも活性で、優先的に酸化物表面での酸化反応に寄与する。また、気相中の酸素分子が解離吸着しやすい酸素イオン空孔の対が容易にできるため、酸化反応に必要な酸素が容易に供給され高い酸化活性が得られる。この低温からの酸素の吸放出能は還元反応の活性化にも同時に寄与する。そのため、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めている本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体を用いて得た本発明の触媒によれば、低温及び高温触媒活性が向上するようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸化物微結晶粒子の製造方法によれば、活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の比率を従来より大幅に向上させることが可能となる。そのため、本発明によれば、従来は得ることができなかった活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占める酸化物微結晶粒子の粉体を提供することが可能となり、さらにそれを用いて低温及び高温触媒活性に優れた触媒を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体について説明する。本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体は、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明にかかる酸化物としては、微結晶粒子を構成することが可能なものであればよく、特に限定されない。このような酸化物を構成する金属元素としては、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)〜第IVB族のケイ素(Si)〜第VB族のヒ素(As)〜第VIB族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より長周期型周期表において左側ないし下側にあるものが挙げられ、例えば、第VIII族の元素ではFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等、第IB族の元素ではCu、Ag、Au等、第IIB族の元素ではZn、Cd、Hg等、第IIIB族の元素ではB、Al、Ga、In、Tl等、第IVB族の元素ではSi、Ge、Sn、Pb等、第VB族の元素ではAs、Sb、Bi等、第VIB族の元素ではTe、Po等、そして第IA〜VIIA族の元素が挙げられる。
【0024】
したがって、本発明にかかる金属酸化物としては、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Ba等の酸化物が挙げられ、例えば、SiO、TiO、ZnO、SnO、Al、MnO、NiO、Eu、Y、Nb、InO、ZnO、Fe、Fe、Co、ZrO、CeO、BaO・6Fe、Al(Y+Tb)12、BaTiO、LiCoO、LiMn、KO・6TiOが挙げられる。
【0025】
また、酸化物を構成する陽イオン(金属元素)の原子価が複数存在する場合は、最表面の酸素は容易に脱離するため、結晶面の活性がより向上して触媒活性が優れた触媒が得られるようになる傾向にあることから、本発明にかかる酸化物を構成する陽イオンが複数の原子価を取り得る元素の陽イオンであることが好ましく、中でも人体への影響が小さい傾向にあるという観点からCe、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素の陽イオンであることがより好ましく、Ceの陽イオンが特に好ましい。
【0026】
さらに、本発明にかかる酸化物を構成する陽イオンが、Ceの陽イオンと、Ce以外の希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの第二成分の陽イオンとを含有するものであると、陽イオンの体積拡散が阻害されるため高温でも結晶の形態を安定に保ち易い傾向にあることから好ましく、このような第二成分がLaであると、特にイオン半径が大きいことから結晶を安定化する機能が高くなる傾向にあることからより好ましい。また、このような第二成分を含有する場合、その含有率は、Ceと前記第二成分との合計量を基準として3〜20モル%であることが好ましい。第二成分の含有率が上記下限未満ではその添加効果が十分に得られなくなる傾向にあり、他方、上記上限を超えるとCeの原子価変化の作用が十分でなくなり酸素の吸脱着性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明の粉体は、上記酸化物の微結晶粒子からなるものである。本発明にかかる微結晶粒子としては、その平均粒径が1μm程度以下のサイズのものが挙げられるが、好ましくはナノ粒子である。このようなナノ粒子としては、一般的にはその平均粒径が200nm以下のサイズのものが挙げられ、平均粒径が100nm以下のサイズのものが好ましく、平均粒径が50nm以下のサイズのものがより好ましい。また、本発明にかかる微結晶粒子の形状としては、擬似立方体粒子、平板状円形粒子、平板状細長粒子、擬似直方体粒子等が挙げられ、中でも擬似立方体粒子が好ましい。なお、本発明にかかる粉体は、粒子サイズや形状が均一な微結晶粒子の集合体であることが好ましいが、粒子サイズや形状が異なる微結晶粒子の混合体であってもよい。
【0028】
本発明においては、上記酸化物微結晶粒子からなる粉体において、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めていることが必要であり、70質量%以上を占めていることが好ましく、80質量%以上を占めていることがより好ましく、95質量%以上を占めていることが特に好ましい。このように活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めている粉体は、後述する本発明の製造方法によってはじめて得られるようになったものであり、このような粉体を用いることによって低温及び高温触媒活性が飛躍的に向上した触媒が得られるようになる。
【0029】
なお、「最表面が酸素イオン層により構成されている」とは、酸化物微結晶粒子の全ての表面に酸素が密に充填された結晶面が出ている形態を言うが、最表面に露出している全てのサイトが酸素イオンサイトである必要はなく、最表面に露出しているサイトのうちの80%以上が酸素イオンサイトであればよく、90%以上が酸素イオンサイトであることがより好ましく、100%が酸素イオンサイトであることが特に好ましい。このように本発明にかかる酸化物微結晶粒子の表面は酸素が密に充填された結晶面により構成されているが、最表面に露出した酸素イオンは結晶のチャージバランスの観点から、実際にその表面に充填されている酸素イオンの数は結晶学的に配置可能な酸素イオンの数の40〜90at%程度(特に好ましくは50at%程度)となっている構造となる。そのため、酸素イオンに対する構造的な制約は殆どない状態となる。したがって、このような状態の酸素イオンは空気中の酸素分子よりも活性であり、このような酸素イオン層により最表面が構成された結晶面は活性となる。そして、活性な酸素イオンは、優先的に酸化物表面での酸化反応に寄与する。また、気相中の酸素分子が解離吸着しやすい酸素イオン空孔の対が容易にできるため、酸化反応に必要な酸素が容易に供給され高い酸化活性が得られる。この低温からの酸素の吸放出能は還元反応の活性化にも同時に寄与するようになる。
【0030】
本発明において、前記活性な結晶面が以下の(i)〜(iii)のうちの少なくとも一つの条件を満たしていることが好ましい。
(i)前記活性な結晶面を構成する最表面の酸素イオンに対する陽イオンの配位数が2以下であること。
(ii)前記活性な結晶面が、表面エネルギーが高く不安定な結晶面であること。
(iii)前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子がホタル石構造を有しており、前記活性な結晶面が(001)面及びその(001)面と結晶学的に等価な結晶面であること。
【0031】
なお、活性な結晶面を構成する最表面の酸素イオン、すなわち不安定な酸素は、最近接位置にある陽イオンの配位数が2以下と小さい。例えば、セリア微結晶粒子の場合、(001)面及びその(001)面と結晶学的に等価な結晶面における最表面酸素イオンのCeイオン配位数は2であり、一方、(110)面や(111)面における最表面酸素イオンのCeイオン配位数は4である。
【0032】
本発明にかかる酸化物微結晶粒子の粒径及び形状は前述の通りであるが、上述の活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の平均粒径は2nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径が前記下限未満では耐熱性が不十分となり500℃未満の加熱によって焼結して別の形状に変化してしまう傾向にあり、他方、上記上限を超えると触媒として用いるためには比表面積が不十分となる傾向にある。また、本発明にかかる活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子としては、粒子間の空隙を十分に持つ二次粒子形成のため、及び耐熱性を高くするという観点から、単分散ナノ結晶粒子であることが好ましく、単結晶の単分散ナノ結晶粒子であることが特に好ましい。
【0033】
なお、このような酸化物微結晶粒子の結晶面は、HR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡)、電子線回折法等を用いて解析することができる。また、結晶の組成は、EDX分析等によって確認することができ、粒子の粒径は、TEM、吸着法、光散乱法、SAXS等により測定することができる。なお、吸着法とは、N吸着等によりBET比表面積を評価する方法である。
【0034】
次に、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法について説明する。本発明においては、高温高圧の水熱合成法における反応場において、酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオンの水酸化物から有機物質の共存下で酸化物微結晶粒子を合成する。
【0035】
本発明にかかる高温高圧の水熱合成法における反応場としては、亜臨界又は超臨界条件にある溶媒(水、或いは水と有機溶媒との混合溶媒)が好適に採用され、そのような反応場の温度としては350〜450℃程度が好ましく、圧力(純水と仮定)としては160〜500bar程度(特に好ましくは300〜500bar)が好ましい。このような反応場とすることによって、独特の反応環境が提供され、後述する特定の有機物質によって酸化物微結晶の表面が有機修飾されることとの相乗作用によって形成される結晶面が規制され、驚くべきことに前述の活性な結晶面を有する酸化物微結晶粒子が選択的に得られるようになる。
【0036】
このような反応場を形成する反応装置としては、高温高圧の条件を達成できる装置であればよく、特に限定されず、例えば、回分式装置、流通式装置のいずれも使用することができる。
【0037】
本発明においては、前述の酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオン(金属元素)の水酸化物を原料として用いる必要がある。作用機序は定かではないが、このような陽イオン(金属元素)の水酸化物を用いることによって、従来のように陽イオン(金属元素)の塩(硝酸塩等)を用いた場合より、生成される粉体における前述の活性な結晶面を有する酸化物微結晶粒子の比率が飛躍的に向上し、前記本発明の粉体が得られるようになる。なお、陽イオン(金属元素)の水酸化物を得る方法は特に制限されないが、例えば、陽イオン(金属元素)の塩を含有する溶液をアルカリ(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)で中和し、得られた沈殿を必要に応じて洗浄した後に水に再分散させることによって得られる。
【0038】
本発明にかかる有機物質としては、酸化物微結晶粒子の表面に炭化水素を強結合せしめることのできるものであればよく、特に限定されず、例えば、エーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属−C−の結合、金属−C=の結合、金属−(C=O)−の結合等の強結合を形成することができる各種の有機物質が挙げられる。結合される炭化水素としては、その炭素数は特に限定されず、炭素数が1や2のものも使用できるが、炭素数が3以上の鎖を有する長鎖炭化水素が好ましく、例えば、炭素数3〜20の直鎖又は分岐鎖、あるいは環状の炭化水素等が挙げられる。また、このような炭化水素は、置換されていてもよいし、非置換のものであってもよい。
【0039】
このような有機物質としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、アミド類、オキシム類、ホスゲン、エナミン類、アミノ酸類、ペプチド類、糖類等が挙げられる。代表的な有機物質としては、例えば、ペンタノール、ペンタナール、ペンタン酸、ペンタンアミド、ペンタンチオール、ヘキサノール、ヘキサナール、ヘキサン酸、ヘキサンアミド、ヘキサンチオール、ヘプタノール、ヘプタナール、ヘプタン酸、ヘプタンアミド、ヘプタンチオール、オクタノール、オクタナール、オクタン酸、オクタンアミド、オクタンチオール、デカノール、デカナール、デカン酸、デカンアミド、デカンチオール、デシルアミンが挙げられ、中でも生成される粉体における活性な結晶面を有する酸化物微結晶粒子の比率がより向上する傾向にあるという観点から炭素数6〜10のカルボン酸が好ましく、ヘキサン酸、デカン酸が特に好ましい。
【0040】
本発明の製造方法においては、前述の反応場に前記陽イオンの水酸化物と前記有機物質とを共存せしめ、酸化物微結晶粒子を生成させる。その際の前記陽イオンの水酸化物及び前記有機物質の配合量は特に制限されないが、陽イオンの水酸化物と有機物質との比(モル比)が5:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:5であることがより好ましい。陽イオンの水酸化物に対する有機物質の比率が上記下限未満では有機物質の表面修飾作用が不十分で生成する結晶の形態が不規則且つ粗大となる傾向にあり、他方、上記上限を超えると得られる結晶の収率が低くなり且つ結晶のサイズが小さ過ぎる傾向にある。また、反応溶液中の前記陽イオンの水酸化物の濃度も特に制限されないが、0.01〜1.0モル/lであることが好ましく、0.1〜0.2モル/lであることがより好ましい。さらに、反応時間も特に制限されないが、一般的には0.01〜20分間程度の反応時間が採用される。
【0041】
本発明の製造方法においては、上記の反応によって生成した酸化物微結晶粒子を、通常は室温程度に冷却した後に、遠心分離、メンブランフィルタ等によって分離し、必要に応じて水、エタノール等によって洗浄して前記本発明の粉体が得られる。
【0042】
次に、本発明の触媒について説明する。本発明の触媒は、前記本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体と、前記粉体の表面に担持された触媒活性種とを備えることを特徴とするものである。
【0043】
本発明にかかる触媒活性種としては、目的とする触媒活性に寄与する物質であればよく、特に制限されないが、遷移元素の酸化物及び貴金属からなる群から選択される少なくとも一つの元素が挙げられる。このような貴金属としては、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Au、Ag等が挙げられ、中でも触媒活性の観点から白金族元素(Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Os)が好ましく、Ptが特に好ましい。また、遷移元素の酸化物としては、担持する対象となる酸化物微結晶粒子を構成する酸化物とは相違するものであればよく、Fe、Cu、Co、Ni、Zr、Ti、Zn、V、W、Mo、Cr、Nb、Sn、Mn、Sm、Eu、Tb、Yb等の酸化物が挙げられ、中でも触媒活性の観点から酸化鉄、酸化銅が好ましく、酸化鉄が特に好ましい。なお、遷移元素の酸化物は、単独の金属酸化物であっても、複数の金属酸化物からなる複合金属酸化物であってもよい。
【0044】
本発明の触媒において前記粉体に担持される触媒活性種の量も特に制限されないが、担持される前記粉体100質量部に対して触媒活性種の量が0.1〜10質量部程度であることが好ましい。
【0045】
また、前記粉体に触媒活性種を担持せしめる具体的な方法も特に制限されず、例えば、貴金属を担持する場合は、貴金属の塩(硝酸塩、塩化物、酢酸塩等)又は錯体を含有する溶液に前記粉体を接触せしめ、更に必要に応じて還元処理及び/又は焼成処理を施すといった方法が適宜採用される。また、遷移元素の酸化物を担持する場合は、遷移元素の塩(硝酸塩、塩化物、酢酸塩等)又は錯体を含有する溶液に前記粉体を接触せしめ、更に必要に応じて酸化処理及び/又は焼成処理を施すといった方法が適宜採用される。
【0046】
本発明の触媒は、粉体のまま、或いはペレット等の所定の形状に成形して使用してもよいが、触媒用基材に担持して用いてもよい。このような基材は特に制限されず、触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、排ガス浄化用触媒等として用いる場合は、モノリス担体基材(ハニカムフィルタ、高密度ハニカム等)、フォームフィルタ基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用される。また、このような基材の材質も特に制限されないが、排ガス浄化用触媒等として用いる場合は、コージエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
内容積5cmの密閉型反応容器(管型オートクレーブ)に、0.03モル/lの水酸化セリウム懸濁液4.4mlとヘキサン酸0.1mlを仕込み、200℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体を遠心分離して水、エタノールで洗浄した。
【0049】
HR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡)を用いて生成した粉体を構成する微粒子の形態を観察したところ、図1に示す擬似立方体粒子(平均粒径:7nm)、図2に示す平板状円形小粒子(平均粒径:6nm)、図3に示す平板状細長粒子(平均長さ:10nm)、図4に示す平板状円形大粒子(平均粒径:10nm)が存在しており、それらはカッコ内に示す平均粒径又は平均長さを有していた。これらの結晶についてEDX分析を行ったところ、いずれもセリア(CeO)の結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0050】
これらの結晶について格子像写真の格子面とその角度から解析を行ったところ、円形小粒子、円形大粒子及び細長粒子においては、面間隔がd=3.1Åの(111)面が約70°で交差することから、(110)面からなるものであることが確認された。また、電子線の透過のしやすさから厚さが幅に比べて非常に薄いことがわかり、平板状の粒子であることが確認された。一方、擬似立方体粒子においては、(200)面と(020)面が直角に交わっていることから、(001)面およびそれと等価な面からなる立方体状の粒子であることが確認された。
【0051】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約70%であった。なお、擬似立方体粒子は、他の形状の粒子よりも明らかに1個当りの質量が大きいと見積られるが、仮に同じ質量と仮定しても70質量%以上は擬似立方体粒子が得られたことが分かった。したがって、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなるセリア微結晶粒子が50質量%以上を占めている従来は得ることができなかった粉体であることが確認された。
【0052】
(実施例2)
加熱炉の温度を400℃に設定し、さらに水酸化セリウム懸濁液の量を2.5ml、ヘキサン酸の量を0.057mlとした以外は実施例1と同様にして粉体を得た。
【0053】
生成した粉体を構成する微粒子の形態を実施例1と同様にHR−TEM観察及びEDX分析したところ、図5〜図6に示すように、擬似立方体粒子(平均粒径:6nm)、平板状円形小粒子(平均粒径:4nm)、平板状円形大粒子(平均粒径:10nm)が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0054】
これらの結晶について格子像写真の格子面とその角度から解析を行ったところ、実施例1で得られたものと同様に、円形小粒子及び円形大粒子は(110)面からなる平板状の粒子であり、擬似立方体粒子は(001)面およびそれと等価な面からなる立方体状の粒子であることが確認された。
【0055】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約80質量%であり、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなるセリア微結晶粒子が50質量%以上を占めている従来は得ることができなかった粉体であることが確認された。
【0056】
(比較例1)
内容積5cmの密閉型反応容器に、0.1モル/lの硝酸セリウム水溶液2.5mlとデカン酸0.01mlを仕込み、350℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体をメンブランフィルターで分離して水、エタノールで洗浄した。
【0057】
生成した粉体を構成する微粒子の形態を実施例1と同様にHR−TEM観察及びEDX分析したところ、図7〜図8に示すように、平均粒径が約10nmの平板状の円形小粒子のみが存在しており、いずれもセリアの結晶であることが確認された。
【0058】
これらの結晶について格子像写真の格子面とその角度から解析を行ったところ、面間隔がd=3.1Åの(111)面が約70°で交差することから、実施例1で確認された(110)面からなる平板状の円形小粒子と同様のものであることが確認された。
【0059】
本比較例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、ほぼ全ての粒子が(110)面からなる平板状の円形小粒子であり、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子は存在しないことが確認された。
【0060】
(比較例2)
内容積5cmの密閉型反応容器に、0.1モル/lの硝酸セリウム水溶液2.5mlとデシルアミン0.01mlを仕込み、350℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体をメンブランフィルターで分離して水、エタノールで洗浄した。
【0061】
生成した粉体を構成する微粒子の形態を実施例1と同様にHR−TEM観察及びEDX分析したところ、図9に示すように、粒径が約30〜150nmの粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であることが確認された。
【0062】
これらの結晶について格子像写真の格子面とその角度から解析を行ったところ、図10に示すような(001)面、図11に示すような(110)面、更には(211)面からなる粒子が存在することが確認された。
【0063】
本比較例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約10質量%であることが確認された。
【0064】
(比較例3)
内容積5cmの密閉型反応容器に、0.1モル/lの硝酸セリウム水溶液2.5mlを仕込み、350℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体をメンブランフィルターで分離して水、エタノールで洗浄した。
【0065】
生成した粉体を構成する微粒子の形態を実施例1と同様にHR−TEM観察及びEDX分析したところ、平均粒径が1μm以上に成長した大きな粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であることが確認された。
【0066】
これらの結晶について格子像写真の格子面とその角度から解析を行ったところ、図12〜図13に示すような(013)面、図14〜図15に示すような(011)面、図16〜図17に示すような(211)面、図18〜図20に示すような(123)面及び(211)面からなる粒子が存在することが確認された。
【0067】
本比較例で得られた粉体における任意の100個の微粒子の結晶面を確認したところ、有機物質が共存しない状態で合成した粒子においては結晶面に対する選択性はなく、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約10質量%であることが確認された。
【0068】
<触媒活性試験>
実施例2で得られた粉体を、コージエライトハニカムテストピース(30mmφ×30mm)に2g塗布し、更に0.002gのPtを担持せしめた後、得られた触媒を用いて流通式の反応器でゆっくり昇温しながらモデル排ガスを流通させた。
【0069】
また、比較のため、市販のCeO粉末(比表面積100m/g)を同様にPtと共にコージエライトハニカムテストピースに塗布して得た触媒を用いて同様の試験を行った。
【0070】
両者の試験の結果得られた50%浄化温度を以下に示す。
【0071】
(実施例2で得られた粉体) (市販のCeO粉末)
CO 80℃ 150℃
120℃ 210℃
NO 135℃ 220℃。
【0072】
以上の結果から、実施例2で得られた粉体を用いて得た触媒においては、室温付近の低温から高い酸化活性が発現し、800℃付近の高温までその触媒活性が低下しない触媒特性が得られることが確認された。したがって、本発明の触媒を排ガス浄化用触媒として用いれば、エンジンのスタートアップの際に放出される炭化水素やCOを放出することなく高効率で浄化でき、飛躍的な排ガスのクリーン化が容易に達成することが可能となる。
【0073】
(実施例3)
内容積5cmの密閉型反応容器(管型オートクレーブ)に、0.2モル/lの水酸化セリウム懸濁液2.5mlとヘキサン酸0.2mlを仕込み、400℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体をメンブランフィルターで分離して水、エタノールで洗浄した。
【0074】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図21〜図22に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0075】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、図23に示すように、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約70質量%であることが確認された。なお、図23には、同図に示す39個の微粒子の結晶面の測定結果を示した。
【0076】
(実施例4)
ヘキサン酸の仕込み量を0.1mlとした以外は実施例3と同様にして粉体を得た。
【0077】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図24に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0078】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約60質量%であることが確認された。
【0079】
(実施例5)
ヘキサン酸の仕込み量を0.3mlとした以外は実施例3と同様にして粉体を得た。
【0080】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図25に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0081】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約50質量%であることが確認された。
【0082】
(実施例6)
内容積5cmの密閉型反応容器(管型オートクレーブ)に、0.2モル/lのランタン含有水酸化セリウム懸濁液(La含有率:CeとLaとの合計量を基準として10モル%)2.5mlとヘキサン酸0.1mlを仕込み、400℃に設定した加熱炉に反応容器を入れて加熱した。昇温には1.5分を要し、20分間反応させた後、室温まで冷却し、得られた粉体をメンブランフィルターで分離して水、エタノールで洗浄した。
【0083】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図26に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0084】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約50質量%であることが確認された。
【0085】
(実施例7)
ヘキサン酸の仕込み量を0.2mlとした以外は実施例6と同様にして粉体を得た。
【0086】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図27に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0087】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約70質量%であることが確認された。
【0088】
(実施例8)
ヘキサン酸の仕込み量を0.3mlとした以外は実施例6と同様にして粉体を得た。
【0089】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図28に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0090】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約70質量%であることが確認された。
【0091】
(実施例9)
ヘキサン酸の仕込み量を0.4mlとした以外は実施例6と同様にして粉体を得た。
【0092】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図29に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0093】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約80質量%であることが確認された。
【0094】
(実施例10)
ヘキサン酸の仕込み量を0.6mlとした以外は実施例6と同様にして粉体を得た。
【0095】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図30に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0096】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約90質量%であることが確認された。
【0097】
(実施例11)
ランタン含有水酸化セリウム懸濁液の仕込み量を1.9mlとした以外は実施例10と同様にして粉体を得た。
【0098】
生成した粉体を構成する微粒子の形態をTEM観察及びEDX分析したところ、図31に示すように、平均粒径が約10nmの擬似立方体粒子等の粒子が存在しており、いずれもセリアの結晶であり、少なくとも擬似立方体粒子は単結晶からなる単分散ナノ結晶であることが確認された。
【0099】
本実施例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、(001)面およびそれと等価な面からなる擬似立方体状の粒子であるセリア微結晶粒子の比率が約50質量%であることが確認された。
【0100】
(比較例4)
0.2モル/lの硝酸セリウム水溶液50mlを1モル/lのアンモニア水を用いて中和せしめて30分間撹拌した後、得られた沈殿を分離し、150℃で5時間乾燥し、さらに400℃で5時間焼成してセリアの粉体を得た。
【0101】
本比較例で得られた粉体における任意の500個の微粒子の結晶面を確認したところ、沈殿法で合成した粒子においては結晶面に対する選択性はなく、明確な結晶面の出た粒子は見られなかった。
【0102】
<酸素貯蔵量試験>
実施例3及び比較例4で得られたセリア微結晶粒子からなる粉体の酸素貯蔵量(OSC)を以下の方法で測定し、比較した。
【0103】
すなわち、各試料を15mg熱重量分析計のサンプルセルに設置し、150℃、200℃、400℃の各試験温度において水素による還元と酸素による酸化を繰り返し行って可逆的な重量変化を測定した。ブランクとしてOSCを持たないジルコニア粉末を用い、各試料の測定値からジルコニアで得られた値を差し引いて各試料のOSCを求めた。得られた結果を図32に示す。
【0104】
図32に示した結果から明らかなように、150℃、200℃、400℃の各試験温度において、比較例4で得られたセリア微結晶粒子からなる粉体に比べて、実施例3で得られたセリア微結晶粒子からなる粉体の方が圧倒的に大きなOSCを有していることが確認された。
【0105】
<耐熱性試験>
実施例3及び実施例9で得られたセリア微結晶粒子からなる粉体をそれぞれ大気中400℃で5時間加熱し、その後の微粒子の形態をTEMにより観察した。得られた結果を図33(実施例3)及び図34(実施例9)に示す。
【0106】
図33及び図34に示した結果から明らかなように、実施例3で得られたセリア微結晶粒子からなる粉体も耐熱性に優れているが、実施例9で得られた第二成分としてランタンを含有するセリア微結晶粒子からなる粉体の方がより耐熱性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明したように、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法によれば、活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子の比率を従来より大幅に向上させることが可能となる。そのため、本発明によれば、従来は得ることができなかった活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占める酸化物微結晶粒子の粉体を提供することが可能となり、本発明の酸化物微結晶粒子からなる粉体を用いて得た本発明の触媒は低温及び高温触媒活性に優れたものとなる。したがって、本発明は、排ガス浄化用触媒、酸化触媒等の各種触媒を得るための技術等として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例1で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例2で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例1で得られた酸化物微結晶粒子の形状を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例1で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図11】比較例2で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図12】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図13】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図14】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図15】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図16】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図17】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図18】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図19】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図20】比較例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子線回折像を示す写真である。
【図21】実施例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図22】実施例3で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図23】実施例3で得られた酸化物微結晶粒子の結晶面の解析結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図24】実施例4で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図25】実施例5で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図26】実施例6で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図27】実施例7で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図28】実施例8で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図29】実施例9で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図30】実施例10で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図31】実施例11で得られた酸化物微結晶粒子の電子顕微鏡写真である。
【図32】実施例3及び比較例4で得られた酸化物微結晶粒子からなる粉体の酸素貯蔵量を示すグラフである。
【図33】実施例3で得られた酸化物微結晶粒子の耐熱性試験後の電子顕微鏡写真である。
【図34】実施例9で得られた酸化物微結晶粒子の耐熱性試験後の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物微結晶粒子からなる粉体であって、最表面が酸素イオン層により構成された活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が50質量%以上を占めていることを特徴とする酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項2】
前記活性な結晶面を構成する最表面の酸素イオンに対する陽イオンの配位数が2以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項3】
前記活性な結晶面が、表面エネルギーが高く不安定な結晶面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項4】
前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子がホタル石構造を有しており、前記活性な結晶面が(001)面及び該(001)面と結晶学的に等価な結晶面であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項5】
前記酸化物微結晶粒子を構成する陽イオンが複数の原子価を取り得る元素の陽イオンであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項6】
前記酸化物微結晶粒子を構成する陽イオンがCe、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素の陽イオンであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項7】
前記酸化物微結晶粒子を構成する陽イオンが、Ceの陽イオンと、Ce以外の希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの第二成分の陽イオンとを含有することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項8】
前記第二成分がLaであることを特徴とする請求項7に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項9】
前記第二成分の含有率が、Ceと前記第二成分との合計量を基準として3〜20モル%であることを特徴とする請求項7又は8に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項10】
前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が2nm〜30nmの範囲内の平均粒径を有するものであることを特徴とする請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項11】
前記活性な結晶面からなる酸化物微結晶粒子が単分散ナノ結晶粒子であることを特徴とする請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体。
【請求項12】
請求項1〜11のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体と、前記粉体の表面に担持された触媒活性種とを備えることを特徴とする触媒。
【請求項13】
前記触媒活性種が遷移元素の酸化物及び貴金属からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
高温高圧の水熱合成法における反応場において、酸化物微結晶粒子を構成すべき陽イオンの水酸化物から有機物質の共存下で酸化物微結晶粒子を合成することを特徴とする酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。
【請求項15】
前記陽イオンの水酸化物がCe、Pr、Fe、Ni、Cu、V及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの元素の水酸化物であることを特徴とする請求項14に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。
【請求項16】
前記陽イオンの水酸化物が、Ceの水酸化物と、Ce以外の希土類元素からなる群から選択される少なくとも一つの第二成分の水酸化物とを含有することを特徴とする請求項14又は15に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。
【請求項17】
前記第二成分がLaであることを特徴とする請求項16に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。
【請求項18】
前記第二成分の含有率が、Ceと前記第二成分との合計量を基準として3〜20モル%であることを特徴とする請求項16又は17に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。
【請求項19】
前記陽イオンの水酸化物と前記有機物質との比(モル比)が5:1〜1:10であることを特徴とする請求項14〜18のうちのいずれか一項に記載の酸化物微結晶粒子からなる粉体の製造方法。

【図32】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2007−217265(P2007−217265A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268317(P2006−268317)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】